はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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あけましておめでとうございます。
師走は立て込んでおりまして、勝手ながらお正月休みをいただいておりました。
ご容赦を


56近くて見えぬは恋心・前

 なんかぐちゃぐちゃになったガチムチを地下で発見した、意味深。

 たぶん、恭也が撃破した個体だろう。

 その証拠に、破損個所は刃物で滅多刺しにした痕がある。

 倒し方がわからなかったからって、これはやりすぎなんじゃないですかねぇ?

 こんなに固くて長いもので奥まで抉るから、いろいろガバガバになってやがる。拾えるパーツが少なそうだ。

 

「ああ、そういえば。まだ1機、解析してたのが置きっぱなしだったか。あれも回収しないとな」

 

 あんまりゆっくりしてると、テンション高めの恭也が追いかけてくるかもしれない。さっさと行動しなくては。

 また殴り倒すとなったら、新しいやり方を考えないといけないだろうからなあ。

 この短時間で、魔法対策もなにもないとは思うけど。万が一にも負けたりしたら、草葉の陰から孔明さんにぷぎゃーされそうだ。

 ちょっと冗談で済まないなそれ……

 

「人手も足りねえし、やることは多い。これで借金もなくならないんだから泣きたくなる」

 

 一応、ここを出る前にアクティブソナーですずかたちの位置を確認しておく。

 どうやら動いていないらしい。ボロボロの居間を片付け、恭也の手当てをしているようだ。

 追いかけてくる様子もないから、あとは勝手にやってもらうとしよう。

 地下から這い出し、自室だった部屋へ向かいながら今後のことを考える。

 ガチムチ売りさばいた金で、なんとか借金の半分は返済できるはず。

 ドクターの前金は車で消えたしなあ。他でなんとかカバーしないと。

 すごく簡単に捻出できる場所もあるにはあるが、行くなら死の覚悟が必要だから最後にしたい。

 いや、でもどっちにしたってもはやての件で行くことになるしなあ。

 早いこと腹くくった方がいいのかもしれん。

 

「おい、お前!」

 

 でもなー。

 鈍器がなー。

 あいつ、撲殺系のお転婆な天使って柄でもないしなー。

 なによりミンチを再生させる魔法なんてないんだよなー。

 

「え? ちょ、ちょっと! 止まって! 止まりなさい!! お願い待って!!」

「ウワーネコガシャベッテルー。コレハキットユメダヨー」

「そ、そんな棒読みで誤魔化されてたまるかあ!!」

 

 叫びながら、猫が人の足に噛みついてくる。

 だが残念。普段からザフィーラに噛まれ慣れている俺が、今さら小さな牙ごときで痛い痛いガチ噛みはあかん!!

 ギャグってのは痛そうに見せるだけで、本当に痛いのはダメなんだよ覚えとけ!

 

「なんで俺は猫に噛まれてるんだろう……」

「私に聞かれてもねえ」

 

 ひょっこりと現れたもう1匹が、俺の独り言に応えてくる。

 この2匹、確かはやてが拾ってきた化け猫だったはずだ。

 えっと、ギル様の使い魔だっけ?

 

「お前が父様を様付け!? え、敵対してるんじゃ……」

「金ピカと敵対した記憶はないなあ。出し抜いたって方が近いと思うが」

「キン、ピカ?」

 

 愉悦!

 いやいやいや、遊んでる時間ないんだった。

 

「今、それなりに急いでてな。明日の夕方までに処理することが山積みなんだ。話は歩きながらにしてくれるか?」

「わかったけど、あんた性格の変化が激しすぎじゃないかい?」

「余計なお世話だ」

 

 にゃにぃ! とか言いながら猫キックを浴びせてくる使い魔の首を摘み、大人しくさせながら移動する。

 もう1匹は普通についてきたが、こっちはかなり大人しいようだ。

 協力的で助かるね。

 

「なんなのよこれ」

「ロボットだよ、ロボット」

 

 ふぅん……と興味なさそうに呟いて、手元の猫が身をよじる。

 なにごともなく俺から逃れて地面に着地したが、内部機構のことを知ったら大騒ぎしそうだな。

 よし、黙ってよう!

 さっさとこれも転送し、続いて俺自身も庭に転移する。

 車の回収もこれでおっけー。

 じゃあ、店に戻って他の処理を進めるか。

 

「ふっざけんな! なに1人で転移してんのよ逃がさにゃいわよ!!」

「ち……お前、慌てると猫語が出てるぞ。気付いてるか?」

「え、ホントに!?」

 

 うわあ、恥ずかしいと猫が悶えてる間にエンジンをかける。

 よし、このまま発進すれば。

 

「悪いけど、こちらの話を聞いてくれない? ちょっとしたお願いがあるのよね」

「……いつ乗り込んだ」

 

 さあ? と白を切りながら、助手席にいる猫がゆったりと尻尾を振る。

 間違いない、こっちが姉だ。

 あと絶対勝てない。どうしよう……

 

 

 赤信号に差し掛かり、車体が緩やかに停止する。

 ブレーキングは完璧だな。レースカーの技術を組み込んでいるのは、伊達や酔狂じゃなかったようだ。

 難があるとすれば、左ハンドルであることくらいか。

 今となっては、義手を外すとギアの入れ替えすらできないのが面倒だ。

 

「あぁー、なんで初乗りの助手席が猫なんだ……」

「女の子の方がいいのなら、そちらになることもできるわよ」

「スペース無いからそのままでどうぞ」

「というか、あんた確かメイドと相乗りしてたじゃん」

 

 助手席に座ってジェットコースターはノーカンに決まってんだろうがいい加減にしろ!

 だいたいさぁ、なにが楽しくて真夜中に猫とドライブしなきゃいけないんだよ。

 こちとら予定が詰まりまくってるんだぞ。

 

「はぁ、不幸だ……そもそも、なんでお前らあそこにいたんだよ」

「流石にあんたが帰ってきたからね。宿替えしようってなったときに、あそこなら違和感がなくて都合がよかったのよ」

「他にも猫がいたおかげで、私たちも簡単に受け入れてくれたわ」

 

 そういえば大量にいたなあ。なんか、猫ルームなんてのまであった気がする。

 まあ、俺はそんなところで遊んでる余裕なかったけどね、白目。

 

「ん? お前ら俺が来たときからいたの?」

「そうね、正直に言ってあなたが来たときは驚いたわ」

「また引っ越しかと思ったけど、案外あんた気付かなかったかららさあ」

 

 居ついてみましたってか? マジかよ……

 そりゃ食料事情とかいろいろあっただろうけどさ。そんな灯台もと暗し展開あるか?

 というか、気付けよ俺。

 

「まあいい、どうせミッドに連れてけとかだろ? ちょうどギル・グレアムに恩を売ろうと思ってたところだ。ただし、こっちの用事が済むまで大人しくしてろ」

「出来るだけ急いでもらえないかしら。本当は、あまり向こうを留守にしたくはなかったのよね」

「そう言われてもな。ちょっとこれから、八神家に宣戦布告して闇の書を奪いに行くところだし」

「……はい?」

 

 ああいや、正確には夜天の書だったか。バグは残ってるから、闇の書のままでもいいとは思うけど。

 

「ちょっと待ちにゃさい。あんた、あいつらの仲間じゃなかったの?」

「猫語でてるぞ。仲間かどうかは別にして、あいつらとは敵対しとく必要があるだけだ」

「はぁ!? どういう意味よ」

「……はやては管理局へ就職したいらしい。俺を捕まえるためとか言ってたが、それが本命じゃないのくらいはわかってる」

 

 闇の書がよくない物だってことは、はやてもなんとなく理解していただろう。

 だが、実際になにをしたのかまでは不明だった。そのままだったら、あるいは見て見ぬふりだってできたかもしれない。

 問題は、守護騎士と一緒にリインフォースも助け出せてしまったことか。

 皮肉にも、彼女の記憶が闇の書の罪状を補強してしまった。

 

「たぶん、過去の闇の書の罪滅ぼしになればってのが本音だろうな。まあ、理由はどうでもいいんだ。あいつが管理局に入りたいなら、それをサポートしてやるのが俺の役目だろ?」

「……犯罪者をかくまっていた過去を、うやむやにするつもり?」

 

 うやむやだなんてそんな。

 純粋に知らなかった、それでいいんだよ。

 ここで敵対さえしておけば、犯罪者に騙された哀れな被害者が完成する。

 

「そんなにあの子が大事?」

「当たりま……あれ? そういえば、なんで俺こんな必死なんだろ?」

 

 えぇ……と隣から2人分の声が漏れだした。

 言いたいことはわかるけど、ちょっと黙ってようか。

 気付けば信号が青に変わっている。

 慌ててアクセルを踏み込むと同時に、信号が再び赤に変わってしまう。

 反射的にブレーキを踏み込むと、猫は2匹ともフロントガラスに突っ込んだ。

 


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