東方軌跡録   作:1103

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今回も旧作キャラが出ます。旧作キャラについては、設定にオリジナルをかなり加えています。おかしい所もあると思いますが、なるべく変にならないようにして行きたいと思います。


帰って来た魔剣士

ここは地獄のとある場所。そこに一人の侍ととある鬼神長がそこにいた。

 

「よくぞ人の身で、私の修行に耐えたな明羅よ」

 

「ありがたき御言葉です。コンガラ様」

 

明羅と呼ばれた侍は、そう言って深々と頭を下げる。一方、コンガラと呼ばれた鬼神長は明羅にある誘いを出す。

 

「どうだ明羅。ここで私の右腕として働かぬか? お前なら、ここでも十分やっていけると思うのだが」

 

すると明羅は、首を横に振る。

 

「申し訳ありませんが、私には倒さねばならぬ相手がおりますので」

 

「博麗の巫女か・・・・・・」

 

「はい」

 

コンガラにとっても、明羅にとっても、博麗の巫女にはただならぬ因縁があった。

かつての異変で、コンガラは先代の巫女と、明羅は今代の巫女と戦い破れ去ったのである。

 

「そういうなら止めはせぬが、それ相応の覚悟はしておいた方が良いぞ。あの博麗の巫女だからな」

 

「はい、わかっております。それでも、やると決めたのです」

 

そう言った明羅の顔は、覚悟に満ちていた。

 

―――――――――――

 

その数日後。霊夢は、いつものように仕事を終え、団子屋で団子を食べていた。

 

「うーん♪ やっぱりこの団子は美味しいわね。後で皆の分も買って――――」

 

「おーい霊夢ー」

 

するとそこに魔理沙がやって来た。

 

「あら魔理沙じゃない。どうしたの?」

 

「その様子だと、まだ明羅に会っていないようだな」

 

「明羅? 誰だっけ?」

 

「あー、確か一度しか会っていないから、忘れているか。ほら、私とお前が初めて戦った異変の時に、魅魔様が用心棒として雇った侍だよ」

 

「うーん・・・どうだったかな? 私としては、あんたの中二病的な言葉の方が印象的だけど」

 

「頼むからそれは忘れてくれ・・・・・・それよりも」

 

「ん?」

 

「こんな所にいて良いのか? あいつ、お前とのリベンジする為に、わざわざ地獄に行って修行してたらしいぜ。だから今頃、博麗神社に行っているんじゃないのか?」

 

「そうなの? 何だか面倒くさいけど、行かないわけにはいかないでしょうね・・・・・・」

 

そう言って、霊夢は面倒くさそうに腰を上げた。

 

「それにしても・・・・・・明羅か、一体どんな人だったけ?」

 

明羅の事をいまいち思い出せない霊夢であったが、この時思い出せない事で、後に一騒動起きてしまう事を、霊夢はこの時想像出来なかった。

 

―――――――――――

 

その頃博麗神社では、ジンが明羅を接待していた。

 

「へぇ、明羅は里の自警団に所属していたのか」

 

「もう何年も前の話だがな」

 

「今まで何処にいたんだ?」

 

「地獄で、コンガラ様という鬼神長の元で修行していたのだよ」

 

「え? 生身の人間が地獄に行っていいものなのか?」

 

「普通は無理だが、閻魔様である映姫様と契約をすれば、特例として生きたまま地獄に行けるのだよ」

 

「契約?」

 

「死後、死神として閻魔様に仕える契約だ」

 

世界には、様々な理由から閻魔と契約を結ぶ者達がいた。内容は様々だが、阿求の転生もまた、閻魔との契約で成り立っている物なのである。

 

「それじゃあ明羅は――――」

 

「ああ、その契約を交わし、地獄で修行をしていたのだ」

 

「そこまでして修行をする理由は一体何なんだ?」

 

ジンがそう尋ねると、明羅の表情が変わる。

 

「・・・・・・どうしても、倒したい奴がいる。その為なら、全てをなげうつ覚悟だ」

 

それは生半可の覚悟では無いと、ジンは直ぐに理解した。そんな時である――――。

 

「ただいまー」

 

「おっ、帰ってき――――」

 

「待ちわびたぞ博麗!」

 

明羅は霊夢の声を聞いた瞬間、瞬時に玄関へと走って行った。ジンも慌て追いかけると、そこには明羅と心底驚いている霊夢の姿があった。

 

「久しぶりだな博麗!」

 

「え!? あ、貴方が明羅・・・・・さん?」

 

その時、明羅の姿を見た霊夢は、色々と思い出してしまった。戦った事も、その最中、“とんでもない約束”をしてしまった事を――――。

 

 

「なんだそのよそよそしい態度は? 別に初対面ではないであろう?」

 

「その・・・貴方の事を忘れてて・・・・・・」

 

「なっ、忘れていただと・・・・・・」

 

その言葉に、明羅は心底ショックを受けていたが、直ぐに平静を取り戻す。

 

「ま、まあ、数年も会わず仕舞いだったからな。忘れても仕方あるまい。しかし、せめて自分が倒した相手の事は覚えていて欲しかった」

 

「えっと・・・・・・ごめんなさい」

 

珍しくしおらしいく謝る霊夢に、ジンは驚いていた。

 

(あの霊夢が素直に謝るなんて・・・二人は一体どういう関係なんだ?)

 

そう疑問に思っていると、霊夢と一緒にいた魔理沙が明羅に挨拶をする。

 

「よっ、久しぶりだな明羅。元気だったか?」

 

「むっ、お前は――――」

 

「魔理沙だ、霧雨魔理沙。魅魔様の一番弟子の魔法使いだぜ」

 

「おお、魔理沙殿であったか、髪の色が変わっていたので、すぐにはわからなかった」

 

「む、昔の事は掘り返さないでくれ・・・・・・ところで、今日は霊夢の奴にリベンジしに来たんだろ?」

 

「おお、そうであった。博麗! 私と勝負しろ! そして私が勝ったあかつきには――――」

 

「ちょ、ちょっと待って! 今ここで言わなくても――――」

 

「博麗を貰う!」

 

明羅のその言葉に、魔理沙は驚いていたが、その中で一番動揺したのは以外にも霊夢ではなくジンであった。

 

「ちょ、ちょっと待ったー!!」

 

ジンは自分でも訳分からず、気がついたら大きな声で叫んでいた。

 

「な、なんだ一体? いきなり大きな声出して?」

 

「あ、いや、なんていうか・・・そういう決め方はどうかと思うんだが・・・・・・」

 

自分でも何を言っているのか分からず、ジンはしどろもどろに言葉を言う。それに対して明羅は、毅然とした態度を取った。

 

「何を言っている。私が博麗に勝てば、博麗は私の物とする。昔、そういう約束をしたのだ」

 

「ほ、本当か霊夢?」

 

ジンは恐る恐る霊夢に尋ねると、霊夢は申し訳無さそうに頷いた。

 

「いや、でも、そんなやり方で決めるのは・・・・・・」

 

「何を言っている。博麗の力は、より強い者が持つのがどおりだ。それに、本人の了承は得ている」

 

「いや、そうじゃなくて――――博麗の力?」

 

「ああ、私が勝てば博麗の力を貰う。そういう約束をしている」

 

「霊夢と結婚するのが目的じゃなくて?」

 

ジンがそう言うと、明羅は顔を真っ赤にして怒り出した。

 

「バカもん! 私は女だ!」

 

「「え?」」

 

「そうだぜ、明羅はれっきとした女性なんだぜ」

 

「「ええええーーー!?」」

 

驚天動地の事実に、ジンと霊夢は思わず叫んでしまった。

 

「ちょっと魔理沙! 知っていたのなら教えなさいよ!」

 

「いやー、なんだかおもしろい展開になったから、つい♪」

 

「つい♪ じゃないわよ! まったく」

 

「いやまて博麗。確か初対面の時、女と言った筈だが・・・・・・」

 

「え? そうだったけ?」

 

「ああ、確かに言った」

 

そう言って、明羅は霊夢に鋭い視線を突き刺す。霊夢は気まずさあまりに、なんとか誤魔化そうとする。

 

「む、昔の事だから、あんまり覚えて無い・・・・・・」

 

その言葉に、明羅どころかジンまでもため息をつく。

 

「霊夢、そう大事なことは覚えておいて欲しいのだが・・・・・・」

 

「しょ、しょうがないじゃない! 昔の事なんていちいち思い出さないわよ!」

 

「それにしては、明羅との約束は直ぐに思い出したよな?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

霊夢はしどろもどろになりながら、小さく呟いた。

 

「だって・・・・・・あんなかっこいい人に初めて合ったからつい――――」

 

「・・・・・・まあ、確かにかっこいいというか、端から見れば美男子に見えるのは間違いないな」

 

「全然嬉しく無いのだが・・・・・・それより、約束通り博麗の力を賭けて私と戦え!」

 

「嫌よ」

 

「な、何故!?」

 

「そりゃ、私にとってメリットがまったく無いからよ。そんな事をするんだったら、縁側でのんびりしているわ」

 

明羅の勝負の申し出に、

霊夢はまるで手のひらを返すように、冷たい態度をとった。それもその筈、この勝負に霊夢の得はなに一つ無いからである。当初は男性と思い、かなり好みだったから、そういった約束(一方的に)したのだが、明羅が女性と知った今、そんな約束は霊夢とって無意味となる。

 

「勝負せずに逃げるとは、私に恐れをなしたか!」

 

「それで良いわよ」

 

「ならば、本日をもって、私が博麗の巫女だな」

 

「何でそうなるのよ?」

 

「人間で一番強い者が、博麗を名乗るのだろう? なら、不戦勝とはいえ、博麗に勝った私が博麗の巫女になるのは当然だ」

 

その言葉を聞いて、霊夢は明羅が何か勘違いをしているのだと分かり、彼女の誤解を解く事にした。

 

「あのね明羅さん。別に博麗の巫女は一番強い者がなるわけじゃないのよ。代々受け継がれた血筋でなるものなの」

 

「なっ!? そ、それでは―――――」

 

「明羅さんがどんなに頑張っても、博麗の巫女にはなれないの」

 

「そんな・・・・・・私は一体何の為に・・・・・・」

 

その言葉を聞いて、明羅はショックのあまり膝をついた。その様子から、余程博麗の巫女になりたかったようである。

 

「なあ明羅、どうしてそこまで博麗の巫女に拘るんだ?」

 

ジンがそう訪ねると、明羅がポツポツと話始めた。

 

「・・・・・・博麗の巫女は私の憧れなのだ」

 

「憧れ?」

 

「幼い頃、私は妖に襲われた事があってな。その時の博麗の巫女――――先代に助けられたのだ。その時から、私は彼女のような人間になりたいと思うようになった」

 

そう語る明羅は、まるで子供のように目を輝かせていた。幼少期にある、ヒーローへの憧れのような物だと、ジンは思った。

 

「しかし、今代の博麗の巫女はどうだ? 修行もろくにせず、ただ怠けているばかり。あげくの果てに、神社は妖怪がたむろっているではないか」

 

「うぐっ」

 

「これは言い返せないなあ霊夢?」

 

「だから決めたのだ。私が今代の博麗の巫女に成り代わると、その為に博麗の力を欲した。魅魔殿に協力したのもその為だ」

 

「そうだったのね。だから人なのに、怨霊である魅魔に力を貸していたのね」

 

「ああだが、全ては無意味だったな。私はとんだ道化だ」

 

そう自嘲する明羅に、ジンはこう言った。

 

「無意味じゃないと思うが?」

 

「なに?」

 

「地獄でどんな修行をしていたのかは知らないが、どんな経験でも、必ず己の糧になっている筈だ。それに――――」

 

「それに?」

 

「その力で、里の人を守れるだろ? 決して無意味なんかじゃないだろ?」

 

その言葉を聞いて、明羅は何かに気づいた。

 

「・・・・・・そうだ、何も博麗の力に拘らなくとも、先代のように人を守る事が出来る。何で気づかなかったんだ・・・・・・」

 

すると明羅は立ち上がる。その顔は、活気に満ち溢れていた。

 

「ジン殿。貴方のおかげで、自分の道が見えた、感謝する。そして博麗、迷惑をかけた」

 

「別に良いわよ。こっちこそ、変な誤解をしてごめんなさい」

 

「御互い様、という訳だな。ところで、迷惑ついでに頼みたい事があるのだが、良いだろうか?」

 

「なにかしら?」

 

「改めて、手合わせを願いたい。自分の修行の成果を試してみたいのだ」

 

明羅は真剣な表情で、霊夢に手合わせを申し出た。霊夢はその提案に、こう答えた。

 

「まあ、賭け無しでなら、相手になってあげるわよ」

 

「ありがたい! では、地獄で鍛えた剣技を存分に披露して御覧にいれよう!」

 

「あら、私だってただボサッとしていた訳じゃないのよ。あの頃と違うって所を見せてあげるわ」

 

そう言って、明羅と霊夢は楽し気に境内へと向かい、弾幕勝負を行うのであった。

 

―――――――――――

 

明羅との勝負は、霊夢の勝利に終わった。しかし明羅は、何処か満足そうに帰って行った。魔理沙も同じように帰って行き、境内にはジンと霊夢の二人が残っていた。

 

「それにしても、強くなったわね明羅さん」

 

「伊達に地獄で修行していた訳じゃないって事か。ところで霊夢」

 

「ん?」

 

「・・・・・・や、やっぱり、ああいう美男子の方が好みなのか?」

 

ジンは少し聞きづらそうに、霊夢に尋ねた。その質問に、霊夢は少し驚いていたが、直ぐに笑みを返した。

 

「そうね。やっぱり美男子には、クラッと来ちゃうかも」

 

「そ、そうか・・・・・・」

 

「でもね、見てくれだけじゃ駄目だと、最近は思っているわ」

 

「・・・・・・そうか」

 

霊夢の言葉を聞いて、ジンは無意識に安藤した。

 

「さあ、家に帰りましょ。皆が帰って来る前に夕飯を作らないと」

 

そう言って霊夢は、母屋に向かって歩き出す。そのあとを、ジンはゆっくりとついて行くのであった。


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