あの、右腕はどうしたんですか?
ちょっと落っことしてきちゃった、テヘペロ!
え!? 落としたって、どうしてそんなことに……
坊やだからさ!!
「あの、それだと漏れなく男の子が腕を落とすことになると思いますけど」
「とんでもない世の中が到来しそうだな」
きっと、みんな錬金術で人体練成とかするに違いない。
鎧な弟が賢者の石で水を克服するんですねわかります。
「まあ心配しなくても、そのうち代わりの腕でも作るさ。ロケットパンチとドリル、どっちがいいと思う?」
「ヤクモさんって、いつでもポジティブですよね」
「それは褒めてるのか?」
別にいいけどな、と付け加えて再び手元に集中する。
今はガチムチ1号の人工皮膚を全て取っ払い終え、胸部を開いている真っ最中だ。
光学迷彩が死んだおかげか、こいつの構造解析にはアクティブソナーがとても役立った。
ダメもとの超音波検査が、すんなり通ったのには驚きだが。
まあ、楽になるのは大歓迎!
「厚さ20ミリの装甲とか、ホントふざけんなよ。どこの戦車だよ」
「そんなに薄い装甲の戦車あるわけ……あっ」
よし、チハたんの悪口はそこまでにしてもらおうか。
というか、よくそんなの知ってたな。流石に引くわ。
「ちょっとここ持ってくれ。右手ないとホントに不便だな」
「持ちました。魔法でなんとかならないんですか?」
「バイオ方面が専門じゃないのもあるけど、生やすとかそういうのはちょっと……」
考えたことはあるけど、できたら人間はやめたくはない。
強いやつを、片っぱしから丸呑みにしてくのも勘弁だ。そのうち、肌が緑に変色しても困る。
「ああ、でも義手とかはできるかもな。そのうちなんか考えるよ」
仮に自作するとして、ロケットパンチとドリルのどっちがいいだろう。
迷うな。
え、そんなの機能付けてどうするのかって?
ロマンだよロマン。
「あ、腕を取り外すから邪魔な制御基盤を取り外してくれ」
「わかりました。でも、この構造だと下のサーボモーターごとになっちゃいますよ?」
そこは仕方ないね。
きっと、装甲の厚さ優先で構造を簡略化したんだろ。
整備がし難そうなことこの上ない。
「ところでその。実はまだ別にお話があるんです」
「ん? ああ、サーボに繋がってる配線は切ってくれていいよ」
いえ、そうではなくて……と言い淀みながらも、てきぱきした動作でガチムチ1号の肩が取り外される。
にしても軽いなあ。これだけ厚い装甲なのに、すずかでも持てるとか。
質量とかどうなってんだよ。
「実は、はやてちゃんのお家のクリスマス会に呼ばれてるんです。明後日なんですけど」
「なるほど。それで良心の限界値が来て、逃げ回るのをやめたと」
「ごめんなさい……」
別に謝んなくても。いや、今のは俺の言い方が悪かったか。
やっぱり、はやてが異常なんだよな。
つい普段の調子で喋っても、あいつは気にせず返してくるし。
これも包容力でいいんだろうか。
「まあ、楽しんでこい。それにしてもクリスマスかあ。俺にはよくわからん行事だけど、なにすんの?」
「えっと、プレゼントの交換とか。他にもケーキを食べたり遊んだりします」
「誕生日となにが違うんだ。さっぱりわからん」
でも、よく考えたらキリスト生誕を祝ってる日なんだっけ?
こんな盛大に祝われるなんて、当時の本人は思いもしなかったろうな。
重い十字架背負っただけの甲斐はあったってことだ。
今ごろ、草葉の陰で「イエス!」と喜びの声を上げているに違いない。
「イエス・キリストだけにな!」
「キリスト教に、なにか恨みでもあるんですか?」
いや、勢いで言っただけだから。
今の一瞬で、世界中のいろんな人を敵に回した自覚はあるけどね。
もう敵ばっかりだけど根性さえあれば関係ないよねっ、白目。
「おっ、やっぱりあったかAMF発生装置。あれ、なんか小型化されて……」
「AMF? なんですかそれ」
「ある程度の魔法を無効化する装置だ。俺が描いた図面よりちっちゃくなってるけど」
ガチムチの腹に収められた機械を、すずかが興味深そうに眺めている。
未知の技術だし、機械いじり大好きな彼女にはさぞ輝いて見えるのだろう。
ただ、俺からしてみれば恐ろしさしか感じられない。
あのアホ、実は自力で解析できるんじゃないかな。
「問題は範囲設定と、それを支えられるだけのエネルギー源か。やっぱり、出力が足りないってのは大きいな」
「この前の、不思議なエンジンとかじゃダメなんですか? 見たこともない技術ばかりでしたけど」
「あれを小型化するのは流石に骨が折れるな。やってできないことはないけど、量産するにはコストがかかりすぎる」
こんなロボットをいっぱい作るんですか? と不安気なすずかに言われて言葉に詰まる。
いや、このガチムチを量産するつもりはないからね?
こんなん向こうから大量に走ってきたら、戦力以上に見た目がきつい。
精神攻撃は基本なんて、いったい誰が考えたんだ。
「安心しろ。なにか起こるとしても、ここじゃなくて遠くのどこかだ。お前も家族も友達も、そうそう危険な目には合わねえよ」
正直、何人かは例外もいるけど。
あいつらの場合、おそらく自分で首突っ込んでくるだろうからノーカンってことで。
俺はそこまで面倒見きれんよ。
「……それって、ヤクモさんはカウントされてませんよね?」
「解せぬ。なんで俺を頭数にいれようと思った」
おいおい、あんま気安くすんなよ友達なのかと思っちゃうだろ。
え、ぼっち? ちちち違うますけど?
いっぱいいるし友達! ネットとかで大人気だし俺!!
メイン盾キタ! これで勝つる! って言われるくらいにはモテモテだし、震え声。
「とりあえず、俺の心配は必要ない。あと、これ以上この話を続けるということは俺の心を抉ることになるのが確定的明らか……うん、この勢いは俺にはとても出せないな……やはりブロントさんは格が違った」
「えっ?」
はやてだったら、最後まで責任もってやりきらんかいとか言ってくれたかな。
難しいんだよあの言語。
それにしても、どいつもこいつも俺のこと心配しすぎじゃない?
もしかして貧弱に見えてんのかな。まあ弱そうに見えるのは、油断を誘えていいんだけどさ。
「えっとよくわかりませんけど、私は心配します。ヤクモさんは、私を怖がらない初めての理解者ですから」
「アリサとかなのはとかはやてとか。別に言っても受け入れると思うけどなあ。どうせ、首筋に噛みついて相手が干からびるまで血を吸うわけじゃないんでしょ?」
「そ、そんな怖いことできません!」
ですよねー。
俺のいた環境だと、人間よりデカイ吸血種だって存在したからなあ。
ぶっちゃけ、あれは吸血っていうより捕食なんだけど。
生きるために体液が必要で、それ以外は排泄物にするっていうんだから丸呑みにされたやつらが報われない。
「いかん、仕事のことを思い出すと暗い記憶しか蘇ってこないな。どうかひとつ、暗示でこの辺のを消してやくれませんかね?」
「ま、間違えて全部消しても怒らないなら努力してみます!」
廃人まっしぐらなんですがそれは……
というか、それもう怒れないよね?
真っ白に燃え尽きて、もはや動かなくなるやつだよねそれ!
もしそうなったらどうしてくれる。責任取れんのか!?
「大丈夫です。もしダメだったら、私がちゃんと面倒を見ます。ヤクモさんは家族以外だと初めての理解者なんですから、安心してください」
「お前の愛が重すぎて漏らしそう……」
ちょっと不安になって「冗談だよね?」と聞けば「ええ、もちろんです」と笑顔で答えがくる。
元気が出たってことでいいのかな、これ。
実際、やろうと思えばできそうだから怖いんだけど。
え、冗談だよね? いや、やめろ。真剣な顔で「もう、冗談ですよ」とか言うな!
どれ信じていいかわからなくなるだろ!!
「でも、ヤクモさんを心配してるのは本当です。私だけじゃなくて、きっとはやてちゃんも。あんまり無茶するなら、私にだって考えがありますからね?」
「わー、こわーい。ロリこわーい……」
なんだ。この辺りは、もしかして逞しい幼女を量産する土地柄なのか?
明らかにステ振り間違ってるだろ!
この哀れなメイン盾に、ちょっとはボーナスステくれませんかね!!
先々週は、むしろ4,5人ほどお気に入りが減る勢いだったのに。
今週は、なぜか50人くらい増えている。
これが幼女の力……おそろしい……