本当は前の話しの最後で、デートに出かけたっていうところで終わる予定だったのですが、書いている内に話が思いつき、別話として作り直しました。
ここは霊夢の部屋。その一室で、霊夢は自分が持っている服を全て出して悩んでいた。
「うーん、困ったわね・・・・・・」
今日は、以前に約束したジンとデートの日なので、何を着ていこうか決めていたところなのだが――――。。
「っていうか、服の種類が無さすぎない?」
彼女はそう呟きながら、改めて自分が持っている服を確認する。
以前、旧都で旅行に出掛けた着た服、巫女服(戦闘用)、巫女服(夏着)、巫女服(冬着)、巫女服(普段着)。これらが霊夢が持っていた服の種類であった。
「まあ、神社だから巫女服は当たり前なんだけど、それにしたって色気が無いわね・・・・・・」
霊夢は思わずため息をつくが、頭を左右に振って気持ちを切り替える。
「悩んだって仕方無いわ! こうなったらいつも通りに――――」
「あら、そんな事で良いのかしら霊夢?」
「うわぁ!? いきなり現れて来ないでよ紫!」
何処からともなくスキマから現れた紫に、怒鳴りつける霊夢であったが、紫は気にも止めず霊夢の部屋に入って来た。
「いい霊夢。服というのは、着ているだけでその人の魅力を引き出す力があるのよ。だけど、いつまで同じ物を着ていると、見飽きられ、その力も失われてしまうの」
「何が言いたいの?」
「わからない? ならはっきり言うけど、貴女の巫女姿は見慣れてしまってるのよ」
「むぐっ!?」
紫の言葉が、霊夢にぐさりと突き刺さる。そんな霊夢を見て、紫が怪しく微笑んだ。
「良い霊夢? 男を落とすのなら、服装に気を配りなさい。特にジンみたいな男は、いつもと違う服装でも、コロッといくものよ」
「そうなの? なら、この前旅行にいった服で―――」
「地味すぎてボツ。女の子なんだから、もっと華やかにしなくっちゃ♪」
「ちょっ!? ゆか――――」
紫は霊夢を問答無用に、スキマの中に引きずり込むのであった。
―――――――――――
翌日、ジンは境内で霊夢を待っていた。
ジンは以前の反省を生かし、この日の為に買ったデート用の服を着て、準備完了状態であった。
「遅いな霊夢・・・・・・まあ、女の支度は時間が掛かるって言うからな」
そんな事を呟いていると、突然目の前からスキマが現れ、そこから霊夢が飛び出して来た。
「キャア!?」
「うおっ!?」
飛び出した霊夢を抱き止めるジン。
「いたたた・・・・・・まったくもう、紫ったら・・・・・・」
「・・・・・・」
そう呟きながら、霊夢が顔を上げると、そこにジンの顔があった。
二人はしばらく見つめ合い。我に返ると、直ぐ様離れた。
「ご、ごめん!」
「い、いや、こっちこそ―――って、霊夢その服・・・・・・」
「え? ああ、紫に無理矢理着せられたのよ」
霊夢は改めて、ジンに服を見せる。
白いブラウスに、やや短めのスカート。端からみると、育ちの良いお嬢様に見えた。
「へ、変かしら?」
「いや、似合っているよ霊夢。思わず見惚れていた」
「え、あ、その・・・・・・あ、ありがとう」
霊夢は顔を赤らめて、恥ずかしそうに答える。
「「・・・・・・」」
二人はしばらく無言でいたが、ジンがおもむろに手を差し出す。
「その・・・行こうか?」
「う、うん・・・・・・」
霊夢はその手を取る。二人は手を繋ぎながら、階段を降りて行った。
二人が行った後、その一部始終を見ていた集団がいた。
「おい、行ったみたいだぞ」
「よーし、追跡開始!」
そう言って木の影から出たのは、正邪とサニー、ルナ、スターの四人であった。
三人はジンと霊夢の後を追おうとしたが、ルナだけは乗り気ではなかった。
「ほ、本当にやるの?」
「あら? 怖じ気ついたのルナ?」
「あまりこういうのは良くないと思うんだけど・・・・・・」
「何言っているのよ! 私達を除け者して、二人だけで“でーと”っていう楽しい事をするつもりなのよ! こんな横暴許されないわ!」
「そうそう、仲間外れは見逃せないわ」
「でも・・・それって二人の邪魔をするって事じゃ・・・・・・」
「馬鹿だなルナは、こういうのは邪魔してなんぼなんだよ」
「そ、そうなの?」
「ああ、人の恋路は邪魔する物なんだぞ。これ、人間の間じゃ常識だ」
「そうだったんだ・・・・・・」
「よーし! お邪魔なら、私達三妖精におまかせよ!」
「久々の悪戯に、腕がなるわ♪」
(くっくっく、妖精なんてちょろいぜ)
こうして正邪に騙された三妖精は、ジンと霊夢のデートを邪魔しようと行動を開始するのであった。
―――――――――――
街道を歩いている霊夢とジン。霊夢は今日の予定をジンに聞いていた。
「それで今日はどうするの?」
「先ずは映画を見ようと思っている。気になる映画が上映されていたからな」
「どんな映画?」
「そうだな・・・人と妖怪が住んでいる里が舞台で、主人公が様々なトラブルを解決していく話だ」
「なんだか、親近感が沸く主人公ね」
「そうだな。霊夢も異変解決の専門だからな、きっと共感出来ると思うぞ」
「それは楽しみね。・・・・・・ん?」
霊夢はふと、後ろを振り向いた。しかし、そこには自分達が歩いた、長い街道しか無かった。
「どうした霊夢?」
「いえ・・・・・・何でも無いわ。それよりも、早く行きましょ」
こうして何事も歩き出す二人だが、霊夢が見たかなり先の方に正邪達が隠れていた。
「あっぶな・・・・・・ジンの能力を警戒して、離れておいてよかった」
「でもどうするの? これじゃ、迂闊に近づけないわよ?」
「まだ焦るな、こういうのはチャンスを待つんだよ」
「チャンスって?」
「奴等は映画を見に人里に行く。人里なら人が多いし、紛れ込めば早々に見つからない。そこが狙い目だ」
「なるほど・・・よーし、あの二人に目にもの見せてやるわー!」
そんな企みを抱きながら、正邪とサニー達はジンの後を追うのであった。
―――――――――――
人里の広場、そこにテントが張られ、河童達のいつもの定期上映が行われていた。
映画の上映が終わったのか、人々がテントから出てきた。その中に、霊夢とジンの姿もあった。
「いやー、結構面白かったわね。見ていて痛快だったわ♪」
「ああ、久々に見ても面白かったな。俺としては名作だったんだが、あまり有名にならなかったんだ」
「あらそうなの? 不憫な話よね」
「まったくだ。ところで霊夢」
「ん? なに?」
「そろそろ昼だから、何処かで飯を食べにいこう」
「良いわね♪ それじゃ―――」
ジンと霊夢は、何処で昼食を食べるか話し合いながら、歩き出した。
一方二人の後から、正邪とサニー達が出てきていた。
「いやー、面白かったわねあの映画! 特にあの三妖怪に親近感沸いたわ!」
「そうね、毎度毎度主人公に悪戯をかますけど、いつも詰めが甘くて、逆にお仕置きされちゃうのよね。見ていてもおかしかったわ♪」
「正邪さんはどうでした?」
「ん? ぜんぜん詰まらねぇクソ映画だったな」
「えー・・・・・・」
「まあでも、主人公のライバルのひねくれ妖怪は良かった。あのひねくれ具合は、なかなかいい感じだったな」
「そ、そう・・・・・・ところでお腹すいたから、何処かで御飯食べない?」
「さんせーい!」
「ん? 何か忘れているような・・・・・・ま、いっか」
こうして正邪達は、当初の目的を忘れ、御飯を食べに行ってしまった。
―――――――――――
霊夢とジンは、里の蕎麦屋で蕎麦を食べていた。
「うーん♪ この蕎麦やっぱり美味しいわ♪」
「そうだな。麺も汁もなかなかの物だな」
「店員さんも愛想良いしね♪」
「ああ、確かにこれなら繁盛するな」
そんな話をしながら、二人は美味しそう蕎麦を食べていた。
しばらくすると、霊夢が今後の予定をジンに訪ねて来た。
「ねえ? この後はどうするの?」
「ん? そうだな・・・取り合えず市場に行こうと思っているのだが・・・・・・」
「良いわねそれ、それじゃ――――ん?」
「どうした霊夢?」
「あそこにいるのって、正邪とサニー達じゃない?」
そう言って霊夢は、窓から向かい側の団子屋を指を差す。団子屋の窓際に、四人の姿があった。
「本当だ。珍しい組み合わせだな」
二人はしばらく、四人の様子を眺めていた。なんとも仲が良さそうであった。
(いつもあんな感じだったらいいのに・・・・・・ん?)
しばらく眺めていると、四人は何か揉め始め、焦り出した。
「一体どうしたのかしら?」
「うーむ・・・飲食店で慌てると言ったら、一つしか無いな」
「それはなに?」
「財布を忘れたか、金が足りないかだ」
「ああ、それは焦るわね」
「仕方無い。向こうに行って、代わりに払ってやるか」
「え? 大丈夫なの?」
「大丈夫。今日は多めに持って来たから。それに、身内が食い逃げなんかしたら、博麗神社の評判に響くだろ?」
「それもそう――――って、いない!」
「なに!?」
霊夢の言葉に、ジンは慌てて団子屋の方を見る。そこには正邪達の姿は無く、代わりに慌てている店員の姿があった。
「あいつら、やりやがったな!」
「まだ遠くに行っていない筈よ! 急いで探しましょう!」
「ああ! くそっ! これじゃデートが台無しだ!」
悪態つきながらも、二人は御代を払い。急いで正邪達を探しに行った。
―――――――――――
夕方の街道、御立腹の霊夢、その隣を歩くジン。その後ろから、頭に大きなタンコブが出来たサニー達が歩いていた。
あの後、霊夢達と正邪達の追いかけっこが始まり、捕まえた頃には夕暮れとなっていた。
捕まえた後、正邪はボコボコにされ、通りすがりの山の仙人に引き渡し。サニー達は霊夢に折檻を受け、団子屋の店主に頭を下げたのである。しかし、霊夢の怒りは収まらなかった。
「まったくもう! まさか食い逃げするなんて思わなかったわ!」
「だって・・・・・・」
「ちゃんと給金出しているんだから、それを使いなさいよ!」
「その・・・あまり手持ちが無くて・・・・・・」
「だからって、食い逃げするな! 神社の評判が落ちたらどうするのよ!」
「ううっ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
「もう! せっかくのデートが台無しよ!」
霊夢は口々に、サニー達の叱責とデートが台無しになった不満を口にする。
いつもならサニー達を庇護するジンだが、今回ばかりはサニー達が悪いと感じ、何も言わずに黙っていた。
「少しは反省したの!?」
「「「ご、ごめんなさ~い!」」」
サニー達は思いっきり霊夢に頭を下げて謝った。
霊夢もそれ以上何も言わないが、やはりデートを途中で中断した事に、不満があるようであった。
「あーあ、せっかくおしゃれしたのに、こんな中途半端に終わるなんて・・・・・・」
「そう気を落とすなよ霊夢。また別の日に、この埋め合わせをするから」
「え? また誘ってくれるの?」
「ああ、もちろん。霊夢が良ければ、時々でもいいから遊びに行きたいと思っている」
「わ、私は別に構わないわよ。そうね、次は買い物に行きたいわ」
「ああわかった。ところで、そろそろサニー達を許してやらないか?」
「え?」
ジンに言われ、霊夢は改めて後ろを振り向く。そこには項垂れて落ち込む三人の姿があった。
「流石にあのままだと、色々と見るに耐えれないからな」
「あんたって本当に甘いわね・・・・・・」
「飴担当だからな、鞭担当は霊夢って事で」
「正邪は?」
「あいつに飴はいらんだろ。鞭だけで十分だ」
「やれやれ、正邪にだけは厳しいのね・・・・・・」
「こいつがもう少し素直になって、最低限の節度を守れば、態度を改めるけどな・・・・・・」
「それは無いわね」
「無いな。だから恐らく、俺と正邪の関係は一生変わらないだろうな」
「ふーん・・・・・・」
「ん? どうした?」
「ちょっと羨ましいと思って」
「誰が?」
「正邪が」
霊夢のその言葉を聞いて、ジンは思わず足を止めてしまう。そして恐る恐る、霊夢にもう一度訪ねた。
「なあ霊夢、俺の聞き間違いかと思うけど、正邪が羨ましいと言ったか?」
「言ったわよ」
「マジか?」
「マジよ」
「一体何処が羨ましいと思ったんだ?」
「だってあんた、正邪にしか自分の感情をぶつけていないでしょ?」
「うっ・・・・・・」
ジンは思わず言葉に詰まってしまう。霊夢の言う通り、感情を剥き出しに向けるのは、正邪だけである事は、彼も自覚はあったのである。
「まあなんていうか・・・やっぱり心の何処かで、遠慮しなくていい相手だと思っているんだよな・・・・・・」
「だから羨ましいのよ。あんたって、誰に対しても遠慮するから。なんだか正邪だけ特別みたいな感じで」
「そんな事は無い。俺にとって本当に特別なのは――――」
そう言って、ジンは言葉を続けようとしなかった。そんなジンに、霊夢は問いただす。
「最後まで言って、本当に特別なのは?」
「えっとその・・・・・・」
口ごもるジンを、霊夢は静かに見つめる。そんな視線に耐えられなかったジンは、観念して白状する事にした。
「わかった・・・言うよ。俺が本当に特別だと思う人は――――」
言おうとした瞬間、突然誰かの御腹の音がした。どうやらサニー達の誰かが、お腹を鳴らしてしまったようである。
「え、え~と・・・・・・今のはルナです!」
「ちょっと! 今鳴ったのはサニーのお腹でしょ!」
「人のせいにしないでよね!」
「それはこっちの台詞よ!」
「ちょ、ちょっと二人とも! 今、喧嘩は不味いわよ!」
サニーとルナは喧嘩を始めてしまい。普段は傍観しているスターであったが、流石にタイミングが悪いと感じ、二人の喧嘩を止めようとする。
それを見ていた霊夢は呆れながらも、三人に言った。
「あんた達! 喧嘩はやめなさい!」
「「は、はい!」」
霊夢の言葉で、サニーとルナはピタリと喧嘩を止めた。
そして霊夢は、サニー達に先程の怒った口調では無く。優しく諭すように言った。
「お腹空いているなら、今日は神社で食べて行きなさい。ちょうど妖狐が作ってくれている筈だから」
「え? いいんですか?」
「良いわよ。ただし、今後あのような事はしないように。わかった?」
「「「はーい!」」」
霊夢に許された事が嬉しかったのか、先程とはうって変わってはしゃぐサニー達。そんな様子を見て、微笑むジンであった。
サニー達が先に行ったのを見計らい、霊夢は先程の続きを訪ねた。
「それでジン。さっきの続きだけど―――」
「・・・・・・やっぱり言わなくちゃ駄目か?」
「何よ? 怖じ気ついたの?」
「まあそんな感じだ。俺は臆病だから、勢いが無くなると駄目なんだよ」
「はぁ・・・・・・わかったわ。今回は見逃す事にするわ。でも―――」
霊夢は一歩二歩前に出て、振り返りながらジンに―――。
「いつか、ちゃんと教えてね。約束よ」
そう笑顔で言った。
ジンは、その輝かしい笑顔に見惚れてしまい、ただ頷く事しか出来なかった。