みなさん、風邪をひかないようにお気をつけて!
「わぁーーーい!」
「わかった! わかったからフランちょっと待て!」
走る。ただひたすら走る。
「死ぬから! もう死んでるけど痛み的に死ぬから!」
「どうして逃げるの〜、ただのお医者さんごっこなのにー!」
フランの言うお医者さんごっことは、俺の知っている遊びとはほど遠かった。
お医者さんごっこしたい! とフランが言うからそれにノッてあげた。弾幕ごっこじゃなければ何とかなると思った俺がバカだった。
「お医者さんは怪我した人を治療しなきゃ」
「だからって本当に怪我人を出そうとするなぁ!」
フランの中では医者=怪我人を治す、と思っている。
俺の知っている遊びだと、怪我人の真似をして治してくれるみたいな簡単なものだ。
だが、フランは本物の怪我人を作ってそれをデタラメな治療をしたいと言い出した。
もちろん俺がフランを止めることは出来ず、今こうして逃げ回っている。
「うるさいわねぇ、ちょっとフラン?」
「あ! お姉様!」
「れ、レミリア! 助けてくれぇ!」
「…なにしてんのよ?」
「殺されかけてるんだよ!」
「もう死んでるでしょあんた」
「そう言うのはもういいから!」
多少はからかいながらも喋るレミリア。
もちろんフランを止める気はないだろう。
「あっ」
「えへへー、つっかまーえた!」
ここまではテンプレ、と言わんばかりに俺は派手にコケてしまう。
その隙にフランは俺の体にのしかかりちょっと危ない体制になってしまう。
普通の女の子であればかなり可愛らしいキュートなスマイルだが、フランになると可愛さに若干の恐怖が入ってしまう。もちろんそれは過去に経験しているからの感想だ。
「じゃあお怪我しましょーねー」
「違うから!医者はそんなこと言わないからな!?」
「いーのっ!いいから怪我してよ!」
「怖いわこの子!なんてこと言うんだ!」
なんと理不尽極まりない発言だろうか。
ごっこ遊びとはいえここまで本気になるのはそういないだろう。そもそも本当に怪我させてくるフランだから尚更怖い!
「こら、フラン。そこら辺にしないと危ないわよ」
「えーっ!でも妖斗は幽霊だから平気でしょ?」
「別にヤッても構わないの」
「おいこら」
「でも怪我させてまで遊ばなくてもいいの。せめて弾幕にしなさい」
「ざけんな!それだと確実にアウトだわ!」
せっかくお姉さんらしい所を見せてくれると思ったがやはりそんなことなかった。どちらにせよ俺は大怪我をしてしまうことに変わりなかった。
フランと遊ぶのはぜんぜん構わない。むしろ遊んであげたいくらいだ。小さな子どもの無邪気に楽しむ笑顔はとても癒される。そんなフランももう少し加減を分かってくれれば俺も平気で遊べるのだが、どうもそこが難しい。
最終的に、フランはお医者さんごっこという恐怖の遊びを諦めてくれた。そこかわり次はこれ! 今度はこれ! と次々と候補が挙げられる。もちろんどれも普通の人間なら死ぬような内容だが。
「もーっ!何なら遊んでくれるの〜!」
「もっと平和的な遊びは知らないのかよ。なぁレミリアお姉ちゃんよ」
「あなたが言うと太陽に当たらなくても灰になりそうな程気持ち悪いわね」
「そこまで言うか!?」
「あと、お姉ちゃん、はやめなさい」
「なんで?」
「いいから」
かなりどキツイ罵倒をされながらも、なぜかレミリアは顔を赤らめていた。
「もしかして、言われ慣れてないから?」
「うっさい!」
「いったぁ!殴らなくてもいいだろ!」
「うっさぁい!!」
まさかの予想的中によってレミリアに殴られた。
結局殴られただけで、レミリアは部屋を出ていった。日頃言われ慣れていない事を言われると確かに恥ずかしくなる気持ちはわかるが、何も殴るまではしないで欲しい。
「わかった!悪かったよ!」
「あんたねェ、夜の王にはずかしめて」
「如月妖斗!!!」
「え、は、はい!!!......咲夜?」
デカい声を出され思わずビクついてしまう。
だがその声はレミリアのような幼い女の子の声とは全く違う。
十六夜咲夜の声だった。
「咲夜。珍しくみっともない声ね。らしくないわ」
「も、申し訳ないございません、お嬢様」
「いいわ。何かあったのね」
普段は冷静を装うメイド長である咲夜だが、今に関してはその冷静さも失い息を荒らげていた。
「さ、西行寺幽々子が...!」
◇ ◇ ◇
紅魔館を飛びだして全力で冥界へと飛び立った。おそらくここまで早く飛んだことはないだろう。
上を向き、空へと向かい、雲の上にある冥界への門を見つける。
何があったんだ。冥界で、幽々子の身に何があったんだ。
桜の花が視界に入り続ける。
長い階段に終わりが見え始める。
白玉楼は目の前。
「幽々子!」
庭へと降り、急いで勢いよく襖を開ける。
「よ、よぉ、と、さん......」
「妖夢...」
いつもなら急な音にびっくりするだろう妖夢が、今はそんなことも無く、ゆっくりとこちらを向いた。
瞳から流れる雫から、何も語らずとも意志が伝わって来た。
妖夢の一つの布団。そこに眠っているのは冥界、白玉楼の主である幽々子だった。
「ようとさん...ようとさん......ゆ、ゆゆこさまが、きゅうに、たおれてしまわれて、わたし、なにもできなくて、なにも、わたし......」
「妖夢、落ち着くんだ。自分を責めるんじゃない。幽々子の傍にいてくれてありがとう」
肩を震わせて自分を責め始める妖夢を落ち着かせようと包み込む。昔はこんなことできなかったが、ここまで女性が辛い思いをしていると話は別だ。
落ち着き始めたのか、肩の震えが治まってくる。「もう、大丈夫です」と声が聞こえ腕を離した。
「教えてくれないか、妖夢」
「...はい」
妖夢の説明を聞いても、近くにいた本人もイマイチ理解をしきれていなかった。なんの前触れも無く、幽々子は倒れた。それだけだった。
西行妖にもこれといった反応も感じられず、ただ倒れる前の幽々子は弱っている風に見えたそうだ。
幽々子が倒れてから、只事ではないと咲夜が急いで時を止め、俺を呼びに来た。
どうして倒れた。
力を失うなんて聞いたことがない。
かと言って幽々子と西行妖が直接的に関係が無い訳ではない。だが春雪異変の際に紫がより強力な封印を施したと聞いた。
西行妖は関係ないのか?
いや、わからない。何も確信がない。
「幽々子......」
考えるんだ。だが情報が無さすぎる。俺に出来ることが何も無いのか?西行妖に関する知識は幽々子が亡霊になったあの日から必死に学んだ。それでも、今の俺は何も出来ないのか?
自分が、情けない。
助けてもらうばかりで、好きな亡霊一人助けられないのか。
「妖夢。すまないが、幽々子の傍にいてくれないか」
「なにをお考えなんですか?」
「幽々子を助ける。妖夢は幽々子がいつでも目を覚めていいように留守を頼む」
「何を言っていますか!私だってお手伝いします!」
意志を見せつけるように妖夢は主張してくる。
気持ちはわかる。自分の主の身に何かが起こっているのにその従者が黙っていられるわけがない。
「大丈夫だ。幽々子が目を覚ました時、誰もいなかったら寂しいだろ?......頼む」
頭を下げ、妖夢に頼む。
ここまで頼むにも理由はあるし、俺が経験している。
幽々子が生前、いなくなった時は寂しいなんてもんじゃなかった。
どんな形であれ、女性に悲しい思いをさせてはならない。
「......怪我したら、怒りますから」
睨みを効かせてくるが、その目付きからは怒りは感じられなかった。むしろ、心配してくれていた、
「すまない。ありがとうな」
感謝の意を示し、再び俺は白玉楼を出た。
妖夢にはいつも申し訳ないと思っている。
俺と同じくらい、妖夢だってジッとはしていられないはずだ。
それなのに、俺のワガママを聞いてくれた。
何が起こってるのか、異変なのか。
何もわからないのが恐怖を感じさせる。
最初の行き先は、西行妖だ。
作者は喉がやられました!
まぁ治りかけてはいますので!
意見や感想、気軽にどうぞ!
ではまた次回!