ヤクモ「敵の潜水かを発見!」
シグナム「ダメだ」
ヴィータ「ダメに決まってんだろ」
シグナム「ダメです」
ザフィーラ「ダメだな」
ヤクモ「(´・ω・`)」
イラッとする店員との会話を切り上げ、念話を切断する。
深く吐いた息が、白い塊になって空気に溶けた。
頼むから、もう少しすんなりことを運ばせてくれないだろうか。
どいつもこいつも邪魔するのが好きすぎて困る。
「アホ博士ぶん殴って、聖王教会にも顔出さないとな。猫はミッドに捨てとけばいいか」
そのあとは知らん。
勝手にグレアムのところへ帰るだろ、たぶんだけど。
まあ、あいつらに必要以上の手を貸す必要もないはずだ。仲良しこよしになりたいわけでもないんだし。
「みんな思い通りに動かないもんだから、やることが日に日に増えていくよね。そう思わない?」
「そらゲームとはちゃうからな。みんな、自分の思った通りに動くんやし当たり前やろ」
そしてまた1つ、思い通りにならない来客があった。
報告しろって言ったんだけどな。あのヌコ共め、嫌がらせのつもりかよ。
「よく来たな、はやて。仲間になる代わりに世界の半分とか要求してみるか?」
「前に、魔王は別におるとか言っとらんかった?」
ああ、言ったような気がするね。
地球破壊ビームは本気で死ぬかと思ったわ。常に非殺傷設定らしいし、大丈夫だったとは思うけどさ。
夜の暗闇の中から、苦笑したはやての車椅子が進み出てくる。ちょうど街灯で照らされた場所で止まって、膝の上の闇の書に手を置いた。
俺の足元まで、街灯の光が届くことはない。
なんとなく、自分の立場を突き付けられたような気分だ。
闇の書の装丁を優しく撫でるはやてが、今なにを考えているか。それがわからないのも、住む世界が違うからだろうか。
「じゃあ、約束通り闇の書を貰おう。説明はできないけどな」
「ええけど、呼び出したってことは話があるんやろ? 闇の書が欲しいだけやったら、他にもやり方とかあったやろうし。そっちを先に聞きたいんやけど」
「……そうだな。じゃあ、率直にいこう。いくつか言っとくことと、はやての生活を助ける手段を置いて行こうと思ってる」
正直、前から少し気になってはいた。
もともと、両親のいなくなった八神家を援助していたのはギル・グレアムだ。しかし、次元断層が発生している現状では連絡手段がないはず。
はやてはなにも言わなかったが、守護騎士が増えたことで家計は火の車だったんじゃないだろうか。
今まで節約してきた貯金で食いつないでいた可能性もある。
まあなんにせよ、流石にこのままというわけにはいかないだろう。
そうなってくると、次は自力で資産運用をするか。あるいは、グレアムとの連絡手段を再び確保しなくてはならない。
どっちでも好きなやり方を選べばいい。だが、どちらを選ぶにしても用意は必要だ。
「海鳴市の外れに中古車の販売店がある。表向きの仕事とは別に、裏で魔法関係者を相手に商売をしててな。魔法の教材も用意させてるから、受け取りがてらに挨拶してくるといい」
「魔法関係者に裏稼業なあ。魔導師って、そんなにおるもんなん?」
「適正さえあればわりと。とは言え、ここは管理外世界な上に魔法文化もない。適正者の数も少ないし、発現しないまま終わるやつも多いんじゃないかな」
だが、決していないわけじゃない。
魔法に触れて、ミッドへ移住した人間もそれなりにいるだろう。
もちろん、それだけが理由ではないが。
「ここはいろんな意味で環境が整ってるからな。俺みたいなのも少なからず潜伏してる」
「自分の住んどった世界が、そこまで物騒やって初めて知ったわ。具体的に、環境ってどういう意味なん?」
「んー……ざっくり言ってしまうと、管理外世界なのに魔法技術の商品が手に入る環境って意味だな。ああ、あと無駄に平和ってのもあるか。世界規模の戦争なんて、管理外世界だと稀によくあるからなあ」
「稀なんかよくあるんか、これもうわからんな」
もちろん、ここでだってないわけじゃないんだろうが。それもほんの小競り合いレベルのものばかりだ。
世界中を巻き込んでの戦争、なんて規模は久しく記録にない。
次元外に出ていた魔法適正者も、これなら帰って気易いだろう。
当然、そういった人の出入りがあれば、そこに需要を求めた商売人もやってくる。
結果的に、平和な管理外世界で魔法関連の物資が手には入ってしまう。
俺のようなジャンルの人間には、潜伏しやすい場所としか言いようがない。
「まあ心配するな。俺らみたいなのにもルールはある。この環境を崩して、潜伏しづらくなったら意味ないからな」
「どの口が言うとんのや」
「俺は悪くねぇ」
ロストロギアもガチムチロボも事故だよ。
ちゃんと事後処理もしただろ。
「なにはともあれ、この店には絶対行け。そうすれば、また資産管理をしてるおじさんとも連絡がつく」
「……それは、暗におじさんも魔法関係者やっていう意味なん?」
「自分で調べろ。そのために伝手を1つ譲ってやってる」
ふーんと漏らして、はやてが考え込む。
頼むから、もう余計なことを思いつかないでくれ。
「ところで、ヤクモさんのことも同じように調べられるわけやろ。それはええんか?」
「一応、貸しを作って口止めはした。それ以上の利益をくれてやれば、喋るかもしれないけどな」
簡単じゃないぞと付け加えれば、やはりふーんと息を漏らすようにはやてが頷く。
実際、ガチムチロボの件は本当にやばかった。
危うく管理局の介入を許して、潜伏できる世界が1つなくなるところだったからな。商売人からしてみても、自分たちの市場が減ってたかもしれないわけだし。
「まあ、だいたいわかったわ。ほんなら、はいこれ。闇の書、持って行くんやろ?」
「……そうだけど。なんか、タイミングおかしくないか?」
「せやろか。別に、まだ話があるんやったら聞くで」
ちょっと警戒し過ぎだろうか。
みんながこぞって邪魔するから、疑り深くなってるのかもしれない。
変に考え込んでいても仕方ないので、浮遊魔法で差し出された闇の書を引きよせる。
「ああ、それから。管理局に就職するのはいいけど、あんまり正義感を振りかざさないように」
「管理局って警察みたいなもんなんやろ? そこで正義感は振りかざすなって、言ってることおかしない?」
「法の番人が聖人ばっかりなら、汚職なんて言葉は存在しないんだよなあ。一部の例外はいるけど、基本的にあそこは魔窟だと思っとけ。俺なんか可愛いレベルに見えてくるから」
なんせ、サイン1つで違法研究を合法にできたりするやつらだ。
お得意の尻尾切りで、そういう黒い部分はしっかり隠してるけど。
「人助けは結構だが、向ける矛先は間違えるな。無暗に噛みついたら、それこそなにされるかわからんからな」
「管理局も怖いところなんやなあ。でも、なんかあったらヤクモさんが助けてくれるんやろ?」
「無茶言うな。そもそも、俺はチンピラに毛が生えた程度の雑魚なの。管理局と正面切ってやりあえる権力も武力もねぇよ」
だいたい、すぐ駆けつけられる場所にいるかもわからないだろうに。
「なんやかんや言いながら、ヤクモさんなら助けに来てくれそうで安心したわ」
「……頼むから、それを無茶する理由にだけはするなよ? お前から逃げつつ安否の確認、なんて矛盾したこと高頻度じゃできないからな」
「心配せんでも、私はヤクモさんみたいな無茶はせえへんよ。
こいつ、ホントにわかってんだろうな。