ここは博麗神社、菫子の宿泊場所である。彼女は夏休みの間だけここで泊まり、ジンに幻想郷の案内をして過ごしているのだ。
しかし、今日は事情が違っていた。
「えー! 今日は一緒に行けないの!?」
「ああ、悪いな。どうしても外せない用事が出来てしまった」
「幻想郷を案内してくれる約束してくれたじゃない!」
「そうは言ってもなぁ・・・・・・」
「約束を破るなら、針千本を飲ますわよ? あと拳骨一万回」
「怖いことを言うな! それに、あれはおまじないって言っただろ?」
「だったら約束を守ってよね。じゃないと本当にやるわよ」
「・・・・・・わかった 代わりの人を紹介するから、それだけは勘弁してくれ!」
「代わりの人?」
「それが最大の譲歩だ。それが駄目なら、今日は諦めてくれ」
「・・・・・・仕方ないわねぇ、それで許してあげるわ」
菫子のその言葉を聞いて、ジンはホッと胸を撫で下ろした。
それからジンは、菫子に代理人を紹介する。
「取り合えず、彼女達が俺の代わりの――――」
「輝ける日の光! サニーミルク!」
「静かなる月の光! ルナチャイルド!」
「降り注ぐ星の光! スターサファイア!」
「「「光の三妖精! ただいま参上!」」」
―――――と、ビシッと決めるサニー、ルナ、スターの三人であった。その様子を見て、菫子は多少不安になる。
「ねぇジンさん、本当に大丈夫なの?」
「サニー達はあちらこちらを遊び回っているから、幻想郷について詳しい筈だ。
本当なら針妙丸にも案内して貰おうと思ったのだが、断られてしまった」
「ええー・・・・・・もしかして私、あの子に嫌われてる?」
「もしかしなくても嫌われてるな。お前の事を変態って言ってたが、一体何をしたんだ?」
「何もしてないわよ。ただ、ペットにしようと思っただけで」
「・・・・・・それが一番の原因だな。まあともかく、針妙丸の件は置いといて、今日はサニー達に案内して貰ってくれ。
それじゃあ三人とも、後は頼んだぞ」
「「「はーい」」」
サニー達に任せたジンは、何処かへと行ってしまった。
「さて、それじゃあ何処に行く菫子さん?」
「え? えっと・・・特に決めてない・・・・・・」
「え? 決めて無いの?」
「うん。何処に行くかはジンさんに任せっきりだったし。それに、それほど幻想郷に詳しく無いから・・・・・・」
「え、えっと・・・それじゃあどうしょうか?」
「こんな時は作戦会議よ!」
そう言ってサニーは、ルナとスターと集まって話し合い始めた。
それから少し時間が経過すると、サニーが叫んだ。
「よし決まり! 今日は私達の別荘に招待するわ!」
「え? 貴女達、別荘を持ってたの?」
「別荘というか、旧住まいの事なんだけど・・・・・・」
「細かい事は気にしない! それじゃあ、別荘がある魔法の森に行くわよー!」
こうして菫子は、サニー達の別荘?がある魔法の森に行く事になった。
―――――――――――
ここは魔法の森。そこに別荘を目指す菫子とサニー達の姿があった。
「ほらほら菫子さん、早く早く」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・・・・」
元気な三人に対して、菫子は既にバテバテであった。いくら超能力を使えると言っても、彼女の身体能力は普通の女子高生となんの変わりもなく、更に言うなら文明の発展という恩恵を受けている代償で、身体能力は人里の人間より低くもある。そんな訳で、彼女は既に疲労困憊であった。
「このくらいでバテたら、この先が大変よ。鈍臭いルナだって、まだまだ余裕なのに」
「私は鈍臭いな―――キャア!」
サニーの言葉に反論しようとしたルナであったが、案の定転んでしまった。
「ほら、言っている側からこける。だから鈍臭いって言われるのよ」
「いたた・・・別に好きでこけている訳じゃないのに・・・・・・」
「大丈夫?」
「う、うん、何とか・・・・・・」
菫子は転んだルナを助け起こす。その間も、サニーとスターは歩き続けた。
「ほら二人とも、早く行きましょ。私達の別荘に」
「あっ、待ってよー!」
そんなこんなで、彼女達はサニー達の別荘兼旧住まいへと向かっていた。
―――――――――――
「ここが私達の別荘よ」
そう言って、サニーは高らかに紹介した。
それは見事な大樹で、博麗神社にあるミズナラの御神木に負けないくらいの大きさであった。
「すっごい大樹ね・・・・・・ねえ、中に入っても良いの?」
「もっちろん! 菫子さんは・・・そう! ゲスト! お客様なんだから」
「やった、木の中に入るなんて初めてだから、ドキドキするわね」
(でも、あれからずっと放置していたから、中は埃だからけじゃないかしら?)
そんな不安を考えるルナを他所に、サニーは菫子を大樹の中に招き入れようとしたその時、不意にスターが呼び止めた。
。
「ちょっと待って」
「どうしたのスター?」
「中に誰かいるみたい。反応の大きさから、妖精みたいだけど・・・・・・」
「やっぱり・・・結構放置してたから、誰かが住み着いちゃったのね」
「問題ないわ! 追い出せば万事OK! 誰であろうと、私達に掛かればイチコロよ!」
「ちょ、ちょっとサニー! そんないきなり――――」
ルナの静止を聞かず、サニーは勢いよく、扉を開いた。
「光の三妖精推参!」
「ひゃう!?」
「なんだなんだ? ってサニーじゃないか」
そこには二人の妖精――――大妖精とチルノの姿があった。
「ちょ、なんであんた達がいるのよ!? 」
「え、えっとそれは――――」
「なんでって、ここは大ちゃんの家だぞ?」
「な、何だってー!?」
サニーの驚愕の声が、森に響き渡る。
―――――――――――
サニーが落ち着いた事で、大妖精とチルノは事の経緯を話してくれた。
それは先月の梅雨の事である。猛烈な雨風のせいで、ガタが来ていた大妖精の家が潰れてしまったのである。事情を聞いたチルノは、彼女にこの大樹を紹介し今に至るのである。
「なるほど、そんな事があったのね」
(妖精も意外と大変なのね・・・・・・)
妖精も苦労しているのだと、染々思う菫子であった。
事の経緯を話した大妖精は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ、あの、勝手に住み込んでごめんなさい。別荘だと知らなくて・・・・・・」
そう謝る大妖精であったが、当のサニー達は大して気にしていない様子であった。
「別に謝らなくて良いわよ、ここには殆ど戻っていなかったし」
「そうね、別荘って言っても。ぶっちゃけサニーの思いつきだし」
「ちょっとスター! そういう事は言わないの!」
「だって本当の事じゃない。サニーはいつだって、思いつきで行動しているんだし」
「当然じゃない! それがリーダーの役目なんだから!」
「いや、それはそれでどうなのかしら?」
「え、えっと・・・・・・?」
サニー、スター、菫子のやり取りを見て、戸惑う大妖精。そんな彼女に、ルナがしっかりフォローする。
「別に住んでも問題は無いっていうこと。見ず知らずって訳でも無いしね」
「あ、ありがとうございます!」
「なんだか良くわからないけど、良かったね大ちゃん!」
こうして大妖精は、サニー達に住む許可?を無事貰えたのである。
―――――――――――
大妖精の住居問題?が無事解決したところで、彼女のおもてなしを受ける菫子とサニー達であった。
「アイスティーです。どうぞ」
そう言って差し出されたのは、氷が入ったアイスティーであった。それを見て、菫子は不思議に思った。
「この氷は一体何処で手に入れたの?」
外の世界ならいざ知らず、幻想郷で氷を入手するのは非常に困難である。その為、氷事態の価格が非常に高く、かき氷等はぼったくりの価格になってしまっている。
そんな菫子の疑問に、チルノが得意気に答えた。
「それはあたいが作ったんだよ」
「え? 貴女が?」
「そうだよ。あたいの“冷気を操る程度”の能力でね」
そう言って、チルノは手のひらから氷を精製して見せた。それを見て、菫子は物凄く感心した。
「すっごーい! そんな簡単に氷を作れるなんて!」
「ふふん♪ こんなの序の口、最近だとこんな事も出来るようになったんだ。それ!」
チルノが能力を使うと、何故か家の中で雪が降り始めた。
「凄い凄い! 雪まで降らせられるなんて!」
「まだまだ序の口だよ。それ!」
調子に乗ったチルノは、雪の勢いを強めた。すると家の中で雪が積もり始めた。
「ちょ、ちょっとチルノちゃん。流石にやり過ぎじゃあ・・・・・・」
「まだまだいくよー♪」
ノリノリのチルノは、更に雪の勢いを強めた。最早家の中は吹雪に攫されている状態になってしまった。
「ちょ!? これ洒落にならないわよ!?」
「バカチルノ! この吹雪を止めなさい!」
「ん? 何か言ったか?」
「だーかーら! 吹雪を止めなさいって言ってるのよ!」
「そっか、もっと強くすれば良いのか」
「ちーがーう!」
「さ、寒い・・・・・・」
「ルナ! 寝ては駄目よ! 寝たら一回休みになってしまうわ」
「夏場で凍死なんて、冗談じゃないわよ!」
「チルノちゃーん! もうやめてー!」
チルノの暴走によって家は大吹雪に見舞われ、全員が大パニックに陥ってしまった。
―――――――――――
その後、どうにかチルノの暴走を納め、季節外れの雪かきを終えた菫子達。それが終わる頃には、日が暮れ始めていた。
「ううっ、寒い・・・・・・」
「まさか、夏の季節で雪かきをする羽目になるとは思わなかったわ・・・・・・」
「早く帰って、神社の温泉に入りたいわ・・・・・・」
「同感・・・・・・」
凍えながら帰路につく菫子とサニー達。するとそこに、偶然とジンに出会った。
「あれ? 菫子とサニー達じゃないか」
「ジ、ジンさん・・・・・・」
「どうしたんだ? 寒そうにして? まるで季節外れの寒気(かんき)にさらされたようだな」
「実は――――」
菫子はジンに、事の経緯を話始めた。
「な、なるほど、それは災難だったな・・・・・・」
「災難ってもんじゃないわよまったく・・・・・・」
「危うく凍死するところだったわ・・・・・・」
菫子達は寒そうに、体を震わせていた。
「・・・・・・火獸」
見かねたジンは、火獸呼び出し、冷えた彼女達の体を暖めて上げた。
「「「「あったか~い」」」」
「これで多少はマシになっただろ?」
「うん、ありがとうジンさん」
「どういたしまして。さて、それじゃあ皆で帰るか」
こうして冷えた体が暖まった菫子達は、ジンと共に夕暮れの帰り道を歩き出すのであった。