織田信奈の野望~乱世に舞い降りた黒の剣士~ 作:piroyuki
村木砦の戦いによって、捕虜の半数以上は織田軍に帰順。そしてその他は即座に解放された。名実ともにその実力を見せつけた浅野キリトは織田家の侍大将に昇格。その地位を確かなものにし、その名を轟かせていた。
更に信奈は新たな部隊を結成。母衣衆と呼び、二つの親衛隊を結成。黄母衣衆の筆頭に前田犬千代、黒母衣衆の筆頭に浅野キリトを置いた。この二人は信奈の懐刀として活躍していくこととなる。
信奈「美濃のマムシと同盟を結ぶわよっ!!」
信奈のこの一言で家臣団は騒然となった。確かに今川の脅威に備えて後顧の憂いを絶っておきたいところだが、未だ尾張の統一が成っていない状況では道三が同意するとは思えないというものだ。
弟の織田信勝にはまだ謀反の疑いがあったのだ。
長秀「その同盟は早計です。32点」
信奈「そう?でも美濃と結ぶのは必須よ?早いに越したことはないわ!もう成政を使者にだしてるし・・・」
成政とは佐々成政のこと。彼女は信奈の馬廻をしている娘だったが、この度黒母衣衆に抜擢された。
勝家「しかし・・・・」
信奈「ねぇキリト、アンタはどう思う?」
キ「俺に聞くか?そうだなぁ・・時期的には丁度いいかな。」
信奈「でしょ?ほら。決定!」
この流れであれば、道三との同盟は成立。その後美濃で内乱がおきて道三は死亡。その後信勝の謀反ということになるとキリトは記憶を整理していた。
キ「正徳寺ってどの辺だっけ?」
信奈「え?正徳寺?」
キ「会見は正徳寺だろ?」
信奈「まだ使者を出しただけで会見すら決まってないわよ?」
キ「あ・・・・そうだった・・・」
犬「・・・・変なキリト」
信奈を含め、家臣達は皆キリトの言葉に訝しい表情をしていた。
しばらくすると使者に出ていた成政が戻ってきた。
成政「申し上げます!道三殿は会見を受諾!正徳寺にて行うとのことです!」
信奈「正徳・・・寺?」
成政「はっ!・・・・なにか?」
信奈「(キリトは正徳寺って言ってたわね・・・まさか・・・正徳寺が会見場所になるって予想してたの?)・・・・なんでもないわ!御苦労さま。」
このことに更に家臣団は騒然となった。キリトは預言者か?などという声があがったりしていた。それを遮るように信奈は締める。
信奈「そ、それじゃ、決定ね。犬千代、キリト、二人は母衣衆を連れてお供しなさい!」
キ・犬「「ははっ!」」
正徳寺会見は帰蝶を娶る交渉をする場のはずだが、今回はそれが見えない。不測の事態に備えておく必要がある。キリトは五右衛門を遣わして正徳寺までの道筋を警備するように言った。
史実ならば道三は影で信長を覗き、その姿に感化されて会見では普段着のような服装で臨んだが、信長は正装に着替えてその人柄に惚れさせたというエピソードがある。しかし・・・・・
~道中~
信奈「どう?キリト、うちの鉄砲隊は」
キ「この国最強の部隊だな。」
信奈「むぅ・・・そんな冷めた顔でそれいわれると最強に思えなくなるわね・・・」
キ「す・・・素直な意見だよ。」
犬「・・・キリト、強すぎ」
キ「はぁ・・・」
冷めた顔とかトボケた顔と言われるのは慣れていた。元々人と接するというのは慣れていなかったし、自分の周りにいる人は不幸になる・・・そんな気がして人を避けていた。きっと知らないうちにこんな表情をしてしまうのだろう。
この世界に来てからは一人の時間が減っていた。登城すれば他の家臣や黒母衣衆の面々と顔を合わせ、家に帰れば(侍大将になってからは長屋暮らしは卒業し、城内敷地にある宿舎へ移転してます)義父の長吉や義妹のねねが待っていて、その行き帰りには犬千代がくっついてくる。一人でのんびりしていると五右衛門がやってきて話をする。少しずつだけど人付き合いには慣れてきているつもりだった。
しばらく進んでいると、周囲を警戒にあたっていた五右衛門がやってきた。
五「・・・キリト氏」
キ「五右衛門か・・・」
五「兵の気配を察知・・・」
キ「やはりか・・・・あそこだな・・・信奈!」
信奈「なによ?」
キ「その鉄砲隊、お飾りじゃないんだよな?」
信奈「・・・・そうね。」
キ「・・・・あの辺だ」
信奈「鉄砲隊そこの5人!打ち方用意!!!あの方向に撃てーー!」
キリトは事前に信奈に通達していた。この会見に向かう途中、信奈が道三ならどうする?と質問すると、信奈は道三の史実でしたことと同じことをするといった。それなら信奈はどうする?と聞くと、威嚇射撃で気付いてることをアピールするといったのだ。そこでキリトと信奈はお互いに画策したのだ。
~森の中~
十兵衛「あれが信奈ですか・・・はしたない格好をしてるですね!いっそここで撃ち取れば尾張は斎藤家のものです!フフフ」
道三「ふむ。そううまくいくと思うてか?」
十兵衛「こちらは信奈を襲う準備万端です!!」
道三「慌てるでない。何も襲うつもりじゃないわい。」
明智十兵衛光秀、史実では足利将軍家に仕える名家なのだが、この世界では道三の小性として仕えている。
道三「ふむ・・・(あの黒服が噂の少年か。)」
十兵衛「ちょ・・・ちょちょちょ大変ですよ道三様!!」
道三「なんじゃ?」
十兵衛「鉄砲隊がこっちに狙いを定めてるです!!!」
ダダダダーーーーーン
十兵衛「ひぃぃ!!!!!」
道三「のわっ・・・・!・・・・気付いておったか・・・」
十兵衛「おおおお織田信奈・・・ありえないです・・・」
道三「はっはっは!これは会見が楽しみじゃのう。」
道三にとってはこの会見、最初から楽しみにしていた。同盟の話はきっかけにすぎず、「うつけ」と呼ばれる姫武将、かつてマムシも「うつけ」と呼ばれていた身。同じあだ名を持つ信奈と会いたいというのは当然のことだった。
~3日前~清州城・信奈の部屋
信奈「ねぇキリト・・・」
キ「ん?」
信奈「あたしが言ってることってそんなにおかしい?」
南蛮文化を取り入れ、その知識で改革を進めていき天下を統一、商業でより豊かな国を創り、世界へ進出するという信奈の壮大な夢の話だ。
キ「いや、おかしくない。夢は大きくなきゃ夢じゃないからね。だからこそ実現できるのは信奈しかいないんじゃないかな・・・。」
信奈「あははは!そんなこと言ってくれたのはキリトが初めてかも!」
キ「そうなのか・・・」
キリトはなんとなく信奈を自分に照らし合わせていた。しかしどこかちがうのは確かだ。
誰にも理解されず一人歩む・・・天才ゆえに孤独というわけだ。キリトは単に自分がヒールに徹することで孤独を作っていた。同じ孤独を知る者同士、なんとなく共感していたが信奈の孤独は違うのだ。
キ「美濃のマムシも【うつけ】だってな。」
信奈「そ。うつけの会談ってこと!」
キ「そりゃ楽しみだ。」
キリトはよく信奈に部屋へ招待されていた。信奈は自分の考えを理解できるキリトと話すのが心地よかった。初めての友人のような存在だったのだ。
一介の家臣が大名の部屋にちょくちょく顔を出すのはよろしくない。そこで信奈は部屋に招きたい日はキリトに合図を出していた。虎の毛皮が窓にかかっている日は部屋に来いという合図だった。それを無視すると大変なことになるのでキリトは止む無く部屋に足を運ぶのであった。
しかし・・・・・
犬「・・・・やっぱりここにいた。」
信奈「い・・・犬千代!?」
キ「犬千代、どうした?」
犬「・・・キリト、お腹すいた」
キ「へいへい。じゃあ信奈、また明日な。」
信奈「う・・うん。」
犬千代の嗅覚はごまかせなかったのであった。
~正徳寺~
道三と十兵衛は会見の間に座していた。その正面に犬千代とキリトが座っていた。
十兵衛「道三様・・・やはり着替えたほうが・・・」
道三「よいのじゃ。あちらもあのような格好であったではないか。余計な気遣いをさせぬのも「器量」というものじゃて。」
キリトの予想通り、道三は道中で信奈を見ており、普段着のまま会見に臨むようであった。
道三の目的は二つあった。まずは信奈の器量を測ること、そして正面に座る黒服の少年・・・奇怪な服装とそのみたこともない得物に興味があるのと、その噂の実力を十兵衛を使って測るというものだ。
十兵衛はその話を聞いていたのだが、ぼーっとした表情の黒服の少年にそこまでの実力があるとは思えず買いかぶり過ぎだと思っていた。
しばらくすると信奈がやってきた。
信奈「待たせたわね!マムシ!」
信奈は先刻のブラジャー丸出しの格好とは打って変わって正装でやってきたのだ。その服装からそれこそ「天下一の美少女」といっても過言ではない魅力が溢れていた。
道三「こ・・・これはなんと・・・!」
十兵衛「き・・・綺麗・・・・」
信奈「ふふん・・・どう?キリト」コソコソ
キ「・・・最強だな。」コソコソ
犬「・・・・・」ジー
道三は信奈を気遣い、信奈は道三に敬意を表した。道三はその信奈の器量に感服していた。
その後道三は信奈を煽りはじめた。信奈の奥底に眠る考えを引き出そうとしているのだ。
道三「ずいぶんと鉄砲を揃えたようだが・・・あれは南蛮の玩具と揶揄するものも多かろう。」
信奈「あれを馬鹿にするどんな豪傑も、その鉄砲を足軽が持てば一撃で仕留められるのよ。尾張の兵は日の本最弱って言われているけど、鉄砲があれば最強の兵になるのよ。」
道三「ほう・・・して、儂と同盟した後狙うは今川の駿河か?弓と鉄砲の戦じゃのう・・・。」
信奈「いいえ、美濃よ。」
一同驚愕である。これにはキリトも驚いていた。この同盟は後顧の憂いを断ち、尾張統一を進める足掛かりだと思っていたからだ。信奈はさらにその先を踏まえていたのだ。キリトは信奈のすごさを改めて実感したのだ。
道三「ほほう・・・何故美濃を獲るか?」
信奈「マムシが美濃を獲ったのと同じよ。美濃を制する者は天下を制する。美濃は東西を結ぶ要衝・・・ここに難攻不落の城を築く。そして商人が自由に行き来できる豊かな国を作る。それがマムシ・・・あんたの野望だったんでしょ?」
道三「ふん・・・すべてお見通しだったか。」
信奈「美濃は私がもらうわ!!」
信奈の言葉に十兵衛は刀を抜こうと構え、その動きにキリトも反応した。
その十兵衛を道三は抑える。
道三「黙って渡すとおもうか?」
信奈「あたしがマムシの夢を引き継ぐといったら?」
道三「何じゃと?」
信奈「この国を乱れさせた古い制度なんか全部壊して南蛮にも対抗できるような新しい国に生まれ変わらせてみせるわ!私が見ているのはこの国の天下じゃない!世界よ!!!」
道三「・・・・ふふふ・・・ははははは!!そなたの目はすでに海を越えておったか!!・・・そなたの考えは正しい。しかし、その考えについてくる者はおるのか?うつけ呼ばわりがその証拠じゃ。」
信奈「さぁね・・・それでも進むだけよ。」チラッ
信奈はキリトをちらっと見て微笑んだ。その信奈の動きを道三は見逃さなかった。
道三「そこの黒服、名をなんと申す?」
キ「黒母衣衆筆頭、浅野キリトだ。」
道三「浅野とやら、そなたの噂は耳にしておる。鬼神の如き強さと聞くが・・・そのうつけ姫に本当について行くつもりか?」
キ「さぁな。だがアンタも分かってるんだろ?信奈にその夢を継がせたいって。」
信奈「キ・・・キリト!言葉を慎みなさい!」
道三「・・・・・」
道三は十兵衛に合図を送った。
十兵衛、キリトに斬りかかれ!ということだ。
しかし十兵衛は動かなかった。動けなかったというほうが正しい。自分の動きをまるで読まれているような、少しでも動いたらキリトがどの方向からでも対処し、斬られてしまうというビジョンが浮かんでしまうのだ。そのキリトの目に、十兵衛はもう殺されていたのかもしれない。
剣術には絶対の自信があった。鹿島新当流、塚原卜伝から免許皆伝を受け、これまで幾度も手合わせでは勝ち続けてきた。それゆえにこのキリトの強さがわかってしまうのだ。
キリトはその十兵衛の行動を読んでいた。そしてその十兵衛に殺気がないことも・・・。その半端な意識を逆手に取って、気迫で十兵衛をそこまで押し込んだのだ。
道三「・・・気で抑える・・・か。」
キ「失礼した。道三殿、貴方はわかっているはずです。自分の夢は、自分の子達には叶えられない・・と。」
道三「な・・・なに?」
キ「息子達は織田家の門前に馬を繋ぐことになる・・・。」
信奈「キリト・・・!何言って・・・!?」
道三「・・・・・ふふふ・・・我が心を見通しておるか。まこと、噂通りの不思議な男じゃのう。」
信奈「ど・・・どういうことなの!?」
道三「そういうことじゃよ。ワシの夢は義龍では継げぬ。我が義娘、信奈ちゃんが継ぐ。・・・であろう?」
信奈「マムシ・・・それじゃあ!」
道三「ひとまず、同盟ということで手打ちとしてくれい。」
信奈「・・・・・デアルカ!」
正徳寺会見にて無事織田家と斎藤家の同盟は成立した。そしてその帰り、道三と十兵衛はキリトを引きとめた。
道三「キリト殿、信奈ちゃんを理解できておるのは恐らくはお主一人じゃろう?」
キ「そうなのかな・・・?」
道三「うむ。我が義娘を・・・信奈ちゃんをよろしく頼むぞ。」
キ「あぁ。」
十兵衛「キ・・・キリト殿!」
キ「ん?」
十兵衛「つ・・・次は容赦しませんです!!」
キ「へいへい・・・」
犬「・・・・・出番少ない」
様々な想いが交錯するなか、信奈は天下統一にまた一歩前進したのであった。
母衣衆は【ほろしゅう】と読みます。丁度黒があったので、使ってみました。