今回は少し短めなのでご了承ください。
ではごゆっくり。
身体が暖かい。
何かに包まれているような、優しい暖かさを感じている。
確かめようとしても瞼が重く感じる。
それでも目を見開き確認すると案の定、俺は布団で眠っていた。
「ぁ、あれ......? おれは」
確か、アリスから人形を貰って、それを使って幽々子を助けようとして。
「ゆ、幽々子!」
思い出したかのように体を起こし、辺りを見渡した。
そうだ。俺は幽々子を助けようとして、人形を使ったんだ。でも、それからの記憶がない。だが状況を見る限り俺は倒れて布団で寝かされていたんだろう。
辺りを見渡しても部屋には俺一人だけ。
妖夢の姿も無く、枕の近くには1杯の水。
とりあえず立ち上がろう。
立ち上がる時に多少の頭痛がするがそんなことはどうだっていい。このくらいは我慢出来る。
身体が重たい。ダルい。まるで風邪を引いた時みたいな感じだ。
襖に手を掛け、ゆっくりと開けた。
そこには妖夢の姿と、もう1人の女性の姿があった。
その女性は静かにこちらを振り向き、口を開いた。
「...妖斗」
「......あぁ」
「......」
◇ ◇ ◇
草木も眠る丑三つ時。
桜の花びらは月に照らされている。
その景色を見るとは、縁側に座る俺と幽々子だった。
「......ありがとう」
ふと、幽々子がそう呟いた。
少し嬉しそうに、少し悲しそうに、切なそうに。その声からは感情が聞き取れなかった。
どう答えればいいのか少し戸惑ってしまう。
「でも、怖かったわ」
「ん?」
「だって、妖斗が助けてくれたのはいいの。ただ、そのまま妖斗の身になにかあったらって……私を助ける為だけに」
「……幽々子が自分のことをどう思っているのかはわからないが、少なくとも俺と妖夢は、幽々子を必要としている」
無意識に出た言葉は、そのまま続いた。
「俺らだけじゃない。紫も藍、橙、霊夢、魔理沙……紅魔館のみんなだってそう思ってるはずだ。言葉じゃあまり上手く言えないけど、もう少し自分を大切にしてくれよ」
上手くは言えない。
でもこれだけは伝えたかった。
幽々子はいつも、俺や妖夢の心配ばかりしていて、自分自身を後回しのような考え方だ。
そんな考え方じゃ、俺達が心配になってしまう。
「……」
「ご、ごめん! 何か気に触った!?」
「いいえ。違うの」
「じゃあどうして泣いて……わっ!」
少し俯いていた幽々子の様子を伺うと、綺麗な瞳からは雫が流れていた。
その事にも驚いたが、その直後に幽々子は俺の方を押さえつけ、床に押し倒すような形になってしまう。
言葉が出ず驚くだけの空間の中、俺の方に落ちてきたのは涙だった。
「どうして、貴方は……そこまで優しくできるの?」
「幽々子……」
震えた声は弱々しく感じる。
肩を掴んでいる手も震えていた。
「記憶が無い私を受け入れて、それでも、妖斗は生前の私を知っている。妖斗は、辛くなかったの? 私だったら耐えられないわ。それなのに、それなのに………」
瞳の雫はポタポタと落ち、止まる気配は無い。
「妖斗……私、もう、ダメなの。貴方がいなきゃ、貴方の優しさに触れてしまった私は………」
聞くことしか出来ていない俺でも、幽々子の気持ちが伝わってくることはわかっていた。
「妖斗。貴方が欲しい。貴方が好きよ」
幽々子からの、生前合わせて2度目の告白だった。
頬を赤らめ、聞き入ってしまう声からは思いも伝わった。
桜の花びらは散りながらも、まるで祝福してくれているかのように美しく舞い上がる。
これが、幸せという感情なのだろう。
「あぁ。俺もだよ、幽々子……好きだ」
互いに見つめあっても、照れくさいなんて思わず、ただただ、お互いを必要としているという気持ちが強く伝わった。
一番最初は、一目惚れだった。
もちろん白玉楼に住み始めてから、幽々子の色んなことを知った上でもだ。
死んですぐに、どこかもわからない冥界に佇んでいた俺を受け入れてくれた。
あの時は、とても嬉しかったのを覚えている。
幽々子が亡霊として現れた時は、再開を喜びたかったと同時に、記憶が無い、というショックもあってどうしようもない気持ちだった。
愛し、愛された人から忘れられる、ということは、どんなことよりも辛かった。
あの時はまだ幼い妖夢が白玉楼来て、慰めてくれたんだっけ。
幽々子の事も会ったこと無くて、何も知らないのに、頑張って俺を慰めてくれた。今でも妖夢には感謝している。
紅魔館の皆も、ここまで来るのにお世話になった。
フランは天真爛漫だけど、もう少し加減を覚えてくれたらいいんだが。
パチュリーには、魔法を体験させてもらったし、色んな勉強ができた。
小悪魔も、おっちょこちょいながら本を薦めてくれた。
美鈴は、相変わらず眠っているけど、とても優しくて気配りができる。
咲夜には、能力に驚かせれたな。今は亡霊の俺だけど、同じ人間とは思えないスペックの高さだ。まさにメイドの鏡だよ。
そしてレミリア。何やかんやで優しいし、とても仲間思いの主。色々とお世話になったし、色んなきっかけも作ってれた。
何度も思うが、俺はいろんな人に支えられてきたんだ。
俺はかなりの幸せ者らしい。
えー。皆さん、薄々気づいてるかと思いますが、最終話がもう近いです。
唐突過ぎてホントにすみません。ですが、作者の考えていた流れ的には、こうなってしまいました。
残りも短いですがどうぞ、どうぞよろしくお願いします!
意見や感想、気軽にどうぞ!
ではまた次回!