東方軌跡録   作:1103

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先週は、諸事情があって投稿できませんでした。
今回の話しは、先週投稿する予定だったものです。


菫子の夏休み。最終日編

夏祭りから数日が経過したある日、菫子はスマホのカレンダーを見て、とても憂鬱な気持ちになっていた。

 

「ああ・・・夏休みが終わってしまう・・・・・・」

 

スマホのカレンダーの日付は、八月の終わりを示していた。それは彼女の夏休みの終わりを意味していた。

 

―――――――――――

 

菫子が部屋で憂鬱な気持ちになっている頃、妖狐がジンにその事で相談をしていた。

 

「なに? 菫子の奴がが元気無いだって?」

 

「はい、そうなんです。すまほという物を見て、タメ息ばかりで・・・・・・」

 

妖狐の話を聞いてジンは、何となく予想がついた。もう既に八月の終盤、夏休みが終わりのカウントダウンが既に始まっているのだ。

 

(そうは言っても、こればっかりはどうしよう無いからなぁ・・・・・・)

 

ジンが考え込んでいると、妖狐が少し不安そうな顔をしている。

 

「何かあったんでしょうか? 今まであんな顔をした無かったのに・・・・・・」

 

「妖狐が心配するような事じゃない。夏休みが終わる事が憂鬱だけだと思う」

 

「何かしてあげられませんか?」

 

「う~ん・・・・・・」

 

ジンも何とかしてあげたいのはやまやまなのだが、こればっかりは本人の気持ちようなので、何も出来ないのが現状である。

 

(でも、家の中に居ても気持ちは晴れないからなぁ・・・何か良い気分転換は――――)

 

ジンは何か無いかと考えた。すると、カレンダーの日付につけられた印を見て、思い出す。

 

「確か、この日は流星群が降る日だったな。よし」

 

こうしてジンは、菫子を流星祈願の会に誘う事にした。

 

―――――――――――

 

ここは人里の市場。ジンは買い物ついでに、菫子を流星祈願の会に誘っていた。

 

「流星祈願の会?」

 

「そう、次の日の夜に流れ星が降るから、その時皆で願い事を言うっていう会だ」

 

「そんな簡単に流れ星が見えるのかしら?」

 

「霖之助の話によると、流れ星が落ちる日が決まっているらしい」

 

「そうなの? そんな話、全然聞かないけど」

 

「俺も詳しい事は分からないが、こっちだとそうなのかも知れない」

 

「ふーん・・・・・・」

 

「それでどうだ? 一緒に行かないか?」

 

「うん! 行ってみたい!」

 

菫子は満面の笑顔でそう言った。その笑顔を見れただけでも、誘ってよかったとジンは思うのであった。

 

―――――――――――

 

流星祈願の会当日、菫子はメンバー達ともに香霖堂に集まり、夜空に降り注ぐ流れ星を見ていた。

 

「うわぁ~すっごーい!」

 

菫子とメンバー達は一緒にはしゃいでいた。そんな様子を、ジンと霖之助は眺めていた。

 

「場所をいつも提供してくれて、ありがとう霖之助」

 

「なぁに、いつもの事だからね、もう慣れたよ」

 

「発足したのが、魔理沙だっけ?」

 

「ああ、この渾天儀を魔理沙が見てね。そこから流れ星の話になったのが切っ掛けなんだよ」

 

そう言って、霖之助は手に持っていた渾天儀をジンに見せる。それはかなり古い物で、恐らく数百年くらい前の物では無いかとジンは思った。しかし、渾天儀に刻まれた文字は、外国の物では無く、日本語でも無かった。

 

「外国語じゃないな、かと言って日本語でも無い・・・いや、これはもしかして―――――」

 

「察しが良いね。君が思っている通り、これは妖怪の文字なんだよ」

 

霖之助の言葉を聞いて、ジンは“やっぱり“と呟いた。渾天儀に刻まれた文字は、鈴奈庵にある妖魔本の文字と酷似していた。だから恐らく、この渾天儀は妖怪が作った、言わば妖怪渾天儀である。

 

「小鈴が知ったら、飛びつきそうだな・・・・・・」

 

「確かにね。でも、これだけの物は当然値が張る物なんだよ」

 

「どれくらいだ?」

 

「そうだねぇ・・・結構古い物だから、数百円(数百万)はするんじゃないかな?」

 

「数百円・・・・・・」

 

「と言っても、あくまで僕の鑑定だから、もしかしたらもっと値が張るし、下がるかもしれない」

 

「どっちにしても、高価な物なんだろうな・・・ん?」

 

ジンはそこで、渾天儀に書かれているある文字を見つける。それは掠れていたが、しっかりと日本語で刻まれていた。

 

「著作・・・八・・・雲・・・紫? え? これって紫が作った物なのか?」

 

「それだけじゃないよ。妖怪の星座も彼女が作ったものなんだ。

僕はそれを知った時、心底驚いたよ。まあ、あの妖怪ならこうゆう物も簡単に作れるんだろうね」

 

「伊達に賢者を名乗っているだけはあるな」

 

ジンは渾天儀を見ながら、改めて紫の凄さを理解した。

 

ジンと霖之助が渾天儀について盛り上がっている一方、菫子達は流れ星に夢中になっていた。

 

「こんなに流れ星が落ちるところ、初めて見たわ」

 

「そう言えば、外の世界だとあまり星が見えなかったな」

 

魔理沙がそう言うと、菫子は頷いて答える。

 

「外だと、ビルや街灯の光で、星が見えにくくなるのよ。明るすぎてね」

 

「ああ確かに、あれは明るすぎだぜ」

 

「そうね。でも、あれはあれで綺麗だと思うわ」

 

魔理沙と霊夢は、外の世界の夜景を思い出す。

ライトによって光輝くビルやスカイツリー。それは幻想郷ではまず見れない美しい光景であった。

 

「ねぇ、菫子は流れ星に何か願わないの?」

 

流れ星を眺めていると、霊夢がそんな事を尋ねて来た。

 

「願いねぇ・・・針ちゃんをペットにしたいとか?」

 

「お前、まだ諦めていなかったのかよ・・・・・・」

 

「“諦めたら、そこで試合終了“という格言があるのよ」

 

「何の試合かは知らないけど、そういう願いはやめときなさい。ジンが怒るから」

 

「え~、じゃああれは良いの?」

 

そう言って菫子が指をさした先には、正邪、サニー、ルナ、スターが何やら願い事を呟いていた。

 

「反逆反逆反逆――――」

 

「異変を起こせますように!」

「異変を起こせますように・・・・・・」

「異変を起こせますように♪」

 

――――と、明らかにろくでも無い内容であった。

 

「あいつら・・・・・・ちょっと絞めてくる」

 

そう言って、霊夢は御払い棒を持ち、正邪達のところに向かって歩き出した。

正邪とサニー達が悲鳴を上げているなか、魔理沙は菫子に話し掛けて来た。

 

「ところでどうだった? 楽しめたか幻想郷は?」

 

「・・・・・・うん、凄く楽しかった。いろんな所を見て、いろんな不思議に会って、もう一生分のオカルトに出会ったくらいよ」

 

「おいおい、まだまだ人生はこれからだぜ? これから先、もっと凄い出来事に出会うかも知れないだろ?」

 

「それはそうかも知れないけど、少し不安なのよね・・・・・・」

 

「何が?」

 

「これだけ楽しい事が続くと、この先辛い事が待っているんじゃないかって」

 

「まあそりゃ、先の事なんて分からないものだからな。あのレミリアだって、“運命というのは、不確定要素次第で変わる事があるから、全ての運命を見通す事は出来ない”って言ってたからな」

 

「はあ~、何でもいいから、この不安を取り払いたいわ・・・・・・」

 

菫子はため息をつきながら、流れ星を見つめた。すると魔理沙が彼女にこう言った。

 

「ならさ、流れ星に願えば良いんじゃないか? 多少の気休めにはなるだろうし」

 

「・・・・・・それもそうね。よーし!」

 

菫子は流れ星に願いを呟く。

 

「これから先、楽しい事や不思議な事に出会いますように・・・・・・」

 

菫子はその願い事を、流れる光に向かって言うのであった。

 

―――――――――――

 

そして、菫子が帰る日がやって来た。彼女は荷物を纏め、改めてお世話になった博麗神社のメンバーに御礼を告げていた。

 

「この一ヶ月、お世話になりました」

 

「こっちもそれなりに楽しかったわよ」

 

「またいつでもいらして下さいね」

 

「今度はもっと面白い場所を教えて上げるわ」

 

それぞれが菫子に挨拶を交わすなか、針妙丸だけがそっぽを向いていた。

 

「ほら、針妙丸。挨拶をしろよ」

 

「・・・・・・」

 

ジンが挨拶を促すも、彼女は黙ったままである。そんな彼女の反応に困っていると、正邪が悪戯な笑みを浮かべていた。

 

「ああこいつ、菫子が帰る事ってが寂しいって思っているんだよ」

 

「え? そうなのか?」

 

「そ、そんな訳無いじゃない! 何を言ってるの正邪! 寧ろせいせいしているわ!」

 

「嘘つけ、夜中こっそり刺繍をしてただろ? 菫子に渡す為のな」

 

「え? そうなの?」

 

「違うよ! あれは・・・そう! ジンにプレゼントしようと―――」

 

「菫の刺繍をだったのに?」

 

そう言って見せたのは、それは鮮やかな菫の刺繍であった。

 

「こらー! 勝手に見せるなー!」

 

「おおっ、怖い怖い。目を刺されちゃ貯まんないから、私は退散させて貰うな。じゃあな~」

 

そう言って、正邪は舌を出して、人を小馬鹿にした態度を取りながら、退散して行った。

残された針妙丸は、何とも言えない気持ちとなり、被っているお椀で顔を隠した。

 

「ううっ・・・・・・正邪のばかぁ・・・・・・」

 

「えっと・・・本当なの針ちゃん?」

 

「・・・・・・まあその、それなりに楽しかったから、何か贈り物をしようかなぁと思っただけで・・・・・・」

 

「し、針ちゃん・・・・・・」

 

「べ、別に勘違いしないでよね! 私はあの時事を許した訳じゃ――――」

 

「ああもう可愛い! やっぱり連れて帰るー♪」

 

「キャアアアア!!」

 

「止めんかアホ」

 

暴走する菫子の頭を小突いて止めるジン。針妙丸はすっかり怯えてしまい、ジンの後ろに隠れてしまった。

 

「ったくお前は、何でそう暴走するんだよ」

 

「いたた・・・だってぇ、あまりにも可愛かったからつい」

 

 

菫子は舌を出して、悪戯な笑みを浮かべた。それを見たジンは、やれやれと呆れてため息をつくのであった。

 

―――――――――――

 

それからしばらくして、外の世界へと戻った菫子は、再び退屈な日々が続くのだろうと思った。しかし、彼女の考えとは裏腹に、幻想郷とはまったく違った騒がしい日々を送っていた。

 

 

ここはとある校舎の、今は誰も使わなくなった物置部屋である。その扉には秘封倶楽部と書かれた紙が張られていた。

そこに、一人の女子高生が入って行った。

 

「えっと・・・貴女が宇佐見さん?」

 

「ええ、ようこそ秘封倶楽部へ」

 

部屋の中には、ルーン文字が刻まれたマントを羽織った菫子がいた。

彼女は夏休みを明けた後、とある怪奇事件に巻き込まれ、それを見事に解決したのが切っ掛けで、現代の怪奇事件を解決する。霊能探偵みたいな事をするようになった。もっとも、専門家の助言をキチッと受けてはいるんだが。

 

「さて、今日はどんな相談かしら?」

 

そして今日も彼女は、怪奇という異変を解決する。その姿はまさに、異変解決を生業にしている博麗の巫女のようであった。


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