インフルエンザが流行っていますが、皆様は体調管理、出来ていますか?
インフルは辛いですよ!
ではごゆっくり。
頭が痛い。
体が痛い。
重い瞼をこじ開け、ぼんやりと見えるのは奇麗な白色。
「……どこ、だ、ここ」
白く見えていたのは天井だ。
見慣れない天井だ、なんて言おうとしたが体が痛くそんな余裕はなかった。
俺、落ちたんだな。
答えが出るのに時間は掛からなかった。
魔法の森の上を飛んでいたら、魔力に充てられて気を失ったんだ。
無意識に頭を触ると包帯が巻かれていることに気づく。
頭を強く打ったのだろうか。傷ができたような痛みは感じないが、包帯が巻かれているということは無事ではなかったのだろう。
「シャンハーイ」
「……ん?」
状況把握をしていると、可愛らしい声が聞こえた。
だが、人間の声とは思えず慌てて声の聞こえた方へと振り向く。
「シャンハイっ!」
視線の先には小さな人形だけだった。
変だ、声が聞こえたのはこっちからのはずなんだが。
そう思った時だった。
「シャンハイ」
「もしかして、この人形が?」
「シャンハーイ」
「う、動けるのか……!」
不安にもなりながら、声の主はこの人形だということが分かった。
実際に動いているし、とてもにこやかな笑顔を見せてくれた。
人形とは思えず、妖精のように小さな生き物だと思わせるリアルだった。
「あら、目が覚めたのね」
そして部屋の扉が開くと同時に、奇麗な女性の声が問いかけてきた。
奇麗な金髪。白のドレスに赤や青も入っている服装。
まるで人形のような美しさを持った女性だ。
彼女の手には二つのティーカップを乗せた盆を置き、その一つを渡してくれた。
「紅茶は好きかしら?」
「あ、あぁ」
渡されたティーカップには美味しそうな紅茶が入っている。
落ち着ける香りを漂わせ、カップを口に当てる。
「あ、美味しいな」
「それはよかったわ」
「もしかして、君が俺を?」
「もしかしなくても、私よ、如月妖斗」
「知っているのか?」
「えぇ、もちろん」
まるで誰かに教えてもらったと言わんばかりに説明してくれた。
「私はアリス。アリス・マーガトロイド。あなたの知り合いの魔女さんから話しは聞いているわ」
俺の知り合いの、魔女?
気になるが、今は少しでも急がなければならない。
今は魔理沙の方が優先だ。
体を起こそうとするが、少しだけ痛みが走る。
だが耐えられない程の痛みではない。
「......上海」
「シャンハーイ」
「あっ! な、なにすんだ!」
起き上がろうとした瞬間、人形が宙に浮き糸のようなものを出した。体が何かを縛られたような感覚が襲う。体を縛り、ベットに拘束された感じだ。
「あなたねぇ。そこ体で動ける訳ないでしょ? 言っとくけど、ただ落下しただけじゃなくて増大な魔力の瘴気を受けてるのよ?」
「だ、だけど魔理沙が!」
「あなたが心配している魔理沙なら無事よ。桜が気になっているんでしょ?」
本当に、アリスは俺の事を知っているらしい。
だとすれば、魔理沙が無事というのは信じても良さそうだ。
「安静にしていなさい。幽々子のことも気になるでしょうけど、肝心な妖斗が倒れたら意味無いでしょ? 今日は泊まっていきなさい」
窓から外を見ると真っ暗。
外に出た時はまだ明るかったのだが、それだけ俺は長い時間気を失っていたのだろう。
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
「わかってもらえて何よりよ。あぁそう、遅れたわ。この子は上海人形。言葉は通じるから、私がいない時はその子に頼むといいわ」
「シャンハーイ!」
アリスの手のひらに立っている人形、上海人形の紹介をすると元気よく上海は手を挙げた。
言葉はご覧の通り対話はできないが、その元気の良い声からはまるで「私に任せて!」と言っているようだった。
気づけば体を縛る糸の感覚は無くなっており、体が動かせる状態になっていた。
「夕食はもう出来てるから。食欲はあるかしら?」
「そこまでしてもらっていいのか?」
「えぇ、久しぶりの客人よ。遠慮はいらないわ」
「ありがとう。じゃあごちそうになるよ」
寝室から出ると、すぐ隣の部屋には既に食器が並べられていた。
白玉楼とは違い西洋を感じさせるオシャレな雰囲気に包まれる。
和食がメインとなる白玉楼も、最近では洋食を出すようになっては来ているが、それでも和の方が強い。
アリスの作るご飯は洋食のようだった。
「随分と豪華なんだな」
「まぁね。料理なんて滅多に作らないから」
「家じゃあまり食べないのか?」
「私は魔女なの。だから食事をする必要が無いの」
「魔女だったんだ。なら、知り合いっ言うのは...」
「パチュリーよ」
「なるほどなぁ」
パチュリーから俺のことを聞いたのか。
アリスとの会話で納得しながらも、目の前に並べてある料理に手を付け、口へと運ぶ。
「美味しいな」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。妖斗は亡霊なのに食事が必要なのね」
「んー、正直、必要ないと思うけど、味覚はあるんだし美味しい気分にはなりたいよな」
「変わってるわね」
「そうか? 幽々子も亡霊だけど腹ペコだぞ?」
「亡霊って不思議ね」
「俺からすれば、魔女も不思議だけどな」
「お互い様ね」
パチュリーと話したことがあるけど、食事と睡眠が必要ないんだっけ? 魔理沙は魔女じゃなくて魔法使いだから必要らしいが。
それに魔女ってことは、アリスも人間の姿をしているだけで、人間を辞めているのか。
「明日からどうするの?」
心配そうに聞いてきたアリス。
その肩に乗っている上海人形も似たような表情だった。
「とりあえず、魔理沙の家を調べに行こうかと」
「桜は咲いてなかったわ」
「えっ?」
「あなたを見つける前に魔理沙の家に行ってきたわ。桜は咲いてないし、むしろ散っていたわ。魔理沙にも影響はなかった」
桜が散っていた。
別におかしくはない。あれから結構日にちは経っているから変じゃない。
だが、散っていたとなれば魔理沙の家に咲かせた桜は関係がないのか?
「じゃあ、幽々子が倒れたのはどうして......」
「私も調べたわ。関係しているのは桜じゃなくて魔力よ」
「魔力が? どうして」
「あの桜は幽々子が咲かせたのよね? だからあの桜が散る時、その妖力は微弱ながら幽々子も元へと戻るわ。その時戻るはずの妖力にこの森の魔力が混じったの」
吸収されるはずの妖力に、森の魔力が混じった?
「それだけなのに、か?」
「あなたがどうして気を失くしたか。わからない?」
「森の魔力、瘴気......あぁ」
「この魔法の森の魔力が今、幽々子の体の中に留まっているの」
普通なら何ともない妖力。
その中に魔力が混じり体の中に入ってしまった。
言われて気づいたが、俺も気を失ったのはこの森の魔力に充てられたからだ。
それが体の中に入ったままの状態であるのが、今の幽々子になる。
「じゃあその体に留まっている魔力を取り出せばいいのか!? それが出来れば、幽々子は!」
「落ちつきなさい」
幽々子が助かるかもしれない。
そう思った瞬間に熱が入ってしまうがアリスが収めてくれた。
「方法はある。でも危険が伴うわ」
深刻そうな表情でアリスは続けた。
「幽々子に溜まっている魔力を取り出すのはいいけど、問題は取り出す魔力には幽々子の強大な妖力が混じっているわ」
「つまり、取り出した人が今度は幽々子と同じ目にあうってことか」
「それはわからない。強大な妖力なんて私には何が起こるのかわからないわ」
幽々子はかなり強大な妖力を持っている。
それがもし、普通の人間だったり、魔法使いや魔女みたいな妖力に縁のない種族にどんな影響を及ぼすのかはわからない。
「...俺にも、出来るのか?」
だから、俺がやるしかない。
「出来るけど、今度は妖斗が倒れるわ。魔力どころか、幽々子の妖力を受けきれるの?」
「幽々子が助かるなら、何だってする」
「幽々子が倒れているあなたを見てどう思うか考えた?」
「それでも...」
「自分のせいで妖斗が目を覚まさない、なんて大切な人に考えさせるの?」
アリスの言葉が心に刺さる。
どれもその通りだ。
「貴方が置いていかれた時の気持ちを、幽々子にもさせるつもり?」
何も言い返せない。
幽々子がいなくなった時の気持ちは、辛かった。
ただただ、辛いだけ。寂しいだけじゃない。
それを俺は、幽々子にさせるのか?
違う。そんなこと願っていない。
でも、幽々子を助けたい。
「......諦めてない目をしてるわね。呆れるわ」
「すまんな、大切な人が関係しているんだ」
「ホント呆れる。パチュリーの予測がホントに当たるなんて」
「ぱ、パチュリーの?」
ため息をしながら、アリスはそう言った。
席を立ち、すぐ近くに飾ってあった一つの人形を手に取り、差し出してきた。
「はいこれ」
「なんだこれ。人形?」
「正確には『魔力吸収』の人形よ」
わざわざ作ったのよ? とアリスは続けた。
「これの使い方を教えるわ」
やっと登場アリス姉さん。
地元では雪は積もっていませんが、まだ寒いところは積もっているそうですね。
まだまだ暖房が手放せません。
意見や感想、気軽にどうぞ!
ではまた次回!