織田信奈の野望~乱世に舞い降りた黒の剣士~   作:piroyuki

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ちょっと出すの早かったけど、現実世界のお話です。


消失

~2025年某日~

 

 

私はあの日、いつものように病院に足を運んでいた。

生命維持装置に繋がれているお兄ちゃんの身体は毎日見ていると気付かないけれど、もう骨と皮しか無いような状態で、私は毎日泣いていた。

きっとその日もお兄ちゃんの姿を見て、泣いてしまうんだろう・・・そう思ってた。

 

病室に近づくと生命維持装置の音が聞こえてくる。動かない、反応がないおにいちゃんに話しかける。それが日課だった。

 

 

 

でもその日は違った。

 

 

 

いつもの静かな病院の通路とは違い、看護師さんや医師達が慌ただしく動いてた。

 

「やっぱりいません!」

 

「もっとよく探せ!遠くには行けないはずだ!」

 

お兄ちゃんの病室の前でお母さんが「お願いします!お願いします!」って皆さんに縋っていた。

すごく嫌な予感がしたんだ。お兄ちゃんの容体が急変したんじゃないかって・・・。

 

 

 

「お母さん・・・なにかあったの?」

 

 

 

そう聞いて病室のベッドを見た瞬間、私は気付きました。「お兄ちゃんがいない」ということに。

きっと意識が戻った!それでどこかにいったんだって・・そう思った。

 

 

 

 

 

でも、その希望は打ち消された。他のSAO被害者は未だ皆こん睡状態だったから・・・。

その時、私はお兄ちゃんを本当に失ったんだって・・・そう思ってた。

本当はいつかこういう日が来る、そんな気はしてたんだ。でも、お兄ちゃんが目を覚ますって信じてた。現実は残酷だ。

 

 

お兄ちゃんがこの事件に関わって病院に搬送された頃、私とお兄ちゃんが本当の兄弟じゃないって知った。お兄ちゃんは10歳のときにそれを知っていたみたいで、その頃からお兄ちゃんの私に対する態度が変わった。

それからほとんどお話してくれることが無くって、そして本当にお話ができなくなって・・・元々お兄ちゃん子だった私はお兄ちゃんが動けないことをいいことに、毎日話しかけていた。いつもならすぐにどこかにいってしまうけど、このときだけはどこにも行かないで聞いてくれてた。

もしもお兄ちゃんが目を覚ましたら、私は今までの想いをお兄ちゃんにぶつけよう。そう思っていた・・・それなのに・・・・・。

 

 

何日かして、お母さんはこう言った。

 

 

母「和人の葬式・・・そろそろ・・・」

 

 

 

 

私はそれに反対して家を飛び出した。私はあきらめたくない!!

刑事さんは、お兄ちゃんが死んでその遺体を誰かが持ち去ったとして捜索中だって言った。今はまだ行方不明として扱われている。まだ死んだなんてきまったわけじゃない。でも、その犯人の痕跡も、ナーヴギアが作動した痕跡もないのに死んだって決めつけたくなかったんだ。

公園で一人、どうやってお母さんを説得するか考えてた。

 

「桐ケ谷・・・直葉さんだよね?」

 

その声の主は、事件の担当の刑事さんだった。刑事さんの話だと、報告があって家にくるつもりで通りかかったらしい。

お兄ちゃんに関する重要な話があるということで、仕方なく刑事さんと家に帰った。

 

 

 

刑事「直葉さん、お母さん、よく聞いてください。和人君と同じように行方不明になったSAO被害者が何件か出てきています。そのことで君とお母さんに会ってもらいたい人がいまして・・・」

 

 

 

そのとき、私はお兄ちゃんがまだ死んでないってなぜか確信できた。

きっとなんらかの理由でどこかにいったんだって、理屈じゃないけどそう思えた。

 

 

この日に会ったのは、株式会社レクトの最高経営責任者、結城彰三さん。私がやっているVRMMO、アルヴヘイムオンライン「ALO」を経営している会社。

その人の娘さんも、お兄ちゃんと同じように突然行方不明になったそうだ。そこでその結城さんは訳あって大々的に動くことはできないけど、経済的なバックアップをするから全力で捜査をお願いしたい。ということだそうだ。

確かに安全性も保障され、ナーヴギアの後継機であるアミュスフィアにバージョンアップしたとはいえ、VRMMOを運営する会社のCEOの娘がVRMMO被害者なんて世間にバレたら経営に響くからね。

 

 

 

何カ月か、探偵やその他の人材、インターネット等の情報源を駆使して捜索したけど、まったく手掛かりがつかめなかった。

私はその頃、ALOで現実逃避する時間が増えていた。お兄ちゃんが魅せられ、お兄ちゃんを奪ったVRMMO、最初は恨んでた。でもその世界を一度見てみたくなった。ほんのすこし覗くだけのつもりだったけど、お兄ちゃんの魅入られた世界に、私はどんどんとのめり込んでいった。

 

そんなときだった。ゲーム中に誰かがこんなことを言ってた。

 

 

「世界樹を攻略して、妖精王オベイロンに恩賞を貰わなかった奴がいる」

「そのかわり何でも一つ願いを叶えられる」

「そいつはその願いを叶えてもらったらしい」

 

 

ALOのグランドクエストである世界樹攻略は、未だどんなに強い猛者達で挑んでも攻略できていなかったのに、ただ一人攻略した人がいるという噂が広まっていた。

ALO空を飛べるのが魅力というゲームだが、一度に10分間しか飛ぶことができず、しばらく休憩が必要だった。世界樹攻略のグランドクエストは「妖精王に謁見できた種族は滞空時間が無制限になる高位種族アルフになれる」というクエストだったが、その恩賞を辞退すると願いを一つ叶えてくれるというのだ。

私はそのとき何を思ったのか・・・・もしもこのクエストを完遂できれば、一人でできれば・・・・

 

 

その日からただ一人、仲間の制止も無視して毎日世界樹攻略に専念した。

私の願いはただ一つ・・・毎日失敗し、それでもあきらめずに挑んでいった。きっと私はどこかおかしくなっていたのかもしれない。

 

 

 

そしてこの日も、いつものようにアミュスフィアをかぶった。昨日はもう少しのところまで行けた。今日は行ける!!

 

 

 

「リンクスタート!」

 

 

 

私の願いはただ一つ!!

 

 

 

――お兄ちゃんに逢わせて!!!!!





ここで人物紹介

桐ケ谷直葉(スグハ):桐ケ谷和人(キリト)の妹。キリトの一つ下で、キリトからは「スグ」と呼ばれている。
お兄ちゃん子で、8年前にキリトが祖父に言われて始めた剣道を後を追って始め、キリトが2年で辞めた後も続けている。全中ベスト8の実力の持ち主で、SAOの作中ではキリトは「俺が辞めたときじいちゃんに殴られたが、妹が兄が辞めた分私が頑張る」といって剣道を続けていることに引け目を感じている。そのため兄妹関係は疎遠。
ALO内での種族は9個あるうちの一つ「エルフ」で、その剣術センスと飛ぶことに魅せられて毎日飛び回っている成果もあって種族内でも5指にはいる実力者で「スピードホリック」と呼ばれている。

桐ケ谷翠(ミドリ):桐ケ谷和人(キリト)の義母。和人の実母の妹で、両親を事故で失った和人を引き取り養子とした。
パソコン情報誌の編集者。かなりのゲーム好き、パソコン好きで、キリトのパソコンやネット、ゲームに関する知識に影響があったとみえる。キリトが6歳で母親の部屋にあったジャンクパーツを使って自作マシン作りあげたことに「私のPCマニアの血が遺伝した。精神的に」と述べている。


結城彰三:SAOのメインヒロイン、アスナこと結城明日菜の父親。株式会社レクトの最高経営責任者(CEO)

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