緩くアクセルを踏みながら、ひりひりする顔面をおさえる。
いやまて落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。
え、なにこれ。つまり、どういうことだってばよ?
「あれ? なんで俺、こんなはやてに肩入れしてるんだ?」
境遇が似て……ないな。
じゃあなんだ。
1人暮らし可哀想とか?
んなわけあるか。
それくらいで優しさ振りまいてたら、今ごろ俺は聖人になってるよワロス。
「嘘だろ、いや待てって。落ちつけよ俺。マジでマジか?」
「異様に語呂がいいわね」
「魔法の力を底上げします」
「は?」
そこは「マジ力」だろうが!
ドヴァキン先生に殴られるぞ。
「あんたの意味わからなさに付き合えるあの子って、実はかなり凄かったのね」
「どうしよう。私も、あの子の偉大さをなんとなく理解してしまったわ……」
うるせえ、鍋にされたくなかったら少し黙ってろ。
つまりどういうことだ。
はやてを保護すれば、俺にも利益が出る?
いや赤字出てんじゃねえか、ふざけんなよこの野郎。
「なんだ? ってことは、俺は今日までなんの得にもならないことをやってたと?」
そうだよ、便乗。
って違う違う、そうじゃなくて。
流石にそれは知ってた。
すっごく旨みのないことやってたくらいは、ちゃんと自分でもわかってる。
問題は、そこまでしてはやてに加担した理由だが……
嘘だろ、欠片も考えたことなかったぞ!?
「よし、とりあえず深呼吸だ。ヒッヒッフー」
「そういうのいいから、前を見て運転しろ!!」
ん? おっといかん、ここ左折だった。
ブレーキを強く踏み込んでハンドルを切る。同時に半クラッチでギアを落とし、エンジンブレーキをかけるのも忘れない。
今、車体の重心は前だ。
やや浮いた後輪は、前輪の方向に引っ張られてスライドしている。
一瞬だけ歩道が見える形で、綺麗に尻を振ったアウディが十字路を抜けていく。
流石は俺。伊達に紙コップから水をこぼさないでステージクリアしただけはあるな。
「あんた! 公道でいったいなにやってんのよ!!」
「夜中で人がいなかったからセーフだ」
「ふふ、どう考えてもアウトよ。次やったら殺してやるわ」
ごめんって。
まさか、そんな2匹そろってドアに激突するとは思わなかったし。
「もういいや。これ、たぶん深く考えても答えが出ないわ」
「うわあ、そういう投げ方はよくないんじゃない?」
「……どうでもいいくせにてきとう言いやがって」
まあねーと軽く答えて、猫どもがシートに戻ってくる。
もともとデュランダルで、はやてごと闇の書を封印するつもりだった連中だ。
知り合いでもないやつの悩みなんて、欠片の興味もないだろう。
「お前ら、はやてを封印するってなって躊躇したか?」
「別に、そういうのはなかったわね。暴走して死ぬのも、封印されて仮死になるのも同じでしょ?」
「だよなあ。それが一番安全だし、確実な方法だもんなあ」
でも、俺は腕を1本差し出してまでいろいろ走り回った。
そもそも、この世界に来たのはプレシアのせいだ。
あいつの依頼をこなして、管理局に睨まれたから逃げ込んだに過ぎない。
ジュエルシードの件だって、はやてがいなければ無視していただろう。実際、そのせいで管理局に捕捉されてしまったわけだし。
闇の書だってそうだ。はやての身柄ごとこいつらに渡して、俺のことを見逃してもらう方が建設的だろう。
「ほら見ろ、考えれば考えるほどわけわからん。どう考えても得がない。わけがわからないよ」
「あれじゃないの? 愛とか」
「なぜそこで愛ッ!?」
実際、どうなんだろうね。
惚れた腫れたの話で片付けていいんだろうかこれ。
……あれ? その理屈でいくと俺がロリコンになってね?
「1人暮らししてる幼女の家に転がり込んだ時点で、もうその辺りは諦めた方がいいんじゃないかしら」
「ごもっとも過ぎて反論できねえ」
確かに、どう考えても事案なんだよなあ。
今でこそ守護騎士たちもいるが、しばらく幼女と2人で生活していたわけだ。
あれ? お巡りさんの幻影が見える……
「やっぱり、これ考えるだけ無駄だわ。やめよう、深みにはまると動けなくなるし」
「まあ、こっちはミッドに行ければなんでもいいよ。あんたの用事とやらを、さっさと済ませて欲しいけどね」
「なんなら手伝うか? 守護騎士の連中を相手取るために準備が必要なだけで、戦力があるなら今からでもいけるぞ」
「あの4人を相手取って、大立ち回りは難しいと思うわよ?」
「んー、それがそうでもないんだよなあ」
こいつらに、これ言っちゃってもいいのかなあ。
あんまり味方って思うのもよくないだけど……まあ、なにかあったらギル・グレアムもろとも社会的に抹殺すればいっか。
幼女盗撮の証拠はあるわけだし。
「実は、今のあいつらはかなり弱体化しててな。それなりの備えさえあれば、俺でも守護騎士が無力化できたりする」
「はぁ? そんなわけあるか」
「いいから聞けよ。もちろん、通常時なら俺の勝ち目は万に一つもない。だが、今ならいける」
守護騎士は、闇の書の防御プログラムである。本来は、主を守りながら書の完成を目指すとうのがその役目だ。
ところが、今の彼女らにその使命は存在しない。闇の書との接続を、俺とリインフォースが完全に切り離してしまったからだ。
「そんなの知ってるわ。おかげさまで、私たちは怒りの矛先をどこに向けていいのかわからなくなったんだし」
「お前らの都合なんて知らん。ちょっと黙って聞いてろ」
守護騎士たちは、間違いなく弱体化している。
理由は単純。闇の書から、解放されてしまったからだ。
見た目はともかく、厳密に言うとあいつらは生物じゃない。いわゆる魔法生命体というやつだ。
人工的に生成したリンカーコアを、魔法で肉付けした存在である。
たぶんだが、ジャンルとしてはゴーレムとかそっちの方が近いんじゃないだろうか。
「それがどうしたってよの。つまり、向こうは怪我しても魔力補充で全快できるってことでしょ?」
「そこだ。本来、守護騎士ってのは主との間に闇の書を挟んでリンクを結んでる。ところがどっこい、今はその中継なしではやてのリンカーコアから直接魔力を引いてるんだ」
もちろん、守護騎士にはリンカーコアがある。個々が保有している魔力は膨大だ。
しかし、だからと言って無尽蔵なわけではない。
消費すれば、その分だけはやてのリンカーコアから吸い取ることにもなる。
「間に闇の書っていう中継がない以上、今のあいつらは使い魔とさして変わらん。使い魔がどれくらい術者の負担になるかは、まあ言わなくてもわかるよな。はやての潜在魔力は膨大だが、それでも今はまだ4人の全力戦闘を支えるのは無理だろう」
はやてのリンカーコアが、疲弊しているというのも大きな理由だ。
更に付け加えるなら、今のあいつらには管制役が存在しない。
リインフォースはパソコンの中にいる。いくらなんでも、あそこから全体の把握は難しいだろう。
はやてへのノックバック。リインフォースの不在。あいつらの性格も加味すれば、かなり手加減して戦うに違いない。
「まあ、もともと正面切って戦うつもりはなかったしな。お前らが手を貸してくれるなら、メイン戦力の陽動を任せることになるか」
「剣士とハンマー使いってこと?」
「出来たら犬も任せたい。補助があると面倒だろうから、シャマルはこっちで無力化する」
んー、と猫共が唸る。
弱体化したといっても、あくまで守護騎士の技量が落ちたわけじゃない。
今さらだが、ギル・グレアムといえばかなりの有名人だ。
流石に衰えていると思うが、現役時代の強さは今でもときどき耳に入ってくる。
そして、その使い魔であるこいつらが弱いわけがないだろう。
場合にもよるが、守護騎士を全員相手にしても互角に戦うかもしれない。
いや、流石にそれは買い被りすぎか?
「手伝ってくれるなら早朝に宣戦布告して、目的達成と同時にミッド行きだ。そうじゃないなら、明日の夜に戦って事後処理も含めると1週間ってところかな」
「事後処理が必要なことするわけ?」
「そりゃあお前、いくら弱体化してるっても俺が勝てるわけないだろ。トリモチとかバケツスライムとか大量に用意するんだよ」
「なんでバケツスライム?」
「なんとなく興奮するから?」
「死ね!」
僕は死にましぇーん!
「冗談はさておいて、どうする。手伝うのか? 出来るだけ早く帰りたいのは、アースラの帰還が関係してるんだよな。確か、闇の書の暴走で死んだのはクライド・ハラオウンだったか? アースラの艦長と執務官も、そんなファミリーネームだったよなあ」
うーん、なんの関係があるんだろうねぇー。
向こうを留守にし続けてると、いったい誰にバレて気まずい思いをするんだろうなあ。
ちょっとわかんないやー。
そういえば、クライド・ハラオウン氏が犠牲になったときの責任者って、ギル・グレアムだったらしいねー。
ウワー、イッタイドンナカンケイナンダー。
「あなた、あんまり人から好かれないでしょう」
「好かれてたら傭兵なんてやってらんないんでね」
「くそっ! 戻る方法さえあれば、あんたなんかここで殺してやるのに」
凄い物騒なこと言ってんなあ。
やだー、ヤクモちゃんわーこーいー。
まあでも、これで協力するしかなくなったよね、ゲス顔。
更新遅れました、申し訳ry
改めまして、あけましておめでとうございます。
大学のころの後輩から新年会に呼ばれ
「あけましておめでとうございます。わあ、凄い久しぶりですねぇ」
「あけおめ! ンジグオ・ンアッボ! ホント久しぶりだなあ。元気してた?」
「あははは、先輩は相変わらずですねぇ。今ならまだ許しますよ?」
「!?」
まさか、このネタが通じるとは思わず、新年から土下座してた焼き芋が帰って来ましたよ!
今年も通常運転、頑張っていきたいと思います!!
あ、もちろん相手は女性でしたからね?♂