しかし、リリカルなのは本編にそのような機材が実在するかは保証しかねますのでご了承ください。
それは夜の帳がすっかり落ちて、はやても寝静まった頃。昼間の宣言通り、自室でちょっとばかりロストロギアの正体について探りを入れていたときのことだった。
軽く管理局のサーバーをひっくり返し、それっぽいデータを探していると割り込みが入ってきたのだ。
おや? と思ったのも束の間。乱入者は欠片の迷いもなくこちらを目指してくる。
管理局に感づかれたかとも疑ってみるが、そうでもないらしい。
こちらだって管理局のサーバーへ無策で突っ込んでいるわけではないのだ。
ダミーはいくつか撒いているし、回線の経由だって何重にもしている。
「おいおい、どこでこっちのシステム捕捉したんだよこいつ」
つまり、完全にやり口が読まれているのだろう。
管理局を無能だと言うつもりはないが。しかし、俺みたいな有象無象の動向にまで目を光らせられるほど化け物じみた有能さがあるはずもなく。
つまりなんだ。
これ、完全に個人的な知り合いだよね……
「誰だよ! ここ最近は怨みを買うようなことした覚えなんてないぞ!!」
悪態を吐いてみたところで、追撃の手が弱まる気配はない。
じわりじわりと追い詰められているのは、おそらくマシンパワーに差があるからだろう。こちらは所詮デバイス一つ分の処理能力なので、そこは仕方ない。
べ、別に俺の腕が悪いわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!!
「これは逃げきれそうもないなあ」
思わず吐息を漏らしつつ、こちらの接続経路を複雑化する作業に入る。
こうなったら逃げ切るのは諦めよう。この鬼ごっこは時間稼ぎに使って、こちらの居場所を特定されないようにする方が建設的だ。
相手を知り合いだったとして、ガラの良いやつである保証はない。
今の居場所がバレるのは、イコールではやてを危険に晒してしまう。
本当は、早めに出て行った方がいいんだとは思うのだが。
「まったく。俺はいつまでここにいられるのかね、っと」
無理に回線を追いかけてくると、そのまま管理局のメインサーバに突っ込んでいくウィルスコードを設置したところで短い電子音が鳴る。
アラートだ。
これで追いつかれてしまった。
「こっちのIPアドレスの暗号化が間に合わねえ。くやしいのう、くやしいのう」
『それは本当に悔しがっているの?』
空間モニターに見覚えのある顔が浮かび上がる。
ああ、こいつだったか。出来れば、しばらく見たくなかった顔だ。
プレシア・テスタロッサ。
俺が管理外世界まで逃げ込む原因を作り、はやてと知り合うチャンスをくれた人物。殴るべきか五体投地で感謝すべきかで迷う相手だ。
「おい、依頼はちゃんとこなしたろ? 今さら何の用だよ」
『共犯者なのに、ずいぶんつれないわね』
「だいたいお前のせいだけどな」
思わず吐息が漏れてしまうのも仕方ない。
確かに仕事を受けたのは俺だ。自業自得と言われればそこまででもある。
しかし、共犯者というもの言いはどうだろうか。少なからず、彼女の仲間になった記憶はない。
「俺はお望み通りの機材を、全て探し当てて運び込んだよな? それも違法合法の区別なく。おかげ様で管理局に睨まれたんだからいい迷惑だ。その上、まだ何かあるのか? それとも、今さら機材に不備があって文句でも言いに来たのか?」
『まあ落ち着きなさい。別にクレームを言いに来たわけじゃないの。むしろ、あなたのおかげで計画を前倒しできたのだから。これでも感謝しているのよ?』
「あーあー、そうですか。じゃあ今すぐ回線のロック外して解放してくれませんかね。こっちはお前に関わりたくないんだ」
出来れば、ほとぼりが冷めたあとも永遠に関わりたくない。
運び込んだ機材には次元境界計測装置やちょっと言えないレベルの薬品や、培養機なんてものまで含まれていた。
俺が直接会って取引をしたのは、主にリニスとかいう使い魔だったが。通信モニター越しに喋るプレシアは、ときたま饒舌になるとアルハザードがどうのと言っていたと思う。
もちろん、装置を何に使うのかなどと野暮なことを聞いたことはない。興味がないというもの理由の一つだ。
だが、どう考えても面倒なことだろう。巻き込んで欲しくはない。
「ん? そういえば、お前が自分で連絡してくるなんて珍しいな。リニスはどうした。あっちの方がちゃんと会話のキャッチボールになって楽なんだが」
『……彼女はもういないわ』
ああ、また話しがきな臭い方に傾いた。
「ふぅん……まあいないなら仕方ない。じゃあ、ご用件をどうぞ。仕事のご依頼以外なら今すぐお引き取りください」
『本当に、あなたはいつも私の話を最後まで聞かないわね』
最後まで聞くと、知りたくないことまで知りそうだからに決まってるじゃないか常考。
『用件は簡単よ。また少し手伝って欲しいの』
「あー、これは申し訳ありませんお客様。ただいま、在宅以外のお仕事は休業してますんで派遣の類はお取り次ぎできません」
『あら、そんなことを言ってもいいのかしら?』
「いいに決まってんだろ。もともとこっちは中堅で仕事してんだ。断って無くすような知名度は持ってねえ」
そういうことではないのだけどね、とモニターの中でプレシアが忍び笑う。
もうちょっと普通にキャッチボールしようぜ、マジで。普段から変化球投げ合うのも疲れるだけじゃないかな。
「言いたいことがあるならさっさと言ってくれるかな? 俺だって調べ物の途中なんだ」
『そうね。じゃあ、あなたの手間をはぶいてあげるわ』
不意に、こちらの空間モニターが一つ増えた。プレシアが何かしたか。
相変わらずモニターの中で不敵に笑う姿を一瞥し、新たに出現した情報を手元に引き寄せる。
内容はとあるロストロギアに関する資料だ。
ジュエルシードと銘打たれた青の宝石には見覚えがある。つい前日、金髪と白いのが取り合っていたロストロギアで間違いない。
「情報提供には感謝するが、だからと言って仕事を受ける気はないぞ?」
『頭のいいあなたなら気付いているでしょう? なぜ、私がこのタイミングで連絡をとったのか』
何も言っていない俺の欲しがっている資料がばれている。
どこにいるのかもわからないはずの俺に、わざわざ連絡を取って依頼をしてくる。
極めつけは、いかにもな口調でわかっているでしょう? と問いかけてくる。
もうやだ。引きこもりたい……
「あの金髪とポチか。リニス以外にも身内がいたなんて知らなかったな」
『ポチ……? ああ、アルフのことね。あと、その金髪はフェイトというのよ』
「名前なんて知りたくもない……ああ、クソッ! わかった、一回だけだ。代わりに俺の居場所をリークするのはやめろ。間接的とはいえ、お前と関わってたこともだ」
『いいわ。ここ最近、管理局が邪魔してくるせいで私も余裕がないの。追って詳細を送るから、連絡先を教えてくれないかしら』
「捨てアカウントのメールでよければ喜んで」
いつでも削除可能なフリーメールのアドレスを受け取ると、プレシアは早々に帰って行った。
声は努めて落ち着かせていたようだが、本当に余裕がないのだろう。
でなければ、こんな方法で接触を図ってくるはずもない。
一応、俺への連絡方法は他にもいくつかある。どれも時間がかかるし、確実性に乏しいという難点はあるが。
なんにせよ、そっちではなく直接のコンタクトだ。
それも、管理局のサーバーを漁りに来ると予想して網を張っていたということになる。
「これは面倒事の予感がするなあ」
あーぁとやる気のない声を漏らしながら、ベッドへと倒れ込んだ。
一応、今回の騒動に派遣されている部隊名だけ管理局のサーバーから洗い出して、あとはさっさと撤退しよう。
横目に別のモニターで流れるジュエルシードの資料を流し見しつつ、目的のブロックからファイルを引っ張ってくる。
出てきたのは艦の名前と、乗員の名簿だ。
「L級艦船第八番艦・アースラ。艦長はリンディ・ハラオウン。出向で執務官まで乗ってるのか、泣きそう。あれ、こっちもハラオウン?」
まあ、その辺はどうでもいい。
問題なのは艦船が出てきているところだ。
部隊だけの派遣ならまだしも、拠点として戦艦を持ちだしてきている。彼らのフットワークは非常に軽いと思っておいた方がいいだろう。
カタログスペックを見るだけでも、アースラが厄介なのは明白だ。
フェイトというらしい金髪少女を手伝う場合、ポチも含め味方は最大3名。アースラに乗員している武装隊が駆けつけると、一瞬で踏みつぶされるんじゃないかな……
ここに執務官もやってくるとなれば、もう勝てる気がしない。
「うわあ、めんどくせえ……」
もう許してください、なんでもしますから。
そんな切なる願いは、数週間後に儚く吹っ飛ぶことになる。
汚い花火だ。勘弁してほしい。
おいみんな正気に戻るんだ!
新年からこんなとこに来るんじゃない!! まずは家族か友達に「あけおめ!」って言うかメールするか電話するのが先に決まってるじゃないか常考!!
ついでに私からもみんなに明けましておめでとう!!
私は厄年だけど、みんなは楽しい新年を迎えるんだぜ☆
追伸:
予想以上にこの小説見てくれてる人がいて私の冷や汗が凄い。
みんな落ちつけ? 私もちょっとラマーズ式深呼吸して落ちつくから。