GOYAさんの動画で、華仙ファンは是非見てほしい動画です。
今年もあとわずかとなり、様々な所で大掃除が行われていた。
ここ妖怪山にある華仙の屋敷でも、一年の埃を掃除していた。
「毎日掃除はしているけど、埃は貯まるものねぇ」
そう言いながら、はたきを振る華仙。しかし、それなりに大きいこの屋敷を一人で掃除するのは大変であった。
(午後にはジンが手伝いに来るから、それまで頑張らないと)
そうして華仙は、掃除を続けた。
しばらく掃除をしていると、奇妙な箱を見つけた。
「あら? これは何かしら?」
箱はかなり古びており、箱に書かれていた文字は掠れ、何と書かれているか判別出来なかった。
華仙は興味本意でその箱を開けた。
「これは・・・・・・」
箱に入っていたのは、一冊の本であった。華仙はそれを手に取り、広げた。
内容を見て、華仙は懐かしく感じた。
「・・・・・・懐かしいなぁ」
それは、昔華仙が書いていた日記であった。華仙は懐かしさを感じながら、日記を思わず読み更けてしまう。
「ふふっ、こんな事もあったわねぇ・・・・・・おや?」
ふと、日記に挟まれていた一枚の紙が落ちた。それを見て華仙は、戦慄をした。
「な、な、何でこれが!?」
それは一枚の絵であった。何が描かれているかというと、妖怪の屍の山の頂上で、華仙らしき人物が得意気立っているものであった。
(一体誰がこんな物を・・・・・・あっ)
そこで華仙は思い出した。
大昔、華仙がまだ仙人になっておらず、華扇と呼ばれていた頃である。
ある時、数多くの妖怪達が、華扇に喧嘩を売り、逆に返り討ちされたのである。
その記念に華扇は、通りすがりの絵師のその時の様子を描かせたのだ。
(そんな事もあったわねぇ・・・・・・)
当時は武勇伝であったが、現在の華仙にとってはあまり知られたくない黒歴史である。もし知られれば、仙人としての威厳は地に堕ちるであろう。
(これは隠くした方が良いわね・・・・・・)
そう思い、絵を隠そうとしたその時――――。
「あっ!?」
開けていた窓から、突然風が吹き、絵が外に飛んで行ってしまった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
華仙は大急ぎで絵の後を追った。
―――――――――――
絵を追いかけた華仙であったが、風に乗った紙を追うのは困難で、直ぐ様見失ってしまった。
(ど、どうしょう、あんなのを見られたら・・・・・・)
今まで秘密にしていた秘密がバレ、周囲からは白い目で見られる想像をした華仙の顔は青ざめた。
そんな彼女に、一人の少女が声を掛けて来た。
「あれ? 華仙さんじゃないですか、どうしたんですかこんなところで?」
「早苗?」
声を掛けて来たのは早苗であった。華仙は絵の事を悟られないように、話を合わせる。
「少し用事があってね。そういう貴女は?」
「私は買い出しの帰りです。もうすぐ年末年始ですから」
「神社も大変ねぇ・・・・・・あら? その紙は?」
そう言って、華仙は早苗の手に持っている紙に注目した。
「これですか? さっきその辺で拾ったんですよ。まったく誰が捨てたのや―――――」
次の瞬間。華仙の右腕が早苗を襲った。
しばらくすると、放心していた早苗はようやく我に帰った。
「あれ? 私何をしてたんだろう・・・・・・? まあいっか」
早苗は何事も無く、その場を去って行った。
早苗が去った後、木の影から華仙が出てきた。
「やれやれ、危なかったわ。彼女に悪いけど、この数分の記憶は消させて貰ったわ」
華仙は早苗に記憶消去の術を施し、彼女が持っていた紙を回収したのである。
(悪く思わないでね。こっちには名誉が掛かっているんだから)
そう言って華仙は、改めて紙の内容を確認する。
“年末年始、年越しセール開催!”
―――という見出しの、外の世界の広告チラシであった。
「な、なんなのよこれはー!」
華仙は叫びと共に、チラシを破り捨てた。彼女の受難はまだ終わらなかった。
―――――――――――
次に華仙が取った行動は、動物達に探させる事であった。
「良い貴方達? こういう大きさの紙を探して来るのよ」
華仙の言葉に、動物達は頷き、四方に散って行った。
しばらくすると、動物達は華仙の言われた通りの様々な紙を持って来る。しかし――――。
「これは・・・テスト用紙じゃない、しかもひどい点数ねぇ。こっちは借金の借料書・・・これは―――って、春画じゃない!」
華仙は春画を破り捨て項垂れる。
「やっぱり、動物達だけじゃ限界ね・・・一体どうすれば・・・・・・ん?」
華仙の目に、偶々通り掛かったはたての姿が写る。彼女の姿を見て、華仙はある事を閃いた。
「ちょっと失礼!」
「え? きゃあ!?」
華仙は包帯で、はたてを捕まえ引き寄せた。
「い、いったい何が・・・・・・?」
「少しよろしいかしら? 貴女に頼みたい事があるのよ。はたてさん♪」
華仙は笑顔で、そう言った。
その笑顔は、恐怖を感じる程の威圧を発し、断れば命が危ないと思う程である。
「そ、それで? 私は何を・・・・・・?」
「大事な絵が風に飛ばされてしまったのよ。だから貴女の念写で探して欲しいの」
「わ、わかりました・・・・・・」
内心、“ジンに頼めば良いのでは?”と思うはたてであったが、命欲しさにそれを口にはしなかった。
「それで、その絵のタイトルは?」
「え? 言わないと念写出来ないの?」
「出来ません」
「・・・・・・わ、わかった。一回しか言わないからよーく聞きなさい」
華仙は一回咳払いをして、恥ずかしそうに答えた。
「い、茨木華扇様の輝かしい勝利!」
「・・・・・・」
「笑うなぁ!」
「わ、笑っていません! と、ともかく念写しますね!」
彼女は慌てながらも、念写機で念写を始める。
「・・・・・・写りましたよ」
「ど、何処にあるの!?」
華仙は逸る気持ち抑えきれず、はたてのカメラを除き込む。そこには一枚の紙を手にしているジンの姿があった。
それを見た華仙は、完全に固まった。
「あ、あの華扇様?」
「・・・・・・」
華仙は返事はせずに、どうすれば良いか、頭をフル回転させていた。
(不味い不味い不味い不味い! よりにもよってジンに見られるなんて! どうする!? どう誤魔化せば!?)
パニック状態になったまま華仙は考え、ある手段を思いつく。
「・・・・・・そうだ、記憶を消そう。早苗みたいに一部の記憶を抹消すれば、万事良し」
そう呟く華仙だったが、その表情は氷のように冷たく、まるでこれから誰かを殺しに行くようであると、はたては思った。
「ありがとうはたてさん。でも、悪いけど消させて貰うわ」
「え?」
華仙は有無言わさず、はたての頭を掴み、記憶の一部を消去し、ジンがいる場所へと向かった。
―――――――――――
そんな危機が迫っているのを知らず、ジンは件の絵を持って華仙の屋敷に向かっていた。
「神社の方も終わったし、後は華仙の屋敷の掃除を手伝うだけだな。あそこは一人で住むには大きいし、いるのは動物だけだから、華仙も大変だろうな。それにしても――――」
ジンは拾った絵を再度見る。それは紛れもなく華仙が探していた絵であった。
「細部は違うけど、華仙だよな・・・何でこんな物が・・・・・・? まっ、本人に聞いてみれば」
そんな事を呟きながら歩いていると、背後から寒気が走る。ジンはその直感に従って、背後を振り返ると――――。
「ふんっ!」
「うわぁっと!?」
背後から華仙が頭を掴みかかろうとしていた姿が一瞬見えたジンは、間一髪でそれをかわし、華仙から距離を取る。
「ちっ、外したか。我が弟子ながら良い身のこなしね」
「か、華仙? 一体何を―――」
「問答無用!」
華仙はジンの問いに答えず、再度ジンの頭を掴み掛かろうとする。
ジンは能力と、華仙や依姫から教わった体術でそれらを捌く。幸いにも、華仙はジンの頭しか狙わなかったので、彼女の猛攻を凌ぐ事が出来た。
「くっ、これじゃ埒があかないわ。仕方ないけどここは――――はあっ!」
「ぬぉ!?」
すると華仙の体から、目に見えるほどの真っ赤なオーラが立ち上がる。ジンにもはっきりと理解する。何故だかわからないが、華仙は本気であることを。
「安心しなさいジン。痛いのは一瞬だけよ」
「な、なあ華仙? 俺何かしたか? 気を悪くしたのなら謝る」
「いいえ、貴方は何も悪く無いわ。強いて言うなら、ただ運が悪かっただけよ!」
そう言って、もうスピードジンと距離を詰めた。そしてジンが反応出来ないスピードで掴みかかろうとする。
(は、早い!? 避けられ――――)
しかし、その手がジンに届く事はなかった。華仙は巨大な“何か”押し潰され、身動きが封じられたのである。
「い、一体何が――――」
「やれやれ、巨大な気配を感じて来てみたら、まさかこんな事になっていたなんてね」
「その声は!」
「す、萃香か?」
巨大な“何か”の正体は、能力で巨大化した萃香であった。
「萃香! 早く退きなさい!」
華仙はそう叫びながら、ジタバタと萃香から逃れようとするが、萃香はビクともしなかった。
「嫌だね。退いたらジンを襲うだろ? いくらジンでも、お前さんの半本気の力を受けちゃ、ひとたまりも無いよ」
「いいから退きなさい!」
「退かせたいのなら、自分の力で退かしな。まあ、片手のお前じゃ無理だろうけど」
「くっ!」
「あの、少し良いか?」
言い争いをしている二人に、ジンが割って入った。
「もしかして、華仙が俺を襲ったのは、これが原因か?」
そう言って見せたのは、冒頭で飛んで行った、華仙の黒歴史の絵であった。
「おや、これは懐かしい物がでたねぇ華扇?」
「・・・・・・」
「華扇?」
「・・・・・・ええそうよ! それは昔の私よ!」
華仙は涙を浮かべながら、そう叫んだ。まさか泣くとは思わなかった萃香は、思わず動揺した。
「え? な、何で泣くのさ?」
「泣くわよ! こんな醜態をさらした上で、一番知られたくない人に、知られて! もう踏んだり蹴ったりよ! う、うわぁぁぁぁん!!!」
「ちょ、ちょっと! マジ泣き!?」
萃香は号泣している華仙に驚愕した。彼女は直ぐ様能力を解除し、華仙を慰めようとする。
「そ、そんなに泣く事は無いじゃないか? たかが秘密の一つがバレたくらいで・・・・・・」
「あんたに何が分かるのよ! あれを知られたら、私はもう仙人としてやっていけなくるのよ! だからジンの記憶を消そうとしたのに・・・・・・もうこうなったら、旧都に引きこもるしか無いじゃない!」
「いやそこまで深刻にならんでも・・・・・・」
「私にとっては深刻なのよ!」
未だに泣きじゃくる華仙、そしてオロオロと戸惑う萃香。そんな時、ジンは華仙に声を掛ける。
「少しは落ち着いてくれ華仙。あんたは俺の師匠だろ?」
「え?」
ジンの“師匠”という言葉に、華仙はようやく落ち着きを取り戻した。そして彼は、言葉を続ける。
「華仙、あんたがどんな過去があったにしろ。あんたは俺の師匠なのは変わりは無いんだ」
「ジン・・・・・・」
「もし、それでも気になるのなら、俺の記憶を消してもいい。そうする事で、華仙が安心するなら、それでいい」
「・・・・・・ぐすっ」
「え?」
再び涙を流す華仙。そんな彼女を見て、ジンは戸惑った。
「え、えっと・・・・・・俺酷い事言ったか? そんなつもりはなかったんだが・・・・・・」
「ち、違うのよ、こんな私を見ても、師匠と慕ってくれて嬉しくて・・・・・・私は良い弟子に恵まれたわ」
「そ、そんな事無い。逆に俺は、良い師匠に恵まれた」
「ありがとうジン。貴方に期待できるような仙人になるわ!」
そう言って涙を拭き、いつもの華仙に戻るのであった。
それを見ていた萃香は――――。
「何はともあれ、一件落着だね」
そう笑顔で呟いた。
―――――――――――
それから時が過ぎ、新しい年を迎えた。
忙しい年末年始を終えた博麗神社で、今年最初の新年会が行われていた。
「ふぅ、新年会が行われると、ようやく一年が過ぎた実感が出来るな」
「最近の博麗神社は、年末年始が忙しいからね」
そう言いながら、萃香はジンの杯に酒をつぐ。そしてつぎ終わったら、今度がジンが萃香の杯に酒をついだ。
「ともかく、今年もよろしく萃香」
「ああ、今年もよろしくジン」
そう言って二人は互いの杯を当て、注がれた酒を一気に飲み干した。
「かぁー♪ やっぱり年明けの酒は格別だねぇ♪」
「年明けて何日も経っているが?」
「もう細かい事は気にしない。じゃないと禿げるよジン?」
「その時は坊主にする」
そんな他愛の無い話をしていると、少し離れた所で霊夢と早苗が口論していた。どうやら、霊夢が無理に早苗に酒を勧めたのが原因らしい。
「やれやれ、せっかくの新年会なのに・・・・・・」
そう呟きながら、ジンは二人に仲裁しようと動こうとした時――――。
「貴女達! せっかくの祝の席なのに、喧嘩をして! そこになおりなさい!」
華仙が二人の喧嘩に割って入り、説教を始めた。
それを見たジンは、行くのを止めた。
「行かなくていいのかい?」
「華仙がいるから大丈夫だろう。今日は彼女に任せるよ」
「ふーん・・・ところでジン。一つ聞きたいのだけれど」
「ん?」
「華扇についてさ、あいつの正体知ってどう思った?」
「いや、特に何にも?」
「本当かい? どうして正体を隠すのか、何故仙人になったか、知りたくないのかい?」
そう訪ねる萃香に、ジンは首を横に振る。
「知りたいという気持ちはあるけど、それは本人の口から聞くべきだと思う。誰にだって、話したくない事があるんだから。ただ―――」
「ただ?」
「華仙の正体が何であれ、彼女は俺の師である事には変わりはない。それだけは絶対だ」
「・・・・・・そっか、それは野暮な事を聞いちゃったね。よし、代わりといっちゃあなんだが、今日は思いっきり飲もう!」
そうしてジンと萃香は、二人で酒の席を楽しむのであった。
「まったく、二人は心が狭過ぎるわ。少しはジンを見習って、心を広く持ちなさい。大体――――」
一方華仙の説教は朝方まで続き、その内容は段々と弟子自慢になっていった。
それに付き合わされた霊夢と早苗は、ゲンナリするのであった。
華仙の正体は、十中八九鬼だと思っていますが、まだ茨歌仙が終わっていないので、明言はしないでおきます。
予想が大外れした時の保険みたいなものです。