響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
三度、目の前で姉妹が沈んで行った。
その後悔は今でもこの胸に焼き付いて。
今でもこの胸を、肺腑を焦がす熱となるのだ。
「で、ヴェルがあんなことになった原因を知らないか? 雷」
暗い暗い夜の海と言うのは、存外考えごとをするのに向いている。
だから何かあると時折こうして海を見ながら思考を巡らせている…………のだが。
今日は一人、付き添いがいた。
ヴェルではない、気づくといつも隣にいる彼女は現在ここにはいない。
「どうして私に聞くのかしら、司令官?」
代わりにいるのは、彼女、雷だった。
退屈そうで、悲愴で、感情的で、激情的で。
内心でもやもやと感情が渦巻いて爆発しそうで、吐き出してしまいたくて、けれどそれを閉ざしている。
そんな内心を見せないように表情を笑顔を覆い隠して、彼女はそう告げる。
人の感情なんて分からない、なんて言うが、今目の前の彼女の内心なら手に取るように分かる気がする。
何故なら、今の雷は――――――――
「お前ら二人で出撃して、それからああなったんだ、ヴェルがあの状態じゃお前に聞くしかないじゃないか」
なんて、そんな本音を隠した上っ面だけの言葉、通じるわけも無く、雷がへーとジト目でこちらを見つめてくる。
はっきり言って、大よその察しは付いている。そんな俺の考えを察したのか、雷が嗤う。
「ねえ司令官、逆に聞くけど」
どうして響はああなったんだと思う?
「……………………………………」
質問に質問で返す雷を一瞥し、少しだけ口を閉ざす。
けれど雷だって全部分かっているだろうし、俺だって察している。これ以上の問答も無用かと思い、そうして自身の答えを語る。
「気づいたんだろ、いや…………それとも雷が気づかせたのか?
少し迂遠な俺の言い回しに、雷が僅かに驚いた様子で瞠目する。
そうして、どこか諦観したように嘆息して。
「ええ……………………そうよ、司令官の察しの通りよ」
自身の言葉を、肯定した。
* 事は朝まで遡る *
ごほん、と軽く咳をすると、隣のヴェルが視線を大丈夫? と寄越してくる。
問題ない、と手を軽く振るとようやく書類へと視線を戻す。
机の上に溜まった書類はいつもの三倍近い。
さすがに二日も風邪で寝込んでいると仕事も溜まるな、なんて考えながら無心に手を動かし続ける。
と言っても元々少ない量なのだ、三日分でようやく他の一般的な提督たちの一日分。恐らく中将殿あたりと比べたら半分以下と言ったところだろう。あの人も何だかんだで多忙なようだし。
まあそれでももう半分ほどは終わっている。元々手際はそれなりに良いほうだと自負しているし、ヴェルも長年秘書艦として勤めてきた経験からか、少々の事務仕事ならこなしてくれるありがたい戦力だ。二人でやれば当然の結果と言えた。
この調子なら昼過ぎには終わるな、なんて内心で呟きながら、時計から再び書類へと視線を落とした、その時。
ピリリリリリリリ
執務室に響き渡る電子音。何事かと受話器を取り耳に当てる。
聞こえてきたのは中将殿の声。以前会った時とは違う、昔のような事務的な口調、声質。
つまり。
「出撃だ、ヴェル」
先の殲滅戦で倒した敵の残党勢力。その一部がこちらに向かっているとの報にすぐさま出撃命令を下す。
そしてそんな自身の命令に、ヴェルが口を挟む。
「敵の数は?」
「水雷戦隊が三ほどとのことだ。内訳は軽巡洋艦一、駆逐艦二」
「
そうして執務室を出て行くヴェルを見送ったのが午前のこと。
そうして、ヴェルが大破して戻ってきたのが、夕方のことだった。
* * *
「ぶっちゃけて言うが、大破したこと自体は別にそこまで問題じゃない。確かにうちの最高戦力がいきなり抜けるんだから穴は大きい、けど言ったって当たる時は当たるし、壊れる時は壊れる」
そして。
「どんなに強くても、死ぬ時は死ぬ」
少なくとも、その危険性がある場所に彼女たちを送り出していることだけは、提督である限り覚えておかなければならない。それが彼女たちに命令を出す人間の義務であり、彼女たちの命を預かる人間の責務である。
正直ヴェルがいなくなるだなんて、考えたくも無いが、それでも考えている。いつかそうなるのだと覚悟している。
俺が提督である限り、いつか俺の部下の誰かが死ぬだろうし。ヴェルたちも艦娘である限り、いつかどこかの戦場で命を落とすのだろう。
「お前、みたいにな、雷」
「……………………」
投げかけた言葉に答えは無かった。それはそうだろう、だって正確には。
「正確には、お前の前任者のように、か?」
「……………………っ!!」
言い換えた言葉に、今度こそ、雷が明確な反応を見せる。
そうしてその反応で、いくつか考えていた仮説のうちのいくつかが有力になっていく。
そして同時に、ヴェルが恐らく勘違いしているだろう、ことも理解した。
「……………………前任……者……ねえ」
けれども、そんな俺の仮説を崩すように、予想を覆すように。
「ねえ司令官、以前の私が私じゃないのだとしたら」
雷は、一切の感情を消した、無表情で尋ねる。
「じゃあ私は、誰なの?」
* * *
「入渠自体はもう終わったから良いとしても、工廠からの報告によると艤装の修理に三日。そしてお前自身の健康を鑑みて、一週間は療養しろ、とのことだ」
報告書片手にそう告げると、ヴェルが待ったをかける。
「今日逃した敵はどうするんだい?」
「倒したのは敵軽巡洋艦のみ、残りは駆逐艦二隻か…………ちょうどいい、演習ばかりさせていたが、そろそろ暁と電も実戦で今の自分の力ってのを試してみるべきだろう、あの二人にやらせてみよう」
「私も行く」
自身が言葉を告げ終えるのと入れ替わりに、ヴェルが発した言葉に、一瞬呆気に取られる。
視線を報告書からヴェルへと移す。いつもの無表情とは違う、どこか気迫すら感じられるそんな表情。
だが。
「ダメだ」
「司令官?!」
「当たり前だろ、お前の艤装は現在動かせる状況じゃない、それにお前の体にも相当なダメージが蓄積されている、それを抜かないとまた今日と同じことになるだけだ」
いつものヴェルならそれくらい分かっているはずのこと。
けれど、今日はヴェルはそれでも食い下がる。
「駆逐艦二隻程度なら問題無い、それに――――
――――いざと言う時、盾くらいにならなれる」
…………。
……………………。
………………………………。
「あ”?」
目の前の少女が、自身の秘書艦が、長年の相棒が告げた言葉が一瞬理解できず、十秒近くたっぷりと沈黙。そしてその意味を理解した瞬間、おかしな声が漏れたのを自分でも自覚できた。
それほどまでに、あり得なかった、目の前の少女の告げた言葉が、絶対にあり得ないはずだった、目の前の少女がそんな言葉を口にするなど。
「お前、何言ってるんだ」
だから、そう聞き返すのも、当たり前のことだった。
* * *
「雷は雷だろ?」
そんなありきたりの言葉に、雷が苦笑する。
いつもの冷たい微笑でも無い、ただ、どこまでも諦観した笑みである。
正直言えば、酷く気に入らない。
「そうね、
まるで言葉遊びのような言い回し、だがそれは同一艦と言う存在に常について回る問題の一つでもある。
自分と同じ自分が存在している。だったら自分が自分である必要などあるのか、自分が自分である保障がどこにあるのか、要はそう言った思考に付随して回る感情の乱れである。
だがこれには一つだけ解決法がある。
結論だけ言えば、記憶だ。あまり人道的な言い方とは言いがたいが、公式的には練度と言っても良い。
同一艦は根本を同じ船に起因している。だからこそ、大本は同じ存在になる。だが艦娘として誕生してからの記憶、環境によって表面的な変化は当然現れてくる。
だからこそ、その記憶こそが同一艦のアイデンティティを埋めてくれる大事なピースとなり得る。
そう、本来なら。
もしそのピースが生まれる前から埋まっていたなら、どうだろう?
「私は私。でも私は前の私でもあるのよ、だったら私は本当に私なの? 前の私は私じゃないのかしら?」
そんな彼女の問いに、けれど自分はふっと笑って答えた。
「少なくとも、前の
さっきも言ったが、まるで言葉遊びだ。
互いが互いを
だがそれは本人にとっては何よりも真剣で、何よりも重要で、だからこそ今こんな状況になっているのだ。
そして、だからこそ。
雷の諦観の笑みは、変わらなかった。
「記憶も、人格も、思いも、強さも、ぜーんぶ受け継いでるって言ったら、どうするのかしら? 司令官?」
先ほどまでは打って変わった、暗い夜の闇の中でもはっきりとその存在を主張するような、明るい太陽のような笑みで、人懐っこい表情で――――――――
――――――――
* * *
「お前、何言ってるんだ」
そんな自身の問いに、けれどヴェルはどこか悲愴な表情で、呟く。
「嫌なんだ、もう」
自身が沈みそうになったからこそ、否、一度沈んだからこそ、尚更強く思うのだ、と。
「守りたいんだ、守らないといけないんだ」
悲愴な顔で、悲痛な面持ちで、口からは悲嘆が溢れていた。
けれどそんな言葉はもう自身の頭へと入ってこない。
ただ、愕然としていた。
もう大丈夫だと思っていた少女の、とんでも無い…………特大級の地雷に気づいてしまった。
「……………………………………………………」
沈黙が室内を支配する。自身も、ヴェルも、ただ押し黙ってしまって、口を開こうとしない。
けれど黙っていても何も好転しない、そんなことは分かっている。
だが何を言えば良いのか、分からなかった。
だって、これは…………こればっかりは…………。
そう考えた時、自然と口は開いていた。
「駆逐艦ヴェールヌイ、お前を第一艦隊旗艦から外す」
「なっ?!」
告げられた言葉に、驚愕に目を見開き、声を漏らすヴェルに構わず、俺は続ける。
「旗艦は代行で暁にやってもらう、一週間ゆっくりと休め、
命令、と言う言葉を強調して聞かせる。
軍隊は規律が重視される。時に現場の判断と言うのもあるのかもしれないが、それは緊急措置であって、今のような状況で使うものではない。
だから、この命令は絶対だ、絶対のはずなのだ、少なくとも俺の知っているヴェールヌイにとっては。
だが。
「嫌だ…………」
反抗する。
「絶対に、嫌だ!」
子供のように、逆らう。
「私は、私は…………!!」
そんな彼女に。
「…………………………もういい。無期限の謹慎だ、今すぐ部屋に戻れ」
最後通牒を付き付ける。
告げられた言葉に、ヴェルの体が震える。
「ヴェールヌイ!」
呼ばれた名前に、大きく体を震わせて。
「どうして…………司令官…………」
そう呟いた声を、けれど俺は無視した。
「分からないか? もしこのままずっと分からないのなら」
その時は。
「お前、もう戦うな」
その言葉が意味するものは、つまり。
解体処分。
艦娘にとって、実質上のクビである。
項垂れ、部屋を出て行くヴェルに、けれどさらに言葉を続けた。
「考えろ、考えて、考えて、考え抜け
* * *
「何で黙ってたんだ?」
ある意味自身にとてつもない衝撃をもたらしてくれた雷を横目で見ながら尋ねる。
すると雷もうーん、と首を捻って答える。
「分からない? 分かるでしょ? 私の存在がどれだけ厄介事を引き起こすのか」
そう言われれば否定は出来ない。性質どころか、記憶も、人格も、能力すら受け継いだ同一艦。
もしそんなものの存在が本部に知られたら、艦娘を物として扱う現在の海軍では禄なことにならないことは明らかだ。
「それでも、その記憶と人格がある以上、中将殿にだけでも筋を通しておけばいいと思うがな」
そんな自身の言葉に、雷が苦笑する。
けれど答えは返さない辺り、雷の中でも何やら色々葛藤があるらしい。
そしてさらに言葉を重ねようとしたところで。
「それより、いいの? 響のこと」
雷が尋ねてくる。
まあ姉妹のことだし、気にもなるのだろう、しかも記憶と人格がある、と言うことは以前のヴェルについても知っている、と言うことであるから、尚更だろう。
「前世の記憶に引き摺られるのは艦娘としての業みたいなものだ。特にヴェルは終戦まで生き残った数少ない艦だ、その記憶も、思いも、遺志も、何もかもがこの鎮守府で最も強いんだろうさ」
駆逐艦響、そしてヴェールヌイ。
終戦を経験した数少ない艦の一隻。
姉妹たち全員の最後を看取っていった彼女の心境は、簡単には計り知れない。
だがそれでも。
それでもこれは、こればっかりは。
「結局自分自身、ヴェル自身の問題なんだ、今回ばかりは俺にもどうしようも無い……………………だからもし、本当にどうにかしようとするなら」
自室にいるだろうヴェルを思い、そして淡い願望を込めて、告げる。
「変わるしかないんだよ、ヴェル自身がな」
途中まで書いてたら一回フリーズでデータ全部消し飛んで、もう一回書き直したらこんな時間だよ(
明日11時から授業なのに(
というわけであと4話です。
あと4話で話をまとめて完結させないといけないですよ(
本当はこんな話じゃなかったんですけどね。
ふと、主人公とヴェルと喧嘩したことないよな、と思ったので仲たがいさせてみようと思ったら、意外と話思いついちゃって、結局こういう感じになりました。
因みにこれが終わるといよいよヴェルの地雷が全部解除されるので、【ヴェルの】恋愛フラグは解除されます。
まだ他に必要か、だと? 恋愛は一人じゃできないよ? 五章で【主人公の】恋愛フラグを解除してください(
五章はもし書くとしたら、だけど二章とか三章にちょいちょい入れてた設定とか伏線とかを回収しながらの予定。