気づけば桜の亡霊が傍に居てくれる   作:死奏憐音

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えぇー、作者が忘れていて投稿出来ていなかった45話です。大変申し訳ございません。

それでは、ごゆっくりどうぞ。


45話:頑張りすぎても

「「もう一戦、もう一戦」」

 

「「いいかげんにしてください!」」

 

二人の従者が二人の姫に怒号を放った。それもそのはず。決闘のアンコールなんて聞いたことがない。

 

最後は妖夢のラストワードで決着がついた。日頃の鍛錬の成果を出し、妖夢本人も少し満足気だった。その姿は、幽々子も驚きを隠せなかったらしい。咲夜程ではないが、『時』を操作する事が妖夢にも出来た。それに、妖忌にも出来なかった技でもある。そもそも妖忌がいた頃は、まだスペルカードなんて無かったからな。

 

「こっちは疲れたんですよ!命まで掛けて」

「鈴仙さんの言う通りですよ!」

 

鈴仙さんに続けて妖夢も言う。だがそんな言葉も二人のお姫様の耳に入ることはなく......

 

「冥界にも、何か珍しいのがあるの?」

「珍しくないけど、桜が綺麗よ~」

「「.........」」

 

もういいですよ、と首をガクンと下にやり大きなため息をする二人の従者。無理矢理の命令をされて、それが終わったかと思いきやアンコール。妖夢と鈴仙じゃなければこんな対処はしないだろう。

 

二人の死闘が終わって何時間か経った。あの後、永琳の提案で、今夜は永遠亭で晩御飯をご馳走してもらうことになった。その提案に幽々子は、まぁ言う必要は無いが「決まりね」と即答だった。

 

「それで、陽斗は何か作れるの?」

「まぁ、妖夢程じゃないが作れるよ」

「いえいえそんな、私なんてそんなに上手く......」

「妖夢。自身を持っていいんだぞ?」

「で、ですが......」

 

うつむく妖夢に背中を押してあげる。だが料理の実力では妖夢の方が上なんだと思う。幽々子に合わせた料理を作るのが基本。俺は妖忌がいた時代から幽々子に料理を作ってあげているが、妖夢は白玉楼に来てすぐ幽々子の好きな料理がどんなのかを知り、その口に合った料理を作るようになった。歴は俺が長いが上達のスピードでは妖夢が上だったのだ。

 

「ちなみに鈴仙。永琳さんと輝夜さんは何かリクエストとか無いのか?」

 

当然俺たちがお世話になる側だ。そのためにも料理を作る際に食べる側のリクエストを聞かなければならない。

 

「そうね。ちょっと聞いてくるわ」

 

鈴仙はそう言うとすぐに聞きに行ってくれた。

永遠亭の人達って、名前からして日本の人なのだろうか。蓬莱山 輝夜なんて、あのかぐや姫じゃないのか?八意ってのは聞いたことないけど、因幡てゐの因幡は、確か幸福の神様だった気がする。

 

そんな事を考えていると廊下へと続く扉が開いた。開けた本人は当然、先ほど聞きに行った鈴仙であった。あれ?聞きに行っただけなのにやけに鈴仙の服が汚れてるけど......。

 

「鈴仙、そんなに汚れる程急がなくても」

「違うわよ、てゐよてゐ!てゐったらホントにもぉ......」

 

はぁ、とため息をつく鈴仙。そんなにやられたのか?なんか、てゐがそんな大きな事をするようにはあんまり見えないんだけど、人は見かけによらないって事か?

 

「それで鈴仙さん。料理は......」

「あ、そうそう。陽斗が外の人だからって、貴方の世界の食べ物がいいって」

「陽斗さんが作る外の料理、美味しいんですよ!」

「おう、ありがとな妖夢」

 

でも実際にはそんなに自信はないんだけど、妖夢がそう言ってくれるなら喜んでおこう。

外の料理かぁ、何にしようか。和のイメージがある永琳さんと輝夜さん。なんか大人な料理が、と思ったけど大人な料理って何だろう。お刺身...は幻想郷にあるし、わからない!ここはいっそ洋食にしようか。

 

「れ、鈴仙......」

「あ!なによてゐ......」

「さっきは、ちょっとやり過ぎたかなぁって......ごめんうさ」

 

弱々しい声で頭を下げて謝るてゐ。悪戯をするてゐでも良心、反省するという気持ちはあるんだな。だがそんなてゐを見る鈴仙はまだ疑っている様子にも思えた。それもそのはず。今まで何回何十回と仕掛けられてきたんだ。そう簡単に謝る訳がなかった。

 

「今日に限って、幽霊が来ていたから少しはしゃぎ過ぎたうさ......」

「......」

 

うつむいたままのてゐを静かに見る鈴仙。許してもいいのか、それとも何かの罠なのか。鈴仙の中で試行錯誤が行われているはず。

 

悩んだ末に、鈴仙は口を開いた。

 

「許さないわ。けど、見逃してはあげる......」

「それってどういう......」

「私は悪戯を受けていないって言いたいの。あんたのした事が偶然私に当たったって事にしてあげる」

「れーいせーん!」

 

鈴仙の言葉にさきほどまで暗かったてゐの表情が明るくなった。満面の笑顔でてゐは鈴仙へと近づいて抱きついた。

 

「ちょ、わかったから離れなさいって!恥ずかしいわ」

 

鈴仙の体にグリグリと頭を押し付けるてゐ。それがくすぐったいのか、俺たちに見られて恥ずかしいのか力ずくで離れさせる鈴仙。喧嘩の後に仲直りした姉妹みたいだな、こう見てると。

 

 

 

なんて思っていた直後。

 

「スキありうさ!」

 



 

それは一瞬の事だった。

 

目の前にいるてゐの右腕が高速で動き、鈴仙の後ろへと回した。そしててゐがやらかした行動を俺はガン見してしまった。

 

あの一瞬で......スカートをめくるとは。

 

当然目の前には鈴仙の下着と、その本人が顔を真っ赤にしながら強く握った拳がと体が震えていた。

 

「あ、は...ぁ...あぁ......っ!」

 

あまりの恥ずかしさに言葉も出ない鈴仙。

 

それを見て笑いを堪えるてゐ。

 

両手で顔を隠してるが隙間から覗く妖夢。

 

あ、目が紅くなった。

 

 

「こんの悪戯ウサギぃぃぃ!!!」

「逃げるうさ!」

「逃がすかぁぁああぁぁぁ!!!」

 

漫画のようにビュン!って音がしそうな速さで外に逃げるてゐ。鈴仙もそれに負けないくらいかなりの速度で追いかけていった。まさか、ウサギがウサギを狩るシーンが見れるとは流石幻想郷。って、こんな事言ってる場合じゃないな、てゐ大丈夫かな。

 

とりあえず。

 

「......二人で作るか」

「そう、ですね」

 

これ以上は何も言うまい。ただ静かに献立が決まって調理するだけの時間が過ぎていった。

今はちょうど夜。永遠亭からは綺麗な月が見えて竹林がいい味を出してとても風情のいい感じがする。こういう自然に囲まれた中にある建物が幻想郷には多いらしい。実際には白玉楼もだが、紅魔館だと大きな湖だろうか。

 

テーブルには既に料理が並べられており、いつでも食べられる状態だ。あとは幽々子と永琳さんと輝夜さんを呼ぶだけである。まぁ呼ばなくても来ると思うけど。ちなみに鈴仙とてゐはもう既に座らせてある。

 

「いい匂いがしたと思ったら、やっぱり出来てたのね」

 

基本、幽々子は呼ばなくてもこうやって自分で来てくれることが多い。その幽々子につられて永琳さんと輝夜さんも付いてきた。食卓に並べられた料理を見ると二人はすごく驚いてまたすぐに笑顔になって並んで座り、幽々子はその反対側に座った。

料理を並び終えて俺は簡単に片付けをし妖夢と一緒に幽々子の隣に座った。俺たちが用意ができた事を確認するように永琳さんが口を開いた。

 

「揃ったわね。それじゃぁ......」

 

少しの間をあけて永琳さんが続けた。

 

「白玉楼の皆さん、今日はお越しくださってありがとうございます。庭師の方もお疲れ様でした」

 

妖夢の方を見て頭を下げる永琳さんに妖夢も深々と頭を下げた。

 

「また、うちの兎たちにはしっかり......お仕置きをしておきますので。ご迷惑をしました」

「ひぃ!」

「うさっ!?」

「挨拶はここまで。では、料理をいただきましょう」

 

永琳さんの声に合わせ皆が手を合わせた。

 

『いただきます』

 

食事の挨拶を終え、皆は箸を取って料理を小皿に取り分け口に運ぶ。

今夜作った料理は外の世界の料理って事で、白玉楼でも食べたことの無い料理にしてみた。材料は妖夢が『幽々子様に何かあったときのために!』とあらかじめ持ってきていたからいろんな物が作れた。

 

「黄色いお米なんて、こんなのあるのね」

「いや、それはサフランって花で色を付けてるんだ」

「へぇ。永琳知ってた?」

「初めてだわこんなの。これはなんていう料理なのかしら?」

「パエリアって料理だよ。日本じゃなくて外国の料理だけどな」

 

大皿に盛られたパエリアを取りながら輝夜さんがそう聞いてきて軽く説明した。パエリアは俺が最初に作れるようになった得意な料理である。テレビで見て美味しそうだったから作って見ると思いのほか上手くいってそこから得意料理になったな。幻想郷には電気じゃなくて火だからおこげもあって美味しいはずだ。

 

「陽斗ぉ。このパエリアって前に作ってくれたちゃーはんってのと違うの?」

「まぁ、違うかな。チャーハンは炒めて完成だけどパエリアは魚介を入れて、ご飯を炊くのにちょっと近い感じかな」

「そうなのね。あ、おかわり」

「幽々子。皆の分もあるから今日はちょっと......」

「大丈夫よ。ちゃんと残しておくわ」

「幽々子様?」

「......そんなに睨まないでよぉ」

 

妖夢からの静かな怒りに、幽々子の目はまるで怯えた子供のようだった。しょうがない。こんなに美味しそうに食べてもらえているなら、今度から作ろうか、うんそうしよう。

 

「あの、陽斗さん」

「ん?なんだ、妖夢」

 

隣にいる妖夢が俺を呼んだ。隣を見るとカップに入ったスープをまじまじと見ている妖夢の姿があった。

 

「あのこれ、閉じられてますけど」

「あーそれね。それは......はい皆どうぞ」

 

忘れてた。そういやそうだよな。皆は外の世界の料理を知らないんだから俺が教えないとダメだよな。俺は席を立ちさっきまでいた台所へと向かってあるものを取ってきた。

 

「これを使うんだ」

 

みんなに渡したのは木製で出来たスプーンである。白玉楼では何度か使ったことがあるが永遠亭のメンバーは始めてみたのかどう使えばいいのか悩んでいた。

 

「これはスプーンって言ってな、このカップの上をパイっていう生地で包んでるんだ。これを...こう割ってスープを呑むんだ」

 

そう。今回俺が作ったのは普通のスープではなく、パイ包みのコンソメスープである。オーブンがなかったから実際には包むより、パイを乗せた、と言った方がいいだろうか。どうやってパイを焼いたのかというと、形を整えてそのまま火を通しただけなんだが、これが予想以上に大変だった。全員に説明が行き渡ると皆がパイを割ってスープを呑んだ。

 

「わぁ......」

「美味しいうさ」

 

まず初めに感想を聞いたのは鈴仙とてゐだった。てゐは笑顔でスープをそのまま味わっており、鈴仙は口に手を当てて感動していた。うん、そんなに喜んでもらえると作ったかいがあるよ。幽々子は相変わらずもう完食していた。妖夢にスープを作ってもらったが、作った本人も嬉しそうにしていた。

 

「貴方、ホントに亡霊?料理人になれば?」

「外の世界って凄いのね」

「褒め言葉として、貰っときます」

 

料理って結構大変なんだ。お客さんの口に合わせた料理を作らないといけないし、まず第一、調理師免許を取るのが大変...って、こんなこと思ってもこの幻想郷じゃ意味ないもんな。

 

「ねぇ妖夢」

「なんですか、鈴仙さん」

「貴女、何でも出来て羨ましいわ」

「えっ!急になんですか?」

 

いやいや!と手を振る妖夢を見ても話を続ける鈴仙。

 

「強くて、料理もできて、主に忠実で......」

「そそ、そんな!作ったのは陽斗さんで、私なんてまだ半人前...」

「自身を持って」

「え、あ......はい」

 

鈴仙の言葉に顔を赤くして俯く妖夢。あそこまで堂々と言われたら妖夢も恥ずかしいだろうな。そもそも妖夢は褒められる事に慣れてなく、小さな事でも褒められるとすぐに『いえいえ私なんてっ!』と言う。今回は鈴仙の言う通り自身を持っていいと思う。

 

 

 

 

 

食事も食べ終わり、全員で手を合わせた。食後にしばらく続いた楽しい会話。みんながみんないろんな個性を持っていて、永遠亭にいて楽しくなってきた。

 

「そろそろ帰らないとな」

 

外は真っ暗で空にある満月がとても目立つ。外は竹しかないため月の光だけでは暗くて不気味である。永遠亭付近には妖怪はいないだろうが、問題はそこから離れた場合だ。ここは幻想郷。何が起こって何がいてもおかしくない世界だ。ただでさえ俺はろくに弾幕も撃てないし妖夢も今日は疲れているだろう。

 

「あら、泊まらないの?」

「前に紅魔館ってとこで泊まったら怒られてな」

「冥界の管理を任されているのよ」

「そうなの、残念ね」

 

もう四季映姫さんに怒られるのだけは避けたいものだ。紅魔館から帰ってきた時なんか、正座で足が痺れて感覚がなかったからなぁ。

 

「でもお誘いを断るなんてねぇ......そうだ」

 

すると手をポンっとする幽々子。

 

「妖夢。貴女だけでも泊まっていきなさい」

「えっ!?幽々子様、何をおっしゃいますか!」

 

妖夢がそう言うのにも無理はないだろう。主を差し置いて自分だけ、ましてや庭師だけがなんて妖夢には絶対に出来ないだろう。

 

「私はそんな事できません」

「そう言うと思ったわぁ」

「う、ん?」

 

幽々子の言葉に妖夢は混乱していた。さっきまでと言っていることが違い過ぎた。これは幽々子が何が試しているのだろうか。だが幽々子でもわかっているはず、妖夢は必ずこう答えるとわかっていたはずだ。頭を悩ませる妖夢に、幽々子は口を開いた。

 

「妖夢。貴女は少し働き過ぎよ。あの勝負だって、私に振り回されてやったに過ぎないわ」

「自覚はあったのですね!?そうじゃなくて、私は主である幽々子様の指名に従ったまでです!」

「妖夢にはそうかもしれないわ。でもね......」

 

少しの間をあけ、幽々子は妖夢をじっと見つめた。幽々子は徐々に妖夢に近づいて行って両手を広げて妖夢を優しく抱きしめた。

 

「主からしたら、心配なの。頑張っている姿は好きよ?でもね、頑張りすぎる姿は怖くて心配になるの」

「で、ですが......!」

「妖夢が倒れちゃったらって思うと怖くてたまらないの。だから、ね?」

「ゆ、幽々子様......」

 

悲しく、小さな声でそう語る幽々子。主である幽々子でも、自分の庭師が、大切な存在が倒れるのは嫌だったのだろう。実際には妖夢は頑張りすぎている。何にだってそうである。三頑張るだけでいいのに、妖夢は五頑張る。そういった性格の持ち主だ。当然幽々子も心配になるだろう。

 

「わかりました。永琳さん」

「えぇ 」

「今晩は、宜しくお願いします」

「えぇ、歓迎するわ」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

永遠亭を出て、お土産に人参と筍をカゴいっぱいに貰って俺と幽々子は冥界、白玉楼に向かっていた。

 

「なぁ幽々子、よく妖夢を説得させたな」

「え、あぁ......うん」

 

あ、さっきまで筍をガン見してたな。めっちゃ目がキラキラしてるし目が未だにカゴに行ってるし。

 

「妖夢、頑張りすぎなの。あんなんじゃ私に罪悪感が出ちゃうわよ」

「へぇー。幽々子にも罪悪感はあるんだな」

「何よそれ、私だって立派な亡霊よ?」

「立派な亡霊ならそろそろ筍を見るの止めないか?」

「うふふ。なら、陽斗をジッと見てるわっ」

「な、なんだよそれ。なんか照れるからやめろよ」

「やーだ♪」

 

ホントに幽々子ったら。でも、なんかこういう会話って楽しいもんだな。

それにしても、よく妖夢を説得したと思うよ。何事にも真剣で最後までやり抜き通すあの精神。目標があれば達成するまで諦めない心。曲がった事を許さず、弱音を吐かない。

 

まったく......

 

「どこの爺さんに似たんだか」

「え、私?」

「ちげぇよ!?」

 

 

 

 

 

 

安心しろよ妖忌。妖夢は立派に成長してるからな。

 

 

 

 

 

 

「い ゃぁぁぁぁぁーーー!!!」

 

 

 

 

永遠亭から出てすぐ、妖夢の悲鳴ではないと信じたいところだ。

 

 

 

 

 

 






いやぁ、謝罪の言葉しか浮かびません。

次からはこういったミスのないよう、本当に気をつけますので、これからもこんな作者ですが、よろしくお願いいたします。

意見や感想、気軽にどうぞ!
ではまた次回!

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