東方軌跡録   作:1103

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妖々夢EXに苦戦している1103です。

咲夜でやっていたのですが、なかなか安定しません。それなら別のキャラを使ってみようと思い、現在イージーでキャラ攻略をしています。

時間は掛かると思いますが、頑張ってクリアを目指したいと思います。


騙す天邪鬼と駄目な雪男

冬真っ只中、ジンは寒い中人里の中を歩いていた。

 

「う~寒いな~、早く帰って温まろう」

 

そう呟きながらジンは、足早に歩き出す。そんな時、正邪を見掛ける。

 

「正邪? あいつ、こんな所で何をしている――――」

 

そこでジンは言葉を失った。何故なら、正邪は一人の男性と親しげそうに腕を組ながら歩いていたのである。

 

(な、何故に? 相手は一体誰だ!?)

 

普段なら、カップルの後をつけるような野暮な事はしないジンであったが、この時だけはこっそりと後を追った。

 

「正邪ちゃん、寒くない?」

 

「全然、雪男さんこそ寒くない?」

 

「正邪ちゃんが側にいるだけで、十分暖かいよ♪」

 

「私も、雪男さんの温もりだけで温まるよ♪」

 

雪男と呼ばれる男と正邪のやり取りを見て、ジンは鳥肌が立ってしまった。

 

(絶対に騙されているぞあいつ・・・・・・普段の正邪がそんな事を言うわけ無いだろうが)

 

ジンの心配は、正邪から雪男の方に移っていた。

 

 

人里を出ると、男と正邪はそこで別れた。

正邪は神社に帰ろうとしたので、ジンはそこで正邪に声を掛けた。

 

「おい正邪」

 

「うわぁ!? な、なんだジンか・・・驚かすなよ」

 

「あの男とどういう関係だ?」

 

「へ?」

 

「さっきまで親しげにしていた男の事だよ」

 

「も、もしかして・・・・・・見た?」

 

「ああ、見事なまでのバカップル的な会話をしていたな。聞いているこっちが恥ずかしくなったぞ」

 

「―――――っ!!」

 

ジンの言葉を聞いた正邪は、ふるふると体を震わせ、次第に顔が真っ赤になっていった。

 

「どうした? そんな体を震わせて? 顔を赤いようだが、風邪でもひいたか?」

 

「――――い」

 

「い?」

 

「今すぐ忘れろぉー!!!」

 

正邪は叫びながら、ジンに殴りかかった。しかし、どんなに拳を放っても、それがジンに当たる事はなかった。

 

「おい、一体どうしたんだよ?」

 

「う、うるせぇー! 今見聞きした事を忘れるんだー!」

 

「だから何で――――」

 

「問答無用!!!」

 

それからしばらくの間ジンは、正邪の拳をかわし続けるのであった。

 

 

正邪が息を切らし、ようやく落ち着いたところで、ジンは改めて事情を問いただした。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

「おい正邪、一体何を企んでいるんだ?」

 

「な、何の事だ? 私には全然分からないなぁ?」

 

「何も企んでいないのなら、あの男と本気で付き合っているのか?」

 

「んなわけ無いだろうが、あんなボンクラと誰が・・・・・・あっ」

 

「なるほど、つまりあの男性を騙して、金をむしれるだけむしり取ろうって訳だな」

 

「ちっ、バレたんならしょうがない。

ああそうだよ、あいつはバカだが、それなりに金を持っているみたいでね。しかも、私に気があるらしいから、それをちょいと利用しているんだよ」

 

正邪はまったく悪びれずに、楽しげに言った。

それを聞いていたジンは、とても不快そうであった。

 

「あのな正邪、好きでも無い奴と付き合うな。しかも騙して貢がせるなんて最低だぞ」

 

「別に騙してなんか無いさ。私は夢を提供しているだけさ、外では援助交際って言うんだろ?」

 

「なら余計に駄目だ。人間関係のトラブルはかなり厄介なんだぞ。手遅れになる前にやめろ」

 

「やなこった。あんないいカモを、誰が手放すかってんだよ」

 

「・・・・・・ああそうかい、どうなっても知らないからな」

 

そう言って、ジンはさっさと帰ろうとする。その時――――。

 

「ヘックション!」

 

正邪が大きなくしゃみをした。

よく見ると、彼女のコートが所々凍っていた。

 

「どうしたんだそのコート? 凍っているじゃないか」

 

「あの雪男と引っ付いていたからだよ。まったく、寒いったらありゃしない」

 

「なら付き合うのを辞めろよ。好きでも無いんだろ?」

 

「この程度で金づるを手放す正邪様じゃないよ。・・・・・・ヘックション!」

 

「やれやれ、仕方無いな」

 

ジンは自分が着ているコートを脱ぎ、正邪にそれを差し出す。

 

「俺のを着ろ、少なくともお前の凍ったコートなんかよりはマシだろ」

 

「誰がお前の臭いコートなんか着るか」

 

「あっそ、それじゃあな」

 

ジンは差し出したコートを再び着て、さっさと行こうとした。それを見た正邪は、慌てて引き止めてしまう。

 

「待て待て待て! そんなあっさり引き下がるなよ! ここは土下座をして、“どうか正邪様、私の臭いコートを着て下さい”って、言うところだろ!」

 

「何でそうなるんだよ。俺はそこまでして、自分のコートを着せようとは思わないからな」

 

「ああもう! わかった! 私の敗けだ! コートを貸してくれ! もう寒くて死にそうなんだ!」

 

「最初からそう言え・・・・・・」

 

ジンはため息をつきながら、再度コートを差し出す。すると正邪はそれを奪い取り、直ぐ様凍ったコートから着替えた。

 

「はあ~、臭いけど暖かい・・・・・・」

 

「悪かったな臭くて。・・・・・・ヘックション!」

 

今度はジンがくしゃみをした。それを見た正邪は、ジンのコートを強く掴みながら言う。

 

「言っておくが、返すつもりは無いからな」

 

正邪がそう言うと、ジンは当たり前だと言わんばかりの態度で答えた。

 

「自分で貸したんだ、返さなくて良い。・・・・・・ヘックション!」

 

「・・・・・・」

 

それからもジンはくしゃみを出し続けた。見ていた正邪は、何を思ったのか、自分のマフラーをジンの首にそっと巻いた。

 

「正邪?」

 

「くしゃみがうっとおしい。これでも巻いていろ、多少はマシになるだろ」

 

「・・・・・・余計なお世話だ」

 

ジンはそう言いながらも、何処か嬉しそうであった。

 

―――――――――――

 

それから数日後。正邪はジンの忠告を無視して、雪男とデートを繰り返していた。

 

「正邪ちゃんどうしたの? 最近腕を組んでくれないけど?」

 

「腕を組むより、雪男さんと手を繋ぎたくて♪」

 

「ああそうだったのか、じゃあ離れないように指を絡ませるね♪」

 

雪夫は上機嫌に、正邪の手を握る。一方正邪は、顔はにこやかではあるが、その裏では不満が貯まっていた。

 

(誰がてめぇと何かと腕を組むかってんだよ! 組んだらまたコートが凍るだろうが!

まったく自分の事しか考えていないんだから、これで金無しだったら、さっさと捨てれるのに)

 

不満たらたら正邪であったが、一方の雪男は、そんな正邪の気持ちをまったく察する事はせず、全て自分の都合の良いように考えていた。

 

「ところで雪男さん、今日は何処に行くの?」

 

「え? あー、今日は賭博の方に行こうと思って」

 

「賭博? 何でそこに?」

 

「たまには良いじゃない。賭博って、案外おもしろいよ。正邪ちゃんも絶対に嵌まるって」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

この時正邪は嫌な予感を感じていたが、そのまま彼と共に賭博場に向かった。

 

―――――――――――

 

妖怪賭博、またの名を妖怪博打ともいう。幻想郷にもそういった娯楽所が存在する。

雪男と正邪も、そういった場所で、チンチロをしていたのであるが、これが思いもよらない事態に巻き込まれてしまう。

 

 

「四五六! これで倍払いだな」

 

「ギャー! また負けたー!」

 

チンチロをしていた雪男と正邪であったが、賭博の元締めの四五六によって、賭け金を全て失ってしまった。

 

(あー、掛け金無くなっちまったか。まあ、大した事は無いだろう)

 

あまり危機感を抱いて無い正邪であったが、元締めのある言葉によって、事態は急変する。

 

「さあて、約束通りお前達の身柄は俺達の物って訳だな」

 

「・・・・・・え?」

 

「ちょ、ちょっと待って欲しい! 後一週間! いや、三日は待ってくれないか?」

 

「駄目だな。もうとっくに期限は切れているんだ。

お前は強制労働、そっちの嬢ちゃんはそうだなぁ・・・中々の上物だから、それに相応しい仕事を用意しよう」

 

「・・・・・・これはどういう事? 雪男さん?」

 

正邪はそう訪ねると、雪男は苦笑いをして答えた。

 

「実は~、正邪ちゃんとのデート代が足りなくて、ちょっと借りちゃったんだよね」

 

「借りたって・・・幾ら?」

 

「えーと、数百円(数百万)くらいかな?」

 

「はあ!?」

 

「それで今日は、それをチャラにする勝負をしていたんだよ」

 

「因みに、こいつが担保にしていたのはお前だ」

 

「なっ!?」

 

元締めの言葉に、正邪は驚きを隠せなかった。無理も無い話である、知らない間に賭けられていたのだからである。

 

「おいふざけんな雪男! 勝手に決めてんじゃねぇ!」

 

「だ、だって僕達恋人―――――」

 

「誰がてめぇみたいに顔だけの野郎と付き合うか! 金を持っていたから付き合っていただけだよバーカ!」

 

「そ、そんな! 酷いよ正邪ちゃん!」

 

「いや、人の事を言えないぞお前。まあともかく、約束は約束だ。大人しくしてもらおうか、お前たち!」

 

そう言って、元締めは部下たちに指示し、二人を取り囲む。

 

(くっそ~、私の人生ここまでかよ・・・・・・まだ反逆も出来てないのに、畜生!)

 

逃げられない事を悟った正邪は、悔しそうに唇を噛む。

今にも連れてかれそうになったその時、一人の青年がやって来た。

 

「それ、少し待ってくれないか」

 

「え?」

 

正邪はその声に聞き覚えがあった。後ろを振り向くと、そこにジンが立っていた。

 

「帰りが遅いと思って探して来て見れば、何だか大変な事になっているな正邪」

 

「お前なんで――――」

 

「あー! お前は僕からレティを奪った憎き人間じゃないか!」

 

雪男はジンを見て、思いっきりそう叫んだ。実はこの雪男、以前レティを困らせたストーカーであったのだ。もっとも、面識が無いジンは?マークを浮かべてしまう。

 

「あんた・・・何処かであったか?」

 

「白々しい! 君のせいで僕は酷い目にあっただぞ!」

 

「そうか、それは悪かったな。だが、今はこっちが優先だ」

 

そう言って、ジンは正邪の隣に座り、元締めに向かって言った。

 

「俺と勝負だ。勝ったら正邪の負債分は取り消して欲しい」

 

「あれ? 僕の分は?」

 

「知るか、自分でどうにかしろ。受けてくれるか?」

 

「いいぜ。ただし、負けたらお前もただじゃ済まないぞ」

 

「承知の上だ」

 

「よしいいだろう。それで何で勝負する?」

 

「花札はあるか?」

 

「あるぞ」

 

「それで勝負だ」

 

こうしてジンは、元締めと花札で勝負する事になった。

 

 

花札での勝負は、正邪の負債分を賭けた勝負なので、元締めの持ち点はかなり多く、ジンの持ち点は少ない状態で始められた。

しかし、そんな不利な状況にも関わらず、ジンは圧勝していた。

 

「三光、赤短、たねで、十一点だ」

 

「なっ・・・・・・」

 

元締めは言葉を失っていた。あれだけあった持ち点は、みるみる無くなっていったからである。

 

(く、くそ! だがまだ逆転はある!)

 

「こいこい!」

 

元締めは逆転狙いの五光と猪野鹿蝶を揃えようとしていた。しかし――――。

 

「かす、こいこいはしない」

 

「くっ」

 

揃える前に、ジンが先に上がってしまうので、元締めは逆転の役を揃えられなかった。そして最後に――――。

 

「三光、猪野鹿蝶、赤短、青短、かす。合計二十一点だ。俺の勝ちだな」

 

「く、くそう・・・・・・」

 

元締めは項垂れてしまう。ここまで完膚なき負けたのは、とある巫女と吸血鬼の少女以来であった為、彼の精神的ショックは酷かった。

 

「さて、約束通り、正邪は返して貰うからな」

 

「わかった・・・ただ、こっちにもう顔を出さないでくれ」

 

「安心しろ。賭け事は嫌いだから、もう来る事は無い。それじゃ帰るぞ正邪」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

ジンに手を引かれながら、二人は賭博所を後にした。

 

「それじゃあ僕もこれで――――」

 

「待ちな」

 

どさくさ紛れて、逃げようとする雪男を、元締めの部下達が取り囲む。

 

「お前の分の負債はそのままなんだから、キッチリ働いて返して貰うぞ」

 

「そ、そんなぁ~」

 

雪男の情けない声が、賭博場に響くのであった。

 

―――――――――――

 

賭博所を出た二人は、夜の雪道を歩いていた。

 

「はぁ~、まったくとんでも無い目にあったな・・・・・・」

 

「あの雪男も酷いが、元はと言えばお前が騙そうとするからだろ」

 

「だからって、仮に彼女を担保に出すか普通?」

 

「それは無いな。同じ立場だったら、正邪だけでも逃がすけど」

 

「その時は遠慮なく、逃がさせて貰うさ」

 

そう笑顔で答える正邪を見て、相変わらずだなとジンは思った。

しばらく歩いていると、雪が降り始めた。

 

「あ、雪か・・・・・・」

 

「こんな時に雪なんて降るなよな・・・・・・」

 

正邪は心底嫌な顔をした。そんな彼女に、ジンが一本の折り畳み傘を差し出した。

 

「これやるよ。幾らかマシになるだろうし」

 

「おっ、気が利くな。お前のそういう所は嫌いじゃないぞ」

 

そう言って、正邪はそれを受け取り、傘を差した。

折り畳みなので、普通の傘より小さいが、一人分なら問題ない大きさであった。

 

「随分と小さいな・・・・・・」

 

「生憎、今はこれしかない。それで我慢してくれ」

 

「まあ別に良いけど・・・・・・って、お前の分はどうしたんだよ?」

 

雪が降っているのに傘を差さないジンを見て、不思議に思った正邪は、ジンに聞いてみた。すると――――。

 

「折り畳み傘はそれしか無いんだ」

 

「はあ? それじゃお前はどうするんだよ?」

 

「俺は良いよ、どうせこの傘じゃ二人は入らないからな」

 

ジンのその言葉を聞いて、正邪は不愉快になった。

雪夫は自分の事しか考えておらず、それが不愉快であったが、ジンは逆に他人の事しか考えていなく、それもまた不愉快であった。

 

(ったく、少しは自分を優先にすれば良いのに。やりづらいったらありゃしない)

 

そう思いながら、小さい傘をジンにさした。

 

「正邪?」

 

「勘違いするなよ、雪まみれのお前を見ていると、こっちが寒くなるんだよ」

 

「だからって、この大きさで二人は入らないだろ?」

 

「うるさい、いいから入れ」

 

そう言って、正邪は強引にジンを傘に入れた。しかし小さい傘では、二人の体は完全に入りきらず、二人の肩に雪が降り積もる。

 

「・・・・・・やっぱり、二人は無理があるんじゃないか?」

 

「いいから歩け、あとお前が傘を持てよ。お前の方がデカイんだから、私がさしていると疲れるんだよ」

 

「あ、悪い」

 

ジンは正邪に謝り、彼女の代わりに傘を持った。

こうして二人は、寄り添うように雪道の中を歩き続け、神社に帰って行った。

 


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