今回はいつもの趣旨と違い、バトル物にしました。
主人公補正、ご都合主義、つたない戦闘描写満載です。
しかも、文字数は三万超えです。分割を考えましたが、せっかくなので分割無しで投稿することにしました。
かなり長いですが、最後まで読んでくれると嬉しいです。
某月某日。人里には、千を超えるの猛者が集められていた。
「えー、マイクテス、マイクテス。ごほん、それではお集まりの皆さん! これより、弾幕バトルロワイヤルを開始いたします!」
「「「「おー!!!」」」」
文の言葉に、猛者達が唸りを上げる。
弾幕バトルロワイヤルとは、数年に一度行われる。大規模な弾幕ゲームである。
参加者にはそれぞれ、参加札を所持し、制限時間内にそれをより多く奪った者が優勝である。
また、優勝出来なかった者も、札の枚数に応じて賞金が出され、札一枚につき、一円―――外の世界だと最低一万円分の賞金が貰えるのである。
もっともそれは、さいごまで生き残る事が出来ればの話である。
「それでは、位置について・・・よーいスタート!」
文が始まりの合図を出したその瞬間、猛者達は人里の外へと散った。バトルロワイヤルの始まりである。
―――――――――――
魔法の森の中を、ジンはライと共に歩いていた。
「はあ・・・正直やりたくないな・・・・・・」
「ギィ?」
「ん? ああ、はっきり言ってこんなゲームには参加したくはなかったんだが、霊夢の奴に無理矢理な・・・・・・」
それは数日前の事。霊夢は全員にこう告げていた。
『全員参加よ! そんでもって、賞金を手にいれなさい!』
完全に金に目が眩んでいた霊夢に逆らう事が出来ず、ジンは渋々参加する事になった。
「ともかく、出来るだけ戦いは避けよう。ライもそれで良いな?」
「ギィ!」
「弱腰で結構、こういうのは臆病者が勝つんだよ」
そんな話をしながら、ジンとライは、霧の湖に出た。
「さーて、これからどうす――――避けろライ!」
ジンは叫ぶと同時に、飛び退いた。ライも声に反応し、その場から飛び退いた。
すると二人がさっき居た場所に、水弾と氷塊が撃ち込まれた。
「あら? かわされちゃった?」
「ふふん、流石はアタイのライバルだ!」
湖からわかさぎ姫とチルノが現れた。
「わかさぎとチルノか、まさか待ち伏せとは・・・・・・」
「ええ、本当はチルノちゃんが、ここまで誘き寄せる手筈だったけど、手間が省けたわ」
「こういうの、飛んで火にいる・・・・・・秋の虫? 春だっけ?」
「夏だチルノ。飛んで火にいる夏の虫だ」
「そうそれ! でも、何で夏なんだ?」
「夏が、虫達が一番活発だからだ」
「おお! そうなんだ! ジンは物知りなんだな!」
「ええっと・・・そろそろ始めても?」
「ああ、悪い」
「こほん、それでは行くわよ! テイルフィンスラップ!」
わかさぎ姫が放った水弾は、ジンとライに目掛けて放たれた。
「土獸!」
ジンは土獸を召喚し、土の壁で水弾を防ぐ。
「食らえ! ダイヤモンドブリザード!」
今度はチルノが放った氷塊が、土の壁に幾重にも刺さり、やがて粉砕していった。
「くっ、ライ!」
「ギィ!」
次にライが、電撃を放ち、チルノ氷塊を次々と消滅させる。
「あわわ!」
「そうはさせないわ!」
するとわかさぎ姫が水流を放つ。ライが放った電撃は、水流によって逸らされた。
「ふふん、どうだアタイ達のコンビは!」
自慢気に言うチルノに対して、ジンは少し悩んでいた。
(う、うーむ・・・これは少し厄介だな。あまり時間を掛けると、他の奴等に見つかる可能性がある)
ジンが危惧しているのは、第三者による強襲である。バトルロワイヤルである以上、もっとも警戒すべき事態である。
(仕方ない・・・卑怯だが、この手を使うか)
「ライ! 電撃を放て!」
「ギィ!」
「無駄よ! 貴方の電撃なんて、私の水流で―――」
「ただし、湖に目掛けてだ!」
「え?」
ライは言われるまま、湖に目掛けて電撃を放った。電撃は水を走り、湖の中にいたわかさぎ姫は、感電してしまう。
「あばばばば!」
「わ、わかさぎー!」
わかさぎ姫を助けようと、近寄るチルノ。しかし、彼女もわかさぎ姫ともに感電してしまう。
「「あばばばば!!」」
こうして二人は、仲良くリタイヤしたのであった。
[わかさぎ姫、チルノ、リタイヤ。]
[ライ、札二枚獲得。現在三枚]
―――――――――――
霧の湖を後にしたジンとライは、妖怪山を目指していた。
「ともかく、動き回らないと、また見つかる。ああ、こんな時にサニー達がいればな・・・・・・」
「ギィ」
そんな愚痴を言いながら歩いていると、大きな悲鳴が聞こえて来た。
「「「キャー!!」」」
「あの声は・・・サニー達だ! 急ごう!」
「ギィー!」
二人は急いで、悲鳴が上がった場所へと向かった。
その頃、悲鳴が上がった場所では、サニー達が追い詰められていた。
「ようやく捕まえた。さあ、観念しなさい」
「「「あわわわ・・・・・・」」」
「影狼、弱いイジメは良くないと思うけど」
蛮奇は相棒の、今泉影狼にそう言った。やりづらそうに答えた。
「それは分かっているけど、今のうちにこつこつ札を取らないと。後半は強いやつしかいないんだし」
「それは・・・わかるけどさあ・・・・・・」
「別に取って食おうって訳じゃないわ。札を取り上げるだけ」
そう言って、今泉影狼は、ゆっくりとサニー達に近づいた。
「さあ、痛い目に合いたくなかったら、大人しく札を渡し――――」
「待て!」
そこにジンが颯爽と現れた。
ジンの姿を見たサニー達は、安堵の表情を浮かべる。
「ジンか・・・面倒な奴が来たね・・・・・・」
「蛮奇か、それと――――」
「私は今泉影狼、蛮奇の友人だよ」
「狼女か、それでサニー達を見つけた訳だな」
「そういう事。狩りは狼の本分だからね、貴方から狩ってあげるわ!」
影狼がそう叫ぶと、ジンに目掛けて飛び掛かった。
「スターリングバウンス!」
「おわ!? 意外と早い!」
「狼になれなくても、スピードに自信があるのよ!」
そう言って、影狼はジンに向かって何度も飛び掛かった。
ジンは影狼の動きを予測し、それをかわす。しかし、別の方向から弾幕が飛んで来た。
「くっ、蛮奇か!」
「悪いけど、二対一でやらせて貰うわ。マルチプリケティブヘッド!」
蛮奇は頭を飛ばし、それを五つに分身させ、それぞれの頭で、ジンに攻撃を仕掛ける。
「くっ!」
二人の多方向からの攻撃に対して、ジンは辛うじてかわし続けた。しかし、それも限界があった。
「さあこれで!」
「「「「終わ―――だだだだだた!」」」」
突然蛮奇が悲鳴を上げる。そして分身の頭は消え、本体の頭だけが地面に落ちた。
「蛮奇!? 一体何が――――」
そこで影狼が見たのは、黒焦げになって倒れている蛮奇の体と、そのすぐ近くにライがそこに居た。
「蛮奇の弱点は、頭が飛んでいる時、体が無防備状態になる。だから、ライが近付いても気づかなかった」
「その為に、貴方が囮に!?」
「そういう訳だ」
「くっ、」
影狼は今の状況では勝てないと判断し、逃げようとするが、ライに回り込まれてしまう。
「悪いが、お前を見逃す訳にはいかない。リタイヤして貰うぞ」
「くっそー!」
影狼は半ば焼けくそになりながら、ジンに向かって飛び掛かる。その瞬間、ジンの拳が影狼の顔面に直撃した。
「悪いが、その動きは予測済みだ!」
「キュー・・・・・・」
[赤蛮奇、今泉影狼、リタイヤ]
[ライ、札を三枚獲得。現在六枚]
[ジン、札を二枚獲得。現在三枚]
蛮奇と影狼の戦いが終わり、サニー達は安心したのか、ジンに抱きついて来た。
「「「うわーん! 怖かったよー!」」」
「よしよし、もう大丈夫だ。それにしても、今回は相手が悪かったな」
サニー達の能力は、隠密には非常に優れているが、影狼のように匂いを嗅ぎられたら、見つかってしまう欠点もある。それ故ジンは、影狼を逃がさず撃破したのである。
(だが、他にも鼻が利く妖怪はいるだろう。ここは――――)
「なあ三人とも、良かったら一緒に行動しないか?」
「良いわよ。ジンがいれば、百人力よ!」
「ギィ!」
「もちろん、ライもね」
「そうと決まれば、早くここを離れよう。他に奴等が来るかも知れない」
「そうね、それじゃ行きましょう」
そう言って、サニーは能力を使い、全員の姿を消す。
「ルナ」
「わかった」
そして今度はルナが音を消した。こうなれば、余程の事が無い限り、見つかる事は無い。
「スター、今度はちゃんと見張るのよ?」
「分かっているわよ」
「それじゃ、準備が出来た事だし。出発しよう」
「「「はーい」」」
「ギィー」
こうしてジンとライ、サニー達は姿を消したまま、その場を後にした。
―――――――――――
四人と一匹は、姿を隠したまま、移動していた。
幸いにも、影狼のように鼻が利く妖怪には出合わずに済んでいるが、それでも極力、他の参加者がいる場所を避けていた。
そんな時、スターが声を上げる。
「前方から誰か来るわ」
「数は?」
「一、二、三―――全部十一人!」
「十一人か・・・流石に相手に出来ないな。ここはやり過ごそう」
ジン達は、身を潜める事にした。
しばらくすると、正邪が走って通り過ぎて行き、その後を十人の妖怪が走って行った。
「一人は正邪だったようね。なんか、追われていたみたいだけど・・・・・・」
「どうするのジン?」
「・・・・・・そうだな。これはチャンスかも知れない?」
「チャンスって?」
「いいか、みんな俺の話をよく聞いてくれ」
ジンは全員に、作戦を伝えた。
一方正邪は逃げていた、彼女はあまり強くない方ではあるが、並の妖怪には遅れをとらない実力はある。しかし相手は多勢、まともに戦えば、負けるのは確実。だから正邪は、逃げの一手を打つのだが――――。
「いい!? 崖!?」
正邪は目の前には、かなりの高さの崖であった。
飛ぶ選択は出来ない、飛べば他の参加者に見つかりやすくなり、最悪撃ち落とされる可能性があるからだ。
(ど、どうするか・・・・・・)
「追い詰めたぞ正邪!」
悩んでいると、六人の妖怪達が追いついて来た。全員が正邪に対して、強い敵意を向けていた。
「な、なんだよ、私を倒しても、全員分の札は持っていないぞ。ほら!」
そう言って、正邪は自分の所持している札を見せる。その数は三枚。
(これで仲間割れしてくれれば、良いんだが・・・・・・)
しかし、正邪の思惑通りに事は運ばなかった。
「そんなのに興味はねぇ! 俺達の目的は正邪! てめぇだけだ!」
「あいにく、お前らは私のタイプじゃない。出直して来な」
「ちげぇよ! お前に恨みがあるんだよ!」
「恨みねぇ・・・おまえらに何かしたっけ? 心当たりがありすぎて、思い出せないな」
「良くもそんな事をぬけぬけと・・・野郎共! こいつをリンチにしてやろうぜ!」
「「「「「おうよ!」」」」」
「そう威勢を張るのは良いけど、もう少し後ろを見たら?」
「何を言って――――のわぁ!?」
すると背後から、土の弾幕が放たれた。突然の奇襲に、妖怪達は対応出来ず、三人がやられてしまった。
「一体何が・・・・・・」
「やれやれ、もう少し背後を警戒したらどうだ?」
後にいたのはジンであった。妖怪達は、ジンを睨み付ける。
「てめぇ! 邪魔をするのか!?」
「邪魔をするも何も、これはバトルロワイヤルだ。警戒を怠ったお前らが悪い」
「この野郎! てめぇ一人で何が出来る!」
「出来るさ。一人でも、たった一つ出来る事がある。それは――――逃げる!」
そう言うと、ジンは直ぐ様森の中に走って行った。
「あ! てめぇ待ちやがれ!」
妖怪達は正邪の事をすっかり忘れ、ジンを追い掛けて森の中へと入って行った。
妖怪達は、森の中に入って直ぐにジンを見失ってしまった。
「くそっ! 何処に行きやがった!」
妖怪の一人がそう叫ぶと、藪が動く音がした。
「そこか!」
妖怪はそこに目掛けて、弾幕を放つ。藪は破壊されるが、そこにジンの姿はなかった。
「くそっ! ちょこまか――――のわぁ!?」
すると別の方向から、雷撃が放たれ、妖怪の一人はそれを受けて倒れてしまう。
「そこか!」
雷撃が放たれた場所に攻撃をするが、そこには誰もいなかった。
「くそっ、一体どうなってやがる!」
「おーい! 俺はこっちだ!」
声の方を向くと、そこにジンの姿があった。妖怪達は直ぐ様弾幕を放つが、ジンの姿は陽炎のように消えてしまう。
「なっ!? があ!」
消えた事に驚いている隙をつかれ、電撃でまた一人倒される。
「くそっ、ここだと不利だ! 一旦森の中を出――――」
一人が森を出ようと走り出す。しかし、見えない何かに思いっきりぶつかり、気絶してしまう。
「何なんだこの森は!?」
「落ち着け! 相手は一人なんだ! 冷静に対処すれば――――」
言葉の途中で倒れる妖怪。
彼の頭の近くには、大きな石が転がっていた。
「ひ、ひぃ~!」
仲間を全て倒され、一人になってしまった妖怪は、冷静さを完全に失って走り出した。しかし、その前方には正邪が立っていた。
「良くも追いかけ回したかな。たっぷりと礼をしてやるよ♪」
「ひ、ひぃ~!」
正邪は笑顔で、手に持っていた魔法の小槌を妖怪に降り下ろした。
[モブ妖怪十一名、リタイヤ]
[ジン、札を八枚獲得。現在十一枚]
[ライ、札を三枚獲得。現在九枚]
[サニー、札を三枚獲得。現在四枚]
[ルナ&スター、それぞれ一枚獲得。両名、現在二枚]
[正邪、三枚獲得。現在六枚]
戦いが終わると、サニー達が嬉しそうに会われた。
「どうだったジン? 私達の活躍は?」
「ああ、十分凄かった。大活躍だったな三人とも」
「当たり前でしょ、私達は光の三妖精なんだから!」
サニーは自慢気に言った。
ジンの作戦はこうであった。まず自分が囮となって、サニー達がいる場所まで誘き寄せる。そして三人の力をフルに使い、一人ずつ敵を倒していく、非常にシンプルな作戦であった。
ジンは囮となり、サニーは光を操り撹乱させ、ルナは音を消し、位置を極力悟られないようにする。スターは二人の補佐として、ライはもしもの時の三人の護衛と、隙を見て攻撃と言った具合である。
「それにしても、私達の能力で、ここまで出きるなんて・・・・・・」
「三人の能力は確かに隠密にも向いているが、こう言った撹乱にも有効だ。要は、能力の使い方次第って訳だ」
「なるほど・・・・・・」
「でも、姿と音を消して、石を落とすのは止めろよ。悪質だからな」
「そうね、確かに悪質だったわよ二人とも」
「ちょ!? 提案したのはスターでしょ! しかも一緒にやった癖に!」
「そうだっけ?」
「白々しい・・・・・・ってあれ? 正邪は?」
ルナは辺りを見回すと、そこには正邪の姿はなかった。どうやら一人で行ってしまったらしい。
「まったく! 御礼くらい言いなさいよね!」
「相手は天邪鬼だからな、これで良いんだ。さて、俺達も行こう」
ジン達は再び姿を消し、移動を始めるのであった。
―――――――――――
それからしばらく、妖怪山の周囲を歩き続けるジン達。
するとルナが、突然地面に座り込んだ。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「大丈夫かルナ?」
「ちょ、ちょっと辛いかも・・・・・・」
「無理も無いわね。もうかれこれ半日以上、能力を酷使しているもの」
「そうね・・・流石の私もヘトヘト・・・あと、お腹すいた・・・・・・」
サニー達に疲れが見え始めた。いくら隠密に優れた能力であっても、長時間は流石に疲れるらしい。
「そうだな・・・何処か休める場所で休憩し、お昼にしよう」
「「「さんせ~い」」」
「ギィ」
こうしてジン達は、休める場所を探し始めた。
ここは山の麓にある小さな川。そこでジン達は休憩と、お昼を食べていた。
「う~ん♪ このサンドイッチ、美味しいわ~♪」
「そりゃそうよ、私が作ったんだから」
「食後のコーヒーいる人は?」
「貰おう」
「私も!」
「私もねルナ」
「はいはい、ちょっと待ってて」
ルナは三人にコーヒーを淹れる。
四人はゆっくりと、コーヒーブレイクを楽しんだ。
ジン達が休んでいる場所から数キロメートル離れている場所で、その様子を眺めている者達がいた。
「いた。ここから一里程のところに、ジンと妖精がいます」
「あとトカゲもよ。あれも参加者だから」
「どうします?」
「もちろん強襲よ。逃げられないように、布陣をしきなさい」
「「「「了解!」」」」
そう言って一団は、散開して行った。
最初に、一団の接近に気づいたのはライであった。
スターが休んでいる間、彼女の代わりに電波を飛ばし、周囲に近づく者がいないか、見張っていた。そして、ある一団が近づいて来るのをいち早く察知したのである。
「ギィ!」
「何だって! みんな! ここを離れるぞ!」
「え?」
「一体どうしたの急に?」
「近づいて来る集団がいるらしい! スター! 調べてくれ!」
「わ、わかった!・・・・・・!? 本当に来てる!」
「え!? 何人!?」
「一、二、三――――十人以上だと思う!」
「ど、どうする!? 戦うの!?」
「何の準備無しに戦える数じゃない! ここは逃げるぞ!」
ジン達は急いで支度をし、姿と音を消してその場から離れた。しかし一団は、ジン達を正確に追跡し始めた。
「どんどん近づいてくる!」
「姿も音も痕跡も消しているのに・・・もしや、スターと同じ能力を持っている奴がいるのか?」
「ど、どうするのジン?」
「うーむ・・・・・・」
ジンは悩んだ。このまま逃げていても、振り切れないだろう。しかし、相手にするには数が多すぎる上に、サニー達は直接的な戦闘力はあまり期待できない。そうなると、サニー達を守りながら戦う羽目になる。どう考えても不利である。
(正面からの戦闘は無理だな・・・・・・やはり逃げの一手しか――――)
「あ! 前の方からも来てる!」
「くそ! 考える暇もないか!」
ジン達は、追いやられる形で北の方へと逃げる事にした。しかしそこは、大きな断崖がそびえ立つ、断崖絶壁であった。
「行き止まり!?」
「どうするの!? もうすぐそこまで来て―――」
「もう来ているわ」
現れたのは十数名の白狼天狗達と、それを従える白狼天狗隊長の楓と椛が現れた。
「白狼天狗・・・そうか、千里眼と匂いで追跡していたのか」
「はい、私の千里眼が見つけました」
椛は少し申し訳なさそうに言った。一方楓は、獲物を捕らえた事に、上機嫌になっていた。
「大人しく札を渡せば、痛い目に合わせないわ。抵抗するなら、それなりに覚悟する事ね」
「ジン・・・・・・」
サニー達不安そうにジンを見つめる。そんなサニー達を安心させようと、ジンは微笑んだ。
「大丈夫。安心しろ三人とも」
そう言った後、ジンは自分の札を取り出す。
「賢明な判断ね」
そう言って、ジンに近づく楓。するとジンはニヤっと笑う。
「な、何よその顔」
「いや、相変わらず悪い癖だ。将棋でもそうだ、勝ったと完全に思い込んでいるからな」
「どういう意味よ?」
「この世に絶対は無い。九十九パーセントの勝利でも、一パーセントの敗北にひっくり返る事もある。このようにな!」
するとジンは、土獸を召喚。ドーム状の壁を精製し、自分とライ、サニー達を包み込む。その瞬間に、爆弾が投下された。
「なっ!?」
「た、退――――」
突然の事に対応出来ず、楓率いる白狼天狗軍団は、爆弾の餌食となってしまった。
[白狼天狗軍団、全員リタイヤ]
[???、札四十三枚獲得。現在六十四枚]
爆風が収まる頃を見計らい、ジンはドームを解除した。
「うわ・・・これは酷い・・・・・・」
「一体誰が・・・・・・」
「私だよ」
声と共に降り立ったのは正邪であった。
「正邪?」
「やっぱりお前か」
「どうして正邪がここに? もしかして、私達を助けに?」
「いや、たまたま崖の下にお前らがたまっていたから、ボムで一掃しようと思っただけ」
「酷い!」
「そうだと思った。まあ、取り合えず助かった」
「別に助けた訳じゃないけどな・・・ところでお前ら、私と組まないか?」
正邪は笑みを浮かべながら、そうジン達に提案した。
―――――――――――
正邪の話は、各々の能力と相性の良い相手を狙うという話である。
「幾つか目星はつけてはいるんだが、私一人では分が悪い」
「そこで、俺達と組みたいという訳だな」
「ああ、別に悪い話では無いだろ?」
「まあ、そうだな・・・攻勢に回るのも、一つの手ではあるな」
「だろ? それに、今のままじゃ、札は増えないし、後手に回りすぎると、さっきみたいになるぞ?」
「うーむ・・・皆はどうしたい?」
そう訪ねると、サニー達は迷っているようであった。
「う、うーん・・・私達の能力で、勝てるのかしら?」
「少し不安ね・・・・・・」
「やっぱり、今まで通り逃げていた方が――――」
「なに甘ったれな事を言っているんだ! お前達は弱小妖精のままで、甘んじるのか!」
「そ、それは・・・・・・」
「今まで雑魚呼ばわりした奴らを、見返したくはないのか!? 」
「そ、そうよ! 私達妖精でも、やる時はやるのよ!」
「ああそうだ! 今こそ下克上の時! 私ら弱者でも、強者に勝てるって事を! 幻想郷の奴らに知らしめてやるんだ!」
「おおー!」
正邪の演説に、すっかり乗せられサニーを見て、ルナとスターはため息をつく。
「やれやれ、サニーは本当に単純なんだから」
「どうするのジン?」
「どうするも何も、サニー一人を放っておくわけにはいかないだろ」
「そうだよね・・・・・・」
「よーし! チームアマノジャクの結成だ! いくぞ野郎共!」
「お前が仕切るのかよ!」
こうして流される形で、チームアマノジャクが結成されるのであった。
チームアマノジャクが最初にターゲットにしたのは、九十九姉妹である。
彼女達はそれなりに強く、中堅の妖怪である。
「まあ、私一人でも余裕だけど、なるべく力を温存したいからな」
「九十九姉妹って、針妙丸の小槌で妖怪になった奴らでしょ?」
「ああ、二人ともそれなりに強いと思うぞ」
「そんな人達に勝てるのかな・・・・・・」
「なに言ってんだよお前。こんな奴等、お前なら楽勝だろ?」
「え?」
「こいつ・・・自分の能力を、何も理解していないな・・・・・・ジン、説明しろ」
命令口調の正邪に、内心不満を抱きながら、ルナに説明をし始めるジンであった。
「いいかルナ、お前の能力は音を消す。相手は演奏をする。両者が戦えば、どちらが勝つ?」
「あ!」
「そういう事だ。ルナの能力前では、九十九姉妹は無力になる。これが能力の相性ってな訳だ」
「な、なるほど。でも、私に出来るのかな?」
「そんなに気を張る事は無い、フォローは俺達がする。なあみんな?」
「ルナはドジだから、私達がしっかりしないとダメなよね~」
「そうね、ルナは一人だと、ドジって失敗するものね」
「もう! ドジドシ言わな―――あ!」
するとルナは、何もないところでこけてしまった。
「もう、言っているそばからこけるなんて」
「う~」
「ほら、大丈夫かルナ」
ジンはこけたルナに手を差しのべ、助け起こす。
「あ、ありがとうジン」
「いいって、いつもの事だ。それよりも、どうやって九十九姉妹を見つけるんだ? スターの能力じゃ、判断つかないだろ?」
「そこでお前の能力だろうが、お前の能力で、九十九姉妹の軌跡を辿れば、直ぐに見つかるだろ」
「そう言えばそうだった。早速視てみる」
ジンは能力を使い。過去の軌跡を視た。様々な軌跡はあるものの、九十九姉妹の軌跡はなかった。
「ここ辺りは通っていないみたいだな」
「なら、こんな所に用は無いな。さっさと行くぞ」
「おい待てよ! お前一人だけ行っても仕方ないだろ。集団行動しろ」
「うるさい、お前らが私に合わせればいいんだよ」
「やれやれ、この先どうなる事やら・・・・・・」
一抹の不安を抱きながら、正邪についていくジン達であった。
―――――――――――
それからしばらくして、ジンはようやく、九十九姉妹の軌跡を見つける事が出来た。
「見つけた。どうやらここを通ったらしい」
「でかした! 早速行くぞ!」
「おい、お前が先行してどうする?」
「だったらさっさと案内しろ。たらたらしていると、逃がしちまうだろ」
「こいつ・・・・・・」
何故か上から目線の正邪を睨み付けながら、ジンは九十九姉妹の軌跡を辿り始めた。
辿った先は、大蛙蟇の池であった。そこで九十九姉妹は休憩をしているようであった。
「見つけたけど、どうするの?」
「もちろん、先手必勝!」
「あ、バカ!」
正邪は問答無用と言わんばかりに、九十九姉妹に弾幕を放つ。しかし、弁々が放った左右五つの光の糸が、正邪の弾幕を弾いた。
「そんな奇襲で、私達を倒せると思ったの? 行くわよ八橋!」
「ええ、姉さん」
「「弦楽! “嵐のアンサンブル”!」」
二人は琵琶と琴を引き始め、それから出る音の弾幕をジン達に向けて放った。しかしジン達は――――。
「で? どうするんだこのあと?」
「うーんそうだねぇ・・・・・・」
「考えていないのかよ!」
「これから考えるって。ジンは短気だな」
「お前に言われたく無いんだが・・・・・・」
「ねぇ、こんなのんびりしていいのかしら・・・・・・?」
「いいんじゃない、どうせ弾幕なんて来ないんだし」
「そうね、ルナが音を消してくれるし、慌てる必要は無いんじゃない?」
「私が大変なんだけどね・・・・・・」
九十九姉妹の音の弾幕は、ルナの能力によって完全に無効化されていた。彼女の音を消す能力は、九十九姉妹にとってはまさに天敵と言える程、相性が最悪なのである。
そうとは知らず、九十九姉妹は弾幕を出し続けた。
「なあ、このまま放っておいたら、あいつら力尽きるんじゃないか?」
「それも一つの手だが、他の奴らが来る可能性がある。短期決戦が望ましい」
「それじゃどうするんだ?」
「チームを二つに分ける。囮と背後から奇襲をするチームに」
「どう分けるんだ?」
「俺、サニー、ルナが囮をやる。正邪、ライ、スター、お前らが奇襲を掛けろ」
「ルナは分かるけど、何で私まで?」
「弁々は光の糸らしき物で、正邪の攻撃を防いだろ。 もしあれが攻撃に使えるのなら、ルナの能力じゃ防げない。だけど、サニーなら逸らせられる。そうだろ?」
「うんまあ、性質的には、光に近いとは思うけど・・・・・・」
「なら、大丈夫だ。頼りにしているサニー、ルナ」
サニーとルナの肩を叩きながら、ジンは九十九姉妹の前に出た。
「あら、貴方は・・・・・・」
「確か、ジンだったわね。貴方が奇襲を掛けたの?」
「まあな」
「ふーん、一人で出てくるなんて、余程自信があるみたいね。良いわよ、私達が相手をしてあげる!」
すると姉妹は再び演奏し、ジンに音の弾幕を放つ。そこに、ルナが現れた。
「消音!“サイレント・ヴォイス”!」
ルナは消音の結界を張り、九十九姉妹の弾幕をかき消した。これには姉妹は驚きを隠せなかった。
「私達の音が!?」
「サニー! 今だ!」
「姉さん上!」
「え!?」
八橋の声で、上を見上げる。そこにはサニーが、光を集めていた。
「いっくわよー! 光符!“サニースパーク!”」
サニーは集めた太陽の光を、九十九姉妹目掛けて放つ。しかし、姉妹は寸前のところで気づいため、かわされてしまう。
「あ、危なかった・・・直撃してたら、やられてたわ」
「どうやら、ただの妖精では無さそうよ八橋」
二人は、妖精であるサニーとルナに警戒を強めた。
一方サニーは、奇襲を失敗した事をジンに謝っていた。
「ごめん、かわされちゃった・・・・・・」
「いいって、俺達の役割は、相手の注意を引き付けること。それに今ので、こちらを警戒し始めている。作戦は順調だ」
「そ、そう?」
「私もうまくやれた?」
「ああ、上出来だ。よくやった二人とも」
「「えへへ♪」」
「だが、これからが本番だ。二人とも、気を引きしめろ」
「わかった!」
「ええ!」
ジンの言葉に、サニーとルナは一段と気を引きしめた。
一方九十九姉妹は、攻め手を倦めていた。
「どうする姉さん?」
「そうね・・・どうやらあの妖精は音を消し、片方は光を操るみたいね」
「相性最悪じゃない。でも、それだけで私達に勝てると思うのは、大きな間違いよ」
「ええ、私達姉妹の演奏を思い知らせてやるわよ!
響符!“平安の残響”」
「楽符!“邪悪な五線譜”」
そう言って、二人は琵琶と琴を引き始めた。
弁々は光の弦を、八橋は音の弾幕をそれぞれ放つ。
「サニー! ルナ!」
「わかった!」
「ええ!」
サニーは弁々の光の糸を弾き、ルナは八橋の弾幕を消そうとする。しかし、弾幕はルナの結界に触れても消えず、彼女に迫る。
「不味い! 避けろルナ!」
「え?」
弾幕に当たる寸前、ジンは間一髪のところで、ルナを抱えて弾幕をかわした。
「二人とも大丈夫!?」
サニーは駆け寄りながら、二人の安否を確認した。
「俺は大丈夫だ。ルナは?」
「た、大丈夫だけど、音を消そうとしたのに、消えなかった」
「恐らく弾幕に、音の膜を被せたんだ。音の膜が、ルナの結界に干渉している間に、本命の弾幕が決壊を突破したのだろう」
「それならこっちも二重にする?」
「それだと負担が余計に掛かる。それに――――」
「楽苻!“ダブルスコア”!」
「ちぃ!」
ジンはサニーとルナを抱えて、弁々の光の弦をかわす。そして今度は、八橋の音が迫る。
「二人とも! 俺に捕まれ!」
ジンは二人を抱えながら、弁々と八橋の攻撃をかわす。
「サニー! 右を!」
「あいさ!」
サニーは右から来る弁々の光の弦を反らした。
「ルナは左を!」
「う、うん!」
今度は右から来る音弾を、ルナが消音させる。しかし、幾つかは結界を越えた。
「これくらいなら―――かわせる!」
ジンは、越えて来た音弾の軌道を予測し、それらを全てをかわした。
一見、九十九姉妹達の攻撃はすべて防がれてはいるが、サニーもルナも、相手の攻撃を防ぐだけで精一杯であった。そしてジンも、両手がふさがっているため、五行獸を呼び出す事も出来ず、反撃出来なかった。
「なかなかしぶといわね・・・・・・」
「でも、それもいつまで持つかしら?」
「くっ」
「そろそろ終わりにしてあげるわ!」
二人はジン達にトドメをさそうとする。その時、後ろの繁みから弾幕が放たれた。
「「キャアー!?」」
ジン達に注意がいっていた二人は、背後の奇襲に対応できず、直撃し倒れてしまった。
「おーい、大丈夫かー?」
声と共に、繁みから正邪達が現れた。
「遅いぞ正邪」
「これでも急いだんだよ。まあ、結果オーライでいいだろ」
「やれやれ・・・・・・」
ジンはどっと疲れを感じた。
[九十九姉妹、リタイヤ]
[正邪、二十五枚獲得。現在七十九枚]
[ライ、二十四枚獲得。現在三十三枚]
[スター、二十四枚獲得。現在二十六枚]
[チームアマノジャク。ジン、十一枚。ライ、三十三枚。サニー、四枚。ルナ、二枚。スター、二十六枚。正邪、七十九枚。合計百五十五枚]
―――――――――――
九十九姉妹との戦いの後、ジンは改めて正邪と今後の方針について話し合いをしていた。
「正邪、攻勢に出るのは止めにしよう」
「はあ? 何を言ってるんだよジン。お前だって賛成してただろ」
「最初はなんとかなると思ったが、実際は辛勝じゃないか。能力の相性だけじゃ、この先がつらい」
「そんじゃどうするんだよおまえ」
「やはり逃げの一手が有効だ。参加者もそれなりに減って来たし、サニー達の能力があれば――――」
「はん、話にならないね。
いいかジン、そんな消極的な事じゃ、優勝なんて出来ないぞ」
「別に優勝を狙う必要は無いんじゃないか?」
「は?」
「生き残りさえすれば、賞金は手に入るだろ? それに、正邪は札を十分に手に入ったはず。これ以上無理をしなくても――――」
「・・・・・・よくない」
「正邪?」
「私は良くない、 私は優勝するためにやってんだから」
「・・・・・・どうしてそんなに優勝に拘るんだ?」
「お前知らないのか? 優勝者にはなんと、八雲紫が所持しているマジックアイテム一つを貰えるんだよ」
「そうなのか?」
「お前、何も知らないで参加したのか?」
「霊夢に半ば強制的にな」
「はあー・・・どうりでやる気を感じられないわけだな・・・・・・。ともかく、私は優勝を目指しているんだ。だから、消極的になんか出来ない」
「気持ちは分かるが、無理だと思うぞ。このバトルロワイヤルには、あの五人が参加しているんだからな」
ジンがいう五人とは、近年異変解決に貢献した五人の少女――――霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗の五人の事である。彼女達を倒さなければ、優勝は出来ないと言われるほどの優勝候補筆頭者達である。
「この五人をどうやって倒すつもりなんだ? 生半可な事じゃ勝てないぞ。やるだけ無謀だ」
ジンは無謀だと言った。その言葉に、正邪は声を上げて反論する。
「出来るかどうかじゃない! やるんだよ私は! どんな確率でも、可能性があるなら藁でもすがる! 卑怯だと罵られても、勝利をもぎ取る! そうやって生きて来たんだよ私は!」
「正邪・・・・・・」
「やっぱり、私はお前は嫌いだ。
お前には鬼の力があるのに、それを使おうともしないで、弱者の振りをする。
どうして自分の力を使わない、どうして自分の力を信じないんだよお前は」
「そ、それは・・・・・・」
「お前みたいな臆病者はいらない。ここで協力関係は終わりだ」
それだけ言うと、正邪はその場を去って行った。
ジンは何も言えず、ただ立ち尽くすのであった。
正邪が去ってから、ジンは一歩も動かず、何かを考えていた。サニー達は心配そうに、様子をうかがう事しか出来なかった。
「ねえ、どうする?」
「どうするも何も、あんな状態のジンを放っておけないでしょ」
「そうだけど・・・・・・」
「でも、正邪の言い分もわかる気がする」
「どういう事スター?」
「だって、全然ジンらしくないじゃない。やる前から諦めるなんて」
「確かに・・・いつもなら、“取り合えずやってみよう”って言いそうだものね」
「そうよ、何かおかしいのよ」
「ギィ!」
「ライもそう思うわよね」
「その何かって?」
「それは・・・・・・わからないけど」
「ダメじゃん」
「むっ、そんな事を言うなら、サニーが何とかしなさいよ」
「ええ良いわよ。そこで見てなさい」
そう言って、サニーは自信満々で、ジンの側に歩み寄った。
「お、自信たっぷりみたいね。お手並み拝見させて貰うわ」
「なんか不安なんだけど・・・・・・」
「ギィ・・・・・・」
スターは面白がる一方、ルナとライは一抹の不安を感じながら、サニーの動向を見守る事にした。
「どうしたのジン? 元気ないわね」
「サニーか・・・・・・」
「悩みごとがあるなら、このサニー様に話してごらん。見事に解決して見せるわ」
根拠もなく自信たっぷりで言うサニーの姿を見て、ジンは思わず笑みをこぼす。
「そうだな・・・聞いてくれるかサニー?」
「もちろん! どんと来なさい!」
「・・・・・・ありがとうサニー。
実は、正邪の言われた事を考えていたんだ」
「正邪の?」
「ああ、“自分の力を信じないんだ”昔、同じことを言われた事があるんだ」
「ふーん・・・」
「いつからか忘れたけど、自分の力を信じられない時があるんだ。だからかな、どうしても無難な道に妥協してしまう。本当は妥協なんてしたく無いんだけどな」
「それなら、妥協しなくて良いんじゃない。ジンがやりたいようにすれば」
「そうしたいんだが、自信が・・・・・・」
「大丈夫! 自信がないなら、私達が助けてあげるから! 一人より皆とでなら、どんな事も出来る筈!」
「サニー・・・・・・」
「ねえ教えて、ジンはどうしたいの?」
そう訪ねるサニーに、ジンは決意を固めて言った。
「正邪を助けたい。
俺は皆がいるから良いけど、あいつは何処か一人になろうとしている所がある。このまま放って置いたら、本当に一人になってしまうかも知れない。だから、助けたいと思っている。
でも、サニー達を危険な目に合わせていいものかと・・・・・・」
「もしかして、消極的だったのは、私達の事を考えてから?」
「まあ、それもあるけどな」
「それなら気にしなくて良いわ。ジンがやりたいようにすれば、私達も手伝うからさ」
「良いのか? 霊夢や魔理沙と戦う事になるんだぞ」
「そりゃ、あの二人と戦うのは怖いけど、一泡ふかせたいとも思っているから、大丈夫!」
「そうか・・・なあサニー」
「なあに?」
「力を貸してくれるか?」
「もっちろん! 私達光の三妖精に任せなさい!」
「皆もそれでいいか?」
ジンはルナ、スター、ライにも訪ねる。すると二人と一匹は頷いてくれた。
「少し怖いけど・・・みんなと一緒なら何とかなりそう」
「私としては、中々おもしろそうだから、特に反対はしないわ」
「ギィ!」
「ありがとうみんな・・・それじゃ、アマノジャクな姫様を助けに行くか」
「「「おー!」」」
「ギィー!」
こうしてジンは、正邪を助けに、彼女の後を追う事にするのであった。
―――――――――――
正邪の軌跡を追ってジン達は魔法の森近辺に辿り着く。
「随分遠くまで来たなあいつ・・・・・・」
そんな事を呟いていると、スターがジンに声を掛けて来た。
「ジン、少し先に反応があるわ。多分正邪だと思う」
「お、ようやく追いついたか」
「だけど、どうやら襲われているみたい」
「敵か? なら急いでいかないと!」
ジン達は急いで、正邪がいる場所へと向かいだした。
正邪は窮地に立たされていた、持って来たマジックアイテムは残り少なく、相手は健在。しかも―――――。
「なかなか粘るなおまえ」
「いい加減諦めたら? 時間の無駄よ」
「貴女の技量では、私達には勝てません」
「そうですよ、大人しくリタイヤしてくださいね♪」
相手はなんと、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗の四人であったのである。
「お前ら! よってたかって私を狙うなんて卑怯だぞ! それが異変を解決した人間のやる事か!?」
「別に私らは、正義の味方じゃないがな」
「それにこれはサバイバルよ。弱い相手を狙うのは、定石だと思うけど?」
「少し罪悪感を感じますが、幽々子様の命により、なにがなんでも優勝しなくてはいけないので」
「この世は弱肉強食。諦めてくださいね♪」
「くっそ~、これだから強者は嫌いだ!」
「そんな訳で、トドメを刺させて貰うぜ!」
「あら、私が先に仕止めるわ」
「残念ですが、私がやらせて貰います」
「いえいえ、ここは私が――――」
すると四人は互いを睨みあった。どうやらこの四人は組んでいる訳では無さそうである。そこで正邪はある事を思いつく。
(そうだ! 焚き付けて、戦わせればいいじゃないか! よーし―――)
「おいお前ら――――」
「それなら、同時にやればいいじゃないですか? どうせこの後、皆さんと戦う訳ですし」
「それもそうだな、どうせ札は全部私の物になる訳だしな」
「随分と自信があるわね。まあ、やることには変わりが無いから、別に構わないけど」
「私も異論はありません。むしろ、こういうタイプを残しておくと、寝首をかかれる恐れがありますから」
四人は改めて、正邪の方を向いた。
どうやら正邪を倒した後で、他の奴等と戦う事にしたようである。こうなると、焚き付けるのは難しい。
「そんな訳で、札を大人しくそこに置いていけ。さもないと、私らのスペカを食らうはめになるぜ」
「い、嫌だ! 死んでも渡さない!」
正邪は走って逃げ始めた。それを見逃す四人ではなかった。
「逃がすか! 魔符!“ミルキーウェイ”!」
「奇術!“ミスディレクション”!」
「団迷剣!“迷津慈航残”!」
「奇跡!“白昼の客星”」
四人のスペルカードは正邪に向かって放たれ、土煙を上げる。
「やったか!?」
魔理沙がそう叫ぶ。しかし、土煙が晴れると、そこには正邪の姿はなかった。
「い、いない!?」
「いえ、あそこにいます」
妖夢が指をさした方向に、正邪を抱きかかえているジンの姿があった。
「ジン!? いつの間に・・・・・・」
「悪いな魔理沙、正邪はやらせない。どうしてもって言うなら、俺を倒してからにしろ」
そう言って顔を上げるジンの額には、鬼の角が生えていた。
「鬼人になっていたのね、どうりで速い訳ね」
「ですが、捕らえられない程ではありません」
「私、全然見えなかったんですけど・・・・・・」
「まあ、いくら速く動いても、それで勝てるとは限らないからな」
四人は再度身構える一方、正邪は事態が上手く把握出来ていなかった。
「お前どうして・・・・・・」
「いろいろ考えたんだが、やっぱり放って置けなくてな。こうして駆けつけた」
「余計なお世話だ・・・・・・バカヤロウ」
「自覚はしている」
「・・・・・・ところで、いつまでそうしているんだ?」
「ん? ああ、すまない」
ジンは正邪を静かに降ろすと、改めて魔理沙達に向き合う。
「それでどうするんだ? まさか、何も考え無しに来たわけじゃないよな?」
「一応策はある。正邪、マジックハンマーはまだあるか?」
「まだあるけど・・・使えても後一回だけだ」
「十分。貸してくれ」
「利子はつけるからな」
そう言って、正邪はジンにマジックハンマーを手渡した。
「それで何をするんだ?」
「これで一人を倒すんだよ。いいか――――」
ジンは正邪に、自分が考えた作戦を伝える。
「なかなか面白そうだな。けど、そんなに上手く行くのか?」
「やってみないと分からないが、十分可能性はあると思うぞ」
「まあ、他に手は無いわけだし、やるだけやるか」
「作戦は決まったか?」
魔理沙が挑発染みた言葉を言う。どうやらこちらを侮っているようである。これはジンにとって好都合であった。
「ああ、見せてやるよ。俺の策をな!」
そう叫ぶと、ジンは五行獸を二体呼び寄せる。
「水火獸!“ミストレイン”!」
水獸が出す水と、火獸が出す火がぶつかり合い。霧が生み出され、辺りを包み込む。
「うわ!?」
「な、何も見えないですよ!」
「落ち着きなさい、見えないのは向こうも同じの筈」
「そ、そうで―――キャア!?」
「早苗!? どうした!」
「いたたた・・・攻撃を受けました。結構正確に狙ってきました」
「この濃霧の中でどうやって――――むっ!」
咲夜は攻撃を察知し、時を止めて段幕を回避する。
「今のはギリギリだったわ・・・どうやら相手はこちらの位置を正確に把握しているみたいね」
「そうか! スターの奴だな! あいつは生き物の位置を把握を出来るんだ!」
「それじゃ、私達の位置がモロバレって事じゃ―――キャア!?」
「うわぁ!? くそっ、これじゃ反撃出来ないぜ!」
「いえ、出来ますよ。目が使えないのなら、他の五感で相手を捕らえれば良いだけです」
そう言って、妖夢は静かに目を瞑り、精神を集中させる。そして――――。
「むっ、そこ!」
「うお!?」
妖夢が放った剣気は、見事にジン達がいる場所に放たれた。
「凄い! 流石は妖夢さんです!」
「いえ、今のはかわされてしまいました。ですが、今ので大体の位置を掴めました。もう逃がしません!」
そう言って、妖夢は次々とジン達がいる場所に剣気を放ち、ジン達を追い詰める。しかし、魔理沙はある疑問を抱く。
(おかしい、スターがいるのなら、ルナの奴もいる筈。あいつの能力なら足音を消せるのに、何故しない?霊夢じゃないが、嫌な予感がするぜ)
三妖精の能力を把握している魔理沙は不穏を抱き、様子を見る事にした。そして、昨夜も似たような事を考えていた。
(妙ね、音で位置を悟られているのは明白。それなのに、動き続けている・・・まるで、わざと位置を知らせているみたいだわ)
そのわざとらしさに、咲夜は何があると踏み、いつでも対応出来るように身構える。そして早苗というと――――。
(よし、妖夢さんが敵を惹き付けて間に、霧を吹き飛ばす風を呼び寄せましょう)
早苗は目を瞑り、呪文を詠唱し始める。
そしてジンは、正邪を抱きかかえながら、妖夢の剣気をかわしていた。
「おいお前! どこ触ってんだよ!」
「やかましい! そんな事を言う暇があるのなら、撃ち返せ! 俺はかわすと霧の維持で精一杯なんだ!」
「ええいくそっ! おいトカゲ! 半霊は何処にいやがる!?」
そう叫ぶ正邪に応えるように、ジンの服の隙間からライが顔を出した。
ライは電波を放ち、妖夢の位置を探り始める。
「ギィギィ」
「何だって!?」
「前方左斜めにいる!」
「そこだな!」
ジンの言葉に従い、正邪は弾幕放つ。すると何かに弾かれる音が響き、返されるように妖夢の斬撃が放たれた。事前に攻撃を予測していたジンは、それをかわす。
「くっそ! いつまでこんな事をしていなくちゃいけないんだ!?」
「ルナとスターが、妖夢を倒してくれるまでだ。
大丈夫、あいつらならやってくれる」
「その前に、私らが倒されていなければ良いけど」
「だから頑張るんだろうが。ほれ、また来るぞ!」
「ええいくそ! こうなったら自棄だ!」
正邪は半ばやけくそで、弾幕を放った。
ジン達と妖夢が戦っているその時、霧の中をこっそりと歩く二人がいた。それはルナとスターであった。
「ね、ねえ、本当に大丈夫かな・・・・・・?」
「大丈夫よ。この霧なら、私達の姿はそう簡単に見つからないわ。それに、足音だって消えてるし」
「そうだけど・・・やっぱサニーがいないと不安ね・・・・・・」
「本当に臆病ねルナは。ほら、もう少しでつくわ」
不安がるルナの手を引き、スターは目的の場所へと向かう。
「抜き足~」
「差し足~」
「「忍び足~」」
足音が消えているのにも関わらず、二人は忍び足で進む。そして二人が到着した場所には、妖夢がいた。
「ほら、ついたわ」
「ほ、本当に気づかれていない?」
「大丈夫だって、早いとこやりましょう♪」
「う、うん」
二人はジンから密かに手渡されたマジックハンマーを一緒に持ち上げた。
「「いっせーの・・・せ!」」
そのまま放り下ろし、妖夢の頭を叩いた。
「みょん!?」
その一撃で、妖夢は目を回して気絶してしまった。
「や、やった!」
「作戦成功ね♪ それじゃ、ジンのところに戻るわよ」
二人は気絶した妖夢を放置し、ジンがいる場所へと向かう。一方魔理沙と咲夜は、先程の妖夢の悲鳴で、彼女がやられた事を知る。
(妖夢がやられた!? 一体どうして!?)
(どうやら、伏兵がいたようね。それにしても、剣の達人の妖夢に気づかれないなんて、余程気配を断つのが得意なようね)
(くそっ、この霧の中にいるのは不味い。ともかく出ないと――――)
魔理沙は霧から出ようと、放棄に股がり飛ぼうとする。しかし、そうはさせないと言わんばかりに、弾幕が彼女を襲う。
「うわぁ! くそっ、そう簡単に出してくれないか!」
「魔理沙、あまり不用意に動かない方が良いわ。狙い撃ちされるわよ」
「この霧の中にいる方がヤバイ! 向こうはこっちの位置がわかるうえに――――」
「伏兵がいる。それはわかっているわ。でも、不用意に動けばやられるわよ」
「お前は時を止められるから良いけど、私はそんな事出来な―――うわぁ」
再びの攻撃に、何とかかわす魔理沙と咲夜。アドバンテージは完全にジン達にあった。
(このままだとじり貧ね・・・何とか霧から出ないと)
少し焦りを見せ始める咲夜。そんな時、何処からともなく風が吹き始めた。
「これは――――」
「お待たせしました! 奇跡“神の風”!」
早苗の声ともに大きな風が吹き込み、の霧を払う。そしてジン、正邪、ライ、スター、ルナの姿があらわになる。
「おお! よくやった早苗!」
「 真っ向勝負なら、地力はこちらの方がよ。これで形勢逆転ね」
「ふふふ、覚悟はいいですか?」
三人は、ジン達ににじり寄る。しかしジンは平然としたまま、合図を出す。
「サニー今だ!」
「アイアイサー!」
「なに!?」
ジンが叫ぶと、空からサニーの声が聞こえた。魔理沙達は空を見上げる。するとそこには太陽と、その横に巨大な光の玉が浮かんでおり、その近くにサニーがいた。
「最大チャージ完了! いっくわよー! 陽光!“スーパーサンシャインニードル”!」
サニーは凝縮した光の玉を拡散させ、魔理沙達目掛けて放った。
「ちぃ! 魔符!“スターダストレヴァリエ”!」
「時符!“デュアルバニッシュ”!」
「ひ、秘じゅ―――」
魔理沙と咲夜はとっさにスペルカードを発動させ、サニーのスペルカードを防ぐ。しかし、早苗は発動が遅れてしまい、サンシャインニードルを受けてしまった。
「きゅ~・・・・・・」
「おい早苗!・・・ダメだ、完全に気を失っているぜ」
「短時間で二人もやられるなんて、どうやら相手の策に嵌まっていたらしいわ」
そう、咲夜の言う通り、ここまではジンの作戦通りなのである。
ジンの作戦は、先ず霧を出し、相手の視界と魔理沙の魔法を封じ、ライの電波で相手の位置を把握しながら、正邪に攻撃して貰う。それが最初の作戦である。
しかし、それだけでは勝てない。何故なら、相手に妖夢がいるからである。
半人前と言えども、剣の達人である妖夢なら、音だけで相手の位置を知る事が出来る可能性があった。
そこで、ルナとスターの出番である。視界が遮られ、音で位置を把握するなら、音を消せるルナの存在に気づく事は無い。そして、スターの能力で、確実に妖夢に近づく事が出来る。その為に、二人を一緒に行動させたのである。
妖夢を倒した後、二人を引かせたのは、リスクがあったからである。
魔理沙は、三妖精と仲が良く。三人の能力を把握していたからである。その為、早い段階で警戒される可能性が高い。
咲夜はというと、彼女は時を止められるので、タイミング次第では、二人を危険に晒してしまう可能性があった。
そして、早苗を狙わなかったのには、彼女にはやってもらう事があった。それは霧を払って貰う事である。
サニーだけは、霧の中に入らず、その上空で光を集めて待機して貰っていた。そうする事により、いつも以上の威力のスペルカードを放つ事が出来る。
しかし、霧は光を分散してしまう性質があり、せっかく集めた光であっても、そのまま放てば威力は半減してしまう。かと言って、自ら解除してしまえば、警戒されてしまう。そこで、相手に解除して貰う事にした。
視界が遮られ、尚且つ一方的に攻撃される状況ならば、先ずはその状況をどうにかしようと考える。そこを逆手にとったのである。
ジンの考え通りに、早苗はスペルカードで霧を吹き飛ばし、そのタイミングで、サニーは攻撃したのである。
(まさかサニー達がここまでやるとはな・・・大方、ジンの入れ知恵だろうがな。
まったく、良く頭が回る奴だぜ)
魔理沙は素直に感心していた。一方ジンは、次の手を考えていた。
(うーん・・・出来ればさっきの攻撃で終わらせたかったが、そんな上手くいかないか・・・まあ、数を減らしただけでも良しとするか)
「おい、次はどうするんだよ?」
正邪は小声でジンに訪ねる。ジンはしばらく考えてから、答える。
「どうもこうも無い。ここから先は小細工無しの真っ向勝負だな」
「おい! 本気で言っているのかよそれ!」
「本気だ。それに考えはある。いいか―――」
ジンは正邪に、自分の考えを伝える。
「それ、本当に大丈夫なのかよ?」
「これがベストの組み合わせだ。あとはやるしか無いだろ」
「やれやれ、分が悪い勝負になりそうだな・・・・・・」
「そうか? それなりに分が良いと思うが」
「随分と自信満々だな。あっさりやられて、赤っ恥をかくなよ」
「そっちこそ、上手くやれよ」
ジンと正邪は、拳をカツンとぶつけ合う。それは二人の奇妙な友情を感じる物であった。
「何を考えているか知らんが、今度はこっちから先手を打たせてもらうぜ!」
魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、それを見越していたジンは、土獸を腕に巻き付け、そのまま地面を殴り付けた。
「土獣!“鬼人地走り”!」
ジンの放った一撃は、大地を盛り上げ、魔理沙と咲夜の間を隔てる壁を作り出した。
「分断!?」
「ああ、お前の相手は俺だ咲夜」
すると咲夜の目の前に、ジンが立ちはだかる。それを見て、咲夜は失笑した。
「あら、随分と舐められたものね。貴方一人で、私に勝てると思っているの?」
「普段なら思わないな。幾ら動きを予測出来ても、体がついて来なければ、かわせない。そう言った意味では、お前の能力は俺にとっては天敵だ。しかし―――」
ジンは自分の角を、親指でさしてこう言った。
「今の俺は鬼人だ。人間の時とは比にならない程の身体力を有している。そしてこの目は、静止した時の動きさえも視える」
「・・・・・・」
「わかったか咲夜。俺達は互いに天敵なんだよ。そして、鬼人である俺と、人間であるお前とは徹底的な差があるんだよ」
「言ってくれるじゃない。なら、人間の底力を見せてあげるわよ」
そう言って、咲夜はナイフを取り出し、ジンは咲夜に向かって走り出した。
―――――――――――
「星符!“メテオニックシャワー”」
魔理沙が放った星形の弾幕が、正邪達めかけて放たれる。
「反射!“ライトリフレクション”!」
サニーはそれを反射させ、魔理沙に返す。
「うお!? それならこれはどうだ! 魔廃!“ディープエコロジカルボム”!」
魔理沙は小瓶らしきものを取り出し、それをサニー目掛けて投げる。
サニーはキョトンとしながら、それを見ていた。
「ん? 小瓶?」
「バカ野郎! なにボサッとしているんだ!」
正邪は咄嗟に小瓶を弾幕で撃ち落とす。すると小瓶は爆発を起こす。
「うわわ! あ、ありがとう正邪・・・・・・」
「ふん、お前がやられると、肉楯がいなくなるからな」
「酷い! そんな事言わなくても良いじゃない!」
「でも・・・実際には楯として役に立っているわよね」
「そうね。サニーのおかげで、魔理沙さんの魔法を殆ど防いでくれるもの。こちらとしては安心だわ」
「こちらとしては、結構大変なんだけど・・・・・・」
「お喋りとは余裕だな。その余裕、いつまで持つかな!」
すると魔理沙は、先程よりも多く爆弾小瓶を投げ放つ。その量の多さに、サニー達は慌てふためく。
「「「あわわわ!」」」
「三バカ妖精! 慌てふためく暇があったら撃ち落とせ!」
「「「は、はい!」」」
四人は弾幕を放って、魔理沙が投げた小瓶を次々と撃ち落としていく。その隙を、魔理沙は見逃さなかった。
「今だ! 恋符!“マスタースパーク”!」
魔理沙は必殺の一撃を、正邪達目掛けて放つ。それをいち早く気づいた正邪は、サニーを持ち上げ、楯にする。
「おい! あれをはね返してやれ!」
「え? えー!? ちょ、ちょっとー!」
「ちょっとでも何でも、やらないと私達がやられるんだぞ! つべこべ言わずにやれ!」
「こ、このー! やけくそよー!」
サニーはやけくそになりながらも、魔理沙のマスタースパークをはね返そうする。しかし、彼女が扱える光の許容量を越えていたので、反らすので精一杯であった。
「マスタースパークをそらすとは、思った以上にやるなサニー」
「ど、どんなものだい・・・・・・」
「だが、一回反らすのが背一杯のようだな。次で終わらせてやるぜ」
そう言って、再びミニ八卦炉を構え始める。
「これで最後だ! 魔砲!“ファイナルスパーク”!」
魔理沙の放った極大な閃光が、正邪に迫る。その瞬間に、サニーはあるものを取り出した。
「お願い! 力を貸して!」
彼女が出したのは、ジンに密かに渡されていた八百万の小刀。それにより、サニーの力は増幅され、ファイナルスパークを受け止める。
「ぎぎぎ・・・・・・」
「私のファイナルスパークを受け止めた!?」
二人の力はしばらく拮抗したが、徐々に魔理沙が押し始める。
「受け止めたのには驚いたが、私の力の方が上のようだな!」
「く、くっそー!」
「諦めないでサニー!」
「ルナ!?」
「そうよ! 私達がついているわ!」
「スター!?」
ルナとスターは、サニーが持っている小刀を一緒に持ち始める。すると、魔理沙のファイナルスパークを僅かに押し返し始めた。
「うお!? だが、二人増えたぐらいで――――」
「忘れたの魔理沙さん! 私達は光の三妖精! 三人揃って初めて本領が発揮されるのよ! ルナ! スター!」
「ええ!」
「こっちはいつでも」
「行くわよ! 日月星(さんげつせい)!」
「「「“スリーフェアリーズ”!」」」
日と月と星の光が一つになり、その光が魔理沙のファイナルスパークを完全に押し返した。
「な、なんだとー!?」
魔理沙は驚愕しながら、三人が放った光に飲み込まれた。
光が収まり、後に残ったのは削れた大地だけであった。
「や、やった・・・・・・」
全ての力を出しきった三人は、そのまま地面に倒れ込んだ。
そして暫くすると、地面からボロボロの魔理沙が現れる。
「あ、危なかった・・・魔法で地面に潜り込んでいなかったら、やられていたぜ・・・・・・」
スリーフェアリーズが直撃する直前、魔法で地面に潜り込み、何とかかわす事が出来た。しかし、かわしたと言っても、直撃を避けただけで、魔理沙のダメージはかなりの物になっていた。
(あの三人がここまでやるとは・・・もう、雑魚呼ばわり出来ないな)
「動くな」
そんな事を思っていると、動くなという正邪の声が後ろから聞こえた。どうやら、先程の戦いの隙に回り込まわれたようである。
「負けを認めるなら、これ以上何もしないが、どうする?」
「・・・・・・はあ~、わかったよ。どうせ魔力も体力も無いんだ」
少し悔しそうに、魔理沙はその場に座りだし、正邪に所持している札を手渡した。
「あーあ、まさかこんな所でリタイヤか」
「へへん、相手が悪かったな」
「言ってろ、ジンが来なかったら、お前の方がリタイヤしていたんだぜ」
「実際そんなんだよな。癪だけど」
そう悪態つくと、正邪は魔理沙の隣に座り出す。それを見た魔理沙は、キョトンとした。
「お前、加勢しに行かないのか? ジンは咲夜と戦っているんだろ?」
「別に行かなくても良いよ。どうせアイツが勝つんだから」
「随分と信頼しているんだな」
「信頼なんかしていない。その方が私が楽なだけだからな」
正邪そう言って、ニカッと笑いだした。
―――――――――――
「金獸!“大陰の寸鉄”!」
「幻象!“ルナロック”!
ジンは金獸で、寸鉄を放つ。咲夜は時を止め、寸鉄をかわしてから、ジンの周囲にナイフを設置し、時を動かす。しかし、ナイフの設置する場所をあからじめ予知していたジンは、ナイフを容易くかわした。
(くっ、ナイフの設置位置を完全に読まれいるわね。さてどうするか――――)
そんな事を考えていると、今度はジンが、咲夜目掛けて走り出した。恐らく撃ち合っていては埒があかないと思ったのであろう。
それはとても早く、チーターさながらのスピードであった。
「くっ、幻在!“クロックコープス”!」」
咲夜が時間を止め、ナイフを設置するが、既に予見されていたかのように、ジンは既に回避行動に移っていた。当然ナイフは、ジンを捉えられる事はなかった。
(どうやら、時を止めるタイミングも読まれているようね・・・思った以上にやりづらいわ)
彼女が劣勢になっているのは、ただ単にジンの身体能力が高くなっただけではなかった。最大の理由としては、紅魔館から離れているからである。
紅魔館には、咲夜の能力を補助する呪文が館の中と周囲に張り巡らしている。そのおかげで、彼女は紅魔館の近くでは能力をほぼ無制限に行使出来る。しかし、呪文の恩恵が受けられない外では、かなり制限されてしまうのである。
(時を止められるのは数秒ってとこね。この数秒をいかに使うかが、勝負の分かれ目ね)
そんな時、壁の向こうから眩い光が漏れ出す。
「なに!?」
咲夜は光に気をとられているその瞬間、ジンは今までに無いスピードで駆け出した。
(しまっ―――いえ、これはチャンスよ! ギリギリまで引き付けて、時を止める!)
いくら予知、予見されようが、関係ないナイフ配置をすれば、鬼人となったジンといえでも、かわすのは容易では無い。そう考えた咲夜は、ジンを迎え撃つ事にした。
(後少し、もう少し・・・・・・今だ!)
「幻世!“ザ・ワールド”!」
「金獸!“白虎の尺鉄”!」
時を止めるその瞬間、咲夜の目の前に尺鉄が止まる。咲夜が時を止めた瞬間に、ジンが放った物であった。
(あ、危なかった・・・後少し、時を止めるのが遅かったら、やられていたわ)
絶妙のタイミングであった。この時咲夜は、自分の幸運に感謝した。
「これで終わりよジン!」
咲夜はジンの回りにナイフを設置をする。ナイフの設置が終わり、時が動き始めた。
「くっ!」
ジンは直ぐ様後ろに飛び下がるが―――――。
「無駄よ! 既に脱出不可能! チェックメイトよ!」
設置された位置が近いが為、ナイフは次々とジンの体に突き刺さっていく。
「ぐうっ!」
「さらにだめ押しよ!」
トドメと言わんばかりに、ジンにナイフを投げ放つ。
そのナイフは見事、ジンの胸に突き刺さる。
「があっ」
ジンはそのまま地面に倒れた。
「あ、あら・・・・・・? やば! 調子に乗ってやり過ぎた!?」
咲夜は慌てて、ジンに近寄る。
「ジン! 大丈―――」
その瞬間、全身に痺れる痛みが走り、咲夜は倒れてしまう。
「い、一体何が・・・・・・」
「ギィ」
すると目の前に、ライが誇らしそうに鎮座していた。
「い、いつのまに・・・・・・」
「別に、俺は一人でやるとは言っていないが?」
するとジンは起き上がり、刺さっていたナイフを抜き始める。
「あ、貴方・・・どうして・・・・・・平気なの・・・・・・?」
「平気なものか、腕には思いっきり刺さっている。まあ、体の方は―――」
ジンは咲夜に、服の中を見せる。服の下には土色の鎧があった。
「土獸の鎧だ。予め仕込んでいたんだよ」
「ふふ・・・・・・どうやら、まんまと・・・・・・貴方の手に・・・・・・引っ掛か――――」
咲夜はそのまま気絶をしてしまう。それを見て、ジンは一息ついた。
「ふうー、どうにか勝てたな・・・助かったぞライ」
「ギィ♪」
ジンはライの頭を撫でると、ライは嬉しそうに鳴いた。
[妖夢、早苗、魔理沙、咲夜。リタイヤ]
[ルナ、スター、それぞれ五十七枚獲得。ルナ、現在五十九枚。スター、現在八十五枚]
[サニー、百七枚獲得。現在、百十一枚]
[正邪、百二十一枚。現在、二百枚]
[ライ、百十六枚獲得。現在、百四十七枚]
[チームアマノジャク。ジン、十一枚。ライ、百四十七枚。サニー、百十一枚。ルナ、五十九枚。スター、八十五枚。正邪、二百枚。合計六百十三枚]
―――――――――――
魔理沙達の死闘を終えたチームアマノジャク。しかし、サニー達の限界は来ていた。
「大丈夫か三人とも?」
「大丈夫・・・と言いたいけど・・・・・・」
「結構辛いかも・・・・・・」
「もう動けない・・・・・・」
三人は息絶え絶えであった。
流石に三人をこれ以上連れてはいけないと判断したジンは、三人にリタイヤを勧める。
「三人とも、これ以上は無理だと思う。リタイヤした方が良い」
「でも! 折角ここまで――――」
「そんなバテバテで、着いてきても足手まといだ。そんなんで次の戦い、勝てるのか?」
「だけど・・・・・・」
「三人はよくやってくれた。後は俺達に任せてくれ」
「ジン・・・わかった・・・・・・」
サニー達は残念そうに、ジン達に札を手渡す。
[サニー、ルナ、スター、リタイヤ]
[ジン、百十一枚獲得。現在百二十二枚]
[ライ、五十九枚獲得。現在、百九十九枚]
[正邪、八十五枚獲得。現在、二百八十五枚]
[チームアマノジャク。ジン、百二十二枚。ライ、百九十九枚。正邪、二百八十五枚。合計六百十三枚]
「頑張ってね三人とも」
「無理しないようにね」
「私達の札を渡したんだから、優勝してね」
「ああ、三人の分まで頑張るさ」
「おーい、さっさと行くぞー」
「ギィ」
「「「フレー! フレー! チームアマノジャク!」」」
サニー達のエールを受けながら、ジン、ライ、正邪の三人は歩き出すのであった。
―――――――――――
サニー達と別れたチームアマノジャクは、周囲を警戒しながら移動をしていた。
「三人がいない分、いつもより警戒しないとな」
「ギィ」
「ちゃんと見張ってろよお前ら」
「お前もやれ!」
そんなやり取りをしながら、ジン達は歩き出す。
しばらく歩いていると、小径に出た。
「さて、これからどうするか・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
二人がこれからの事を考えていると、ライが鳴き声を上げる。
「ギィ」
「なに? 向こうから誰かが来るのか?」
「何だって!? おい隠れるぞ!」
二人は急いで隠れた。しばらくすると、霊夢が歩いて来た。
「霊夢? やっぱり残っていたようだ」
「どうする? やるか?」
「うーん・・・正直言って、どうやれば勝てるのか、わからない。さっきの四人と違い、弱点らしい弱点も無さそうなんだよな・・・・・・」
妖夢の場合は、素晴らしい集中力を持ってはいるが、集中力し過ぎて周囲に気を配れなくなる。
早苗は自身の力を過信し、慢心してしまうところ。
魔理沙は、スペルカードの殆どが光に関する物である事。
咲夜は、紅魔館から離れると、時間停止が短くなる。このように、何かしらつけ入れる隙はあったのだが、霊夢の場合はそう言った物がまったく見当たらないのである。強いて言えば、面倒くさがり、守銭奴と言ったところである。
(やはり正攻法では無理だな。だが、霊夢の奴は妙に勘が鋭いからな・・・・・・さて、どうする?)
そんな事を考えていると、霊夢がふと立ち止まる。そして、ジン達が隠れている木に目をやると――――。
「そこね!」
「やば! 見つかった!?」
霊夢は木に目掛けて札を放つ、札を張られた木は粉砕されるが、既にジンは正邪とライを連れて移動していた。そしてチームアマノジャクは、博麗の巫女と対峙するが―――――。
「あらジンに正邪、それにライまで。あんた達も生き残っていたのね」
相手がジンだとわかると、先程まで出ていた敵意は、なりを潜めた。どうやら、戦う気は無いらしい。
「まあな・・・ところで、妖狐と針妙丸を見なかったか? スタートしてから、一度も見ていないんだが」
「あの二人は既にリタイヤしているわよ。針妙丸は萃香に、妖狐はマミゾウにやられたから」
「そ、そうか・・・・・・」
「まあ、その二人も私が倒したけどね」
「萃香とマミゾウをか・・・ところで、霊夢は今何枚なんだ?」
「私? えーと・・・八百十六枚ね」
「「八百十六!?」」
「適当に歩いて、片っ端から倒して行ったら、それくらいになっちゃったのよ」
「恐るべし、博麗の巫女だな・・・・・・」
「ちょっと、人をなんだと思っているのよ」
「ああ、悪い悪い」
「そういうあんた達はどうなのよ?」
「俺達か? えーと、俺が百二十二枚、ライが百九十九枚、正邪が二百八十五枚だ」
「へぇー、なかなかやるじゃない。少しは見直したわ」
「俺だってやるときはやるさ」
「その調子で頑張ってね。それじゃ」
霊夢は手を振りながら、その場を後にしようとする。その時、正邪は霊夢を呼び止める。
「おい待て!」
「ん? 何かしら?」
「霊夢、私達と勝負をしろ!」
「やっぱり、やるのか・・・・・・」
「当然だろ、ここで博麗の巫女を討ち取れば、一位は間違いない!」
やる気満々の正邪に、憂鬱な気持ちになるジン。そして、事態が飲み込めない霊夢であった。
「ちょっと、なんで私があんたと戦わないといけないのよ?」
「あーまあ、正邪は優勝したいらしい」
「優勝って、紫が持っているマジックアイテムの事? どうせ、くだらない何かに決まっているわよ」
「そんなの分からないだろ。あの賢者が所持しているマジックアイテムなんだ、くだらない物な訳が無い」
((あの紫だからな・・・))
「ともかく、お前を倒さない限り、優勝出来ない。リタイヤして貰うよ」
「やれやれ、しょうもない天邪鬼ね。ジン、ライ、さっさとやっつけましょう」
「あ、悪い霊夢。俺とライは正邪と組んでいるから、今回はお前の敵だ」
「ギィ」
「はあ!? あんた、私よりもその天邪鬼の味方するの!」
「まあ、結果的にはそうなるな」
その言葉に、霊夢はカチンときた。
「・・・・・・大境界“二重絶対結界”」
すると霊夢中心に二重の結界が展開され、ジン達を閉じ込めた。
「いいわよ、そんなに相手にして欲しいのなら、相手になってあげるわ。いくわよジン!」
そう叫びながら、霊夢は札と針を放つ。すると、内側の結界に触れた瞬間に、それらは消えた。
「ん? 一体何の―――」
「正邪避けろ!」
ジンは正邪を突き飛ばした。すると外側の結界から、先程の札と針が飛んで来た。
「内側の結界を経由して、外側の結界から放たれるって訳か。まるで紫みたいだな」
「紫から教わったのよ。癪だけど、相手を閉じ込め、尚且ついたぶるのに最適なのよね」
「・・・・・・な、なあ霊夢? もしかして、物凄く怒っているのか?」
「さあ? どうかしら? 分かっているのは、あんたが私の敵だという事よ!」
そう叫びながら、霊夢は再び札と針を放つ。
結界を経由して、背後から来る札と針をかわすチームアマノジャク。
「人の十八番を取りやがって! これでも喰らえ! 欺符!“逆針撃”!」
正邪は後ろ向きで針状の弾幕を放つ。しかし、内側の結界に触れた瞬間、弾幕は結界の外に放たれてしまう。
「無駄よ! どんなに撃っても、あんた達の弾幕は私には届かない!」
「なら! 結界の性質を利用すれば!」
ジンは外側の結界に目掛けて、岩弾を放つ。しかし、結界に干渉することはなかった。
「残念だったわね、これは一方通行なのよ」
「ギィギィ!」
それなら直接と言わんばかりに、突っ込むライ。しかし、結界に触れた瞬間、全身に鋭い痛みが走った。
「ギギギィー!?」
「ライ!?」
「甘いわね! 以前ならともかく、これは二重弾幕結界を改良したもの! 内の結界にも、当たり判定はあるのよ!」
「それって反則だろ!」
「安心しなさい、内の結界はかなり小さくなっているから、かわすスペースぐらいはあるわ。言うなれば、耐久スペルカードよ」
「俺、耐久苦手なんだけどな・・・・・・」
「さあ、いつまで持つかしら?」
霊夢は容赦なく、攻撃し続けた。ジンと正邪は何とかかわすが、それでも徐々に追い詰められていく。
(くそっ、正直言って持たない! どうにかしないと――――待てよ?)
ジンはある事を思いつき、正邪に向かって叫んだ。
「正邪!」
「あん!? なんだよ!?」
「結界の効果を“ひっくり返せるか”!?」
「無理だ! 小槌の魔力があった頃なら出来たかも知れないけど!」
「なら、これを使え!」
ジンは八百万の小刀を、正邪に投げ渡した。
「それには、力を増幅させる効果がある! それで出来るか!?」
「ああ! これなら―――引っくり返せる!」
正邪は小刀を引き抜き、能力を発動させる。
「逆転!“リバースイデオロギー”!」
正邪が発動させると、結界が僅かに歪む。その瞬間、ジンは外の結界目掛けて弾幕を撃つ。
「土獸!“岩石弾”!」
すると先程弾いた結界は、ジンの岩石弾を飲み込み、霊夢がいる内側の結界から出現した。
「え! ちょ―――!」
霊夢は突然現れた岩石に対応出来ず、直撃してしまった。
「きゅ~・・・・・・」
霊夢は目を回しながら、その場に倒れ込んでしまった。
「う、うーん・・・・・・」
「お、目を覚ましたか霊夢?」
霊夢が目を覚ますと、彼女の顔を覗き込むジンの姿があった。
「ジン? 私―――」
「俺が放った弾幕に当たって気絶したんだよ」
「そうなの・・・・・・」
どうやら、目を覚ますまで、ジンが介抱してくれたようである。
霊夢は痛む体を起こす。
「おい、まだ寝ていた方が―――」
「これくらい大丈夫よ。それに、いつまで寝ていたら、あんたに迷惑掛かるし」
「俺は迷惑だとは思っていないぞ」
「あのね、まだバトルロワイヤルは終わっていないのよ。脱落者に構っていたら、あんたまでリタイヤしちゃうじゃない」
「俺としては、ゲームより霊夢の方が大事なんだけどな」
「・・・・・・なんでこんな時にそれを言うのかしら?」
「何か言ったか?」
「別になんでもない。ところで、正邪はどうしたの?」
霊夢は正邪がいない事に気づき、ジンにそれを訪ねると、彼は少し困った表情をした。
「それがな、俺が霊夢を倒してしまったから、霊夢とライの分の札が俺の所に来てしまったんだ。
それで、正邪に俺の札を渡しようとしたんだが――――」
「逆に怒らせてしまったんでしょ」
「ああ、“お前なんかの施しは受けない! 札は自分の力で奪う!”ってな」
「天邪鬼だから、施しは受けたくなかったのね」
「やれやれ、別に俺は優勝なんかに興味はないんだけどな・・・・・・」
「こうなってしまったら、やる以外に無いんじゃない?」
「そうだよな・・・やれやれ」
ジンは溜め息をつきながら、立ち上がる。
「霊夢、ライを頼んだ。俺は正邪と決着をつけにいく。時間的にも、これが最後だろう」
「ええ、いってらっしゃい。私に勝ったんだから、負けたら承知しないわよ」
「あまりプレッシャー掛けないでくれ」
「エールを送ってんのよ。ほら、ビシッとしなさい」
霊夢に背中を叩かれながら、ジンは正邪が待つ無名の丘へと向かう。
[ライ、リタイヤ]
[霊夢、リタイヤ]
[ジン、千百十五枚獲得。現在、千百三十七枚]
―――――――――――
無名の丘、そこに正邪は一人でジンを待っていた。
その表情は、何処か不機嫌であった。
(あの野郎・・・絶対にわざと言っているよな)
正邪が腹を立てていたのは、ジンが札を自分に譲渡しようとしていた事である。彼女にとってそれは侮辱であり、何よりも、天邪鬼としてのプライドが許せなかった。
(あんな事を言わなければ、快く騙し討ち出来たのに、あんな事を言われたら出来ないじゃないか!)
『これ、正邪にやるよ。そうすれば、危険を犯さず優勝出きるかも知れないだろう』
それはジンにとっては、善意であったのだが、天邪鬼である正邪にとっては、悪意であった。二人の間には、こういったズレが生じており、それが衝突の原因でもあった。
(まあいい、こうなったら正面から戦って、札を全部奪いとってやる!)
そう心に誓う正邪の前に、ジンが現れた。
「来たかジン」
「なあ正邪、本当にやるのか?」
「当たり前だろ、お前なんかの施し受けたら、天邪鬼がして廃る」
「結構施しを受けているような気もするのだが?」
「それはお前の気のせい、思い違いだ」
「そうか・・・・・・」
「だから、お前から堂々と札を奪いとり、優勝を狙う」
「意外だな、お前なら騙し討ちとかすると思っていた」
「お前のせいで、それが出来ないんだよバカ野郎!」
「なんでそこで怒るんだよ!?」
「うるさい! これでも食らえ! 逆弓!“天壌夢弓”!」
正邪は空に目掛けて弾幕を放つ。すると地面から、先程の弾幕が放たれた。
「地面から―――って、お前! それは俺の小刀じゃないか!」
ジンはようやく気づく。彼女の手に、八百万の小刀が握られている事に。
「返せとは言われて無いんでね」
「今すぐ返せ!」
「やなこったい♪」
「こ、この野郎~・・・マジで許さねぇ! 食らえ! 土獸!“勾陳の征矢”!」
ジンが放った土の矢は、正邪に目掛けて放たれる。
「こんなの余裕――――なに!?」
ジンの弾幕は、無数に分裂し、正邪を襲った。
「のわぁ!? 危な!」
「ちぃ、かわされたか」
「こいつ! 逆符!“鏡の国の弾幕”!」
正邪が次のスペルカードを発動させると、ジンの視界と感覚が反転する。
「うわ!? 右が左に!!」
「これでどうだ!」
戸惑うジンに容赦なく弾幕を浴びせる正邪。ジンはその弾幕を何とかかわしていった。
「よっ、ほっ、なんだ、馴れれば大した事はないな」
「それならこれはどうだ! 逆符!“天地有用”!」
すると今度は上下の感覚が逆転し、まるで逆さまになった感覚に陥る。
「今度は上下か、だが――――」
ジンは冷静に正邪の弾幕を見極め、次々とかわしていく。
「どうした正邪! この程度か!?」
「この野郎・・・だったら見せてやるよ、奥の手を! 逆転!“リバースヒエラルキー”!」
「そう何度も同じ手を――――なに!?」
ジンの視界がぐるりと回る。上下左右と、視界と感覚が回転し始める。
「のわぁ! なんなんだよこれは!?」
「見たか! これが私の必殺スペルカード、リバースヒエラルキーだ!」
「こんなの、どうやって避ければ良いんだ!?」
「回避不可能さ! 大人しくやられな!」
そう言って正邪は、容赦なく弾幕を放った。
いかに軌道が読めていても、体を思うように動かせなければ意味は無い。徐々に追い詰められたジンは、最後の手段を取ることに。
「土獸!“金剛の枷”!」
「うわ!?」
金剛で出来た枷で、正邪を捕まえ引き寄せた。
「こんなんで一体どうするつもりだ? 手錠デスマッチでもやるのか?」
「いや、体をまともに動かせない状態じゃ、殴り合いなんて出来ない。だから、こうするんだよ!
火水獸!“反作用爆弾” !」
ジンは火獸と水獸を召喚し、その二体をぶつけ合わせた。
「な、何をするつもりだ!?」
「簡単な事だ。水素爆発を起こして、お前を倒すんだ!」
「爆発!? そんな事をしたらお前も――――」
「このまま負けるよりはマシだ! 腹を括れ正邪!」
「ええい! 離せバカ野郎ー!」
「もう遅い!」
「うわぁー!!??」
正邪の叫びと共に、無名の丘は大爆発を起こすのであった。
[ジン、リタイヤ]
[正邪、リタイヤ]
[獲得賞金無し]
―――――――――――
弾幕バトルロワイヤルから一週間後。正邪は縁側で、文々。新聞をつまらなそうに読んでいた。
「“優勝者、古明地こいし。誰もが予想しなかった優勝者に、注目が集まる”か・・・けっ」
正邪は読んでいた新聞をくしゃくしゃに丸め、それを放り捨てた。
捨てられた新聞を、ジンが拾い上げる。
「おい正邪、新聞を捨てるな。まだ読んでいないんだから」
「こんな三文新聞なんか、つまんねぇよ」
「やれやれ・・・・・・」
ジンはくしゃくしゃになった新聞を広げ、読み始めた。
「へぇ、こいしが優勝したのか」
「大方、セコイやり方をしたんだろう」
「俺達も大概だと思うが・・・・・・」
「あーあ、本当だったら私が優勝している筈だったんだ。それをジンが、自爆技でオジャンにしやがって」
「だったら、あの時素直に受け取っていればよかっただろ」
「それは、私のプライドが許さない」
「まったく、面倒な性格だなお前は」
「うるさい、余計なお世話だ」
「やれやれ・・・・・・」
ジンはため息をつきながら、新聞の続きを読む。ふと、ある疑問が浮かび上がる。
「ふと思ったんだが、優勝賞品って、一体なんだったんだ?」
「さあな、そこ辺り優勝者にでも聞いてみればいいだろ」
「それもそう―――」
「知りたいなら、教えて上げるよ♪」
ジンは、突然誰かに後ろから抱きつかれた。振り返ると、そこには笑顔満面のこいしがいた。
「こいし? いつ来たんだ?」
「今来たところだよ」
「そうなのか、それで今日はどうした?」
「今日はね――――」
「ん? ジン、お前誰と話しているんだ?」
正邪は訝しい目で、ジンを見ていた。どうやら彼女には、こいしを認識出来ていないようである。するとこいしは――――。
「ジンはね、私と話しているんだよ♪」
「うわぁ!? いつからそこに居た!?」
「さっきからだよ」
にこやかに答えるこいしに対して、正邪は気味悪さを感じた。
「そういえばこいし、優勝したんだってな。おめでとう」
「えへへ♪ ありがとうジン。でもね、優勝出来たのはジンのおかげなんだよ」
「俺の?」
「うん♪ ジンが優勝候補を倒してくれたおかげで、順位がくり上がったの。だから今日は、その御礼に来たの♪」
「そうだったのか・・・・・・」
「それだったら、私にもお礼をくれ。私のおかげで優勝出来たんだろ?」
「別に、貴女のおかげじゃないもん」
「いや、霊夢達を倒せたのは、俺一人だけの力じゃなくて、皆の力なんだ。だから、礼を言うなら皆に――――」
「ジン、お前はそんな私の事が嫌いなのか?」
「え? 何の事だ?」
「はあ~・・・もういい、御礼なんかいらねぇ」
そう言って、正邪は何処かへ行ってしまった。
「なんだなんだあいつ? いきなりお礼はいらないって」
「駄目だよジン。彼女は天邪鬼なんだから、感謝されるのが嫌いなんだよ」
「そう言えばそうだったな・・・悪い事をしたな」
「ふふ、ジンって変わってるね。普通はそこまで考えないよ」
「まあ、性分みたいなものだからな。ところで、優勝賞品は何を貰ったんだ?」
「それはね、これなんだよ」
そう言って、こいしが見せたのは、首に下げているペンタンドであった。
「ペンタンド?」
「一見、何の変哲の無いペンタンドだけど、限定的に境を操る事が出来るんだよ」
「本当か!? それってかなり凄い物じゃないか!?」
「うん♪ といっても大した事は出来ないんだけどね。
だけど、これでいつでも地霊殿に帰れるし、このアイテムのおかげで、私の能力も安定したの」
「まさに、こいしにピッタリなアイテムだな」
「うん♪ 私の新しい宝物♪」
こいしは笑顔満面で、ペンタンドを見せるのであった。
それからしばらく、あちらこちらで、こいしの姿を見掛ける事が多くなったと言う。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
この話を作る際に、東方シリーズを色々とプレイしました。プレイと言っても、殆どがイージークリアーですが・・・・。
これからも、軌跡録をよろしくお願いします。