東方軌跡録   作:1103

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今回は鈴奈庵の話しです。

少し行き詰まっています。ネタはあるのだけれど、上手く書けない感じです。
もしかしたら、投稿が遅れるかも知れません。



無法者の蟒蛇

人里にある貸本屋鈴奈庵。そこにマミゾウが、数冊の本を持ってやって来ていた。

 

「どうじゃ? それなりに状態は良いと思うのじゃが?」

 

「そうですね、良です。いつもありがとうございますマミさん。お陰で外来本の収穫が大変楽になりました」

 

「まあ、外から流れ着いた物を拾っておるだけじゃがな」

 

「それでも大助かりです。こういうのはどうしても運頼りですから」

 

「それは構わぬが、今回のは英語ばかりの本じゃ、需要はあまり無さそうじゃが・・・・・・」

 

「あら? 知らないんですかマミさん。最近寺子屋では、英語の授業を始めたらしいですよ。そのお陰か、少しではありますが、こういった本を読む人も増えたんです」

 

「ほほう、それは初耳じゃ、一体誰が教えとるんじゃ?」

 

「ジンさんです。あの人英語も流通しているんので、定期的に授業をしているんですよ」

 

「やれやれ、あやつは働き者じゃのう。神社の仕事もあるというのに・・・・・・」

 

「本人は好きでやっているみたいですよ」

 

そんな世間話をしていると、噂の人物が鈴奈庵にやって来た。

 

「あっ、いらっしゃいジンさん」

 

「こんにちは。って、マミゾウも居たのか」

 

「ちょいと、外来本の査定をして貰っていた所じゃ」

 

「へえ、今回のはどんな物が入ったんだ?」

 

そう言ってジンは、マミゾウが拾って来た外来本のタイトルを見る。

 

「外国のニュース誌か、また珍しい物が入って来たな」

 

「でも、内容は嘘っぽい物が多いですよ。これなんか特に」

 

そう言って小鈴が示したのは、大蛇が人間を丸飲みしたという記事であった。

 

「そんな大きな蛇なんて、いる訳ありませんよねぇ」

 

「いや、森の方に確か居たぞ」

 

「え!?」

 

「昔、サニー達と一緒に蛇を捕まえに行った事があってな、その時に大蛇に襲われた事があったんだ。

危うく食われそうになった所を、魔理沙に助けられて、事なき終えたが、幻想郷ならああいうのが居てもおかしく無いな」

 

「えっ!? そんなのがいるんですか!? 嫌だなぁ~」

 

「蛇と言えば、最近蛇の被害が増えとるのう。やはり冬に備えて、食料を確保しようと、人里に訪れているようじゃ」

 

「そうなのか?」

 

「そうなんですよ。蛇を思わず踏みつけて、逆に噛まれた人が結構いるみたいで・・・なんとかなりませんかね?」

 

「うーん・・・蛇の事なら守矢神社の方が詳しいかもな。今度聞いて見るよ」

 

「お願いしますねジンさん」

 

「ああ、任せろ」

 

ジンはそう言って、小鈴を安心させるように笑った。

 

―――――――――――

 

鈴奈庵を後にしたジンとマミゾウは、里の中を歩きながら話をしていた。

 

「それにしても、なぜ守矢に聞くなんて言ったんじゃ? そこは“博麗神社にお任せ”と言った方が、神社の宣伝にもなるだろうに」

 

「蛇に関しては、こっちは門外だ。そんな見栄を張って信頼を失うより、ちゃんとした専門家に頼んだ方が良いと思ったんだ。確か、神奈子は蛇の神様だったよな?」

 

「ん? ああまあ・・・・・・確かそんな感じじゃったな」(実際は違うんじゃが、それは儂が言う事ではないのう)

 

そんな話をしていると、マミゾウはふとある人物に視線を移した。その人物は、そのまま近くの飲食店へと入って行った。

 

「ん? どうしたマミゾウ?」

 

「いや、何でもない。悪いが急用を思い出したので、失礼するぞい」

 

そう言ってマミゾウは、ジンと別れて何処かへと行ってしまった。

 

―――――――――――

 

翌日。人里の広場では、早苗が何やら人を集めて演説を行っていた。

 

「――――このように、出来るだけ蛇に近づかず、里の外れにある分社にお供え物をして下さい。そうすれば、蛇は里の中には入って来ません」

 

演説が終わると、人々は早苗の元に行き、彼女が売る御守りを買い始めた。そんな様子を、ジンと霊夢は見ていた。

 

「まったく守矢の奴等・・・姑息な手段を使って・・・・・・」

 

「こらこら、俺らも同じような事をしただろ?」

 

「それとこれは話が別よ。うちでも蛇避けの御守りを売ろうかしら?」

 

「それは大いに賛成だな。今なら、守矢の御守りは売れるだろうし」

 

「何で向こう側の御守りを売らなくちゃいけないのよ?」

 

「だって、守矢神社と博麗神社は共同経営しているんだろ? 分社があるんだし」

 

「違うわジン。向こうが置かせて欲しいって、頭を下げたのよ。あんまにも必死だから、仕方なく置かせて上げたのよ」

 

「でも、そのおかげで参拝客が来るようになったんだろ?」

 

「ほんの少しだけどね」

 

「それでも来るようになったんだから、感謝しないと」

 

「むぅ・・・・・・」

 

そんな話をしていると、早苗が二人に声を掛けて来た。

 

「御二人ともー、見てないで手伝ってくださーい」

 

「何で私が―――」

 

「わかったー。今行くー」

 

「ちょっとジン!」

 

「俺から頼んだ事だし、別に手伝うくらい良いだろ。それに、巫女が二人並ぶだけでも、見栄えが良くなる」

 

「だからって・・・・・・」

 

「それにここで手伝って置けば、里の人の心証が良くなって、参拝客が増えるかも知れないぞ? ただ見て妬むより、よっぽど有意義だと思うが」

 

「わかったわよ。ちょっと癪だけど、手伝ってあげるわ」

 

「そうこなくっちゃ。さあ行こう」

 

そうして二人は、早苗を手伝う事にした。

ジンの狙い通り、霊夢と早苗の二人の巫女が並ぶ姿は、端から見ても華やかに見え、瞬く間に御守りは売り切れとなった。

 

 

御守りを売り切った三人。早苗は改めて、ジンと霊夢に礼を言った。

 

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「いや、そんな大した事はしていないって」

 

「いえいえ、宣伝から場所の確保、販売のお手伝いをしてくれたんですから、これくらいじゃ返せませんよ」

 

「あんたそんな事までやってたの?」

 

「まあそうだが・・・・・・」

 

「あんたのお節介は、今に始まった事じゃないけど、あまりうちを疎かにしないでね」

 

「ちゃんとやるって。それよりも、時間的に御昼だし、何処かで飯にしないか?」

 

「良いですね! 皆で食べに行きましょう!」

 

こうして三人は一緒に、昼食を食べに行く事にした。

―――――――――――

 

三人は何処の店で食べるか、話し合いながら歩いていると、向こう側から走って来る男の姿があった。

 

「ん? 一体なんだ?」

 

「食い逃げよー! 誰か捕まえてー!」

 

「なに!? 食い逃げですって!」

 

男から更に向こうからは、小鈴と店員らしき人物が走って来ていた。こちらに向かって走って来ている男は、食い逃げをしたようである。

事態を把握したジンは、直ぐ様行動に移した。

 

「せいっ!」

 

「のわぁ!?」

 

ジンは素早い身のこなしで、食い逃げの男を押さえつける。しかし男は激しく抵抗した。

 

「この! 大人しく―――がっ!?」

 

男はジンの腕に噛みついた。ジンは尋常ならない痛みを感じ、思わず男を離してしまった。

 

「ジン!?」

 

「ジンさん!?」

 

腕を抑えるジンに気を取られた二人は、男を捕まえる事が出来ず、通してしまった。

 

「しまった!?」

 

「待ちなさーい!」

 

二人は慌て追い掛けるものの、路地を曲がった所で、男の姿は煙のように消えていた。

 

「いない!?」

 

「でも、ここは行き止まりですよ? 一体どうやって・・・・・・?」

 

「そんなの、ジンの能力を使えば直ぐに――――って、ジン!?」

 

「ジンさん!?」

 

二人が振り返って見たのは、倒れ伏せているジンの姿と小鈴が必死に、ジンを呼び掛けている姿であった。

 

「一体どうしたの!?」

 

「分からないんです・・・いきなり倒れて、呼び掛けても返事が無くて・・・・・・」

 

不安そうに小鈴がそう答えた。霊夢は直ぐ様ジンの額に手をやると、彼が高熱を発している事がわかった。

 

「酷い熱・・・・・・急いで永遠亭に運びましょ! 早苗! 手伝って!」

 

「は、はい!」

 

「私も手伝います!」

 

「それじゃ小鈴ちゃんは、妹紅を呼んで来て頂戴。ジンが倒れている今、永遠亭の道を知っているのは彼女しかいないから」

 

「わ、わかりました!」

 

そう言って小鈴は、急いで妹紅の家へと向かった。そして霊夢と早苗は、ジンを運びながら迷いの竹林の入口へと向かうのであった。

 

―――――――――――

 

永遠亭に運び込まれたジンは、直ぐ様緊急治療が施された。

霊夢、早苗、小鈴と三人を案内した妹紅は、待合室で待ち続けた。

 

「ジンさん・・・大丈夫でしょうか・・・・・・?」

 

「大丈夫よ。この程度で死ぬような奴じゃないわ」

 

霊夢は気丈に振る舞うが、やはり何処か無理をしていると感じられた。しかし、誰もあえて指摘しようとはしなかった。

そうこうしているうちに時間が経過し、永琳が待合室に入って来た。

 

「待たせたわね」

 

「それでどうなったの?」

 

「少し深刻ね」

 

「深刻って、どういう事ですか?」

 

早苗がそう訪ねると、永琳は難しい表情をして答えた。

 

「彼は、蟒蛇の毒に犯されているわ」

 

「ウワバミって・・・大酒飲みのですか?」

 

「違うわ。大蛇の方よ」

 

「大蛇って・・・ジンさんは食い逃げに噛まれただけなんですよ! どうしてそんな毒に・・・・・・」

 

「その理由は、そこの二人が分かっているんじゃない?」

 

「え?」

 

全貌が把握出来ていない小鈴に対して、霊夢と早苗はいち早くあの食い逃げの正体に気づいていた。

 

「霊夢さん、もしかして―――」

 

「ええ、間違いないわ。あの食い逃げから、僅かにだけど妖気が感じられたもの」

 

「ど、どういう事なんですか!?」

 

「ああなるほど、つまりその食い逃げが、人間に化けていた蟒蛇だったって事か」

 

「ええ!? あの食い逃げが蟒蛇!?」

 

「そうだろうな。もしかしたら、最近多発している食い逃げは、全部そいつの仕業かも知れないな」

 

妹紅の言葉で、小鈴は驚きを隠せなかった。一方霊夢は、真剣な表情で永琳に訊ねた。

 

「それで? どうすればジンを助けられるの?」

 

「先ずは血清ね。ジンを噛みついた蟒蛇の血が必要よ。それさえあれば、彼を蝕む毒の解毒薬が作れるわ」

 

「なるほど。要はその蟒蛇を捕まえれば良いんでしょ? 簡単な話ね」

 

そう言って、霊夢は立ち上がり、待合室を出ようとする。

それを見た小鈴は、霊夢を呼び止める。

 

「霊夢さん? 一体どちらに――――」

 

「決まっているでしょ、ルール違反をした馬鹿蛇のところよ。幻想郷を舐めた事を、後悔させてやるんだから」

 

「居場所はわかるんですか?」

 

「そんなの勘よ」

 

そう言うと、霊夢は待合室を出ていった。

 

「行っちゃった・・・・・・」

 

「霊夢さん、そうとう怒ってましたね・・・・・・」

 

「そりゃ、身内に危害を加えたんだ。怒るなっていう方が無理だと思うぞ」

 

「これからどうします?」

 

「ここに居ても仕方ありませんから、私の方でも蟒蛇を探してみます」

 

「私はこの子を里に送ってから、自警団の皆にこの事を話すよ。流石にこのまま奴を放っておく訳にはいかないから」

 

「お願いします妹紅さん。それでは私は行きますね。

永琳さん。ジンさんの事を、よろしくお願いします」

 

「任せなさい。私がいる限り、彼を死なせないわ」

 

永琳ははっきりとそう言うと、早苗と小鈴は安堵の表情を浮かべた。

 

―――――――――――

 

一方、人里から少し離れた場所にある居酒屋。そこに大量の飯と酒を食べる男がいた。

 

「おかわり!」

 

「はいよ!」

 

店員は次々と料理を男の元に運び、男はそれらを平らげる。普通なら、支払いの方を心配する量なのだが、男はそんな素振りを見せずに食べ続けた。

そんな男の所に、一人の女性がやって来た。

 

「相席、良いかのう?」

 

「ん? あ、ああ・・・・・・」

 

男は怪訝に思った。店は満席という訳でも無いのに、どうして目の前の女性は自分の所に相席しに来たのだろうと。

 

「なあに、そんな警戒せんともよいじゃろう。儂はお主の同胞じゃ」

 

「へ?」

 

「儂はこう見えても化け狸じゃ、マミゾウと申す。以後、お見知りおきよ」

 

マミゾウがそう言うと、男は納得し、あっさりと警戒を解いた。

 

「なんだお仲間か。俺は蟒蛇、よろしくな」

 

「よろしく。折角の機会じゃ、色々と語り合おうではないか」

 

「おお、いいぜ」

 

こうして蟒蛇は、マミゾウの誘いをあっさりと受けてしまった。

 

 

それから時間は経ち、二人の会話は弾んでいた。

 

「ほう、お主は最近妖怪になったのか?」

 

「ああ、結構時間が掛かっちまったが、おかげでこうして人間に化けて、飯を食えるようになった。まさに妖怪様々だぜ」

 

「人間の飯をか・・・御主は大食らいのようじゃが、支払いはどうしておるのじゃ?」

 

「あっ? 何でそんな事をしなくちゃいけないんだ? 俺達は妖怪だろ? 好きに食って、好きに飲み、好きに襲う。それが妖怪ってもんだろう?」

 

「ほう? 御主は人を襲ったのか?」

 

「いや、これからさ。そう言えば・・・・・・生意気な人間がいたな。俺様を捕まえようとしたから、噛みついてやったよ。今ごろ、毒が回って苦しんでいるだろうに」

 

「その人間というのは、こんな顔か?」

 

マミゾウは自分の顔をジンに化けさせ、蟒蛇に見せる。蟒蛇はそれを見ると、笑いながら答えた。

 

「おお! そいつだそいつ。あんた化けるのが上手―――――」

 

蟒蛇は言葉を失ってしまう。先程まで談笑していたマミゾウの表情は、まるで氷のように冷めていた。

 

「御主は大きな過ちを犯した。まず一つ、人里で人間に危害を加えた事じゃ。幻想郷では、人里では人間に危害を加えてはいけないと定めておるのじゃよ」

 

「へ、へえ、そうなのかい、それは知らなかったなぁ」

 

「二つ目は、危害を加えた人間がジンという事じゃ。あやつは顔が広い、もし何があれば、紅魔館の住人、白玉露の庭師、永遠亭の住人、山に住んでいる仙人や一部の天狗達、守矢の神や旧都に住んでいる鬼達、人里の自警団、命連寺の妖怪と住職、不良天人、その他大勢の妖怪と妖精、博麗神社の奴等が黙っている筈がないのう」

 

「そ、そんな大袈裟な、たかが人間一匹に・・・・・・」

 

「御主は縁の力を甘く見とる。強くより多い縁を持つものは、それだけで周りに守られるのじゃ。それだけの縁を、あやつは結んでおるのじゃよ」

 

「・・・・・・」

 

「かく言う儂も、その縁の一つじゃ」

 

「へ? 一体何を――――」

 

すると蟒蛇の体はは突然ふらつき、床へと倒れる。体を動かそうとしても動かず、顔をだけをマミゾウの方を見上げる。

 

「な、なんだこれ・・・・・・」

 

「悪いと思ったが、一服盛らせて貰った。しばらくは動けんじゃろう」

 

そう言って、薬らしき物を見せる。そして周囲には、いつの間にか、マミゾウと同じ化け狸達がいた。どうやらこの店は、蟒蛇を捕まえる為の罠だったらしい。

 

「き、貴様・・・・・・」

 

「まあそう怒るな、これは御主の為じゃ。このまま他の奴等に捕まれば、間違いなく悲惨な目に合うじゃろう。儂は妖怪の味方じゃ、御主を保護してやろう。じゃが――――」

 

その時、蟒蛇は見てしまった。マミゾウの表情はとても恐ろしく、とても化け狸程度とは思えない程の貫禄を見せた。まさに、蛇に睨まれた蛙のような状態であった。

 

「御主は儂の友人を傷つけた。その落とし前はキッチリと払って貰うぞ?」

 

「ひ、ひぃ~!!」

 

蟒蛇の悲痛な叫びが、店に木霊した。

 

 

それから暫くして、蟒蛇は何処かへと連れて行かれ、店はマミゾウ一人だけとなった。

そんな時、霊夢が店の中に入って来た。

 

「思いの他、早かったのう」

 

マミゾウはそう言って、キセルを吸う。それを見ていた霊夢は、怪訝そうに訪ねた。

 

「私が来る事を知っていたの?」

 

「いや予想じゃ、御主程の実力者なら、あやつの妖気を辿るのは容易だと思ったからじゃ」

 

「その口振りからすると、私が探している蟒蛇の事を知っているようね」

 

「もちろんじゃ、そしてジンがあやつの毒で苦しんでいる事も」

 

「なら話が早いわ。今すぐそいつの居場所を教えなさい」

 

「嫌じゃと言ったら?」

 

「もちろん、力ずくで聞き出すまでよ」

 

そう言って、霊夢は祓い棒をマミゾウに突き出す。一方マミゾウは慌てもせずに、懐から液体が入った小瓶を取り出した。

 

「何よそれ?」

 

「これは、あの蟒蛇から抽出した血清じゃ」

 

「!? それを寄越しなさい!」

 

「おっと」

 

霊夢はマミゾウから血清を奪い取ろうとするが、マミゾウは軽い身のこなしでそれをかわす。

 

「やっても良いが、一つ条件がある」

 

「条件?」

 

「あの蟒蛇を見逃して欲しいのじゃ」

 

「はあ? 何をふざけた事を言ってのよ? あいつはルールを破ったのよ」

 

「もちろんそれは承知じゃ。しかし、あやつはまだ妖怪に成りたてで、幻想郷のルールを知らなかった。考えようでは、情状酌量の余地はあると思うのじゃが?」

 

「知らなかったで、何をしても良いって訳じゃないでしょ。 ジンなら、それで許してくれるかも知れないけど、私はジン程甘くも、優しくも無いのよ」

 

「まあ、御主の言い分は分かるが、儂とて妖怪の味方じゃ。おいそれと、同胞を見捨てる訳にもいかんのじゃ」

 

「それはこっちだって同じよ。おいそれと許しちゃ、妖怪は付け上がるだけなんだから」

 

「平行線じゃな・・・仕方ない、多少卑怯な手ではあるが―――――」

 

するとマミゾウは指の力を入れる。脆い小瓶は小さな音共に、僅かな亀裂が入った。それを見た霊夢は、大きく動揺した。

 

「あんた何を――!」

 

「御主が条件を飲まぬと言うのなら、この瓶を砕く」

 

「なっ!?」

 

「さてどうする? 博麗の巫女?」

 

「そんな脅し無駄よ! それを砕くのなら、あんたをとっちめて――――」

 

「確かに御主は強い。真っ向で戦えば、十中八九、儂が負けるじゃろう。じゃが、儂が本気で逃げに徹したらどうなる?」

 

それを聞いた霊夢は戦慄した。化け狸や化け狐の恐ろしさは、高度な変身技術にある。老練者なら、ほぼ気づかれる事はない。ましては相手は化け狸の総大将。彼女が本気で逃げたら、もう捕まえる事は出来ないだろう。

 

「あんたって奴は・・・ジンが死んでも良いの!?」

 

「良くは無い。あやつは儂の友人じゃからな」

 

「だったら――――」

 

「じゃが、だからといって同胞を見捨てる事は出来ぬ。儂は妖怪、あやつは人間。故に、どちらを取るとしたら、儂は同胞をとる」

 

「・・・・・・所詮は妖怪って事ね。あんたの考えがよーくわかったわ」

 

「理解したのなら、早々に選ぶんじゃな。条件を飲むか、飲まないか」

 

マミゾウはハッキリとそう言った。霊夢は、マミゾウの条件を飲む以外に選択はなかった。

 

「・・・・・・わかった。今回だけ見逃すわ」

 

「そうして貰えると助かる。ほれ」

 

マミゾウは霊夢に、血清が入った小瓶を手渡した。霊夢はマミゾウをひと睨みしてから、店を出て行った。

誰もいなくなった店の中で、マミゾウは小さくため息をつく

 

「はあ・・・友人より同胞をとるか・・・・・・儂はなんて薄情な奴なんじゃ」

 

そう小さく呟いて、静かにキセルを吸うのであった。

 

―――――――――――

 

それから数日後。ジンは血清により一命を取り止めた。そして今日、無事退院する事が出来のである。

 

 

「本当に大丈夫なの? もう少し入院していた方が・・・・・・」

 

「永琳が退院許可を出してくれたんだからもう大丈夫だろ。それよりも、休んでいた分働かないと」

 

「死にかけたのに、もう仕事の事? 少しワーカーホリックじゃないの?」

 

「そうかもな。正直、休んでいるより働いていた方が気が楽だ」

 

「重症ねこれは・・・・・・ん?」

 

そんな話をしていると、向こう側からマミゾウが歩いて来る。二人に気づいたマミゾウは、軽く挨拶をする。

 

「おや、見舞いに来たのじゃが、もう退院なのか?」

 

「ああ、永琳から許可を貰ったからな。いつまで休んでいる訳にはいかないからな」

 

「やれやれ、御主は少し休むという事を知った方が良いと思うのじゃが・・・どう思うんじゃ霊夢?」

 

マミゾウがそう訪ねても、霊夢は返事をせず、マミゾウの方を睨みつけていた。

 

「どうしたんだ霊夢? マミゾウの事を睨んで・・・・・・」

 

「何でも無いわよ。ただ、見たくもない化け狸の顔を見ただけ」

 

「やれやれ、嫌われたものじゃな」

 

「あんな事をされて、嫌われないとでも思ったの?」

 

「まあ確かに、嫌われても仕方ないのう」

 

「一体何があったんだ?」

 

「何じゃ、ジンに話をしとらんのか?」

 

「告げ口みたいな事はしたくないだけよ。こういうのは、あんた自身の口で言いなさい」

 

「・・・・・・それもそうじゃな。ジン、少し聞いて貰えるかのう?」

 

マミゾウはしっかりと、数日前に行われた霊夢とのやり取りをジンに話した。

するとジンは―――――。

 

「なるほど、そんな事があったのか」

 

――――と、何でもないように言うのであった。

これには霊夢は呆れ、マミゾウはただ驚いていた。

 

「そんな事って、あんたねぇ・・・・・・」

 

「怒らんのか? 儂は御主の命を盾に交渉した。儂は御主より同胞を取ったのじゃよ?」

 

「いや全然。マミゾウはマミゾウの立場があるんだから、そうしても仕方ない。それに、俺がマミゾウの立場だったら、そうしている。だから怒らない」

 

「御主・・・・・・」

 

「それに、マミゾウの傘下なら、その蟒蛇はもう悪さをしないし、させない。そうだろ?」

 

ジンはハッキリとそう言った。それはジンが、どれだけマミゾウを信頼しているか、よく分かる言葉であった。

それを聞いたマミゾウは、高らかに笑い声を上げた。

 

「あっはっはっはっ! 完敗じゃ、どうやら儂は、御主には勝てんようじゃ」

 

「へ? 何の事だ?」

 

「いや、気にせんで良い。それよりも、折角だから快気祝いをせんか? 全て儂が持つがゆえ」

 

「俺は別に構わないが・・・・・・」

 

ジンは霊夢の方をチラリと見る。すると霊夢は、呆れ顔で答えた。

 

「・・・・・・最高級の酒と料理なら、ジンに免じて水に流して上げるわ」

 

「あい分かった。御主たちが度肝を抜かすような最高の酒と料理を用意しよう」

 

マミゾウはにこやかに笑って、そう答えた。

それから博麗神社で、マミゾウ主宰のジンの快気祝いが行われた。それはいつもの宴会騒ぎとなり、夜遅くまで続いたいう。

 


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