気づけば桜の亡霊が傍に居てくれる   作:死奏憐音

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みなさん、今日は重大なお知らせがあります。

なんと、なんと!

今日この日、10月26日は『気づけば桜の亡霊が傍に居てくれてる』の初投稿の日。
つまり、1周年でーす!いぇーーーい!!!

いやぁ長かったですね。1年間で41話です。ちょうどいいのか、少ないのか多いのか分かりませんね。
そして今回で、記念すべき42話!当然、特別編でお送りさせてもらいます。

短いですけど良いと言う方はどうぞ、ごゆっくり


特別編:亡霊と亡霊

 

 

「妖夢ー、よーむ〜」

「はい、ただいまぁ!」

 

主である幽々子様からのお呼び出しだ。庭師である私は返事をし急いで幽々子様のところへと向かった。廊下は長く、扉もたくさんあって最初の頃はよく迷っていましたね。今では懐かしいです。

 

「もぅ、遅いわよ〜」

「す、すみません」

「まぁ急だったからね、いいわよ」

 

文句を言いながらも笑顔で許してくれる幽々子様は相変わらずお優しい方だ。

 

「それで、何の用でしょうか?」

「お腹すいt「さっき食べたからダメです」......妖夢のけちー」

 

ぶーぶー、と子供の様にただをこねる幽々子様がとても可愛らしく見えた。普段は大人っぽく、優雅に、可憐に振舞っている幽々子様だが、お食事の事になるとまるで子供のようになってしまうのだ。

 

「妖夢も一緒に食べていいから、ね♪」

「ダメです!もぉ、幽々子様ったら。主としての実感を持ってくださいよ」

「そう言われても、食欲には勝てないわよぉ」

「それでも食べ過ぎです」

「私は食べてるからこのボンキュッボンなスタイルなのよ?」

 

扇子を口元に当てて幽々子様はその体を見せびらかすように姿勢を変えた。確かに幽々子様はとてもスタイルが良い。大きく発達した胸に無駄な脂肪がないお腹にくびれ。そしてスラッとした美脚。女である私もとても羨ましい体です。

 

「妖夢も食べたら大きくなるわよ?」

「べ、べべ別に胸は大きくならなくていいですっ!」

「あら、身長のつもりで言ったんだけど」

「......ゆ、幽々子さまぁ!」

 

ちょっと恥ずかしさがありながらも幽々子様に怒る仕草をした。常識的では庭師は主に逆らってはいけないものだが、こうしてちょっと怒ったりもしたりしなかったりする。でも、幽々子様が相手だと、尚更仲のいい友達の様に接してしまう事があってしまう。

 

「もうっ、妖夢ったら可愛いわね」

「ふぇっ!?ちょ、幽々子様!?」

 

幽々子様はいきなり私に抱きついて来るなりそんな事を言ってきた。怒ったり褒められたりと状況が少しずつ混乱してきたのだった。

 

「ごめんなさい。ちょっとふざけすぎたわね」

「幽々子様......」

 

急にそう言い、幽々子様は私から離れた。

 

「私ね、妖夢の事が好きだから、こんなにも楽しくいられるのかしら」

 

少し下にうつむく様に喋り出した幽々子様。こう見ると私が何か幽々子様に悪い事をしてしまったと、自分の心の中で思ってしまう。

 

幽々子様は私がここに来るまでは私の祖父である、魂魄 妖忌が庭師をしていた。幽々子様二人だから寂しくないとは思われていましたが、この白玉楼には従者が少なく、主に私の祖父が一人でこなしていたらしいです。そんな忙しい祖父は幽々子様の相手を出来ず、幽々子様は一時寂しい思いをしていたそうです。

ある日、私の祖父は急に居なくなりました。それは幽々子様の命日の次の日。その後から私が白玉楼の庭師として、ここに来たのです。

 

「そんな、顔をお上げください幽々子様」

 

そんな話を一度聞いたことがあった。幽々子様はそんな感情を抱えながら過ごしていた事を思うと悲しくなります。

 

「いいえ。流石に妖夢も嫌でしょ?こんな主の風格もない私だと......」

「そ、そんなことありませんよ!幽々子様は、幽々子様はこの冥界の、白玉楼の、庭師である私の、立派な主人です!」

 

心からの言葉を私は幽々子様に言った。幽々子様はいつもはのんびりしていても、密かにやる事なす事ちゃんとしている立派な主人です。私は幽々子様の庭師で本当に良かったと心から思っています。

 

「だから、お顔をお上げください。幽々子様」

「......ありがとうね、妖夢。ならひとつだけ、貴女の主である私から、お願い事を聞いてくれるかしら」

「......はい」

 

幽々子様は顔を上げて私の目を見て話してくれた。こんな私でも、半人前な私でも庭師としてちゃんと扱ってくれる。このお方は立派で自慢出来る主人なんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

「......お腹すいたからご飯を」

「作りませんっ! 」

「なんでよぉ〜!」

 

でも、相変わらず食い意地の方が強いらしいです。

 

「なんなんですか!ちょっと見直したと思ったらどうしてご飯の話になるんですか!」

「お腹がすいているからよ!」

「堂々と言われてもなんにもなりません!お昼まで待っててください!」

「そんなっ!妖夢は私に死ね、と言うの?」

「もう死んでいます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが冥界の亡霊姫、私の主人、西行寺 幽々子様である。

 

 

 

そしてこの冥界にはもう一人亡霊がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......はぁっ!」

 

しばらく何も音がしなかった。私は刀を鞘に収めると、目の前に立っていた竹が少しずつ真ん中からずれていき、竹が斜めに切れた。切れて落ちた竹はカランと音を響かせ、また静かになる。

 

「ふぅ......」

 

ここで私は一気に肩の力を抜いた。集中するのはやはり大変ですね。刀は人を守る事も出来れば殺める事も出来る。生半可な集中では扱ってはいけない、と祖父から教わった事がありました。っと言っても、本人から聞いた事とは違いますが、祖父と一時期過ごしていたという人から聞いたのですけどね。

 

「お疲れ妖夢、はいお茶」

「あ、ありがとうございます陽斗さん」

 

そしてその祖父と一時期過ごしていた人がこの人、如月 陽斗さんだ。

 

「毎日大変だな」

「いえ、これもいざというときの鍛錬です!」

「それでも体には気をつけろよ?妖夢でも倒れられたら困るからな」

「陽斗さんもですよ」

「俺は1回倒れた事があるからな」

 

時に優しく、時に面白く、とてもいい人です。ちょっと前に冥界に来た理由を聞いたのですが、外の世界で事故に巻き込まれてここに来たらしいです。理由も理由で、他人を守るのは流石だと思いました。

 

「そういや、幽々子が居間で倒れてたんだが......」

「あー、あれは幽々子様が悪いんです」

「え?」

「幽々子様ったら、もう少し食欲を我慢してくださればいいですのに」

「あ、察したぞ」

 

陽斗さんはなるほどな、と手をポンとして納得してくれた。

 

時間はお昼頃だろうか。そろそろお昼ご飯を作らなければならない。献立は別に決まっていないのですが、何を作るか迷いますね。何にしまょう。

 

「う〜ん......」

「ようむぅ〜お腹すいたわぁ〜」

「ちょ、ちょっと幽々子様!台所を這い寄らないでください着物が汚れます!」

「うふふ、でもこれ、ちょっと浮いてるの」

「怖いからやめて下さい!」

 

いくら宙に浮いているとはいえ、怖いのは変わらない。正直幽々子様が出てきた時はホントに怖かった。べ、別におばけが怖い訳ではありませんからね!?

 

「よし、今日は俺が作るから妖夢は幽々子の相手でもしてきな」

「そんな悪いですよ!」

「なら一緒に作るか」

「あ、そうしまょう。幽々子様もですよ?」

「もぅ、しょうがないわね〜」

 

幽々子様はめんどくさそうにしているが、実際幽々子様の目は明らかに食材の方へとマークしていた。きっと今回の料理での私の役目は食材の防衛かもしれません。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

私は今に至るまで、ずっと寂しかった。祖父は私を家に置いて白玉楼で庭師をずっとしていた。祖母が帰ってくるまで、私は一人だった。寂しかった。

 

長い月日が流れ、私は成長していった。体は大きくなり、背丈も伸びた。

 

ある日、私は祖父から刀を譲ってもらった。いや、正確には引き継いだのだった。

 

亡霊十匹分の威力を持つ長刀、楼観剣。

 

迷いを断ち切り成仏させる短剣、白楼剣。

 

祖父はこの刀を私に引き継がせてくれた。この刀は祖父の、魂魄家の形見でもあった。私は必死に鍛錬を積んでひたすら刀を振った。だけど、その目標が私にはなかった。

 

またある日、私は正式に白玉楼の庭師として働くことになった。初めて目の前にする白玉楼の広さ。聞いたことはあったが予想以上だった事に驚いていたのをよく覚えています。

庭の手入れに苦戦し、一日で終わらない時も何度かあった。その上、刀の鍛錬もあると想像したときには挫折しようとした時もあった。でも私は諦めずに庭師を続けた。それは祖父を引き継いだという理由もありますが、それだけではなかった。もう一つの理由も出来たのです。

 

それが、この二人の『亡霊』が気づかせてくれました。

 

幽々子様は、私がドジをしたりしても怒りはしなかった。陽斗さんばかりに迷惑を掛けてばかりでした。

陽斗さんは私を応援してくれた。今はまだ半人前である私が、いつか幽々子様を守れるように頑張れよと、そう言われました。

 

「あ、こら幽々子!材料を食べるなって」

 

怒ってはいるがどこかほっとしている陽斗さん。

 

「大丈夫、完成して食べたら同じよ」

 

 

 

いつも笑顔でみんなに振舞っている幽々子様。

 

 

 

この二人がいると.........

 

 

 

 

「.........」

「ん?どうした妖夢。ボーっとして」

「妖夢、包丁持ったままなんて怖いわ」

「......あ、す、すみません。ちょっと考え事を」

「あら、それは主である私に相談しなきゃ」

「幽々子のアドバイスってよく食べ物に例えるよな」

「いいじゃない、美味しい話よ?」

「別の意味だろそれ......」

 

......とても、夫婦のように見える。

 

「あ、だから食べちゃダメだって!」

「あら、これ美味しいわね」

「......ふふ」

「どうした妖夢。今度は笑い出して、大丈夫か?」

「妖夢ったら可笑しいわね」

 

 

 

そんな二人が、私を支えてくれている。

 

 

 

「な、なんでもありません。早く作って、みんなで食べましょう!」

 

 

 

 

 

この二人の亡霊のおかげで、微笑ましい日常やみょんな日常があって楽しいと思える私がいる。

 

 

 

 




どうでしたでしょうか。若干慌てて書いた部分もあるので自信は少しくらいしかありませんが、作者なりに頑張りました。

今まで読んでくれた方。最近読み始めた方。前は読んでたけど今は読んでくれなくなった方。
皆さんのおかげで1年間続けられました!
本当にありがとうございますっ!

今後とも『気づけば桜の亡霊が傍に居てくれる』を皆さん、どうぞ宜しくお願い致します!

感想や意見、気軽にどうぞ!
ではまた次回!

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