はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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ちょろちょろ書いてくよ


64転んだ先の杖

 すぽーんと首が飛ぶ。

 ぐるんぐるんと視界が回る。

 見えているのは3人分の姿。

 正面、動じた様子もなく紅茶に口をつけている金髪少女。背後に、血走った目で愛機ヴィンデルシャフトを振りぬいている暴力シスター。真下では、なくなった首を手探りで確認する自分。

 以上3名の姿を眼下に見送りながら、床の上を4バウンドくらいして俺の頭は停止した。

 いっつも思うんだけど、あいつのデバイスってどう見てもトンファーだよね。そのビジュアルで双剣とかマジワロス。

 

「なお、その体は自動的に消滅す、あっ、ちょ! 冗談だからまって!?」

 

 なんの躊躇もなく暴力シスターの手で、俺の体が縦に切り裂かれる。

 ちょっとショッキングな光景だが、どうしようねこれ。

 首だけじゃ動けないんですがそれは。

 

「見ない間に少しはマシになったのかと期待したけれど、ダメねこれは。シャッハ、粗大ごみの手配をしておいてね?」

「この場で粉々にすれば、不燃ごみでいけるかと思いますよ騎士カリム」

「ねえ、君らほぼノータイムだったけど、これ完全に事件だからね?」

 

 人の首斬り飛ばしといて、なに平然と処理の話してんだこいつら怖すぎだろ。

 聖王協会の幹部クラスが言うと、現実味ありすぎて腹の下あたりがひゅんってしちゃう。

 

「おかしいわね。なんで死んでないのかしら」

「残念ながらカリム、これは本体ではないようです。本当に残念ですが」

 

 そりゃ無防備にここ来るわけないじゃん。

 だから、心の底から残念そうな表情で言うのやめてもらえませんかね。あと、舌打ちもやめーや。

 まさかここまで嫌われてるだなんて。オラ、わくわくすっぞ。

 

「あー、そろそろ本題はいってもいいかな。一応、交渉に来たんだけども」

「はやてのことなら手遅れよ? もううちで面倒をみているもの。1年くらい前だったかしら」

「それは別にいいわ。行けって言ったの俺だし。今日来たのはそっちじゃないんだなあ」

 

 知りたい? 知りたい? どうしても知りたい?

 なら、とりあえず首をテーブルの上に置いてもらえませんかね。この位置だと、視界が低くてめんどくさいんだ!

 とか言ってたら暴力シスターに蹴り上げられた。

 ボールは友達! そのままワンクッション天井を挟んでテーブルにドライブシュート!

 やっべ、視界が揺れまくって気持ち悪いっていうか壊れるわ!!

 

「なにこの三分の一も伝わらない置き方」

「純情さが足りなかったのでしょうね」

 

 そうそう、だいたいいっつも空回りしてるもんね。俺。

 っていうかさ。ぶっちゃけ、はやての手が回んの早すぎじゃない?

 下手なヒントとかやるんじゃなかった。今回は負けましたみたいなテンションで別れたくせに、あいつ欠片も諦めてねえじゃねえか。

 お願いだから5年くらいは第97管理外世界でゆっくりしててほしい。

 どうせ、守銭奴の転送屋が裏で手を貸してんだろうけどさ。

 

「おかしいわ。もっと驚くって聞いていたけれど、これも当てが外れたようですね」

「いやいや、スーパー驚いてますよ? 主にはやての予想能力とか。俺が言いそうなこと理解されすぎてる件について」

「御託は結構です。あなたは闇の書を持ってきたんでしょう? さっさとこちらへ寄こしなさい。ここ2年ほどの偽造戸籍は用意していますから」

「…………」

「なんです?」

「いや、シャッハなのに話が早すぎて困惑してる」

 

 叩き潰しましょうかと笑顔で言われて、すいませんでしたと素直に謝る俺。

 おかしい。交渉ってこんな感じのテンションでするものだったっけな。

 

「まあ、こっちとしてはスムーズにことが済んだからいいんだけど。これはこれで、はやてがなんかしてそうで怖いわけだが」

「もしあの子がなにかしていたとして、それを教えるほどの義理はないわね。闇の書の交換条件以外に、出せるものなんてないわよ?」

「そりゃそうだ。ああ、でも1つ頼まれてほしいかな。闇の書のおまけってことで、ちょっと保管しといてほしいっていうか。はやてが来たら渡しといてほしいっていうか?」

 

 約束とか破ってばっかだけど、たまには守っとかないとね。

 今さらかよ遅くね? とか言われるとぐうの音もでないわけだけども。

 

「届け物? 直接、あの子のところに送ればいいじゃない。それくらいのお金ならあるでしょうに」

「いやいや、ここまでたどり着いたはやてへのサプライズ用だからな。ちょっとくらい仕返ししとかないと、こっちとしてはやられっぱなしになるわけでね?」

 

 というかね。まだピンときてないようだけど、カリムは直接はやてと会ったら絶対気に入る。

 今は、とりあえず協力してるくらいだろうが。それはもう、軽く家族認定して侍らせようとするのがわかりきってる。

 だから、今のうちに言っとかないと俺の話とか二の次にされかねない。

 いや、後から反故にされる可能性もあるけども。はやてとカリムが、いいぞもっとやれ的な関係になったらそれ以前の問題になってしまうだろうし。

 そびえ立つキマシタワーを前にしたら、ちっぽけな俺にできることはなにもない。

 尊い、とかなら言えるかもしれないけど。

 

「とりあえず、はやてへの貸しにもできると思って預かってくれない? 俺の方で持ってると、ときどき犯罪臭がしてきてこまってるんだよね」

「リアル犯罪者が犯罪臭?」

 

 この際、シャッハの余計な疑問は置いておこう。

 そんなことより、ウーノに追われる身としては荷物を減らしておきたいというのが本音だ。

 いやむしろ、切なる願いと言ってもいいかもしれない。

 

「まあ、こいつを見てくれ」

「口から出てきた紙を見ろだなんて、シャッハ取ってくれる?」

「すいませんカリム。警戒のため、武器から手を離せないのでお断りします」

 

 しばらくお互いに見つめ合ったまま、カリムとシャッハの無言タイムが続く。

 やっといてなんだけど、恥ずかしくなってきたから早めに取ってほしい。

 そして、見つめ合う女性2人の横に転がった生首が紙吐いてるっていうわけわかんない状況なんだけど。

 ナニコレ珍百景。

 

「わかった。お前らがぶっ壊した首から下、そこにデータチップがあるから探してくれない? 無事だったらの話だけど」

「そういうものがあるなら、わざわざ口から出す必要はないのでは?」

「ダメよシャッハ。悪い意味で、彼に常識は通じないわ」

 

 なるほど、となぜか納得したようなシャッハが、裂けるチーズよろしく縦に両断された胴体のチェックを始める。

 口から出たものは嫌で、ボディタッチは大丈夫ってどういうことだろうね。

 難しい年ごろなんだろうか、俺と同い年くらいのくせして。

 

「なにやら、軽いセクハラを受けた気がしますが。ところで、これどこにデータチップがあるんですか?」

「襟の裏だ。大怪盗はいつもそこに隠すからな」

「ちょっとなにを言ってるのかわかりませんが、ありましたカリム」

「そう、内容はあとで目を通しておくとして。現物ってなんなのかしら」

「あー、そうな。ありていに言っちゃうと、高機能なダッチワイフっていうか?」

 

 ぶっちゃけ、質量兵器ギリギリラインのオートマタなんだけどモデルがなあ。

 漱石さん、かなりグラマラスだから凄いことになってんだよなあ。

 あと、これ今から俺も凄いことされそうだわ。シャッハに。

 意味深でもなんでもなく、ヴィンデルシャフトの一撃で脳天かち割りコース確定の予感!

 

「言い残すことがあるなら、一応聞いておきましょう」

「はやての大切な家族が使うパーフェクトボディだから、壊したりしないようにね」

 

 あと、受け渡すその日までいろんな意味で悶々としてるといいよ。

 ダッチワイフのいる生活とか、はやてになんて言って渡せばいいんだとか。

 いいゾ~こ……

 

 

 途中で映像が途切れたが、たぶんヴィンデルシャフトが叩き込まれたんだろう。

 バイザーを上げれば、ちょうど聖王協会の一室から窓が吹き飛ぶ瞬間だった。

 これは相当怒ってらっしゃる。しばらくは近づかないでおいた方がいい。

 オートマタの遠隔操作デバイスを助手席に放り、車のエンジンに火を入れる。

 アクセルを踏み込めば、車体はとても平和に進み始めた。

 この後は、闇の書と漱石さんのボディを聖王協会に送り付けて。それから、偽の戸籍でてきとうに大きめの花火とか打ち上げよう。

 あとは、自滅っぽい演出からの死んだふり潜伏だな。

 ちょっとは追手を誤魔化せるといいなあ。

 




ワンフェスとFGOフェス行きたかった。
静謐ちゃんのガレージキット作ってる人いたから、買いに行きたかった…

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