はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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7計り難きは乙女心

 スコープを挟んで遥か先。金髪の少女ことフェイトが、使い魔のポチ……違った、アルフを連れて移動している。

 目指しているポイントまで、数分もあれば到着するだろう。

 

『すまんが、ポイントに到着したら少し待機してくれるか? お前らの飛行速度を舐めてた。思ったより早いな』

 

 視界を大きく右に振って、こちらの準備を整えるために射撃する。

 空気の抜けるような軽い音を伴って、ライフル形態のM1903の先端からスフィアが発射された。それは5メートルも進まない内に、空気へ溶け込んで見えなくなってしまう。

 

『固定座標に到着するまで6分ってところか。カップラーメンでも作ってればちょうどいい時間になるぞ』

『は、はあ……』

 

 どうも冗談の類は通じないらしい。なんと答えればいいのか困惑するような声が返ってきた。

 別にからかうつもりもないのでどうでもいいのだが。

 

『あの、あと少しで海上のポイントに到着します』

『ちゃんと見えてるよ。隣の使い魔が不機嫌そうなのまでばっちりな』

『そう思うんなら話しかけてくるんじゃないよ!』

 

 今日はささみジャーキーを持参してみたのだが、この距離では投げ渡すわけにもいかない。

 いっそ口を狙って撃ちこんでみるか。ジャーキーをアルフの口にシュゥゥゥゥゥゥッ!!

 めちゃくちゃ怒られそうだな。やめとこう。

 

『到着しました』

『了解。こっちはもう少しだ。手順の確認でもしとこうか?』

 

 そうですね、と決意に満ちたような声が聞こえてくる。

 プレシアから連絡を受けて今回のサポートをすることになったが、彼女はそれをどう思っているのだろうか。ちょっとわからない。

 フェイトの話しぶりから、2人の関係が親子なのは予想できた。

 母さんのために頑張ると意気込む彼女は、今ちょっと無謀なことをしようとしている。

 だが、これだけの愛を注ぐ娘に対して、親の反応は異常に冷たい。

 何かの研究のためジュエルシードを集めているらしいが、結局その詳しい理由もわからないままだ。

 

『今回のジュエルシードは海中にあるんだったな』

『はい。だから、私が電気の魔力流を打ち込んで強制発動させようと思います』

『それをお前が封印して、俺が撤退のサポートをする。やはり、何度聞いても無謀な気はするが』

 

 答えは返ってこない。むしろ、この沈黙こそが答えなのだろうか。

 彼女が何を考えているのか俺にはさっぱりわからない、ぐらいならわかるのだが。

 わからないことがわかるなんて、所詮は負け惜しみな気がしてくる。

 

『まあ、やると言うなら止めはしない。俺も報酬分は働くさ』

『ありがとうございます』

 

 本当は全部1人でやって、母親に褒めてもらいたいとか?

 第一印象は聞きわけのいい優等生だが、それぐらいなら考えているかもしれない。

 それくらい、彼女が見せた家族への執着心は強いものだと思う。

 

 結局、この考えはよくわからないという結論に帰結する。

 あまり不用意に踏み込むと面倒なことになりそうだが、どうもこの中途半端な感じも気持ち悪い。

 歯がゆいところだ。

 そういえば、リニスの姿を見ていないような気がするのだが。別件で出かけているのかもしれない。

 なんだかんだ律儀なやつだから、居るなら挨拶くらいしてくるはずだ。

 彼女がいれば、いろいろと上手くやってくれただろうに。

 

『待たせたな。こちらの準備も完了した。好きなタイミングで始めてくれ』

 

 はいと力強く頷いた言葉には、やはり意思を感じる。

 切羽詰まったような、焦っているような。昔、仕事を受けた直後のプレシアに似ているようだ。

 親子だから、当然なのか?

 いまいち晴れない疑念の答えを待ってくれるはずもなく。雷が海面に突き刺さった。

 

 

 苦しい、でも諦めない。なんとしてもやり遂げてみせる。

 そんな使命感が、体を突き動かしていく。

 全ては母さんのため。そう思えば目の前で撒きあがる渦も、放電の光だって怖くはない。

 研究で必要だからと、母さんが私にジュエルシードの回収をお願いしてくれた。

 最近、なんだか距離を感じていたけど。きっと全部、研究が思うように進まなかったせい。

 ジュエルシードさえあれば、研究は前進するはず。

 そうすれば、また昔みたいに仲良く笑って暮らせる。

 あの陽だまりみたいに温かくて優しい母さんが笑ってくれるはず、きっと……

 

「ぐぅっ……ああぁあああああああ!!」

 

 もう魔力が限界に近い。飛んでいるのがやっとだ。

 体も重く、あっちこっちが痛い。動きが鈍くなっている自覚もある。

 ここまでなのかな。

 そんな不安が押し寄せ、感情と視界を黒い影が侵食していく。

 今日初めて会った、協力者のお兄さんが言ってたっけな。今からやることは無謀じゃないかって。

 やっぱり、無理だったのかもしれない。

 でも、やらないと。母さんのために。

 

『お――、――以上は! 頼――ら、一旦――てくれ!!』

 

 ぶつ切りの声が念話でとんでくる。

 何を言っているのかわからないけど、この声は協力者のお兄さんだ。

 結界の外にいるらしいから、ジュエルシードの影響で繋がりにくくなっているのか。はたまた私の魔力切れが原因か。

 とりあえず声が焦っているような気がする。

 

『聞――ない―か? ちく――、上だ!!』

「え?」

 

 念話の聞きとれた部分にだけしたがって空を仰ぐ。

 そこにいたのは白い子。ジュエルシードを巡って戦った、あの子だった。

 こちらを目指して降りてくる彼女から敵意は感じられない。

 むしろ、なぜか悲しげな表情すらしている。なぜ?

 

「フェイトちゃん!! 手伝って、ジュエルシードを止めよう」

 

 そう言って、その子は私に魔力を分け与えてくれる。

 どうして? なんで?

 

「2人できっちり半分んこ」

 

 私の困惑を置き去りにして、その子が笑う。

 バルディッシュまでもが、貰った魔力で勝手にフォームを変えてしまった。

 わからない。わからないけど、きっと今は迷っているときじゃない。

 胸の奥にもやもやした何かを感じる。それすらも無視して、魔法の術式を組み上げた。

 

「せーのっ!!」

 

 遠いはずなのに、あの子の声がやけに近く感じた。

 

 

 上空から白い魔導師が乱入してきた。

 あれは前に次元震を起こしたときのやつか。管理局員には見えなかったが、どうやら関係者らしい。

 てっきりフェイトが堕ちる直前に出てくると思っていたから、完全に動くタイミングを逸してしまった。

 

「なにこれ。つまりどういうことだってばよ」

 

 スコープに映る二者は、不思議なことに協力体制をとっている。

 あれ、敵じゃなかったの? もう予想の遥か斜め上を行く展開に、俺の頭はまったくついていけない。

 とりあえず、乗艦リストにあった執務官は男だった。武装隊も見えないので、管理局側は余剰戦力を残しているだろう。

 それが出てくれば、今度こそ俺の出番となる。

 戦闘準備? いやいや、逃走準備なら万全だけどね。

 

「案外、あの白いのが出てきたのもイレギュラーだったりしてな」

 

 ははっ、そんな馬鹿な。

 ないない。流石にそんな都合のいい話……ない、よね?

 俺は今、何に対して不安を感じたんだろう。怖すぎるんですけど。

 

 そんなことを言っている間に、結界の中では2人の魔導師が高威力魔法をぶっ放してジュエルシードをねじ伏せてしまった。

 うん、あいつらまだ小学生くらいだよね? やばい、はやてと同じくらいの歳の子に勝てる気がしない。

 

「やばいなあ。今すぐ逃げたいのに、凄いいい雰囲気になってんなあ。どうし、え?」

 

 不意に空間モニターが開いてアラートが鳴る。

 高速で流れるデータへ視線を向け、次の瞬間には体が動いていた。

 

「ショートジャンプ!」

 

 最小限で展開された転移魔法が、俺の体を一瞬で結界の内部へと放り出す。

 あ、やばいここ海上だった。足場が!?

 慌てて小さなフローターフィールドを作って蹴り、半ばタックル気味にフェイトへ突っ込む。

 なんか耳もとで「かあさ、ごふっ!」とか聞こえたけど気にしない。より厳密には気にしている余裕がない。

 近くにいた白いのを、蹴り飛ばしてやる代わりに足場として使わせてもらう。

 やはり、こっちからも「フェイトちゃ、ぐぅっ!?」とか聞こえたが、むしろ感謝してくれ。

 

「あの女なに考えてんだ!?」

 

 俺が突っ込んだ場所に、少しだけ遅れて稲妻が降り注いだ。

 着弾と同時に大量の海水を巻き上げ、その威力を雄弁に語って見せる。

 空間干渉型の魔力攻撃。次元の壁を無視して飛んでくるような代物を、自分の娘に向けるってどういうことだよ。

 

「おいアルフ、フェイトを頼む!」

 

 近くで茫然としていた使い魔に主人を投げ渡し、俺はそのまま切り返す。

 とりあえず、仕事を終わらせる。さっきのことを問い詰めるのはそれからだ。

 空中で静止する6つのジュエルシードに手を伸ばし、回収と同時にもう一度ショートジャンプを。

 

「やらせない!」

 

 黒い影が割り込んでくる。

 若干、肩のあたりが世紀末な少年だ。ヒャッハー! とは言わないだろうな、執務官だし。

 それにしても、ここ年齢層が低すぎやしないだろうか。確かにミッドでは子供が働いているし、俺も人のこと言えた義理じゃないけど。

 

「悪いが不意打ちで行かせてもらう! ああっ、なんだあれ!!」

 

 少年の後ろを思いっきり指差して叫んでみるが、完全に無視された。ジュエルシードへの道を遮るように立ったまま、どくつもりはないらしい。

 あーぁ、これ俺のせいじゃないからね?

 

「ぐがっ!?」

 

 不意に少年の後頭部へスフィアが激突した。

 なんてことはない。最初に撃った設置式のスフィアを手繰り寄せただけである。

 だから警告してあげたのに。

 いや、振り返ったら振返ったでM1903のストックがフルスイングされてたんだけどね?

 

「あ、ちょっと背中貸してくれ」

 

 全力で踏みつけて、6つのジュエルシードを掴み取る。慈悲はない。

 ショートジャンプでフェイトたちの横に飛び、アルフの肩を掴んで更に飛ぶ。

 ちょっと次元間転移なんて面白すぎることはできないので、とりあえずの逃走手段だ。

 あとはプレシアに回収してもらうか、フェイトに頼むこととなるだろう。

 

「あぁ……やっちゃったよ。あれ、完全に目と目があう瞬間状態だった。これ顔覚えられたよマジ勘弁だわぁ……」

「えっと、なんて言えばいいか。とりあえず元気だしなよ? きっと大丈夫だって」

 

 まさかアルフに慰められる日が来ようとは。

 こ、これは涙じゃないんだからね! 目から汗が出ただけなんだからね!!

 おい、そこで引くなよ。最後まで慰めてくれポチ……

 




作中の「魔導師」が「魔導士」と書かれている誤字を発見して焦った今日この頃。皆さんいかがお過ごしでしょうか。
まだ大した話数じゃなくてよかった。
修正箇所少なくて済んだよ!やったねスポちゃん!!(白目


一応、誤字とか見てはいるんですがどっかにあります。
特に気にならないならいいんですが、鼻につくようならご報告ください。
随時修正させていただきます。

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