東方軌跡録   作:1103

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今回の話しは、前話の後日談的なものです。
本当は前の話しの最後で、デートに出かけたっていうところで終わる予定だったのですが、書いている内に話が思いつき、別話として作り直しました。



霊夢とジンの一日

ここは霊夢の部屋。その一室で、霊夢は自分が持っている服を全て出して悩んでいた。

 

「うーん、困ったわね・・・・・・」

 

今日は、以前に約束したジンとデートの日なので、何を着ていこうか決めていたところなのだが――――。。

 

「っていうか、服の種類が無さすぎない?」

 

彼女はそう呟きながら、改めて自分が持っている服を確認する。

以前、旧都で旅行に出掛けた着た服、巫女服(戦闘用)、巫女服(夏着)、巫女服(冬着)、巫女服(普段着)。これらが霊夢が持っていた服の種類であった。

 

「まあ、神社だから巫女服は当たり前なんだけど、それにしたって色気が無いわね・・・・・・」

 

霊夢は思わずため息をつくが、頭を左右に振って気持ちを切り替える。

 

「悩んだって仕方無いわ! こうなったらいつも通りに――――」

 

「あら、そんな事で良いのかしら霊夢?」

 

「うわぁ!? いきなり現れて来ないでよ紫!」

 

何処からともなくスキマから現れた紫に、怒鳴りつける霊夢であったが、紫は気にも止めず霊夢の部屋に入って来た。

 

「いい霊夢。服というのは、着ているだけでその人の魅力を引き出す力があるのよ。だけど、いつまで同じ物を着ていると、見飽きられ、その力も失われてしまうの」

 

「何が言いたいの?」

 

「わからない? ならはっきり言うけど、貴女の巫女姿は見慣れてしまってるのよ」

 

「むぐっ!?」

 

紫の言葉が、霊夢にぐさりと突き刺さる。そんな霊夢を見て、紫が怪しく微笑んだ。

 

「良い霊夢? 男を落とすのなら、服装に気を配りなさい。特にジンみたいな男は、いつもと違う服装でも、コロッといくものよ」

 

「そうなの? なら、この前旅行にいった服で―――」

 

「地味すぎてボツ。女の子なんだから、もっと華やかにしなくっちゃ♪」

 

「ちょっ!? ゆか――――」

 

紫は霊夢を問答無用に、スキマの中に引きずり込むのであった。

 

―――――――――――

 

翌日、ジンは境内で霊夢を待っていた。

ジンは以前の反省を生かし、この日の為に買ったデート用の服を着て、準備完了状態であった。

 

「遅いな霊夢・・・・・・まあ、女の支度は時間が掛かるって言うからな」

 

そんな事を呟いていると、突然目の前からスキマが現れ、そこから霊夢が飛び出して来た。

 

「キャア!?」

「うおっ!?」

 

飛び出した霊夢を抱き止めるジン。

 

「いたたた・・・・・・まったくもう、紫ったら・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

そう呟きながら、霊夢が顔を上げると、そこにジンの顔があった。

二人はしばらく見つめ合い。我に返ると、直ぐ様離れた。

 

「ご、ごめん!」

 

「い、いや、こっちこそ―――って、霊夢その服・・・・・・」

 

「え? ああ、紫に無理矢理着せられたのよ」

 

霊夢は改めて、ジンに服を見せる。

白いブラウスに、やや短めのスカート。端からみると、育ちの良いお嬢様に見えた。

 

「へ、変かしら?」

 

「いや、似合っているよ霊夢。思わず見惚れていた」

 

「え、あ、その・・・・・・あ、ありがとう」

 

霊夢は顔を赤らめて、恥ずかしそうに答える。

 

「「・・・・・・」」

 

二人はしばらく無言でいたが、ジンがおもむろに手を差し出す。

 

「その・・・行こうか?」

 

「う、うん・・・・・・」

 

霊夢はその手を取る。二人は手を繋ぎながら、階段を降りて行った。

二人が行った後、その一部始終を見ていた集団がいた。

 

「おい、行ったみたいだぞ」

 

「よーし、追跡開始!」

 

そう言って木の影から出たのは、正邪とサニー、ルナ、スターの四人であった。

三人はジンと霊夢の後を追おうとしたが、ルナだけは乗り気ではなかった。

 

「ほ、本当にやるの?」

 

「あら? 怖じ気ついたのルナ?」

 

「あまりこういうのは良くないと思うんだけど・・・・・・」

 

「何言っているのよ! 私達を除け者して、二人だけで“でーと”っていう楽しい事をするつもりなのよ! こんな横暴許されないわ!」

 

「そうそう、仲間外れは見逃せないわ」

 

「でも・・・それって二人の邪魔をするって事じゃ・・・・・・」

 

「馬鹿だなルナは、こういうのは邪魔してなんぼなんだよ」

 

「そ、そうなの?」

 

「ああ、人の恋路は邪魔する物なんだぞ。これ、人間の間じゃ常識だ」

 

「そうだったんだ・・・・・・」

 

「よーし! お邪魔なら、私達三妖精におまかせよ!」

 

「久々の悪戯に、腕がなるわ♪」

 

(くっくっく、妖精なんてちょろいぜ)

 

こうして正邪に騙された三妖精は、ジンと霊夢のデートを邪魔しようと行動を開始するのであった。

 

―――――――――――

 

街道を歩いている霊夢とジン。霊夢は今日の予定をジンに聞いていた。

 

「それで今日はどうするの?」

 

「先ずは映画を見ようと思っている。気になる映画が上映されていたからな」

 

「どんな映画?」

 

「そうだな・・・人と妖怪が住んでいる里が舞台で、主人公が様々なトラブルを解決していく話だ」

 

「なんだか、親近感が沸く主人公ね」

 

「そうだな。霊夢も異変解決の専門だからな、きっと共感出来ると思うぞ」

 

「それは楽しみね。・・・・・・ん?」

 

霊夢はふと、後ろを振り向いた。しかし、そこには自分達が歩いた、長い街道しか無かった。

 

「どうした霊夢?」

 

「いえ・・・・・・何でも無いわ。それよりも、早く行きましょ」

 

こうして何事も歩き出す二人だが、霊夢が見たかなり先の方に正邪達が隠れていた。

 

「あっぶな・・・・・・ジンの能力を警戒して、離れておいてよかった」

 

「でもどうするの? これじゃ、迂闊に近づけないわよ?」

 

「まだ焦るな、こういうのはチャンスを待つんだよ」

 

「チャンスって?」

 

「奴等は映画を見に人里に行く。人里なら人が多いし、紛れ込めば早々に見つからない。そこが狙い目だ」

 

「なるほど・・・よーし、あの二人に目にもの見せてやるわー!」

 

そんな企みを抱きながら、正邪とサニー達はジンの後を追うのであった。

 

―――――――――――

 

人里の広場、そこにテントが張られ、河童達のいつもの定期上映が行われていた。

映画の上映が終わったのか、人々がテントから出てきた。その中に、霊夢とジンの姿もあった。

 

「いやー、結構面白かったわね。見ていて痛快だったわ♪」

 

「ああ、久々に見ても面白かったな。俺としては名作だったんだが、あまり有名にならなかったんだ」

 

「あらそうなの? 不憫な話よね」

 

「まったくだ。ところで霊夢」

 

「ん? なに?」

 

「そろそろ昼だから、何処かで飯を食べにいこう」

 

「良いわね♪ それじゃ―――」

 

ジンと霊夢は、何処で昼食を食べるか話し合いながら、歩き出した。

一方二人の後から、正邪とサニー達が出てきていた。

 

「いやー、面白かったわねあの映画! 特にあの三妖怪に親近感沸いたわ!」

 

「そうね、毎度毎度主人公に悪戯をかますけど、いつも詰めが甘くて、逆にお仕置きされちゃうのよね。見ていてもおかしかったわ♪」

 

「正邪さんはどうでした?」

 

「ん? ぜんぜん詰まらねぇクソ映画だったな」

 

「えー・・・・・・」

 

「まあでも、主人公のライバルのひねくれ妖怪は良かった。あのひねくれ具合は、なかなかいい感じだったな」

 

「そ、そう・・・・・・ところでお腹すいたから、何処かで御飯食べない?」

 

「さんせーい!」

 

「ん? 何か忘れているような・・・・・・ま、いっか」

 

こうして正邪達は、当初の目的を忘れ、御飯を食べに行ってしまった。

 

―――――――――――

 

霊夢とジンは、里の蕎麦屋で蕎麦を食べていた。

 

「うーん♪ この蕎麦やっぱり美味しいわ♪」

 

「そうだな。麺も汁もなかなかの物だな」

 

「店員さんも愛想良いしね♪」

 

「ああ、確かにこれなら繁盛するな」

 

そんな話をしながら、二人は美味しそう蕎麦を食べていた。

しばらくすると、霊夢が今後の予定をジンに訪ねて来た。

 

「ねえ? この後はどうするの?」

 

「ん? そうだな・・・取り合えず市場に行こうと思っているのだが・・・・・・」

 

「良いわねそれ、それじゃ――――ん?」

 

「どうした霊夢?」

 

「あそこにいるのって、正邪とサニー達じゃない?」

 

そう言って霊夢は、窓から向かい側の団子屋を指を差す。団子屋の窓際に、四人の姿があった。

 

「本当だ。珍しい組み合わせだな」

 

二人はしばらく、四人の様子を眺めていた。なんとも仲が良さそうであった。

 

(いつもあんな感じだったらいいのに・・・・・・ん?)

 

しばらく眺めていると、四人は何か揉め始め、焦り出した。

 

「一体どうしたのかしら?」

 

「うーむ・・・飲食店で慌てると言ったら、一つしか無いな」

 

「それはなに?」

 

「財布を忘れたか、金が足りないかだ」

 

「ああ、それは焦るわね」

 

「仕方無い。向こうに行って、代わりに払ってやるか」

 

「え? 大丈夫なの?」

 

「大丈夫。今日は多めに持って来たから。それに、身内が食い逃げなんかしたら、博麗神社の評判に響くだろ?」

 

「それもそう――――って、いない!」

 

「なに!?」

 

霊夢の言葉に、ジンは慌てて団子屋の方を見る。そこには正邪達の姿は無く、代わりに慌てている店員の姿があった。

 

「あいつら、やりやがったな!」

 

「まだ遠くに行っていない筈よ! 急いで探しましょう!」

 

「ああ! くそっ! これじゃデートが台無しだ!」

 

悪態つきながらも、二人は御代を払い。急いで正邪達を探しに行った。

 

―――――――――――

 

夕方の街道、御立腹の霊夢、その隣を歩くジン。その後ろから、頭に大きなタンコブが出来たサニー達が歩いていた。

あの後、霊夢達と正邪達の追いかけっこが始まり、捕まえた頃には夕暮れとなっていた。

捕まえた後、正邪はボコボコにされ、通りすがりの山の仙人に引き渡し。サニー達は霊夢に折檻を受け、団子屋の店主に頭を下げたのである。しかし、霊夢の怒りは収まらなかった。

 

「まったくもう! まさか食い逃げするなんて思わなかったわ!」

 

「だって・・・・・・」

 

「ちゃんと給金出しているんだから、それを使いなさいよ!」

 

「その・・・あまり手持ちが無くて・・・・・・」

 

「だからって、食い逃げするな! 神社の評判が落ちたらどうするのよ!」

 

「ううっ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 

 

「もう! せっかくのデートが台無しよ!」

 

霊夢は口々に、サニー達の叱責とデートが台無しになった不満を口にする。

いつもならサニー達を庇護するジンだが、今回ばかりはサニー達が悪いと感じ、何も言わずに黙っていた。

 

「少しは反省したの!?」

 

「「「ご、ごめんなさ~い!」」」

 

サニー達は思いっきり霊夢に頭を下げて謝った。

霊夢もそれ以上何も言わないが、やはりデートを途中で中断した事に、不満があるようであった。

 

「あーあ、せっかくおしゃれしたのに、こんな中途半端に終わるなんて・・・・・・」

 

「そう気を落とすなよ霊夢。また別の日に、この埋め合わせをするから」

 

「え? また誘ってくれるの?」

 

「ああ、もちろん。霊夢が良ければ、時々でもいいから遊びに行きたいと思っている」

 

「わ、私は別に構わないわよ。そうね、次は買い物に行きたいわ」

 

「ああわかった。ところで、そろそろサニー達を許してやらないか?」

 

「え?」

 

ジンに言われ、霊夢は改めて後ろを振り向く。そこには項垂れて落ち込む三人の姿があった。

 

「流石にあのままだと、色々と見るに耐えれないからな」

 

「あんたって本当に甘いわね・・・・・・」

 

「飴担当だからな、鞭担当は霊夢って事で」

 

「正邪は?」

 

「あいつに飴はいらんだろ。鞭だけで十分だ」

 

「やれやれ、正邪にだけは厳しいのね・・・・・・」

 

「こいつがもう少し素直になって、最低限の節度を守れば、態度を改めるけどな・・・・・・」

 

「それは無いわね」

 

「無いな。だから恐らく、俺と正邪の関係は一生変わらないだろうな」

 

「ふーん・・・・・・」

 

「ん? どうした?」

 

「ちょっと羨ましいと思って」

 

「誰が?」

 

「正邪が」

 

霊夢のその言葉を聞いて、ジンは思わず足を止めてしまう。そして恐る恐る、霊夢にもう一度訪ねた。

 

「なあ霊夢、俺の聞き間違いかと思うけど、正邪が羨ましいと言ったか?」

 

「言ったわよ」

 

「マジか?」

 

「マジよ」

 

「一体何処が羨ましいと思ったんだ?」

 

「だってあんた、正邪にしか自分の感情をぶつけていないでしょ?」

 

「うっ・・・・・・」

 

ジンは思わず言葉に詰まってしまう。霊夢の言う通り、感情を剥き出しに向けるのは、正邪だけである事は、彼も自覚はあったのである。

 

「まあなんていうか・・・やっぱり心の何処かで、遠慮しなくていい相手だと思っているんだよな・・・・・・」

 

「だから羨ましいのよ。あんたって、誰に対しても遠慮するから。なんだか正邪だけ特別みたいな感じで」

 

「そんな事は無い。俺にとって本当に特別なのは――――」

 

そう言って、ジンは言葉を続けようとしなかった。そんなジンに、霊夢は問いただす。

 

「最後まで言って、本当に特別なのは?」

 

「えっとその・・・・・・」

 

口ごもるジンを、霊夢は静かに見つめる。そんな視線に耐えられなかったジンは、観念して白状する事にした。

 

「わかった・・・言うよ。俺が本当に特別だと思う人は――――」

 

言おうとした瞬間、突然誰かの御腹の音がした。どうやらサニー達の誰かが、お腹を鳴らしてしまったようである。

 

「え、え~と・・・・・・今のはルナです!」

 

「ちょっと! 今鳴ったのはサニーのお腹でしょ!」

 

「人のせいにしないでよね!」

 

「それはこっちの台詞よ!」

 

「ちょ、ちょっと二人とも! 今、喧嘩は不味いわよ!」

 

サニーとルナは喧嘩を始めてしまい。普段は傍観しているスターであったが、流石にタイミングが悪いと感じ、二人の喧嘩を止めようとする。

それを見ていた霊夢は呆れながらも、三人に言った。

 

「あんた達! 喧嘩はやめなさい!」

 

「「は、はい!」」

 

霊夢の言葉で、サニーとルナはピタリと喧嘩を止めた。

そして霊夢は、サニー達に先程の怒った口調では無く。優しく諭すように言った。

 

「お腹空いているなら、今日は神社で食べて行きなさい。ちょうど妖狐が作ってくれている筈だから」

 

「え? いいんですか?」

 

「良いわよ。ただし、今後あのような事はしないように。わかった?」

 

「「「はーい!」」」

 

霊夢に許された事が嬉しかったのか、先程とはうって変わってはしゃぐサニー達。そんな様子を見て、微笑むジンであった。

サニー達が先に行ったのを見計らい、霊夢は先程の続きを訪ねた。

 

「それでジン。さっきの続きだけど―――」

 

「・・・・・・やっぱり言わなくちゃ駄目か?」

 

「何よ? 怖じ気ついたの?」

 

「まあそんな感じだ。俺は臆病だから、勢いが無くなると駄目なんだよ」

 

「はぁ・・・・・・わかったわ。今回は見逃す事にするわ。でも―――」

 

霊夢は一歩二歩前に出て、振り返りながらジンに―――。

 

「いつか、ちゃんと教えてね。約束よ」

 

そう笑顔で言った。

ジンは、その輝かしい笑顔に見惚れてしまい、ただ頷く事しか出来なかった。


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