さっきまで曇っていた空から、とうとう雪が降り始めていた。
寒い寒いとは思っていたが、現実的な要素を見せられると泣きたくなる。
クリスマスのときは降らなかったくせに、なんで今なんだよ。
運命の神様は、もうちょっと自重してくれてもいいと思うよね。
「こちらオーナー1。キャット1、キャット2は状況を報告せよ」
『誰がオーナーだブッ飛ばすぞ!』
『あなたが主人になるくらいなら、今すぐ首を吊った方がましね』
酷い言われようだなあ。別にいいんだけど。
状況の推移は順調そのもの。
八神家を監視している猫たちの報告にも、まったく問題はない。
言うべきことがあるとするなら、守護騎士たちが少しリラックスしすぎなところか。
あいつら、俺が敵だってわかってんだろうな。
『ターゲットが家を出たわ。ロッテ、追いかけてくれる?』
『おっけー、任せといて』
意外なことに、文句を言いながらも猫たちはしっかり働いてくれる。
そりゃ、家に帰れるかどうかの瀬戸際だから当然か。
まあ交通費は俺が持つんだから、しっかり働いてもらわないと困るんだけどね。
「守護騎士たちの動きはどうだ?」
『正直、拍子抜けするくらい大人しいわ。探知魔法系も反応なし』
「無駄な信頼を喜べばいいのか、なめられてる事実を嘆けばいいのか……」
難しいところだなあ。
やっぱり、あいつら俺のこと敵だと思ってないんじゃない?
釘を……いや、今は刺しても無駄か。
はやてがここに来たら、ちゃんと言い含めとこう。
「そのまま監視を続行。はやての接近か、守護騎士に動きがあったら連絡をくれ」
はいはい、とかなり雑な返事を最後に念話が切断された。
まあ、やることはちゃんとやってくれてるわけだし。態度まで軟化しろってのは、流石に無理な注文だろうな。
特に支障はないから、このままでもいいだろう。
「そんなことより、予定が狂いまくってる方が問題なんだよなあ」
どの辺で狂ったかって?
そんなの決まってんだろ。はやてと初めて会ったときからだよ!
仮宿確保キターとか考えてた当時のアホな俺に、このクソロリコンが! って言いたい気分だよね。
「適当なところで姿を消せばいいや、なんて思ってた時期が俺にもありました……」
『え、なんの話ッスか? というか、急に連絡きたと思ったらそれッスか』
こっちの話だ、気にすんな。
『なんかよくわかんないスけど、こっちの手配は済んだッス。バラした機械のアガリは、いつもの口座ッスよ。ミッドの通貨に両替してあるッス』
「わかった。ついでに、やっぱり密告の準備もしといてくれ。このままじゃ、すんなり行きすぎて怪しまれる」
『あー……じゃあ、交渉の録音は握りつぶすんスね』
「闇の書ちょうだい、はいどうぞー、で話が終わったからな。使えるかこんなもん」
そもそも交渉じゃねえよこれ。
使った瞬間、ここまでのお膳立てが全部崩壊するわ。
え? もう崩壊気味だって?
やかましい!
「昨日、結界を張ったときの魔力は検知してあるな? それとなく管理局に提出しといてくれれば、情報提供料くらい貰えるだろ」
『それは別にいいッスけど。今度から表立って協力できなくなるッスよ?』
場合によってはこっちの方がやばいくらいなんだから、その辺りは仕方ないだろう。
はやてには、もう少しゴネてもらうつもりだったのに。すんなり渡されちゃうと、いろいろ都合が悪くなる。
通信記録は破棄して、強奪した事実だけ用意するしかない。
「どっちにしても俺は宿替えだ。拠点をミッド方面に移すからな」
『それはまた、金づ――常連さんがいなくなって寂しくなるッスね』
「テメェ、今金づるって言いかけたか?」
喧嘩なら買うぞクソ野郎。
『気のせいッスよ』
「……まあいい。俺とのパイプは切れるが、守護騎士たちが次の常連になるはずだ。俺の情報だけは漏らすな。それ以外の事は便宜を図ってやれ」
『流石はお客さん、信じてたッスよ!』
調子いいなあ、こいつ。
俺の評価がどこら辺なのか、一回ちゃんと話し合った方がいいかもしれない。
事と次第によってはぶっ飛ばす。
『でも、便宜を図るって言われてもッスねえ。守護騎士はともかく、所有者は一般人なんスよね? 流石になあ。なんにも無しでって言うのはなあ』
「よし、いい度胸だ。ロボットの情報が、お前にはいかないようにする事もできるんだが?」
『ボランティア精神あふれる心で対応するッス』
いい心がけだが、最初っからそういうスタンスでお願いしたい。
聞いてもらえればラッキーくらいで言ってるんだとは思うが。事あるごとに腹を探られると、流石に面倒だ。
下手な鎌掛けなんてしないよう、痛い目に合わせた方が精神衛生的にいい気もする。
ついついため息が漏れても、誰も文句なんて言わないよね。
「これは独り言だけどな。はやては将来的に管理局で働きたいそうだ。魔力の素質も申し分ないし、守護騎士っていう戦力も持ってる。きっと、凄く出世するだろうなあ。その幼少期を支えたとなれば、いろいろプラスになるかもしれないんだけどなあ」
『誠心誠意、お店を上げて応援させてもらうッス!』
この野郎……
わかりやすくていいけど、やっぱり1回くらいブッ飛ばしといた方がいいかもしれないな。