東方軌跡録   作:1103

100 / 194
遅くなりましたが、祝百話目です。
今回はいつもの趣旨と違い、バトル物にしました。
主人公補正、ご都合主義、つたない戦闘描写満載です。
しかも、文字数は三万超えです。分割を考えましたが、せっかくなので分割無しで投稿することにしました。
かなり長いですが、最後まで読んでくれると嬉しいです。



百話特別長編、弾幕バトルロワイヤル

某月某日。人里には、千を超えるの猛者が集められていた。

 

「えー、マイクテス、マイクテス。ごほん、それではお集まりの皆さん! これより、弾幕バトルロワイヤルを開始いたします!」

 

「「「「おー!!!」」」」

 

文の言葉に、猛者達が唸りを上げる。

弾幕バトルロワイヤルとは、数年に一度行われる。大規模な弾幕ゲームである。

参加者にはそれぞれ、参加札を所持し、制限時間内にそれをより多く奪った者が優勝である。

また、優勝出来なかった者も、札の枚数に応じて賞金が出され、札一枚につき、一円―――外の世界だと最低一万円分の賞金が貰えるのである。

もっともそれは、さいごまで生き残る事が出来ればの話である。

 

「それでは、位置について・・・よーいスタート!」

 

文が始まりの合図を出したその瞬間、猛者達は人里の外へと散った。バトルロワイヤルの始まりである。

 

―――――――――――

 

魔法の森の中を、ジンはライと共に歩いていた。

 

「はあ・・・正直やりたくないな・・・・・・」

 

「ギィ?」

 

「ん? ああ、はっきり言ってこんなゲームには参加したくはなかったんだが、霊夢の奴に無理矢理な・・・・・・」

 

それは数日前の事。霊夢は全員にこう告げていた。

 

『全員参加よ! そんでもって、賞金を手にいれなさい!』

 

完全に金に目が眩んでいた霊夢に逆らう事が出来ず、ジンは渋々参加する事になった。

 

「ともかく、出来るだけ戦いは避けよう。ライもそれで良いな?」

 

「ギィ!」

 

「弱腰で結構、こういうのは臆病者が勝つんだよ」

 

そんな話をしながら、ジンとライは、霧の湖に出た。

 

「さーて、これからどうす――――避けろライ!」

 

ジンは叫ぶと同時に、飛び退いた。ライも声に反応し、その場から飛び退いた。

すると二人がさっき居た場所に、水弾と氷塊が撃ち込まれた。

 

「あら? かわされちゃった?」

 

「ふふん、流石はアタイのライバルだ!」

 

湖からわかさぎ姫とチルノが現れた。

 

「わかさぎとチルノか、まさか待ち伏せとは・・・・・・」

 

「ええ、本当はチルノちゃんが、ここまで誘き寄せる手筈だったけど、手間が省けたわ」

 

「こういうの、飛んで火にいる・・・・・・秋の虫? 春だっけ?」

 

「夏だチルノ。飛んで火にいる夏の虫だ」

 

「そうそれ! でも、何で夏なんだ?」

 

「夏が、虫達が一番活発だからだ」

 

「おお! そうなんだ! ジンは物知りなんだな!」

 

「ええっと・・・そろそろ始めても?」

 

「ああ、悪い」

 

「こほん、それでは行くわよ! テイルフィンスラップ!」

 

わかさぎ姫が放った水弾は、ジンとライに目掛けて放たれた。

 

「土獸!」

 

ジンは土獸を召喚し、土の壁で水弾を防ぐ。

 

「食らえ! ダイヤモンドブリザード!」

 

今度はチルノが放った氷塊が、土の壁に幾重にも刺さり、やがて粉砕していった。

 

「くっ、ライ!」

 

「ギィ!」

 

次にライが、電撃を放ち、チルノ氷塊を次々と消滅させる。

 

「あわわ!」

 

「そうはさせないわ!」

 

するとわかさぎ姫が水流を放つ。ライが放った電撃は、水流によって逸らされた。

 

「ふふん、どうだアタイ達のコンビは!」

 

自慢気に言うチルノに対して、ジンは少し悩んでいた。

 

(う、うーむ・・・これは少し厄介だな。あまり時間を掛けると、他の奴等に見つかる可能性がある)

 

ジンが危惧しているのは、第三者による強襲である。バトルロワイヤルである以上、もっとも警戒すべき事態である。

 

(仕方ない・・・卑怯だが、この手を使うか)

 

「ライ! 電撃を放て!」

 

「ギィ!」

 

「無駄よ! 貴方の電撃なんて、私の水流で―――」

 

「ただし、湖に目掛けてだ!」

 

「え?」

 

ライは言われるまま、湖に目掛けて電撃を放った。電撃は水を走り、湖の中にいたわかさぎ姫は、感電してしまう。

 

「あばばばば!」

 

「わ、わかさぎー!」

 

わかさぎ姫を助けようと、近寄るチルノ。しかし、彼女もわかさぎ姫ともに感電してしまう。

 

「「あばばばば!!」」

 

こうして二人は、仲良くリタイヤしたのであった。

 

[わかさぎ姫、チルノ、リタイヤ。]

 

[ライ、札二枚獲得。現在三枚]

 

―――――――――――

 

霧の湖を後にしたジンとライは、妖怪山を目指していた。

 

「ともかく、動き回らないと、また見つかる。ああ、こんな時にサニー達がいればな・・・・・・」

 

「ギィ」

 

そんな愚痴を言いながら歩いていると、大きな悲鳴が聞こえて来た。

 

「「「キャー!!」」」

 

「あの声は・・・サニー達だ! 急ごう!」

 

「ギィー!」

 

二人は急いで、悲鳴が上がった場所へと向かった。

 

 

その頃、悲鳴が上がった場所では、サニー達が追い詰められていた。

 

「ようやく捕まえた。さあ、観念しなさい」

 

「「「あわわわ・・・・・・」」」

 

「影狼、弱いイジメは良くないと思うけど」

 

蛮奇は相棒の、今泉影狼にそう言った。やりづらそうに答えた。

 

「それは分かっているけど、今のうちにこつこつ札を取らないと。後半は強いやつしかいないんだし」

 

「それは・・・わかるけどさあ・・・・・・」

 

「別に取って食おうって訳じゃないわ。札を取り上げるだけ」

 

そう言って、今泉影狼は、ゆっくりとサニー達に近づいた。

 

「さあ、痛い目に合いたくなかったら、大人しく札を渡し――――」

 

「待て!」

 

そこにジンが颯爽と現れた。

ジンの姿を見たサニー達は、安堵の表情を浮かべる。

 

「ジンか・・・面倒な奴が来たね・・・・・・」

 

「蛮奇か、それと――――」

 

「私は今泉影狼、蛮奇の友人だよ」

 

「狼女か、それでサニー達を見つけた訳だな」

 

「そういう事。狩りは狼の本分だからね、貴方から狩ってあげるわ!」

 

影狼がそう叫ぶと、ジンに目掛けて飛び掛かった。

 

「スターリングバウンス!」

 

「おわ!? 意外と早い!」

 

「狼になれなくても、スピードに自信があるのよ!」

 

そう言って、影狼はジンに向かって何度も飛び掛かった。

ジンは影狼の動きを予測し、それをかわす。しかし、別の方向から弾幕が飛んで来た。

 

「くっ、蛮奇か!」

 

「悪いけど、二対一でやらせて貰うわ。マルチプリケティブヘッド!」

 

蛮奇は頭を飛ばし、それを五つに分身させ、それぞれの頭で、ジンに攻撃を仕掛ける。

 

「くっ!」

 

二人の多方向からの攻撃に対して、ジンは辛うじてかわし続けた。しかし、それも限界があった。

 

「さあこれで!」

 

「「「「終わ―――だだだだだた!」」」」

 

突然蛮奇が悲鳴を上げる。そして分身の頭は消え、本体の頭だけが地面に落ちた。

 

「蛮奇!? 一体何が――――」

 

そこで影狼が見たのは、黒焦げになって倒れている蛮奇の体と、そのすぐ近くにライがそこに居た。

 

「蛮奇の弱点は、頭が飛んでいる時、体が無防備状態になる。だから、ライが近付いても気づかなかった」

 

「その為に、貴方が囮に!?」

 

「そういう訳だ」

 

「くっ、」

 

影狼は今の状況では勝てないと判断し、逃げようとするが、ライに回り込まれてしまう。

 

「悪いが、お前を見逃す訳にはいかない。リタイヤして貰うぞ」

 

「くっそー!」

 

影狼は半ば焼けくそになりながら、ジンに向かって飛び掛かる。その瞬間、ジンの拳が影狼の顔面に直撃した。

 

「悪いが、その動きは予測済みだ!」

 

「キュー・・・・・・」

 

[赤蛮奇、今泉影狼、リタイヤ]

 

[ライ、札を三枚獲得。現在六枚]

 

[ジン、札を二枚獲得。現在三枚]

 

 

蛮奇と影狼の戦いが終わり、サニー達は安心したのか、ジンに抱きついて来た。

 

「「「うわーん! 怖かったよー!」」」

 

「よしよし、もう大丈夫だ。それにしても、今回は相手が悪かったな」

 

サニー達の能力は、隠密には非常に優れているが、影狼のように匂いを嗅ぎられたら、見つかってしまう欠点もある。それ故ジンは、影狼を逃がさず撃破したのである。

 

(だが、他にも鼻が利く妖怪はいるだろう。ここは――――)

 

「なあ三人とも、良かったら一緒に行動しないか?」

 

「良いわよ。ジンがいれば、百人力よ!」

 

「ギィ!」

 

「もちろん、ライもね」

 

「そうと決まれば、早くここを離れよう。他に奴等が来るかも知れない」

 

「そうね、それじゃ行きましょう」

 

そう言って、サニーは能力を使い、全員の姿を消す。

 

「ルナ」

 

「わかった」

 

そして今度はルナが音を消した。こうなれば、余程の事が無い限り、見つかる事は無い。

 

「スター、今度はちゃんと見張るのよ?」

 

「分かっているわよ」

 

「それじゃ、準備が出来た事だし。出発しよう」

 

「「「はーい」」」

 

「ギィー」

 

こうしてジンとライ、サニー達は姿を消したまま、その場を後にした。

 

―――――――――――

 

四人と一匹は、姿を隠したまま、移動していた。

幸いにも、影狼のように鼻が利く妖怪には出合わずに済んでいるが、それでも極力、他の参加者がいる場所を避けていた。

そんな時、スターが声を上げる。

 

「前方から誰か来るわ」

 

「数は?」

 

「一、二、三―――全部十一人!」

 

「十一人か・・・流石に相手に出来ないな。ここはやり過ごそう」

 

ジン達は、身を潜める事にした。

しばらくすると、正邪が走って通り過ぎて行き、その後を十人の妖怪が走って行った。

 

「一人は正邪だったようね。なんか、追われていたみたいだけど・・・・・・」

 

「どうするのジン?」

 

「・・・・・・そうだな。これはチャンスかも知れない?」

 

「チャンスって?」

 

「いいか、みんな俺の話をよく聞いてくれ」

 

ジンは全員に、作戦を伝えた。

 

 

一方正邪は逃げていた、彼女はあまり強くない方ではあるが、並の妖怪には遅れをとらない実力はある。しかし相手は多勢、まともに戦えば、負けるのは確実。だから正邪は、逃げの一手を打つのだが――――。

 

「いい!? 崖!?」

 

正邪は目の前には、かなりの高さの崖であった。

飛ぶ選択は出来ない、飛べば他の参加者に見つかりやすくなり、最悪撃ち落とされる可能性があるからだ。

 

(ど、どうするか・・・・・・)

 

「追い詰めたぞ正邪!」

 

悩んでいると、六人の妖怪達が追いついて来た。全員が正邪に対して、強い敵意を向けていた。

 

「な、なんだよ、私を倒しても、全員分の札は持っていないぞ。ほら!」

 

そう言って、正邪は自分の所持している札を見せる。その数は三枚。

 

(これで仲間割れしてくれれば、良いんだが・・・・・・)

 

しかし、正邪の思惑通りに事は運ばなかった。

 

「そんなのに興味はねぇ! 俺達の目的は正邪! てめぇだけだ!」

 

「あいにく、お前らは私のタイプじゃない。出直して来な」

 

「ちげぇよ! お前に恨みがあるんだよ!」

 

「恨みねぇ・・・おまえらに何かしたっけ? 心当たりがありすぎて、思い出せないな」

 

「良くもそんな事をぬけぬけと・・・野郎共! こいつをリンチにしてやろうぜ!」

 

「「「「「おうよ!」」」」」

 

「そう威勢を張るのは良いけど、もう少し後ろを見たら?」

 

「何を言って――――のわぁ!?」

 

すると背後から、土の弾幕が放たれた。突然の奇襲に、妖怪達は対応出来ず、三人がやられてしまった。

 

「一体何が・・・・・・」

 

「やれやれ、もう少し背後を警戒したらどうだ?」

 

後にいたのはジンであった。妖怪達は、ジンを睨み付ける。

 

「てめぇ! 邪魔をするのか!?」

 

「邪魔をするも何も、これはバトルロワイヤルだ。警戒を怠ったお前らが悪い」

 

「この野郎! てめぇ一人で何が出来る!」

 

「出来るさ。一人でも、たった一つ出来る事がある。それは――――逃げる!」

 

そう言うと、ジンは直ぐ様森の中に走って行った。

 

「あ! てめぇ待ちやがれ!」

 

妖怪達は正邪の事をすっかり忘れ、ジンを追い掛けて森の中へと入って行った。

 

妖怪達は、森の中に入って直ぐにジンを見失ってしまった。

 

「くそっ! 何処に行きやがった!」

 

妖怪の一人がそう叫ぶと、藪が動く音がした。

 

「そこか!」

 

妖怪はそこに目掛けて、弾幕を放つ。藪は破壊されるが、そこにジンの姿はなかった。

 

「くそっ! ちょこまか――――のわぁ!?」

 

すると別の方向から、雷撃が放たれ、妖怪の一人はそれを受けて倒れてしまう。

 

「そこか!」

 

雷撃が放たれた場所に攻撃をするが、そこには誰もいなかった。

 

「くそっ、一体どうなってやがる!」

 

「おーい! 俺はこっちだ!」

 

声の方を向くと、そこにジンの姿があった。妖怪達は直ぐ様弾幕を放つが、ジンの姿は陽炎のように消えてしまう。

 

「なっ!? があ!」

 

消えた事に驚いている隙をつかれ、電撃でまた一人倒される。

 

「くそっ、ここだと不利だ! 一旦森の中を出――――」

 

一人が森を出ようと走り出す。しかし、見えない何かに思いっきりぶつかり、気絶してしまう。

 

「何なんだこの森は!?」

 

「落ち着け! 相手は一人なんだ! 冷静に対処すれば――――」

 

言葉の途中で倒れる妖怪。

彼の頭の近くには、大きな石が転がっていた。

 

「ひ、ひぃ~!」

 

仲間を全て倒され、一人になってしまった妖怪は、冷静さを完全に失って走り出した。しかし、その前方には正邪が立っていた。

 

「良くも追いかけ回したかな。たっぷりと礼をしてやるよ♪」

 

「ひ、ひぃ~!」

 

正邪は笑顔で、手に持っていた魔法の小槌を妖怪に降り下ろした。

 

[モブ妖怪十一名、リタイヤ]

 

[ジン、札を八枚獲得。現在十一枚]

 

[ライ、札を三枚獲得。現在九枚]

 

[サニー、札を三枚獲得。現在四枚]

 

[ルナ&スター、それぞれ一枚獲得。両名、現在二枚]

 

[正邪、三枚獲得。現在六枚]

 

戦いが終わると、サニー達が嬉しそうに会われた。

 

「どうだったジン? 私達の活躍は?」

 

「ああ、十分凄かった。大活躍だったな三人とも」

 

「当たり前でしょ、私達は光の三妖精なんだから!」

 

サニーは自慢気に言った。

ジンの作戦はこうであった。まず自分が囮となって、サニー達がいる場所まで誘き寄せる。そして三人の力をフルに使い、一人ずつ敵を倒していく、非常にシンプルな作戦であった。

ジンは囮となり、サニーは光を操り撹乱させ、ルナは音を消し、位置を極力悟られないようにする。スターは二人の補佐として、ライはもしもの時の三人の護衛と、隙を見て攻撃と言った具合である。

 

「それにしても、私達の能力で、ここまで出きるなんて・・・・・・」

 

「三人の能力は確かに隠密にも向いているが、こう言った撹乱にも有効だ。要は、能力の使い方次第って訳だ」

 

「なるほど・・・・・・」

 

「でも、姿と音を消して、石を落とすのは止めろよ。悪質だからな」

 

「そうね、確かに悪質だったわよ二人とも」

 

「ちょ!? 提案したのはスターでしょ! しかも一緒にやった癖に!」

 

「そうだっけ?」

 

「白々しい・・・・・・ってあれ? 正邪は?」

 

ルナは辺りを見回すと、そこには正邪の姿はなかった。どうやら一人で行ってしまったらしい。

 

「まったく! 御礼くらい言いなさいよね!」

 

「相手は天邪鬼だからな、これで良いんだ。さて、俺達も行こう」

 

ジン達は再び姿を消し、移動を始めるのであった。

 

―――――――――――

 

それからしばらく、妖怪山の周囲を歩き続けるジン達。

するとルナが、突然地面に座り込んだ。

 

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

 

「大丈夫かルナ?」

 

「ちょ、ちょっと辛いかも・・・・・・」

 

「無理も無いわね。もうかれこれ半日以上、能力を酷使しているもの」

 

「そうね・・・流石の私もヘトヘト・・・あと、お腹すいた・・・・・・」

 

サニー達に疲れが見え始めた。いくら隠密に優れた能力であっても、長時間は流石に疲れるらしい。

 

「そうだな・・・何処か休める場所で休憩し、お昼にしよう」

 

「「「さんせ~い」」」

 

「ギィ」

 

こうしてジン達は、休める場所を探し始めた。

 

 

ここは山の麓にある小さな川。そこでジン達は休憩と、お昼を食べていた。

 

「う~ん♪ このサンドイッチ、美味しいわ~♪」

 

「そりゃそうよ、私が作ったんだから」

 

「食後のコーヒーいる人は?」

 

「貰おう」

 

「私も!」

 

「私もねルナ」

 

「はいはい、ちょっと待ってて」

 

ルナは三人にコーヒーを淹れる。

四人はゆっくりと、コーヒーブレイクを楽しんだ。

 

 

ジン達が休んでいる場所から数キロメートル離れている場所で、その様子を眺めている者達がいた。

 

「いた。ここから一里程のところに、ジンと妖精がいます」

 

「あとトカゲもよ。あれも参加者だから」

 

「どうします?」

 

「もちろん強襲よ。逃げられないように、布陣をしきなさい」

 

「「「「了解!」」」」

 

そう言って一団は、散開して行った。

 

 

最初に、一団の接近に気づいたのはライであった。

スターが休んでいる間、彼女の代わりに電波を飛ばし、周囲に近づく者がいないか、見張っていた。そして、ある一団が近づいて来るのをいち早く察知したのである。

 

「ギィ!」

 

「何だって! みんな! ここを離れるぞ!」

 

「え?」

 

「一体どうしたの急に?」

 

「近づいて来る集団がいるらしい! スター! 調べてくれ!」

 

「わ、わかった!・・・・・・!? 本当に来てる!」

 

「え!? 何人!?」

 

「一、二、三――――十人以上だと思う!」

 

「ど、どうする!? 戦うの!?」

 

「何の準備無しに戦える数じゃない! ここは逃げるぞ!」

 

ジン達は急いで支度をし、姿と音を消してその場から離れた。しかし一団は、ジン達を正確に追跡し始めた。

 

「どんどん近づいてくる!」

 

「姿も音も痕跡も消しているのに・・・もしや、スターと同じ能力を持っている奴がいるのか?」

 

「ど、どうするのジン?」

 

「うーむ・・・・・・」

 

ジンは悩んだ。このまま逃げていても、振り切れないだろう。しかし、相手にするには数が多すぎる上に、サニー達は直接的な戦闘力はあまり期待できない。そうなると、サニー達を守りながら戦う羽目になる。どう考えても不利である。

 

(正面からの戦闘は無理だな・・・・・・やはり逃げの一手しか――――)

 

「あ! 前の方からも来てる!」

 

「くそ! 考える暇もないか!」

 

ジン達は、追いやられる形で北の方へと逃げる事にした。しかしそこは、大きな断崖がそびえ立つ、断崖絶壁であった。

 

「行き止まり!?」

 

「どうするの!? もうすぐそこまで来て―――」

 

「もう来ているわ」

 

現れたのは十数名の白狼天狗達と、それを従える白狼天狗隊長の楓と椛が現れた。

 

「白狼天狗・・・そうか、千里眼と匂いで追跡していたのか」

 

「はい、私の千里眼が見つけました」

 

椛は少し申し訳なさそうに言った。一方楓は、獲物を捕らえた事に、上機嫌になっていた。

 

「大人しく札を渡せば、痛い目に合わせないわ。抵抗するなら、それなりに覚悟する事ね」

 

「ジン・・・・・・」

 

サニー達不安そうにジンを見つめる。そんなサニー達を安心させようと、ジンは微笑んだ。

 

「大丈夫。安心しろ三人とも」

 

そう言った後、ジンは自分の札を取り出す。

 

「賢明な判断ね」

 

そう言って、ジンに近づく楓。するとジンはニヤっと笑う。

 

「な、何よその顔」

 

「いや、相変わらず悪い癖だ。将棋でもそうだ、勝ったと完全に思い込んでいるからな」

 

「どういう意味よ?」

 

「この世に絶対は無い。九十九パーセントの勝利でも、一パーセントの敗北にひっくり返る事もある。このようにな!」

 

するとジンは、土獸を召喚。ドーム状の壁を精製し、自分とライ、サニー達を包み込む。その瞬間に、爆弾が投下された。

 

「なっ!?」

 

「た、退――――」

 

突然の事に対応出来ず、楓率いる白狼天狗軍団は、爆弾の餌食となってしまった。

 

[白狼天狗軍団、全員リタイヤ]

 

[???、札四十三枚獲得。現在六十四枚]

 

爆風が収まる頃を見計らい、ジンはドームを解除した。

 

「うわ・・・これは酷い・・・・・・」

 

「一体誰が・・・・・・」

 

「私だよ」

 

声と共に降り立ったのは正邪であった。

 

「正邪?」

 

「やっぱりお前か」

 

「どうして正邪がここに? もしかして、私達を助けに?」

 

「いや、たまたま崖の下にお前らがたまっていたから、ボムで一掃しようと思っただけ」

 

「酷い!」

 

「そうだと思った。まあ、取り合えず助かった」

 

「別に助けた訳じゃないけどな・・・ところでお前ら、私と組まないか?」

 

正邪は笑みを浮かべながら、そうジン達に提案した。

 

―――――――――――

 

正邪の話は、各々の能力と相性の良い相手を狙うという話である。

 

「幾つか目星はつけてはいるんだが、私一人では分が悪い」

 

「そこで、俺達と組みたいという訳だな」

 

「ああ、別に悪い話では無いだろ?」

 

「まあ、そうだな・・・攻勢に回るのも、一つの手ではあるな」

 

「だろ? それに、今のままじゃ、札は増えないし、後手に回りすぎると、さっきみたいになるぞ?」

 

「うーむ・・・皆はどうしたい?」

 

そう訪ねると、サニー達は迷っているようであった。

 

「う、うーん・・・私達の能力で、勝てるのかしら?」

 

「少し不安ね・・・・・・」

 

「やっぱり、今まで通り逃げていた方が――――」

 

「なに甘ったれな事を言っているんだ! お前達は弱小妖精のままで、甘んじるのか!」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「今まで雑魚呼ばわりした奴らを、見返したくはないのか!? 」

 

「そ、そうよ! 私達妖精でも、やる時はやるのよ!」

 

「ああそうだ! 今こそ下克上の時! 私ら弱者でも、強者に勝てるって事を! 幻想郷の奴らに知らしめてやるんだ!」

 

「おおー!」

 

正邪の演説に、すっかり乗せられサニーを見て、ルナとスターはため息をつく。

 

「やれやれ、サニーは本当に単純なんだから」

 

「どうするのジン?」

 

「どうするも何も、サニー一人を放っておくわけにはいかないだろ」

 

「そうだよね・・・・・・」

 

「よーし! チームアマノジャクの結成だ! いくぞ野郎共!」

 

「お前が仕切るのかよ!」

こうして流される形で、チームアマノジャクが結成されるのであった。

 

 

チームアマノジャクが最初にターゲットにしたのは、九十九姉妹である。

彼女達はそれなりに強く、中堅の妖怪である。

 

「まあ、私一人でも余裕だけど、なるべく力を温存したいからな」

 

「九十九姉妹って、針妙丸の小槌で妖怪になった奴らでしょ?」

 

「ああ、二人ともそれなりに強いと思うぞ」

 

「そんな人達に勝てるのかな・・・・・・」

 

「なに言ってんだよお前。こんな奴等、お前なら楽勝だろ?」

 

「え?」

 

「こいつ・・・自分の能力を、何も理解していないな・・・・・・ジン、説明しろ」

 

命令口調の正邪に、内心不満を抱きながら、ルナに説明をし始めるジンであった。

 

「いいかルナ、お前の能力は音を消す。相手は演奏をする。両者が戦えば、どちらが勝つ?」

 

「あ!」

 

「そういう事だ。ルナの能力前では、九十九姉妹は無力になる。これが能力の相性ってな訳だ」

 

「な、なるほど。でも、私に出来るのかな?」

 

「そんなに気を張る事は無い、フォローは俺達がする。なあみんな?」

 

「ルナはドジだから、私達がしっかりしないとダメなよね~」

 

「そうね、ルナは一人だと、ドジって失敗するものね」

 

「もう! ドジドシ言わな―――あ!」

 

するとルナは、何もないところでこけてしまった。

 

「もう、言っているそばからこけるなんて」

 

「う~」

 

「ほら、大丈夫かルナ」

 

ジンはこけたルナに手を差しのべ、助け起こす。

 

「あ、ありがとうジン」

 

「いいって、いつもの事だ。それよりも、どうやって九十九姉妹を見つけるんだ? スターの能力じゃ、判断つかないだろ?」

 

「そこでお前の能力だろうが、お前の能力で、九十九姉妹の軌跡を辿れば、直ぐに見つかるだろ」

 

「そう言えばそうだった。早速視てみる」

 

ジンは能力を使い。過去の軌跡を視た。様々な軌跡はあるものの、九十九姉妹の軌跡はなかった。

 

「ここ辺りは通っていないみたいだな」

 

「なら、こんな所に用は無いな。さっさと行くぞ」

 

「おい待てよ! お前一人だけ行っても仕方ないだろ。集団行動しろ」

 

「うるさい、お前らが私に合わせればいいんだよ」

 

「やれやれ、この先どうなる事やら・・・・・・」

 

一抹の不安を抱きながら、正邪についていくジン達であった。

 

―――――――――――

 

それからしばらくして、ジンはようやく、九十九姉妹の軌跡を見つける事が出来た。

 

「見つけた。どうやらここを通ったらしい」

 

「でかした! 早速行くぞ!」

 

「おい、お前が先行してどうする?」

 

「だったらさっさと案内しろ。たらたらしていると、逃がしちまうだろ」

 

「こいつ・・・・・・」

 

何故か上から目線の正邪を睨み付けながら、ジンは九十九姉妹の軌跡を辿り始めた。

 

 

辿った先は、大蛙蟇の池であった。そこで九十九姉妹は休憩をしているようであった。

 

「見つけたけど、どうするの?」

 

「もちろん、先手必勝!」

 

「あ、バカ!」

 

正邪は問答無用と言わんばかりに、九十九姉妹に弾幕を放つ。しかし、弁々が放った左右五つの光の糸が、正邪の弾幕を弾いた。

 

「そんな奇襲で、私達を倒せると思ったの? 行くわよ八橋!」

 

「ええ、姉さん」

 

「「弦楽! “嵐のアンサンブル”!」」

 

 

二人は琵琶と琴を引き始め、それから出る音の弾幕をジン達に向けて放った。しかしジン達は――――。

 

「で? どうするんだこのあと?」

 

「うーんそうだねぇ・・・・・・」

 

「考えていないのかよ!」

 

「これから考えるって。ジンは短気だな」

 

「お前に言われたく無いんだが・・・・・・」

 

「ねぇ、こんなのんびりしていいのかしら・・・・・・?」

 

「いいんじゃない、どうせ弾幕なんて来ないんだし」

 

「そうね、ルナが音を消してくれるし、慌てる必要は無いんじゃない?」

 

「私が大変なんだけどね・・・・・・」

 

九十九姉妹の音の弾幕は、ルナの能力によって完全に無効化されていた。彼女の音を消す能力は、九十九姉妹にとってはまさに天敵と言える程、相性が最悪なのである。

そうとは知らず、九十九姉妹は弾幕を出し続けた。

 

「なあ、このまま放っておいたら、あいつら力尽きるんじゃないか?」

 

「それも一つの手だが、他の奴らが来る可能性がある。短期決戦が望ましい」

 

「それじゃどうするんだ?」

 

「チームを二つに分ける。囮と背後から奇襲をするチームに」

 

「どう分けるんだ?」

 

「俺、サニー、ルナが囮をやる。正邪、ライ、スター、お前らが奇襲を掛けろ」

 

「ルナは分かるけど、何で私まで?」

 

「弁々は光の糸らしき物で、正邪の攻撃を防いだろ。 もしあれが攻撃に使えるのなら、ルナの能力じゃ防げない。だけど、サニーなら逸らせられる。そうだろ?」

 

「うんまあ、性質的には、光に近いとは思うけど・・・・・・」

 

「なら、大丈夫だ。頼りにしているサニー、ルナ」

 

サニーとルナの肩を叩きながら、ジンは九十九姉妹の前に出た。

 

「あら、貴方は・・・・・・」

 

「確か、ジンだったわね。貴方が奇襲を掛けたの?」

 

「まあな」

 

「ふーん、一人で出てくるなんて、余程自信があるみたいね。良いわよ、私達が相手をしてあげる!」

 

すると姉妹は再び演奏し、ジンに音の弾幕を放つ。そこに、ルナが現れた。

 

「消音!“サイレント・ヴォイス”!」

 

ルナは消音の結界を張り、九十九姉妹の弾幕をかき消した。これには姉妹は驚きを隠せなかった。

 

「私達の音が!?」

 

「サニー! 今だ!」

 

「姉さん上!」

 

「え!?」

 

八橋の声で、上を見上げる。そこにはサニーが、光を集めていた。

 

「いっくわよー! 光符!“サニースパーク!”」

 

サニーは集めた太陽の光を、九十九姉妹目掛けて放つ。しかし、姉妹は寸前のところで気づいため、かわされてしまう。

 

「あ、危なかった・・・直撃してたら、やられてたわ」

 

「どうやら、ただの妖精では無さそうよ八橋」

 

二人は、妖精であるサニーとルナに警戒を強めた。

一方サニーは、奇襲を失敗した事をジンに謝っていた。

 

「ごめん、かわされちゃった・・・・・・」

 

「いいって、俺達の役割は、相手の注意を引き付けること。それに今ので、こちらを警戒し始めている。作戦は順調だ」

 

「そ、そう?」

 

「私もうまくやれた?」

 

「ああ、上出来だ。よくやった二人とも」

 

「「えへへ♪」」

 

「だが、これからが本番だ。二人とも、気を引きしめろ」

 

「わかった!」

 

「ええ!」

 

ジンの言葉に、サニーとルナは一段と気を引きしめた。

一方九十九姉妹は、攻め手を倦めていた。

 

「どうする姉さん?」

 

「そうね・・・どうやらあの妖精は音を消し、片方は光を操るみたいね」

 

「相性最悪じゃない。でも、それだけで私達に勝てると思うのは、大きな間違いよ」

 

「ええ、私達姉妹の演奏を思い知らせてやるわよ!

響符!“平安の残響”」

 

「楽符!“邪悪な五線譜”」

 

そう言って、二人は琵琶と琴を引き始めた。

弁々は光の弦を、八橋は音の弾幕をそれぞれ放つ。

 

「サニー! ルナ!」

 

「わかった!」

 

「ええ!」

 

サニーは弁々の光の糸を弾き、ルナは八橋の弾幕を消そうとする。しかし、弾幕はルナの結界に触れても消えず、彼女に迫る。

 

「不味い! 避けろルナ!」

 

「え?」

 

弾幕に当たる寸前、ジンは間一髪のところで、ルナを抱えて弾幕をかわした。

 

「二人とも大丈夫!?」

 

サニーは駆け寄りながら、二人の安否を確認した。

 

「俺は大丈夫だ。ルナは?」

 

「た、大丈夫だけど、音を消そうとしたのに、消えなかった」

 

「恐らく弾幕に、音の膜を被せたんだ。音の膜が、ルナの結界に干渉している間に、本命の弾幕が決壊を突破したのだろう」

 

「それならこっちも二重にする?」

 

「それだと負担が余計に掛かる。それに――――」

 

「楽苻!“ダブルスコア”!」

 

「ちぃ!」

 

ジンはサニーとルナを抱えて、弁々の光の弦をかわす。そして今度は、八橋の音が迫る。

 

「二人とも! 俺に捕まれ!」

 

ジンは二人を抱えながら、弁々と八橋の攻撃をかわす。

 

「サニー! 右を!」

 

「あいさ!」

 

サニーは右から来る弁々の光の弦を反らした。

 

「ルナは左を!」

 

「う、うん!」

 

今度は右から来る音弾を、ルナが消音させる。しかし、幾つかは結界を越えた。

 

「これくらいなら―――かわせる!」

 

ジンは、越えて来た音弾の軌道を予測し、それらを全てをかわした。

一見、九十九姉妹達の攻撃はすべて防がれてはいるが、サニーもルナも、相手の攻撃を防ぐだけで精一杯であった。そしてジンも、両手がふさがっているため、五行獸を呼び出す事も出来ず、反撃出来なかった。

 

「なかなかしぶといわね・・・・・・」

 

「でも、それもいつまで持つかしら?」

 

「くっ」

 

「そろそろ終わりにしてあげるわ!」

 

二人はジン達にトドメをさそうとする。その時、後ろの繁みから弾幕が放たれた。

 

「「キャアー!?」」

 

ジン達に注意がいっていた二人は、背後の奇襲に対応できず、直撃し倒れてしまった。

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

声と共に、繁みから正邪達が現れた。

 

「遅いぞ正邪」

 

「これでも急いだんだよ。まあ、結果オーライでいいだろ」

 

「やれやれ・・・・・・」

 

ジンはどっと疲れを感じた。

 

[九十九姉妹、リタイヤ]

 

[正邪、二十五枚獲得。現在七十九枚]

 

[ライ、二十四枚獲得。現在三十三枚]

 

[スター、二十四枚獲得。現在二十六枚]

 

[チームアマノジャク。ジン、十一枚。ライ、三十三枚。サニー、四枚。ルナ、二枚。スター、二十六枚。正邪、七十九枚。合計百五十五枚]

 

―――――――――――

 

九十九姉妹との戦いの後、ジンは改めて正邪と今後の方針について話し合いをしていた。

 

「正邪、攻勢に出るのは止めにしよう」

 

「はあ? 何を言ってるんだよジン。お前だって賛成してただろ」

 

「最初はなんとかなると思ったが、実際は辛勝じゃないか。能力の相性だけじゃ、この先がつらい」

 

「そんじゃどうするんだよおまえ」

 

「やはり逃げの一手が有効だ。参加者もそれなりに減って来たし、サニー達の能力があれば――――」

 

「はん、話にならないね。

いいかジン、そんな消極的な事じゃ、優勝なんて出来ないぞ」

 

「別に優勝を狙う必要は無いんじゃないか?」

 

「は?」

 

「生き残りさえすれば、賞金は手に入るだろ? それに、正邪は札を十分に手に入ったはず。これ以上無理をしなくても――――」

 

「・・・・・・よくない」

 

「正邪?」

 

「私は良くない、 私は優勝するためにやってんだから」

 

「・・・・・・どうしてそんなに優勝に拘るんだ?」

 

「お前知らないのか? 優勝者にはなんと、八雲紫が所持しているマジックアイテム一つを貰えるんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「お前、何も知らないで参加したのか?」

 

「霊夢に半ば強制的にな」

 

「はあー・・・どうりでやる気を感じられないわけだな・・・・・・。ともかく、私は優勝を目指しているんだ。だから、消極的になんか出来ない」

 

「気持ちは分かるが、無理だと思うぞ。このバトルロワイヤルには、あの五人が参加しているんだからな」

 

ジンがいう五人とは、近年異変解決に貢献した五人の少女――――霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗の五人の事である。彼女達を倒さなければ、優勝は出来ないと言われるほどの優勝候補筆頭者達である。

 

「この五人をどうやって倒すつもりなんだ? 生半可な事じゃ勝てないぞ。やるだけ無謀だ」

 

ジンは無謀だと言った。その言葉に、正邪は声を上げて反論する。

 

「出来るかどうかじゃない! やるんだよ私は! どんな確率でも、可能性があるなら藁でもすがる! 卑怯だと罵られても、勝利をもぎ取る! そうやって生きて来たんだよ私は!」

 

「正邪・・・・・・」

 

「やっぱり、私はお前は嫌いだ。

お前には鬼の力があるのに、それを使おうともしないで、弱者の振りをする。

どうして自分の力を使わない、どうして自分の力を信じないんだよお前は」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「お前みたいな臆病者はいらない。ここで協力関係は終わりだ」

 

それだけ言うと、正邪はその場を去って行った。

ジンは何も言えず、ただ立ち尽くすのであった。

 

 

正邪が去ってから、ジンは一歩も動かず、何かを考えていた。サニー達は心配そうに、様子をうかがう事しか出来なかった。

 

「ねえ、どうする?」

 

「どうするも何も、あんな状態のジンを放っておけないでしょ」

 

「そうだけど・・・・・・」

 

「でも、正邪の言い分もわかる気がする」

 

「どういう事スター?」

 

「だって、全然ジンらしくないじゃない。やる前から諦めるなんて」

 

「確かに・・・いつもなら、“取り合えずやってみよう”って言いそうだものね」

 

「そうよ、何かおかしいのよ」

 

「ギィ!」

 

「ライもそう思うわよね」

 

「その何かって?」

 

「それは・・・・・・わからないけど」

 

「ダメじゃん」

 

「むっ、そんな事を言うなら、サニーが何とかしなさいよ」

 

「ええ良いわよ。そこで見てなさい」

 

そう言って、サニーは自信満々で、ジンの側に歩み寄った。

 

「お、自信たっぷりみたいね。お手並み拝見させて貰うわ」

 

「なんか不安なんだけど・・・・・・」

 

「ギィ・・・・・・」

 

スターは面白がる一方、ルナとライは一抹の不安を感じながら、サニーの動向を見守る事にした。

 

「どうしたのジン? 元気ないわね」

 

「サニーか・・・・・・」

 

「悩みごとがあるなら、このサニー様に話してごらん。見事に解決して見せるわ」

 

根拠もなく自信たっぷりで言うサニーの姿を見て、ジンは思わず笑みをこぼす。

 

「そうだな・・・聞いてくれるかサニー?」

 

「もちろん! どんと来なさい!」

 

「・・・・・・ありがとうサニー。

実は、正邪の言われた事を考えていたんだ」

 

「正邪の?」

 

「ああ、“自分の力を信じないんだ”昔、同じことを言われた事があるんだ」

 

「ふーん・・・」

 

「いつからか忘れたけど、自分の力を信じられない時があるんだ。だからかな、どうしても無難な道に妥協してしまう。本当は妥協なんてしたく無いんだけどな」

 

「それなら、妥協しなくて良いんじゃない。ジンがやりたいようにすれば」

 

「そうしたいんだが、自信が・・・・・・」

 

「大丈夫! 自信がないなら、私達が助けてあげるから! 一人より皆とでなら、どんな事も出来る筈!」

 

「サニー・・・・・・」

 

「ねえ教えて、ジンはどうしたいの?」

 

そう訪ねるサニーに、ジンは決意を固めて言った。

 

 

「正邪を助けたい。

俺は皆がいるから良いけど、あいつは何処か一人になろうとしている所がある。このまま放って置いたら、本当に一人になってしまうかも知れない。だから、助けたいと思っている。

でも、サニー達を危険な目に合わせていいものかと・・・・・・」

 

「もしかして、消極的だったのは、私達の事を考えてから?」

 

「まあ、それもあるけどな」

 

「それなら気にしなくて良いわ。ジンがやりたいようにすれば、私達も手伝うからさ」

 

「良いのか? 霊夢や魔理沙と戦う事になるんだぞ」

 

「そりゃ、あの二人と戦うのは怖いけど、一泡ふかせたいとも思っているから、大丈夫!」

 

「そうか・・・なあサニー」

 

「なあに?」

 

「力を貸してくれるか?」

 

「もっちろん! 私達光の三妖精に任せなさい!」

 

「皆もそれでいいか?」

 

ジンはルナ、スター、ライにも訪ねる。すると二人と一匹は頷いてくれた。

 

「少し怖いけど・・・みんなと一緒なら何とかなりそう」

 

「私としては、中々おもしろそうだから、特に反対はしないわ」

 

「ギィ!」

 

「ありがとうみんな・・・それじゃ、アマノジャクな姫様を助けに行くか」

 

「「「おー!」」」

「ギィー!」

 

こうしてジンは、正邪を助けに、彼女の後を追う事にするのであった。

 

―――――――――――

 

正邪の軌跡を追ってジン達は魔法の森近辺に辿り着く。

 

「随分遠くまで来たなあいつ・・・・・・」

 

そんな事を呟いていると、スターがジンに声を掛けて来た。

 

「ジン、少し先に反応があるわ。多分正邪だと思う」

 

「お、ようやく追いついたか」

 

「だけど、どうやら襲われているみたい」

 

「敵か? なら急いでいかないと!」

 

ジン達は急いで、正邪がいる場所へと向かいだした。

 

正邪は窮地に立たされていた、持って来たマジックアイテムは残り少なく、相手は健在。しかも―――――。

 

「なかなか粘るなおまえ」

 

「いい加減諦めたら? 時間の無駄よ」

 

「貴女の技量では、私達には勝てません」

 

「そうですよ、大人しくリタイヤしてくださいね♪」

 

相手はなんと、魔理沙、咲夜、妖夢、早苗の四人であったのである。

 

「お前ら! よってたかって私を狙うなんて卑怯だぞ! それが異変を解決した人間のやる事か!?」

 

「別に私らは、正義の味方じゃないがな」

 

「それにこれはサバイバルよ。弱い相手を狙うのは、定石だと思うけど?」

 

「少し罪悪感を感じますが、幽々子様の命により、なにがなんでも優勝しなくてはいけないので」

 

「この世は弱肉強食。諦めてくださいね♪」

 

「くっそ~、これだから強者は嫌いだ!」

 

「そんな訳で、トドメを刺させて貰うぜ!」

 

「あら、私が先に仕止めるわ」

 

「残念ですが、私がやらせて貰います」

 

「いえいえ、ここは私が――――」

 

すると四人は互いを睨みあった。どうやらこの四人は組んでいる訳では無さそうである。そこで正邪はある事を思いつく。

 

(そうだ! 焚き付けて、戦わせればいいじゃないか! よーし―――)

 

「おいお前ら――――」

 

「それなら、同時にやればいいじゃないですか? どうせこの後、皆さんと戦う訳ですし」

 

「それもそうだな、どうせ札は全部私の物になる訳だしな」

 

「随分と自信があるわね。まあ、やることには変わりが無いから、別に構わないけど」

 

「私も異論はありません。むしろ、こういうタイプを残しておくと、寝首をかかれる恐れがありますから」

 

四人は改めて、正邪の方を向いた。

どうやら正邪を倒した後で、他の奴等と戦う事にしたようである。こうなると、焚き付けるのは難しい。

 

「そんな訳で、札を大人しくそこに置いていけ。さもないと、私らのスペカを食らうはめになるぜ」

 

「い、嫌だ! 死んでも渡さない!」

 

正邪は走って逃げ始めた。それを見逃す四人ではなかった。

 

「逃がすか! 魔符!“ミルキーウェイ”!」

 

「奇術!“ミスディレクション”!」

 

「団迷剣!“迷津慈航残”!」

 

「奇跡!“白昼の客星”」

 

四人のスペルカードは正邪に向かって放たれ、土煙を上げる。

 

「やったか!?」

 

魔理沙がそう叫ぶ。しかし、土煙が晴れると、そこには正邪の姿はなかった。

 

「い、いない!?」

 

「いえ、あそこにいます」

 

妖夢が指をさした方向に、正邪を抱きかかえているジンの姿があった。

 

「ジン!? いつの間に・・・・・・」

 

「悪いな魔理沙、正邪はやらせない。どうしてもって言うなら、俺を倒してからにしろ」

 

そう言って顔を上げるジンの額には、鬼の角が生えていた。

 

「鬼人になっていたのね、どうりで速い訳ね」

 

「ですが、捕らえられない程ではありません」

 

「私、全然見えなかったんですけど・・・・・・」

 

「まあ、いくら速く動いても、それで勝てるとは限らないからな」

 

四人は再度身構える一方、正邪は事態が上手く把握出来ていなかった。

 

「お前どうして・・・・・・」

 

「いろいろ考えたんだが、やっぱり放って置けなくてな。こうして駆けつけた」

 

「余計なお世話だ・・・・・・バカヤロウ」

 

「自覚はしている」

 

「・・・・・・ところで、いつまでそうしているんだ?」

 

「ん? ああ、すまない」

 

ジンは正邪を静かに降ろすと、改めて魔理沙達に向き合う。

 

「それでどうするんだ? まさか、何も考え無しに来たわけじゃないよな?」

 

「一応策はある。正邪、マジックハンマーはまだあるか?」

 

「まだあるけど・・・使えても後一回だけだ」

 

「十分。貸してくれ」

 

「利子はつけるからな」

 

そう言って、正邪はジンにマジックハンマーを手渡した。

 

「それで何をするんだ?」

「これで一人を倒すんだよ。いいか――――」

 

ジンは正邪に、自分が考えた作戦を伝える。

 

「なかなか面白そうだな。けど、そんなに上手く行くのか?」

 

「やってみないと分からないが、十分可能性はあると思うぞ」

 

「まあ、他に手は無いわけだし、やるだけやるか」

 

「作戦は決まったか?」

 

魔理沙が挑発染みた言葉を言う。どうやらこちらを侮っているようである。これはジンにとって好都合であった。

 

「ああ、見せてやるよ。俺の策をな!」

 

そう叫ぶと、ジンは五行獸を二体呼び寄せる。

 

「水火獸!“ミストレイン”!」

 

水獸が出す水と、火獸が出す火がぶつかり合い。霧が生み出され、辺りを包み込む。

 

「うわ!?」

 

「な、何も見えないですよ!」

 

「落ち着きなさい、見えないのは向こうも同じの筈」

 

「そ、そうで―――キャア!?」

 

「早苗!? どうした!」

 

「いたたた・・・攻撃を受けました。結構正確に狙ってきました」

 

「この濃霧の中でどうやって――――むっ!」

 

咲夜は攻撃を察知し、時を止めて段幕を回避する。

 

「今のはギリギリだったわ・・・どうやら相手はこちらの位置を正確に把握しているみたいね」

 

「そうか! スターの奴だな! あいつは生き物の位置を把握を出来るんだ!」

 

「それじゃ、私達の位置がモロバレって事じゃ―――キャア!?」

 

「うわぁ!? くそっ、これじゃ反撃出来ないぜ!」

 

「いえ、出来ますよ。目が使えないのなら、他の五感で相手を捕らえれば良いだけです」

 

そう言って、妖夢は静かに目を瞑り、精神を集中させる。そして――――。

 

「むっ、そこ!」

 

「うお!?」

 

妖夢が放った剣気は、見事にジン達がいる場所に放たれた。

 

「凄い! 流石は妖夢さんです!」

 

「いえ、今のはかわされてしまいました。ですが、今ので大体の位置を掴めました。もう逃がしません!」

 

そう言って、妖夢は次々とジン達がいる場所に剣気を放ち、ジン達を追い詰める。しかし、魔理沙はある疑問を抱く。

 

(おかしい、スターがいるのなら、ルナの奴もいる筈。あいつの能力なら足音を消せるのに、何故しない?霊夢じゃないが、嫌な予感がするぜ)

 

三妖精の能力を把握している魔理沙は不穏を抱き、様子を見る事にした。そして、昨夜も似たような事を考えていた。

 

(妙ね、音で位置を悟られているのは明白。それなのに、動き続けている・・・まるで、わざと位置を知らせているみたいだわ)

 

そのわざとらしさに、咲夜は何があると踏み、いつでも対応出来るように身構える。そして早苗というと――――。

 

(よし、妖夢さんが敵を惹き付けて間に、霧を吹き飛ばす風を呼び寄せましょう)

 

早苗は目を瞑り、呪文を詠唱し始める。

そしてジンは、正邪を抱きかかえながら、妖夢の剣気をかわしていた。

 

「おいお前! どこ触ってんだよ!」

 

「やかましい! そんな事を言う暇があるのなら、撃ち返せ! 俺はかわすと霧の維持で精一杯なんだ!」

 

「ええいくそっ! おいトカゲ! 半霊は何処にいやがる!?」

 

そう叫ぶ正邪に応えるように、ジンの服の隙間からライが顔を出した。

ライは電波を放ち、妖夢の位置を探り始める。

 

「ギィギィ」

 

「何だって!?」

 

「前方左斜めにいる!」

 

「そこだな!」

 

ジンの言葉に従い、正邪は弾幕放つ。すると何かに弾かれる音が響き、返されるように妖夢の斬撃が放たれた。事前に攻撃を予測していたジンは、それをかわす。

 

「くっそ! いつまでこんな事をしていなくちゃいけないんだ!?」

 

「ルナとスターが、妖夢を倒してくれるまでだ。

大丈夫、あいつらならやってくれる」

 

「その前に、私らが倒されていなければ良いけど」

 

「だから頑張るんだろうが。ほれ、また来るぞ!」

 

「ええいくそ! こうなったら自棄だ!」

 

正邪は半ばやけくそで、弾幕を放った。

ジン達と妖夢が戦っているその時、霧の中をこっそりと歩く二人がいた。それはルナとスターであった。

 

「ね、ねえ、本当に大丈夫かな・・・・・・?」

 

「大丈夫よ。この霧なら、私達の姿はそう簡単に見つからないわ。それに、足音だって消えてるし」

 

「そうだけど・・・やっぱサニーがいないと不安ね・・・・・・」

 

「本当に臆病ねルナは。ほら、もう少しでつくわ」

 

不安がるルナの手を引き、スターは目的の場所へと向かう。

 

「抜き足~」

 

「差し足~」

 

「「忍び足~」」

 

足音が消えているのにも関わらず、二人は忍び足で進む。そして二人が到着した場所には、妖夢がいた。

 

「ほら、ついたわ」

 

「ほ、本当に気づかれていない?」

 

「大丈夫だって、早いとこやりましょう♪」

 

「う、うん」

 

二人はジンから密かに手渡されたマジックハンマーを一緒に持ち上げた。

 

「「いっせーの・・・せ!」」

 

そのまま放り下ろし、妖夢の頭を叩いた。

 

「みょん!?」

 

その一撃で、妖夢は目を回して気絶してしまった。

 

「や、やった!」

 

「作戦成功ね♪ それじゃ、ジンのところに戻るわよ」

 

二人は気絶した妖夢を放置し、ジンがいる場所へと向かう。一方魔理沙と咲夜は、先程の妖夢の悲鳴で、彼女がやられた事を知る。

 

(妖夢がやられた!? 一体どうして!?)

 

(どうやら、伏兵がいたようね。それにしても、剣の達人の妖夢に気づかれないなんて、余程気配を断つのが得意なようね)

 

(くそっ、この霧の中にいるのは不味い。ともかく出ないと――――)

 

魔理沙は霧から出ようと、放棄に股がり飛ぼうとする。しかし、そうはさせないと言わんばかりに、弾幕が彼女を襲う。

 

「うわぁ! くそっ、そう簡単に出してくれないか!」

 

「魔理沙、あまり不用意に動かない方が良いわ。狙い撃ちされるわよ」

 

「この霧の中にいる方がヤバイ! 向こうはこっちの位置がわかるうえに――――」

 

「伏兵がいる。それはわかっているわ。でも、不用意に動けばやられるわよ」

 

「お前は時を止められるから良いけど、私はそんな事出来な―――うわぁ」

 

再びの攻撃に、何とかかわす魔理沙と咲夜。アドバンテージは完全にジン達にあった。

 

(このままだとじり貧ね・・・何とか霧から出ないと)

 

少し焦りを見せ始める咲夜。そんな時、何処からともなく風が吹き始めた。

 

「これは――――」

 

「お待たせしました! 奇跡“神の風”!」

 

早苗の声ともに大きな風が吹き込み、の霧を払う。そしてジン、正邪、ライ、スター、ルナの姿があらわになる。

 

「おお! よくやった早苗!」

 

「 真っ向勝負なら、地力はこちらの方がよ。これで形勢逆転ね」

 

「ふふふ、覚悟はいいですか?」

 

三人は、ジン達ににじり寄る。しかしジンは平然としたまま、合図を出す。

 

「サニー今だ!」

 

「アイアイサー!」

 

「なに!?」

 

ジンが叫ぶと、空からサニーの声が聞こえた。魔理沙達は空を見上げる。するとそこには太陽と、その横に巨大な光の玉が浮かんでおり、その近くにサニーがいた。

 

「最大チャージ完了! いっくわよー! 陽光!“スーパーサンシャインニードル”!」

 

サニーは凝縮した光の玉を拡散させ、魔理沙達目掛けて放った。

 

「ちぃ! 魔符!“スターダストレヴァリエ”!」

 

「時符!“デュアルバニッシュ”!」

 

「ひ、秘じゅ―――」

 

魔理沙と咲夜はとっさにスペルカードを発動させ、サニーのスペルカードを防ぐ。しかし、早苗は発動が遅れてしまい、サンシャインニードルを受けてしまった。

 

 

「きゅ~・・・・・・」

 

「おい早苗!・・・ダメだ、完全に気を失っているぜ」

 

「短時間で二人もやられるなんて、どうやら相手の策に嵌まっていたらしいわ」

 

そう、咲夜の言う通り、ここまではジンの作戦通りなのである。

ジンの作戦は、先ず霧を出し、相手の視界と魔理沙の魔法を封じ、ライの電波で相手の位置を把握しながら、正邪に攻撃して貰う。それが最初の作戦である。

しかし、それだけでは勝てない。何故なら、相手に妖夢がいるからである。

半人前と言えども、剣の達人である妖夢なら、音だけで相手の位置を知る事が出来る可能性があった。

そこで、ルナとスターの出番である。視界が遮られ、音で位置を把握するなら、音を消せるルナの存在に気づく事は無い。そして、スターの能力で、確実に妖夢に近づく事が出来る。その為に、二人を一緒に行動させたのである。

妖夢を倒した後、二人を引かせたのは、リスクがあったからである。

魔理沙は、三妖精と仲が良く。三人の能力を把握していたからである。その為、早い段階で警戒される可能性が高い。

咲夜はというと、彼女は時を止められるので、タイミング次第では、二人を危険に晒してしまう可能性があった。

そして、早苗を狙わなかったのには、彼女にはやってもらう事があった。それは霧を払って貰う事である。

サニーだけは、霧の中に入らず、その上空で光を集めて待機して貰っていた。そうする事により、いつも以上の威力のスペルカードを放つ事が出来る。

しかし、霧は光を分散してしまう性質があり、せっかく集めた光であっても、そのまま放てば威力は半減してしまう。かと言って、自ら解除してしまえば、警戒されてしまう。そこで、相手に解除して貰う事にした。

視界が遮られ、尚且つ一方的に攻撃される状況ならば、先ずはその状況をどうにかしようと考える。そこを逆手にとったのである。

ジンの考え通りに、早苗はスペルカードで霧を吹き飛ばし、そのタイミングで、サニーは攻撃したのである。

 

(まさかサニー達がここまでやるとはな・・・大方、ジンの入れ知恵だろうがな。

まったく、良く頭が回る奴だぜ)

 

魔理沙は素直に感心していた。一方ジンは、次の手を考えていた。

 

(うーん・・・出来ればさっきの攻撃で終わらせたかったが、そんな上手くいかないか・・・まあ、数を減らしただけでも良しとするか)

 

「おい、次はどうするんだよ?」

 

正邪は小声でジンに訪ねる。ジンはしばらく考えてから、答える。

 

「どうもこうも無い。ここから先は小細工無しの真っ向勝負だな」

 

「おい! 本気で言っているのかよそれ!」

 

「本気だ。それに考えはある。いいか―――」

 

ジンは正邪に、自分の考えを伝える。

 

「それ、本当に大丈夫なのかよ?」

 

「これがベストの組み合わせだ。あとはやるしか無いだろ」

 

「やれやれ、分が悪い勝負になりそうだな・・・・・・」

 

「そうか? それなりに分が良いと思うが」

 

「随分と自信満々だな。あっさりやられて、赤っ恥をかくなよ」

 

「そっちこそ、上手くやれよ」

 

ジンと正邪は、拳をカツンとぶつけ合う。それは二人の奇妙な友情を感じる物であった。

 

「何を考えているか知らんが、今度はこっちから先手を打たせてもらうぜ!」

 

魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、それを見越していたジンは、土獸を腕に巻き付け、そのまま地面を殴り付けた。

 

「土獣!“鬼人地走り”!」

 

ジンの放った一撃は、大地を盛り上げ、魔理沙と咲夜の間を隔てる壁を作り出した。

 

「分断!?」

 

「ああ、お前の相手は俺だ咲夜」

 

すると咲夜の目の前に、ジンが立ちはだかる。それを見て、咲夜は失笑した。

 

「あら、随分と舐められたものね。貴方一人で、私に勝てると思っているの?」

 

「普段なら思わないな。幾ら動きを予測出来ても、体がついて来なければ、かわせない。そう言った意味では、お前の能力は俺にとっては天敵だ。しかし―――」

 

ジンは自分の角を、親指でさしてこう言った。

 

「今の俺は鬼人だ。人間の時とは比にならない程の身体力を有している。そしてこの目は、静止した時の動きさえも視える」

 

「・・・・・・」

 

「わかったか咲夜。俺達は互いに天敵なんだよ。そして、鬼人である俺と、人間であるお前とは徹底的な差があるんだよ」

 

「言ってくれるじゃない。なら、人間の底力を見せてあげるわよ」

 

そう言って、咲夜はナイフを取り出し、ジンは咲夜に向かって走り出した。

 

―――――――――――

「星符!“メテオニックシャワー”」

 

魔理沙が放った星形の弾幕が、正邪達めかけて放たれる。

 

「反射!“ライトリフレクション”!」

 

サニーはそれを反射させ、魔理沙に返す。

 

「うお!? それならこれはどうだ! 魔廃!“ディープエコロジカルボム”!」

 

魔理沙は小瓶らしきものを取り出し、それをサニー目掛けて投げる。

サニーはキョトンとしながら、それを見ていた。

 

「ん? 小瓶?」

 

「バカ野郎! なにボサッとしているんだ!」

 

正邪は咄嗟に小瓶を弾幕で撃ち落とす。すると小瓶は爆発を起こす。

 

「うわわ! あ、ありがとう正邪・・・・・・」

 

「ふん、お前がやられると、肉楯がいなくなるからな」

 

「酷い! そんな事言わなくても良いじゃない!」

 

「でも・・・実際には楯として役に立っているわよね」

 

「そうね。サニーのおかげで、魔理沙さんの魔法を殆ど防いでくれるもの。こちらとしては安心だわ」

 

「こちらとしては、結構大変なんだけど・・・・・・」

 

「お喋りとは余裕だな。その余裕、いつまで持つかな!」

 

すると魔理沙は、先程よりも多く爆弾小瓶を投げ放つ。その量の多さに、サニー達は慌てふためく。

 

「「「あわわわ!」」」

 

「三バカ妖精! 慌てふためく暇があったら撃ち落とせ!」

 

「「「は、はい!」」」

 

四人は弾幕を放って、魔理沙が投げた小瓶を次々と撃ち落としていく。その隙を、魔理沙は見逃さなかった。

 

「今だ! 恋符!“マスタースパーク”!」

 

魔理沙は必殺の一撃を、正邪達目掛けて放つ。それをいち早く気づいた正邪は、サニーを持ち上げ、楯にする。

 

「おい! あれをはね返してやれ!」

 

「え? えー!? ちょ、ちょっとー!」

 

「ちょっとでも何でも、やらないと私達がやられるんだぞ! つべこべ言わずにやれ!」

 

「こ、このー! やけくそよー!」

 

サニーはやけくそになりながらも、魔理沙のマスタースパークをはね返そうする。しかし、彼女が扱える光の許容量を越えていたので、反らすので精一杯であった。

 

「マスタースパークをそらすとは、思った以上にやるなサニー」

 

「ど、どんなものだい・・・・・・」

 

「だが、一回反らすのが背一杯のようだな。次で終わらせてやるぜ」

 

そう言って、再びミニ八卦炉を構え始める。

 

「これで最後だ! 魔砲!“ファイナルスパーク”!」

 

魔理沙の放った極大な閃光が、正邪に迫る。その瞬間に、サニーはあるものを取り出した。

 

「お願い! 力を貸して!」

 

彼女が出したのは、ジンに密かに渡されていた八百万の小刀。それにより、サニーの力は増幅され、ファイナルスパークを受け止める。

 

「ぎぎぎ・・・・・・」

 

「私のファイナルスパークを受け止めた!?」

 

二人の力はしばらく拮抗したが、徐々に魔理沙が押し始める。

 

「受け止めたのには驚いたが、私の力の方が上のようだな!」

 

「く、くっそー!」

 

「諦めないでサニー!」

 

「ルナ!?」

 

「そうよ! 私達がついているわ!」

 

「スター!?」

 

ルナとスターは、サニーが持っている小刀を一緒に持ち始める。すると、魔理沙のファイナルスパークを僅かに押し返し始めた。

 

「うお!? だが、二人増えたぐらいで――――」

 

「忘れたの魔理沙さん! 私達は光の三妖精! 三人揃って初めて本領が発揮されるのよ! ルナ! スター!」

 

「ええ!」

 

「こっちはいつでも」

 

「行くわよ! 日月星(さんげつせい)!」

 

「「「“スリーフェアリーズ”!」」」

 

日と月と星の光が一つになり、その光が魔理沙のファイナルスパークを完全に押し返した。

 

「な、なんだとー!?」

 

魔理沙は驚愕しながら、三人が放った光に飲み込まれた。

光が収まり、後に残ったのは削れた大地だけであった。

 

「や、やった・・・・・・」

 

全ての力を出しきった三人は、そのまま地面に倒れ込んだ。

そして暫くすると、地面からボロボロの魔理沙が現れる。

 

「あ、危なかった・・・魔法で地面に潜り込んでいなかったら、やられていたぜ・・・・・・」

 

スリーフェアリーズが直撃する直前、魔法で地面に潜り込み、何とかかわす事が出来た。しかし、かわしたと言っても、直撃を避けただけで、魔理沙のダメージはかなりの物になっていた。

 

(あの三人がここまでやるとは・・・もう、雑魚呼ばわり出来ないな)

 

「動くな」

 

そんな事を思っていると、動くなという正邪の声が後ろから聞こえた。どうやら、先程の戦いの隙に回り込まわれたようである。

 

「負けを認めるなら、これ以上何もしないが、どうする?」

 

「・・・・・・はあ~、わかったよ。どうせ魔力も体力も無いんだ」

 

少し悔しそうに、魔理沙はその場に座りだし、正邪に所持している札を手渡した。

 

「あーあ、まさかこんな所でリタイヤか」

 

「へへん、相手が悪かったな」

 

「言ってろ、ジンが来なかったら、お前の方がリタイヤしていたんだぜ」

 

「実際そんなんだよな。癪だけど」

 

そう悪態つくと、正邪は魔理沙の隣に座り出す。それを見た魔理沙は、キョトンとした。

 

「お前、加勢しに行かないのか? ジンは咲夜と戦っているんだろ?」

 

「別に行かなくても良いよ。どうせアイツが勝つんだから」

 

「随分と信頼しているんだな」

 

「信頼なんかしていない。その方が私が楽なだけだからな」

 

正邪そう言って、ニカッと笑いだした。

 

―――――――――――

 

「金獸!“大陰の寸鉄”!」

 

「幻象!“ルナロック”!

 

ジンは金獸で、寸鉄を放つ。咲夜は時を止め、寸鉄をかわしてから、ジンの周囲にナイフを設置し、時を動かす。しかし、ナイフの設置する場所をあからじめ予知していたジンは、ナイフを容易くかわした。

 

(くっ、ナイフの設置位置を完全に読まれいるわね。さてどうするか――――)

 

そんな事を考えていると、今度はジンが、咲夜目掛けて走り出した。恐らく撃ち合っていては埒があかないと思ったのであろう。

それはとても早く、チーターさながらのスピードであった。

 

「くっ、幻在!“クロックコープス”!」」

 

咲夜が時間を止め、ナイフを設置するが、既に予見されていたかのように、ジンは既に回避行動に移っていた。当然ナイフは、ジンを捉えられる事はなかった。

 

(どうやら、時を止めるタイミングも読まれているようね・・・思った以上にやりづらいわ)

 

彼女が劣勢になっているのは、ただ単にジンの身体能力が高くなっただけではなかった。最大の理由としては、紅魔館から離れているからである。

紅魔館には、咲夜の能力を補助する呪文が館の中と周囲に張り巡らしている。そのおかげで、彼女は紅魔館の近くでは能力をほぼ無制限に行使出来る。しかし、呪文の恩恵が受けられない外では、かなり制限されてしまうのである。

 

(時を止められるのは数秒ってとこね。この数秒をいかに使うかが、勝負の分かれ目ね)

 

そんな時、壁の向こうから眩い光が漏れ出す。

 

「なに!?」

 

咲夜は光に気をとられているその瞬間、ジンは今までに無いスピードで駆け出した。

 

(しまっ―――いえ、これはチャンスよ! ギリギリまで引き付けて、時を止める!)

 

いくら予知、予見されようが、関係ないナイフ配置をすれば、鬼人となったジンといえでも、かわすのは容易では無い。そう考えた咲夜は、ジンを迎え撃つ事にした。

 

(後少し、もう少し・・・・・・今だ!)

 

「幻世!“ザ・ワールド”!」

 

「金獸!“白虎の尺鉄”!」

 

時を止めるその瞬間、咲夜の目の前に尺鉄が止まる。咲夜が時を止めた瞬間に、ジンが放った物であった。

 

(あ、危なかった・・・後少し、時を止めるのが遅かったら、やられていたわ)

 

絶妙のタイミングであった。この時咲夜は、自分の幸運に感謝した。

 

「これで終わりよジン!」

 

咲夜はジンの回りにナイフを設置をする。ナイフの設置が終わり、時が動き始めた。

 

「くっ!」

 

ジンは直ぐ様後ろに飛び下がるが―――――。

 

「無駄よ! 既に脱出不可能! チェックメイトよ!」

 

設置された位置が近いが為、ナイフは次々とジンの体に突き刺さっていく。

 

「ぐうっ!」

 

「さらにだめ押しよ!」

 

トドメと言わんばかりに、ジンにナイフを投げ放つ。

そのナイフは見事、ジンの胸に突き刺さる。

 

「があっ」

 

ジンはそのまま地面に倒れた。

 

「あ、あら・・・・・・? やば! 調子に乗ってやり過ぎた!?」

 

咲夜は慌てて、ジンに近寄る。

 

「ジン! 大丈―――」

 

その瞬間、全身に痺れる痛みが走り、咲夜は倒れてしまう。

 

「い、一体何が・・・・・・」

 

「ギィ」

 

すると目の前に、ライが誇らしそうに鎮座していた。

「い、いつのまに・・・・・・」

 

「別に、俺は一人でやるとは言っていないが?」

 

するとジンは起き上がり、刺さっていたナイフを抜き始める。

 

「あ、貴方・・・どうして・・・・・・平気なの・・・・・・?」

 

「平気なものか、腕には思いっきり刺さっている。まあ、体の方は―――」

 

ジンは咲夜に、服の中を見せる。服の下には土色の鎧があった。

 

「土獸の鎧だ。予め仕込んでいたんだよ」

 

「ふふ・・・・・・どうやら、まんまと・・・・・・貴方の手に・・・・・・引っ掛か――――」

 

咲夜はそのまま気絶をしてしまう。それを見て、ジンは一息ついた。

 

「ふうー、どうにか勝てたな・・・助かったぞライ」

 

「ギィ♪」

 

ジンはライの頭を撫でると、ライは嬉しそうに鳴いた。

 

[妖夢、早苗、魔理沙、咲夜。リタイヤ]

 

[ルナ、スター、それぞれ五十七枚獲得。ルナ、現在五十九枚。スター、現在八十五枚]

 

[サニー、百七枚獲得。現在、百十一枚]

 

[正邪、百二十一枚。現在、二百枚]

 

[ライ、百十六枚獲得。現在、百四十七枚]

 

[チームアマノジャク。ジン、十一枚。ライ、百四十七枚。サニー、百十一枚。ルナ、五十九枚。スター、八十五枚。正邪、二百枚。合計六百十三枚]

 

―――――――――――

 

魔理沙達の死闘を終えたチームアマノジャク。しかし、サニー達の限界は来ていた。

 

「大丈夫か三人とも?」

 

「大丈夫・・・と言いたいけど・・・・・・」

 

「結構辛いかも・・・・・・」

 

「もう動けない・・・・・・」

 

三人は息絶え絶えであった。

流石に三人をこれ以上連れてはいけないと判断したジンは、三人にリタイヤを勧める。

 

「三人とも、これ以上は無理だと思う。リタイヤした方が良い」

 

「でも! 折角ここまで――――」

 

「そんなバテバテで、着いてきても足手まといだ。そんなんで次の戦い、勝てるのか?」

 

「だけど・・・・・・」

 

「三人はよくやってくれた。後は俺達に任せてくれ」

 

「ジン・・・わかった・・・・・・」

 

サニー達は残念そうに、ジン達に札を手渡す。

 

[サニー、ルナ、スター、リタイヤ]

 

[ジン、百十一枚獲得。現在百二十二枚]

 

 

[ライ、五十九枚獲得。現在、百九十九枚]

 

[正邪、八十五枚獲得。現在、二百八十五枚]

 

[チームアマノジャク。ジン、百二十二枚。ライ、百九十九枚。正邪、二百八十五枚。合計六百十三枚]

 

 

「頑張ってね三人とも」

 

「無理しないようにね」

 

「私達の札を渡したんだから、優勝してね」

 

「ああ、三人の分まで頑張るさ」

 

「おーい、さっさと行くぞー」

 

「ギィ」

 

「「「フレー! フレー! チームアマノジャク!」」」

 

サニー達のエールを受けながら、ジン、ライ、正邪の三人は歩き出すのであった。

 

―――――――――――

 

サニー達と別れたチームアマノジャクは、周囲を警戒しながら移動をしていた。

 

「三人がいない分、いつもより警戒しないとな」

 

「ギィ」

 

「ちゃんと見張ってろよお前ら」

 

「お前もやれ!」

 

そんなやり取りをしながら、ジン達は歩き出す。

しばらく歩いていると、小径に出た。

 

「さて、これからどうするか・・・・・・」

 

「そうだな・・・・・・」

 

二人がこれからの事を考えていると、ライが鳴き声を上げる。

 

「ギィ」

 

「なに? 向こうから誰かが来るのか?」

 

「何だって!? おい隠れるぞ!」

 

二人は急いで隠れた。しばらくすると、霊夢が歩いて来た。

 

「霊夢? やっぱり残っていたようだ」

 

「どうする? やるか?」

 

「うーん・・・正直言って、どうやれば勝てるのか、わからない。さっきの四人と違い、弱点らしい弱点も無さそうなんだよな・・・・・・」

 

妖夢の場合は、素晴らしい集中力を持ってはいるが、集中力し過ぎて周囲に気を配れなくなる。

早苗は自身の力を過信し、慢心してしまうところ。

魔理沙は、スペルカードの殆どが光に関する物である事。

咲夜は、紅魔館から離れると、時間停止が短くなる。このように、何かしらつけ入れる隙はあったのだが、霊夢の場合はそう言った物がまったく見当たらないのである。強いて言えば、面倒くさがり、守銭奴と言ったところである。

 

(やはり正攻法では無理だな。だが、霊夢の奴は妙に勘が鋭いからな・・・・・・さて、どうする?)

 

そんな事を考えていると、霊夢がふと立ち止まる。そして、ジン達が隠れている木に目をやると――――。

 

「そこね!」

 

「やば! 見つかった!?」

 

霊夢は木に目掛けて札を放つ、札を張られた木は粉砕されるが、既にジンは正邪とライを連れて移動していた。そしてチームアマノジャクは、博麗の巫女と対峙するが―――――。

 

「あらジンに正邪、それにライまで。あんた達も生き残っていたのね」

 

相手がジンだとわかると、先程まで出ていた敵意は、なりを潜めた。どうやら、戦う気は無いらしい。

 

「まあな・・・ところで、妖狐と針妙丸を見なかったか? スタートしてから、一度も見ていないんだが」

 

「あの二人は既にリタイヤしているわよ。針妙丸は萃香に、妖狐はマミゾウにやられたから」

 

「そ、そうか・・・・・・」

 

「まあ、その二人も私が倒したけどね」

 

「萃香とマミゾウをか・・・ところで、霊夢は今何枚なんだ?」

 

「私? えーと・・・八百十六枚ね」

 

「「八百十六!?」」

 

「適当に歩いて、片っ端から倒して行ったら、それくらいになっちゃったのよ」

 

「恐るべし、博麗の巫女だな・・・・・・」

 

「ちょっと、人をなんだと思っているのよ」

 

「ああ、悪い悪い」

 

「そういうあんた達はどうなのよ?」

 

「俺達か? えーと、俺が百二十二枚、ライが百九十九枚、正邪が二百八十五枚だ」

 

「へぇー、なかなかやるじゃない。少しは見直したわ」

 

「俺だってやるときはやるさ」

 

「その調子で頑張ってね。それじゃ」

 

霊夢は手を振りながら、その場を後にしようとする。その時、正邪は霊夢を呼び止める。

 

「おい待て!」

 

「ん? 何かしら?」

 

「霊夢、私達と勝負をしろ!」

 

「やっぱり、やるのか・・・・・・」

 

「当然だろ、ここで博麗の巫女を討ち取れば、一位は間違いない!」

 

やる気満々の正邪に、憂鬱な気持ちになるジン。そして、事態が飲み込めない霊夢であった。

 

「ちょっと、なんで私があんたと戦わないといけないのよ?」

 

「あーまあ、正邪は優勝したいらしい」

 

「優勝って、紫が持っているマジックアイテムの事? どうせ、くだらない何かに決まっているわよ」

 

「そんなの分からないだろ。あの賢者が所持しているマジックアイテムなんだ、くだらない物な訳が無い」

 

((あの紫だからな・・・))

 

「ともかく、お前を倒さない限り、優勝出来ない。リタイヤして貰うよ」

 

「やれやれ、しょうもない天邪鬼ね。ジン、ライ、さっさとやっつけましょう」

 

「あ、悪い霊夢。俺とライは正邪と組んでいるから、今回はお前の敵だ」

 

「ギィ」

 

「はあ!? あんた、私よりもその天邪鬼の味方するの!」

 

「まあ、結果的にはそうなるな」

 

その言葉に、霊夢はカチンときた。

 

「・・・・・・大境界“二重絶対結界”」

 

すると霊夢中心に二重の結界が展開され、ジン達を閉じ込めた。

 

「いいわよ、そんなに相手にして欲しいのなら、相手になってあげるわ。いくわよジン!」

 

そう叫びながら、霊夢は札と針を放つ。すると、内側の結界に触れた瞬間に、それらは消えた。

 

「ん? 一体何の―――」

 

「正邪避けろ!」

 

ジンは正邪を突き飛ばした。すると外側の結界から、先程の札と針が飛んで来た。

 

「内側の結界を経由して、外側の結界から放たれるって訳か。まるで紫みたいだな」

 

「紫から教わったのよ。癪だけど、相手を閉じ込め、尚且ついたぶるのに最適なのよね」

 

「・・・・・・な、なあ霊夢? もしかして、物凄く怒っているのか?」

 

「さあ? どうかしら? 分かっているのは、あんたが私の敵だという事よ!」

 

そう叫びながら、霊夢は再び札と針を放つ。

結界を経由して、背後から来る札と針をかわすチームアマノジャク。

 

「人の十八番を取りやがって! これでも喰らえ! 欺符!“逆針撃”!」

 

正邪は後ろ向きで針状の弾幕を放つ。しかし、内側の結界に触れた瞬間、弾幕は結界の外に放たれてしまう。

 

「無駄よ! どんなに撃っても、あんた達の弾幕は私には届かない!」

 

「なら! 結界の性質を利用すれば!」

 

ジンは外側の結界に目掛けて、岩弾を放つ。しかし、結界に干渉することはなかった。

 

「残念だったわね、これは一方通行なのよ」

 

「ギィギィ!」

 

それなら直接と言わんばかりに、突っ込むライ。しかし、結界に触れた瞬間、全身に鋭い痛みが走った。

 

「ギギギィー!?」

 

「ライ!?」

 

「甘いわね! 以前ならともかく、これは二重弾幕結界を改良したもの! 内の結界にも、当たり判定はあるのよ!」

 

「それって反則だろ!」

 

「安心しなさい、内の結界はかなり小さくなっているから、かわすスペースぐらいはあるわ。言うなれば、耐久スペルカードよ」

 

「俺、耐久苦手なんだけどな・・・・・・」

 

「さあ、いつまで持つかしら?」

 

霊夢は容赦なく、攻撃し続けた。ジンと正邪は何とかかわすが、それでも徐々に追い詰められていく。

 

(くそっ、正直言って持たない! どうにかしないと――――待てよ?)

 

ジンはある事を思いつき、正邪に向かって叫んだ。

 

「正邪!」

 

「あん!? なんだよ!?」

 

「結界の効果を“ひっくり返せるか”!?」

 

「無理だ! 小槌の魔力があった頃なら出来たかも知れないけど!」

 

「なら、これを使え!」

 

ジンは八百万の小刀を、正邪に投げ渡した。

 

「それには、力を増幅させる効果がある! それで出来るか!?」

 

「ああ! これなら―――引っくり返せる!」

 

正邪は小刀を引き抜き、能力を発動させる。

 

「逆転!“リバースイデオロギー”!」

 

正邪が発動させると、結界が僅かに歪む。その瞬間、ジンは外の結界目掛けて弾幕を撃つ。

 

「土獸!“岩石弾”!」

 

すると先程弾いた結界は、ジンの岩石弾を飲み込み、霊夢がいる内側の結界から出現した。

 

「え! ちょ―――!」

 

霊夢は突然現れた岩石に対応出来ず、直撃してしまった。

 

「きゅ~・・・・・・」

 

霊夢は目を回しながら、その場に倒れ込んでしまった。

 

 

 

「う、うーん・・・・・・」

 

「お、目を覚ましたか霊夢?」

 

霊夢が目を覚ますと、彼女の顔を覗き込むジンの姿があった。

 

「ジン? 私―――」

 

「俺が放った弾幕に当たって気絶したんだよ」

 

「そうなの・・・・・・」

 

どうやら、目を覚ますまで、ジンが介抱してくれたようである。

霊夢は痛む体を起こす。

 

「おい、まだ寝ていた方が―――」

 

「これくらい大丈夫よ。それに、いつまで寝ていたら、あんたに迷惑掛かるし」

 

「俺は迷惑だとは思っていないぞ」

 

「あのね、まだバトルロワイヤルは終わっていないのよ。脱落者に構っていたら、あんたまでリタイヤしちゃうじゃない」

 

「俺としては、ゲームより霊夢の方が大事なんだけどな」

 

「・・・・・・なんでこんな時にそれを言うのかしら?」

 

「何か言ったか?」

 

「別になんでもない。ところで、正邪はどうしたの?」

 

霊夢は正邪がいない事に気づき、ジンにそれを訪ねると、彼は少し困った表情をした。

 

「それがな、俺が霊夢を倒してしまったから、霊夢とライの分の札が俺の所に来てしまったんだ。

それで、正邪に俺の札を渡しようとしたんだが――――」

 

「逆に怒らせてしまったんでしょ」

 

「ああ、“お前なんかの施しは受けない! 札は自分の力で奪う!”ってな」

 

「天邪鬼だから、施しは受けたくなかったのね」

 

「やれやれ、別に俺は優勝なんかに興味はないんだけどな・・・・・・」

 

「こうなってしまったら、やる以外に無いんじゃない?」

 

「そうだよな・・・やれやれ」

 

ジンは溜め息をつきながら、立ち上がる。

 

「霊夢、ライを頼んだ。俺は正邪と決着をつけにいく。時間的にも、これが最後だろう」

 

「ええ、いってらっしゃい。私に勝ったんだから、負けたら承知しないわよ」

 

「あまりプレッシャー掛けないでくれ」

 

「エールを送ってんのよ。ほら、ビシッとしなさい」

 

霊夢に背中を叩かれながら、ジンは正邪が待つ無名の丘へと向かう。

 

[ライ、リタイヤ]

 

[霊夢、リタイヤ]

 

[ジン、千百十五枚獲得。現在、千百三十七枚]

 

―――――――――――

 

無名の丘、そこに正邪は一人でジンを待っていた。

その表情は、何処か不機嫌であった。

 

(あの野郎・・・絶対にわざと言っているよな)

 

正邪が腹を立てていたのは、ジンが札を自分に譲渡しようとしていた事である。彼女にとってそれは侮辱であり、何よりも、天邪鬼としてのプライドが許せなかった。

 

(あんな事を言わなければ、快く騙し討ち出来たのに、あんな事を言われたら出来ないじゃないか!)

 

『これ、正邪にやるよ。そうすれば、危険を犯さず優勝出きるかも知れないだろう』

 

それはジンにとっては、善意であったのだが、天邪鬼である正邪にとっては、悪意であった。二人の間には、こういったズレが生じており、それが衝突の原因でもあった。

 

(まあいい、こうなったら正面から戦って、札を全部奪いとってやる!)

 

そう心に誓う正邪の前に、ジンが現れた。

 

「来たかジン」

 

「なあ正邪、本当にやるのか?」

 

「当たり前だろ、お前なんかの施し受けたら、天邪鬼がして廃る」

 

「結構施しを受けているような気もするのだが?」

 

「それはお前の気のせい、思い違いだ」

 

「そうか・・・・・・」

 

「だから、お前から堂々と札を奪いとり、優勝を狙う」

 

「意外だな、お前なら騙し討ちとかすると思っていた」

 

「お前のせいで、それが出来ないんだよバカ野郎!」

 

「なんでそこで怒るんだよ!?」

 

「うるさい! これでも食らえ! 逆弓!“天壌夢弓”!」

 

正邪は空に目掛けて弾幕を放つ。すると地面から、先程の弾幕が放たれた。

 

「地面から―――って、お前! それは俺の小刀じゃないか!」

 

ジンはようやく気づく。彼女の手に、八百万の小刀が握られている事に。

 

「返せとは言われて無いんでね」

 

「今すぐ返せ!」

 

「やなこったい♪」

 

「こ、この野郎~・・・マジで許さねぇ! 食らえ! 土獸!“勾陳の征矢”!」

 

ジンが放った土の矢は、正邪に目掛けて放たれる。

 

「こんなの余裕――――なに!?」

 

ジンの弾幕は、無数に分裂し、正邪を襲った。

 

「のわぁ!? 危な!」

 

「ちぃ、かわされたか」

 

「こいつ! 逆符!“鏡の国の弾幕”!」

 

正邪が次のスペルカードを発動させると、ジンの視界と感覚が反転する。

 

「うわ!? 右が左に!!」

 

「これでどうだ!」

 

戸惑うジンに容赦なく弾幕を浴びせる正邪。ジンはその弾幕を何とかかわしていった。

 

「よっ、ほっ、なんだ、馴れれば大した事はないな」

 

「それならこれはどうだ! 逆符!“天地有用”!」

 

すると今度は上下の感覚が逆転し、まるで逆さまになった感覚に陥る。

 

「今度は上下か、だが――――」

 

ジンは冷静に正邪の弾幕を見極め、次々とかわしていく。

 

「どうした正邪! この程度か!?」

 

「この野郎・・・だったら見せてやるよ、奥の手を! 逆転!“リバースヒエラルキー”!」

 

「そう何度も同じ手を――――なに!?」

 

ジンの視界がぐるりと回る。上下左右と、視界と感覚が回転し始める。

 

「のわぁ! なんなんだよこれは!?」

 

「見たか! これが私の必殺スペルカード、リバースヒエラルキーだ!」

 

「こんなの、どうやって避ければ良いんだ!?」

 

「回避不可能さ! 大人しくやられな!」

 

そう言って正邪は、容赦なく弾幕を放った。

いかに軌道が読めていても、体を思うように動かせなければ意味は無い。徐々に追い詰められたジンは、最後の手段を取ることに。

 

「土獸!“金剛の枷”!」

「うわ!?」

 

金剛で出来た枷で、正邪を捕まえ引き寄せた。

 

「こんなんで一体どうするつもりだ? 手錠デスマッチでもやるのか?」

 

「いや、体をまともに動かせない状態じゃ、殴り合いなんて出来ない。だから、こうするんだよ!

火水獸!“反作用爆弾” !」

 

ジンは火獸と水獸を召喚し、その二体をぶつけ合わせた。

 

「な、何をするつもりだ!?」

 

「簡単な事だ。水素爆発を起こして、お前を倒すんだ!」

 

「爆発!? そんな事をしたらお前も――――」

 

「このまま負けるよりはマシだ! 腹を括れ正邪!」

 

「ええい! 離せバカ野郎ー!」

 

「もう遅い!」

 

「うわぁー!!??」

 

正邪の叫びと共に、無名の丘は大爆発を起こすのであった。

 

[ジン、リタイヤ]

 

[正邪、リタイヤ]

 

[獲得賞金無し]

 

―――――――――――

 

弾幕バトルロワイヤルから一週間後。正邪は縁側で、文々。新聞をつまらなそうに読んでいた。

 

「“優勝者、古明地こいし。誰もが予想しなかった優勝者に、注目が集まる”か・・・けっ」

 

正邪は読んでいた新聞をくしゃくしゃに丸め、それを放り捨てた。

捨てられた新聞を、ジンが拾い上げる。

 

「おい正邪、新聞を捨てるな。まだ読んでいないんだから」

 

「こんな三文新聞なんか、つまんねぇよ」

 

「やれやれ・・・・・・」

 

ジンはくしゃくしゃになった新聞を広げ、読み始めた。

 

「へぇ、こいしが優勝したのか」

 

「大方、セコイやり方をしたんだろう」

 

「俺達も大概だと思うが・・・・・・」

 

「あーあ、本当だったら私が優勝している筈だったんだ。それをジンが、自爆技でオジャンにしやがって」

「だったら、あの時素直に受け取っていればよかっただろ」

 

「それは、私のプライドが許さない」

 

「まったく、面倒な性格だなお前は」

 

「うるさい、余計なお世話だ」

 

「やれやれ・・・・・・」

 

ジンはため息をつきながら、新聞の続きを読む。ふと、ある疑問が浮かび上がる。

 

「ふと思ったんだが、優勝賞品って、一体なんだったんだ?」

 

「さあな、そこ辺り優勝者にでも聞いてみればいいだろ」

 

「それもそう―――」

 

「知りたいなら、教えて上げるよ♪」

 

ジンは、突然誰かに後ろから抱きつかれた。振り返ると、そこには笑顔満面のこいしがいた。

 

「こいし? いつ来たんだ?」

 

「今来たところだよ」

 

「そうなのか、それで今日はどうした?」

 

「今日はね――――」

 

「ん? ジン、お前誰と話しているんだ?」

 

正邪は訝しい目で、ジンを見ていた。どうやら彼女には、こいしを認識出来ていないようである。するとこいしは――――。

 

「ジンはね、私と話しているんだよ♪」

 

「うわぁ!? いつからそこに居た!?」

 

「さっきからだよ」

 

にこやかに答えるこいしに対して、正邪は気味悪さを感じた。

 

「そういえばこいし、優勝したんだってな。おめでとう」

 

「えへへ♪ ありがとうジン。でもね、優勝出来たのはジンのおかげなんだよ」

 

「俺の?」

 

「うん♪ ジンが優勝候補を倒してくれたおかげで、順位がくり上がったの。だから今日は、その御礼に来たの♪」

 

「そうだったのか・・・・・・」

 

「それだったら、私にもお礼をくれ。私のおかげで優勝出来たんだろ?」

 

「別に、貴女のおかげじゃないもん」

 

「いや、霊夢達を倒せたのは、俺一人だけの力じゃなくて、皆の力なんだ。だから、礼を言うなら皆に――――」

 

「ジン、お前はそんな私の事が嫌いなのか?」

 

「え? 何の事だ?」

 

「はあ~・・・もういい、御礼なんかいらねぇ」

 

そう言って、正邪は何処かへ行ってしまった。

 

「なんだなんだあいつ? いきなりお礼はいらないって」

 

「駄目だよジン。彼女は天邪鬼なんだから、感謝されるのが嫌いなんだよ」

 

「そう言えばそうだったな・・・悪い事をしたな」

 

「ふふ、ジンって変わってるね。普通はそこまで考えないよ」

 

「まあ、性分みたいなものだからな。ところで、優勝賞品は何を貰ったんだ?」

 

「それはね、これなんだよ」

 

そう言って、こいしが見せたのは、首に下げているペンタンドであった。

 

「ペンタンド?」

 

「一見、何の変哲の無いペンタンドだけど、限定的に境を操る事が出来るんだよ」

 

「本当か!? それってかなり凄い物じゃないか!?」

 

「うん♪ といっても大した事は出来ないんだけどね。

だけど、これでいつでも地霊殿に帰れるし、このアイテムのおかげで、私の能力も安定したの」

 

「まさに、こいしにピッタリなアイテムだな」

 

「うん♪ 私の新しい宝物♪」

 

こいしは笑顔満面で、ペンタンドを見せるのであった。

それからしばらく、あちらこちらで、こいしの姿を見掛ける事が多くなったと言う。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
この話を作る際に、東方シリーズを色々とプレイしました。プレイと言っても、殆どがイージークリアーですが・・・・。
これからも、軌跡録をよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。