東方軌跡録   作:1103

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深秘録クリア記念です。今回のは色々と度胆が抜かれました。
特にラスボスの彼女、いったい誰が想像できたでしょうか? 自分は彼女を初めて見た時、唖然しました。

さて、今回の話しはその深秘録の話しです。発売から一週間程度で、この話を出すのはどうかと思いましたが、我慢できませんでした! すみません!
一応配慮としては、深秘録の新規キャラは出さず、極力ネタバレを抑えて書きましたが、ネタバレが嫌な人や、未プレイの人は今回の話しは読まない方が良いかもしれません。
それでも良い方は、読んでくれると幸いです。
あと、新規キャラの話しを書きたいと思っているのですが、それはいつぐらいか良いのか、悩んでいます。もう少し後の方が良いのかなと、自分は思っていますが、皆さんはどれくらいの時期が良いと思いますか?


番外編、手放せオカルトボール!(深秘録ネタバレ注意)

ある時期、幻想郷に都市伝説が流行った。そのせいか、幾つかの都市伝説は具現化してしまったようであるが、怪異に慣れている幻想郷の住人によって、瞬く間に沈静化していった。

しかし、ある一つの都市伝説だけは未だに存在していたのである。その名も、“オカルトボール“。

 

―――――――――――

 

“ステージ1、受難の始まり

 

ここは博麗神社。ジンは境内で、オカルトボールを持っていた。

 

「七つ手にした物は、どんな願いも叶える事が出来るか・・・・・・胡散臭いな」

 

ジンはそう呟いて、いつの間にか持っていたオカルトボールを見ていた。彼には叶えたい願いも無く、そもそもこんな胡散臭い物をとっとと手放したい気持ちで一杯なのだが―――――。

 

「こんな呪われた物が、願いを叶えられるとは思えないんだが」

 

そう言って、ボールを遠くへ投げるが、直ぐ様手元に戻ってしまう。どんなに頑張っても、手放せないのである。

 

「どうしたものかな・・・・・・」

 

「そんなに手放したいのなら、私が貰ってやるよ!」

 

そう言って、現れたのは正邪であった。

 

「やっぱり出たな。お前はこういう類いの話に、絶対に乗っかると思ってたぞ正邪」

 

「当たり前だろ。七つ揃えるだけで願いが叶うなんて、反逆者としては逃す手は無いさ」

 

「俺としては、“願いが叶う”っていう時点で、胡散臭いと思うんだが?」

 

「ならそれを寄越しな、私が有意義に使ってやるよ」

 

「だが断る。お前に渡す暗いなら、一生持っていた方がマシだ。大体、これは手放せないんだぞ」

 

「遅れているなお前、皆とっくにオカルトボールを奪う手段を知っているっていうのに」

 

「なんだと?」

 

「単純明快! 勝てば得る! 負ければ失う! これがオカルトボールの鉄則だ!」

 

「なるほど、勝てば相手のオカルトボールを奪えるって訳か。確かに単純明快だな」

 

「そんな訳で行くぞジン! お前のオカルトボールは私が奪う!」

 

そう言って、正邪はジンに襲い掛かった――――のだが、勝負は速攻でジンの勝利で終わった。

 

「いやー、負けた負けた。こりゃ敵わんな」

 

正邪はわざとらしくそう言い、その言葉でジンは彼女がわざと負けたのを理解した。

 

「正邪、もしかしてわざと負けたのか?」

 

「ああ、オカルトボールを手放したいと思ったからね」

 

「なんでまた?」

 

「だって、願いが叶うなんてガセだったからだよ」

 

正邪が言うには、針妙丸を再び利用して、オカルトボールが本当に願いを叶える物かを確かめたのである。その結果、七つ集めても願いを叶える事が出来ず、変な場所で変質者に追われたとの事らしい。

 

「お前なぁ・・・そういう事をしていると、いつか信頼無くすぞ」

 

「生憎、無くすような信頼は持っていないんでな。

まあともかく、そういう訳だから、こんな物騒な物はとっとと捨てた方が良いぞ」

 

「押しつけた本人がそれを言うのか・・・・・・」

 

「ともかく、後の事は任せた。私は家に帰って昼寝でもしているからな」

 

そう言って、正邪はオカルトボールをジンに押しつけ、母屋へと入っていった。

一方ジンは、押しつけられた新たなオカルトボールを見て、途方にくれた。

 

―――――――――――

 

“ステージ2、押し寄せてくる受難”

 

正邪の話が本当なら、一刻も早くオカルトボールを手放さないと、自分もいずれ何処かへと飛ばされてしまうである危険性があると思ったジンは、早速行動を開始した。

 

(この場合、霊夢に相談が一番良いんだが、今忙しそうだからな・・・後頼れそうなのは――――――)

 

そんな事を考えながら歩いていると、妹紅とばったり出会う。

 

「ん? ジンじゃないか。珍しいな、こんな所で会うなんて」

 

「そうだな。会うとしたら大抵人里か迷いの竹林だからな。今日はどうしたんだ?」

 

「ああ、実は――――って、お前オカルトボールを持っていたのか、ちょうど良い勝負だ!」

 

「へ? 妹紅はオカルトボールを集めているのか?」

 

「まあね。もう一度集めて、外にあいつに会おうと思ってな」

 

「あいつ? それも気になるが、オカルトボールを集めると外に出ちゃうのか?」

 

「そうらしい。理屈は分からんが、私は実際に外に出たぞ。一時的にだが」

 

妹紅の話を聞いて、ジンはますますボールを手放したくなった。別に外の世界が嫌いという訳では無いのだが、幻想郷から離れたくないという気持ちが強かったのである。

 

「・・・・・・なあ妹紅、俺はボールは要らないから譲る。負ければ手放せるんだろ?」

 

「それはそうだが・・・もしかしてわざと負けるつもりか?」

 

「そのつもりだが・・・・・・」

 

ジンは悪気も無くそう言ったが、その言葉が妹紅は気にいらなかったのか、鋭い目付きでジンを睨んだ。

 

「随分と余裕だな。私がお前に勝てないとでも思っているのか?」

 

「え? いや、別にそんなつもりじゃ――――」

 

「多少手加減してやろうと思ったが、気が変わった。本気で相手をしてやる」

 

そう言った瞬間、妹紅の背中から赤い炎の翼が生えた。どうやら彼女を本気にさせてしまったようである。

 

「ま、待て妹紅! 落ち着いて話を――――」

 

「問答無用!」

 

そう叫んだ瞬間、妹紅はジン目掛けて飛び掛かった。

 

二人の勝負の結果は、またしてもジンの勝利で終わってしまった。

 

「くそー、まさかお前に負けてしまうとはな・・・・・・」

 

「これでも日々鍛練しているからな。って、そうじゃなくて! どうすんだよこれ・・・・・・」

 

ジンは新たに手に入れてしまったオカルトボールを見て、落胆していた。

 

「まっ、手に入れたもんは仕方ないだろ。誰か欲しい奴を探して、わざと負ければ良いんだから」

 

「それなら妹紅でも良かったんじゃ・・・・・・」

 

「生憎私は、勝負事に手を抜かれるのが嫌いでね。悪いが他を当たってくれ」

 

そう言って、妹紅は飛び去って行ってしまった。

ジンは、増えてしまったオカルトボールを見て、途方に暮れてしまった。

 

―――――――――――

 

“ステージ3、次から次へとやって来る受難”

 

「さて、どうしたものか・・・・・・」

 

ジンは意図せず集めてしまったオカルトボールを見て、悩んでいた。

正邪と妹紅の話によると、このオカルトボールを七つ集めてしまうと、一時的だが、外の世界に飛び出てしまうのがわかった。一時的という事に、ジンは安堵したが、やはり早々に手放したかった。そんな時である――――。

 

「むむっ、感じるぞ、オカルトボールの気配を!」

 

やって来たのは布都であった。先程の台詞から、彼女の目的がオカルトボールである事が直ぐにわかった。

 

「布都か、お前もオカルトボールを集めているのか」

 

「おおっ! ジンではないか! そうだ、我は太子様の命により、オカルトボールを集めておるのだ」

 

「神子が? 意外だな、彼女はこうゆうのを集めたりしないと思ったんだが」

 

「我もよく分からんが、太子様は何か考えがあって、オカルトボールを集めておられる。ならば、我はその期待に応えねばならぬ。そういう訳で――――」

 

すると布都は、皿を構えて、ジンに向かって叫んだ。

 

「我とオカルトボールを賭けて勝負だジン!」

 

「へ? いや、別に欲しいのなら渡す―――――」

 

「言葉は不要! とりゃー!」

 

「人の話を聞けよ!」

 

結局戦いになってしまい。ジンは嘆きながらも、これに応戦するのであった。

 

 

布都の戦いも、ジンは勝利を納める事が出来た。

 

「な、なんと、我が負けてしまうとは・・・・・・」

 

「あーもう! どうしてくれるんだよ! こっちは手放したいのに、逆にボールが増えちまったじゃねぇか!」

 

「なんと、御主はボールを手放したかったのか?」

 

ジンの逆ギレに近い言葉で、布都はようやく、ジンがボールを手放したいのを理解したようで、ジンはその事に頭を抱えた。

 

「さっきからそう言っているだろ・・・・・・どうすんだよこれ?」

 

「それなら太子様の所に行くがよい。あの御方なら、きっと何とかしてくれるであろう」

 

「・・・・・・まあ確かに、あの人なら対策を見つけているかも知れないしな。神霊廟に行ってみるか」

 

こうしてジンは、オカルトボールを抱えたまま、神霊廟に向かう事にした。

 

―――――――――――

 

“ステージ4、とびっきり最大の受難”

 

神霊廟に到着したジンが見たのは、神子と白蓮の二人がちょうど対峙していた所であった。

 

「貴女のオカルトボールを全て渡しなさい神子」

 

「渡してどうする?」

 

「もちろん、誰も手が出せないように封印するのです」

 

「愚かな、たかが封印程度で収まる代物ではない。これは全て私が管理し、調べあげる」

 

「これだけの未知の力を、貴女に全て託すというのは、出来ない相談です」

 

「ならばどうする?」

 

「勝敗によってオカルトボールの所有者が決まるのなら、些か不本意ですが、力づくで!」

 

「おもしろい! いつぞやの宗教戦争の決着をつけようではないか!」

 

こうして二人は、臨戦体勢を取り始めた。それを見たジンは、慌てて二人の間に入った。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ二人とも!」

 

「あら? ジンさんではないですか?」

 

「珍しいな、君が神霊廟を訪れるなんて」

 

ジンの姿を見た瞬間、二人は矛を収めてくれた。それに安堵しながらも、二人にこれまでの経緯を尋ねた。

 

「一体何がどうなっているんだ?」

 

「単純な事だ。私と彼女で、オカルトボールの処遇を揉めていたのだよ」

 

「私は封印、彼女は管理。こうして意見の食い違いをしていたので」

 

「封印じゃ駄目なのか?」

 

ジンが神子にそう尋ねると、彼女は首を横に振った。

 

「駄目だろうな。如何に強固な封印だろうと、このオカルトボールは空間を転移してしまうだろう。つまり、白蓮がやろうとしているのは、むざむざ集めたボールを、再びばらまく事に他ならない」

 

「そうなのか白蓮?」

 

今度は白蓮に尋ねると、白蓮の顔が曇る。

 

「ええ・・・確かにこのボールの封印は非常に困難です。以前集めたボールを封印したのですが、封印ごと転移してしまわれて・・・・・・」

 

「それ見たことか、何の対応策が無いままでは、堂々巡りではないのか白蓮?」

 

「むっ、では貴女は対策があると?」

 

「もちろんだ。何の対策も無く、集める訳無いだろう。

布都が以前、七つ集めた時に分かった事がある」

 

「分かった事?」

 

「このオカルトボールの力は、幻想郷にしか作用しないんのだ。故に、この神霊廟なら、安全にボールを調べられる事が出来る」

 

「なるほどな・・・・・・」

 

ジンは素直に感心する一方、白蓮は神子の提案に賛同しかねていた。

 

「仮にそうだとしても、貴女に渡す事は出来ません。これ程の力を持つ物を、一人が独占するということ事態が、バランスを崩すのですから」

 

「やはりそうなるか、では―――――」

 

「俺は渡しても良いと思うが?」

 

ジンのその一言に、白蓮は心底驚いた。

 

「ジンさん! 貴方は一体何を――――」

 

「白蓮が心配しているのは、神子がオカルトボールを使って何かするってことだろう。でも、神子がそんな事はしないと思うな」

 

「・・・・・・何故、そんなに彼女を信頼出来るのですか?」

 

白蓮のその言葉に、ジンは迷わず答えた。

 

「神子はオカルトボールの危険性をちゃんと理解しているし、神子程の聡明な人なら、コントロール出来ない力は利用しないだろうし」

 

「聡明な方だからこそ、危険だと思うのですが?」

 

「そうかも知れない。でも聡明な人程、愚かな事はしないと思うんだ。白蓮だって、こんな物を使おうと思わないだろ?」

 

「それは・・・・・・」

 

ジンのその言葉に、白蓮は言葉を詰まらせ、逆に神子は嬉しそうに笑った。

 

「ふふっ、どうやらジンの方が人を見る目があるようだな。さて白蓮、これでもお前は、自分のイデオロギーを貫けるか?」

 

そう不適に笑う神子に、白蓮は観念したかのように呟いた。

 

「・・・・・・そうね。確かにボールを奪って封印しても、また同じ事が起きてしまうかもしれません。ならここは神子に託すのが一番なのかもしれません」

 

「それじゃ――――」

 

「ただし、それは私に勝ってからにしてください」

 

そう言って、白蓮は構え出す。それに応じて、神子もまた武器を取る。

 

「そうだな。この世はいつも、勝者が全てを得るのだからな!」

 

再び対峙する二人に、ジンは慌てて止めに入る。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ二人とも! さっき話し合いで神子にボールを託すって・・・・・・」

 

「それは出来ませんジンさん。ボールの行き来は、決闘で決めなければならないのですから」

 

「しまった・・・一番肝心な事を忘れてた・・・・・・」

 

「ジン、君の争いを好まず、平和的に解決したいと思う心は素晴らしい物だと私は思う。しかし、時には争い事を避けられない場合もあるのだよ」

 

「はあ・・・・・・これだから異変に関わりたく無かったんだ・・・・・・」

 

ジンは心底嘆いていた。そんな彼に、追い討ちが掛けられた。

 

「どうせなら、一対一では無く、三人によるバトルロワイヤルにしませんか?」

 

「え?」

 

「良いだろう。その方が時間が節約出来て助かる」

 

「え? え?」

 

「それでは行きますよ!」

 

「来るが良い!」

 

「何でこうなるんだよー!?」

 

ジンの悲痛な叫びも空しく、壮絶なバトルロワイヤルに巻き込まれるのであった。

 

―――――――――――

 

“エピローグ”

 

ここは夜の博麗神社。ジンはボロボロになりながらも、ようやく帰って来れたのであった。

 

「つ、疲れた・・・・・・ったく、ろくな目に合わないな今日は」

 

そう悪態つきながらも、夜空を見上げた。そこにちょうど霊夢が降り立った。

 

「ただいまーって、どうしたのジン!? そんなボロボロになって・・・・・・」

 

「ああ、実は――――」

 

ジンは霊夢に、これまでの経緯を説明した。

 

「そ、それは大変だったわね・・・・・・」

 

「まったくだ。一体誰がボールを幻想郷にばらまいているんだ?」

 

「・・・・・・外の人間よ」

 

「・・・・・・何だって?」

 

「外の人間がオカルトボールを幻想郷にばらまいて、結界をどうこうしようとしているらしいのよ」

 

霊夢の言葉に、ジンは心底驚いた。異変の殆どは、幻想郷の住民が起こしている物なので、幻想郷外の住民――――しかも外の人間が起こした物だと、ジンは思ってもいなかったのである。

 

「でも安心して、そいつを罠にはめて懲らしめる計画があるのよ。だからもうじき、この異変は収まるわ」

 

「そっか、異変の専門家が言うのなら、大丈夫なんだろうな。それにしても、一体どんな人が、この異変を起こしたんだろうな」

 

ジンは、この異変を起こした外の人間が少し気になった。

そして異変解決後、その人物と出会い、ジンは奇妙な縁を感じるのだが、それはまた別の話である。

 


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