響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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男主メインな番外編って誰得だよな第五章
それは秘密かな?


「釣れないな」

 竿を持ち上げ、括られた糸の先を見るが餌が残ったままの針がついているだけだ。

 時折こうして港の端っこで糸を垂らすが、これだけ時間をかけて全く当たりが無いのはさすがに初めてだ。

「…………今日はそう言う日なのかもな」

 つまらない、と言ったイントネーションを暗に含みながら針と糸を回収する。

 多分このまま垂らしていても何も釣れないだろう、今日はここまでにしようと考える。

 まあ、そうとなれば。

「なあ」

 先ほどから背中にかかる重みに、向かって口を開く。

「楽しいか?」

 そうして、その言葉の先には、背中合わせに座り、膝の上で本を開くヴェル。

「…………さあ、どうだろう?」

 首をかしげながら呟くヴェルに、ぽりぽりと頭を掻く。

 

 最近どうもヴェルが引っ付きたがっている気がする。

 普段は姉妹たちと仲良くやっているのだが、気づけば俺の隣にいて、特に何か用事があるわけでも無く、本を読んだり呆けながら外を眺めたりと、よく分からない。

 

「最近良くこっちにいるな、ヴェル」

「…………そうかい?」

「いつもは姉妹のところにいるじゃないか」

 そんな自身の言葉に、ヴェルがその眼を僅かに細める。心なしか、アイスブルーのその綺麗な瞳が一瞬、揺れた気がした。

「司令官のいつもは、いつのことなんだい」

 そう呟き、ヴェルが立ち上がる。その意味を問い返すよりも早く、その身を翻して鎮守府へと去っていく。

 その後ろ姿を見ながら、一人ぽつねんと残された俺は首を傾げる。

「何だったんだ?」

 どことなく不機嫌そうな、その様子に疑問は尽きないが…………。

「まあそんなこともあるだろ」

 ヴェルだって木石では無いのだ、機嫌の悪い日くらい偶にはあるだろう。

 そう考え、一瞬過ぎった思考を頭の隅へと追いやった。

 

 そう、きっと気のせいだろう。

 

 ヴェルが…………寂しそうに見えるなんて。

 

「んなはず、ねえよ」

 

 思わず過ぎった思考を鼻で笑い、そうして自身もまた立ち上がり、鎮守府へと戻っていった。

 

 

 * * *

 

 

「あー、司令官、やっと見つけた!」

 鎮守府に戻って早々、こちらを見て大声を上げるのは暁だった。

 その視線が俺の持つ釣り道具に向けられると、視線に呆れが混じる。

「また釣れもしないのに釣りしてたの?」

「失礼なことを言うな、偶には釣れてる」

「本当に偶にじゃない…………下手の横好きってやつかしらね」

 ぼそっと呟いた後半の台詞だったが、普通に聞こえている。少し不満げな視線を送るが、そんな俺の意図も無視して、暁がとてとてと詰め寄ってくる。

「そうよ、それどころじゃなかったわ、司令官、電話が着てたわよ」

「電話?」

 

 暁の話に寄ると、廊下を歩いているとピリリリリ、と言う電話の電子音が聞こえたらしい。

 いつまで経っても収まる様子の無いその音を辿っていくと執務室。ドアノブを回してみれば施錠はされておらず、中には誰も居ない。

 仕方ないので代理と言うことで暁が電話に出ると、電話の相手は中将殿だったらしい。

 

「で、用件は?」

「よく分からないけど、お客さんが来るらしいわよ?」

何時(いつ)?」

「今日」

 

 その言葉と同時。

 

「こんにちわ」

 鎮守府の玄関に一人の少女がやってくる。

 

「久しぶりね灯夜くん、ダメよ? ちゃんとお仕事しないと」

 

 海軍の白い軍服の上から同じく白い外套を羽織ったタバコを咥えた少女…………否、年齢を考えれば女性。

 瑞樹葉歩少将がそこ鎮守府の玄関口に立って、羽織るだけで袖も通していない外套をゆらゆらとはためかせていた。

 その視線がふっと動き、自身の傍に立つ暁へと向けられる。瞬間、以前の仕打ちを思い出したのか、暁が顔を青ざめさせて自身の影へと隠れる。そんな暁の様子にタバコを咥えたまま器用にニィ、と口元を吊り上げる少将に暁がびくりと肩を震わせる。

「いや、何やってるんですか、少将」

 暁に戻っていいぞ、と言って背を押すと、そそくさとその場から離れる。そんな暁を見て少将が一瞬惜しそうな目をしたが、すぐにこちらへと視線を向けてくる。

「元気そうだね」

 くすくすと笑いながら少将がそう言うと、ええ、と返す。

「それで、本当に何の用件で?」

 いい加減話を進めようとそう尋ねると、ああうん、と少しだけ少将が言葉を濁し。

 

「ねえ灯夜くん。お見合い、しない?」

 

 そんなことをのたまった。

 

 

 * * *

 

 

「…………ふわあ」

 日差しのまぶしい窓を眺めがら、少年があくびを一つ漏らす。

 床に転がった玩具の船を一つ拾い上げ、窓から差す光へとかざす。

「……………………」

 少しだけ(ほう)けたような視線でそれを見つめていると、たった一つしかない部屋の扉が開かれる。

「やっほ、灯夜…………って何やってるの?」

「船…………見てる…………」

 入ってきたのは一人の少女。歳の頃は十代の後半と言ったところか、どこか不敵そうな目つきがどこか印象的な少女。

「瑞姉」

 少年が少女へと呟く、と同時に少女が部屋の中へと入ってくる。

「船…………って、ああ、プラモデルね」

「…………船…………瑞姉たちと同じ」

 少年の呟きに、少女が苦笑する。

「まあ私たちは軍艦だからその貨客船とはまた違う船だけど…………まあ同じ船ではあるわね」

「…………けど」

 そして少女の言葉に少年が首を傾げる。

「瑞姉…………これと違う」

 船の玩具と目の前の少女を見比べながら呟く少年の言葉に、少女がああ、とどこか納得したように呟く。

「艦娘だからねえ…………」

「……………………ねえ」

「何?」

「瑞姉は…………船なの? 人なの?」

 そんな少年の言葉に。

 

「……………………さあ、どっちなんだろうね?」

 

 少女は曖昧に笑った。

 

 

 * * *

 

 

「まず最初に」

 生憎応接室なんてものはこの小さな鎮守府には無い。

 だから執務室のほうに椅子と机を運んで向かい合って座る。

「何がどうなってそんな話が沸いて出たのか、その辺を教えてもらえますか」

 いきなり見合い話、などと言われてもすぐさまはいそうですか、と言えるはずも無い。

 義理とは言え自身の姉からの突然の話に、さすがに驚かされたが、それだけの理由で頷けるほど軽い問題でもないだろう。

 だからそうして理由を問うと、瑞樹葉少将がそう言えば、と一つ頷いて答える。

「その辺言ってなかったわね」

 そうしてもう一つ頷いて。

「まずこれが最初の用件よ、狭火神()()

 そうして差し出されたのは一通の封筒…………と、その前に。

「…………中佐? 自身は少佐ですが、もしかして」

 視線を落とす。封筒を見つめ、それから視線を上げると、瑞樹葉少将が一つ頷く。

 封筒を受け取り、封を破ると中に入った紙を取り出す。

 そうしてそこに書かれた内容を目を通し…………。

「昇進…………ですか」

「ええ、おめでとう、狭火神中佐殿」

 中佐、まだ二十過ぎの若造が…………そんな自身の内心に気づいてか、瑞樹葉少将がくすりと笑う。

「非公式とは言え、連合艦隊の撤退を見事成功させ、壊滅状態にあった連合艦隊の一部を救出するだけに止まらず連合艦隊を追ってきた三十を超える深海棲艦を足止め。大侵攻してきた敵深海棲艦から五日間鎮守府を守り抜き、敵主力を足止め、及びその撃破に一役買ったキミが、そのキミが、功が無いなんて誰が言えるんだい?」

「…………いえ、ですがあれは中将殿の協力もあってのことで」

「まあ受け取っておきなさい、本来ならいきなり大佐まで昇進するはずだったのよ?」

「…………二階級…………それはいくらなんでも」

 と、その言葉に瑞樹葉少将がさらにいくつかの封筒を差し出してくる。

「…………これは?」

「読んでみたら?」

 先ほどまでとは違う、少しだけ冷たくなった声に違和感を覚えながらも封筒を受け取り、封を破る。

 そうして中身に目を通し…………。

「…………これは」

 一言で言えば、勧誘だ。

「中将さんの一派からの寝返りの勧誘。詰まらない、本当に詰まらない。手紙の内容もそうだし、それを私に届けさせるって言うのが本当に詰まらない連中」

「……………………」

 何を言えばいいのか分からず、黙り込む自身にけれど少将が続ける。

「ただの少佐程度に勧誘なんて普通来ない、中佐でもそう。大佐以上になってようやくその手の誘いが始まる。だから私たちはキミの上司である中将殿と相談して中佐位に押しとどめた…………のはずだったんだけれどね」

 実際にはこうして勧誘が着ている。それはつまり、どういうことなのだろうか。

「分かる? この手紙の意味。これはね…………狭火神の名が未だに海軍内で大きいことの証左なのよ。どの派閥もみんな狭火神の名を欲しがっている。狭火神大将の後継者はすでにあの中将殿に決定されているわ、だからこそ、まだ派閥に所属していない狭火神大将の息子である灯夜くん、キミを誰もが欲しがっている」

 少将のそんな言葉に、少しだけ目を細める。

 

 少しだけ、ため息を出そうだった。

 

 

 * * *

 

 

 狭火神、と言う名は海軍の中でも少し特殊なものになる。

 と言うか、狭火神仁と言う男の名が特殊だ。

 今の海軍ならば海軍大将狭火神仁の名を知らない者などほとんど居ない。

 死して十年以上経っても未だにそう、なのだ。

 当時まだ現役だった現在の上層部にとっては、最早伝説に等しい名である。

 繊細にして大胆、緻密にして不敵。相反するような言葉を作戦の中に織り込み、数々の功績を打ち立てた男の名。

 その後継を決める時、けれど意外にも揉めることは無かった。

 あまりにも分かりやすい、目に見える形でそれを示した人物が居たから。

 火野江火々現海軍中将。当時海軍大佐。

 狭火神の死を皮切りにしたかのような深海棲艦の大侵攻をたった一人で艦隊を指揮し食い止め、撃破したその実力、そしてその非情なまでの徹底的に正しいだけの戦略は、誰がどう見ても彼女以外に狭火神仁の後を継ぐ人間は居ない、と思わせるだけのものがあった。

 

 少しだけ、言い方を変えよう。

 狭火神とは、伝説を打ち立てる者の名だ。

 常人にはとても理解はできないような考えで、

 普通に考えれば気が狂ったような着想で、

 そうして成果を出し続ける。

 

 そんな存在(イメージ)が彼らの頭の中には根付いている。

 だから彼女以外にその後は継げなかった。

 

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 そんなこと、他の誰にも真似できなかったから。

 

 けれど、最近になってそれが他にもできそうな人物が出てきた。

 現海軍少佐()()()灯夜。

 狭火神仁のたった一人の息子。

 火野江中将とは違う、正真正銘、狭火神仁の血を引く狭火神の名を持つ者。

 

 これまでは注目されていなかった。

 目に見える功績が無かったから。

 狭火神とは伝説を打ち立てる者だ。功績が無い狭火神など意味が無い、説得力が無い。

 それこそが火野江火々が狭火神灯夜をあの小さな鎮守府へと押しやった理由の一つだと、大半の人間は気づいていないが。

 それでも、真に能力がある人間ならばいつまでも隠しはできない。

 タカ派の連合艦隊の敗北、その撤退戦を切欠として徐々に狭火神灯夜の名は広まっていく。

 そうすると今度は名に意味が出て来る、説得力が増してくる。

 そうなれば欲しがる人間は増える。

 言うならば、箔付けだ。

 狭火神の名を持つ者が所属している。それだけでその派閥の格が上がる。

 狭火神灯夜本人にその気が無くとも、周囲がそう思ってしまう。

 彼の不幸なところは、父親が偉大すぎたことだろう。

 本人の意思とは無関係なところで、父親の影響が広がっていく。

 

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「だからお見合いだよ」

 そう告げる自身の言葉に、彼が少し呆れたような表情をするがけれどこれは冗談でもなんでも無い。

「キミがはっきりとどこかの派閥に属している、と言うことが明らかにならない限り、この問題は避けられない。結婚って言うのは、一番手っ取り早い解決方法なんだよ」

 例えば、今彼がタカ派の人間もしくはその親族と結婚すれば、周囲の人間は彼はタカ派に属した、と思うだろう。ハト派ならハト派に、中立派なら中立派に、結婚と言うのは明確な繋がりを示す上で、かなり強固な証拠になる。

「別に本当に結婚までいかなくてもいい、最悪婚約止まりでも良い。それだけで周囲からの見方は明確に変わる」

 自身の立場と言うものの理解がいまいち低いようだが、頭の回転は悪くない彼なら自身の状況についてもう理解はしただろう。

 だから、次に出た言葉はこんなものだった。

「もしそうだとして……………………相手は?」

 お見合いだから、二人いないとできない。だからこそ、その質問は当然来ると予想していた。

 そしてだからこそ、苦笑しながら、こう告げるのだ。

 

「それは秘密かな?」

 




なんだか不調。なかなか難産だった。

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