皆さん、お菓子は貰いましたか?仮装はしましたか?作者は何もしてません!←(おいこら)
今日はハロウィン、ということで特別編です!
なんで前に3周年を書かなかった?去年のハロウィンは?......内容が思いつきませんでした、すみません。
それではごゆっくり。
冥界の夜。
風は吹き、桜を散らし、月は照らす。暗い外からは薄ピンク色の桜吹雪がとても綺麗だ。そしてそれを見るように浮いているのはこの冥界に住まう幽霊たち。
ここ冥界では次の生を待つ幽霊たちが漂う世界。少なくとも怖くない事はないだろう。
もともとあまり明るくない冥界では、夜は月の灯に照らされた美しくなるが、雲に隠れてはただの暗いお屋敷。風は小さく吹いて桜を散らし、草の揺れる音が少し不気味に聞こえる。
だが、そんな音もかき消す悲鳴が、白玉楼から響いた。
「うふふふふふふ」
「いやぁ!いやぁぁぁぁぁ!!!」
仮装をした幽々子に追いかけられる妖夢の悲鳴が響き渡る。
妖夢は長い廊下を全速力で駆け抜け、幽々子はゆらりゆらりと追いかけている。普段から修行をしている妖夢は足がとても早い。きっと本気だと幽々子は追いつく事はできないだろう。
「ま、撒い、た......?」
後ろを振り向くと幽々子の姿はなく、走る速度を落とした。荒い息遣いは少しずつ治り、もう一度周りを見直して幽々子が追い掛けて来ない事を認識すると、妖夢は一つ呼吸を置いた。
だが、相手はあの幽々子。そう簡単には休めず。
「うふふふふ〜」
「あ、あぁぁ......」
「ばぁー」
「もぅいやだぁぁぁぁぁ!!!」
喉が潰れるんじゃないか、と心配になる。
涙を流すほど妖夢は怖がっていた。それもそのはず。幽々子の仮装があまりにも怖すぎるのだ。
体を黒い布で覆い、血のような赤いものが付いている。それだけならまだしも、ほんとに怖いのは仮面である。両目をくり抜いたように大きな穴が空いていて、その真ん中に赤い点があるのだ。頬やデコ辺には糸で縫い合わせた後もとてもリアリティがある。
はっきりいって男の俺でも怖い。
「よぉ〜おぉ〜むぅ〜」
もう振り返ることすらしなくなった妖夢は、最後に一叫んだ。
「お助け下さい幽々子様ぁぁぁぁぁ!!!」
そして本人は幽々子だと気づいていなかった。
◇ ◇ ◇
ハロウィン。
それは仮想した少年少女たちが夜に近所を訪問し、お菓子を貰うという子供からしたらとても楽しい行事である。逆に大人からすれば、一生懸命に怖がらせようとしている子供を見て和むことが出来る、まさにお互いにお菓子代金の除けば得なのである。
だがそんな楽しいはずのハロウィンが、白玉楼では涙を流す娘がいた。
「うっ、んぐっ...えぐっ...ふぇぇ......」
「よしよし。怖かったわねえ〜」
あやしている幽々子はすごくいい笑顔だ。泣いている妖夢の頭をナデナデしながらも「次は何にしようかしら〜」なんて呟いている。
「ぜ、ぜった、い...ごはんぬき、です......えぐっ」
「あらあら、それは嫌だわぁ。ごめんなさいね」
泣いている娘を慰める母親。まさにその風景が俺の目の前にある。まぁ実際は、庭師を泣かした主だけどな。
「妖夢、大丈夫か?」
「よ、よーとさん...怖かったんですよ?怖かったのに幽々子が......」
「あぁ。わかってるよ、怖かったんだろ?幽々子には俺から言っとくよ」
服を掴んで俺に涙目の上目遣いで見てくる妖夢。なんて可愛い、じゃなくてここまで怖がって。幽々子も今回はやり過ぎかな。
「じゃあ俺はハロウィンをイメージした物を作ってくるよ」
「はーい。楽しみにしておくわ」
「おう。それと、妖夢をあまりいじめないように」
「いじめなんてそんな。いじってるのよー」
「......幽々子様、本気で怒りますよ?」
「うそうそ、じょーだんよ。じょーだん」
待ってるわ〜、と言葉を最後に、俺は台所へと向かった。
「さて、何を作ろうかな」
ハロウィンを連想させる食べ物といえば、まず最初にかぼちゃを思い浮かべる。まぁかぼちゃを使うんだけど、こういう楽しめるイベントくらいは手の込んだものを作りたいし、何より二人に楽しんでもらいたいからな。
美味しくて、見た目で楽しめる料理......。
「......パイ?」
少し大きめに作って、食感を工夫すればなんとかなる。その上何かしらの絵を描けば見た目も大丈夫だろうか。
「よし、作ろう!」
パイを作るにはまず、一番必要なのは生地である。え?冥界には材料が無い?それが違うんだよ。実は今日がハロウィンというのは紫が覚えたいたのだ。だから紫が外の世界から、まぁ、その、『調達?』してくれたんだ。盗んではないはずだ。たぶん。
というわけで材料は心配ないんだ。ちなみにボウルとかの器具も揃っている。こういう時の紫はホントに助かる。
まずは生地を作ろう。
小さく切ったかぼちゃをボウルに入れて潰す。ある程度潰れたら卵、牛乳、生クリーム、はちみつ、小麦粉、砂糖を入れる。そして食感と味を楽しむ為にレーズンとアーモンドを入れよう。これでちょっとは美味しくなるかな。
混ぜ終えたら、耐熱の容器に移しておく。次に、紫よく見つけたなぁ、この冷凍のパイシート。わざわざ紫に頼んで持って来てもらったんだ。
これに切込みを入れて模様にするんだ。ハロウィンを思わせる模様と言ったら、当然あれしかない。そう、ジャック・オ・ランタンだよな、やっぱり。
模様が上手く切り抜けたら、そろそろ終盤。さっきボウルに移した生地に、このパイシートを被せる。この時にちゃんと被せているのかをチェックして、少し上から押してあげるとよくなるぞ。
パイシートを被せたら、周りに卵の黄身、卵黄を塗る。そしたらオーブンに入れて完成だけど、流石に幻想郷や冥界には電気が無いため、オーブンも無い。
ならばどうするか。
白玉楼には釜戸がある為、それを利用する。温度調節はできなくてもなんとかなりそうだし、ピザを焼くようにすればいける気がする。とりあえずパイを釜戸の中に入れて、俺は火を灯した。
そして待つこと30分。
「おっ、出来てる!?」
作った俺もびっくりだった。まさか釜戸でパイが焼けるとは。少しは焦げるかなって思ってたが予想以上の出来栄え!これは嬉しい。綺麗な色に焼けており、表面にはちゃんとジャック・オ・ランタンの顔に出来上がっている。あとは二人に食べてもらうだけだな。
手に布を被せてパイを運び足す。
「できたぞー」
「いい匂いねぇ」
「す、すごいです!」
「見た目はな。味はわかんないけど」
「この顔ってなんですか?」
「これはジャック・オ・ランタンって言って、ハロウィンを代表するキャラなんだ」
「これなら、少し可愛いですのにね」
話をしながらもテーブルの上に置き、二人にフォークと皿を渡して包丁で何等分かに切り分けて皿に移してあげる。
「よし、食べるか」
「そうね。いただきまーす」
「いただきます」
「俺も。いただきます」
フォークをパイに差し込み、一口サイズに切って、口の中はと運んだ。
「あらぁ、美味しいわね〜」
「陽斗さんっすごく美味しいです!」
「よかったよ。自分なりにもよく出来たと思うよ」
しっとりとした生地にちゃんとアーモンドとレーズンの食感があるし、何より甘すぎないところがいい。レーズンの甘酸っぱさとアーモンドの食感がとてもマッチしている。表面の皮の部分もパリパリになってて生地とよく合う。
これは美味しい!
「なんか、このお顔を食べるのが勿体ないわねー」
「とか言いながら、フォークは動いてるぞ?」
「だって美味しいもの〜」
「まぁ、幽々子だから仕方がないな」
「幽々子様ですから」
「ちょっとーなによその言い方ー」
「美味しそうに食べるなぁって事だよ」
幽々子は本当に美味しそうに食べてくれる。あの笑顔を見るだけで俺は料理の作りがいがあるし、なによりまた作ってあげようという気持ちにもなってくるのだ。料理を仕事としている人からすればこういうのは天職というのだろうか。
「いいから、どんどん食べてくれ!」
「言われなくても食べてるわ」
「陽斗さん。もうひと切れよろしいですか」
こんな会話が淡々と続き、パイは完食された。
俺にとって、ここは最高の場所でもある。
笑顔の絶えない、この空間がやっぱり好きだな。
今年は良いハロウィンだな!
「よーと」
「ん?」
「トリックオアトリート〜」
「えっ、さっきパイを作ったよな!?」
「あれはあれ、これはそれなのよ」
「どれだよ!?で、でも、お菓子はもう」
「じゃあいたずらねっ。い、た、ず、ら」
「はぁ。なんか引っかかるけど、しょうがないか」
「うふふ。覚悟してよね」
「......なんか怖いな」
「ほら、目を瞑ってこれをぉ、ここに、ちょんっと」
目を閉じて真っ暗な中、幽々子の指が右の頬をつついた。それと同時に何か液体っぽいものを付けられた。
「んっ?ほっぺに、なんだこれ?」
「さっき台所にあった生クリームよ」
「なるほど。それで、もう終わり?」
目を開けていいか、と聞こうとした。
その瞬間
「こ〜れ〜を〜......ちゅっ」
幽々子の唇が、俺の右の頬に触れた。
少し暖かく、頬に付いた生クリームを舌で取る時に当たっているのがわかった。
......って、え?
「えっ、あ......ゆ、ゆゆこ!?」
「いたずら完了〜。じゃあおやすみ〜」
片目でウインクをした後、まさにしてやったりという可愛らしい表情で幽々子は寝室へと歩いていった。
「ちょ、幽々、子ぉ.........」
俺は言葉もろくに出せず、幽々子の背中を見ながら唇の感触の残った頬を撫でる事しか出来なかった。
どうでしでしたか?
今回は泣き目の妖夢を多めに書きました。最後は、やっぱりお二人でしたが。
この作品が続いているのは、読んでくれている皆様のおかげです!今後ともよろしくお願いいたします!
意見や感想、気軽にどうぞ!
ではまた次回!