深秘録とうとう発売しましたね。自分はまだ手に入れてはいませんが、通販で注文しました。届くのが今か今かと待ち遠しいです。
春が訪れ、幻想郷の至る所に桜が咲き誇っていた。
そんな幻想郷には、ある遊びが流行っていた。
「こっくりさん?」
「はい、里の子供達の間で流行っているんです」
鈴奈庵に本を返しに訪れていたジンは、小鈴からそんな話を聞いていた。
「危なくないのか? だって霊を呼ぶって奴だろ?」
「阿求もそう言ってましたね。帰らせる手段を広めておかないと危ないって」
「帰らせる手段か・・・霊夢に聞いてみた方が良いな」
「あの・・・それでジンさんにお願いがあるんですけど・・・・・・」
小鈴は少し恥ずかしそうにしながら、呟く。ジンはそんな彼女に、優しく言った。
「俺に出来る事がなら、構わないが」
「それじゃ、私とこっくりさんを――――」
「駄目だ」
先程とはうってかわり、厳しい態度で言う。
「ええ!? さっき“出来る事がなら、構わない“って言ってたじゃないですかー!」
「危ない事には協力出来ない」
「ぶぅー、少しぐらい良いじゃありませんかー」
「ふてくされても、駄目なものは駄目だ。第一、どんな事を聞くつもりなんだ?」
「え? えっとそれは・・・・・・」
「考えていなかった訳か・・・それならますます、協力は出来ないな」
「むぅ~、そんな事を言うならもう良いですよ。他の人にお願いしますから」
「諦めるっていう選択は無いのか・・・・・・」
「ありません!」
小鈴のその言葉を聞いたジンは、頭を抱えた。彼女は意地でもこっくりさんをやりたいらしい。このまま放っておけば、他の誰かとやるに違いないとジンは思った。
「・・・・・・仕方ない、協力してやる」
「本当ですか!?」
「ただし、霊夢立ち合いの元が条件だ。良いか?」
「はい! もちろんです!」
こうしてジンは、小鈴とこっくりさんをやる事になった。
―――――――――――
翌日。ジンは小鈴の約束通り、こっくりさんをやろうとしていたのだが――――。
「・・・・・・なあ小鈴?」
「はい、なんでしょう?」
「確かにこっくりさんをやる約束はしたが、何もこんな場所でやる事は無いんじゃないのか?」
ジンがいる場所は、紅魔館の地下図書館である。ここには鈴奈庵以上の魔導書が眠っている場所である。低俗霊の降霊とはいえ、そんないわくつきの場所でこっくりさんをやれば、どんな霊が降りて来ても不思議では無いとジンは思った。
「こんな場所って、随分失礼な物の言い様ねジン」
ジンの言葉が癪に触ったのか、場所を提供したパチュリーは少し不機嫌になる。彼女は、弟子候補である小鈴の身を案じて、こうして霊夢と共に立ち合っているのである。
「気に触ったのは謝る。だけど、魔導書が沢山あるこの場所で、こっくりさんをやるのは危ないんじゃ・・・・・・」
「大丈夫でしょ、こっくりさん程度の低俗降霊術なら、そんな大それた霊は降りて来ないわ。それにいざとなったら、私と霊夢がいるから大丈夫よ。ねえ? 博麗の巫女さん?」
やや挑発じみた声に、霊夢はふんぞり返りながら言う。
「まあね、どんな霊であっても、二人に危害を加えるのなら、神霊であっても追い返してやるわ」
「わー♪ すっごい頼もしいです! これなら安心して、こっくりさんが出来ますねジンさん♪」
(だから、やらないっていう選択肢は無いのか?)
そんな事を思いながら、ジンは諦めのため息をつく。
「まあいい、それじゃさっさと始めよう。準備の方は出来ているのか小鈴?」
「もっちろんです! 今回はこれを使おうと思いまして」
そう言って出したのは、古い木版で、それには英語が刻まれていた。
それを見たパチュリーは、興味深そうに呟いた。
「これって・・・ヴィジャボードじゃない」
「ヴィジャボード?」
「簡単に言うと、西洋版のこっくりさんね。そんな物を持っていたのね」
「結構前に、お父さんが拾って来たんです。これでもこっくりさん出来ますか?」
「そうね、やり方は少し違うけど、同じ様に出来るわ」
「よーし、早速やりましょうジンさん!」
「はいはい」
ジンはすっかり諦め、小鈴とヴィジャボードをやり始めた。
二人はプラッシェットに触れる。
「こっくりさん、こっくりさん、おいでませ」
「いや小鈴、これはヴィジャボードだから、こっくりさんじゃないんじゃ・・・・・・」
「ああそうでした。ヴィジャボードだから、ヴィジャさん?」
「それも違うような・・・・・・」
「そもそも、ヴィジャボードには決まった詠唱や儀式は無いのよ。使用者のやりたいようにすれば良いのよ」
「それなら、ヴィジャさんにします。それでは―――ヴィジャさん、ヴィジャさん、おいでませ」
そう言ってプラッシェットに集中する小鈴。しかし、反応は無かった。
「あれ? おかしいな・・・・・・日本語じゃあ駄目なのかしら? ジンさん、さっきのを英語ではどう言うんですか?」
「Come,Mr.VIJA. Come,Mr.VIJA.だ」
「「「・・・・・・」」」
「ん? どうした三人とも?」
「いや、何だか別人のような声だったから・・・・・・」
「英語を発音すると、そう聞こえるんだ」
「それにしても、綺麗な発音ね。外国にでもいたの?」
「いや、外国に行った事は無いんだが――――」
その時、プラッシェットが突如動き始めた。
「ジ、ジンさん!?」
「う、動いた!?」
「プラッシェットから離しちゃ駄目! 離したら呪われるわよ!」
パチュリーのその言葉に、手を離そうとしていた二人は慌ててプラッシェットを抑えるように触れる。
「え、えっと、ど、どうすれば・・・・・・」
「質問! 何か質問をしなさい!」
「質問、質問・・・・・・ああ駄目です! 私、英語を発音出来ません!」
小鈴の能力はあくまで読み専門。書いたり発音等は、他の人と同じ様に練習をしなくてはならないのである。
「落ち着け、俺が代わりに伝えるから、質問考えてくれ」
「い、いきなりそんな事を言われても・・・・・・あっ、そうだ!」
小鈴は咄嗟に思いついた質問をした。
「お名前はなんですか!?」
「「「・・・・・・」」」
あまりにもしょうもない質問に、三人は思わず呆れてしまった。そんな中、プラッシェットが動き出した。
「う、動いた!?」
「別に英語じゃなくても良いのか・・・・・・」
そんな事を思っていると、プラッシェットは文字を示した。
“merry”
「何て読むの?」
霊夢が尋ねると、小鈴は自信ありげに答えた。
「これは英語で、“メリー”って読むんです。つまり、降りて来た霊は、メリーさんって名前なんですよ」
「ふーん・・・・・・」
「質問はこれで終わりか小鈴?」
「え、えっと・・・じゃあ――――」
その後、小鈴は他愛の無い質問を繰り返した。どうやら降霊した霊は無害だったらしく、彼女のどんな質問もちゃんと答えてくれた。
「ありがとうございますメリーさん」
小鈴がそう礼を言うと、プラッシェットは再び文字を示した。
“You're welcome.”
それを見た小鈴は、とても嬉しそうであった。
こうして、小鈴との降霊術は無事終わるのであった。
―――――――――――
それから数日後。博麗神社では、霊夢とジンは遊びに来た魔理沙にこの前の降霊術の話をしていた。
「くっそ~、そんなおもしろい事を見逃すなんて、一生の不覚だぜ」
「いや、それほどおもしろい事でも無いと思うが・・・・・・」
「そうね、私は何を言っているのか、まったくわからなかったわ」
「霊夢は英語が全然わからないからな」
「そういうあんたはどうなのよ?」
「これでもたしなんでいるぜ。マイ、ネーミーズ、マリサ」
「ぷっ!」
「何だよ! 何がおかしいんだよ!?」
「ジン、手本を見せてあげなさい」
「やれやれ・・・My name is gin(私の名前はジン)」
「・・・・・・」
ジンの流暢な言葉に、魔理沙は言葉を失い。霊夢は何故か勝ち誇った顔をしていた。
「どう? これが本当の英語の発音よ」
「あーうるせぇ、私のは英語を読む為に覚えた物で、言うのは慣れていないんだ!」
「ふふん、負け惜しみね」
「何だとー!」
「霊夢、少し言い過ぎだぞ。そもそも英語すら読めない霊夢が、そこまで言う事は無いんじゃないか?」
「そ、それは・・・・・・」
「やーい、怒られてやんのー♪」
「うっさいわね! 英語なんか出来なくたって、ここで生きて行くのには問題無いでしょ!」
「まあ、それはそうだが・・・・・・あっ、そういえば霊夢」
「ん?」
「あの時、プラッシェットに降りた霊は何だったんだ?」
「ああ、あれね。低俗霊ではなく、女性の霊だったわ」
「女性の霊?」
「ええそうよ。最初は警戒していたんだけど、小鈴の質問を答えて、普通に帰って行っちゃったから、恐らく無害の霊だったんでしょうね」
「ふーん・・・どんな人だったんだろうな」
「・・・・・・何よ、気になるの?」
「まあな」
「絶対に教えない」
「え? なんでだ?」
「なんでもよ!」
そう言って、霊夢はそっぽを向き、煎餅を不機嫌そうにかじりついた。
ジンは霊夢が何故不機嫌そうになっているか分からず首を傾げ、魔理沙はニヤニヤと笑っていた。
―――――――――――
ここは某大学のカフェテラス。そこに秘封倶楽部の二人が、何やら話をしていた。
「もう大丈夫なのメリー? 昨日急に倒れたんだし、しばらく休んだら?」
「大丈夫よ蓮子。それよりも、おもしろい夢を見たのよ」
「こっちが心配しているのに、呑気に夢の話?」
「まあ聞いて蓮子。その夢で、私は誰かに呼ばれたのよ」
「誰に?」
「顔は見えなかったけど、声からして中学生位の女の子と、大人びた男性の人だと思う。それで、女の子がこっちに色々と質問して来るのよ」
「ふむふむそれで?」
「質問の内容は至って他愛のないものだったわ。どんな食べ物が好きとか、好きな色や動物、そんな質問ばっかりだったわ」
「本当に他愛の無い質問ばかりね。その子は一体何がしたかったのかしら?」
「多分、誰かと会話がしたかったんだと思う。だから私を呼んだんだじゃないかしら」
「ん? もしかして、昨日メリーが倒れたのって・・・・・・」
「その子に呼ばれて、境界を越えちゃったんだと思う。ジンさんが言うには、私は幽体離脱して、境界を越えるみたいだから」
「むう~、やっぱりメリーだけずるい! 私も幽体離脱したい!」
「これでも困っているんだけれど・・・・・・」
「そのわりには、楽しそうに話すじゃない」
「まあ実際、その子とのお話は楽しかったわ」
「むぅ~、本当に羨ましい能力ね・・・・・・ところで、男の人は何も聞いて来なかったの?」
「そうなのよ。最初の時以降は、まったく喋らなかったわ。何だか、女の子に全部任せている感じだったわ」
「きっと照れやさんだったのね」
「でも・・・あの声、何処かで聞いたような気がする・・・・・・」
そう言ってメリーは、何処までも広い空を見上げて、聞き覚えのある声の事を考え続けるのであった。