響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
そしてあと10話でこの作品終了なのに、30話書いて初めてのヴェルヌイのデレシーン。
まあとにかく、これで三章終了です。
次の四章10話で多分、最終回。
もしかしたら番外編で五章やるかもしれないけど。
因みに三章最後だから言うけれど、三章のサブタイトルは全て、シェイクスピアの作品の台詞とかタイトルから取ってます。まあ気づいてる人もいっぱいいるだろうけど。
名言集とかでシェイクスピア見ると、言い回しが天才的過ぎると思う。いや、日本語訳してる人がいるからその人のセンスもあるんだろうけど、大本の台詞はシェイクスピアなわけで、すごいセンスを感じるので、作品自体に興味はなくて是非名言だけでも見てみることオススメです。
間に合わなかった。
響が沈んだ、島風のその言葉に、自分たちが間に合わなかったことを理解させられた。
だからと言って、やることが変わるわけでも無い。
自身の不甲斐なさに、歯を噛み締めながら、戦艦長門は砲撃を開始する。
敵旗艦は響たちの活躍によりすでに討ち取られている、さすがだな、と思うより他無いが、それでも残りは三十隻ほどいる。水雷戦隊ばかりとは言え夜戦な上にこの数だ、正直厳しいとしか言い様が無い。
「…………………………済まない、響」
口にした言葉は、けれど砲撃の音に掻き消されていく。
今はただ、無心に敵を撃つ。
それが唯一の、逃避だった。
* * *
「響が…………沈んだ…………?」
愕然とした様子で、中将が膝を突く。
電と暁によってもたらされた情報、敵旗艦の撃破、そして響の撃沈。
それを受け取った中将の様子がそれだった。
「そんな、バカな…………雷だけじゃない…………響まで…………」
呆然として、うわ言のようにそんなことを呟く中将の姿を、電が心配そうに見る。
代わりに暁は、何も言わず、黙したままの自身の司令官を見やる。
「………………………………」
能面のように無表情なその顔から、感情は読み取れない。
言葉も漏らさず、表情も変えないその姿に、けれど暁はじっと見つめる。
そうして。
「……………………そうか」
吐き出した言葉がそれだった。
そうして、不意にその表情が歪む。
笑みへと。
「電は中破か…………すぐにドッグで高速修復剤を使って来い。暁はその間に、補給。五分で準備を終えたらもう一度出撃しろ」
その笑みの意味が分からず、そしてこの状況で何故笑みが出てくるのか分からず、呆然とする暁と、それを見た電に、早くしろ、と告げる。
数秒考え込む様子を見せた暁が、先に言ってて、と電を促し、呆然としたままのフラフラと電がドッグへと向かうのを見届けた後、暁が自身の司令官に向かって問う。
「分かってるの? 司令官、響が沈んだのよ?」
なのにどうして笑えるのか、そんな暁の問いに、司令官が答える。
「大丈夫だ、何も心配はいらない…………ヴェルはお前らが思ってるより強いし、ヴェル自身が思っているよりも強い、つまりそう言うことだ」
答えになっていない答えに、暁がまたじっと司令官を見つめる。だがすぐさまその身を翻し。
「信じるわ、だから裏切ったら許さないから」
そう呟き、鎮守府へと戻っていく。
「怖い怖い…………ま、問題無いだろ」
後に残ったのは、二人の提督。そして男が女に向かって呟く。
「中将殿、今の内に一つ、謝っておきます」
「……………………何をかな?」
女の問いに、男がニィ、と笑って、口を開き――――――――
* * *
やばっ、真横からやってくる敵を見つけ、島風は思わず身震いした。
戦力差六対二十八。五倍近い数の敵がいる上に、敵味方入り混じっての乱戦状態。
だが真正面からやっても数が違いすぎて、不利になるばかり、数の差を潰すには今の乱戦状態が一番都合が良かった。
夜が明けるまでもうそれほど時間は無い。だが旗艦を潰され、統率を失った敵が一斉に鎮守府にでも襲い掛かられると、数に劣るこちらでは持ちこたえることが出来ない。
つまり、ここで足止めするしかないのだ。
「っ舐めないで!」
無理矢理方向転換をし、身を捻って横からの敵の砲撃を回避する。返す刀にこちらも火砲を撃ち、敵のまた一隻撃沈させる。
乱戦と言うのは、数を生かせない状況である。だがかと言って、数の差が覆ると言うわけでも無い。
数に劣ると言うのは結局、どんな状態でも不利であるし、四倍以上の数の差がある現状、デメリットも勿論ある。
つまるところ、気づけば三隻の敵に包囲されていた。
「ちっ、まずっ」
いかにレベルが高かろうと、当たる時は当たる。
良く言うではないか、勝負は時の運、と。
特に艦隊決戦と言うのはそう言う面が強いのも確かだ。
だから、いかにレベルが高かろうと、死ぬ時は死ぬ。
かと言って、島風とてむざむざここで死ぬつもりも無い。
二発までは、避ける自信はある。
だが三度目は正直、自信が無い。冷静に自己分析をして、けれどどうやってもそれ以上は無理だと返ってくる。
恐らく当たっても即座に轟沈、とは行かないだろう。
だが大破するかもしれない。最低でも中破はするだろう、何せこの距離だ。
そうなれば、一気に戦力が落ちる。島風が抜けてしまえば、四倍以上の戦力差が五倍以上の戦力差に変わる。
その差はただでさえ厳しいこの状況を絶望的へと変えてしまう。
それだけは、嫌だ。
避けろ、避けろ、と頭から命令が飛ぶ。
一発目、サイドステップで避けた。
二発目、体を倒し、姿勢を低くしてギリギリのところで避ける。
そして三発目、二度の行動ですでに体はどこにも動かない。
一度上体を起こし、足幅を縮め、そうして動く。その三工程が必要となるが、敵の砲撃は最初の一工程目で放たれる。
どうやっても避けるのは無理だ。
くっ、と歯を食いしばる。最悪中破ならまだ戦闘はできる。
覚悟を決め、来る衝撃に耐えようとして…………。
目の前で、三発目を放とうとした敵が、爆発した。
「!?」
突然の事態。誰かが助けてくれたのだと気づいたのはその直後。
即座に状況を判断、残った二体を砲撃で片付ける。
沈んでいく敵を無視し、こちらを狙ってくる敵の姿が無いことを確認し、さて誰が助けてくれたのかと振り向いて。
硬直した。
「
だって、そこにいたのは。
「………………ひび……き?」
沈んだはずの戦友だったのだから。
* * *
「一つ聞いてもいいかな?」
「はい?」
戦場を見つめる中将殿が、ふとそんなことを呟く。
さて、一体なんだろうか、先ほどの一件のことでまた何か聞かれるのだろうか、そんな風に頭を捻っていると。
「どうして響だったんだい? レベル的に言えば電のほうが低いし、暁だって決して安全だとは言えない。逆に響の練度は一番高い。なのにどうして響に持たせたのか、それが分からないんだよねえ」
ああ、そんなことか。と内心で呟きつつ、“理由”とやらを簡単にまとめる。
「簡単な話ですよ。ヴェルは、自分を見捨てれても、他人は見捨てれないから、それだけの話です」
ましてそれが守ると決めた姉妹なら、なおさらだ。
俺が予定していたヴェルの役目は最初から沈むことだ。
どうせ他の役目を振っても、最終的にそうなると予想できていたから、だったら最初からそうすれば良いと思っていた。まあそれでも、沈まないにこしたことは無いが。
「でもそれを響に伝えなかったのは何故だい?」
「最初から備えてあるなんて言ったら、どうせあいつのことだから、電や暁に持たせろって言いますから。差があることを意識させちゃいけなかったんですよ」
はっきりと伝えてくる分には良い。だが勝手に装備を入れ替えられでもしたら全ての予定がパーだ。
「しかし随分と思い切った作戦を考えるね…………そもそも私のほうの作戦すら伝えてなかったはずなのに」
「まあ中将殿がここを守れ、と言った時点でだいたいの察しは付いてましたし。どういう方法か明確には分かりませんが、だいたいこういう流れになるだろうことは理解していました」
「なるほど…………やっぱりキミは、あの人の息子だね」
そう言えばこの中将殿はうちの親父を知っている人物だったか、と内心で呟きつつ顔には出さない。
「まあ少なくとも、戦術や戦略だけは尊敬しています」
そんな自身の言葉に中将殿が苦笑する。
「まああの人は確かに、私生活ではあまり尊敬できるタイプじゃなかったかもね…………特にあの人を見ていると、親としてやっていけるのか不安に思うこともあったし」
「やっていけてないから、今こうなってるんですよ…………正直、瑞鶴がいなかったら提督になんてなってませんよ」
そんなくだらない話を交わしている内に、戦場で聞こえてくる砲撃音が減ってきていることに気づく。
「そろそろオーラスだね」
「ですね…………うちの三人もすでに戦場で暴れてるころでしょうし」
「まあ色々あったけど…………やっぱりキミを頼って正解だったよ」
他の人じゃあ無理だっただろうしね。と言う中将殿の言葉に、目を細める。
それは確かな信頼。自身だったら大丈夫だ、と言う信頼。それがどうにもくすぐったい。
だから照れ隠しに、頭をかいて、呟く。
「そりゃ、どうも」
* * *
意識が戻ると、視界いっぱいに、星が映っていた。
「……………………綺麗」
思わず呟いた自身の耳に、轟音が響く。
聞きなれた砲撃音。すぐさま戦闘中だと言うことを認識する。
と、同時に、あれ? と思う。
「私は…………沈んだんじゃ」
思い出す、電を庇って砲撃の直撃を受けたこと。そして海へと沈んでいったこと。
「体が、なんとも……無い……?」
そうしてようやく気づく、傷が全て治っている。減ったはずの燃料や弾薬も補給されている。
不可思議にもほどがあるが、戦闘続行可能と言う事実に、すぐに戦わなければならないと思う。
電か暁か…………それとも最後に見た島風か。
向こうで誰かが戦っている。
だから、戦わなければならない。
そう決心し、戦場へ向かったのが先ほどのこと。
戦場にたどり着き、最初に見たのは島風を囲う三隻の深海棲艦。
咄嗟にその内の一体を砲撃で沈める。残り二体もすぐ様、島風が沈め。
「
そう尋ねた自身に、こちらを見た島風が目を見開き。
「………………ひび……き?」
そう呟いた。
* * *
「一から十まで、説明して欲しいかな」
最後の夜戦から十日ほど経った夜。ようやく訪れた平穏に、安堵し、鎮守府に所属する全員で祝勝会と称して一通り騒いだその晩。
決戦の結末は、実にあっけないものだった。
夜が更け、暁が到来する。薄暗い視界、けれど夜は過ぎ去った今、戦艦や空母が最大の力を発揮できる。
夜戦で敵中心部隊は最初のうちに徹底的に叩かれたので、残った敵は水雷戦隊ばかり。
夜を過ぎ去った時点で、敵に勝機など無かった。
そこから始まる殲滅戦。そうして鎮守府周辺の敵を一掃した中将殿の艦隊は、そのまま防衛線で食い止められた敵本隊へ向けて発進。背後から急襲された敵本隊は混乱に陥り、タイミングを逃さなかった瑞樹葉少将ら率いる防衛艦隊からの逆襲もあり、敵本隊壊滅。それが鎮守府の防衛から三日後のこと。
そこから一週間かけて敵残党の殲滅。はぐれ敵部隊まで含めた今回の侵攻で現れた敵を一体残らず倒していき、旧前線ラインまでの防衛ラインの押し上げを完了した時点で、
まあその殲滅戦には、うちの鎮守府には一切関わってないのであまり関係ないと言えば関係ない話なのだが。
一方その頃うちの鎮守府と言えば、全員爆睡していた。
ほとんど不眠不休で戦い続けていたのだから、当たり前と言えば当たり前であるが、丸二日、誰も起き上がることが出来ないほどの有様で、三日目になってようやく空腹に耐え切れず動き出す人間がぽつりぽつりと現れる。
仕事時間の関係上、あまりバッティングしない鎮守府の人間たちが珍しく一同揃って食堂に現れる様は、ここ数年で着任初日以来のことだった気がする。
そして空きっ腹を満たした人間からまたぽつりぽつりと自室に戻り爆睡。
鎮守府全体が再稼動できる状態になるまでおよそ五日かかった。
と言っても、さらに五日後にシグナルレッドの解除が通達されるまで、いつまた次の戦闘が起こるかわかったものではないので、鎮守府周辺をヴェル、暁、電の三人交代で斥候に回らせ、五日後の今日ようやく警戒態勢が解除され、鎮守府全体の空気も安堵に満ちた、と言うわけだった。
戦場の空気、と言うのは意外と後を引きやすい。
戦場で戦った兵士たちが、平和な日常に戻ってきてからも、戦場にいた時の癖が出たり、居もしない敵の幻影を警戒したり、些細な雑音に過敏に反応したりと、生死のかかった状況に長く身を置いた人間は、その状況の記憶がいつまでも焼きついて離れないことが度々ある。
だからこそ、祝勝会と言う名の食事会を開いた。用は気分転換だ。そして同時に区切りでもある。
もう大丈夫なのだ、と言う。もう安心して良いのだ、と言う。そう言った区切りであり、日常と非日常を区切るためにも盛大に行った。
超零細鎮守府であるところのうちの食堂があそこまで賑わったことなど初めてと言っても良い。
ヴェル、暁、電たちに飾りつけなどもさせたり、見た目にも華やかになるように少しばかり奮発した。
まあさすがに女子供もいる場なので、酒は自粛させたが…………まあ、こうして後になって独りで飲む分には構わないだろう。
そうして賑わった祝勝会も終わり、何故か後夜祭的なノリで全員で遊び始めた艦娘や職員たちに、こいつら意外とノリが良かったんだな、などと長年過ごしてきて初めて知った事実に驚きながら、その場を抜け出す。
ようやく静かになった海を肴に独り杯を傾けている、そんな時にやってきたヴェルの第一声が最初のソレだった。
「一から十まで…………と言われてもな、具体的には何を説明して欲しいんだ?」
「それじゃあ一番疑問だった…………どうして私は生きているのか、と言う説明が欲しいかな」
問われた言葉に、数秒思考が止まる。酒が入っているせいか、と言われるとまた違う。
「は…………? え? 気づいてなかったのか?」
自分のことなのに、まさか気づいていないとは思わなかったのだ。
そんな自身の態度に、ヴェルが首を傾げる。どうやら本当にわかっていなかったらしい。
「お前が生きてる理由なんて簡単だ、ダメコン装備がお前を守ったんだよ」
「でも私の持っていたダメコンは一つ。けれどそれはすでに発動した状態で、その後に沈んだはずだ」
「ふむ…………まあ簡単に言えば、お前はお前が思っているよりも強いってことだよ」
恐らくそれは、ダメコンが発動していないはずだ。発動していたらさすがにすぐに気づける、何せ。
「お前に載せたのは、中将殿からパクった応急修理女神だからな」
「……………………女神? 要員じゃなくて?」
46cm三連装砲、試製41cm連装砲、天山一二型(友永隊)、彗星(江草隊)、震電改、試製晴嵐、53cm艦首(酸素)魚雷等々、飛びぬけた性能を持つ装備と言うのは多くあるが、その中でも最高クラスに飛びぬけた装備を一つ上げるなら、今言った応急修理女神だろう。
簡単に言えば、ダメコンだ。装備した艦娘が轟沈しそうな時に発動し、轟沈を防いでくれる。
それだけなら応急修理要員と同じ、そこにさらに追加効果があるのが応急修理女神で。
なんと艦娘の耐久や装備を全て修理し、全回復してくれる。しかもどこから持ってきたのか、燃料や弾薬すらも補給してくれると言う不可思議すぎる仕様の装備だ。
一度しか使えない使い捨て装備ではあるが、大規模作戦で功績を挙げた一部の提督にか与えられない超稀少装備である。
『中将殿、今の内に一つ、謝っておきます』
『……………………何をかな?』
だから謝ったのだ。
『中将殿の持ってた応急修理女神、勝手に使っちゃいました』
『……………………………………………………え?』
さすがの中将殿も、唖然とした表情をしていたが。
まあ、あの規模の敵から五日も鎮守府を守れなんて無茶振りされたのだ、そのくらいの協力があっても良いだろう。最悪処罰されるにしても、ヴェルの轟沈は免れる。
そんな打算的な考えだったが、さしもの中将殿も今回の命令は厳しいと思っていたのか、特にお咎めなしだった。
と言うか、何故あの中将殿は応急修理女神なんて持っていたのだろうか。
と言う疑問だったが、どうやら連合艦隊の敗北時、使えそうなものをとりあえず持ってきたのだが、その中で一番手軽に持ち運べそうなのがあれだったらしい。
「ま、つまり最初の一撃はダメコン発動してなかった、お前の勘違いってことだ」
こいつ自身、あまり自覚がないのかもしれないが、ヴェルには俺が知っている限りの体術を教え込んでいる。
咄嗟の状況で、被害を軽減させたとしても別に不思議ではない。と言っても、前後不覚になってしまうほど大ダメージだったようだが…………まあ役に立ったようで何よりだ。
「自覚しろ、いっつも独りで戦ってたから分かり辛いかもしれないけれど、お前はお前が思っている以上に強いんだ」
体の動かし方を覚えさせた、練度が上がって力の使い方も分かった。今のヴェルはレベル以上の強さがある。
レベルが高い艦と言うのは、被害を受けにくい。避けやすいのもそうだが、受け流し方が上手いのだ。
これまでずっと独りで戦わざるを得なかったからこそ、俺はヴェルに攻撃の避け方と受け流し方を教え込んだ。人間同士の戦いだが、かといってまるで実戦に流用できないわけではない。
「ま、そういうことだ。二撃目で本当に轟沈しかけて、ダメコンが発動。つっても相当に前後不覚みたいだったからな、体は治っても意識が戻るのが遅れたんだろ」
つまりそれがことの真相。
そして同時に、ヴェルが疑問を抱いたようで口を開く。
「だったら、どうして、電か暁にそれを装備させなかったんだい? 実際、電は中破してたんだよ?」
なんというか、本当に予想通りな質問をしてくる。最初から分かっていたことだけに、答えは用意してある。
「あの三人の中で、一番生存率が高いのが練度の高いヴェル、お前だろうな…………でも一番死亡率が高いのも、お前だよ」
今度こそ守ってみせる、そう決めているからこそ、俺はヴェルに応急修理女神を装備させた。
「あれだけの敵に対して、こちらの戦力を考えれば、絶対に誰か大破…………最悪轟沈することは予想できてた」
元々が無茶だったのだ。初日の夜戦で無事でいられたのは、初日で疲労が無かったこと、そして暁とヴェルの二人だけの隠密行動だったこと、そして発煙筒などを使ってかく乱していたことが大きい。
元々こちらの戦力は駆逐艦しかいないのだ、戦艦が三隻もいる相手に夜戦をしかけて無事で帰ってくるだなんて、あまりにも楽観的過ぎる、否、そんなものもう現実を見てすらいない。
「じゃあ誰が大破するか…………誰が轟沈するか」
女神は一つしかない。轟沈を回避した後、無事に帰ってこさせるためには出来れば女神で万全の状態にまで戻っているのが望ましい。大破状態にまでしか戻せない応急修理要員ではもう一撃受けただけで本当に轟沈しかねない。
「だから発想を逆にした、誰が轟沈するか分からないなら、轟沈する役目を一人作ってやれば良い」
つまりこの場合、旗艦。戦闘にたって真っ先に突っ込む役割、そして敵の盾になる役割。
「それをお前に割り振ったんだよ。色々考えたんだがな、どう考えても目の前で暁や電が沈みそうになれば、お前絶対に庇うだろ、旗艦だろうと何だろうと」
そして予想通り、二度も電を庇ってダメコンを発動させている。
「電は咄嗟に仲間を庇えるほど練度が高くない。暁の場合、先陣切って生き残れるか不安な部分がある」
だからヴェルしかいないのだ、性格的にも、練度的にも。
「理解したか? それとな、お前…………納得しただろ」
してなければ、ここまでの憤っている。今こうして、何のことか分からず首を傾げている時点でもう納得してしまっているのだ。
自分が沈むことに。
「お前は仲間守って沈めて良い気分かもしれないけどな、お前はそれで終わりでも、暁も電もお前が目の前で沈んでいくところを見て、またトラウマ作ることになるかもしれないんだ」
目の前で雷を失った電。
自分のせいで仲間巻き込んでしまった暁。
この上さらにトラウマを塗り重ねるなら、もう二人とも戦闘に出せなくなる。
「仲間を守れ、鎮守府を守れ……………………その上で、お前自身も守れ」
それが本当の、守るってことの意味だ。
そう告げた自身の言葉に、ヴェルは目を閉じ、黙する。
数秒、そうして考え込み。
「
しっかりと、確かに頷いた。
* * *
「ところで、あと一つだけ疑問があるのだけれど」
「なんだ? ついでに言ってみろ」
「どうしてあのタイミングで島風たちが?」
そう問うた自身に、司令官が、ああそのことか、と一つ頷く。
「つまり、あれが中将殿が今回の侵攻に対して立てた作戦ってことだよ」
作戦? と首を傾げると、噛み砕いて説いてやる、と司令官が説明を始める。
曰く。
まず今回の作戦は、以前中将殿が言った通り、タカ派の連合艦隊敗北を切欠として行われた中立派による“あ号作戦”だ。
最初の一週間は連戦連勝を続けてきた中将殿たち連合艦隊だったが、その頃から、一向に動かない敵中枢艦隊に不安を抱いていた。
何せ中枢艦隊は、前連合艦隊敗北の切欠となった敵だ。その動向に気を配るのは当然だろう。
二週間経ち、ようやく違和感を覚え始める。
敵の数が増えている。
三週間経ちそれが気のせいでないことに気づいた。
敵の構成部隊に、空母や重巡洋艦なども入り混じり始めた。
この時点で中将殿は敵が集結している理由をいくつか考えていた。
理由は分からないが、敵の中枢艦隊は味方の集結を待っている、と言う予測はすぐに立ったので、作戦を考えた。
それが今回の作戦だ。
それまで連合艦隊を組みながら、二艦隊が同時に出撃したことは無かった。
だが艦隊決戦を挑むに際し、両艦隊を使い、そして被害がひどくならない内に早々に撤退した。
つまり、わざと敗走を装ったのだ。
そこにいたるまでの考えはいくつかあるのだが。
敵の集結がいつ終わるのか分からないが、これ以上増え続けるのは不味いことになる。
中将殿は何よりもまずそう考えたのだ。
そこで、目の前で敗走して見せることにより、深海棲艦の行動の切欠を作ったのだ。
ここでもさらに敵の行動によってこちらの対応パターンを作っていた。
一つはもし敵が動かなかった場合。その場合、再度集結し、素直に大本営に援軍要請して、一大決戦が始まっていただろう。
一つは敵が敗走したこちらを追ってきた場合。その場合、両艦隊合わせて十二隻が一隻ごとに周辺の鎮守府に逃げ込み、防衛に当たっていた。
そして一つは、敗走したこちらを無視して侵攻を開始した場合。今回はこれに該当した。
もしこれが起こった場合の対応は、わざと侵攻させること。
大本営にすぐ様状況を知らせ、早々に防衛ラインを引かせる。そして敵を足止めしつつ、バラバラになった艦隊を別の場所で集結させて、背後から急襲する。
そして中将殿だが、島風と共に小型ボートで移動。敵がどこに向かうのか追いつつ、敵中枢艦隊がどこへ向かうのかを確認した後、島風を連合艦隊の元へ向かわせ、案内役とする。
中将殿は近くに避難…………する予定だったのだが、中枢艦隊がいたのが、自身の鎮守府だったので、こちらに来たらしい。
なんであんな大怪我していたのかと思ったら、敵の脇を通ってきたらしく、その際攻撃されたらしい。
正直、バカじゃないのか、と思ったが曲がりなりにも上官なので黙っておいた。
「で、五日間守れってのは、連合艦隊の離散から五日で集結、さらに島風からの連絡と移動で二日、それから攻撃開始って感じで予定組んでたらしい」
だから初日時点でちょうど二日目、そこからさらに五日耐えろ、と言う話だったらしい。
一応あれでも、連合離散から三日目で島風が連絡に動いたので、少しは早かったらしいが、本当にギリギリだ。
もしあの時、島風たち第一艦隊が来なかったら、最悪、敵のど真ん中で自分だけ復活してたかもしれないのだから。
「第二艦隊は? 確か居なかったはずだけど」
「三方向に分かれて侵攻されてたからな、第二艦隊は別方向の敵を叩きに行った。それから敵本隊を叩く時に合流って感じだったらしい」
ようやく納得いったので何度無く頷く。
と、その時、強い風が吹き付ける。その冷たさに、一瞬背筋を震わせる。
「寒くなってきたな…………そろそろ戻るか」
司令官が呟きつつ、酒瓶片手に立ち上がる。
「ほら、戻るぞ、ヴェル」
振り返り、そう呟くその姿に、ふと思い出すのは海へと沈んでいく時にふと過ぎった思い。
死ぬのが怖かった。
否、死ぬこと自体が嫌なのではない、そんなものは当の昔に覚悟できているはずだ。
だから、死ぬこと自体ではなく、死んでしまうことによって起こる何かを無意識に嫌がっていた。
ソレがすごく嫌で、だからこそ怖かった。
あの時には分からなかったけれど、今ようやく理解できた。
「司令官」
呟く言葉に、彼が振り向く。そんな彼に走り寄り…………空いている片手を握る。
自分は…………司令官と離れるのが嫌なんだ。
ずっと内包していたのだろう、そんな思いを、今初めて自覚した。
それを自覚すると、不思議と心が温かで、けれどどこか自分が自分じゃなくなってしまいそうな、そんな怖さがあった。
それがなんて感情か、今はまだ分からないけれど。
「どうした?」
自身の行動に不思議そうな表情をしている彼に、なんでもないと呟きつつ。
今はまだ、これで良い。
そう思った。
終わりよければ全てよし
All's Well That Ends Well