銀河酔人伝説   作:悠久なる書記長

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1年近く更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
なんとかこれをきっかけに執筆速度を取り戻したいと思います。


第14話 酔っ払い、魔術師に肩入れする

同盟首都星ハイネセンの首都ハイネセンポリス。ここでは現在、先のアスターテ会戦の戦没者の慰霊祭が行われていた。

会場には政府首脳陣や軍関係者、戦没者の遺族だけでなく、マスコミや大勢の野次馬も詰めかけており、若干混雑しながらも慰霊祭は粛々と行われていた。

そして政府代表としてトリューニヒト国防委員長の慰霊の演説が始まった。

 

「お集まりの市民諸君、兵士諸君。今日我々がこの場にはせ参じた目的は何か。アスターテ星域にて散華した100万の英霊を慰めるためである。

彼らは尊い命を祖国と自由を守らんがために捧げたのだ!彼らはよき夫であり、よき父であり、よき息子、よき恋人であった。

彼らは幸福な生活をおくる権利があった。だが、その権利を捨てて死んだのだ。

市民諸君!私はあえて問う。100万の将兵はなぜ死んだのか!その解答はただ一つ。彼らは祖国と自由と市民を守るために命をなげうったのだ!これほど崇高な死があるだろうか!

私は一人の同盟市民として彼等の献身を誇りに思う!だが同時に政治家であるが故に彼等を死地に送った責任が私には存在する。

だからこの場を借りて謝らせてほしい!全ての市民諸君、兵士諸君、そして100万の英霊諸君!申し訳なかった!

そしてこの祖国を、自由の祖国を、守ってくれて、ありがとう。同盟万歳!共和国万歳!英霊たちに栄光あれ!」

 

トリューニヒト委員長がそう締めくくると、会場は拍手で包まれ、同盟国歌の斉唱が始まった。

その中には少将に昇進が決まり、不機嫌になりながらも国歌を口ずさむヤン・ウェンリーと、トリューニヒト委員長の演説に感動し、涙を流しながら大声で国歌斉唱をするグレゴリー・カーメネフ国防委員の姿もあった。

 

大きな混乱もなく盛況に終わった慰霊祭から数日後、命令により統合作戦本部へ出頭したヤン・ウェンリー少将はシドニー・シトレ統合作戦本部長と面会していた。

 

「ヤン・ウェンリー【中将】。君は新設される第13艦隊を率い、イゼルローン要塞の攻略を行ってもらう。」

 

「・・・・・・失礼ですが本部長閣下、私は先のアスターテ会戦後に少将に昇進したばかりだったと思うのですが・・・・・・」

 

「現時点ではな。だが本作戦終了と同時に君は正式に【中将】に昇進することが内定している。仮にイゼルローン要塞が攻略に失敗したとしてもな。」

 

「ですが今の私は少将に過ぎません。一個艦隊を率いるには中将クラスの方を任じるべきではないでしょうか?」

 

「第13艦隊は新設されると言っても、元は壊滅した第4艦隊と少なくない損害を受け指揮官不在の第6艦隊に新兵を補充して結成された、言わば敗残兵と新兵の寄り合い所帯だ。

それにこの人事は国防委員会の肝いりで決定されたものだ。問題はない。」

 

「・・・・・・それで国防委員会と本部長は、私に敗残兵と新兵の寄り合い所帯の一個艦隊でイゼルローン要塞を攻略しろと仰るのですか?」

 

「君にしかできないと私も渋る委員たちを必死に説得して回ったカーメネフ議員も確信しているよ。」

 

「・・・・・・承知しました。」

 

ヤンはそう答えると早々と統合作戦本部を後にしたのであった。

 

 

 

その日の夜、シトレとグレゴリーに嵌められたと愚痴を言いながら酒を飲んでいるヤンに、アレックス・キャゼルヌ少将とグレゴリーがやって来た。

キャゼルヌとグレゴリーは以前にヤンを通じて知り合っており、これまた酒好きが高じて仲良くなっているのである。

ちなみにグレゴリーはキャゼルヌの妻であるオルタンス夫人とも知り合っており、ちょくちょくキャゼルヌ宅にもお邪魔しているようである。

 

「ようヤン、初っ端から酔いつぶれてるとはお前さんらしくもないな。」

 

「これはキャゼルヌ先輩に・・・・・・よく顔を出せましたねグレゴリーさん。」

 

「まあそう睨むなヤン。今日はお詫びに上物のコニャックを持ってきたぞ!」

 

「グレゴリーさん!あんまりヤン提督に高いお酒を飲ませないでください!アンドレイさんに言いつけますよ!」

 

「まあそう言うなよユリアン。此奴らが飲み過ぎないよう監視するために俺がいるんだからな。」

 

「さっすがキャゼルヌ君は分かってる!さあヤン!グラスをとれ!乾杯だ!」

 

グレゴリーがそう言うと皆我先にと酒を飲み始め酒盛りが始まった。

酒盛りが佳境に向かうと、ヤンはグレゴリーに疑問をぶつけた。

 

「そういえばグレゴリーさん、何故私にここまで肩入れをしてくれるんです?」

 

「なんだヤン唐突に。もう酔っぱらってるのか?」

 

「私は真面目に聞いてるんですよグレゴリーさん。貴方には確かに色々と教えてもらっていますし便宜も図ってもらってます。ですが貴方は政治家だ。

本来なら軍人である私や、キャゼルヌ先輩とここまでズブズブな関係になるのはキャリア的にマズいのでは?」

 

「なんだそんなくだらん事をか。それはだな。ヤン、お前の事が好きだからだよ。」

 

周りの空気が一瞬で凍り付いた。

 

「・・・・・・グレゴリーさん。申し訳ないが私は同性愛者じゃないんだ。」

 

「違うわい!【 と も だ ち 】として好きだって言ってんだよ!友人が戦地に行くってんだから出来るだけ便宜を図ろうとするのは当たり前の話だろう?」

 

「相変わらずだなお前さんらしい単純な思考だなグレッグ。」

 

「単純で悪かったな!それに俺は確かにバカだが、人を見る目にはちょいと自信があるんだ。お前さんたちに賭けてれば同盟は大負けはしないだろうし死人も少なく済む。おらぁそう思ってるのよ。」

 

「・・・・・・買い被りですよグレゴリーさん。私にはそんな力はありません。」

 

「買い被りで結構じゃねえか!ヤン!お前が自分の力を信じられないなら、お前の力を信じる俺を信じろ!お前にはそれだけの価値がある!だろう?キャゼルヌ君、ユリアン君!」

 

「そうですよヤン提督!僕は提督を信じています!」

 

「まぁお前さんになら袖の下なしで協力はしてやれるぞ。」

 

「・・・・・・全く・・・・・・分かりました。出来る限りに最善を尽くしますよ。」

 

「おう!その意気だぞヤン!要はいつも通りお前さんらしく、出来る範囲で仕事をしてくれればいいのよ!今回の作戦もよろしく頼んだぞ!」

 

そう言うとグレゴリーはボトルを飲みほし、新しいボトルに手を付けたのだった。

 

 

 

数日後、第13艦隊は正式に設立し、ヤン・ウェンリー少将は司令官として任命された。

そして宇宙歴796年4月、ヤン少将率いる第13艦隊はイゼルローン要塞攻略の為ハイネセンを出撃、なんと味方の血を一滴も流さずに難攻不落イゼルローン要塞を陥落させるという未曾有の大勝利となった。

この知らせは同盟、帝国問わず銀河中に広がり、同盟市民はヤン・ウェンリーを「魔術師ヤン」「ミラクルヤン」と称賛し熱狂した。

また同盟政府の支持率も低支持率からV時回復を遂げ、一時期は政権支持率90%を記録するなど、同盟は久しぶりの朗報に皆酔いしれた。

 

だがそれは、後に起こる同盟の大政変への、単なる序曲でしかなかったのである・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとイゼルローン要塞陥落まで書けました・・・いよいよ終盤に入っていきます。

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