東方軌跡録   作:1103

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連続投稿です。今回は旧作のキャラを出しました。

旧作もやってみたいのですが、値段とスペックの問題で、なかなか手が出せないのが現状です。

まあその前に、妖々夢EXの攻略が先ですけど(笑)


咲かない桜の木

春の訪れを知らせる春告精であるリリーホワイト。彼女が通った後は、花が咲き誇る。

 

「春ですよー♪ ?」

 

とても楽しそうに飛んでいるリリーホワイト。そんな時、彼女の目に花を咲かせていない一本の桜を見つける。

 

「春ですよー♪」

 

リリーホワイトはその桜の側に降り立ち、花を咲かせようとする。しかし、一向に咲こうとはしなかった。

 

「春ですよー! 春ですよー! 春なんですよー!」

 

何度も何度も力を振るうが、その桜が咲く事はなかった。

リリーホワイトは次第にムキになっていった。

 

「春ですよー! 春ですよー! 春ですよー! 春ですよー! 春ですよー! 春ですよー! 春ですよー!」

叫び続けるリリーホワイト。そんな彼女の所に、光の三妖精ことサニー達が通り掛かる。

 

「あいつ、一体何をしているのかしら?」

 

「さあ?」

 

「ちょっと聞いてみよう。おーい」

 

「ちょっとルナ! あーもう、勝手に行っちゃって」

 

「何だかジンに似てきたねルナ」

 

先に行くルナに、その後をついていくサニーとスターであった。

 

「ねぇ、一体何をしているの?」

 

ルナがそう訪ねると、リリーホワイトが項垂れながら答えた。

 

「春ですよー・・・・・・」

 

「え? この桜だけ咲かないの?」

 

「春ですよー・・・・・・」

 

「この木が?」

 

リリーホワイトは力なく頷く。

話を聞いた三人は、桜を調べてみる。

 

「・・・元気が無いみたいだけど、それ以上分からないね」

 

「どうしょうか?」

 

「うーん・・・・・・」

 

三人は考え、ある結論に達する。

 

「やっぱり、こういう時はジンに相談してみよう!」

 

「そうね、ジンならいい考えを思い浮かんでくれるわ」

 

「春ですよー?」

 

「ジンって言うのは、博麗神社に住んでいる人で、色んな事を知っている人なの。だから、この桜を咲かせる方法だって、きっと知っているわ」

 

「春ですよー♪」

 

「ええ、もちろん。貴女も一緒に行きましょう」

 

こうしてサニー達は、リリーホワイトを連れて、博麗神社に向かうのであった。

 

―――――――――――

 

博麗神社に到着した四人は、早速ジンに事情を説明をしていた。

 

「――――っと言う訳なのよ」

 

「うーん・・・リリーの力を持ってしても咲かない桜か・・・・・・」

 

「何とか出来ないジン?」

 

そう訪ねるルナに、ジンは少し困った表情をした。

 

「何とかしてやりたいのはやまやまだが、植物に関してはそこまで詳しく無いんだ」

 

「そんなぁ・・・・・・」

 

「幽香なら、何か分かると思うんだが、居場所が良く分からないんだ。夏だったら、太陽の畑にいるんだが・・・・・・」

 

「この時期なら、幽香は夢幻館にいるわよ」

 

現れた霊夢がそう言う。聞きなれない場所に、ジンは思わず聞き返す。

 

「夢幻館?」

 

「幻想郷と夢幻世界っていう所の狭間にある館よ。昔一度だけ行った事があるの」

 

「なら、場所を教えてくれないか?」

 

ジンのその言葉を予想していたのか、

 

「まさか、行く気なの?」

 

「ああ、場所さえ分かれば後は行くだけだろ?」

 

「あのねぇ、湖周辺ならまだしも、夢幻世界ってのは危険な場所なのよ。あんたの実力じゃ、途中でやられるのがオチよ」

 

「むぐっ・・・・・・」

 

「だから、行くのなら私も同行するわ」

 

「え? 良いのか?」

 

「当然よ、博麗の巫女は妖怪から人間を守るものなのよ。そんな危険な場所に行くのなら、守って上げるのは当然の義務よ。まあ、本当はそんな場所に向かわせたく無いけど、言っても聞かないでしょ?」

 

「霊夢・・・・・・ありがとう」

 

「いいって。それよりも、行くのなら早く行きましょう。日が暮れてしまうわ」

 

こうしてジン達は、幽香がいるとされる夢幻館へと向かうのであった。

 

―――――――――――

 

ここは裏山に続く山道。ジン達はそこを歩いていた。

 

「そう言えば、神社の裏山に行くのは初めてだな」

 

「こんな所に用がある奴なんて、まずいないからね。

・・・・・・ところで、何であんた達も来ているのよ?」

 

霊夢は後ろを振り返り、着いてきているサニー達とリリーホワイトに向かって言った。

 

「そりゃ、私達が持ち掛けた問題ですから」

 

「そうそう、こういうのは責任を持たないとね」

 

「それに、ジンだけに任せっきりっていうのもどうかと思って・・・・・・」

 

「・・・・・・それで本音は?」

 

「「楽しそうだから♪」」

 

サニーとスターの言葉を聞いて、苦笑いをするジンと、頭を抱える霊夢とルナであった。

 

「あんたも同じ理由?」

 

「春ですよー」

 

「・・・・・・ルナ、通訳お願い」

 

「えっと・・・“あの桜を一刻も早く咲かせたいから。例え一本でも、桜を咲かせられないのは、春告精のプライドが許せない”らしいです」

 

「意外とプライド高いのね貴女。まあ良いわ、着いてくるのは構わないけど、邪魔をしないようにね」

 

「「「はーい」」」

「春ですよー」

 

そんなこんなで、妖精四人を引き連れて夢幻館へ向かう霊夢とジン。

しばらくすると、スターが何かに反応した。

 

「霊夢さん! あそこに誰かが隠れています!」

 

「早速来たわね。先手必勝!」

 

霊夢は直ぐ様、スターが指さした茂みに札と針を放つ。

 

「ギャー!?」

 

「さあ、隠れていないで出てきなさい!」

 

そう言って、茂みの中に隠れていた妖怪の少女を引きずり出す。

 

「い、命だけはお勘弁を~」

 

「人聞きの悪い事を言うな! こそこそ隠れて何をしていたのよ?」

 

「あんたが来たから隠れたのよ!」

 

「霊夢、知り合いなのか?」

 

「いいえ」

 

「こら! 久々にあったとは言え、自分が退治した妖怪ぐらい覚えてなさいよ!」

 

「いちいち退治した妖怪の名前なんて、全部覚えられる訳無いでしょ」

 

「まあまあ落ち着け霊夢。俺はジンだ、君は?」

 

「私はオレンジ、ここを縄張りにしている妖怪よ。どう? 思い出した?」

 

「全然」

 

「ガーン!」

 

霊夢の容赦ない言葉に、オレンジはガックリと肩を落とす。因みに、彼女が霊夢と戦った時、名乗っていないだが、彼女自身もその事を忘れていたのである。

 

「まあ良いわ。私達は先を急ぐから、あんたもさっさと何処か行きなさい」

 

「え? 見逃してくれるの?」

 

「何よ、見逃して欲しくないの?」

 

「いいえ! 全力で見逃して下さい!」

 

「ほら、さっさと行った」

 

霊夢がそう言うと、オレンジは全速力でその場を去って行った。

 

「さてと、それじゃ先に進むわ」

 

そうして霊夢達は、再び山頂を目指して歩き出した

 

―――――――――――

 

裏山の山頂についたジン達を迎えたのは、一際大きい湖であった。

 

「へぇー、こんな所に湖があったなんて知らなかったな」

 

「ここは妖等が多いから、人なんて近づかないし。知っている人は殆どいないわ」

 

「綺麗な湖なのに、少し勿体ないな」

 

「人間にとって危険な場所だから、仕方ないわよ」

 

そう言って霊夢は、湖に向かって飛んだ。

 

「こっちよ、ついてきて」

 

霊夢の言葉に従い、ジン達も霊夢の後を追い湖へと飛ぶ。

 

「なあ霊夢、その夢幻世界の入口っていうのは何処にあるんだ?」

 

しばらく飛んでいると、ジンが霊夢にそう訪ねた。すると霊夢は、簡潔に答える。

 

「湖の中にあるのよ」

 

「え!? どうやって入るんですか!?」

 

「確か湖の中心に、要石があるの。その封印を解けば、湖の水が引いて、湖内部に入れるようになるの」

 

「へぇー、そうなっているんですか」

 

「でも、そう言うのって、誰かが見張っていたりしないんですか?」

 

「そう言えば、誰かが守っていたような――――」

 

「何か来るわ!」

 

霊夢が話している最中、スターが叫んだ。彼女が指した方向から、弾幕が飛んで来る。

 

「夢符!“二重結界”!」

 

霊夢は二重結界を発動させ、向かって来る弾幕を防いだ。

 

「また来たわね紅白巫女! 今度は負けないわよ!」

 

弾幕が飛んで来た方向には、コウモリのような羽を生やした少女が浮かんでいた。

 

「ああそう言えば、番人がいたわね」

 

「ええそうよ! あの時の私とは一味違うわ! 覚悟なさい!」

 

そう言って、少女霊夢に戦いを挑んで来た。

 

 

戦いは案の定というべきか、霊夢の圧勝で終わった。

 

「ま、前より強くなってる~」

 

「当たり前よ。半人前だったあの時とは違うのよ。さあ、分かったらさっさと湖の封印を解きなさい」

 

「だ、誰が解くものよ」

 

「嫌なら、力ずくでも解かせるけど?」

 

「ひ、ひぃ~!」

 

「待った霊夢、あまりそう言うのはどうかと思うぞ。ここは俺に任せてくれないか?」

 

「別に良いけど・・・・・・」

 

少し不満を感じながら、霊夢はこの場をジンに譲った。

 

「初めまして、俺の名前はジン。君の名前は?」

 

「え? わ、私はくるみ。幽香様の使い魔よ」

 

「くるみだな。改めてお願いがあるんだが、幽香に会わせてくれないか?」

 

「幽香様に何か用なの?」

 

「ああ、実は――――」

 

ジンはくるみに、これまでの事情を話した。

 

「なるほど、それで幽香様に会いたいのね」

 

「ああ。会わせてくれるのなら、俺達はこれ以上ここを荒らしたりしない。お願いできないか?」

 

「う~ん・・・・・・」

 

ジンの意外な提案に、くるみは考えた。正直、話の半分は信用していなかった。

咲かない桜一本の為に、わざわざこんな辺鄙な場所に、人間が訪れる訳が無い。しかし、目の前の青年は巫女や魔法使いに比べればかなり話が通じる部類。ここは彼の提案を受け入れた方が、被害が少なくて済むと、彼女は最終的に考えた。

 

「わかった。幽香様に伝えてみるから、ここで待ってて」

 

そう言って、くるみは透明の球体のバリアを張り、湖の中に入って行った。

 

 

それから数十分後、くるみがようやく戻って来た。

 

「お待たせ」

 

「遅いわよ! いつまで待たせるのよ!」

 

「しょうがないでしょ、ここから館までそれなりにあるんだがら」

 

「それで、幽香に会えるのか?」

 

ジンがそう訪ねると、くるみは頷いて答えた。

 

「幽香様が貴方達に会うって言ったわ。だから館まで案内するわ」

 

そう言ってくるみは、先程より大きいバリアを張り、その中にジン達入れ、そのまま湖の中に連れて行った。

 

―――――――――――

 

湖の内部は幻想的で、魚達が泳ぐ姿がよく見える。そんな光景に、妖精の四人はおおはしゃぎしていた。

 

「見て見て! あそこに大きな魚がいるわ!」

 

「あっちにも、見た事の無い魚が泳いでいるわ」

 

「凄い・・・・・・」

 

「春ですよー♪」

 

「まったくはしゃいじゃって、遊びで来ている訳じゃないのよ」

 

「まあまあ、少しくらい大目に見てやれよ。それにしても、見た事の無い魚が多いな・・・これ、本当にこっちの魚か?」

 

ジンは湖を泳ぐ魚を観察しながら、そう呟いた。彼の知識から、このような奇抜な魚春見た事がなかった。どれも、深海に生息していそうなものばかりであった。するとくるみが、ジンの疑問に答えた。

 

「いいえ、これらの魚達は夢幻世界から迷い込んだ魚達よ。だから、見た事の無いものばかりなのは当たり前」

 

「そうか・・・ところで、襲って来ないよな?」

 

「こちらから手を出さなければ大丈夫よ。それよりも、もうすぐ着くわ」

 

そう言って、くるみの視線の先にくるみと同様のドーム状のバリアがあった。

ドームの中に入ると、くるみのバリアは消える。

 

「ここが幻想郷と夢幻世界の狭間にある幽香様の館、夢幻館よ」

 

そこにそびえ立つのは、レミリアの紅魔館にも負けないくらい立派な館があった。

そして入口には、鎌を持った一人の少女が立っていた。

 

「ようこそ夢幻館へ。私はエリー、この夢幻館の門番をしている者よ」

 

「ああ、思い出した。門番の癖に、大して強くなかった奴だわ」

 

「ちょ! 人をまるで駄目な門番みたいに言わないでくれる!」

 

「実際に弱いじゃん。日頃から鍛練してないからよ」

 

「くるみまで酷い! 私が本気を出したら、凄いんだから!」

 

「「へぇー」」

 

「あっ! 信じて無いでしょ! なら、今から見せてあげるわ! そこの人間!」

 

「え? 俺?」

 

「ええそうよ、今から私と勝負しなさい」

 

「いや何で?」

 

「いいから勝負よ! 食らえ!」

 

そう言ってエリーは、ジンに目掛けて鎌を投げ放とうとする、しかし――――。

 

「辞めんかバカ!」

 

「あう!」

 

投げる前に、霊夢が祓い棒でエリーの頭を殴る。

 

「あんたねぇ、何でジンに戦いを挑もうとしてんのよ!」

 

「だって、そっちなら勝てると思ったから・・・・・・」

 

「エリー・・・・・・それはいくらなんでも情けないわよ」

 

「しょうがないでしょ~、巫女に勝てる自信無いんだから~」

 

エリーは情けない声で、そう言った。霊夢は、門番はまともな奴がいないんだろうかと、呆れながら思うのであった。

 

―――――――――――

 

一悶着があったが、ジン達は夢幻館の客室にて、無事幽香と対面を果たす事が出来た。

 

「遠路遥々ようこそ。客人として来たのは貴方達が初めてよ」

 

「こんな辺鄙な所に来るなんて、まずいないからでしょ」

 

「そうね、余程の変わり者か、暴れん坊しか来ない場所だからねぇ」

 

「ちょっと、何で私の方を見て言うのよ?」

 

「さあ? 何でかしらねぇ♪」

 

幽香は霊夢を見て、クスクス笑いながら言った。霊夢は、不愉快そうに幽香を睨み付ける。

 

「さてと、そろそろ本題に入りましょう」

 

「そうだな。実は――――」

 

ジンは幽香に、リリーホワイトの力をもってしても、咲かない桜の事を話した。

 

「――――それで、花に詳しい幽香なら、何とか出来ると思って、会いに来たんだ」

 

「・・・・・・え? それだけ? その為だけに、わざわざここまで来たの?」

 

「ああ、そうだが」

 

「・・・・・・ぷっ、あははははは!」

 

幽香は突然大笑いをし始めた。それはとても楽しそうな笑い声であった。

 

「な、なんだよ? そんな笑う事か?」

 

「笑うわよ。奇異な人間だとは思っていたけど、まさかここまでだとは思っていなかったから。

貴女も大変ね霊夢」

 

「もう慣れたわ。それで? 力を貸してくれるの?」

 

「ええもちろんよ。ここで断ったら、フラワーマスターの名が廃るわ」

 

 

幽香は笑顔でそう答える。

その笑顔は、まるで向日葵のように輝かしかった。

 

―――――――――――

 

幽香を連れて、例の咲かない桜までやって来たジン達。

幽香は、桜にそっと手を触れた。

 

「この子が話に聞いていた桜?」

 

「え、ええ、そうです」

 

「なんだか元気が無いみたいなんですけど・・・・・・」

 

「それ意外わからなくて・・・・・・」

 

「春ですよー・・・・・・」

 

「ふぅん・・・なるほどね」

 

「何かわかったか幽香?」

 

「そうね、わかった事と言えば、この子が病気だってこと」

 

「病気? この桜が?」

 

 

「ええそうよ。だから咲く力がなかったのよ」

 

「どうにか出来ないか?」

 

「出来るわ。まあ見ててちょうだい」

 

そう言って、幽香は何かを小さく呟く。すると桜が一瞬光だす。

 

「これで大丈夫。さあ、後は貴女の仕事よ」

 

そう言って、幽香はリリーホワイトの方を見る。リリーホワイトは頷いて、桜にゆっくりと近づき――――。

 

「春ですよー!」

 

そう叫んで、桜に春の力を降り注いだ。すると、つぼみすらなかった桜の木が、満開の花を咲かせた。

 

「「「咲いたー!」」」

 

「これは・・・・・・」

 

「間近でみると凄いわね・・・・・・」

 

「ふふ、これにて一件落着かしら?」

 

「春ですよー♪」

 

こうして咲かない桜は、見事に満開の花を咲かせるのであった。

 


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