何話までやるかは未定ですが、暫くはこのシリーズでやる予定です。
菫子が夏休みを利用して、幻想郷を訪れてから幾日が経過した。そしてジンには、夏休み期間限定の新たな日課が生まれた。
「おい、起きろ菫子。もう朝だぞ」
「むにゃむにゃ・・・・・・」
使用人が菫子を起こそうとしているが、彼女はなかなか起きない。夢で幻想郷に入り浸っていたせいか、寝癖が悪くなってしまっているようである。
「やれやれ仕方ないな。ライ」
「ギィ」
ジンはライに命じ、彼女に軽めの電気を浴びせた。
「あびび!? もう! 一体何なの!?」
「おはよう菫子、もう朝だぞ」
「ギィ」
「おはよう―――じゃないわよ! 電気ショックで人を起こすなんて酷い!」
「前に“水を掛けるなんて酷い! 寝間着が台無しじゃない!”って言ったから」
「もっと優しく起こす方法は無いの?」
「それが出来たらとっくにしている。ちょっとやそっとの事じゃ起きないからなお前は」
「ううっ・・・これが外の世界だったら直訴している所だわ」
「はっはっは、それは残念だな。なんなら、閻魔様に裁判して貰うか?」
「ちょっと、怖いこと言わないでよね」
「さて、冗談はさておき、早くいかないと、また正邪に食われるぞ」
「あっ! そうだった!」
菫子は直ぐ様部屋を飛び出し、朝食が用意された居間へ向かう。その後を、ジンはゆっくりと追った。
―――――――――――
朝食を終えた菫子は、次に行ったのは文々。新聞を読むことであった。これは情報収集の一環であり、面白い記事が載っているかどうかチェックしているのである。
「さて、今日のは・・・・・・“霧の湖に伝説の怪魚現わる”これだ!」
その記事を見た瞬間、菫子の今日の活動内容が決まったのである。
「ん? 何かおもしろい記事でもあったのか?」
ジンがそう尋ねると、菫子は先程の記事を見せる。
「これはまさに我ら秘封倶楽部の出番よ! この怪魚の秘密を私達が暴くのよ!」
「私達?」
「私とジンさんでよ」
「って、いつの間にメンバーにされてるし・・・・・・」
「細かい事は気にしない気にしない。それにジンさんだって、この怪魚の正体気になるでしょ?」
「まあ、少しな・・・・・・」
「よーし決まりね! それでは秘封倶楽部の活動を開始するわよー!」
こうして新生?秘封倶楽部の活動が始まるのであった。
―――――――――――
霧の湖に向かう事になったジンと菫子。その途中、偶然にも妹紅とバッタリと出会い、一緒に行く事になった。
「まさか妹紅も釣りに行くなんて、奇遇だな」
「まあ気分的に魚が食べたいと思ったからね。そっちは?」
「私達は、怪魚を釣りに行くのよ」
「怪魚? なんだそりゃ?」
「文々。新聞に載っていたのよ。“霧の湖に伝説の怪魚現わる”って」
そう言って、菫子は持って来た新聞の記事を妹紅に見せる。
「なんだ天狗の新聞か、お前らよくそんなの信じられるよな」
「えー、妹紅さんは信じて無いの?」
「天狗って言うのは、事実をおもしろいおかしく書く奴等だからな。この怪魚だって、何かの見間違いだろ」
そう言って、妹紅は記事の信憑性を真っ向から否定する。しかし、ジンは違っていた。
「そう決めつけるのはまだ早いんじゃないか? まだ確かめもしてないんだから」
「そうそう! 本当に怪魚がいるかも知れないでしょ? これは確かめるべきなのよ!」
「ふーん・・・まっ、別に良いけどね。おっ、湖が見えて来た」
妹紅の視線の先には、幻想郷有名な霧の湖が見えて来た。
―――――――――――
霧の湖に到着した一同。しかし、そこで予想外の人物出会う。
「あら妹紅、奇遇ね」
「・・・・・・何でお前がここにいるんだ? 輝夜!」
妹紅の宿敵の輝夜と、付き添いの鈴仙とていがそこにいたのであった。
「もしかして、輝夜達も例の怪魚を?」
ジンがそう尋ねると、鈴仙は頷きながら答える。
「そうなのよー、天狗の新聞を見て、“怪魚を捕まえて魚拓を取ろう!”って言い出して・・・・・・」
「だって五尺(約百五十センチメートル)もあるのよ。これは捕まえないと、コレクターの名が泣くわ」
「悪いが、怪魚は私達が捕まえる。お前はさっさと帰んな」
「あら、それはどっちが怪魚を捕まえるか、勝負しろって事かしら?」
「ズブの素人のお前には無理だって言っているんだよ。まっ、恥をかくのを承知でやるのなら、止めやしないけど」
「言ってくれるじゃない。後で吠え面をかいても知らないわよ?」
二人は火花を散らし合う。そんな二人を放って置いて、ジンと菫子は釣りを始めていた。
「ほら、エサをつけてやったぞ」
「ありがとうジンさん♪」
「これぐらいお安いご用だ。後は――――――」
ジンは能力を使い、魚が一番多い場所を探し、そこを指をさした。
「あそこ辺りに魚がいるぞ。それじゃ手本を――――」
「そいっ!」
手本を見せようと言おうとしたその時、菫子が見事な竿捌きで、見事ジンが指定した場所に釣り針を着水させた。
「おっ、やるじゃないか菫子」
「ふふん♪ これぐらい楽勝よ♪」
「俺も負けてやれないな。ほっと」
ジンも見事な竿捌きで、菫子の浮き近くに釣り針を着水させた。
「ジンさんもやるじゃない」
「運松の爺さんに教わったからな。これぐらいは出来ないと、逆に怒られるっと」
するとジンの浮きが沈む。その瞬間、ジンは竿を振り上げ、小さめの魚を釣り上げる。
「もう釣れた!?」
「ふふん、どうだ菫子?」
「釣れたって、小さい魚じゃない。私だったら、もっと大きい魚を釣り上げるわよ」
「そうか、それはお手並み拝見させて貰おうか」
「見てなさい! その余裕面を崩してやるわ!」
そう言って、菫子は釣りに集中し始めた。
当初の目的を忘れ、釣りを楽しむジン達。一方、こちらも当初の勝負を忘れて、競いあっているグループがいた。
「よしよし、八匹目だな」
「・・・・・・」
「おっと、九匹目が釣れた」
「・・・・・・」
「もう十匹目が釣れた。今日は大漁だな」
「・・・・・・」
「おや? 輝夜さんはまだ零ですか? これはボウズ確定だな」
「むっきー!」
妹紅の挑発に、輝夜は悔しそうに叫んだ。そんな彼女を、鈴仙が宥めようとする。
「ひ、姫様! 落ち着いて下さい!」
「だって悔しいじゃない! あんな事を言われて!」
「気持ちはわかりますが、そう叫んでは、かえって魚が逃げてしまいますよ」
「じゃあどうするのよ? 何かいい案があるの鈴仙?」
「え? あ、いや、そんな急に言われても・・・・・・」
「ふっふっふっ、どうやら私の出番みたいだね」
「てい? 何かいい作戦があるの?」
鈴仙がそう尋ねると、ていは怪しげな薬を出した。
「ジャジャーン! お師匠様特製撒き餌! これを撒けば、どんな魚でも寄って来るらしいよ」
「おお! 用意が良いわねてい。それじゃあ、早速撒きましょう」
「大丈夫かなぁ・・・・・?」
鈴仙の心配を他所に、輝夜はその撒き餌を湖に撒いた。すると、魚達が一気に集まって来る。
「凄い効果ね! 流石永琳製ね!」
輝夜ははしゃぎながら、釣り糸を垂らす。すると、先程の事が嘘のように、魚をどんどん釣り上げた。
「どう妹紅! これが私の実力よ!」
「いや実力って、ズルしているだけじゃないか」
「あら、撒き餌だって立派な方法よ。悔しかったら、貴女もすれば良いじゃない。まっ、永琳が用意した撒き餌以上の物があるとは思えないけど」
「言ったな! 良いだろう、これぐらいのハンデ受けてやるよ!」
こうして二人の釣り対決はヒートアップし始めた。しかし、その撒き餌のせいで、余計な物まで呼び寄せている事に、輝夜は気づかなかった。
「おっ、また来たわ! これは・・・大物よ!」
確かな手応えを感じた輝夜は、大物が釣れた事を確信する。そして、力一杯釣り上げた。
「こ、これは!?」
釣り上げた魚を見て、輝夜おろか妹紅、鈴仙、ていまで驚愕していた。何故ならその魚は全長五尺で、魚なのに人間みたいな足がついおり、更にそこから脛毛まで生えている不気味な怪魚であったのだから。
「・・・・・・」
怪魚は輝夜達を一瞥すると、再び湖に戻って行った。異形なその姿を見た彼女達は、しばらく固まっていた。
―――――――――――
その帰り、釣りにご満喫なジンと菫子に対して、妹紅はげんなりしていた。
「どうしたんだ妹紅? そんなげんなりして。輝夜に負けたのか?」
「あー・・・・・・まあ、ある意味負けたと言うか、痛み分けと言うか・・・・・・」
「なんだが歯切れ悪いわね、何かあったの?」
「見てはいけない物を見てしまった。正直、しばらく魚を見たく無いくらいだ」
「え? じゃあ今日釣った魚はどうするんだ?」
「捨てるのも勿体ないし、お前らにやるよ」
そう言って妹紅は、ジンに魚が入っている篭を渡し、そのまま帰って行ってしまった。
「妹紅さん、一体どうしちゃったんだろう?」
「さあな、もしかしたら怪魚を見てしまったんじゃないのか? それで食う気が失せたとか?」
「怪魚・・・あー! そうだった! 怪魚を捕まえに来たの、すっかり忘れてた!」
菫子は当初の目的をようやく思い出した。そして直ぐ様湖へと引き返そうとするが、ジンに引き止められる。
「おい待て、どこ行くつもりなんだ?」
「湖によ! 今から怪魚を捕まえに行くの!」
「今から行ったら日が暮れる。夜は見通しが悪いし、最悪湖に落ちるぞ」
「うっ・・・・・・」
「日を改めてまた来よう。まだ夏休みは始まったばかりだろ?」
「・・・・・・それもそうね。それじゃあ、その時はまた付き合ってねジンさん♪」
「ああ、今度は怪魚を捕まえような」
そう言って、ジンは小指を菫子に差し出す。菫子はそれを見て、キョトンとした。
「なにそれ?」
「指切りだよ。昔は約束をするとき、小指を絡ませて“指切り拳万♪ 嘘ついたら針千本飲ーます♪ 指切った♪”って約束を交わしたりしていたんだ」
「うわぁ・・・約束一つで針千本飲ますなんて、結構えげつないわね・・・・・・」
「本当にやるわけ無いだろ、やるとしても拳骨一万回だ。
それにこれは、一種のおまじないだから、あまり深く考えるな」
「おまじないねぇ・・・まっ、そういうのは嫌いじゃないわよ」
そう言って菫子は、自分の小指をジンの小指に絡ませる。
「「指切り拳万♪ 嘘ついたら針千本飲ーます♪ 指切った♪」」
そうして約束の指切りをするジンと菫子とジン。その後二人は、他愛の無い話や明日何処に行くのかを話ながら帰路に着くのであった。