気づけば桜の亡霊が傍に居てくれる   作:死奏憐音

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あけましておめでとうございます。

では、ごゆっくりと。


58話:手がかり

 妖力を感じる先には西行の桜、西行妖。

 あの紫ですら手のかかる巨大な妖怪桜。

 一度は魂を欲しさに多くの人間の魂を奪ってきた。だがその騒動も幽々子自らが体を張って封印してくれた。

 幽々子の魂を使って、体を捧げることで、西行妖は今の時点では暴走することはなくなっていた。

 

 だが、今は違う。

 幽々子が倒れてしまったことが、また何か異変が起こるのかもしれないと考えてしまう。

 春雪異変に関しては俺たちが起こした異変であり、今回、幽々子が倒れてしまったことに関係はあまりないだろう。

 それでも、幽々子自身に一番関りがあるのはどうな理由があろうとも西行妖でしかない。

 俺が死んで、冥界に来る前から西行妖は存在していた。もちろん、幽々子が亡霊になってから俺は西行妖について調べたが、まだ知らないことのほうが多いだろう。

 

「久しぶりだな、西行妖」

 

 普段は滅多に来ることのないこの地に、西行妖は相変わらず花を付けていない。

 もちろん花を付けてしまえば魂を奪われ、また問題が発生していまう。

 

「来たにはいいけど、これといって変化は感じられない」

 

 本当に確信は無いのだが、ただ何か手がかりがあればと思った。

 もしかして、西行妖は関係していないのか?

 その可能性も無いこともない。

 逆に、考えようではいろんな可能性が出来てしまって余計混乱してしまう。

 幽々子が亡霊になってからは春雪異変のときくらいしか関わってはいない。

 桜だけであれば、魔理沙の家に小さいものを咲かせたくらいだが、関係があるとは考えづらい。

 

 そもそも、幽々子の妖力はどこで補給されているんだ?

 妖怪によっては方法はそれぞれらしいが、紫は寝たらなんとかなる、みたいなことを言っていたな。

 幻想郷だと人間を食べることは禁じられているが、結局なところ食事をマインとしている妖怪もいるわけで、別に食べなくても補給できる妖怪もいるわけだ。

 魔法使いは魔力を源にしている。

 妖怪は妖力。

 亡霊は………幽々子は、食事? 別に狙っているわけではないが、それしか思い浮かばなかった。

 

「……桜」

 

 桜から力を貰っている? そんなことができるのか?

 聞いたことがない。もしかしたら俺が知らないだけなのかもしれない。

 でも、もしそれが本当ならば幽々子が倒れることになるほどのことがあるのか?

 

「いったん、魔理沙に聞いてみようか」

 

 魔理沙は意外と努力家で博学だ。

 魔法に関してはパチュリーほどではないが、それほどの知識は持っている。

 なら魔力の補給のことも、魔力じゃなくても何か、何でもいいから知っているのかもしれない。

 行く価値は十分にある。

 

 西行妖、冥界を後にして、俺は再び幻想郷に向かった。

 目的地は幻想郷の魔法の森だ。

 

 冥界からはそこそこの距離があるものの、飛んでいけばあっという間だ。

 ただ問題は、空から見てもあたり一面木々に囲まれた森。しかも魔力を帯びた森だ。

 亡霊である俺にはあまり影響は無いが、かなり強い魔力を充てられてしまえばどうなるかはわからない。

 魔理沙の住んでいたところは比較的に魔力の薄い地帯だから以前に行ったときは平気だったそうだ。

 

「わかってても、わかんねぇな」

 

 言葉としては矛盾しているだろうが、本当に魔理沙の家がわからない。

 魔力の薄い地帯というのはわかっていても、俺には魔力を感じることはできない。

 これは探すのに苦労しそうだ。

 

 いくら飛んでも景色は変わらず緑一色。

 森、森、森。

 本気で分からない。

 

「やばいな、何のために来たのかわからんぞ」

 

 ここに住めば慣れては来るのだろうが、初心者である俺からすれば森の中に入らなくてもすでに遭難状態だ。

 もう少しスピードを上げよう。

 そう思った時だった。

 

「あ、あれ……気分が悪いな。もしかして……や、やばい、ここ、魔力が濃いところか………!」

 

 気づくには遅かった。

 ただ必死に探すばかりで、見つからないことにイライラしていたのか、肝心なことを忘れていた。

 さっきまで自分で注意していたことを、魔力の濃い地帯に長い間いたら、何が起こるかわからない。

 早くこの地帯から抜けなければ、と思っていても体が重たい。飛んでいるのがしんどい。

 

「やば……落ち――――――」

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 紅魔館では、咲夜はレミリアに冥界でも出来事を報告していた。

 

「大体わかったわ。あいがとう、咲夜」

「はい」

「それにしても、まさか、ね」

 

 レミリアは不安に思っていた。

 自分の見た運命が当たっていたことに。

 妖斗に伝えた運命が、そのまま現実として今起こっている。

 

「………」

 

 左手には真紅の光。

 レミリアにはその光の中に、この先の運命が見えている。

 ただ、それが絶対というわけではない。

 あくまでレミリアは運命を見ることができるだけで、それが絶対に当たるということではない。レミリアの想像できない行動を取ることでその運命でされ変えることも可能だ。

 それはレミリア自身も同じだ。レミリアに関する運命ならば、レミリアに関係している者の動き次第で運命は変わるのだ。

 

「私が亡霊の心配をするなんてね、どうしたのかしらね」

「よろしいかと思いますよ。お嬢様の優しさかと」

「月夜の女王が亡霊に優しさ、ねぇ」

 

 ただの偶然か、思いつきか。

 接点といえば主という存在に、従者がついていることと、同じ異変の主犯者であるということ。

 それでもレミリアには、自分でもどう考えているのかはわかってはいない。

 

 

「レミィ」

「あらパチェ、あなたから来るなんて珍しいわね。明日は雪かしら?」

「雪がいいなら、寝込んでいる西行寺にでもたのんだら?」

「知っていたのね」

「まぁね」

 

 動かない大図書館であるパチュリー・ノーレッジが自らレミリアのところに来るのは珍しかった。

 いつもは図書館で引きこもり、魔法に関する本の朗読や天体に関して調べている。

 レミリアにとっては驚くまではいかないものの、珍しいことであった。

 

「何かわかったの?」

「えぇ。二つあるわ。悪い話と、悪い話よ」

「楽しみね。聞かせて?」

 

 パチュリーの残念な報告に呆れながらも、笑って問い返した。

 

「西行寺には、魔力が関わっているわ」

「それのどこが悪いの?」

「普通の魔力ならいいけど、普通じゃないから悪いの」

「へぇ。っで、もう一つは?」

 

 これに対して、パチュリーは少しため息を吐いて答えた。

 

 

 

 

「アリスに借りを作ったことね」

 

 

 

 




あっという間に過ぎていく時間が恐ろしいですね。
歳をとるのが早く感じます。

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ではまた次回!

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