正直に言おう。フェイトを泣かせたのはやりすぎだったと思う。
あとでめっちゃ怒られる気がするけど、やってしまったものは仕方ない。
おおおおお落ち着け俺。折檻とかドックフードとか、べべ別に怖くねえし!
とか思いながら、隠れ家の洋服タンスに入ってガタガタしていると通信が飛んできた。
サウンドオンリーの空間モニタから漏れ出す声には、聞き覚えがある。
嫌らしく粘着質なそれは、どう考えてもスカリエッティのものだ。
『君、死んだんじゃなかったかな?』
「は?」
俺の偽名死亡情報、出回るの早すぎやしませんかねえ。
肩パッドの腹いせだろうか? まあ、なんでもいいんだけど。
「なんで、お前がそんな情報知ってんの。追い回されるのはウーノだけで間に合ってるけど?」
『悲しいことに、ウーノの行方を探っていると君が見つかってしまうから困るよね』
え、なにそれやばい。変な汗止まらないんですけど。
ホラーかな?
俺の肝はひえっひえですよ。
『まあ、そのことはとりあえず置いておくとしてだ』
「え、それと別件なの? なんだ、新しいIS作れとかそういう話かよ」
えっとどこまで作ったっけな。
フルダイブヘルメットは、俺が持ってるからノーカンとして……
確か、ドSグローブだろ。羽を模した切れ味のいい光刃が出る妖精さんなりきりセットに、透明マントと。あとは、なんか柔そうな幼女に防御力の昇天ペガサスMIX盛りな防具と小さめのナイフ、潜水艦女に盗撮カメラだったかな。
ああ、面白半分でブーメランブレードとかも作ったっけ。
まさか、ホントに使うとは思わなかったけど。
「残りの子たちの要望送ってくれれば図面引くから、組み立てはそっちでやってくれない? 今、ちょっと潜伏先探しで忙しいんだけど」
『ああ、まあそっちもそうなんだけどね。ちょっと別で設計図を作ってほしいものがあるんだよ』
「設計図? どんな」
『ふむ。大型の魔力攻撃兵器をという、スポンサーからのオーダーなのだがね。対空性能が高く、超長距離をカバーできるものがということなんだが。まあ、これを見てくれ』
こいつをどう思う? すごく、アホです……
なにこれ。作れって言ったやつはアホなの?
送られてきたデータを見る限り、質量兵器は禁止なんだからね! プンプン! とかほざいてる集団の発想じゃない。
え、ドゥーエが脳ミソの世話してたし、こいつのスポンサーって管理局の裏側でいいんだよね?
ホントに?
実はどっかのテロリズム溢れた、ヒャッハーハレルヤピーナッツバターな武装集団じゃなくて?
「おい、こんなスペックの対空砲火を首都圏に設置するとか本気で言ってんの? カバー範囲広すぎか! こんなの1機だけ置いてとか、どう考えても無理だろ常考。3、4機くらい設置しないとダメだぞ」
お前、これは要塞つくるストラテジーゲームじゃねえんだぞ。
四方八方を兵器に囲まれて、生活する側が平気なわけねえだろ! へいきだけに‼
『最後のは聞かなかったことにして、君から常識を説かれるとは驚きだね。ただ、これは私のオーダーではないんだよ』
「やばい、管理局が思ったよりも腐ってる」
もうやだよ、面倒ごとがまた増えたジャンッ!
1つ片付いたと思ったらすぐこれか。いい加減、過労になるわ。
正直、バカンスとかしたい。
「……サイズの概算出すから、設置できそうな場所を最低でも3か所用意させろ。設計はするけど、建造には関わんないからな。あと、残りのナンバーズのIS要望も」
『働き者だなあ、君は。実に助かるよ。この調子で、ウーノのことも帰ってくるように説得してくれたりしかいかね?』
「そりゃ親の仕事だろうに。家出娘ぐらい自分でなんとかしろ」
ごもっとも、とくつくつ笑うスカリエッティとの通信を途中でぶった切る。
用向きは終わったんだから、無駄話に付き合う必要はない。
しばらくすれば、あちらから大量のデータが送られてくるだろう。
おかしいなあ。はやての家で、ぐうたらしてた時の方が暇だった気がするゾ!
まあ、なんにせよだ。これはタンスの中でタケってる場合じゃない。
潜伏先とか考えなくてよくなったと、前向きに考えよう。
そう思いながら開け放った戸の向こう、ブルーベリーみたいな笑顔のウーノがいる。
んんん、これは詰みましたぞ。
‡
目が覚めて、最初に飛び込んできたのは真っ白な天井だ。
知らない天井だ、とかお約束を思い浮かべながら辺りを見回す。
そうして気付くのは、天井と言わず壁も床も真っ白という事実だ。
窓のない部屋。入り口は1つ。家具はベッドと簡素な机だけ。
体が動くから拘束はされなかったようだが、ここにいると目がチカチカしてくる。
「おう、なんだこの首の」
そこには、目覚める前にはなかった違和感があった。
ちょっとチョーカーっていうには、革の質感がリアルすぎる。
なんていうか、犬とかがつける首輪って方がしっくりくる感じだ。
ここがどこかわからないし、肝心のウーノも見当たらない。
あー、これはアレだ。とりあえず目星?
「リアルクトゥルフとか誰も求めてないんだけどなあ。ベッドの下とかに、ウーノがいたりしない?」
身を乗り出して覗いてみるが、そこには誰もいない。
いたらいたでちびるかもしれないけど、いないといないで不安感がぐんぐんグルト。
メモの1つも落ちててほしいなあ。
まずは、ベッドから降りて持ち物チェック。
服装はそのまま。デバイスあります。魔法はご丁寧にAMF効いてますねえ。
机の上にはなにもないし。あとは、ドアが開かなかったらどうしよう。
巷で流行のキスしないと出れない部屋とかだったら、俺はいったいどうすればいいの?
「そして普通に開くんですがそれは」
これはこれで怖えな。
とりあえず、向こう側に顔を出し、右見て左見て上見て更にぐるりと一周視線を巡らせる。
見えるのは左右に伸びる通路。部屋の中と同じで天井も壁も床も真っ白だ。
通路の両端には、それぞれ1つずつドアが見えるが。
ふうむ、これはいよいよな感じしてきたなあ。魔法なしとか、神話生物とかでてきたら素で負ける自信あるぞ俺。
「ここは優秀なハンター理論。右から攻めてみるか」
そぉっと部屋から出て、忍び足でドアの前へ。
ダイスを振っても、中の情報とかもらえないのでリアル聞き耳をたてる。
音はしない。大丈夫……たぶん。
ノブを捻れば、なんの抵抗もなくドアが開いてしまう。
いっそ鍵とかかかってればよかったのに。
「なにをしておられるんですか?」
「ひぎぃっ!?」
突然、背後から声がかかったせいで凄い声が出た。
ビビしタケってねえし! 別にタケったわけじゃねえからな‼
「ずいぶん錯乱しているようですね。平常運転で安心しました」
「え、ウーノ? なにこれやばい、思考が全然追い付いてこないんだけど。状況説明カモン」
「よくわかりませんが、潜伏先をお探しとのことでしたので。ずいぶん昔に破棄した、ドクターの施設を流用した隠れ家を用意させていただきました」
「なるほど?」
ごめん、意味わかんないまんまだわ。
なんでお前が潜伏先のこととか知ってんのとか、そういうのいろいろとあるけども。
とりあえず、率直に言って監禁と軟禁とどっちなんですかねこれ。
「私はドクターから、ヤクモ様のお手伝いをするように言われています。別に監禁や軟禁なんてしませんよ。外に出たいのであれば、反対側のドアから出られます」
あ、アルェ?
なんか、狂気の日記見て身構えすぎてたのかな。
いや、なんかその前にヴェロッサが絞殺されかけたりしてた気もするけど。
あれって、もしかして俺の見間違い?
なーんだよかった。これなら心配なさそうだわ。
冷や汗止まってないけど、これで1つ問題解決だよねなわけねえだろクソが!
首の斬新なチョーカーはどうすんだよ、これやっぱ洒落になってねえやつっぽいんですけども‼
「ご心配なくヤクモ様。どこへ行かれてもご一緒いたします。これは監禁でも軟禁でもありません。れっきとした管理です」
やばい、目が笑ってない。いや、笑ってるのかこれ。
ちょっと狂気度高すぎて判断できませんねえ。
ハハッ、ちびりそう。
おそらくだけど、この首輪にGPSちっくなのついてる気がするわ。
管理局がどうとか言ってる場合じゃなくなってきたわ。やばいよやばいよ……