気づけば桜の亡霊が傍に居てくれる   作:死奏憐音

75 / 76
最近は暑くなってきましたね。
みなさん、熱中症には十分な水分補給をして対策をして下さいね!

それではごゆっくり。


62話:居てくれる。

 朝。

 1日の始まりの合図はいつも庭師の声だった。

 外の世界から仕入れたエプロン姿をした庭師は慌てながらもこの屋敷の主を起こしていた。

 

 主は眠たそうな声で「おはよう」と応えながらも再び布団に潜り混んでしまう。そんなだらしない姿を見ながらも庭師は布団から主を引き剥がした。正直にところ庭師が主に向かって行う行動では無いだろう。

 布団から引き離された主は眠たそう瞳で、眠たそうな声でその庭師、妖夢へと声を出した。

 

「おはようむぅー」

「おはようございます。何ですか、その挨拶に私を足したようなのは」

「色々あるのよ? こんにちようむ、と、こんばんようむ、おやすようむ」

「拾って付けた風にしないでくださいよ!」

「あらあら。朝から妖夢の可愛い顔が見れたから満足だわ」

「か、かわっ……! ゆ、幽々子様! からかわないでください!」

「赤くしちゃって、まぁまぁ」

 

 白玉楼庭師兼剣士、魂魄妖夢は恥ずかしい思いをしながらも主、西行寺幽々子を起こした。

 

 2人の見ていて楽しいやり取りが終わると、2人は俺を見ては挨拶を交わしてくれた。

 

「おはようございます、妖斗さん」

「おはようと~」

「あぁ、おはよう。気に入ってるんだな、それ」

 

 うふふ、と小さく笑顔を見せてくれる幽々子。妖夢は多少呆れながらも小さくため息をしては台所に戻ってはすぐに朝ごはんを運んでくれた。手伝おうとしてが、妖夢は器用に隣に浮いている半霊を使い3人分運んできてくれた。霊なのに物理判定があることについては見て見ぬふりだ。

 

 朝は王道に白ご飯、野菜多めのお味噌汁、秋刀魚の塩焼きだ。炊きたてのご飯は綺麗な白色で、味噌汁も秋刀魚も食欲をそそらせる。

 手を合わせ、食材への感謝をするとみんなで箸を動かし始めた。

 炊きたてのご飯はとても美味しい。おかず無しに、そのままだけでも箸が進む。味噌汁も味は薄すぎず、濃ゆ過ぎず丁度良く、野菜の食感が楽しい。秋刀魚もちゃんと焼かれていて身がホクホク、塩加減も良い。

 

 あー……

 

「美味しい」

「さすが妖夢ね」

「ありがとうございます」

 

 ご飯が美味しい、というのはとても良いことだ。朝から元気になれる。

 

「この秋刀魚、人里の所で安くしてもらったんです。それにわざわざ大きいのを」

「それって、幽々子が沢山食べるからか?」

「妖斗ったら失礼しちゃうわ。ねぇ妖夢」

「妖斗さんの言う通りですね」

「そんな~。私だって育ち盛りなのよ?」

「そ、それ以上育ってどうするんですかっ!?」

 

 妖夢は何を勘違いしたのか、妖夢の視線は明らかに幽々子の大きなたわわに向けられていた。確かにこれ以上大きくなっても……悪いとは言わないが今でも充分だ。

 

「あら。私の自慢の胸と勘違いかしら?」

「ちち、違います! そんなことありません!」

「乳? 妖夢ったら、いつからそんな言葉を言うようになったのかしらねぇ~」

「誤解ですっ! 妖斗さんも、何か言ってくださいよ!」

「大きさは、人それぞれの個性……何でもない。幽々子、あんまりからかうなよ」

「食事中だから良かったですね、妖斗さん」

「ごめんなさい」

「でも妖夢は可愛いから、つい遊んじゃうのよ」

「それはまぁ、分からんくもない」

「お二人とも!?」

 

 こういう所が妖夢の可愛いところだ。普段は真面目な分、少し冗談を言ってからかう程度がいい。やり過ぎると怒られるから要注意だけどな。だが怒る姿も可愛く、またついついからかってしまう。

 

 美味しい朝ごはんを堪能した後、各自でやるべき事をする。とは言ったものの、俺と幽々子は冥界の管理者の為、これと言ってやることは無い。そのため、俺はいつも妖夢の手伝いをしている訳だが幽々子の方は相変わらずのんびりしている。

 

「あの、幽々子様?」

「なぁに?」

「そんな密着されては、まともに掃除も出来ません」

「掃除が捗らないのは、照れてるから?」

「ち、違います!照れてません!体が動かしづらいんです!」

 

 頬を赤らめながらも幽々子にそう伝えるが、もちろん幽々子はニコニコしながら続けた。

 

「照れちゃってまぁ~。もう掃除はいいから、私に構ってちょうだい」

「そ、そういう訳には!」

「私みたいに、たまには休憩も必要よ?」

「幽々子様は常に休憩してるじゃないですか!」

「まぁ。私が何もやってないと思ってるの?」

「し、失礼しました」

「今日はまだ、何もしてないわ」

「やっぱりしてないじゃないですか!」

「まだ、よ。まだ。だから今から動くわ。おやつを食べに」

「ダメじゃないですか、おやつはお昼の後という約束です!」

 

 確かに、三時のおやつにしては明らかに早すぎるし、まだ午前中だ。しかもさっき朝ごはんを食べ終わったばかり。

 幽々子にとって、食後のおやつ感覚と言ってもいいだろう。

 最近になってはおやつを作ることも増えるばかり。買ってくるお気に入りのお饅頭の店は変わらないが、作ればお金は掛からない!なんて言い出した。材料費という概念を排除したその考え方にも俺も妖夢と呆れながらも笑っていたことを思い出す。

 

 ある程度、仕事や掃除を終わらせ、あとはのんびりと過ごすだけ。ここからが白玉楼特有のおやすみタイムだ。

 三人で縁側に座り、運ばれてきた妖夢お手製の羊羹とお茶を堪能する。

 少しだけ苦味を感じるお茶を一口啜り、丁度いい温度が体を温めてくれる。一息付いてから一口サイズに切り分けられた羊羹を口へと運ぶ。残っていた多少の苦味が羊羹の甘味を引き立ててくれて、その羊羹も甘過ぎない丁度いい味わい。これが本当に美味しい。

 作った妖夢も、言葉は無かったが俺と幽々子の顔を覗き込んでは満足気にいい笑顔をしていた。

 

「ホントに美味しいわね~この妖夢」

「羊羹ですからね?」

「似てるのよ」

「よう、だけですし漢字も違います」

「じゃあ妖斗で」

「じゃあってなんだよ。羊羹は美味しいけどさ」

 

 よう、って付けばなんでもいいわ、みたいなノリで返されても反応に困るだけだった。確かに俺も妖夢も名前は似ているかもしれないが流石に和菓子の羊羹は無いだろうよ。

 

「そういえば幽々子様。以前人里で咲夜さんと会いまして、なんでも今度、和の良さを知りたいとのことでした」

「また急ね。どうしちゃったのかしら?」

「具体的には咲夜がレミリアさんに良さを知ってもらいたいそうです」

「ん~……お饅頭二十で考えてあげるわ」

「二十個も頼むんですか」

「二十、箱、よ?」

「無茶苦茶ですっ!」

 

 これの何が恐ろしいって、仮に饅頭が手に入ったとしてもあくまで『考えてあげる』としか言ってないところだ。幽々子を動かす場合は並大抵の数じゃ動かすことは出来ない。

 

「冗談よ。十箱でいいわ」

「それでも結構な数ですが」

「気にしないの。紅魔館よ?お金持ちに決まってるわ」

「そんなものなのでしょうか……」

 

 呆れた表情を隠せない妖夢も相変わらずですね、と言わんばかりの雰囲気だ。こんな話、レミリアが聞いても呆れてしまうだろうがな。

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 時間は待つことをせず、気づけば夜だ。

 月に輝きに照らされ、散る桜の花弁はとても綺麗なものだった。これに関してはいつ見ても飽きることはないだろう。

 心地の良い風。散り行く桜。視界に映る美しいものは全てこの冥界の自慢だ。

 

 一人縁側でのんびりとしながら月見をする。

 すると後ろの方から静かな足音が聞こえ振り返る。そこには幽々子が何やら企んでいそうな表情で近寄ってきた。

 

「何か企んでる?」

「まぁ、人聞き、いえ、幽霊聞きが悪いわ~」

「いいよ言い直さなくても」

「それより、妖夢がもう寝ちゃったの」

「お、おう」

 

 何か言いたげな雰囲気を出しながら、幽々子は俺の顔との距離を一気に縮めてきた。いつ見ても、相変わらず美人だと思わせる顔にはドキッとさせられてしまう。

 

「だから、その、せっかく二人っきりなんだから」

 

 小さく綺麗な手は俺の肩へと伸び、弱い力で掴まれる。明らかにいつもの幽々子では無いと察した。

 そして幽々子は頬を赤らめながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「妖夢も寝てるんだし......」

「......」

「イタズラでも仕掛けようかなぁって」

「この雰囲気作って言うかそれを!?」

「一緒にやれば共犯よ?」

「わかってるよ! でも怒られるの俺だけだろ絶対」

 

 はぁー、と一気に体に入っていた力が抜けた感覚だ。

 この野郎。そんな雰囲気か持ち出して、放ったセリフがそれかよ。変な期待してしまった俺はアホだろう。

 

 




なんか中途半端になってしまいましたね。いつもの事なのですが。
作者なりに頑張ってはいるのですが、どうも上手くいかず……!

意見や感想、気軽にどうぞ!
ではまた次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。