はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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59猫の手も借りた

 さっきまで曇っていた空から、とうとう雪が降り始めていた。

 寒い寒いとは思っていたが、現実的な要素を見せられると泣きたくなる。

 クリスマスのときは降らなかったくせに、なんで今なんだよ。

 運命の神様は、もうちょっと自重してくれてもいいと思うよね。

 

「こちらオーナー1。キャット1、キャット2は状況を報告せよ」

『誰がオーナーだブッ飛ばすぞ!』

『あなたが主人になるくらいなら、今すぐ首を吊った方がましね』

 

 酷い言われようだなあ。別にいいんだけど。

 状況の推移は順調そのもの。

 八神家を監視している猫たちの報告にも、まったく問題はない。

 言うべきことがあるとするなら、守護騎士たちが少しリラックスしすぎなところか。

 あいつら、俺が敵だってわかってんだろうな。

 

『ターゲットが家を出たわ。ロッテ、追いかけてくれる?』

『おっけー、任せといて』

 

 意外なことに、文句を言いながらも猫たちはしっかり働いてくれる。

 そりゃ、家に帰れるかどうかの瀬戸際だから当然か。

 まあ交通費は俺が持つんだから、しっかり働いてもらわないと困るんだけどね。

 

「守護騎士たちの動きはどうだ?」

『正直、拍子抜けするくらい大人しいわ。探知魔法系も反応なし』

「無駄な信頼を喜べばいいのか、なめられてる事実を嘆けばいいのか……」

 

 難しいところだなあ。

 やっぱり、あいつら俺のこと敵だと思ってないんじゃない?

 釘を……いや、今は刺しても無駄か。

 はやてがここに来たら、ちゃんと言い含めとこう。

 

「そのまま監視を続行。はやての接近か、守護騎士に動きがあったら連絡をくれ」

 

 はいはい、とかなり雑な返事を最後に念話が切断された。

 まあ、やることはちゃんとやってくれてるわけだし。態度まで軟化しろってのは、流石に無理な注文だろうな。

 特に支障はないから、このままでもいいだろう。

 

「そんなことより、予定が狂いまくってる方が問題なんだよなあ」

 

 どの辺で狂ったかって?

 そんなの決まってんだろ。はやてと初めて会ったときからだよ!

 仮宿確保キターとか考えてた当時のアホな俺に、このクソロリコンが! って言いたい気分だよね。

 

「適当なところで姿を消せばいいや、なんて思ってた時期が俺にもありました……」

『え、なんの話ッスか? というか、急に連絡きたと思ったらそれッスか』

 

 こっちの話だ、気にすんな。

 

『なんかよくわかんないスけど、こっちの手配は済んだッス。バラした機械のアガリは、いつもの口座ッスよ。ミッドの通貨に両替してあるッス』

「わかった。ついでに、やっぱり密告の準備もしといてくれ。このままじゃ、すんなり行きすぎて怪しまれる」

『あー……じゃあ、交渉の録音は握りつぶすんスね』

「闇の書ちょうだい、はいどうぞー、で話が終わったからな。使えるかこんなもん」

 

 そもそも交渉じゃねえよこれ。

 使った瞬間、ここまでのお膳立てが全部崩壊するわ。

 え? もう崩壊気味だって?

 やかましい!

 

「昨日、結界を張ったときの魔力は検知してあるな? それとなく管理局に提出しといてくれれば、情報提供料くらい貰えるだろ」

『それは別にいいッスけど。今度から表立って協力できなくなるッスよ?』

 

 場合によってはこっちの方がやばいくらいなんだから、その辺りは仕方ないだろう。

 はやてには、もう少しゴネてもらうつもりだったのに。すんなり渡されちゃうと、いろいろ都合が悪くなる。

 通信記録は破棄して、強奪した事実だけ用意するしかない。

 

「どっちにしても俺は宿替えだ。拠点をミッド方面に移すからな」

『それはまた、金づ――常連さんがいなくなって寂しくなるッスね』

「テメェ、今金づるって言いかけたか?」

 

 喧嘩なら買うぞクソ野郎。

 

『気のせいッスよ』

「……まあいい。俺とのパイプは切れるが、守護騎士たちが次の常連になるはずだ。俺の情報だけは漏らすな。それ以外の事は便宜を図ってやれ」

『流石はお客さん、信じてたッスよ!』

 

 調子いいなあ、こいつ。

 俺の評価がどこら辺なのか、一回ちゃんと話し合った方がいいかもしれない。

 事と次第によってはぶっ飛ばす。

 

『でも、便宜を図るって言われてもッスねえ。守護騎士はともかく、所有者は一般人なんスよね? 流石になあ。なんにも無しでって言うのはなあ』

「よし、いい度胸だ。ロボットの情報が、お前にはいかないようにする事もできるんだが?」

『ボランティア精神あふれる心で対応するッス』

 

 いい心がけだが、最初っからそういうスタンスでお願いしたい。

 聞いてもらえればラッキーくらいで言ってるんだとは思うが。事あるごとに腹を探られると、流石に面倒だ。

 下手な鎌掛けなんてしないよう、痛い目に合わせた方が精神衛生的にいい気もする。

 ついついため息が漏れても、誰も文句なんて言わないよね。

 

「これは独り言だけどな。はやては将来的に管理局で働きたいそうだ。魔力の素質も申し分ないし、守護騎士っていう戦力も持ってる。きっと、凄く出世するだろうなあ。その幼少期を支えたとなれば、いろいろプラスになるかもしれないんだけどなあ」

『誠心誠意、お店を上げて応援させてもらうッス!』

 

 この野郎……

 わかりやすくていいけど、やっぱり1回くらいブッ飛ばしといた方がいいかもしれないな。

 


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