はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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46一寸先はゴリ・前

 弾倉をリリースして足元に落とし、M1903の格納空間から新たなマガジンを呼び出す。

 片腕のない不便さったらないが、この際文句を言ってる場合でもない。

 こちらから迎えにいく形で装填し、スライドを噛んで引く。

 

「クソッ! なんなんだお前ぇ!!」

 

 時間にして10秒にも満たない動作だったが、敵からしてみればチャンスに見えたはずだ。

 半分も工程が終わってない状況で、物陰から若い男が走り込んでくる。

 仕方ないので、突進してくる彼には空の弾倉をくれてやろう。

 落下途中のそれを、顔面狙いの軌道で蹴りあげプレゼントフォーユー。

 驚いて崩れる男の姿勢に、リロードが終わった俺のデバイス。

 ここまで状況が揃ってしまえば、結果は言うまでもない。

 俺のサマソッが顎に入って一発KOです。

 

「まさかあそこで蹴りにいくとは……流石に予想できなかった」

「なにごとも正攻法だけが解決策じゃないって、恭也君も奇策とかやってみろよ。もしかしたら、新しい世界が見えるかもしれん」

 

 御神流にもフェイントの技くらいある。あ、そうなの? と適当にやりとりをしながら、ラウンドシールドを通路一杯に展開する。

 続く銃弾の雨を全て阻み、お返しに炸裂系のスフィアを打ち込めばだいぶ静かになってくれた。

 やっぱ、世の中にバケモノ級なんて中々いるもんじゃないよね。

 こんなに対処が楽だよ。

 

「魔法っていうのは、ずいぶん便利なものなんだな」

「まあ俺の間合いで戦えれば、恭也君なら完封できるくらいには便利だけど」

 

 でもこれ、魔法がどうとか別に関係ないよね。純粋に間合いの話じゃないかな。

 確かに魔法の応用力は高いが、別に代用できない万能さがあるわけではない。

 銃弾を防ぎたいなら物陰に隠れればいいし、一掃したいなら手榴弾でも投げ込めば十分だ。

 懐に入られた瞬間、恭也に完封される自信があるのがいい証拠か。

 実際、俺はお前の妹に完封されてるわけだし……っと、これは言っちゃダメなんだっけ。

 

「一長一短だと思うけどなあ? 本来、俺って芋スナポジションなんだよね。そりゃ、絶対に安全なんてないから近接戦闘も多少はできるけど。喧嘩に毛が生えたレベルというか?」

「毛が生えたレベルで、あんな動きはできないと思うが」

「魔法アシスト先輩のおかげです」

 

 あんな動き、素で出来たら人間じゃねえよ。

 だいたいはやてとゲームやってなかったら、あんな面白い動き思い付きもしなかっただろう。

 火を噴いたり放電したり、驚きの発想力だよね。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。今日で拠点も4ヶ所目。俺はいったいいつまでこんなこと手伝えばいいわけ?」

「少なくとも、この組織を倒すまでだな」

 

 どこまでやれば、倒したことになるかって話をしてるんですががが。

 それに倒すったって、殺すのは無しってルールまで設定されている。それでどうやって排除すればいいって言うんですかね。

 心をへし折るの? 廃人コース行っちゃう?

 

「まったく、お前ら俺にいったいなにしたんだよ。やってることは一銭の得にもなんねぇし、急所狙おうとすると思考が止まるし。セルフ非殺傷設定とかマジ勘弁」

「お前のいた環境がどうかは知らないが、ここで安易に殺しをやらせるわけがないだろう」

「あのね? 恭也君。わけわかめなまま1週間も拘束されて、プチプチどうでもいい拠点潰しに連れ回されて、挙句の果てに解除不能なマインドコントロールだよ? 流石に俺のイライラも有頂天ですよ?」

 

 っていうかね。

 俺が知らない間に、なんか逆らえない精神汚染とかどういう了見なの?

 マッハで動くメイドに拘束されて、車でメリーゴーランドって意味不明な記憶しかないんだけど。

 気付いたら忍って人の命令には逆らえないし、なんにも覚えてないってどういう状態だろうね。

 これで平静を保つ方が無理じゃないかな。

 目下、激オコスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだから覚えとけ。

 

「できれば、俺だってお前に頼りたくはない。だが、この1週間で戦力になることはよくわかってしまったからな。今さら必要ないとも言えなくなった。それに、どっちにしろ俺にはお前の暗示を解除してやる手段がない」

「……まあ、確かにここで文句言ったってしかたねぇわな。帰ったところで、逆らえないから嫌味の1つも言えないけどな」

 

 なんにも覚えてないってのが、また性質の悪い話だ。

 自分の性格上、たぶん交渉っぽいことはしたんだろうけどなあ。

 よっぽどふっかけて相手を怒らせたのか、もともと信用されてなかったのか。暗示なんてかかってる辺り、後者が濃厚な気はする。

 どっちにしろ、どうしようもないなこれ。

 

「さて、今日の仕事はもう終わりでいいの?」

「……いや。まだ残っているらしい」

 

 あれ? 撃ち洩らしなんてあったかな。

 さっきので処理しきったと思ったけど。

 

「アクティブソナー、エコー」

 

 展開した魔法式で、跳ね返ってきた音響を分析していく。

 今いる場所から、更に奥の映像が輪郭だけの映像として処理され俺の脳内に流れ込んできた。

 死屍累々の人たち。廊下。廊下。廊下。ゴミ。廊下。人影。廊下……ん、人影?

 

「おい、どうなってんだこの人影。生体反応がないぞ。夜中の廊下を疾走する人体模型とか?」

「生き物じゃない、か。よかったな、今回は当たりかもしれないぞ」

 

 人体模型って当たりだったのか。初めて知ったわ。

 というか、この見えた地雷も何個目だったかな。

 そろそろ貧乏くじにも、嫌気が差してきたんだぜ。

 

「行くぞ。そいつに聞きたいことが……いや、捕獲して連れ帰りたい」

「一気にホラーっぽくなってきた。学校じゃないのに学校の怪談とはこれいかに」

 

 やだなー怖いなー、と思いながら恭也の先導で廊下を進む。

 途中で爆散したスーツ集団を跨ぎ、ゴミをクズカゴにシュートする遊びをやって恭也に殴られつつも更に奥へ。

 廃墟を再利用したのか専用に建てた施設なのか、微妙に判断し辛い汚れ具合の建築だ。

 匠さんこっちです。

 早く更地にしてあげて!

 

「そこの角を曲がったところだな。ピクリとも動かないんだけど、ホントにマネキンってオチは?」

「たぶん、ないだろうな。戦力は未知数だから気を付けろよ?」

「その中途半端な優しさに涙が出そう……」

 

 こっそり通路から顔を出して、奥の様子をうかがってみる。

 見えるのは、直立不動で通路のど真ん中を占拠するガチムチマッチョ。

 レスリング会場はここじゃない。さっさと淫夢の世界に帰るんだ! と言ってやりたい兄貴がそこにいた。

 いや、スーツ姿なんだけどね?

 

「こっちには気付いていると思うんだが……動かないな」

「あぁん? ホイホイチャーハン?」

「……腹でも減ったのか?」

「よかった。恭也君がこれを理解できちゃったら、今すぐ逃げるところだった」

 

 正体不明の敵を前にケツドラムとか……いや、落ち着け俺。

 たぶんこれ、暗示のせいでマルチタスクが乱れてるだけだから。きっとそうだから、白目。

 

「なに、あの危なそうな人。立ったまま死んでるの?」

「そもそも生き物じゃないだろうな。たぶん、ロボットだ」

 

 なるほど、ロボット。ロボットね。ふーん……

 

「知り合いに、石田先生っていう優秀な医者がいるんだけどさ」

「俺の頭は正常だ」

 

 あ、そうなの?

 

「じゃあなんだ。あれがロボット? 確かに生体反応はないけど……は? マジで? あれがアンドロイドって? おいおい、この世界の文明レベルで精巧な人型なんて作れたのかよ。阿波踊りが限界じゃなかったのか……」

 

 あとは、自転車にも乗れたっけ?

 ……今どうでもいいなこれ。

 目視した限り、おそらくガチムチは人工皮膚で覆われている。

 違ったとしても、それに近い滑らかな素材なのは間違いない。どれだけ評価を下方修正しても、特殊メイク以下の素材にはならないだろう。

 ぶっちゃけ、普通の肌に見えるレベルだ。

 果たして、あんなものが管理外世界の技術で製造できるだろうか。

 いや、出来るかもしれないけど。少なくとも、この地球で可能な技術水準なのかは怪しい。

 つまり……どういうことだってばよ。

 

「ごちゃごちゃ言ってないで、あれを確保するぞ」

「マジかよ。最近、俺ってば荒事ばっかりな気がしてくるなあ」

 

 相変わらず、ガチムチ1号に動きはない。

 隣で恭也が刀を抜いたが、やっぱり停止したままだ。

 視覚情報にだけ頼っているのか、もしくは起動してない可能性もある。

 起動してない方に全力でベットしたい。

 

「魔法で援護してくれ」

「俺をRPGの魔法使いと勘違いしてないか? あんまり便利屋扱いしてくれるなよ」

 

 いいからいくぞ、と叱責を残して恭也が飛び出す。

 同時に、俺もバインドをガチムチ1号の両手足に発動する。

 リングバインド。

 空中に発生させたリングで、相手を拘束する一般的な捕縛魔法だが。

 なにが起こったのか、これがガチムチ1号を拘束したと同時に歪んで霧散してしまった。

 ハァッ!? ふっざけんな!

 

「恭也、さがれ!」

 

 恭也が急ブレーキをかける。

 その横を抜ける軌道で、スフィアを複数ばら撒く。

 直撃するかしないかというところで、やはり魔法が強制解除された。

 これは、アレだな。なんというか……やべぇ。

 ガチムチ1号の顔が僅かにあがる。

 怪しげに眼が光った気がした。

 




ロリじゃない、ゴリだ(ここ重要
結局、彼に甘い話が舞い込むことなんてあるはずもなかった。



次話予告
 敵の拠点ないで遭遇した謎のロボ。
 希望の明日を掴むため、なんとしてもアスを守り抜かねばならないヤクモ。
 魔法が効かないという大ピンチの中、果たして彼の貞操はどうなる!?

次話「一寸先はゴリ・後」は明日更新。
 刮目して待て!!(大嘘


いや、更新はホントにしますけどね

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