ここは紅魔館の地下図書館。そこで小鈴は、魔法の習得に励んでいた。
「それじゃ、さっき教えた通りにやってみて」
「は、はい!」
小鈴は慎重に、紙に文字を書き込み。すると紙から文字が浮き出る。
「きゃあ!?」
「なるほどね。小鈴、貴女の属性は文字ね」
「文字ですか? 何だか地味ですね・・・・・・」
「そんな事は無いわ。文字は魔法において、とても密接な関係があるのよ。極めれば、凄い魔法を使えるようになるわ」
「本当ですか!」
「ええ、私に任せておきなさい」
「おーい、私を忘れちゃ困るぜ」
少し離れた場所にいた魔理沙が、つまらなそうにしていた。
「貴女の教え方がおおざっばなのよ。最初に属性を知らなきゃ、教えら無いじゃない」
「どんな属性でも、努力すれば習得出来るものなんだぜ」
「その心意気は買うけど、順序良くやらないと」
「へいへい」
「それじゃあ小鈴には、これからルーン魔法を教えるわ」
ルーン魔法。北欧神話に登場する魔法である。二十四の文字それぞれに、魔法効果があり、それ単体または組み合わせによって、様々な効果を発揮するのである。
「先ずはこの二十四文字を覚えて頂戴」
「はい!」
小鈴はパチュリーが出したルーン文字のリストを、興味深そうに見始めた。
本来なら、ルーン文字を読めるようなる所から始めるのだが、小鈴は能力で最初から読めた。
「へぇー、こんな一文字だけなのに、色んな意味があるんだ・・・・・・」
「もう読めるようになっている・・・・・・」
「本当、羨ましい能力だぜ」
小鈴の能力の凄さを、改めて認識するパチュリーと魔理沙であった。
―――――――――――
翌日。小鈴は稗田の屋敷で、覚えたルーン魔法をジンと阿求に見せびらかしていた。
「そしてこれが、光のルーンです」
そう言って小鈴は、紙にルーンを刻む。すると紙が仄かな光を放つ。
「おおっ、ちゃんと光っているな」
「他にはどんなルーンがあるの?」
「えっとね――――」
小鈴は次々と、ルーン文字とその効果を二人に見せる。しかし、どれも効果が小さかった。
「随分しょぼいのね」
「なっ!?」
阿求の容赦無い言葉に、小鈴は固まるが、直ぐ様咳払いをして言う。
「ま、まだ魔力が少ないからしょうがないのよ。でも今に見てなさい、スッゴい魔法を使えるようになって見せるわ」
「ふーん・・・・・・まっ、期待しないで待っているわ」
阿求は興味なさげにそう言った。その言葉に、小鈴はカチンと来た。
「そんなに言うなら、直ぐにでもスッゴイ魔法を見せてやるわよ! 泣いて謝ってももう遅いんだから!」
そう言って、小鈴は客室から出て行ってしまった。
「良いのか? あんな事を言って」
「いいんですよ。どうせ数日後もしたら、向こうが謝って来るでしょうし」
そう言って、阿求は紅茶を飲む。そんな彼女に、ジンはこう言った。
「それで? 実際の所はどうなんだ?」
「・・・・・・何の事ですか?」
「何となくだが、いつも以上に辛辣のような気がしたから、てっきり嫉妬しているんじゃないかと思って」
「ぶほぉ!」
ジンのその言葉に、阿求は思わず咳き込んだ。
「大丈夫か?」
「ごほっ、ごほっ、ジンさんが変な事を言うからですよ!」
「いやすまない。そこまで動揺するとは思わなかった」
「別に動揺なんかしていません。ただ――――」
「ただ?」
「・・・・・・少しだけ、寂しいと思っただけです」
「・・・・・・そうか」
ジンはそれ以上は何も言わず、彼女の側で紅茶を飲んだ。
―――――――――――
一方小鈴は、偶々通り掛かった魔理沙を捕まえて、これまでの経緯を話した。
「――――と、言うわけなんです! 直ぐに使えて、阿求をぎゃふんと言わせるような魔法はありませんか!?」
「いや、急に言われてもな。小鈴は魔力が少ないから、直ぐには使えないと思うが・・・・・・」
「それじゃ、使える魔力を増やせれば、凄い魔法を使えるようになるって事ですね!」
「まあな。ただ、魔力は一朝一夕で増やせる物じゃないし、無理に増やそうとすれば、それ相応の苦しみを味わう事になるぜ」
「うっ・・・・・・」
小鈴は思わずたじろぐが、阿求を見返したいという気持ちが強かった。
「ど、どんな事でも耐えてみせます!」
「よーし分かった。この霧雨魔理沙にどーんと任せろ」
魔理沙は胸を叩いて、自信ありげに言うのであった。
―――――――――――
小鈴を連れて、魔理沙は自宅へと戻って来た。
彼女の家は相変わらず散乱しており、歩くのだって一苦労する有り様であった。
「ちょっと散らかってるが、気にしないでくれ」
「ちょっと・・・・・・?」
「えーと、確かここに・・・・・・あった!」
そう言って魔理沙が取り出したのは、怪しい液体が入った小瓶だった。
「魔理沙さん、それは?」
「これはな、私が長年研究して作り上げた、魔力増強薬だ。これを飲めば、短期間で魔力が増やせるぜ」
「本当ですか! それじゃ早速――――」
「ちょっと待て、確かに魔力は増やせるが、元を正せば毒だ。使用法を間違えれば、間違いなく御陀仏だぜ」
「御陀仏・・・・・・」
「だから、そうとう薄めて飲むのがおすすめだ。と言っても、結構辛いけどな」
「・・・・・・」
「やっぱり辞めるか?」
「い、いえ! やらせて貰います!」
「分かった」
魔理沙は水に、液体を一滴垂らし、小鈴に差し出した。
「で、では、いただきます!」
小鈴は意を決して、それを飲みほした。
「大丈夫か?」
魔理沙がそう尋ねると、小鈴は顔を紅くしていった。
「に、苦いですね・・・あと、なんだか体が火照って来ました・・・・・・」
「それは薬の作用だな。一応、媚薬としても使える代物だからな」
「び、媚薬!?」
「落ち着けよ。あれぐらい量じゃ、少し体が火照る程度だ」
「は、はあ・・・・・・」
「あっ、今いやらしい事を考えていたな?」
「ち、ちちち違いますよ! 私はそんなはしたない人じゃありません!」
「冗談だぜ。まあその様子だと、大丈夫そうだな。しばらく休めば、体の火照りは収まるだろうし」
「そ、そうですか・・・・・・」
それからしばらく小鈴は魔理沙の家で、体の火照りが収まるまで休んでいく事にした。
魔理沙いわく、効果は明日にならないと出ないので、その日は魔法の練習はせずに、帰る事になった。
―――――――――――
翌日。魔理沙の薬の効果が出たのか、小鈴のルーン魔法の効果が、今までの比にならないくらい強力なっていた。
「凄い凄い! こんな事が出来るなんて!」
その成果に、小鈴は嬉しそうはしゃぎ、魔理沙はとても得意気にしていた。
「だろ? これでも作るのに苦労したんだぜ」
「あの薬を毎日飲めば、あっという間に凄い魔法を使えるようになるんじゃ―――――」
「いや、あの薬の使用は一ヶ月に一回にしとけ」
「何故ですか?」
「最初、調子に乗って続けて飲んだら偉い目にあったからなぁ・・・・・・」
そう言って、魔理沙は何処か遠い目をしていた。どんな目にあったか気になった小鈴であったが、敢えて触れない事にした。
「まあともかく、それぐらいの魔力なら、阿求の奴をギャフンと言わせられるぜ」
「はい! でも、どんな魔法が良いんでしょうか?」
「ふふん、派手な魔法なら私の専売特許だ。ピッタリな奴を教えてやるぜ」
「お願いします! 魔理沙さん!」
こうして魔理沙と阿求の魔法レッスンが始まった。
―――――――――――
それから数週間が過ぎた。
小鈴は魔理沙の指導の元、一つの魔法を修得した。そして今日、阿求にそれを見せるのであった。
小鈴は阿求を博麗神社に呼んだ。
「よく来たわね阿求! 今日こそ、あっと言わせる魔法を見せてあげるわ!」
「・・・・・・それはいいんだけど、何で博麗神社?」
「今回の魔法は派手だから、人里の中じゃあ使えないのよ。あっ、霊夢さんの許可は取ってあるから大丈夫よ」
「いや、そう言う訳じゃなくて・・・・・・」
「ともかく! そこでちゃんと見ておきなさいよ!」
そう言って、阿求は準備を始める。阿求は不安そうに、隣にいる霊夢とジンに尋ねた。
「あの・・・大丈夫なんですか?」
「まあ、大丈夫でしょ。何かあったら、教えた本人に修理代を請求するから」
「いや、そういう問題ではなく――――」
「まあまあ、あれだけ自信があるんだ。見てあげよう」
「うーん・・・何だか不安だなぁ・・・・・・」
そうこうしている内に、小鈴の準備が終わったようである。
「準備完了! それじゃ行くわよ!」
すると小鈴は、手に持ったルーン文字が刻まれた紙に魔力を込める。すると、境内に設置されていた紙も、呼応するように光輝き始める。
「こ、これは・・・・・・」
「光符!“アースライトレイ”!」
次の瞬間、紙から次々と光の閃光が空に向かって放たれた。それは紛れもなく、魔理沙の魔法であった。
「へぇ、それらしくなっているじゃない」
「ああ、これは驚きだな」
「・・・・・・」
「どう阿求? これでも私の魔法がしょぼい?」
勝ち誇った小鈴に、阿求は降参したかのように言う。
「はあ、私の負けね。貴女の魔法は凄いわ小鈴」
その言葉を聞いて、小鈴はとても嬉しそうに笑った。
―――――――――――
翌日。紅魔館の地下図書館で、小鈴は昨日の成功を魔理沙とパチュリーに報告していた。
「よーし、ちゃんと上手く出来たんだな」
「はい! 魔理沙さんのおかげです!」
「でも、私としては、薬品で魔力を無理に増やすのはどうかと思う。体の負担を考えて、もう少し時間を掛けた方が――――」
「魔力が自然に増えるのを待ってたら、年寄りになってるって。少しでも早く凄い魔法を使えるようになる為なら、多少のリスクはつきものだぜ」
「そういうものかしら? でもまあ、それだけ魔力があるのなら、ある程度の魔法が使えるわね。今日はルーン文字の応用を教えるわ」
「はい! お願いします!」
こうして小鈴は、二人の指導の元、新たな魔法を修得するべく、今日も頑張るのであった。