みなさん、体調管理の方をしっかりとして下さいね。
見ての通り、今回で最終話になっております。
またあと後書きの方で…それではごゆっくりと。
結局来てしまった妖夢の寝室。
もちろんそこで寝ているのは冥界、白玉楼の庭師兼剣士、魂魄妖夢だ。
顔の一つ一つのパーツが小さく、未だに幼さを感じさせる。言葉遣いや礼儀を含めれば大人びているが、声してみるとやはりまだ幼いと思ってしまう。
白くて綺麗な髪は流石にあの爺さん譲りか。そして、その真っ直ぐな性格も、真面目なところもかな。
剣の腕前は充分だが、本人曰く『まだまだ半人前』とのこと。確かに妖忌と比べたらそうなのかもしれないが、それはそれであの爺さんが化け物並に強かっただけであって、決して妖夢が弱い訳じゃない。妖夢の妖夢なりに頑張っているのだ。
そんな庭師兼剣士の妖夢。
いつもは白玉楼の庭の手入れに、家事に洗濯。やってることは家庭的な母親と言わんばかり。幽々子の従者ともあるから本人にとっては当たり前かもしれない。だが俺からすれば働きすぎて倒れないかがとても心配になる。そもそも幽々子がのんびり屋だからそこまでは無いだろうが。
「髪、サラサラで綺麗ね」
「そうだな」
綺麗な銀色の髪。細い腕。小さな身体。
初対面で、刀を持っていなければただの少女と勘違いしてしまいそうな可愛らしい容姿。
今更だけど、妖夢が俺たちを守ってくれてたんだよな。
妖夢がいなければ大変なこともあった。時には厳しく、優しく、甘く…正しい事をはっきりと言ってくれる。
「いつもありがとうな」
無意識に出た言葉は、当の本人には聞こえてはいないだろう。けどそれでいい。聞こえていたら流石に恥ずかしいからな。
「ねぇ妖斗。何度も話したと思うけれど、貴方に出会えてよかったわ」
「急にどうしたんだ?」
「この子の寝顔を見てて思ったの」
幽々子は妖夢の寝顔を見詰めながら続けた。
「私の起こした異変の時も、紅魔館に行った時も、今までのこと……妖斗が頑張ってくれなかったらこんな可愛い寝顔は見れなかったわ」
ふと、自分の今までの事を思い返してみた。
だがそれでも、幽々子の言っていることにはいまいちピンとは来なかった。
なぜなら、それは自分が頑張っているからではなく、幽々子と妖夢が居てこそだからだ。確かに二人のために、という気持ちはあった。だがそれでも本当に俺の行いは正しかったのかと疑った日も少なくない。
幽々子はゆっくりと、俺の手を握った。
「私ね。妖斗が好きなの」
静かな夜、言葉は気持ちまで届いてきた。
微笑みながらも真っ直ぐな気持ち。
細く綺麗な指、優しい力。
その手に体温は無いが、温もりを感じる。
部屋の窓から届く月の光は、その桜の亡霊により一層の輝きを与える。
桜色の髪は風に揺れる。
目の前にいる女性が、亡霊とは思えない。
それだけ、美しかった。
「……俺もだよ幽々子。愛している」
考える時間なんて必要ない。
俺の愛すべき相手は、昔から変わらない。
生前だろうが、死後だろうが、人間だろうが、幽霊だろうが、妖怪だろうが、何も関係ない。
お互いに見つめ合うが、照れなんてどこかに消えてしまっていた。
気持ちを、本当に伝えたあとなら、堂々とできる。
微かに吐息が当たる距離。
気づけば、唇が触れ合っていた。
「………」
「……ぁ」
小さく幽々子の声が漏れた。
それを可愛く感じてしまい、今まで感じたことのない感覚だった。
「幸せって、こういうことなのね…」
「…そうだな」
◇ ◇ ◇
気持ちを伝えた夜は過ぎ、次の朝を迎えた。
冥界は相変わらず桜が咲き乱れ、花弁は舞い散る。
「おはよう、妖斗」
「今日は早いな。おはよう」
やんわりとした笑顔で挨拶をするのは幽々子だ。
いつもだともう少し寝ているはずなのだが、今日はいつもより早く起きていた。
「妖斗さん、おはようございます」
「あぁ妖夢、おはよう」
何度考えただろうか。
昔だったら考えられなかった今の日常。
今俺がこうしていられるのは、今までの事を出来事が合わさった結果なのだろうか。
幽々子が居なくなってから、これから先俺はどうなってしまうのだろうかとずっと考えていた。
ろくに自分が成仏しているのかもわからないまま、俺のこのままなのだろうかって。
でも、そんな迷いも目の前にいる妖夢が支えてくれた。
妖夢が居なければ、俺は今ごろどうしていただろうか。
「妖斗さん? 何か良いことでもありましたか?」
表情に出ていたのか、妖夢が聞いてきた。
その問は正解なのかもしれない。
「あら、隠し事かしら?」
「そんなんじゃないよ」
昔とは違う、今の日常。
──気づけば、冥界の一員になっていて。
──気づけば、妖夢に助けられて。
──気づけば、桜の亡霊が
──幽々子が傍に居てくれる。
「二人とも、ありがとな」
「どうしたのですか?」
「私、なにかしたかしら?」
二人には察され無かったが別に構わない。あくまでこれは俺の自己満足に近いものだ。
こんな日常が、本当の幸せってことなんだな。
かなり短かったとは思いますが、今回で最終話となりました。
作者としては、投稿を一時期していなかったのが少し悔いが残りますが、こんな作品でもお気に入りにしてくれる読者の皆様には感謝ですしきれません。
いつも感想を書いてくれる方。常連の方も数名いましたね。感想を読む度に作者のモチベーションは上がりまくりでした!
最初から読んでくださってくれた方、途中から読んでくださった方。最後の最後までグダグダになってしまいましたが、本当に感謝しています、ありがとうございます!
改めて、『気づけば桜の亡霊が傍に居てくれる』最終話。続けられたのは皆さんのおかげです!
今まで本当にありがとうございました!
長くなりましたが、後書きまで読んでくれた方はありがとうございます。
それではまた会う時まで!