師走は立て込んでおりまして、勝手ながらお正月休みをいただいておりました。
ご容赦を
なんかぐちゃぐちゃになったガチムチを地下で発見した、意味深。
たぶん、恭也が撃破した個体だろう。
その証拠に、破損個所は刃物で滅多刺しにした痕がある。
倒し方がわからなかったからって、これはやりすぎなんじゃないですかねぇ?
こんなに固くて長いもので奥まで抉るから、いろいろガバガバになってやがる。拾えるパーツが少なそうだ。
「ああ、そういえば。まだ1機、解析してたのが置きっぱなしだったか。あれも回収しないとな」
あんまりゆっくりしてると、テンション高めの恭也が追いかけてくるかもしれない。さっさと行動しなくては。
また殴り倒すとなったら、新しいやり方を考えないといけないだろうからなあ。
この短時間で、魔法対策もなにもないとは思うけど。万が一にも負けたりしたら、草葉の陰から孔明さんにぷぎゃーされそうだ。
ちょっと冗談で済まないなそれ……
「人手も足りねえし、やることは多い。これで借金もなくならないんだから泣きたくなる」
一応、ここを出る前にアクティブソナーですずかたちの位置を確認しておく。
どうやら動いていないらしい。ボロボロの居間を片付け、恭也の手当てをしているようだ。
追いかけてくる様子もないから、あとは勝手にやってもらうとしよう。
地下から這い出し、自室だった部屋へ向かいながら今後のことを考える。
ガチムチ売りさばいた金で、なんとか借金の半分は返済できるはず。
ドクターの前金は車で消えたしなあ。他でなんとかカバーしないと。
すごく簡単に捻出できる場所もあるにはあるが、行くなら死の覚悟が必要だから最後にしたい。
いや、でもどっちにしたってもはやての件で行くことになるしなあ。
早いこと腹くくった方がいいのかもしれん。
「おい、お前!」
でもなー。
鈍器がなー。
あいつ、撲殺系のお転婆な天使って柄でもないしなー。
なによりミンチを再生させる魔法なんてないんだよなー。
「え? ちょ、ちょっと! 止まって! 止まりなさい!! お願い待って!!」
「ウワーネコガシャベッテルー。コレハキットユメダヨー」
「そ、そんな棒読みで誤魔化されてたまるかあ!!」
叫びながら、猫が人の足に噛みついてくる。
だが残念。普段からザフィーラに噛まれ慣れている俺が、今さら小さな牙ごときで痛い痛いガチ噛みはあかん!!
ギャグってのは痛そうに見せるだけで、本当に痛いのはダメなんだよ覚えとけ!
「なんで俺は猫に噛まれてるんだろう……」
「私に聞かれてもねえ」
ひょっこりと現れたもう1匹が、俺の独り言に応えてくる。
この2匹、確かはやてが拾ってきた化け猫だったはずだ。
えっと、ギル様の使い魔だっけ?
「お前が父様を様付け!? え、敵対してるんじゃ……」
「金ピカと敵対した記憶はないなあ。出し抜いたって方が近いと思うが」
「キン、ピカ?」
愉悦!
いやいやいや、遊んでる時間ないんだった。
「今、それなりに急いでてな。明日の夕方までに処理することが山積みなんだ。話は歩きながらにしてくれるか?」
「わかったけど、あんた性格の変化が激しすぎじゃないかい?」
「余計なお世話だ」
にゃにぃ! とか言いながら猫キックを浴びせてくる使い魔の首を摘み、大人しくさせながら移動する。
もう1匹は普通についてきたが、こっちはかなり大人しいようだ。
協力的で助かるね。
「なんなのよこれ」
「ロボットだよ、ロボット」
ふぅん……と興味なさそうに呟いて、手元の猫が身をよじる。
なにごともなく俺から逃れて地面に着地したが、内部機構のことを知ったら大騒ぎしそうだな。
よし、黙ってよう!
さっさとこれも転送し、続いて俺自身も庭に転移する。
車の回収もこれでおっけー。
じゃあ、店に戻って他の処理を進めるか。
「ふっざけんな! なに1人で転移してんのよ逃がさにゃいわよ!!」
「ち……お前、慌てると猫語が出てるぞ。気付いてるか?」
「え、ホントに!?」
うわあ、恥ずかしいと猫が悶えてる間にエンジンをかける。
よし、このまま発進すれば。
「悪いけど、こちらの話を聞いてくれない? ちょっとしたお願いがあるのよね」
「……いつ乗り込んだ」
さあ? と白を切りながら、助手席にいる猫がゆったりと尻尾を振る。
間違いない、こっちが姉だ。
あと絶対勝てない。どうしよう……
‡
赤信号に差し掛かり、車体が緩やかに停止する。
ブレーキングは完璧だな。レースカーの技術を組み込んでいるのは、伊達や酔狂じゃなかったようだ。
難があるとすれば、左ハンドルであることくらいか。
今となっては、義手を外すとギアの入れ替えすらできないのが面倒だ。
「あぁー、なんで初乗りの助手席が猫なんだ……」
「女の子の方がいいのなら、そちらになることもできるわよ」
「スペース無いからそのままでどうぞ」
「というか、あんた確かメイドと相乗りしてたじゃん」
助手席に座ってジェットコースターはノーカンに決まってんだろうがいい加減にしろ!
だいたいさぁ、なにが楽しくて真夜中に猫とドライブしなきゃいけないんだよ。
こちとら予定が詰まりまくってるんだぞ。
「はぁ、不幸だ……そもそも、なんでお前らあそこにいたんだよ」
「流石にあんたが帰ってきたからね。宿替えしようってなったときに、あそこなら違和感がなくて都合がよかったのよ」
「他にも猫がいたおかげで、私たちも簡単に受け入れてくれたわ」
そういえば大量にいたなあ。なんか、猫ルームなんてのまであった気がする。
まあ、俺はそんなところで遊んでる余裕なかったけどね、白目。
「ん? お前ら俺が来たときからいたの?」
「そうね、正直に言ってあなたが来たときは驚いたわ」
「また引っ越しかと思ったけど、案外あんた気付かなかったかららさあ」
居ついてみましたってか? マジかよ……
そりゃ食料事情とかいろいろあっただろうけどさ。そんな灯台もと暗し展開あるか?
というか、気付けよ俺。
「まあいい、どうせミッドに連れてけとかだろ? ちょうどギル・グレアムに恩を売ろうと思ってたところだ。ただし、こっちの用事が済むまで大人しくしてろ」
「出来るだけ急いでもらえないかしら。本当は、あまり向こうを留守にしたくはなかったのよね」
「そう言われてもな。ちょっとこれから、八神家に宣戦布告して闇の書を奪いに行くところだし」
「……はい?」
ああいや、正確には夜天の書だったか。バグは残ってるから、闇の書のままでもいいとは思うけど。
「ちょっと待ちにゃさい。あんた、あいつらの仲間じゃなかったの?」
「猫語でてるぞ。仲間かどうかは別にして、あいつらとは敵対しとく必要があるだけだ」
「はぁ!? どういう意味よ」
「……はやては管理局へ就職したいらしい。俺を捕まえるためとか言ってたが、それが本命じゃないのくらいはわかってる」
闇の書がよくない物だってことは、はやてもなんとなく理解していただろう。
だが、実際になにをしたのかまでは不明だった。そのままだったら、あるいは見て見ぬふりだってできたかもしれない。
問題は、守護騎士と一緒にリインフォースも助け出せてしまったことか。
皮肉にも、彼女の記憶が闇の書の罪状を補強してしまった。
「たぶん、過去の闇の書の罪滅ぼしになればってのが本音だろうな。まあ、理由はどうでもいいんだ。あいつが管理局に入りたいなら、それをサポートしてやるのが俺の役目だろ?」
「……犯罪者をかくまっていた過去を、うやむやにするつもり?」
うやむやだなんてそんな。
純粋に知らなかった、それでいいんだよ。
ここで敵対さえしておけば、犯罪者に騙された哀れな被害者が完成する。
「そんなにあの子が大事?」
「当たりま……あれ? そういえば、なんで俺こんな必死なんだろ?」
えぇ……と隣から2人分の声が漏れだした。
言いたいことはわかるけど、ちょっと黙ってようか。
気付けば信号が青に変わっている。
慌ててアクセルを踏み込むと同時に、信号が再び赤に変わってしまう。
反射的にブレーキを踏み込むと、猫は2匹ともフロントガラスに突っ込んだ。