響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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会いたいよぉ

 

 

「響が帰ってくるの!?」

 一日ぶりの自身の鎮守府に戻り、たった一日空けただけだというのに懐かしさと安心を覚えた翌日。

 まだここに来て五年も経っていないと言うのに、すっかりこの場所が自身の居場所だと思っている自分に僅かに驚きを覚える。

 執務室へと戻る途中、珍しくこちらと会話しようとしている暁にふとこぼした一言に暁が目を見張る。

「ああ、響と…………それから、電もな」

「え…………あ…………電、も?」

 響が戻ってくると聞き、どこか嬉しそうにしていた表情から一転、戸惑いを見せるその様子に、どうやら響から思ったよりも色々聞いたらしい、と理解する。

「ああ、一度こちらで会ってみようとは思う。程度の如何にもよるが、暁にも手伝ってもらうつもりだから頼むぞ」

「まかせてよね…………電だって、暁の大事な妹なんだから」

 そう言って意気込む暁だが、実際のところどうなるか分からない。

 何せ数年もの間、誰も手を付けられなかったほどの重症なのだ。

 今更自身が何か言ったところで簡単に変わるとも思えなかった。

 

 だからって、何もしないわけにはいかない。

 

「……………………」

「…………? どうしたの? 暁の顔に何かついてる?」

 

 今日はやけに会話が続く、この少女とのことも含めて。

 

 

 * * *

 

 

 今更な話だが、自身の鎮守府には人員が少ない。提督である自身、そして艦娘である暁、後は補給や整備、後は生活……主に食などを管理する人員など、全部ひっくるめて六人ほどしかいない。

 それで基本的に回ってしまうからこそ、これ以上の増員が無く、そしてだからこそ、回らない部分がある。

 例えば、新しく来た艦娘をどこに置くか、とか。

 基本的に艦娘と言うのは鎮守府にある専用の寮のようなところで一緒くたにまとめて()()される。

 逆に提督は鎮守府内に自室があったりする場合が多い。緊急の事態に際して、一番最初に動き判断を下すのが提督だからだ。

 だが自身の鎮守府にはその寮が無い。何故かは知らないが、無い。そして今までヴェールヌイ一人しかいなかったので、適当な鎮守府の開いた部屋を改装して自室として使わせていたのだが、そこに暁が入るようになった。

 当初は暁にも個室を使わせようかと思ったのだが、本人がヴェールヌイと一緒で良いと言い、ヴェールヌイも了承したので二人で一室を使わせている。つまり、その時は結局新しい部屋は用意しなかった。

 だが今回はさらにそこに電が加わる。さすがに三人で一室は狭すぎるが、だが電の状況を鑑みるに、一人で放置するのもどうかと思う。

 どうしようかと少しだけ悩む、方法は二つ。一つは暁かヴェルどちらかが別室に移り、電と一緒の部屋で暮らす。二つ目は、少し広い部屋を用意して、そこに三人一緒に入れる。

 どちらを取るかは実際に電に会って、状態を確認してからにしようとは思うが、どの道、どこか一室は新しく用意するこになる。だが先ほども言ったが、基本的には上手く回っているこの鎮守府にも回らない部分がある。普段使わない各部屋などその際たるものだろう。

 客室などヴェールヌイと暁に貸した一室以外埃被っていることだろうし、それ以外にも使ってない場所を中心にところどころ手入れの行き届いていない場所がある。

 

「と言うわけで、帰って早々だが掃除するぞ」

 

 自身の告げた言葉にぽかん、と目を見開く暁。

 数秒そうして呆けていたが、やがてはっとなる。

「それって私たちがやるようなこと?」

「なんだ? 戦いさえすればそれでいいとでも? 他はそれでいいにしても、この鎮守府じゃ通用しないぞ」

 そもそも戦うこと自体稀である。出撃が二週間に一度あるか無いかとか他の鎮守府じゃ絶対にあり得ない。

 いくら鎮護の鎮守府とは言え、さすがに少なすぎる。

「因みに暁が来た時、暁のために部屋を整えたのはヴェルだぞ」

「響が?」

 自分の姉が来ると言うことでいつもより少しだけ柔らかい表情だったのは印象的だ。あいつがあんな笑みを見せることは少ないので貴重と言えた。

「大部屋のほうは他のやつらにやらせるから、暁は個室の掃除を頼む、後日こっちで模様替えしておくが何か希望はあるか?」

 壁紙、床、椅子や机、窓やカーテン、装飾、家具など模様替えに使うようなものはだいたい買える。家具コインと言う支給品を使うので、実際の懐は痛まないのだが、これらの品は基本的に執務室の模様替えのための品として扱われている。中には職人を呼んで特注してもらうようなものまであるのだが…………カタログの中に何故ビニールプールや風呂、リゾートセットや雛人形、布団や枕等々があるのか。色々ラインナップがおかしいとしか言えない。

「カタログあるから適当に希望してくれ、好きなの買ってくれて良いから」

 そう言って部屋の隅の本棚から家具カタログを出すと暁に手渡す。

「うわ、おもっ…………これ本当にカタログ? 図鑑じゃないの?」

 ずしんと手の中に来る重さに暁が思わず声を上げる。だが図鑑ではない、カタログである。

「取りあえず部屋の掃除、それが終わったらそのカタログ見て何をどうするか決めてくれ。要望を聞いてから発注をかける、それと掃除道具の場所なら他のやつに聞いてくれ、俺には分からん」

「んー、まあ分かったわ」

 流れで押し切った感はあるが、それでも暁が頷き部屋を出て行く。

 

 そうして暁がいなくなったのを確認してから座ったまま椅子を引き、机の引き出しを開け、そこから取り出したのは一部の新聞。

 重巡洋艦青葉と言う艦娘が自主制作しているもので、海軍内で起こった日常的な出来事から、非日常的なことまで様々な情報が憶測混じりで書いてある。

 まあ新聞とは言っても、ゴシップ記事ばかりの週間紙のノリで、発刊も書くことが決まったら、とか何か起きたら、とか気まぐれかつ不定期なもので、海軍内の娯楽代わり程度にはなるので、自身も時たま購入している。因みに値段は家具コイン200枚だ。

「えっと確か…………この辺りに……」

 昨日この鎮守府へと帰ってきたのだが、思ってたよりも遅くなってしまい、後回しにしていたのだが、先ほど暁が来る前までさらっと流す程度に見ていたのだが、少しだけ気になる記事があったので、暁の居ない今の内に確かめておきたかったのだ。

「…………あった、これだ」

 

 一面記事はやはりついこの間起こったばかりの連合艦隊の敗北について。

 

 二面記事は軍内部での動き。特に今回の敗北によって責任を取らされた者たちについて。

 

 そして三面記事は………………

 

「無人鎮守府の盗難事件」

 

 先の連合艦隊に加わり停職処分を受けていた新垣提督の鎮守府に何者かが侵入した形跡を巡回の憲兵が発見。海軍の調査によると鎮守府内にあった物品数点が紛失しており、侵入者による盗難事件と断定された。

 犯人の目星は立っておらず、依然捜査が続行されている。

 しかし記者の調べによると、その鎮守府に着任し、当時停職処分を受けていた某提督がその日以降自宅に戻っておらず、事件に何らかの形で関わっているのではないかと推測される。

 

 胡散臭い。と言うのが正直な気持ち。

 事件以降某提督が自宅に戻っていないと書いてあるが、人海戦術のできるマスメディアならともかく、姉妹艦と二人でこの新聞を作っている以上、あまりまともな調査をしているとは思えない。

 ただ公表されていない部分がある、と書いてあると言うことは、公表された部分もあると言うことであり、それは即ちこの事件が表沙汰として扱われていると言うことでもある。

 ならば少し調べればこの事件のことが分かるかもしれない。

 

 本来こんなこと自身の知ったことでは無い。こんな左遷先のような鎮守府に飛ばされた提督の知ったことではないのだ。自身が知ったからと言って、と言う部分もある。

 だが、提督が停職処分を受け、機能を停止している鎮守府で起こった盗難事件。これだけならまだ他人事で済むのだが。

「この鎮守府って…………確か」

 確か、暁が元々所属していた鎮守府だったはずだ。

 その元鎮守府で起こった盗難事件、そして何よりもその日以降姿を消した提督。

「……………………気のせい、だよな?」

 なんと無しに嫌な予感がしてくるが、恐らく気のせいだろう。そう、思いたい。

 ふと新聞から目を離すと、それなりの時間が経っていた。そろそろ暁が掃除を終えるかもしれないので、この新聞はまた隠しておくことにする。

 そうして引き出しの中へと新聞を放り込んだ、その時。

 

 ピリリリリリリリ

 

 部屋に響く電子音。タイミングがタイミングだけに、まさかな、と言う思いを抑えきれない。

 そして、こういう時に限って、予感と言うものは当たるものだ。

 

「もしもし?」

『ああ、私だ』

 

 聞こえてきた声で、相手が中将殿だと言うことにすぐに気づく。

「ああ、先日ぶりです。えっと? 電のことで何かありましたか?」

 昨日の今日での電話、そして相手から考えられる話などそれくらいしか思いつかなかったのだが。

『いや、そちらも問題ではあるが、今日はそっちじゃない…………キミのところの暁に関連する話だ』

「は…………あ、暁のですか?」

 まさか、まさか、そんな内心を肯定かのような中将殿の言葉に、思わずどきり、とする。

 そしてどこか困ったような声音で中将殿が続ける。

『端的に言おう、新垣提督がキミとの面会を希望して今日うちの鎮守府にやってきた』

「は? 新垣提督が俺…………いえ、私にですか?」

『ああ、まあキミが拒否するのならそれでも構わない、会うと言うのならそれでも構わない。選択はキミに任せるが、どうする?』

 そう言われ、考えてみる。だが、その前に尋ねることがあったので、訊いてみる。

「そもそもどうして自分に?」

『今暁を預かっている司令官であるキミに会いたい、とのことだよ』

 理由は案外普通だった。ただどうして今頃、と言う疑問はある。何せ停職になったのは、暁がこちらの鎮守府に来たのはもう二週間近く前に話だ。

 だが、こちらもいくつか聞きたいことがある。多少の疑念はあるが、都合が良いのは確かだ。

「了解しました。面会の日時はどうしましょうか?」

『あちらからはできるだけ早く、とは言われたけれど、そっちの都合に合わせて良いよ』

「……………………では――――――――

 

 

 * * *

 

 

「…………うーん、やっぱりこっちのほうがいいかしら?」

 ピカピカに掃除した部屋の中で、暁が図鑑のような本と部屋を視線で往復していた。

 部屋自体は多少埃を被っていたが、家具らしい家具は一切無かったので、窓を開け、床を掃くだけと言う比較的簡単なもので済ませることができた。

 実際に使うのならば、ここに電を含む二人で住むことになるらしいので、取りあえず寝具は二つ必要だろう。

 それから机もあったほうがいいだろうし、本棚のようなものだって欲しい。

 お洒落な壁紙も良いし、壁に飾る装飾品も面白そうなものが多い。カーテンが無いのでカタログにあるもの中でも魅力的なものをいくつかピックアップしている。

 ただあれこれと考えてはいるが、この一人部屋ならともかく二人で使用するには若干手狭な十二畳ほどの空間に全ては収まりきらないので、ある程度取捨選択する必要はあった。

 そうして悩むことしばらく。

「うん、これで良いわね」

 ようやく納得の行く構想が出来上がったので、それを伝えに執務室へと足を向ける。

 そうしてたどり着いた執務室の扉に手をかけようとして…………。

 

『ああ、先日ぶりです。えっと? 電のことで何かありましたか?』

 

 どうやら電話中のようだ、と思わず手を止める。

 扉の向こうから聞こえる声に、さて少し時間を置いてまた来たほうが良いだろうか、そう考え。

 

『は…………あ、暁のですか?』

 

 聞こえた自身の名前に、何事かと電話に内容に興味を惹かれる。

 

 そして―――――――――

 

『は? 新垣提督が俺…………いえ、私にですか?』

 

 聞こえたその名前に、目を見開く。

 

『そもそもどうして自分に?』

『了解しました。面会の日時はどうしましょうか?』

『……………………では――――――――

 

 電話が切られる。

 だが暁は扉の前から一歩も動くことが出来なかった。

 

「なんで…………どうして」

 

 湧き上がる疑問。

 

 どうして今、彼の口からその名前が出てくる?

 

「…………司令官」

 

 ようやく話し合おうと思ったのに。

 やっとこの思いの丈全てを伝えれると思ったのに。

 覚悟を決めたはずの心が揺さぶられる。

 固めた決意はあっという間に崩れ去り。

 扉の前から逃げるように走り去る。

 

 否、逃げ出したのだ。

 

 どうすればいいのか分からなくて。

 

 そうして口から言葉が溢れる。

 

「会いたいよぉ」

 




積極的に女の子を追い詰めていくスタイル。

因みに、最近気づいたけど、自分の書く艦これ二次に登場する艦娘って、大半がなんかの地雷持ち。
一つ間違えると発狂エンド迎えるような綱渡りなやつらばっかりだな(

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