響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
どれほど頭を悩ませようと、最良と最善は交わらない。
もし交わったように見えたなら、それは最善に見えるだけの最良か、最良に見せかけた最善だ。
「また間違えていたのか…………私は」
深く、深く、何十年心の内に溜め込み続けてきた懊悩を吐き出すかのような、溜め息。
何もかも、全て終わったことばかり。もう取り返しもつかない、悔やんでも悔やみ切れない後の祭り。
始まりは決意。
切欠は復讐。
結局、自分で空回っていただけなのだ。
本人たちの気持ちも考えず、自分の考えを信じ、そうして勝手な決断をする。
「司令官は…………司令官は、私たちが戦ってきたのは無意味だって言うの?」
否、否だ。あれこれ考えすぎて、けれど一周して思考が澄んだらしい。今ならはっきりと言えた。
彼女たちは戦ってきた。それは誰の命令で? そう聞かれれば、提督である自身の命令で、そう言える。
だが、誰がの意思で?
そう尋ねられれば、きっと彼女たちはこう言うのだろう。
自らの意思で、と。
だとすれば、その思いを自身が一方的に否定するのは彼女たちへの侮辱に他ならない。
どうやら自分は考えすぎて、また目が曇っていたらしい。
そうして、思考がまた走り始めると、分かってしまうことがある。
例えば、目の前の少女の心中…………だとか。
それは当然のことだ。あまりにも当然過ぎて、どうして今まで気づかなかったと思ってしまうほどで、愚鈍な自身を縊り殺したくなる。
当たり前ではないか。暁は自分のせいで二人が死んだと思っている、少なくともあの時もっと何か方法があったのではないか、と言う思いを抱え、けれどこうなるに至ってしまったその後悔を抱えている。
それをどうにかするのは、提督たる自分の役目のはずだったのだ。だと言うのに、自身がその役目を投げ出し、あまつさえ目の前の少女に逆に諭される始末。
何をしているのだ、己は。そう自嘲する。本当に、呆れるほどの愚鈍だ。なんと言う自己中心的な存在なのだ。
目の前で泣いた女一人放って置いて、何を感傷に浸っているのだ。
提督だとか、軍人だとか、そんなことすら関係無く。
男として、それはどうなのだ。
っふ、と口元を歪める。
涙を堪える少女のその頭上に手をやり…………。
「あっ」
そっと帽子ごしにその頭を撫でてやる。
「ああ、済まなかったな。心配かけた…………もう大丈夫だ」
多分、自分は苦笑いしているのだろう、己の阿呆さにどんな表情を作ればいいのか分からず、けれどそんな間抜け面を目の前の少女にだけは見せたくなくて、だから苦笑い。
「大丈夫だ…………大丈夫だから」
だから、そう、だから。
「もういいんだ…………お前が一人で傷つくことじゃない。あの二人のことも、この結果も、全部、お前のせいじゃない」
だから、だから、だから。
「もうありもしない答えは探すな…………全部、私が悪かったんだ」
例え百万回繰り返したところで、きっと暁の探した答えは見つかりはしない。
そもそもその状況に陥った時点で、きっとそれは
そしてその状況に陥らないようにするのが、提督たる自身たちの役目だったはずだ。
だからあの日、言えなかった言葉を今ここで言おう。
「よく帰ってきてくれた、暁…………お前が生きていてくれて、本当に嬉しかったよ」
生きて帰った、そのことに一切、負い目を感じる必要は無いのだと。
二人はもう居ないけれど、それでも、暁が居てくれることが喜ばしいのだと。
だから、もう自分を傷つけるのは止めるのだ、と。もう良いのだと。
いくつもの言葉を飲み込み、けれどいくつもの意味を乗せて。
そう、暁に告げて。
「う…………あ…………あ……ああ……あああああ、ああああああああああああ」
少女の声が、響いた。
* * *
どうして?
そう尋ねた自身の言葉に、けれど彼は困ったように笑った。
失ってしまったからだよ。
そんな彼の答えに、まだ全てを失ったわけではない、と告げるが、それでも彼は首を振った。
そうじゃない、そうじゃないんだ。
そう言って、微笑していた彼のその笑みの意味を。
けれど、理解することは今になるまで終ぞ無かった。
「感謝する…………狭火神提督」
憑き物が落ちたようなすっきりとした表情の新垣提督と入れ違いに出て行った暁の雰囲気から、互いに話し合いは出来たのだろうと予想する。
「いえ、こちらとしても暁のことがありましたので、構いません」
元は目の前の提督の艦娘とは言え、現状は自身の配下なのだ。二人を合わせたのは自身の打線も多分に混じっていることは間違い無い。
「ああ、ところで…………結局のところ、自身に何の用があったのでしょう?」
暁との再開で有耶無耶にしたが、元々は新垣提督が俺に面会を希望する、と言うからここに来たのだ。
当然、何かこちらに用事があると考えていたのだが…………。
「ああ…………そのことか」
思い出したかのように、顔を上げ一つ頷く提督…………そして。
「キミの人となりを知りたかったのだよ、安心して暁を預けることが出来るのか、それをな」
和らいでいた眼光がジロリ、と自身を見つめる。まるで先ほどの初対面の時のような、鋭く、射抜くような視線に自身は無意識に喉を鳴らした。
「同時に、キミに言っておきたいこともある」
そうして、一度目を瞑って…………。
「敗走する連合を…………否、暁を助けてくれたこと、感謝する」
提督が、頭を下げた。
驚くのは自身である。同じ佐官とは言え、自身は少佐、相手は大佐。地位的に言えば、天と地ほども違う。
特に今の時勢、海軍で中佐以上の地位に付けるのは、ある程度以上の功績を残した傑物だけだ。故に、同じ提督と言う立場にあっても、少佐以下と中佐以上では大きな隔たりがある。
当たり前だが海軍も軍隊である以上、縦割り社会であり、上下関係は絶対だ。
だからこそ、驚愕なのである、上官が自身に頭を下げた。その事実が、どれほど彼にとって今回の件が…………暁が大事だったのかを示していた。
「……………………頭を上げてください、大佐殿。確かに礼は受け取りました」
あの作戦は、自身の鎮守府を守るためにも絶対に成功させる必要のあるものだった。だからそう言う意味では、別に暁を助けようとしたと言うわけではなく、作戦を成功させた結果、暁が助かった、と言ったところなのだが、けれど目の前の大佐殿にはそんなことは多分関係無いのだろう。それが分かるからこそ、自身も素直に礼を受け取った。
「後から作戦展開を見せてもらったが…………博打が過ぎる、とは言えあの状況では致し方ないとしか言えん上に、成功させてしまっている以上、誰もが認めざるを得んだろうな」
自身の言葉に姿勢を戻した提督が、続けて言葉を紡ぐ。
「見ていてすぐに理解したよ、事前にしっかりと情報を集めた上での確信的な行動であると」
キミの父親にそっくりだな、そんな提督の言葉に目を細める。
人としては嫌いだが、提督としては尊敬している、そんな父親に似ていると言う言葉に喜びと怒りがない交ぜになり、複雑な心境だったが、手腕の話だと割り切って喜んでおくことにする。
「こうして直接話していても、なるほど…………昔の狭火神大将を見ているような錯覚を覚えることがある」
「父に…………ですか」
実を言えば、自分は父親の仕事場での姿と言うのを良く知らない。
当たり前だが、父親が生きていた頃はまだ自身は幼い頃だ。そしてそんな子供の自身を仕事場に連れ込むことなどあり得ない。基本的に自身は与えられた個室で日がな一日、本を読んだり、寝ていたり、たまにやってくる瑞鶴と遊んだりと言った日々を過ごし、父親に会うのは休日の時くらい。つまりプライベートな時だけである。
仕官学院時代は、人伝に聞いた父親の姿と、自身の知る父親の姿が合致せず、首を捻ったものだ。
だからこそ、こんな時、父に似ていると言われてもいまいちピンと来ない、釈然としないものがあった。
「まあ先ほどあんなことを言ったが、キミの人となりについてはそれほど心配していない。狭火神大将の息子だと言うこともそうだが、何より」
一旦言葉を止め、ふっと笑う。
「暁から色々聞いていたからな…………どうやら暁がキミのところに配属されたことは幸運だったらしい」
「…………そう言ってもらえるのは喜ばしい限りです」
「ああ…………これからも暁を頼むよ」
そう告げる提督の言葉に、ふっと引っかかりを覚える。
これからも…………半年もしないうちに再び、大佐殿のところへと暁は戻るはずなのに、その言葉は少しおかしくないだろうか?
思考し、そして導き出した答えに、まさか、と顔を上げて…………。
「気づいたか…………ああ、実は私は軍を辞めるのだよ」
清々しい表情で提督がそう告げた。
* * *
まるでいつかの日の焼きまわしのようだ。
暗く深い夜の海、そしてそれを煌々と照らす月。
ざあざあとさざめく波の音に耳を傾けながら、酒瓶を傾ける。
あまり行儀が良くない、とヴェルに言われたこともあったが、これが自分なりに性にあった飲み方と言うものなのだから仕方がない。
以前にもこんな日があった。そう確か、ヴェルがいなくなって一週間ほどした日のことだったか。
あの日もこうして波の音を聞きながら酒を飲んでいた。
酒と煙草とギャンブルは、とかく規律と規範に縛られた軍人にとって、唯一にして至上の娯楽だ。
その内、喫煙の習慣も無く、必要以上に博打は打たない自身にとって、残された娯楽など酒くらいのものだった。
だがそんな男臭い娯楽は、けれど女子にとってはあまり受け入れられないものらしく、その話をしたヴェルは表情こそ崩しはしなかったが、目が呆れの視線を送ってきていた。
まあ何が言いたいかと言えば、こう言う俺の些細な楽しみは、あまり異性には受けないと言うこと。
「そんな顔するなよ、暁」
つまり、隣に座る彼女にもあまり受け入れられる話では無いと言うことだろう。
「レディーにする話じゃないわよ、全く」
ジト目でこちらを見てくる暁は、ヴェルよりも表情豊かではあるが、けれどヴェルより感情を隠すのが上手い。
まあ普段あまり隠しはしないから、判別つけ辛い時もあるのだが、腹の中で何を考えているのか読めない時、と言うのが時折ある、ただそれは、彼女なりに必要と判断した時だけのものであり、先ほども言ったが、基本的には隠さない。
だから、ストレートに呆れの表情を出しているが、これは本心なのだろう。
「で? どうだった?」
唐突に出た問い、けれど暁は分かっていると言った様子で、少しだけ考え。
「司令官といっぱいお話できたわ、ありがとう、会わせてくれて」
素直に礼を言ってくる暁を、びっくりした目で見ると、それを即座に悟った暁が何よ、とジト目で見てくる。
「別に、お礼はちゃんと言えるし」
拗ねた様子の暁に、悪い悪い、と謝罪しつつまた酒瓶を傾ける。
とくん、とくん、と喉から胃へと流れる熱い液体に、喉が焼け付くような感覚を覚える。
「美味しいの?」
酒臭いのか、片手でこちらを仰ぎつつ、空いた手で鼻を摘む暁。少しだけ傷つく反応である。
「ああ…………美味いよ。止められないわなあ、これだけは」
飲んでみるか? そう尋ねると、好奇心を刺激されたのか、暁が頷く。先ほどまで暁が飲んでいたジュースの入っていた空きビンに一口分ほどの酒を流してやると、ビンの口から匂いを嗅ぎ、顔をしかめて、それでもビンに口付け、傾ける。
僅かばかりビンに入った液体が、暁の口へと流れ込み…………。
「ぶっ…………けほ、けほ…………なにこれぇ、にがぁい」
思い切り表情を歪め、咳き込む暁。その顔が真っ赤になっているところを見ると、どうやら酒に弱いらしい。
「大丈夫か?」
背中を軽くさすってやると、すぐにふらふらと揺れだす。
「だ、だいびょーぶに、ひまってるじゃなひ…………」
「は? もう酔ったのか?!」
訂正、とんでもなく酒に弱いらしい。
仕方ないので、立ち上がり、暁を背に負うと、酒瓶を片手に鎮守府へと戻ることにする。
とん、とん、と人の気配の無い波止場に足音が響く。
そうして、鎮守府へ戻ろうと、少し歩いた時。
「…………ねえ」
ふと、背中の暁が声を漏らす。
「どうした?」
「例えば…………例えばの話だけど」
躊躇いながら、それでも少しずつ、少しずつ、暁が言葉を紡ぐ。
「もし自分のせいで、誰かが死んだら、どう思う?」
随分と抽象的な言葉、そう思ったけれど、きっと期待しているのはそんな言葉じゃないのだろうと直感的に察する。
「そうだな…………自分のせいだって言うなら、償おうと必死になると思うぞ」
死、と言う言葉の重みを考えれば、人が一生をかけて償うべきほどのものがあることは確かだ。
けれどそんな自身の言葉に、暁がさらに言葉を重ねる。
「じゃあ、もし…………正しいことをしたのに、誰かが死んだら、それは、自分が悪いのかしら」
その問いに、数秒沈黙が続く。即座に答えは返せなかった。それはきっと、暁にとってとても重要なことなのだろうから。
「…………そう、だな。もしそれで自分が後悔したのなら」
それはきっと。
「間違っちゃいなくても、それでも、正しくなかったんだろう、少なくとも…………自分にとっては」
「……………………………………」
自身の背で暁が沈黙する。必然的に自身も沈黙するので、静寂と、漣の音だけが辺りに響く。
「……………………そっか、そっかぁ」
静寂を破り、困ったような、けれどどこか嬉しそうな声でそう呟いた暁。
「ねえ、下ろして」
とんとん、と肩を叩きそう告げる暁を下ろす。まだ酒が抜けてないからか、少しフラフラした様子の暁だったが、自身の目の前にまで歩き。
「今さらだけど…………言い忘れてたわね」
そんなこと呟くと、服の埃を払い、帽子を被りなおし、そうやって服装を正す。
そして。
「特Ⅲ型駆逐艦一番艦暁よ」
ぴし、と敬礼し。
「挨拶、遅れちゃったけど」
告げた。
「よろしくね、司令官」
悪とは主観が決めるものである。
正義とは状況が決めるものである。
そして、正しさとは自分で決めるものである。
と言うわけで、第二章、暁編終了です。
実はちょっと書き忘れたところあるので、三章でちょこちょこ出すかもしれないけれど、とりあえず二章は終了です。
ところでふと気づいたんですが、この小説の一話投稿したのって去年の11月1日らしいです。
そう気づけばもう一年経ってたんですよ、まだ二十話しか書いてないのに。
ま だ 二 十 話 し か 書 い て な い の に (大事なことなので
因みに、二章始めたのが7月3日なので、だいたい4ヶ月で10話…………遅すぎ(
そして次が難題の三章。電編です。
な、なるべく早く終わるといいなあ(白目)
まあそれはともかく、質問感想待ってます、