日課の朝のトレーニングを終わる。バスルームから出てきたルイズの姿は、いつもと違っていた。リリカルスティックにマギカスーツを身に着けていた。さら愛用の杖を持っている。
「誰もいないようね」
窓の外を覗き、人影を確認する。やがて飛び立つと、いつもの広場にやってきた。
ここにも誰もいない。そして朝食まではまだ時間がある。人目を避けてこんな所にいるのは、あまり他の人に知られたくないから。
これからやる事はとても大切なこと。召喚の儀式だ。留年、進級の分水嶺。すべてはこの成否にかかっている。
ただこれは一人でなんとかしようと決めていた。ハルケギニアでの自分自身の問題であり、魔法もハルケギニアの魔法。この所パチュリー達に頼りっぱなしなのもあって、ハルケギニアに関わる問題は自分で解決しようと思っていた。
とは言っても、今まで何度やってもうまくいかなかったのは分かっている。何も召喚されなかった。実は人目を避けたのも、何度も失敗するのを、見られたくないというのもちょっとあったりする。
だがそうは言っても、成功させねばならない。そこで考えたのが、リリカルスティックとマギカスーツ。今までやった事のない組み合わせ。幻想郷で魔法少女セットを着込んだままでサモン・サーヴァントをする。もうこれ以外に思いつかない。ただ、この魔法少女変身コスチュームが説明通りだと、何も起こらないはず。サモン・サーヴァントに使われる精神力、魔力はマギカスーツに溜められ、こっちの魔法でないサモン・サーヴァントはリリカルスティックでは効果が出ない。だがそれでも、もしかしたらとルイズは考えた。いや、縋っていた。
「ふぅ……」
ルイズは大きく深呼吸すると、心を落ち着かせる。やがて、成功の願望、祈りを強くする。それこそ練り上げるように、絞り上げるように。
そして詠唱と共に……。
二本の杖を同時に振った。破裂音と共に爆発が起こった。
ルイズは茫然とする。
本来なら、失敗魔法の爆発すら起こらないはずなのに。何かあった。そう心が訴えかける。
煙で覆われた広場。その煙がゆっくりと晴れていく。そして彼女は見た、そこにいた者を。人だった。いや人の形をしたものだった。
ただこのパターン。ルイズが召喚された時と同じだったりする。慌てて周囲を見極める。またどっかに召喚されたんじゃないかと。だが煙がほとんど消えた中見えるものは変わっていない。さっきいた広場だ。つまり……召喚に成功した。
「やった……。やったわ!」
思わずジャンプしてしまう。声が出てしまう。
しばらく小躍りしていたのを落ち着かせると。座り込んでる相手を見る。そして口を開こうとした。
「あんた……。なんで裸?」
先に話した相手の第一声はこれだった。ルイズ視線を下すと肌色しか見えなかった。
「な、なんで!?あ、マギカスーツが限界だったの!?」
慌ててしゃがみこむ。着るものを何も持ってきてない。ついでにリリカルステッキも折れていた。
召喚された人物は、そんなルイズを気にも止めず、ゆっくり立ち上がる。
「で、あんた誰?もしかして、あんたが私をこんな所に連れてきたの?」
ルイズは何度もうなずく。
よく見ると相手は少女だった。青い髪にルイズにとっても似た平板なスタイル。歳は近い気がするが、それに似合わない尊大さがある。恰好はこれまた妙。大きな黒い帽子にカラフルなエプロン。もっとも、ハルケギニアでは妙に感じる姿も、この幻想郷ではこのセンスに違和感がない。つまりどこかの妖怪ではないかと、ルイズは思う。
そんな彼女の考えを他所に、この少女は視線を移した。
「あれ?ここどこかで……。ああ、吸血鬼の館ね」
ルイズはその言葉に、ちょっとショック。どうも紅魔館関係の知り合いを呼び出してしまったらしい。それだと使い魔にするにはさすがに気が引ける。
すると、縮こまってもそもそもしているルイズに声がかかる。咲夜だった。爆音を聞いて駆け付けていた。
「ルイズ様!なんて姿を……。あら?」
「あんた……。吸血鬼のメイドよね」
「なんで、あなたがこんな所にいるのよ?」
「連れてこられたからよ」
「連れてこられた?」
ルイズをふと見ると、また頷いていた。
「事情は後で伺うとして、とりあえずお召し物を」
咲夜はそう言うと、フッと姿を消した。そして次の瞬間には、バスローブをもって現れていた。ルイズは渡されたバスローブにすぐに袖を通す。
やがて一息つくと、説明しだした。
「その……召喚したの」
「召喚?なんでまた……」
首を捻る咲夜。彼女はハルケギニアの事は詳しくは聞いてないので、進級に使い魔が必要なんて事も知らない。パチュリー達なら、召喚と聞いてピンと来るだろうが。
エプロン少女はそんな二人のやり取りを無視して要求。
「とりあえず、お茶くらい出してよ。呼び出したのはそっちなんだから」
「…………」
憮然とする咲夜。しかし、懇願するルイズを見て折れる。どうもルイズにとって彼女は必要らしいと。なんで寄りによって「これ」なのかとは思っていたが。
「分りました。客間にご案内します。そこでしばらくお待ちください」
しらじらしいほど丁寧で露骨に慇懃無礼な態度を取る。だが、当の相手はまるで堪えてなかった。
小さめの客間に五人の姿。それがテーブルを囲んでいる。ルイズに、咲夜、パチュリー、こあ。そして召喚したエプロン少女。ルイズを除いた紅魔館メンバーの迷惑そうな視線が、突き刺さる。しかしその鉄面皮は、びくともしない。平然と紅茶を飲んでいた。
ちなみに吸血鬼姉妹はまだ熟睡中。この早朝では、さすがに起きてなかった。
こんな微妙な空気の中ルイズは、冷や汗もの。
客間の様子ですぐに気付いた。紅魔館の知り合いには違いないが、友好じゃなくってむしろ嫌悪している関係らしい。かなりマズイ相手を召喚してしまったと。居候の身なのでなおさら。しかも今回の召喚の話を誰にもしてなかったので、余計に心苦しかった。
まずはパチュリーが口を開く。
「ルイズ。なんで彼女がいるのかしら?」
「それは……」
そこにエプロン少女の口が介入。
「その前に、紹介してくれない。見たことない顔なんだけど」
「あんたは人が話を……相変わらずなのね。まあいいわ。彼女は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。外来人で紅魔館の客人よ」
「へー、外来人。でもここの客って事はただの外来人じゃないんでしょ?」
「あなたには関係ないでしょ」
「そんな事ないわ。だって私を呼びつけたんだから」
ふふんとばかりにエプロン少女は自信ありげに言う。一方のパチュリーは少々唖然。ルイズが全く面識のない彼女を、どうして呼び出したのか。その顔をルイズに向ける。
「どういう事?」
「召喚したの」
「召喚って……。もしかしてサモン・サーヴァント?」
「うん……」
「でもなんで、そんな魔法を今やったの?」
「だって、私、使い魔いないから。もしハルケギニアに帰れても、留年しちゃうのよ」
「あー……。言ってたわね。そんな事」
パチュリーは記憶を手繰るようにうなずいた。全て納得と。だが受け入れがたい。その召喚したのが、よりによって”これ”とは。もう一度ルイズの方をしっかり向く。
「ルイズ。あなたが召喚した相手は、いろんな意味でとんでもないわ。彼女の名前は比那名居天子。天人、つまり天界の住人よ」
「え……。天界の住人?」
それから頭に浮かんだキーワードは……”天使”。すなわち神の御使い。一瞬それはありえないと思ったが、悪魔すらいる。天使もいるかもしれない。この幻想郷では。だが、よりによって天使とは。神の御使いを目の前にして、ルイズは思わず恐縮してしまう。エプロン少女を見入ってしまう。その姿は、ハルケギニアでよく言われていた天使のイメージとまるで違っていたが。もっとも幻想郷ではそもそもいろんなものが違うので、ここでの天使はこういうものなのだろうと思った。
だがそれで納得した。みんなの顔が嫌そうなのが。なんと言っても悪魔や吸血鬼のいる館だ。”天使”とは仲が悪いのは当たり前だと。
パチュリーは残りのとんでもない事を口にする。
「それと、幻想郷のトラブルメーカーその1」
「えっ!?」
天使がトラブルメーカー?意味が分からない。実は堕天使、なんて言葉も思い浮かぶ。そうだとするとなおさら厄介。どういうふうに相手にすればいいか困る。
当の天子は憮然として言い返した。
「人の事言えないでしょ。あんた達も」
「あなた程じゃないわ」
不穏な空気。ますますルイズは肩身が狭くなる。
天子はあっさり表情を戻すと、彼女の方を向いた。
「で、ルイズだっけ。私になんの用?」
「えっと……その……。つ、使い魔になって欲しいんです……」
「えっ?」
「使い魔……」
いきなりチョップされた。脳天唐竹割を。しかも鈍い音を伴って。
「い、痛ったぁ~!」
ルイズ、頭を押さえながら悶絶。軽く叩かれたように思ったのだが、天子の手はまるで鉄で出来ているかのような硬さだった。鉄棒でゴンとやられたような激痛が頭を走る。
「な、何を……!」
「魔とか言うな。失礼なヤツね」
ツッコム所、そっち?とルイズは唖然。
だが確かに”天使”に使い”魔”というのも変というか無礼だ。じゃあなんと呼べば。使い天使?従僕?家来?どれを選んでもダメな気がする。しょうがなく当たりさわりのない言葉を口にした。
「パ、パートナーになって欲しいんです……」
「パートナーになって何をするのよ」
「その……いっしょに……生きてほし……」
「何それ?」
なんとも要を得ない解答で、ますます訳が分からない天子。しかたがなくパチュリーの方を向く。
「どういう事?」
「ルイズはあなたを使い魔にしたいのよ」
魔という言葉に反応し、今度はどっからともなく現れた30サントほどの岩を天子がぶん投げる。パチュリーに向かって。しかし、彼女は防御魔法で防ぐ。隣に座っていたルイズはちょっとビビった。
だがパチュリーは平然として、天子の不満を無視するように話を続けた。
「言ってしまうけど、ルイズは異世界からの外来人なの。そこでは一生のパートナーとして使い魔を持つのが習慣になってるのよ」
「そんなの帰ってから、適当に探せばいいでしょ」
「そうもいかないの。使い魔を探す時期は決まっていて、彼女は正にその時に幻想入りしてしまったの」
「なるほどね。つまり帰っても、時期を逃してしまってるから、持てないという訳ね。それで幻想郷にいる内に、なんとか使い魔を持とうと」
「そうよ」
「で、なんで私?」
今度はルイズの方を向いた。
「その……召喚魔法で呼び出したら、あなたがいたから」
「つまりあれは使い魔を探す魔法なのね」
「そ、そうです」
「私を『魔』認定して召喚するとか、なんてふざけた魔法なのかしらね。何?あんたが作ったの?」
「ち、違います!お、教えてもらったんです!」
慌てて首を何度も振る。不機嫌そうな天子に向かって。
一方、パチュリー達は含み笑い。ぼそぼそと日頃の行いが悪いからとか言っている。するとさらに天子がかめこみをピクピクさせている。
どうしてここの連中は、ただでさえそう広くない客間の緊張感を上げるのかと、ルイズは内心ヒヤヒヤものだった。
だが、天子は腕を組むと急に表情を和らげる。
「あんた、その内、故郷に帰るつもりよね?」
「え?あ、はい」
ルイズの返事を聞いて、少し俯いて天子は考え込む。しばらくして何かを思いついたかのように、顔を上げた。
「で、期限はいつまで?」
「その……死ぬまで……」
「ふ~ん……。あんた人間でしょ」
「はい」
「って事は、50年くらいか……。いいわ。パートナーになってあげる」
「えっ、ホ、ホント!?」
ちょっと驚いた。てっきり断られると思っていたので。相性の悪い紅魔館の客人で、しかも人間の使い魔になるのだから。
だがそう簡単に事は進まなかった。
「だたし条件があるわ。あなたが私のパートナーに相応しいか試すから」
「試すって何を……」
「ここから離れた所に、妖怪の山っていうのがあるの。そこの山頂に神がいるわ。その神の『真澄の鏡』を持ってきて。どう持ってくるかは、まかせるから」
それを聞いてパチュリーが慌てて文句。
「天子!何、無茶言ってるのよ。本当は使い魔になる気なんてないでしょ!」
「あるわよ。だって50年くらい、たいくつな説法聞かずに済むし。でも妥協する気もないの」
不敵な笑いを浮かべている天人。やっぱり厄介なヤツだと、紅魔館メンバーは憮然として彼女を見る。
パチュリーは文句いっても無駄と悟ると、ルイズに助言。
「ルイズ。使い魔は他のになさい」
「そういう訳にもいかないわ。またサモン・サーヴァントが成功するとは限らないし」
何十回もやってようやく成功した。次があるとは思えない。それにリリカルステッキもマギカスーツも壊してしまった。同じ条件で召喚できない。魔法少女セットは、また作ってもらう手もあるが、それには気が引ける。
そしてルイズは決心する。強気の表情を浮かべた。
「いいです。その条件受けます」
「へー。悪くない顔つきね。それじゃいい結果を期待してるわ」
「はい」
強くうなずくルイズ。パチュリー達はあきらめた。こうなるとなかなか気持ちを変えない事を、一緒に暮らしていて知っていたからだ。
天子は満足そうな笑顔を浮かべると、フランクに話してきた。
「ルイズ。もっと気軽にしていいわよ。私も疲れるし。そうやって畏まられるの」
「は……うん」
「それじゃ、しばらくよろしくね」
「え?」
意味が分からない。今さっき、相応しいか確かめるまで、パートナーにならないと言ったばかりなのに。それとも確かめるのは別の事なのだろうか?ルイズは頭を捻る。
「えっと……。しばらくよろしくって……何を?」
「同じ屋根の下で暮らすからよ」
「えっ!パートナーになってくれるの?」
「ならないわよ。出した課題をクリアしない限りわね」
もう、この天使は何を言っているのかサッパリだった。混乱するルイズ。
一方の天子は相変わらず空気を読まず、いいたい事だけ言う。
「と言う訳で、部屋を用意してくれない?」
「何が、と言う訳か分りません」
咲夜が憮然として答えた。
「もちろん。彼女が課題をクリアするか、確認しないといけないからよ。いつやるか分からないでしょ。いきなり呼び出されちゃ堪らないから。だから、ここに住むの。お客様待遇で頼むわ」
「な……!」
思わずいつも持っている投げナイフに手が届きそうになる咲夜。もっともナイフ程度では、この天人に傷一つ付けられないのだが。
やがてパチュリーは疲れたように解説を始める。
「はぁ……。つまりこの天人は、ルイズの使い魔を口実に説法をさぼりたいのよ」
「「…………」」
ますます厳しい目を、天子に向ける一同。しかし通じず。パチュリーはその厳しい視線のまま、天子に話しかけた。
「もう一度聞くわ。ルイズの使い……パートナーになる気はあるのね」
「それは確か」
「分かったわ。咲夜、部屋を用意して。レミィには私から話を通しておくから」
「よろしいんですか?」
「説法から逃げるためなら、ここから追い出されるような事もしないでしょ。そうよね」
念を押すかのように、天子を睨む。それに彼女は大きく満足げに頷いた。
それを見届けると、パチュリーは指示を出す。すると咲夜の姿が消える。次の瞬間には、天子の隣に立っていた。部屋の準備が整ったと言い、天子を案内するため連れて行った。不機嫌そうに。
二人が部屋から出ていくのを見届けると、ルイズは急に頭を下げる。幻想郷のトラブルメーカーと言われた意味を、身をもって知ってしまった。
「パチュリー、ホントごめんなさい。こんな事になっちゃって……」
「全く、だからやめなさいって言ったのに」
「でも……もう二度とサモン・サーヴァントが成功しないかもしれないし……」
「まあ、決まってしまったものは仕様がないわ。それにちょっと面白くなってきたかもとも思ってるのよ」
「面白く?」
「一つはコントラクト・サーヴァントが天人に通用するか。そして通用した場合、使い魔となった時の効果はどんなものなのか。とかね。いろいろ見てみたくなったのよ」
ルイズはちょっと感心する。いつでも好奇心が前に出るのか。この魔女は。というよりここの住人達は。あくまで前向きなのだ。
しかし、彼女の言う点は確かに引っかかった。コントラクト・サーヴァントが、天上の存在を想定して魔法を組んだとはとても考えられない。そもそも天使なんて、ハルケギニアでは空想上のものでしかないのに。効果がない可能性は十分にある。少しばかり不安になる。
うつむいたルイズに、パチュリーが声をかける。
「それよりも、まず大きな問題があるわ」
「え?ああ……。妖怪の山の神の鏡を持ってくるって話ね」
「そ」
「妖怪の山って言うくらいなんだから、妖怪で溢れてるんでしょうね」
妖怪の山と聞いて、幻想郷の妖怪総本山みたいなものを想像する。きっと見た事もない妖怪がたくさんいると。そしてその山頂の神。当然彼らの崇める神なのだろう。山頂に神殿があって、そこに宝物として鏡が大切に祀られているに違いない。その鏡を持ち出す。まさしく至難の業。ただ、どう持ってくるかは任せると言っていたから、何も盗めとは言ってない。できればしたくない。何か発想の転換がいるんじゃ……といろいろと頭を巡らす。ともかく、まずはその妖怪の山とはなんなのか知らないと。そう思い、パチュリーの方を向いた。だが、先に彼女が口を開く。
「確かに妖怪は沢山いるわ。それに縄張り意識も強いからやっかいよ。でも一番やっかいなのは、その神ね」
「え?どういう事?」
「だって神から鏡を持ってくるんでしょ?」
「うん……。祀られてるものを持ってくるんだから……」
「そうじゃないの。真澄の鏡は神の持ち物なのよ」
「どういう意味?」
ルイズにはまたもや意味不明。幻想郷に来てこう思ったのは何度目か。
祀られている鏡を持ってくるんじゃない?鏡は神の持ち物?いろんな言葉をいくつも頭の中で並べていると、そんな事はあるはずないという発想が浮かんできた。ゆっくり口にする。
「その……。ま、まさか……神様って”居る”の?」
「そう”居る”の」
「えええーーーっ!!」
これはもちろん神の存在を信じているとかいう意味ではない。実体として存在するという意味だ。悪魔や天使がいるからと言って、それはいくらなんでもないだろうと思っていた。だが、そんな発想こそこの幻想郷ではあり得なかった。
茫然とするルイズ。神が実在するという感覚を、どう捉えていいか分からない。そんな彼女を他所にパチュリーの言葉は続く。
「その神は風雨の神なんだけど、戦争の神でもあるわ」
「せ、戦争の神……!」
「そしてもう一つ」
「な、何?」
「幻想郷のトラブルメーカーその2よ」
「ええーーっ!」
最悪だ。
トラブルメーカーである戦争の神の持ち物である鏡を、持ってこなければならない。
疲れたようにルイズはボヤく。
「あの天使、本当に使い魔になる気あるのかしら……」
「本人にとっては、どうころんでもいいんでしょ。鏡の件が片付くまで説法から逃げられたら儲けもの、程度にしか考えてないんじゃないかしら。それに異世界に行くのに、使い魔になるのを受け入れたのも気になるわね」
「なんで?」
「帰ってこれないかもしれないからよ。もしかして、ろくでもない事を、企んでるかもしれないわ」
「あいつ!堕天使だわ!」
もう恨み節。最初の恐縮さはどこかへ吹き飛んでいた。しかし、もう話は決まってしまった。後には引き下がれない。やるしかない。
ちなみに後で、パチュリーから天人と天使の違いを指摘された。天子はルイズの考えていた天使とは違うのだと。結局、天上の存在ではあるものの、純粋に困ったちゃんである事だけが、残ってしまった。そしてその神の件については、また魔理沙達も混ぜて対策を練ってみるとも言っていた。
部屋に戻ると、ルイズはすぐにベッドに突っ伏した。
考えれば考えるほど絶体絶命。まさかこんな事になろうとは。単に使い魔がいないと、留年してしまうという話だったのに。
そしてもう一つ。またもやパチュリー達の手を借りるハメになりそうだ。確かに、こっちに来て自分でいろいろとやるようにはなった。だが借金の件にせよ、食い逃げの件にせよ、今回にせよ自分でやると決めておきながら、結局彼女たちの手を煩わしてばかりだ。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだった。もちろん彼女たちなりに利点というか楽しみを見つけて、付き合ってはいるのだが。それでもルイズはたくさん恩を感じていた。いつか返さないと、と胸に思う彼女だった。