今回の話しは、先週投稿する予定だったものです。
夏祭りから数日が経過したある日、菫子はスマホのカレンダーを見て、とても憂鬱な気持ちになっていた。
「ああ・・・夏休みが終わってしまう・・・・・・」
スマホのカレンダーの日付は、八月の終わりを示していた。それは彼女の夏休みの終わりを意味していた。
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菫子が部屋で憂鬱な気持ちになっている頃、妖狐がジンにその事で相談をしていた。
「なに? 菫子の奴がが元気無いだって?」
「はい、そうなんです。すまほという物を見て、タメ息ばかりで・・・・・・」
妖狐の話を聞いてジンは、何となく予想がついた。もう既に八月の終盤、夏休みが終わりのカウントダウンが既に始まっているのだ。
(そうは言っても、こればっかりはどうしよう無いからなぁ・・・・・・)
ジンが考え込んでいると、妖狐が少し不安そうな顔をしている。
「何かあったんでしょうか? 今まであんな顔をした無かったのに・・・・・・」
「妖狐が心配するような事じゃない。夏休みが終わる事が憂鬱だけだと思う」
「何かしてあげられませんか?」
「う~ん・・・・・・」
ジンも何とかしてあげたいのはやまやまなのだが、こればっかりは本人の気持ちようなので、何も出来ないのが現状である。
(でも、家の中に居ても気持ちは晴れないからなぁ・・・何か良い気分転換は――――)
ジンは何か無いかと考えた。すると、カレンダーの日付につけられた印を見て、思い出す。
「確か、この日は流星群が降る日だったな。よし」
こうしてジンは、菫子を流星祈願の会に誘う事にした。
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ここは人里の市場。ジンは買い物ついでに、菫子を流星祈願の会に誘っていた。
「流星祈願の会?」
「そう、次の日の夜に流れ星が降るから、その時皆で願い事を言うっていう会だ」
「そんな簡単に流れ星が見えるのかしら?」
「霖之助の話によると、流れ星が落ちる日が決まっているらしい」
「そうなの? そんな話、全然聞かないけど」
「俺も詳しい事は分からないが、こっちだとそうなのかも知れない」
「ふーん・・・・・・」
「それでどうだ? 一緒に行かないか?」
「うん! 行ってみたい!」
菫子は満面の笑顔でそう言った。その笑顔を見れただけでも、誘ってよかったとジンは思うのであった。
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流星祈願の会当日、菫子はメンバー達ともに香霖堂に集まり、夜空に降り注ぐ流れ星を見ていた。
「うわぁ~すっごーい!」
菫子とメンバー達は一緒にはしゃいでいた。そんな様子を、ジンと霖之助は眺めていた。
「場所をいつも提供してくれて、ありがとう霖之助」
「なぁに、いつもの事だからね、もう慣れたよ」
「発足したのが、魔理沙だっけ?」
「ああ、この渾天儀を魔理沙が見てね。そこから流れ星の話になったのが切っ掛けなんだよ」
そう言って、霖之助は手に持っていた渾天儀をジンに見せる。それはかなり古い物で、恐らく数百年くらい前の物では無いかとジンは思った。しかし、渾天儀に刻まれた文字は、外国の物では無く、日本語でも無かった。
「外国語じゃないな、かと言って日本語でも無い・・・いや、これはもしかして―――――」
「察しが良いね。君が思っている通り、これは妖怪の文字なんだよ」
霖之助の言葉を聞いて、ジンは“やっぱり“と呟いた。渾天儀に刻まれた文字は、鈴奈庵にある妖魔本の文字と酷似していた。だから恐らく、この渾天儀は妖怪が作った、言わば妖怪渾天儀である。
「小鈴が知ったら、飛びつきそうだな・・・・・・」
「確かにね。でも、これだけの物は当然値が張る物なんだよ」
「どれくらいだ?」
「そうだねぇ・・・結構古い物だから、数百円(数百万)はするんじゃないかな?」
「数百円・・・・・・」
「と言っても、あくまで僕の鑑定だから、もしかしたらもっと値が張るし、下がるかもしれない」
「どっちにしても、高価な物なんだろうな・・・ん?」
ジンはそこで、渾天儀に書かれているある文字を見つける。それは掠れていたが、しっかりと日本語で刻まれていた。
「著作・・・八・・・雲・・・紫? え? これって紫が作った物なのか?」
「それだけじゃないよ。妖怪の星座も彼女が作ったものなんだ。
僕はそれを知った時、心底驚いたよ。まあ、あの妖怪ならこうゆう物も簡単に作れるんだろうね」
「伊達に賢者を名乗っているだけはあるな」
ジンは渾天儀を見ながら、改めて紫の凄さを理解した。
ジンと霖之助が渾天儀について盛り上がっている一方、菫子達は流れ星に夢中になっていた。
「こんなに流れ星が落ちるところ、初めて見たわ」
「そう言えば、外の世界だとあまり星が見えなかったな」
魔理沙がそう言うと、菫子は頷いて答える。
「外だと、ビルや街灯の光で、星が見えにくくなるのよ。明るすぎてね」
「ああ確かに、あれは明るすぎだぜ」
「そうね。でも、あれはあれで綺麗だと思うわ」
魔理沙と霊夢は、外の世界の夜景を思い出す。
ライトによって光輝くビルやスカイツリー。それは幻想郷ではまず見れない美しい光景であった。
「ねぇ、菫子は流れ星に何か願わないの?」
流れ星を眺めていると、霊夢がそんな事を尋ねて来た。
「願いねぇ・・・針ちゃんをペットにしたいとか?」
「お前、まだ諦めていなかったのかよ・・・・・・」
「“諦めたら、そこで試合終了“という格言があるのよ」
「何の試合かは知らないけど、そういう願いはやめときなさい。ジンが怒るから」
「え~、じゃああれは良いの?」
そう言って菫子が指をさした先には、正邪、サニー、ルナ、スターが何やら願い事を呟いていた。
「反逆反逆反逆――――」
「異変を起こせますように!」
「異変を起こせますように・・・・・・」
「異変を起こせますように♪」
――――と、明らかにろくでも無い内容であった。
「あいつら・・・・・・ちょっと絞めてくる」
そう言って、霊夢は御払い棒を持ち、正邪達のところに向かって歩き出した。
正邪とサニー達が悲鳴を上げているなか、魔理沙は菫子に話し掛けて来た。
「ところでどうだった? 楽しめたか幻想郷は?」
「・・・・・・うん、凄く楽しかった。いろんな所を見て、いろんな不思議に会って、もう一生分のオカルトに出会ったくらいよ」
「おいおい、まだまだ人生はこれからだぜ? これから先、もっと凄い出来事に出会うかも知れないだろ?」
「それはそうかも知れないけど、少し不安なのよね・・・・・・」
「何が?」
「これだけ楽しい事が続くと、この先辛い事が待っているんじゃないかって」
「まあそりゃ、先の事なんて分からないものだからな。あのレミリアだって、“運命というのは、不確定要素次第で変わる事があるから、全ての運命を見通す事は出来ない”って言ってたからな」
「はあ~、何でもいいから、この不安を取り払いたいわ・・・・・・」
菫子はため息をつきながら、流れ星を見つめた。すると魔理沙が彼女にこう言った。
「ならさ、流れ星に願えば良いんじゃないか? 多少の気休めにはなるだろうし」
「・・・・・・それもそうね。よーし!」
菫子は流れ星に願いを呟く。
「これから先、楽しい事や不思議な事に出会いますように・・・・・・」
菫子はその願い事を、流れる光に向かって言うのであった。
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そして、菫子が帰る日がやって来た。彼女は荷物を纏め、改めてお世話になった博麗神社のメンバーに御礼を告げていた。
「この一ヶ月、お世話になりました」
「こっちもそれなりに楽しかったわよ」
「またいつでもいらして下さいね」
「今度はもっと面白い場所を教えて上げるわ」
それぞれが菫子に挨拶を交わすなか、針妙丸だけがそっぽを向いていた。
「ほら、針妙丸。挨拶をしろよ」
「・・・・・・」
ジンが挨拶を促すも、彼女は黙ったままである。そんな彼女の反応に困っていると、正邪が悪戯な笑みを浮かべていた。
「ああこいつ、菫子が帰る事ってが寂しいって思っているんだよ」
「え? そうなのか?」
「そ、そんな訳無いじゃない! 何を言ってるの正邪! 寧ろせいせいしているわ!」
「嘘つけ、夜中こっそり刺繍をしてただろ? 菫子に渡す為のな」
「え? そうなの?」
「違うよ! あれは・・・そう! ジンにプレゼントしようと―――」
「菫の刺繍をだったのに?」
そう言って見せたのは、それは鮮やかな菫の刺繍であった。
「こらー! 勝手に見せるなー!」
「おおっ、怖い怖い。目を刺されちゃ貯まんないから、私は退散させて貰うな。じゃあな~」
そう言って、正邪は舌を出して、人を小馬鹿にした態度を取りながら、退散して行った。
残された針妙丸は、何とも言えない気持ちとなり、被っているお椀で顔を隠した。
「ううっ・・・・・・正邪のばかぁ・・・・・・」
「えっと・・・本当なの針ちゃん?」
「・・・・・・まあその、それなりに楽しかったから、何か贈り物をしようかなぁと思っただけで・・・・・・」
「し、針ちゃん・・・・・・」
「べ、別に勘違いしないでよね! 私はあの時事を許した訳じゃ――――」
「ああもう可愛い! やっぱり連れて帰るー♪」
「キャアアアア!!」
「止めんかアホ」
暴走する菫子の頭を小突いて止めるジン。針妙丸はすっかり怯えてしまい、ジンの後ろに隠れてしまった。
「ったくお前は、何でそう暴走するんだよ」
「いたた・・・だってぇ、あまりにも可愛かったからつい」
菫子は舌を出して、悪戯な笑みを浮かべた。それを見たジンは、やれやれと呆れてため息をつくのであった。
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それからしばらくして、外の世界へと戻った菫子は、再び退屈な日々が続くのだろうと思った。しかし、彼女の考えとは裏腹に、幻想郷とはまったく違った騒がしい日々を送っていた。
ここはとある校舎の、今は誰も使わなくなった物置部屋である。その扉には秘封倶楽部と書かれた紙が張られていた。
そこに、一人の女子高生が入って行った。
「えっと・・・貴女が宇佐見さん?」
「ええ、ようこそ秘封倶楽部へ」
部屋の中には、ルーン文字が刻まれたマントを羽織った菫子がいた。
彼女は夏休みを明けた後、とある怪奇事件に巻き込まれ、それを見事に解決したのが切っ掛けで、現代の怪奇事件を解決する。霊能探偵みたいな事をするようになった。もっとも、専門家の助言をキチッと受けてはいるんだが。
「さて、今日はどんな相談かしら?」
そして今日も彼女は、怪奇という異変を解決する。その姿はまさに、異変解決を生業にしている博麗の巫女のようであった。