響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
彼女の包み込む海のような優しい笑みを今でも思い出す。
彼女の微睡む日溜りのような暖かい笑みを今でも思い出す。
今でもはっきりと覚えている。
だとすれば、
冷厳なる北海の氷のような冷たさを秘めた今の彼女の笑みは、
一体誰の笑みなのだろう?
* one day B *
「司令官、私の姉妹が建造できたって本当!?」
扉を開くと同時に机で頬杖を突きながら何か考え事をしている自身の司令官へと一気に詰め寄る。
突然やってきた自身に驚き、司令官が目をぱちくり、とさせる。
「い、雷ちゃん? え、あ、うん…………さっき建造が終わって、雷ちゃんの姉妹の一人が――――」
驚きながらも自身の質問にしどろもどろに答える司令官から、聞きたい部分だけを聞き取った段階で、即座に部屋を飛び出す。
「――――建造されたところだって連絡が…………ってもういない。余程嬉しかったのかな?」
自身の飛び出した後の部屋で、司令官がそう呟いた声は、けれど自身には届かなかった。
走って、走って、走って。息を切らせながら工廠へと走る。
艦娘と言えど、艤装も無しに全力疾走すれば、息も切れるし汗も流れる。
けれどそんなことも気にせず工廠の扉を開こうと、手をかけて…………。
瞬間、向こう側から扉が開く。
「えっ?」
「んっ?」
掴んだ取っ手の軽さに驚き、そして視線を上げると、目の前に白い髪の少女がいた。
自身と同じ服装、そして纏う雰囲気にすぐに自身の姉妹だと気づく。
そしてその白い髪、そしてアイスブルーの瞳。だが初めて会ったのだ、外見だけでは誰だか分からない。
だからまずは自分のことを告げる。
「私は雷、あなたは?」
「私かい? 響だよ、また会えて嬉しいよ、雷」
そう言って響が微笑む。
それにつられるように自身も笑い。
そんなある日の夢。
* today *
朝食を食べ終えると、さて何をしようかと考える。
現在時刻は七時半。工廠での建造完了時刻までまだ一時間半はある。
朝食前にもう一度司令官の様子を見てきたが、ぐっすりと眠っていたので当面は大丈夫だろう。
まあお昼になったら、何か軽く胃入るものと薬でも持っていくべきだろうが、それは今すぐ考えるべきことではない。
かと言って、司令官があの有様では、まともに仕事なんてありそうも無いし、本当にやることが無い。
「何だか懐かしいな」
ふと呟き、そんな自身の言葉に苦笑する。
まだ電も、暁もいなかった、本当にこの鎮守府に艦娘が自身一人だった頃は、よくこうして暇していたものだ。
はて、あの頃の自分は一体、何をしていたのだろう、どうやって暇を潰していたのだろう。
そんなことをふと考えて…………思い出す。
いつも執務室で…………否。
本を読んだり、お茶を飲んだり、のべんだらりと無駄話をしたり。
そんな些細なことが楽しかったのだ。
そんな些細なことが、今となっては懐かしい。
「……………………後一時間半、か」
久々に本を読むのもいいかもしれない。
最近ずっとごたごたが続いていたせいで、いくつか読み終えてない本もあることだ。
そんなことを考えながら、食堂を出て、途中執務室へと寄り、壁際の本棚から適当に本を一冊取り出すと、司令官の部屋へと向かう。
司令官の様子を見ておいたほうがいいかな?
そんな
* * *
目を覚ますと言う行為を懐かしいと感じる感覚に、ここ最近毎朝のように戸惑っている。
まあだからと言って、それでどうにかなるわけでもない、別に寝不足になるわけでも、感情が乱れるわけでもない。ただ慣れない感覚に、少しばかり戸惑うだけだ。
目を開いた時、いつも過去を思い出す。そのたびに自分は今まで夢を見てきたのではないだろうか、と思い、けれどこれまでが現実なのだと思い知る。それが自分の寝ぼけ方なのだと、ここ最近になって気づく。
まあ実に数年、夢遊病のような、起きているような、寝ているような、そんな生活を続けてきたせいか、寝起きの頭は実に夢と現実の境目を曖昧にしてしまう。
それでも窓から差し込む朝日の眩しさに、思わず目を閉じると、ゆっくりと開く。
「…………明るい…………朝なのですか」
どうやら今日も自分は現実へ戻ってこれたらしい。
同じベッドで安らかな表情で眠る
長らく忘れていた思い。そう、この感情を自身の知る言葉に当てはめるのならきっと家族愛と呼ぶのだろう。
優しくて、暖かくて、心地よい…………そんなどこか幸せすら感じられる感情。
ベッドから抜け出すと、部屋の冷たい空気に身を震わせる。
秋も終わりかかり、もうすぐのところまで冬が近づいてきている。
窓から差し込む朝日の中に暖かさを感じつつ、窓のカーテンを閉め、
下着のみを残した半裸状態になると、部屋の寒さが一層身に染みるが、すぐさまいつもの制服に着替える。
「うう…………寒いのですよ」
思わず呟くが、かと言って寒さが変わるわけでも無い。
艤装でも装着すれば気にもならなくなるのだが、そんなことのために艤装を使う許可が出るはずも無い。
かと言って、寒くて艤装で誤魔化したいから戦闘させろ、と言うのはあまりにも不謹慎だ。
「今度司令官さんにヒーターの購入を希望するべきでしょうか」
エアコンは一応あるのだが、暁があまり好きでは無いため使っていない。
その暁は基本的に体温が高いらしく、多少の寒さではあまり気にならないらしい。
赤ちゃん? とふと過ぎった疑問を暁が鋭く察して、子供じゃないわよ、と誰も何も言っていないのに反論していた姿は記憶に新しい。
とは言うものの、暁は平気でも電はそうでも無い。どちらかと言うと、手足が冷えやすい体質で、鎮守府内にいても靴下や手袋を付けたがる。
そんな二人が妥協案として互いが譲り合った結果が、自身と暁が同じベッドで寝ることである。
実際暁と同じベッドで寝ると、なんとも暖かい。入って五分もしないうちにお布団が暖かくなるのはなんとも都合の良い体をしている、と思う。何故か表現がいやらしくなったが、別に電にそう言う意図は無いことは今明言しておく。
着替えを終え、着終わったばかりの寝間着を畳む。
それを部屋の端に置いてある籠に入れる、この籠に入れておくと、職員の人が洗濯して戻してくれる。
艦娘は兵器である、だからこそ、その整備は人間によって行われる。
そう言う意味では楽な生活と言えるのかもしれない、家事全般は他人にやってもらって、請け負うべき戦闘もこの鎮守府ではあまり起こらない…………まあ、こちらに来たばかりの時のような例外もあるのだが。
と、その時。
コンコン、と部屋がノックされる。
「はい? 誰ですか?」
ノックの主にそう問いかけると、私だよ、と返事が返ってくる。
自身の姉、響の声だと分かると、すぐに鍵を開け、扉を開く。
「どうしたのですか、響」
昨日演習から帰ってきたばかりで、自分も暁も今日一日は休みのはずだったが、こんな朝早くから部屋に来ると言うことは何かあったのだろうか?
そんな風に身構えていると、響が苦笑して答える、
「そう身構えなくてもいいさ。悪いことじゃない…………いや、むしろ良いことだよ」
響がそう言うと、ようやく息を吐く。
こんな朝早くから来るから何事かと思ってしまったが、まあ悪いことでないのなら良い。
けれど響が言う、良いこと、とは一体なんだろうか、それは少し気になる。
それを尋ねる自身の言葉に、響が笑いながら言葉を濁す。
「まあ後になれば分かるさ…………それよりマルキュウマルマル時に執務室に集合して欲しい」
「マルキュウマルマル時…………あと一時間くらいですか?」
現在時刻がマルハチマルマル時。今から朝食を摂って、一息ついていればすぐだ。
「了解なのです」
頷く自身に満足したのか、それじゃあ、と会釈して響が廊下を歩いていく。
足取りの軽いその後姿を見送りながら、平和だなあ、と内心呟いた。
電がこの鎮守府にやってきて一月以上が経つが、本当に出撃が少ない。
年単位で夢遊病を発症していたので、その間のことはあまり覚えていないのだが、それでも過去、電がまだバリバリ出撃していた頃は、三日に一度は出撃し、敵の掃討、艦娘の練度上昇を繰り返していたものだ。
それがこの鎮守府では、二週間に一度出撃があれば良い方、数年ほどこの鎮守府に勤めていた姉の響の言によれば、酷い時は数ヶ月単位で出撃が無いこともあるらしい。
ただそれはこの鎮守府が建てられた理由にもあるらしく、元々この鎮守府は、東と南に進出する二つの鎮守府の中間に建てられたものであり、その役割は東と南の鎮守府が押し広げた前線を鎮守府を建て、維持することにあるらしい。
そのためこの鎮守府では積極的な攻勢よりも、むしろ拠点防衛のほうが重要らしく、担当海域に敵が現れればそれを討ち、海域の外へ敵を倒しに行くことは無いらしい。
なるほど、と思う。そう考えれば、この鎮守府の戦力の少なさにも納得がいく。
元々侵出を考えていないのならば、防衛のための戦力だけでいい。
仮に維持しきれなくても、その時は東と南の鎮守府から援軍がやってくるわけだ。
「とは言っても…………さすがに駆逐艦一隻と言うのはありえないのですよ」
そしてそれをさせていたのが自身の元司令官だと知った時はさすがに呆れた。
恐らくあの司令官が何も考えずにそんなことするはずないので、何か考えがあったのだろうが、その考えが誰にも読み取れないのだから、傍かた見ればただの嫌がらせだ。
「………………………………本当は」
本当は、いたのだ。たった一人だけ、彼女の考えをそれとなく汲み、フォローに走ってくれる、あの司令官の最高のパートナーが。
「……………………雷」
結局、失ったものの大きさだけが、身に染みるのだ。
* * *
工廠と言う場所は、ヴェールヌイにとってあまり馴染みの無い場所だ。
何せ建造が禁止されてしまったからには工廠で出来ることの半分が失われているし、開発だって駆逐艦一隻のこの鎮守府で一体なにを開発するのだ、と言う話である。
一応、ヴェールヌイ自身も、駆逐艦響として工廠で生まれたのだが、けれどそんな記憶、遥か彼方に押し込められており、印象は薄い。
だから、工廠の扉を前にすると、不思議とその威圧感に飲まれる。
「……………………大きいね」
鎮守府から半独立した専用の施設として作られているせいか、その大きさは、鎮守府内にあって最も大きい。
かと言って、ここでしり込みしていても何も始まらない。
すでに時刻は午前九時を過ぎようとしている。建造はすでに終わっているはずなので、建造結果は分かっているはずだ。
「さて、行こうか」
決心し、工廠の扉へと手をかけて…………。
握った取っ手は、嫌に軽かった。
「ん?」
「え?」
扉が向こう側から開かれたのだと気づくと同時に、聞こえた声に顔を上げる。
そこにいたのは――――――――
「……………………いか……ずち……?」
かつて沈んだはずの自身の妹と同じ姿、同じ顔の少女がそこに佇んでおり。
「……………………………………響」
同じ声、同じ調子で、自身の名を呼んだ。
* * *
執務室に全員集合。
そう響から号令がかかり、執務室へと向かう。
「それにしても、何でわざわざ紙に書いたのかしら、直接言えばいいのに」
部屋の扉に挟まっていたメモ用紙を手の中で弄びながら呟く。
すでに電は先で向かっており、自身としても急がなければならない。
「だいたい電も、行くなら行くって言ってくれれば良いのに」
何度となく起こそうとして、けれど寝ぼけたまま朝食に向かってしまい、結局時間がないのでメモだけ挟んで電が部屋を出てきたことを暁は知らない。
それどころか、寝ぼけたままの暁の髪を梳いて、服を着替えさせ、身だしなみを整えたのが電だと言うことに未だに気づいていない。
本日の暁の記憶は口に含んだジャムをたっぷりと塗ったパンの甘さから始まっている。
「姉として、遅刻だけは許されないわ」
姉の尊厳に賭けて、とすでに存在しない物を守ろうと無駄な決心をしながら、少しだけ歩く足を急がす。
と、その時。
「……………………あれ? 電?」
もう目の前には執務室。いつもは閉められた扉が、けれど今は開きっぱなしになっていて。
そして扉を開いた状態のまま、硬直している電。
「どうしたの、電。そんなところで立ち止ま…………って…………」
電越しに部屋の中を見て、そして自身も立ち止まる。
部屋の中には先客が二人。
一人は響。いつもにも増した無表情で、じっと電ともう一人を見ている。
そしてもう一人は…………司令官、ではない。
いつもいるはずの司令官はおらず、代わりにいたのは一人の少女。
自身たちと同じ服装の少女。それだけで少女の正体を察することが出来る。
同じ服装、つまり自身たちと同じ、暁型駆逐艦の艦娘。
そして自身たち四姉妹の中で、長女たる
「……………………雷、なの?」
電よりも僅かに濃い髪の色をした、電に、響に、そして自身に良く似た少女。
「…………………………暁ね、初めまして、それとも久しぶり? 雷よ」
冷たい冷たい目をした、ぴくりとも動かない無表情の少女。
そして、そんな少女を見て。
「……………………誰ですか」
電が呟く。
「あなた…………誰なのですか」
そんな電の呟きに、
雷が、
“嗤った”
急転直下。
ようやく物語が回り始めた感。
新キャラ雷ちゃん(ダウナー系)
むしろツンドラ系?