響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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後悔だけはしないようにね?

 

「…………くそ」

 日々増える紫煙の量に、思わず毒づく。

 昇進を機にやらなければならない仕事量も増えてきたので、これまでほど毎日暇しているわけではない。

 けれどここ一週間は出撃もないので、それも頭打ちになってくる。

 そうして出来た余暇に、思わず考えてしまうのはここ最近の自身の秘書艦のこと。

 

「……………………俺は」

 

 呟く声に力は無い。

 本当は自分でも分かっているのかもしれない。

 薄々自身も認めざるを得ないと思っているのかもしれない。

 

 それでも。

 

 俺は……………………。

 

「司令官、いる?!」

 

 思考を遮るように、扉が突然開かれる。

 やってきたのは暁。最近はヴェルに変わって少しずつ旗艦をやらせているのだが、その報告だろうか?

 目を大きく開き、汗をかいている様子から何かあったのかと眉根を顰め。

 

「見つけたわよ!」

 

 その言葉に、目をぱちくりとさせた。

 

 

 * * *

 

 

 時は少し遡る。

 

 キス島と言う島がある。

 かつて深海棲艦に包囲された時に島の守備隊を収容、撤退させるために幾人もの提督たちが水雷戦隊を飛ばした島。

 放棄された島にはすでに人の姿はなく、深海棲艦の支配下に置かれた海上には敵がまばらに点在している。

 今となっては駆逐艦のみで編成された部隊で敵の包囲を潜り抜け、島にたどり着いて戻ってくることが一種の試験代わりとして利用されており、あえて海域を取り戻していない場所でもある。

 

 因みにこの海域を無事突破するのに必要とされる練度(レベル)の目安はおよそ二十五から三十と言われている。

 すでに六十をとうに超えた暁や電、以前の連度を引き継いでいるせいでそれほど出撃回数が多く無くともすでに連度九十の雷。そしてすでに連度九十九、ついに限界までその性能を引き出しているヴェールヌイからすれば包囲を抜け島にたどり着くことなどそう難しいことでもない。

 勿論道中には敵戦艦などもおり、決して容易いとは言わないが。

 

「あそこ、行ってみない?」

 

 切欠は暁の提案である。

 

 無人島に行ってみないか、などと一体彼女は何を言っているのか、普通ならばそう思うところだろうが、今回の…………と言うかここ最近の出撃の意味を考えると決しておかしなことを言っているのではない。

 missing in action…………作戦行動中行方不明(MIA)となった人物の捜索、それがこの出撃の意味である。

 

 行方不明、それも二十年近くも前のこと。

 普通に考えれば生きているはずも無い。

 

 火野江花火元海軍大佐。雷の元司令官火野江火々中将の義母。

 

 それが捜索対象の名前。

 

 過去、まだ深海棲艦の存在が今ほど大きく広まっていない頃。

 彼女は任務で軍艦に乗り、そしてそのままこの場所、北方海域のどこかで船ごと消えた。

 

 暁とて何の考えも無くこんなことを言っているわけでもない。

 いや、確かに普段それほど多くを考える性質(たち)でも無いのは確かだが、少なくともこと任務に関しては暁だったその思考を精一杯に回すのだ。

 

 前提として、だが捜索対象である火野江花火が行方不明になった時、実はそれほど深く捜索が行われていない。

 具体的に言えば、北方海域の本当に入り口部分程度と言ったところか。

 理由としては割りと簡単で、その頃すでに深海棲艦が現れ始めていたこと、そしてまだ艦娘と言った存在がほとんど認知されていなかったことが挙げられる。

 

 現行兵器のほとんどが深海棲艦には通用しない。正確には通用するレベルの物となるとそう簡単には使えないような強力な兵器ばかりなのに、深海棲艦はほぼ無限に沸いてくる。その上、海に囲まれたこの島国ではほぼ全ての方向から敵が迫ってくるのだ。

 本土への上陸を阻止できただけでもほぼ奇跡と言って良いだろう、もし完全に上陸されていれば本土の土地ごと敵を吹き飛ばすしかなかったのだから。

 

 そしてその後に正式に海軍に現れた艦娘の存在によって戦いの舞台は海と陸の狭間から完全に海へと移された。

 全国に鎮守府も建てられようやく本土の安全が確保された。

 だがまだそれだけだ。

 

 火野江中将が何年経っても探しきれなかった、そして諦めかけていた理由、所以(ゆえん)がここにある。

 

 有体に言って、防衛に大半の戦力を回し、残った少数の戦力も海域の制圧に回される。

 こんな状況で人一人探すために艦娘を使った捜索隊など組めるはずも無かったのである。

 

 ようやく、なのだ。

 先の連合艦隊の敗北でタカ派の勢いが殺がれ、その配下の艦娘がこちらに流れてきた、暁だってその一人。

 建造の再開で数の上回る中立派がハト派を押さえ、足りない手をより多く補充した、雷だってその一人。

 そしてそれまで戦力外通知を受けていた電が復帰し。

 ヴェールヌイこと響を含めこれで四人。

 

 司令官の鎮守府の周囲には滅多に敵が来ない。来たとしても鎮守府以外に何も無いような海域である上に隣の海域には火野江中将の鎮守府もあり、今はそちらが海域の防りをしている。

 

 そうしてようやく四人、手漉(てす)きの艦娘が出来、それを持ってようやく本格的な捜索が可能となった。

 

 ここまでが前提。

 そしてここからが暁の考え。

 

 暁他三名は話し合っていた。

 任務として捜索を受けたが良いが、具体的にはどこを探すか。

 北方海域、と単純に言ってもその範囲は広大だ。

 時間は特に制限をかけられていないのは恐らく依頼した中将自身は半ば生存を諦めているかもしれないから。

 だからこそ、彼女たちは最初に条件をつけた。

 

 “捜索対象が生存していることを前提とした範囲”

 

 そもそも死亡しているなら結局後から探しても同じなのだ、だったらまずそれから行うべきだと暁と…………そして何よりも雷が強く弁じ、電も響もそれに異論は無かった。

 その条件で人が十数年生きていられる範囲を考えると、候補は意外と多くは無い。

 

 人が生きていくのに必要なのは衣食住。

 身を守るための衣服と活動するための食料と安全な寝床だ。

 

 北方海域は名の通り、日本のさらに北側、北海道よりも北に位置する海域だ。

 極寒と言っても過言ではないその場所で人が生きようとすれば必然的に位置は限定されてくる。

 

 そうして見繕った候補地を一つ一つ探して行き。

 

 そうして今日、暁の提案により次の目的地がキス島へと決定された。

 

 

 

 島への上陸はそう難しくは無かった。

 いくら深海棲艦が多いとは言え、一度に襲ってくるわけでもない、深海棲艦同士である程度テリトリーのようなものを作っており、戦うとして二度か三度と言ったところ。

 その内の一度は戦艦ル級と言った危険な敵もいたが、ヴェールヌイが接敵、近距離からの魚雷で一瞬で倒してしまったので残りの水雷戦隊を遠くから撃つだけの容易い戦いではあった。

「キス島…………か…………」

 島へ上陸したヴェールヌイがぽつりと呟く。

「響?」

 どこか遠くを見るようなその視線に暁が首を傾げる。

「いや…………なんでもないさ」

 一度目を閉じ、ふっと苦笑しながらヴェールヌイが首を振る。

「そう、なら行くわよ」

 それ以上は何も聞かず、暁もまたそう声をかけて進みだす。

 すでに雷と電は周囲の捜索を開始している。

 

 本来ならあまりやりたくは無いのだが、キス島は広大だ。否、それほど大きな島とは言えないが、それでも少人数で捜索するには十二分に広い。故に四人バラバラに動きたいところだが、どんな危険性があるかわかったものではない、最近では深海棲艦が陸上に上がってきたという報告は無いが、過去にあった以上、今回も無いとは言い切れないのだ。だが四人固まって動いていては何時になったら捜索が終わるのかわかったものではない、故に二人一組になって捜索をしているのだが…………。

 

「それにしても凄いところ」

「そうだね…………まあ、ロシアだって同じようなものだよ」

 見渡す限りの雪、雪、雪。この上で季節が変わればさらに霧まで出てくると言うのだから、最早そうなっては視界など無いに等しい。気温は極寒と言っても過言ではなく、艦娘の身ではあるが身を切る寒さが痛いほどである。

 本当にこんな場所に人がいるのだろうか?

 暁の脳裏のそんな言葉を過ぎる、だがそれを表には出さない。出してはならない。

 

「うーん、どこかしら」

 暁が首を捻る。

 キス島がかつて守備隊が居たと言う話は先ほどしたと思うが、だとすればそのための居住施設、防衛拠点のようなものがどこかにあるはずなのだ。

 もし捜索対象がこの島にいるとすれば恐らくそう言った居住性のある場所を拠点にしてる可能性は非常に高い。

 故に最優先で探しているのはそれなのだが…………。

「見つからないわね」

 島の中心は山なりになっており、その山どころか島全体が雪で覆われている。無闇に探し回って迷っては正直こちらの命すら危ういのでまずは海岸線から、と二人で歩いているのだがソレらしき建物は見つからない。まあ海岸線にあったならば深海棲艦に見つかっていただろうから確認程度の物ではあったのだが。

「………………ん」

 その時、ふと隣を歩くヴェールヌイが顔を上げる。

 眼前の光景をじっと見つめ、景色を確かめるかのように何度か動きながら視線だけは同じ方向を見る。

「どうしたの響?」

 そんな妹の様子を訝しげに思った暁が尋ねる、とそんな暁の言葉に答えず、ヴェールヌイが一言返す。

「あっちだ」

「え、何が?」

 呟き、黙々と島の中心のほうへと歩き出したヴェールヌイの後を暁が目を(しばた)かせながらついて行く。

「ちょ、ちょっと、響?!」

 何かに急き立てられるように先を急ぐ妹の様子に違和感を感じながら、暁はその後を追い。

 

 そして。

 

「……………………え」

 

 ぽつりぽつりと山間に隠されるように建てられたいくつかの木造りの小屋があった。

「…………やっぱりここなのかい」

 目を細め、呟いた妹の言葉が印象的だった。

 

 

 * * *

 

 

「やーれやれ、ってとこかい」

 ぱちぱちと燃える火が室内を煌々と照らす。

「提督、戻りました」

「ん…………おかえり、二人とも大事ないかい?」

「問題ありません、明日も行けます」

「こっちも問題ありません、けど…………」

 少女が口を引き絞る、飲み込んだ言葉の意味を、けれど提督と呼ばれた人物は分かっていると頷いた。

「やっぱり燃料の残数だけはどうにもならないねえ」

 近くに鋼材の集積所はある。ボーキサイトも弾薬も少し遠出すれば掻っ攫ってくることはできる。

 だが無いものは最初から無い。燃料だけはどうしても不足しがちになってくる。

「近々またあれをやる必要が出てくるねえ」

「けど…………」

 提督の言葉に、けれど少女は逡巡する。

「…………いや、その必要ももう無いかもしれないね」

「そんな!?」

 その言葉の意味するところ、それに至った少女が悲鳴を上げるような声で呟く。

「十七年…………良く持ったほうだと思うよ。けど、さすがにこれだけ長い間誰も探しに着てくれないんじゃ、もうワタシの籍は無くなってると考えるほうが自然さね」

 そうして提督…………老女、火野江花火は自嘲するように呟いた。

「ああ、だけど勘違いしないでくれよ? 別に諦めてるわけじゃない」

 そんな女の言葉に、二人の少女が疑問符を浮かべる。

 意味が分からない、そんな二人の様子に老女、火野江花火は苦笑し。

 

「お迎えが来る、そう言ってるんだよ」

 

 直後。

 

 キィィ、と。

 

 木造の扉が軋んだ音と共に開かれた。

 

 

 * * *

 

 

 上から下から蜂の巣をつついたような騒動とはこういうことを言うのだろうか。

 十数年前に行方不明になっていた人間の発見。それも中将殿の義理とは言え母親。

 特に中将殿はあまりの衝撃に、椅子から崩れ落ちてその場にいた雷に抱き起こされるまで呆然としてたほどだったらしい。

 キス島。そこで発見されたのは中将殿だけではない、二人の艦娘も一緒である。

 軽巡洋艦阿武隈、そして駆逐艦風雲。この二人がいたからこそ、火野江大佐(母親の方、死亡が確認されていないので二階級特進もしていない)も十数年もの間、あの敵だらけの地で生きてこれたらしい。

 後は昔の軍隊仕込のサバイバル術がどうのこうのと言っていたが。

 

 まあともかく、無事発見できたまでは良かったが、たどり着いたのが駆逐艦四隻。当たり前だが、人一人連れて戻れるほどの装備も無いので、暁の判断で島の守りにヴェールヌイと電を残し、雷と二人で帰投。そのまま雷は中将殿の鎮守府へ向ったらしい。

 そして冒頭の報告へと繋がるわけである。

 

 雷を中将殿のところへ向わせたのは、まあ二人の関係性を考慮に入れて、だろう。

 余り多くを言っているわけではないが、暁なりに察している物があるのだろう。この自称姉の一番艦は存外そう言った察しが良い。

 

 翌日には中将殿の編成した配下の艦隊がキス島へと向かい、全員無事に連れて帰ることに成功。

 

 

 そして時間はさらにその夜に跳ぶ。

 

 

 * * *

 

 

「本当に…………本当に感謝するよ」

 もう何度目になるのか分からない感謝の言葉。

 あの中将殿が電話越しとは言え、泣いている様子など初めてだった。

「お礼なら彼女たちに…………特に、雷は熱心だったようですし」

 雷としても過去に自身が追わせた重荷の負い目もあるのだろうし、それ以上に中将殿のために何とかしてやりたいという気持ちもあるのだろう。電は電は助けられる命があるならば助けたいと思っていただろうし、暁は暁でそんな妹たちのために何とかしてやりたいと思っていただろう。ヴェルは…………さて、どうだろう。少なくとも、彼女たちの力にはなってやりたいとは思っていただろうが。

 

 静かだな、それが今の感想。昼間では滅多に人の居ないはずの鎮守府は人でごった返していた。

 まあ海域防衛担当の鎮守府である以上、そう簡単にはそこから離れられないのは事実であり、だとするなら出頭命令を出せない以上向こうからこちらに来るしかないのだから何かあれば人が増えるのは仕方の無いことである。

 更に言うなら、保護した火野江大佐はすでに高齢であり、長年の極限での生活によって体力的にも限界を迎えており、中将殿の鎮守府まで送り届けるよりもこちらの鎮守府のほうが近かったためこちらに迎えた、と言うのもある。

 隣の海域、とは言ったものの、人一人連れて行くとなると数時間の船旅になる。

 ただでさえ北方海域から連れ帰っているのにそれ以上の負担は今は、と考えた中将殿がこちらで預かって欲しいと言ったのもまあ無理も無い話しである。

 昔ならばヘリコプターなどで救助し、物の数時間で本土まで連れて帰れたのかもしれないが、深海棲艦が海上を支配している現在ではそう言ったことも難しいのが現状だ。

 

 そうしてまだ諸々のやることは残っている物の、どうにかひと段落着いた中将殿がこちらの鎮守府にやってきたときには時刻はとっくに夕刻を越えていた。

 

「それにしても、良かったのですか? あんな簡素な言葉で、十数年ぶりなのだから、もっと色々言いたいこともあったのでは?」

 

 “おかえり…………母さん”“ああ、ただいま”

 

 俺の知る限り、二人の今日の会話はこれだけである。

 だからこその疑問。本当に言いたいこと、聞きたいこと、やりたいことたくさんあるだろうに、とは思うのだが。

「まだちょっと実感が沸かないんだ…………触れればまた消えてしまいそうで、そうだね…………怖くもある」

 

 ――――今のキミと同じだよ、狭火神中佐。

 

 呟かれた言葉に、背筋が凍った。

 

「まあ何、とは言わないさ…………キミ自身で分かっているだろうから。私も昔そうだったよ、雷ちゃんが沈んだ時もそうだし…………それ以上に、またこうして目の前に現れた時、もっと怖くなる」

 

 ――――また居なくなるのかもしれない、ってね。

 

「……………………でもそれを怖がってちゃダメなんだ、諦めてちゃ何も変わらない。私は理解したよ、雷ちゃんに教えてもらった、だから母さんは帰ってこれた」

 

 実際もう限界は近かった。十年持っただけでも奇跡だった、ましてそれ以上など。

 

「あの人は昔から直感だけで生きてるような人だからねえ。ある意味生存本能の強さなのかもしれない。でもそれでも諦めてたらそれも全てお終いさ」

 

 あの日、雷ちゃんが覚悟を決めてくれなければ、再び出会うことが無ければ、今日と言う日は無かったのだろう。

 

「だからさ、さっきも言ったけど深くは言わない、詳しくは聞かない。それでも言わせて欲しい、それでも聞いて欲しい」

 

 どうか。

 

「もっと信じてあげて欲しい、キミが育てた彼女を」

 

 それを聞くか聞かないかは結局キミ次第。

 

 けれど、それでも。

 

「後悔だけはしないようにね?」

 




母親見つからなかったら六章が始まってた。
けどちょっと長くなりすぎる上に、他の執筆も溜まってるので全部消化することにしてこれで無理矢理終わらせる。




いい加減、弥生書きたい!!!

弥生prprしたいんだ!!!

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