響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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一章最後のタイトルとして、これ以外あるのか? と思うくらい、思いついた瞬間には即決定していた。


Верный(ヴェールヌイ)

 くるくると手の中でペンを回しながら弄ぶ。

 執務室の椅子に背をもたれながら退屈な時間を持て余す。

 ぶっちゃけて言えば…………やることが無い。

「あー…………暇だ」

 椅子にもたれかかりながら呟く。執務室の窓から見える景色は日々変わることなく、毎日毎日同じ海ばかり見ていい加減これで退屈を紛らわすのも限界だった。

「ったく…………どっかから深海棲艦が沸いてこねえかなあ」

「…………朝から物騒だね、司令官」

 愚痴を口にしていると、執務室の入り口から聞こえた声。

 視線を向けるとそこにいたのはセーラー服に白い帽子を被った銀髪の少女。

 氷のようなアイスブルーの瞳で、いつものごとく無表情にこちらを見つめてくる。

「ヴェルか………………また来たのかお前。自分の部屋があるだろ」

 呆れたようにそう言うが、ヴェルことヴェールヌイは特に答える様子も無く部屋の端に置かれた椅子を持って自身の机の前まで持ってくる。

 それから執務室の置かれた本棚から一冊の本を持って来ると、先ほど自分で置いた椅子に…………高さの合っていない座り、床に届かない足をぶらぶらとさせながら持っていた本を開き、読み始める。

「…………ねえ、なんで執務室でやんの?」

「………………暇なんだろう? いいじゃないか」

 済ました無表情でそう返し、ページをめくる。

 いつものことと言えばいつものことであり、今更深く突っ込む気もなければ、特に追い出す理由も無いので放っておくことにする。

「何か飲むか?」

「ならロシアンティーを」

「はいはい…………」

 これもまたいつものこと。まあロシアンティーなんて言っても、所詮紅茶とジャムをセットで用意するだけだ。

 日本人の多くが勘違いしているがロシアンティーと言うのはジャムの入った紅茶…………ではない。

 本来ロシアではジャムをスプーンで直接舐めながら紅茶を飲む、と言うのが正式らしい。まあどうでもいい話ではあるが。

 

「お仕事持ってきたわ」

 

 とその時、部屋の中に入ってくるのは、紫の髪の少女。ヴェールヌイと良く似た服を着ていた。

 駆逐艦暁、それが少女の名前だ。ヴェールヌイの姉妹艦であり、

 抱えた紙の束に、思わず目を丸くする。

「え? なんでそんなにあるんだ?」

 自慢じゃないが、この鎮守府に回される仕事なんてものは滅多に無い。

 出撃も月一回あるか無いかだし、本土との連絡も最低限、故に書類仕事だって鎮守府の管理のためのものが大半であり、それだってヴェールヌイ一隻しかいない鎮守府故に、大した規模では無かった。

 だから、この鎮守府にやってきてこの方、抱えるほどの書類と言うのはお目にかかったことが無かった。

 そういう意味での質問だったのだが、暁は不思議そうに首を傾げる。

「そんなに多い? 暁は少ないな、って思ってたんだけど」

 そう呟く暁に、それは暁の元司令官はな、と内心で呟く。

 

 そう、元、司令官だ。

 なら現司令官は誰だ? そう尋ねられれば。

 自身だ、そう答えるしかない。

 そう、とうとう自身の鎮守府は所属艦娘がヴェールヌイ一隻と言う状況から開放されたのだ。

 

 先の深海棲艦の大侵攻。ヴェールヌイの大破と言う大事もあったが、それでも一隻も轟沈させること無く敵の足止めを全うし、さらには敵を分断し、各個撃破することを可能とさせたその功績により、自身の鎮守府は存続は許され、さらに駆逐艦暁の転属が認められたのだ。

 あそこまでして? とも思うが、それが上からの命令ならば仕方ない。建造で錬度の低い艦娘を一から育てるよりは手間が省けるか、と思えば幸運と言えなくも無い。

 

 面倒だなあ、と思いながらも束と積まれた書類の一番上のものを一枚手にとって見る。

 暁の転属手続きだった。

 

 そもそも、艦娘の転属と言うのは滅多に行われるものではない。

 理由など簡単だ、せっかく手塩にかけて育てた自身の艦隊を他人にやるなど冗談ではないからだ。

 艦娘と言うのは非常に数が少ない、全国を見渡しても百名いるかいないか、と言うところだ。対する鎮守府も全国に20と無い。

 故に一つの鎮守府にあまりにも多くの艦娘がいた場合のみ、時折だがそういうことはあるが、暁のようにそれなりの錬度を持った艦娘が他の鎮守府に転属してくる、と言うことは基本的にあり得ない。

 ならばどうしてそんなことがあり得たのか、と言うと、理由はなんとも呆れた話で。

 

 全員懲戒処分されたのだ。

 

 暁の元司令官も、長門の元提督も、瑞鳳の元提督も。

 

 そもそも全ての鎮守府にとって、出撃とは提督の一任で行えるものである。勿論、後々報告書の作成などは必要だが、鎮守府近海にすら敵がやってくるのに、大本営からの許可を一々取っていては迅速に動けない、と言うような理由から基本的には提督の任意で行う。

 だが、どの海域に出撃するか、と言うのは実は大本営から許可をもらう必要がある。

 それは実力の証明であり、保証である。

 海域ごとに敵の強さが違う、と言うことがわかってから、無謀な出撃を抑えるため、全ての提督は、許可された海域までしか出撃してはならない、と決められている。

 最初の提督が許可されているのは鎮守府近海だけであり、現状の自身がこれに当たる。

 

 だが今回の連合艦隊の出撃海域は、その制限を無視した形となった。

 

 敵中枢を電撃戦で叩けば、全体を混乱させることができる。まあ分からなくもない案ではあるが、そもそも深海棲艦に中枢などと呼べるものがあるのか、あるとして、それは一体だけなのかそれとも複数体いるのか。

 などなど、考えれば割とすぐに分かりそうなボロの出る案ではあったのだが。

 どっかの中将(自身の上官とは別の)が暴走したらしく、強権で押し通して連合艦隊を組まされることとなったらしい。

 

 今回の出撃で二十八隻からなる連合艦隊の内に十三隻が轟沈確認、八隻が行方不明、結局生きて鎮守府にたどり着いたのは、うちの鎮守府にやってきた三名を入れてもたったの七名。

 行方不明となった艦娘は、中将(自身の上官)殿が中心となって進めているが、成果は芳しくないようで、生存は絶望的とまで言われている。

 

 つまり。

 

 国内の艦娘の実に二割がこの一度の出撃で居なくなってしまった。

 

 これにはさすがの大本営も驚愕し、即座に暴走した中将とその部下以下八名を軍法会議へとかけ、中将は免職、その部下たちは中将に無理矢理従わせられていた、と言うこともあり、多少の温情も加えられ半年間の停職処分が下った。

 無理矢理だったのだから処分は無しでも良いのではないか、と言う意見もあったらしいが、命令を発令したのは中将であろうと、実際に指揮を執ったのはその部下の提督たちであり、出世や功績に目が眩み、無謀な進撃を命令したのは彼らである、と言うことでこの結果は覆らなかった。

 とは言え、暁から聞いた話では艦娘たちですら士気が高く、イケイケな雰囲気だったらしい。

 いや、だからこそ司令部が慎重になるべきだったのかもしれないが。

 

 だが今さらそのことをとやかく言ったって仕方ないだろう。

 結局、一番問題だったのは艦隊を組んだ艦数だ。基本的に深海棲艦と言うのは一隻から六隻の間で集まって海を徘徊している。

 それにあわせてこちらも艦隊として組んでも良いのは六隻までと決められている。

 これが何故なのか、疑問に思ったことは、勿論全ての提督にはあるだろう。

 だってそうではないか、十隻、二十隻で艦隊を組んで敵と戦えば、敵は最大でも六隻なのだから数の利を生かした有利な戦いができる。誰だってそう思う、自身だってそう思った。

 

 だがそれができない理由がある。

 

 過去にも同じように大艦隊で深海棲艦と戦った提督がいたのだ。

 その提督は現在の艦隊二つ分、十二隻の艦隊を組み、深海棲艦の討伐を行ったらしい。

 だがそれは最悪の結果に終わる。

 結果だけを言うならば、艦隊は壊滅。十二隻中、僅か一隻を残し、全ての艦が海の底へと沈んだ。

 連戦連勝を重ね、必勝の艦隊と呼ばれていたはずの艦隊のまさかのその結果は全ての鎮守府に衝撃を与えた。

 だがどうしてそうなった? と言う疑問にぶち当たる。

 そして当時、唯一生き残った艦娘の証言をまとめると、こうだ。

 

 倒しても倒してもどこからとも無く次々と深海棲艦が現れ、気づけば自身の艦隊の三倍以上の数の深海棲艦に取り囲まれていた。

 その中には、本来この海域にいるはずの無い敵までもが混じっており、最終的に、百を超える敵の集中砲火を受け、自分以外はみな沈んでしまった。

 自身も本来ならば沈んでいたのだろうが、砲撃を受け、気を失ってしまい、次に目が覚めた時にはどこかの孤島に漂流しており、すでにその海域に深海棲艦たちの気配は無かった。

 

 この証言を受け、話をまとめると、あまり多くの艦を率いて戦っていると、敵を刺激してしまうのではないか、と言う結論に落ち着いた。

 深海棲艦にも縄張りのようなものがあり、大軍で押しかけると、それを無闇に刺激し、結果的に海域中の深海棲艦を呼び寄せることになるのではないだろうか、と言うのが通説で、そのボーダーラインが六隻と言われている。

 

 そんなこと士官学校で習うはずのことだ。勿論、中将じゃその部下たちも知っていたはずだ。

 だが、それを偶然やデマだと思ったのか、それとも倍数以上の数を揃えたから油断したのか。

 その結果が、無駄に深海棲艦を刺激し、海域を越えても追ってくるあの惨状だ。

 

「自業自得…………と言うべきだな」

 

 誰にも聞こえないようにぽつりと呟いた言葉。

 まったく、そのせいで鎮守府を破棄することになりそうだって自身たちにとっては、とんだとばっちりだ。

 まあ、それは今置いておくとして、だ。

 一年の停職処分を下された提督たちはそれで良いとしても、その配下の艦娘たちはそうはいかない。

 もうそれほど半分以下になってしまったとは言え、艦娘がいるのだ。その艦娘たちの処遇をどうするか、を考えなければならない。

 普通に考えれば他の鎮守府に預けてしまえばいいのだが、困ったことに今回ばかりは一年で停職が解けた提督たちが戻ってくる。

 と、するとまた艦娘たちは元の所属に戻さなければいけなくなる。そうすると、また編成のし直し。かと言って、錬度の高い艦娘を遊ばせておく余裕も現状この国には無い。

 というわけで、編成数が六に満たない鎮守府、特に編成数が少ない鎮守府にこうして割り振られることになり、自身の鎮守府にもようやく二人目の艦娘がやってくる運びとなったのだ。

 

「やれやれ…………で、次のはっと」

 

 ぱらぱらと書類の束を捲っていく。

 引継ぎの書類の他には、いつもの資材管理の報告書や、この間の戦闘の報告書の写し、その際に使ったもののリストなどなどとにかく色々とある。

 そうしてぱらぱら、と書類を捲っていたその時、はらり、と書類の中から一通の便箋が落ちる。

「…………なんだこの手紙…………って…………な?!」

 思わず声を荒げた自身に、暁と、そして部屋で本を眺めていたヴェルまでもがこちらを見てくる。

「どうしたの?」

「どうかしたかい?」

 目をぱちくり、と瞬かせながらそう尋ねる二人に…………ヴェルに向かい、きゅっと口を結んでその便箋を…………一瞬迷ったが、差し出す。

 自分に? そんな様子で手紙を受け取り、口を(つぐ)んだ自身の様子にどこか戸惑いながら便箋を裏返し…………そこに書かれた差出人の名前にヴェルが硬直する。

 そんな自身たちの様子に暁が不思議そうに首を傾げ、ヴェールヌイの手元の便箋に視線をやる。

 

「あら、()()()? なんて書いてあるのかしら?」

 

 その名前が出た瞬間、ヴェルが蒼白な顔をして部屋から飛び出す。

「ひ、響?」

 鬼気迫るその様子に暁が目を丸くして、その後ろ姿を見つめ、自身はその後を追って飛び出す。

「暁、ちょっと待っててくれ」

 そう言い残し、戸惑う暁を部屋に置き去りにする。

 艤装をつけていないとは言え、全速力で走るその後ろ姿を追うのは一苦労で、ようやく足を止めたのは波止場だった。

 

 はあ、はあ、と二人息を荒くしながら、コンクリートの地面に座り込む。

「…………………………………………」

 呼吸を整え、荒い息を抑え、けれどヴェルは黙していた。

「…………………………………………」

 自身もそれを黙って見つめていた。

 手に持った便箋の封を、ヴェルが開き、中に入っていた手紙一枚を広げる。

「……………………なんて書いてある?」

「……………………帰ってこないか、って」

 その言葉は、予想の一つとして考えたいただけに、それほど驚きはしなかった。

 

 先ほど転属なんてそうそうあり得ない、なんて言ったが。

 

 ヴェールヌイ…………否、駆逐艦響は元は中将殿の艦娘だった。

 

 あまり思い出したくないので、詳しくは語らないが、そこでとある事件があり、心を患った。

 そして新しく鎮守府に着任した自分の元へと送られてきた。

 着任したばかりの自身と転属されたばかりの響。

 最初の仕事は、自殺志願のような特攻を繰り返す響をどうにか生き残らせることだった。

 次の仕事は、着任の時以来、全く口を開かない響とどうにかコミュニケーションをとることで。

 そうして会話が成立したら、少しずつ仲を深めた。中将殿に何があったかは聞いていたので、近づきすぎれば拒否反応が出るだろうことは予想できたので、本当に少しずつ、亀のような歩みで少しずつ距離を近づけていった。

 そこまで行くのに半年かけた。ようやく日常的に会話ができるくらいまで絆を深め、ようやく根本的な問題に近づいた。即ち、前の鎮守府のことだ。

 

 一つ、約束をした。

 

 改造を繰り返し、ヴェールヌイと名を変えても、まだ守り続けられる約束。

 放っておけばどこかに消え去ってしまいそうな響の心を繋ぎとめる重し。

 だからこそ、不安になる。

 

「…………どうするんだ?」

 

 ヴェルに問う。けれど答えない、否、答えられないと言ったところか。

 ぽん、とその頭に手を置き帽子の上からくしゃくしゃと撫でる。

 

「…………なあ、あの時の言葉、覚えてるか?」

「…………どの時だい?」

「おまじない、だよ」

 

 告げた瞬間、ヴェルがびくり、と震える。

 

「ああ…………覚えているよ」

Ты не одна(ティ ニ アドゥナー) я всегда рядом(ヤー フスィグダー リャーダム)…………あの言葉に嘘は無い」

 

 Ты не одна(ティ ニ アドゥナー)(お前は一人じゃない) я всегда рядом(ヤー フスィグダー リャーダム)(俺はいつだってお前の傍にいる)。

 約束を交わしたあの日から、ずっとそうだった。いつだって二人だった、いつだって二人で頑張ってきた、いつだって二人で乗り越えてきた。

 

「だから、約束を変えよう」

 

 守るべきものを見失った少女に、あの日くれてやったこの命は、もう返してもらう。そんなものもうこの少女には必要ないだろうから。

 

「いつかまた帰って来い…………その時まで、ここは守り抜いておいてやる」

 

 悩み、迷う少女の背を押す。

 

「だから、約束だ」

 

 その名前は信頼。

 

「お前の名前にかけて」

 

 自身と少女の絆の証。

 

 だから、行って来い。

 

「Верный(ヴェールヌイ)」

 

 




本当は、響残す予定だったんですけど。なんでいなくなるみたいな展開になってるんだろう?
本当は、一回響が中将のところに行って、で、最終的に戻ってきて「おかえり」みたいなこと言って終わるはずだったのに、なんでこうなった…………。
ホント、自分はプロットとか立てるのがとことん性に合わないらしい。


と、言うわけで第一章終了です。

過去編に関してはこれ以上詳しくはやりません。
もう既出した情報だけで想像してください。

あと、ロシア語に日本語訳出しましたが、前も言った通り適当な訳です、本来と違うからと怒らないでください(

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