不意に目の前で閃光が走り、遅れてきた爆風に体をなぶられる。
痛い。正直、今すぐ逃げてしまいたい。
ただまあ、そうするわけにもいかないから必死に態勢を元に戻す。
このまま錐揉み状態で落ちれば、地上で前衛オブジェの未来が待っているだろう。
「もうちょい手加減とかあっていいと思うんだよな!」
「手加減だと? 笑わせる!!」
なんとか足場を作って着地したところへ、シグナムが獰猛な笑みと共に突っ込んでくる。
怖すぎてちびりそう。
「さっきも言ったはずだ! 主はやての所へ行きたいなら、私を倒していけ!!」
「どこの少年マンガだいい加減にしろ!!」
アルターデコイと同時にハイド魔法を発動。幻影だけを残して後ろへ飛ぶ。
さっきまでいた場所を、レヴァンティンが通過するのは見ていて肝が冷える。
幻影とは言え、頭から真っ二つとか。
殺す気だよこいつ。
「よおし、もう一度ちゃんと話し合おう。暴力はなにも生み出さない」
「お前が主はやてに会いに来た。だから守護騎士を代表して、私を倒せば通すと言っている」
「どうしよう、理論がぶっ飛び過ぎてて会話にならねぇ」
再びシグナムが突進してくる。
とりあえず、接近戦じゃ勝てるわけがない。バラージショットで弾幕を張れば、多少は牽制になるだろう。
足止めになるかは別問題だけどな!
その証拠に弾幕を斬ったり搔い潜ったり、進行速度をちょっとそぎ落とした程度の効果しかない。
恭也に使った量の10倍出してこの程度だ。ホントに嫌になる。
「バレットブレイズ、チャージスタート。バラージショット、炸裂弾を強制発破!」
命令と同時に、弾をばらまいた一帯が吹き飛んだ。
誘爆したバックショット弾も相まって、ちょっとした破壊力になった。
しかし、そんな攻撃ですらシグナムは一撃で切り裂いてくる。
爆風を切り裂くってどういう理論だとか、これでホントに弱体化してるのかとか言ってる場合でもない。
慌てて足場を蹴り、危うくかすりそうになるレヴァンティンを避ける。
バックショットを背中に打ち込んでみるが、加速が早すぎて弾速が追いつかなかった。
悪夢かな?
「マルチプル起動。アクティブソナー、ソニック」
同じ工程を3度繰り返す。
発動位置は自分を中心に前面180度。
破壊力のある攻撃ではないが、流石に超音波まで斬れたりはしないだろう。
しないよね?
「くっ、貴様の多彩さは本当に厄介だな!」
「全然うれしくなーい!」
頭痛でシグナムの動きが鈍る。
長期戦に望みはない。なら、この一点に全賭けだ。
分の悪い賭けは嫌いじゃない!
「アルターデコイ・シングルモーション」
映像がぶれるように、もう1人の自分が俺から分離する。
1人は右へ、もう1人は左へ。
まるで鏡合わせのように、それぞれの方向へ走りだす。
そんな俺の姿を、シグナムが視線で追ったのは一瞬だった。
獰猛な笑みを浮かべ、迷いなく左へ走った俺に斬りかかってくる。
「惑わせた上で収束砲といったところか! 収束した魔力まで誤魔化せていないぞ!!」
大上段からの一閃が、右の肩にめり込む。
峰打ちなのは優しさかもしれないが、肩の骨がまとめて砕ける威力だ。
斬られた俺が、そのまま砕ける。
収束砲の魔力も、一気に霧散した。
残るのは驚きで目を見開くシグナムと、その背後から全力加速で接近する俺だけだ。
「収束砲なんて、わざとに決まってんだろうがあ!!」
魔法なんて関係ない。
義手になった右の拳と、今の加速度で十分な破壊力を生み出せる。
慌てて回避運動に移るシグナムに、霧散した余剰魔力を利用してバインドをかけた。
逃げ場なんてくれてやるか!
‡
なんとか八神家へと辿り着き、玄関を体重で押し開ける。
最後の一撃。まさか避けられないからって、カウンターに肘を入れられるとは思ってなかった。
やっぱ守護騎士は化物だわ。
「まあ、それ以上の魔王様が待ってるわけだが」
「フハハハ、よう来たなヤクモさん」
玄関先に、仁王立ちした幼女が立っている。
背中の黒い羽が、いかにもって感じだ。
手に持った杖は十字架だが、悪魔なのか天使なのかどっちだよ。
「さあヤクモさん、始めよか。闇の書が欲しいなら、力尽くで奪ってみ!!」
「まったく、連戦とかキツいねえ」
デバイスを呼び出し、M1903のスライドを引く。
魔力は心許ないが、経験値の差で埋めるしかないだろう。
楽しい楽しいラストダンスだ。
ここはひとつ、気合を入れなおしてやるしかない。
「現役の傭兵なめんなよ!」
「ふふん! リインフォースと私は無敵なんやで!!」
俺がストライクスファイアの魔法に乗せて引き金を引くのと、はやての杖が閃光を発したのは同時だった。
爆発が生じる。
その中を無理やり突破した俺に、はやての笑みが答えたようだった。
※ヒント2:タイトルの元になったことわざ