鈴奈庵25話のネット感想の中で、"魔理沙はどうなんだ?"というのを見つけて、自分なりの考えを今回の話しに書きました。
後書きにも、少解説を入れました。
ここは紅魔館の地下図書館。そこでジン、小鈴、パチュリーの三人による読書会が行われていた。
「ふむふむ・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・なるほどな」
黙々と本を読む三人。その中でジンは、世界の裏側――――アカシックレコードについての本を読んでいた。
アカシックレコードとは、この世の全ての情報が詰まっており、生きとし生けるもの全ての魂がそこに繋がっていると言われている。
中にはそこから力や知識を取り出し、異能や魔法、術等を行使する事が出来るらしい。しかし、未熟な者がそれに触れると、アカシックレコードに魂を飲まれるか、精神に異常を来たし、魔道に堕ちると書かれていた。
(なんだか怖い事が書かれているな・・・それにしても魔道か・・・・・・)
ジンはふと、友人の易者の事を思い出す。彼の言葉からして、彼はアカシックレコードに触れてしまい、精神に異常を来たし妖怪になろうと考えてしまったのだろうとジンは思った。事実、占いもまたアカシックレコードと密接な関係にあり、占術によってアカシックレコードに触れた者もいると書かれていたのである。
しばらく読み更けていると、パチュリーと小鈴が声を掛けてきた。
「どうしたのジン? そんな浮かない顔をして」
「何かあったんですか?」
「うんまあ・・・・・・この本を読んでいたら、あの友人の事を思い出して・・・・・・」
「ああ、あの易者の事ね」
「あいつも、占術を通してこのアカシックレコードに触れてしまったのかな」
「そうね、多分それで合っていると思うわ。占術も魔術の一種だもの、極めれば自ずと触れてしまうでしょうね」
「そう言えば、マミさんも似たような事を言ってました。占いは世界の裏側を視る行為だから、人道に反しているって」
「やっぱりそうなのか・・・・・・」
「そう気落ちしないでジン。あの易者は自ら道を踏み外したのよ。いうなれば自業自得なんだから」
「それでも、あいつは俺の友人だったんだ。その友人が死んだどころか、人として道を踏み外した事を、俺は止める事も、察することも出来なかった。
今でも思う、“どうして止められなかった”って」
「ジンさん・・・・・・」
「なあパチュリー。教えてくれないか?」
「何を?」
「アカシックレコードについて」
その言葉を聞いたパチュリーは、驚きを隠せなかった。
「別に構わないけど・・・そんな事を知ってどうするの?」
「知らないより、知っていた方が、次の時は止められるかも知れないだろ。もうあんなのは御免だ」
「・・・・・・わかったわ。折角だし、私達魔法使いについても話してあげるわ。小鈴、貴女も無関係では無いから、ちゃんと聞いておきなさい」
「は、はい!」
そうしてパチュリーは二人にアカシックレコードと魔法使いという種族について話始めた。
「ところで、二人は魔法使いについてどこまで知ってるの?」
「え~と、魔法使う人?」
「幻想郷縁起では、魔法使う妖怪と書かれていたが、実際はどうなんだ?」
「幻想郷縁起では妖怪扱いされているけど、本質は違うわ。そもそも魔法使いというのは、人間が行き着く到達点の一つでしか無いのよ」
「到達点?」
「そうね、東洋でいうと仙人にあたる存在なのよ」
「え!? そうなんですか!?」
「ええ。不思議な術を使い、修行の末になるもの、不老長寿である事。共通点が多々あるでしょ?」
パチュリーに言われて初めて気づく両者の共通点。彼女の話を聞いて、ジンは何処かしっくりと来た。
「そっか・・・そう考えると、魔法使いになることは、幻想郷のルールに抵触しないんだな」
「当たり前よ。便宜上、妖怪って分類されているけど、性質的には仙人に近いわ。だから魔道に堕ちない限りは、排除対象外なのよ。
そして一人前になった魔法使いは、アカシックレコードの最深部を探求するの」
「最深部?」
「アカシックレコードには幾つかの層に分かれていて、奥に行けば行くほど、強大な叡知に近づけるのよ。まあその分、魔道にも墜ちやすくなるけどね」
「大丈夫なのかそれ・・・・・・」
「安心しなさい、一流の魔法使いが堕ちるのは稀だから。まあ、魔理沙みたいな半人前はどうだか知らないけど」
「私がどうかしたか?」
すると本棚の隙間からひょっこりと魔理沙が顔を出した。
「魔理沙!? 貴女いつの間に!」
「そんなに怒鳴るなよ。図書館は静かにするものだぜパチュリー」
「貴女が私の本を盗まなければ、私も怒鳴ったりしないわ」
「盗んでいない、一生借りていくだけだ」
「それが盗む行為なのよ! 何度も言わせないで! この泥棒猫!」
「なんだと! この紫もやし!」
「二人とも! 少しは落ち着いてくれ!」
「け、喧嘩は駄目ですよー!」
言い争いを始める二人に、ジンと小鈴は慌てて仲裁に入った。
それからしばらくして、ようやく落ち着きを取り戻した二人は、改めてジンの話を聞いていた。
「なるほど、それで魔法使いの話になったのか」
「二度とあいつのような事が起きないように、知っておこうと思ってな」
「まっ、そういう風になるのは、ろくな修行も勉強もしていない素人が手を出した場合で、私のような優秀で真面目に修行や勉強をしている魔法使いにはまったく無縁な話なんだぜ」
「パチュリーも似たような事を言っていたけど・・・・・・」
「そもそもあの易者は、ステップを踏み間違えてああなったんだ。ようは勉強不足だって事さ」
「ステップ?」
「魔法使いになるには、先ずは魔法使いの弟子になる必要があるの。そこで精神を鍛え、魔道に堕ちないように修行を行うの。それが最初の一歩」
「因みに、魔道に堕ちた弟子は、師匠が責任を持って処分するのが習わしだ」
「結構シビアですね・・・・・・」
「シビアなもんか、魔道に堕ちた輩はろくな奴にならないから、ちゃんとやっておかないと、回りに迷惑が掛かるからな」
「場合によっては、世界を滅ぼす邪神を呼ぼうとするからね。過去に何度か、そういう事態になりかけたらしいわ。だから魔道に堕ちた者は処分する。それが魔法使いの掟よ」
(そう考えると、ライを処分しようとした華仙の行動は、間違いではなかったんだな・・・・・・)
厳しい魔法使いの掟を知ったジンは、少し寒気を感じるのであった。
「まっ、そう怖がる必要は無いと思うぜ。ようは真面目に修行と研究を重ね、なるもんだからな。私も一応、魅魔様に免許皆伝を貰ったからな」
「なに言ってんのよ。貴女なんか半人前でしょ、師匠離れしたとはいえ、捨食の魔法を習得して無いじゃない。それを習得するまでは、一人前にはなれないのよ」
「う、うるさいなぁ! だからこうして、日々研究をだな・・・・・・」
「私の本を盗らないでくださる?」
「ストップ! 二人とも!」
「落ち着いてください!」
パチュリーと魔理沙は互いに火花を散らす。ジンと小鈴は再び、二人を仲裁するのであった。
「私はともかく、小鈴の方が心配だな」
「え? 私ですか?」
「・・・・・・そうね、貴女は妖魔本を集めているから、その影響で妖怪になる可能性が無くもないわ」
「大丈夫ですよ、妖怪になろうとは思いませんし。仮になったらなったで、妖怪として生きて行きますから」
「「「・・・・・・はあ~」」」
小鈴の言葉を聞いて、三人は深くため息をついた。
「あ、あれ? どうしたんですか? そんな深いため息をついて・・・・・・」
「あのなぁ小鈴。幻想郷では、人間が妖怪になるのは御法度なんだぞ。下手したら霊夢に本気で退治されるぞ」
「それは自分から妖怪になったからで、自然になったのはセーフじゃないんですか? 命蓮寺の一輪さんだって元は人間ですし、慧音先生は半獣ですよ」
「一輪は雲山と勝負し、それに勝った事により妖怪なった存在だから、通常の妖怪とは訳が違う。慧音の方は、詳しいことは分からないが、呪いによってなってしまったからな。どっちも例外だろう」
「えっ? それじゃあもし私が妖怪になったら・・・・・・」
「場合によるけど、処理される可能性はあるわね」
パチュリーの無慈悲な言葉に、小鈴の顔は青ざめた。
「まあ一番良いのは、妖魔本を手放す事なんだが――――」
「それは絶対に嫌です! 手放すくらいなら、妖怪になって退治される方がマシです!」
「そこまで手放したく無いのか・・・・・・」
「当然です! あれは私の命そのものです!」
小鈴ははっきりそう言ったが、このままでは小鈴が近い将来、妖怪になってしまうだろうと、ジンは思った。
(うーん、妖魔本を手放さず、小鈴が妖怪にならないようにするにはどうすれば・・・・・・)
ジンは深く考えていると、パチュリーがあっさりと、解決案をだした。
「それなら小鈴。私の弟子にならない?」
「え?」
「パチュリー?」
「その様子じゃ、妖魔本を手放す事はしないだろうし、かと言ってこのままだと、妖魔本の影響で妖怪になるかも知れないでしょ」
「まあ確かに・・・・・・」
「ならいっそのこと、魔法使いなってしまえば良いのよ。そうすれば、あの易者のようにはならないでしょ?」
「それはそうだが、良いのか小鈴はそれで?」
「う、う~ん・・・いきなりそう言われても・・・・・・」
パチュリーの提案に、戸惑いを隠せない小鈴であった。そんな彼女に、パチュリーが甘い誘惑を出した。
「あら、私の弟子になれば、ここの魔道書や妖魔本をタダで貸し出しても良いのに」
「私なります! パチュリーさんの弟子に!」
小鈴はあっさりと誘惑に屈指、彼女の申し出を受け入れてしまった。これには流石のジンも呆れ果てていた。
しかし、小鈴の弟子入りに異議を申し立てた者がいた。
「ちょっと待ったー! この私を忘れてもらっちゃあ困るぜ!」
「魔理沙さん?」
「何よ魔理沙。まさか、貴女が小鈴の師匠になるなんて言わないでしょうね?」
「そのまさかだぜ」
「半人前が何を言っているのかしら?」
「お前こそ、本当は小鈴の能力が目当てで、弟子入りをさせようとしているだろ」
「当たり前じゃない。彼女の能力は魔法使いにとって稀少なのよ。このまま妖怪になって排除される末路なんて、勿体ないでしょ」
「ほら見ろ! 本性を表したな! 騙されてはいけないぞ小鈴、あいつはお前の能力目当てなだけだ。きっと、ろくな指導しないぜ」
「失敬ね、やるからにはちゃんとやるわよ。そういう貴女こそ、彼女の能力目当てじゃないの?」
「私は友人として、小鈴の身を案じているだけだ」
両者一歩も譲らず、火花を散らし合う。争いの渦中である小鈴は、オロオロと困惑していた。
「あわわわ! ど、どうしましょうジンさん!?」
「こうなったら小鈴、お前が決めろ」
「え!?」
「これはお前自身の人生の問題でもある。だから、俺が口出す事じゃない」
「そ、そう言われても・・・・・・」
ジンにそう言われて、余計に戸惑う小鈴。彼女が出した答えは―――――。
―――――――――――
夕暮れの街道。その道をジンと小鈴が歩いていた。
「はあー、今日は何だか大変な目にあった気がします・・・・・・」
「そうだな。ただの読書会が、小鈴の人生進路相談になっていたからな。
でも小鈴、あれで良かったのか? 二人の指導を受けるなんて」
小鈴が出した答えは、先ずは初歩まで二人に指導して貰い、教えかたが上手かった方に正式に弟子入りをするというものであった。
「はい。どうせなるんだったら、ちゃんと教えかたが上手な方がいいと思いまして」
「意外だな、てっきり本に釣られてパチュリーの弟子になると思った」
「まあ、魅力的ではありましたけど♪」
小鈴は悪戯な笑みを浮かべてそう言った。
しばらく二人で歩いていると、ジンはおもむろに小鈴にある事を尋ねた。
「なあ小鈴、本当に魔法使いになるのか? 妖魔本を手離せば、今まで通りの普通の生活を送れるんだぞ?」
ジンの言葉を聞いた小鈴は、首を横に振った。
「ジンさんには悪いですけど、こんなおもしろい物を手離すつもりは無いです。それに――――」
小鈴は一歩、二歩とジンの前に出て振り返った。
「普通や平凡な生活なんて、退屈じゃないですか」
にこやかにそう言うのであった。
果たして彼女はどんな魔法使いなるのか? そもそも魔法使いになれるのか? それを知るのはまだ先の話である。
幻想郷縁起だと、魔法使いは妖怪の種族とされていますが、調べてみると決して人に害する存在ではなく、人々のために力を行使する魔法使いもいます。シンデレラの魔法使いなんかが、この典型です。
よって、人々の味方になる魔法使いになるならセーフだと思います。逆に、易者のように自分の利益の為に他人を利用する奴は完全にアウトで、霊夢に排除されたと思います。事実、三月精で出てきたヤマイヌは、人を襲い妖怪になりましたが、華仙の導きにより、人を守る送り犬となったおかげで、霊夢に見逃されています。
従って、魔理沙が人道に反しない限り、種族の魔法使いになっても排除されないと自分は考えています。
自分はバットエンドは嫌いなので、こうであると願います。