ルイズと幻想郷   作:ふぉふぉ殿

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主と使い魔

 

 

 

 

 今日もトリステイン魔法学院での授業が、いつもと同じように終わろうとしている。何気ない日常だが、今ではそのありがたみを誰もが受け止めていた。なんと言っても、ほんの少し前は戦争のため授業どころではなかったのだから。しかしアルビオン軍撃退後は、かつての風景を取り戻しつつあった。

 生徒達は、勉強道具を鞄にしまい、席を立とうとしていた。すると授業担当のミセス・シュヴルーズが声をかける。

 

「みなさん。もうしばらく、席に座っておいてください。お知らせがあります」

 

 一瞬戸惑った生徒達だが、浮かしかけた腰をまた下ろす。彼らが見たその太めの女性教師の顔は、いつも以上にほころんでいた。丸い顔なんで余計に。

 

「大変、喜ばしいお知らせです」

 

 やけに明るい声に、なおさら不思議そうな生徒達。シュヴルーズはドアの方を向くと声をかけた。

 

「お入りください」

 

 開いたドアから、見慣れた禿かかった眼鏡、もといコルベールを先頭にぞろぞろと人が入って来る。一体何事だと生徒達は怪訝な顔。だが、だんだんと誰もが気づき始めた。小声があちこちから上がる。

 

「あれ?ルイズじゃないか?」

「え!?……本当だ……」

「そうよ、ルイズだわ!」

「戻ってきたの!?」

 

 教室上がざわめきで溢れかえる。

 もっとも一部のというかキュルケ、タバサ、モンモランシーの三人だけは、やっと来たかという感じだったが。

 

 やがて檀上に、コルベールの後についてきた面々がずらっと並ぶ。それを待っていたかのようにシュヴルーズが口を開いた。

 

「みなさん、お静かに。もうお分かりですね。そうです、あなた方のお友達、ミス・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが戻って来たのです!」

 

 シュヴルーズは高らかに宣言。大スクープを掴んだ記者のように。

 

「さ、ミス・ヴァリール。ごあいさつを」

「はい。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。みなさんには、大変ご心配をおかけしました。ですが、こうして無事帰って来られました。これからは以前と同じく、よろしくお願いします」

 

 整然と挨拶をするルイズ。それに拍手を返すコルベールとシュヴルーズ。生徒達もそれにつられるように拍手をした。ただ微妙な表情で。いや、むしろ違和感という顔で。

 まずルイズ。確かに彼女だ。間違いない。しかし、何やら顔つきや雰囲気が変わっている気がする。そして手にしている杖も見知っているものではなく、やけに長い。普通の杖の2倍以上はある。教壇に立つピンクブロンドの少女。だが、自分達の知っている彼女が戻って来たような気はしなかった。いや、生まれ変わったと言うべきか。それに近い感覚だった。しかもそれだけではない。ルイズの横にいる奇妙な恰好をした連中はなんなのか。あきらかに異質な気配を撒き散らしている。

 不思議そうな顔を浮かべる生徒達に対して、コルベールが一歩前にでる。

 

「みなさん、いろいろと疑問があるでしょう。まずは説明したいと思います」

 

 そこからこれまでの経緯が語られる。今まで話したロバ・アル・カリイエの一地方、ゲンソウキョウという国にいたと、そしてなんとか戻って来たと。もちろんルイズ自身から聞いた話なので、異世界という言葉は出てこない。

 ただはるか東方からどうやって戻って来たのかという事は、誰もが気になった。しかし貴族の名誉にかかわるものもあるので、そこはあまり詮索しないように注意される。それを聞いて誰もがしみじみ思う。ルイズはかなり厳しい旅を続けてきたのだろうと。貴族の名誉を捨てねばならないほど。

 

 すると生徒達に次の疑問が浮かんだ。ルイズの隣にいる異様な面々。どう見てもハルケギニアの住人ではない。となると答えは一つしかなかった。するとギーシュがおもむろに立ち上がる。そして尋ねた。

 

「えっと……ミスタ・コルベール。ルイズの隣の方々なんですが、もしかして……ロバ・アル・カリイエの方々なのですか?」

「察しがいいですね、ミスタ・グラモン。その通りです。彼女達は、ゲンソウキョウという国の貴族の方々です。それでは紹介いたしましょう……」

 

 パチュリー達が紹介されている中、ざわめき始める教室。なにせ噂話。時にはおとぎ話程度でしか耳にしない世界の住人が、目の前にいるのだから。しかも貴族。つまり魔法が使えるという事。生徒達は幻想郷メンバーの異質感よりも、好奇心に心を躍らせていた。

 もっとも貴族というのは方便だ。平民ではいろいろとトラブルになりそうなので、幻想郷メンバーを貴族にしたのだった。魔法やら能力やらを使うのに都合がいいというのもあって。

 

 ところで、一方のルイズ達。特にルイズは、なんだか懐かしさに感極まっていた。こうして目に入る光景はほんの数か月前まで、彼女の日常だった。だが今は何年も前の事だったように感じる。幼馴染の女王に会い、愛すべき家族にも会った。ついでに腐れ縁の宿敵にも。そしてこの教室。自分の世界。そこに戻って来たという実感で、胸が満たされようとしていた。

 だが、それを邪魔する無粋な音がした。隣から。

 小刻みに床を踏む音。非想非非想天の娘、天子だった。腕組んで結構不満そう。コルベールの話が長いからだ。こらえ性のない天子ではこうなるのも無理もない。しかしそうなると思って、ルイズは事前に、注意しておいたのだが。天子はあいかわらず。使い魔の主は、小声で一言。

 

「ちょっと、静かにしてなさいよ。さっき少し我慢してって言ったでしょ」

「いつまで続くのよ」

「そんなに掛んないわよ」

「あとちょっとね。分かった」

 

 天子、足踏みを止めた。だが不満を無理やり抑え込んだようで、何やら危なげな空気を感じる。ルイズは少しばかり焦りだす。早く終わってくれと。

 それにしても、パチュリーやアリス、文、衣玖、あの魔理沙でさえ静かにしているというのに、この天人は相変わらず。まるで子供をしつけているような気分になるルイズだった。

 

 さらにもう一つ浮かぶ不安。このメンツを家に招待しないといけない。なんとしても無事に済ましたかった。だがトラブルのネタなら事欠かない連中。しかもすでに問題の要素が一つ出ている使い魔について。家では使い魔の事でも、少々無理なごまかしをして、納得してないという顔を向けられている。ともかくルイズの当面の悩み事だった。

 

 ちなみに、文の羽は畳み込んで隠している。そしてこあは留守番。文と違って羽を隠しようがないというのもあるが、作ったばかりの拠点を留守にするのもマズイという事で、残っている。

 

 コルベールの話は続く。ルイズの焦りと天子の不満を他所に。

 

「この方々は、ハルケギニアに興味を持ち、ミス・ヴァリエールと共にこちらに参られました。さらに、王家の来賓として迎えられています。ただ、はるか遠方からの来賓。いらぬ混乱を避けるため、公表を避けるように通達がありました。ですので、みなさん。あまり騒ぎ立てないようお願いします」

 

 その言葉で、ざわめいていた生徒達の口が閉じる。ちょっと残念そうな顔と共に。いろいろと聞きたい事を山の様に頭に浮かべていたのだが、騒ぎ立てるなと王家から言われてしまうと黙るしかない。

 

 それではという事で、ルイズの方に注目が集まった。一人の生徒が質問を口にする。

 

「その……ルイズのマントの色なのですが……やはり進級できたという事なのでしょうか」

「はい。その通りです」

「では召喚の儀は、結局成功してたのですか?」

「はい。その契約した相手こそ、ミス・ヴァリエールの隣にいる方。ミス・ヒナナイです」

 

 生徒達から驚きの声が上がる。よりにもよって人間、しかも貴族と契約をしたと。静まった教室がまたざわめく。あのゼロのルイズの使い魔となった東方の貴族。いったいどんな相手なのか。

 

 一方、ルイズはそれどころではなかった。冷や汗がどっと出る。マズイという直感が背筋を走る。というのも、この話の流れではあの禁句が出てきかねないから。しかも当の天子は、不機嫌度がMAXに近づきつつあった。ルイズは、なんとか話をそらそうと……。

 

 だが、遅かった。ギーシュが口を開いていた。

 

「では、ミス・ヒナナイがルイズの『使い魔』なので……」

 

 風を切るような音が、ルイズの脇からした。気づくと、ギーシュに向かって岩が飛んできていた。すさまじい勢いで。

 

「えっ!?」

 

 茫然と立ち尽くすだけのギーシュ。次の瞬間には要石が直撃していた。

 

「ぐぇっ!」

 

 ガチョウが絞められたような声とともに、吹き飛んだ。そしてパタリと床に落ちる。

 

 教師も生徒も全員が固まっていた。何が起こったか分からない。ただその目に映るのは、床に突っ伏したギーシュと、彼がいた場所に浮いている30サントほどの岩。岩は妙な紙のぶら下がった縄がまかれ、くるくると回っている。やがて岩は吸い寄せられるように天子の手元へ戻り、キャッチ。

 息を飲む一同。今のは何か?東方の魔法なのか?そもそも何故岩が飛んでいったのか?理解が追いつかない。

 

「ぐぐぐ……」

 

 視線が天子に集まっている中、反対側からうめくような声が上がった。床の上で。ギーシュだった。彼は四肢に力を込めながらゆっくりと立ち上がった。瞳に怒りの炎を浮かべつつ。そして天子に向かって怒号を上げた。

 

「な、なんの真似だ!」

「あんたが、『使い魔』とか言うからでしょ」

「はぁ!?なんだ、それは!?訳が分からない!」

 

 ギーシュが珍しく我を忘れて怒鳴っている。だが彼の言う事ももっとも。特に無礼を働いた訳でもないのに、いきなり吹っ飛ばされたのだから。確かに天子にとって使い魔という言葉は禁句。だが、彼が知っている訳もない。

 実は先に学院長室で挨拶をしたときに、この点を事前にコルベールが説明する手筈になっていた。もちろん天子の方にもルイズから、騒ぎを起こすなと言っている。一応。

 ただ、当のコルベールが話に夢中になって忘れていた。頭の薄い教師は、慌てて二人を落ち着かせようとする。

 

「あ、その……ミス・ヒナナイ!説明が遅れて申し訳ない!ミスタ・グラモン!怒りを抑えてくれたまえ!実は……」

 

 しかしコルベールの声は、ギーシュの耳には入ってない。

 

「ゆ、許せん!決闘だ!」

「ま、待って!」

 

 杖を抜こうとした彼を、止める姿があった。モンモランシーだ。その表情はあからさまに動揺していた。彼女は天子が何者か知っている。無理もない。

 

「せ、せっかくルイズが帰って来たんだから。そういうのは無しにしましょ。それより、怪我してるんでしょ!?ほ、ほら、治療しないと」

「いや!トリステインの貴族として、武門の家の者として、こんな侮辱を受けては我慢ならない!」

「そ、その……き、貴族同士の決闘は禁じられてるのよ」

「それは学院の生徒の間だけだ!」

 

 彼女の必死の声でも収まらない。しかし、モンモランシーの応援が入る。キュルケだった。

 

「恋人のいう事は聞いた方がいいわよ」

「え?」

 

 ちょっとばかり驚くギーシュ。こういうイベントはむしろ煽りそうな彼女だと思っていたが、言っている事はその逆。しかもやけに真面目そうな顔つきで。さらに応援がもう一人。タバサだった。

 

「国の来賓に決闘を申し込むのは、さすがに問題」

「う……」

 

 ギーシュ、黙り込む。そして渋々、席に戻った。確かに王家の客人相手に決闘するのは問題だ。だがそれ以上に二人の態度に、少しばかり気圧されたのもあった。そもそもキュルケだけではなく、いつもなら我関せずのタバサまでもが、止めに入るのだから。独立独歩気味の実力者と知られている二人。この二人までもが止めに入る相手。何かおかしい。ギーシュには腑に落ちないもの浮かぶ。そんな訳で、怒りが収まり始めていた。

 

 だが、寝た子を起こすような声が耳に入る。檀上から。

 

「決闘よ!」

 

 ルイズの声。間違いない。使い魔に代って主が名誉を賭けようというのか。ギーシュ、さすがにもうこれは引っ込む訳にはいかない。憤怒の顔を起すと立ち上がった。そして杖に手をかける。

 

「いいだろう!そこまで言うなら……あれ?」

 

 杖に触れた手は力なく降りていく。檀上の様子を見て。

 確かにルイズは杖を向けていた。ただしそれはギーシュの方ではない。

 隣にいる使い魔の方だった。

 

 

 

 

 

 突然、学院長室の扉が開くと、コルベールが飛び込んできた。

 

「学院長!」

「なんじゃい。新しい秘書でも見つかったかの?」

「は?」

「ほれ、頼んでおいたじゃろ。秘書がいなくなったから、探してきてくれと。美人でスタイルのいいのを」

「そ、そんな事はどうでもよろしい!」

「カリカリしとると、また毛が抜けるぞ」

 

 思わず頭に手をやるコルベール。だが、すぐに我に返ると、一つ咳払いを入れ落ち着く。

 

「学院長。生徒が決闘しようとしています」

「そんなもん、しょっちゅうじゃろう。遊びのようなもんじゃろうに。大っぴらでないなら、放っておけ」

「それが、ミス・ヴァリエールとミス・ヒナナイなのですよ!」

「ん?あの二人は主と使い魔の関係と聞いておったが……」

「そうですよ」

「主と使い魔が決闘?妙な事もあるもんじゃな」

「しかも使い魔は、あの『ガンダールヴ』のルーンを持つ者ですよ。いかがいたします?」

 

 『ガンダールヴ』。伝説上にしか存在しないと思われていた使い魔のルーン。それがはるか東方から来た人物に刻まれていた。気づいたときには、さすがの二人も驚く。だが、むしろ遠方の者だからこそ、刻まれたのではと考えを変える。それ故、ルーンに真実味があった。

 

 厳しい顔のコルベールの問いに、オスマンは長い髭をいじりながら考える。やがて口を開いた。

 

「では、見物するとするかの」

「と、止めないのですか?」

「彼女達を見ておると、どうも気心の知れた仲のようじゃし。そう無茶はせんじゃろう。それに……」

「それに?」

「『ガンダールヴ』のロバ・アル・カリイエの貴族が、ここで暮らすのじゃ。しかも他の東方の貴族も面倒見らんといかん。力のほどを知っておきたい。手に余るのか、なんとなるのかをの」

「なるほど」

「王家もやっかいなものを、押し付けたもんじゃて」

 

 オスマンはブツブツと文句を言いながら、遠見の鏡を取り出した。やがて鏡にルイズと天子の姿が映りだした。

 

 

 

 

 

 決闘の場である広場には人が集まっていた。彼らの視線の先には二人の姿。当事者である、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと比那名居天子。

 

 教室での騒動。あまりの天子の傍若無人ぶりに、ルイズも我慢の限界。沸点の低いルイズにしては、頑張ったというのに。それにこのメンツを実家に招待する予定になっている。一番トラブルメーカーになりそうな天子を、なんとしても手なづけないとならなかった。もはや白黒つけるしかないと、覚悟を決めた。

 ルイズの天子への要求は一つ。勝利の暁には、使い魔として主に従うようにする事。要は、普通の主の使い魔の関係になれと、当たり前の要求だった。一方の天子は、『緋想の剣』持ち出しをなんとか見逃してもらう事。もっともこれは、衣玖がやるのだが。最初、天子は決闘を拒否していた。勝ってもメリットがないので。だが衣玖の取り成しで決闘を決意。勝利の見返りを用意するからと。それが『緋想の剣』について総領に口利きをするというものだった。

 

 二人を囲んでいるクラスメイト達は、少しばかり興奮気味の様子で眺めていた。使い魔の主と使い魔が決闘するという、あり得ない珍事がここで起ころうとしていたのもある。それ以上に、ロバ・アル・カリイエの貴族の力を見られるというのがあった。

 

 そんな中にキュルケもいた。タバサ、モンモランシー、ギーシュと共に。だがギーシュ以外は他のクラスメイトほど興奮してはいない。むしろ少々不安だった。キュルケがそれを口にした。

 

「ルイズどうするのかしら?」

「どうするって?」

 

 モンモランシーが尋ねる。それにキュルケは、少しまくしたてるように言った。

 

「あなたはあの後見てないから知らないだろうけど、あの天子って子、ほんと化物じみた強さよ」

「そんなに強いの?」

「スクウェアレベルのメイジでなんとか……なるかしら?」

「そんなに!?じゃぁ、ルイズどうやって勝つの!?」

「だから、どうするのかって思ったのよ」

 

 そんな二人の会話を聞いていた、ギーシュが割り込んできた。

 

「もしかして、以前にあのロバ・アル・カリイエの貴族達に会ってるのかい?というか、そうとしか聞こえないんだが」

 

 一瞬黙り込む二人。観念したようにキュルケが話し出す。

 

「他言無用よ。実はルイズがトリステインに帰ったばかりの時に、偶然出くわしたのよ。あの連中と一緒にいたところにね」

「そうなのかい?でも、なんで今まで黙っていたんだよ」

「そりゃ、騒ぎになるでしょ。消えてしまったルイズが戻って来たんだもの。それだけでもね。で、ルイズから口止めされてた訳」

「なるほど」

 

 キュルケの言っている事にうなずく、ギーシュ。するとふと疑問を浮かんだ。

 

「ところで……先に会った君達に、聞きたいんだけど……」

「何?」

 

 モンモランシーが答える。

 

「あのヒナナイテンシって貴族は、本当にルイズの使い魔かい?」

「どういう意味?」

「人間を使い魔にするなんて聞いた事ないし、決闘するほど主と使い魔の仲が悪いってのも聞いた事がない。使い魔がどんなものでも普通、主とは仲がいいもんじゃないのかな?だいたい、サモン・サーヴァントで呼び出された所も、コントラクト・サーヴァントで契約した所も誰も見てないんだろ?」

「う~ん……。言われてみればそうだけど……。でも、使い魔のルーンが刻まれてたわ。手に」

「確かにそれらしきものがあったけど、あんなルーン知らないよ。ただの入れ墨じゃないのかな?」

 

 それを聞いて、考え込むモンモランシー。普通、使い魔の召喚も契約も第三者の前でやる。ワザワザ証明する必要などない。だがルイズと天子の場合は、彼女達の証言のみが唯一の証なのだ。そして『ガンダールヴ』のルーンは、一部の教師や研究者しか知らなかった。

 するとそこでキュルケの声が挟まれた。

 

「それじゃギーシュは、ルイズが嘘ついてるって思ってる訳ね」

「可能性もある、って言ってるんだよ」

「それはないわ」

 

 キュルケ、あっさり断言。ギーシュはちょっと意外そうな顔を浮かべた。

 

「ルイズは、そういう見栄を張るための嘘はつかないわ。口にした事は無茶でもやろうとするしね」

「ずいぶんとルイズの肩を持つんだね」

「肩を持つって言うか……、経験則というべきかしら」

 

 少しばかり鷹揚な態度で答えるキュルケ。それにタバサのツッコミ。

 

「いつもルイズを、からかっていたから」

 

 キュルケ、ちょっと気まずそうな顔。思わずギーシュは納得してしまっていた。

 

 一方、広場の中央では、ルイズと天子、そして審判役の衣玖が集まっていた。他の幻想郷メンバーは校舎の、屋根に座って眺めている。

 魔理沙が隣のアリスに尋ねた。

 

「ルイズってチルノ以外に、弾幕ごっこで勝った事なかったよな」

「練習でもね。チルノも、だまし討ちみたいなもんだったし。ま、あの子も随分腕が上達したし、頭の回転もいいから結構いい勝負するんじゃないかしら」

 

 この会話を聞き、文が嬉しそうに言葉を添える。

 

「見ごたえあるのは間違いないって事ですね」

 

 そう言って、カメラを広場に向けていた。

 

 広場中央では、ルイズと天子が向き合っていた。そしてルイズが話しかける。なんかやけに楽しそうな天子に。

 

「天子。幻想郷の決闘に弾幕ごっこのルールがあるように、ハルケギニアの決闘にもルールがあるわ」

「うん」

「まず、これを持って」

 

 そう言ってルイズが差し出したのは一本の棒。ちょうど普通の杖くらいの長さだ。手にした天子は不思議そうに尋ねる。

 

「何これ?」

「杖の代わりよ」

「別にいらないんだけど」

「決闘にいるのよ。ルールを説明するわ。ルールその1.降参を口にした方が負け」

「うん。当然」

「その2.杖を折られた方が負け」

「そのための杖か。ふ~ん」

「その3.吹き飛ばされた時の着地以外じゃ飛んではダメ」

「飛ぶのダメか……。うん。分かった」

 

 天子は嬉しそうに大きくうなずく。それはもう、並んでいたアトラクションの順番がようやく来た子供のよう。決闘というのにこの態度。普通のハルケギニアの貴族なら、怒る所だろう。しかしルイズには分かっていた。幻想郷の住人にとっては、これもちょっと変わった遊びにすぎないのだと。

 やがて、衣玖が間に入る。

 

「それでは、お二人共。位置についてください。そろそろ始めます」

 

 二人は、距離を取るように別れた。

 

 遠くに緊張感を漂わす二人。それを眺めているギーシュは、疑問を口にした。

 

「決闘にあんなルールあったっけ?」

「実質的にはある」

 

 意外にも答えたのはタバサ。それにキュルケが補足。

 

「杖を折られたら、魔法は使えなくなるからその時点で負けたも同然だわ。それに飛ぶのは禁止されてる訳じゃないけど、飛んだら他の魔法が使えないしね。逃げ回って相手の精神力切れを狙うってのも考えられなくもないけど、そんな戦い方じゃ勝っても後ろ指さされるだけよ」

「そうか。意識はしてなかったけど、確かにそうだ」

 

 うなずくギーシュ。その横でモンモランシーは微妙な顔つきで広場中央、ルイズを見ていた。

 

「それにしても、ルイズのあの恰好なんなのかしら?」

 

 ここにいる誰もが同じ感想を持っていた。ルイズの恰好に。

 いつものシャツにスカートではなく、キュロットみたいな半ズボンらしきものをはいている。そして上着は半そでのタブレットみたいなもの。だが何か違う感じを思わせる。さらに上着の背中に記されているルーンというか文字みたいなもの。貴族の証とでもいうべきマントは、端を巻き上げられ紐状にして、腕を巻くようにして背中で結ばれている。全体を緑に染めたその服装は、誰もが初めて見るものだった。

 何か新しい魔法の準備か、あるいは服自体がマジックアイテムなのか、と勝手な事を考える見物人達。

 

 だがこれ。実は美鈴からプレゼントされたもの。つまりは中華風道着。背中に綴られている文字はもちろん"龍"。ルイズの長い髪は三つ編みで一本にまとめられ、動きやすいようになっている。そしてマントはまとめて襷代わり。師匠のプレゼントに身を包んだルイズは、やけに長い杖を右手に持つと、構えを取る。右自然体、重心はあくまで正中。もはやメイジというより、刀術か棒術を使いこなす拳法使い。

 

 そんなルイズの姿を、天子は楽しそうに見ていた。

 

「ルイズ。一つ、聞きたいことがあるんだけど」

「何よ」

「あんた、黄昏ルールって知ってる?」

 

 黄昏ルール。幻想郷の弾幕ごっこのもう一つのルール。地上戦を主体として、美しさや回避の巧みさを競うのではない、より実戦的なルールだ。さらに肉弾戦を組み込んでいる点も違っていた。

 ルイズは天子に答えた。

 

「やった事ないけど知ってるわ」

「私、そっちの方が得意なのよねー」

「……!」

 

 ルイズ、息を飲む。普通の弾幕ごっこじゃまず勝ち目はない。だから地上戦に持ち込めばと思っていたが、まさかこんな見落としがあったとは。

 

「普通の弾幕ごっこも飽きてたから、こういうのも悪くないし。でも、なるべく楽しい方がいいから、すぐ倒れないでよね」

 

 天子は腕を組むと悠然と構える。

 一方、ルイズは冷や汗一つ。だが、思い起こせば、幻想郷に行ってから自分よりはるかに強い連中とばかり戦ってきた。そして天子も当然自分より強い。それにこの戦いも、ルールのある決闘だ。これもまた幻想郷と同じ。考えてみれば、いつもと同じなのだ。ルイズは覚悟を決める。すると不思議と、笑みがこぼれていた。

 

「そのつもりよ。こっちも楽しませてもらうわ」

「うんうん。なんか、面白くなってきた。衣玖、いつでもいいから」

 

 すると衣玖が手を上げる。

 

「では、始め!」

 

 手が振り下ろされた。

 直後、天子のいた場所から土煙が上がる。一瞬誰もが、ルイズの失敗爆発魔法と思ったが、爆発音ではなかった。実は天子が大地を蹴って、猛ダッシュ。天人の馬鹿力が地面を吹き飛ばす。

 見物人が天子の姿に気づいたときには、もうルイズの目の前に迫っていた。ニヤリと笑みを浮かべる天子。その拳がルイズに向かった。

 

 だがルイズ。突き出した天子の拳を、体術で見事にかわす。狙いが杖と読み通りだったのもあって。それに弾幕ごっこでは、かわす技術は基礎の基礎。修練を積み重ねたおかげ。

 

 かわされた天子はそのまま直進。

 その方向にいた生徒達は、驚いてフライで飛ぶ。天子は彼らをあっという間に通り越すと……校舎の壁に直撃。

 壁から土煙が上がった。

 言葉に詰まる生徒達。それはモンモランシー達も同じ。

 

「え!?自爆?っていうか大丈夫なの?あの子」

 

 それはここにいる誰もが思っていた。瞬時にあれだけ動いたのも驚きだが、あの勢いで壁にぶつかったのだから、無事で済むはずないと。

 だが、それにキュルケが答える。

 

「たぶん、なんともないわ」

「あれで?」

「たぶんね」

 

 モンモランシーは視線を土煙に向ける。するとその中から、平然と天子が歩いて出てきた。怪我をした様子もない。やがて煙が晴れてくると、彼女の背後に見えてきたのは……大穴。壁に大穴が開いていた。ギーシュが息を呑む。

 

「あんな穴、空けるほどの勢いでぶつかって、なんともないなんて……。いったいどんな魔法だろう?」

「……」

 

 何か言いたげだが口をつぐむキュルケ。一方、タバサが珍しく感想を口にした。

 

「避けたルイズもすごい」

「そう言えばそうね。あの恰好のおかげ?」

 

 同じ状況にあったら、キュルケはとても避けられそうにないなんて思っていた。

 

 一方の天子は、しばらく進むとルイズに声をかけた。

 

「体術習ってからそんなに経ってないのに、いい動きするじゃないの」

「教え方がよかったからね」

「んーなら、ちょっと違うのやってみようかなー」

 

 その言葉と同時に、天子の目の前に要石が現れた。ちょっと大き目の。ルイズは思わず身構える。弾幕が来る。そう直感した。

 天子に不敵な笑みが浮かぶ。

 

「んじゃ、行くわよー」

 

 ぶわっとばかりに、天子を中心に弾幕が広がった。それこそ花火のように。

 広場にいた生徒達は目を剥く。自分達に光の弾が迫って来ていた。慌てふためいて一斉に空へと飛ぶ。それはモンモランシー達も同じ。

 

「何よあれ!?東方の魔法!?」

「あんなたくさんの光の弾……。しかもずっと撃ち続けるなんて……」

 

 ギーシュもただただ目を見開いて、驚きをこぼすだけ。それはここにいるほとんどの生徒が、同じ気持ちだった。

 

 しかしルイズにとっては見慣れたもの。いつもの通常弾幕。地上なので飛んでるようにはかわせないが、それほど難しいものではなかった。いや、それが逆に気になっていた。

 

「密度が甘いわね……。こっちを落とすつもりじゃなさそう。何か狙ってる?」

 

 警戒しつつも軽いステップで、弾幕をかわしていく。

 当たっても弾幕ごっこと違いミスになる訳ではないが、弾幕自体はそれなりにダメージがある。人外ならともかく、人間のルイズには避けない訳にはいかなかった。

 

 弾幕を周囲に撒き散らす天子、楽しそうに口元が緩んでいた。そして、ルイズを指さす。

 

「それ!『非想の威光』!」

 

 要石から七条の筋、レーザー。

 ターゲットのルイズの周りにはまだ弾幕が溢れている。その弾幕をかわすため、彼女の動きは制限されていた。逃げ場がない。通常弾幕は、動きを封じるためのものだった。

 だが、ルイズ。魔法を発動。虚無の魔法『エクスプロージョン』を。

 爆音と共に辺りの弾幕が吹き飛ぶ。空いた隙間に体を滑り込ませ、レーザーを紙一重でかわした。

 『エクスプロージョン』は詠唱しだいで、艦隊まるごとから小石程度まで、爆発の規模を自由に選べる。さらに爆発する対象も選択可能。使い方しだいでは、かなり便利な魔法だった。さらにこの決闘は弾幕ごっことは違う。弾幕を吹き飛ばすのは、なにもスペルカードでなくてもかまわない。

 

 空に浮いているキュルケ達は、そんな二人の戦いを瞬きもせず見つめている。

 天子の見た事ない攻撃も驚きだが、それをかわし続けているルイズにも驚いていた。

 

「あの魔法を全部避けてるなんて……。いったいどんな目に遭ってきたのかしら……」

 

 まるで生まれ変わったかのような彼女に、言葉も途切れる。

 

 天子の攻撃を全てかわしたルイズ。今度は攻めに転じた。

 

「そこっ!」

 

 天子の足元が爆発。

 だが、爆煙の後には天子の姿はない。ルイズは目を凝らす。その時、視線の端にひっかかる影があった。

 

「上!?」

 

 ルイズは思わず真上を見上げた。10メイルほど上に、天子が宙を舞っている。彼女は別に飛んだ訳ではない。単にジャンプしただけだ。ただし天人の剛力で。天子はルイズを大きく飛び越し、後ろへ降りようとする。

 しかし、今度は天子が着地しようとした場所が吹き飛んだ。大穴が空く。

 

「うわっ!?」

 

 落とし穴にでもはまったように、穴に落ち込んだ。

 

「やってくれたわね!」

 

 すぐさま穴から出ようとする天子。だが、辺りで爆発がいくつも起こった。一旦、止まる。

 

「爆発に巻き込んで、杖を折る気?」

 

 天子の持っている杖はただの木の棒。ちょっとした衝撃で折れる事もある。やけくそ気味の爆発でも、勝負を決めてしまう可能性はあった。

 

「でもねー。それじゃ、つまんないって!」

 

 穴から飛び出ると、真っ直ぐルイズの方へダッシュ。対するルイズ。杖を真一文字に振る。弾幕斉射。横一列の中型弾幕。人間サイズの光弾の列が、薙ぐように天子へ向う。

 

「そんなんじゃ、止められないってば!」

 

 天子は杖を背中に回して守ると、迫る弾幕へ突貫。あたっても別にミスになる訳ではない中型弾幕。こんなものが、天子の脅威になるハズもなかった。中型弾幕を吹き飛ばし、さらに突撃。

 

 だが、すぐに足が止まる。弾幕を抜けた先、そこにルイズが見当たらない。

 

「あれ?」

 

 左右を見回すがどこにもいない。遠くに逃げた様子もない。もしかして、自分と同じように、空へジャンプしたのかと考える。ふと、上を見上げた。

 すると、手元から軽い音。

 音に釣られて顔を向けた先にあったのは……折れた杖だった。

 

「えっ!?えーーーーっ!?」

 

 唖然とした声を上げるしかない。いったい、いつのまに?どうやって?天子の頭にハテナがいつくも浮かぶ。

 すると、どこからともなくルイズの声がした。

 

「私の勝ちね」

 

 見た先にあったのは、穴から這い出ようとするルイズ。それで天子は理解した。

 

「あの時のやけくそ爆発……、穴掘るのごまかすためだったのね」

「そうよ。爆発で穴掘ってたの。それから中型弾幕でアンタの視界を奪って、穴に隠れる。後はアンタが私を見失って止まってる隙に、『エクスプロージョン』で杖を狙うだけ」

「う……ぐぐぐ……」

 

 完全にハメられた。歯ぎしりしながらうなる。だが、すぐに力が抜けた。

 

「はぁ……。負けちゃったか。分かったわ。ルイズの使い魔、やってあげるわよ」

「えっ!?ホント?」

「そういう話の勝負でしょ。自分で言ったじゃないの」

「え、あ、うん。うん。そうね」

 

 ちょっとばかり驚いて返事するルイズ。天子がまたわがまま言ってくるかもと思っていたので、この素直さは意外だった。だが、考えてみれば、幻想郷の住人らしいのかもしれない。弾幕ごっこで勝負がつけば、神や悪魔だろうと結果を受け入れるのが幻想郷。この天子も例外ではないのだろう。

 

 ルイズは気持ちを入れ替えると、一つ咳払い。

 

「ゴホン。それじゃぁ、主として最初の命令をします」

「何よ」

「ギーシュに謝ってきなさい!」

 

 ピシッとギーシュの方を指さした。天子は何のことかと思っていたが、指先の相手の顔を見て思い出した。

 

「ん?あーあー。あの子か」

「早く!」

「へいへい」

 

 だらけたようにトコトコとギーシュの方へ向かう天子。

 

 この後、天子はギーシュに謝る。だがその時にキュルケ達から、ルイズの使った魔法にいろいろと質問が噴出。特に中型弾幕については。一応、火の魔法とごまかしていたが、いかにも苦しい嘘だった。その後も、決闘で校舎の壁をボコボコにして大穴を空けた上、広場を穴だらけにしたとして、学院長室へ呼び出される。結局、罰として校舎中の掃除を言いつけられた。

 ルイズの学院復帰1日目は、勝利の喜びと、手痛い罰の落差の激しいものだった。

 一方の幻想郷の面々。いろんなトラブルが収まり、ようやく自分達のやりたいことに没頭できると、気分よくこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 決闘騒ぎが一段落ついたのを確認すると、オールド・オスマンは一つ溜息。

 

「はぁ……。やっかいな連中を預かる事になったもんじゃ」

「ええ……」

 

 学院長室にいたコルベールもうなずくだけ。オスマンは記録を留めながら、つぶやく。

 

「なんじゃいったいアレは?力はオーク並、頑丈さはミノタウロスか?さらに得体の知れん魔法まで使いよる」

「正直ここまでとは思いませんでした」

「して、君の目にはどう映った?所感、いや直感を述べてもらいたい」

 

 ペンを止めたオスマンの目には、いつもと違う鋭さがあった。一方のコルベールも、いつもの教師の顔とは違うものが覗いていた。

 

「はい。手に余ります。正直、人なのかと思えるほどに」

「そうか。なら、できるだけ仲良くするだけじゃな」

「ええ。対面した様子からは、常識を弁えているとも感じましたしただ……ミス・ヴァリエールの使い魔はそうではないようですが」

「わしもそう思う。ああ、やっかいじゃ、やっかいじゃ」

 

 オールド・オスマンはただただ頭を抱えている。コルベールの方は息を飲みながらも、これから起こるかもしれないトラブルをいくつも予想していた。そしてもう一つ。本当にあれは人間のワザか?という疑念が頭に浮かんで仕方がなかった。かつて戦地にいた経験がそれを訴えていた。

 

 

 

 

 

 ルイズと天子の決闘から、数日。ここはパチュリー達の隠れ家。廃村の寺院。その地下。

 人目につかないように、ボロボロの寺院はそのままに、穴を掘り、地下室を作りだした。ここを拠点としている。ただ地下室を作ったのはいいが、補強をどうするかが大きな悩み。今は単に土を掘っただけの部屋なのだ。三魔女は様々な魔法を使えるが、建築に関しては全くの素人。天子や衣玖、こあも同じ。文は天狗であるのである程度知ってはいるが、さすがに地下室を造るとなると勝手が違っていた。いろいろと試したが結局、上手くいかない。そこでルイズに相談したら、いいアイディアを出してきた。それは、壁や天井を錬金で石に変え、柱に当たる部分には固定化をかけるというもの。

 

 パチュリーは補強の仕事をしたメンツに声をかける。ギーシュ、タバサ、キュルケにモンモランシー。

 

「世話をかけたわね。何かの形で礼はするわ。とりあえず貸しにしといて」

「いやいや、お礼だなんて。美しい女性のためなら、この程度いくらでもしてあげるさ」

「そう。ただなのね。悪いわね」

「え……」

 

 バカという視線が、ルイズ達からギーシュに送られる。ギーシュは土系統が得意という事で、今回一番働いたのだが。もっとも、なんだかんだで、結局何か礼をする事にはなった。

 やがて三人が学院に帰ろうとする。ただルイズだけは残った。

 

「パチュリー、相談があるんだけど」

「何?あなたには今回手を貸してもらった事もあるし。出来る事ならしてあげる」

「実は私の姉の事なんだけど……」

 

 それからカトレアの話をする。ただでさえ病弱な彼女が、ルイズがいなくなったせいでさらに弱くなってしまった事を。それを治して欲しいと。パチュリーは、心当たりはあると伝える。答えを聞きルイズは喜んで、三人の後を追った。ちなみに天子と衣玖は学院で留守番。

 

 彼女達を見送ると、パチュリーは地下室に戻って来た。

 

「さてと、私達も一旦帰りましょうか。幻想郷に」

「道具が何もないからな。いろいろ、持ってこないといけないぜ」

 

 魔理沙が転送陣を準備しながら答える。文もすでに書き溜めてある原稿をまとめながら言う。

 

「私も今回のシリーズの一号を出さないと、取材が長期になりすぎて忘れられてしまっては、元も子もないですから」

「それじゃ、そろそろ行くわよ」

 

 魔法陣の準備ができた事をアリスが伝える。魔法陣の上に五人、パチュリー、魔理沙、アリス、文、こあが立つ。そして詠唱が始まる。全員を青い光が包むと、やがて霞のように消えていった。

 

 

 




 天狗である文に建築がある程度できるというのは、一部の地域の伝承からです。一般的ではないのですが、妖怪の山の家はやっぱ自分達で作ったんじゃなかろうかと思いまして。

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