ところで、あのガチムチ1号を見てくれ。こいつをどう思う?
すごく……大きいです……
いや、冗談とかではなくてね?
近付いてみてわかったけど、こいつ2メートルくらいあるんだよね。
正直、黒のスーツも相まってゴリラにしか見えない。
ヤバい。強そう。
「おい、なにをやってるんだ! 魔法はどうした!!」
「まあ待て。まだ慌てるような時間じゃない」
唸りを上げる拳を、余裕で避けながら恭也君が声を荒げる。
いったいなに見てたんだよ。今、魔法無効化しただろこいつ!
しかも、実弾くらって平気ときた。思わず声が震えちゃいそう。
頭の片隅で、アイルビーバァァァァック!! とか誰かが叫んでいる。
きっと気のせいだよね。
「うわぁ……これはAMFですね。なんだこれは……たまげたなあ」
「おい、あんまり悠長に言ってる場合じゃないぞ!」
わかってるわかってる。
だから、もうちょっとその調子で逃げ回っててくれよ。
今いろいろ考えてるんだから。
「あれは機械。じゃあ、俺のリミッターも作動しないよね。ぶっ壊してもいいなら、なんとかなるけど?」
「できるだけ、原形は残すように忍から言われている。なんとかしろ」
俺の近くまで跳び退いてきた恭也が、とんでもないことを言っている。
そんな無茶な。
じゃあ動力を切るか、もしくはCPUを切り離してもいい。
人型だし、順当にいけば頭に処理領域を作ってると思うけど。
首をばっさりやってみればいいよ。
「そんな安易な場所に、あえて弱点を作るのか?」
「わかってないねぇ、恭也君は。人間の構造って、ある意味で奇跡的なバランスしてるんだぜ。できなくはないけど、あえて人体構造を無視して人型にするのは難しいんだ」
特に、あれはAMFなんて特殊な機構も搭載してるっぽい。
十中八九、CPU関連は頭部に集約されているだろう。
「とりあえず首を落とそう。こっちも戦術を変えるから、それでもダメな場合は破壊させてもらう」
「……わかった。その案でいこう」
ごつんと武器をぶつけあって、お互いの連携を確認する。
まったく。まさか、こんな形で共闘することになるとは思わなかった。
完全に予想GUYです。
「はい、ちょっと邪魔だから射線を空けてねー」
「気軽に言ってくれる!」
先に跳び出した恭也に後ろから声をかけて、通常弾をガチムチ1号の顔面へ叩きこむ。
だが、やっぱりというか穴は空けども無傷といった感じだ。
仕方ないので弾倉を変える。
その間に突っ込んだ前衛の攻撃も、あえなく弾かれてしまったらしい。
どうでもいいけど、あの装甲固すぎやしませんかね。
「流石ガチムチ。きっと体の鍛え方が違うんですね、錯乱」
果たして、ロボットスクワット何回分の筋肉なんだろう。
……ん? 筋肉? ってか、ロボットスクワットってなんだよ。
ダメだな。わけのわからん暗示で乱れたマルチタスクは、しばらく当てにできないかもな。
「ほい、そこでもっかい離れる!」
「さっきからお前は……後で覚えとけよ!」
わあ、怖い。
大振りな胴への一撃でガチムチ1号のガードを誘いつつ、恭也が体を大きく沈める。
おかげで顔面までのコースがガラガラだ。
遠慮なく『ペイント弾』を叩き込む。
センターに入れてスイッチ!
「HAHAHA! まさか、演習弾を使ってくるとは思わなかっただろう。俺も思わなかったよ!!」
「なるほど、目潰しか」
「いや、たかがメインカメラをやっただけだから油断しないように。絶対、他にもセンサーあるだろ」
ペイント弾だって、ワンマガジン分しかない。
改修したM1903の試射用だったから、あんまり持ち合わせがないんだよね。
「だが、これで攻めやすくなった。あとは、あの固い素材をどう突破するかだが」
「そこは恭也君の仕事だろ。なんかないの?」
秘奥義とかそういうの。
海賊王の船員には、刀で鉄が斬れるとんでもないのがいたぞ。
なんの話だ。マンガだね。1センチ単位で刻むぞ。しゅみましぇん!
とか言ってたら、突如ガチムチ1号が突進してきた。
するりと横に逃げた恭也と、タイミングを逃して逃げる俺。
なんとか壁を蹴って頭上を抜けられたが、勢い余って突っ込んだガチムチ1号が壁を突き破る。
いやいや、なんだあれ。あんなのくらったら、骨がバラバラになるわ。
「さっきまで、あれと接近戦やってた恭也君マジパネェ」
「そう思うなら代わってくれ」
絶対いやです。
「アルターデコイ、セット恭也」
壁の向こうから這い出してきたガチムチ1号の前で、恭也が複数体に分身する。
どうやら相手は、一気に増えた対象にAIが追いついていないらしい。
戸惑うように首を巡らせ、判断を迷っているようだ。
「なるほど、センサー類はこっちの基準にしてあんのか。あんの変態科学者め……」
よし、ようやくいろいろわかってきたぞ。
あの装甲もAMFも、正直ここにあっていいもんじゃない。
管理局に嗅ぎつけられたらどうするつもり……ああそうか。今、ここって手が出せない場所だっけ。
「変なところでちゃんと考えてあるのが、無性に腹立つな!」
「さっきから、なにをごちゃごちゃと! それに、なんだこれは!!」
「ただのめくらましだ。相手のセンサー類は騙せたみたいだから、あとは恭也君のリアルラックに祈っててるよ!」
無造作に振られたガチムチ1号の腕が、近くにいた幻影を簡単に吹き飛ばす。
やっぱり、触られると消えちゃうか。
こうなってくると、フィールド発生領域の安定化をやらないまま出てきて正解だったかもな。
完全に魔法を封じられたら、今のままだとお荷物になっちまう。
「よし、落ち着け。ぶっ壊さないで捕まえる方法……首を落とす方法。なんで壊したらダメなん、とか考えるな」
そうだ、落ち着け。クールにいこう。
AMFの弱点は、魔法行使によって発生した物理現象は撃ち消せないことだ。
つまり、闇の書にやったのと同じことをやれば有効打にはなる。間違いなく、頭はパーンするだろうけど。
じゃあ、他に俺の手持ちで同じようなことができるのと言えば……
「あっ、すっげぇ嫌な方法を思い付いちゃった……」
なんだ! と恭也君が怒鳴るように言ってくる。
10人近く出した幻影も、この狭い場所じゃいい的だ。
今や、減りに減って3人しか残っていない。
「恭也君、なんの疑問も持たないで敵に突っ込んで行ける?」
「お前を信用しろって意味か? 難しいな」
ここまで信じてもらえないとか、いっそ清々しくて目から汗が……
いや、行ってる場合じゃないな。
「わかった。じゃあ、恭也君は囮ね。あと、なんか壊れてもいい刃物持ってない?」
「持ってるわけないだろ。さっき倒してきたやつらが持ってるかもな」
その手があったか。
とりあえずデコイにランダムな踊りを命令し、加速魔法で一時的に戦場を離脱する。
さっさと行ってこいって目をしてたけど、恭也君大丈夫だよね?
戻ったらミンチなんて、ちょっと笑えそうもない。
「ぐっ、いったいなにをして……」
「ナニしてるように見えるんですかね?」
意識を取り戻しかけたスーツを華麗に沈めなおし、懐からコンバットナイフを拝借する。
デバイスが自動的に持てなくなるが、贅沢は言ってられない。大人しくホルスターへ仕舞って、ナイフの握り心地を確認する。
こいつら、無駄にいい装備もってやがるな。
刃渡りも20センチ前後あるし。うん、これならいけるだろう。
大急ぎで引き返し、辛うじてたんたんたぬきを歌いながらヒンズースクワットをしていた最後の幻影恭也が潰されるタイミングで合流できた。
あとは攻めるだけだ。
「さあ、ヤクモさんの異次元CQCを見せてやろう」
「喧嘩に毛が生えた程度のCQCってなんだ」
よく覚えてんねぇ!
投げ出すようにガチムチ1号へと突っ込み、直前で急停止する。
敵の視線は俺に釘付けだが、もう1人いるの忘れてませんか?
卑怯? フハハ! なんとでも言うがいい!!
「あ、ちょ、おい!」
刃物が効かないと判断したのか、恭也が背後から強烈な打撃を叩きこむ。
姿勢を崩すガチムチ1号。
そのまま俺に向かって倒れ込んできて……おいおい、このままだと俺が潰されちゃアッー!
「……生きてるか?」
「死ぬかと思ったわ!!」
というか重い!
ガチムチの愛が物理的に重すぎる!!
できたら、押し倒されるのは女の子でお願いしたいね。
人生初の体験がこれって、ちょっと悲しくなってくるよ。
俺の貞操、カムバック……
「む、機能が停止している? ああ、首に刺さったナイフがケーブルを切断したのか。どうやって刺した?」
「お前、男に刺す刺さないの話はすいませんすいません今は避けられないから振り上げるのやめてください!!」
凄く怖い顔で刀を振りあげたまま、恭也は顎で先を促してきた。
今回はお手柄だったんだし、労いの言葉とかあってもいいんじゃないかな。
思わず漏れ出す溜息を隠さないで、体から力を抜きつつ考える。
どうやったら伝わるだろう。
「とりあえず、高周波ブレードってわかる?」
あ、眉間に皺が寄った。
これは無理だな。諦めよう。
なんだこれ。
読み返してみて、今回ホモネタばっかりじゃないかという事実に気付いた。
ホントになんだこれ……
もしかして、疲れてんのかな(白目
なお、今回の話で大変不快な思いをされた視聴者のみなさまには、深く陳謝いたします。
これマジであかんやつやということを、全力で理解しました!