はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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後編だと思った!?
後編だと思った!?
残念! 中編でした!!



……書いてたら思ったより量が増えた(震え声


44悲しみの中の神頼み・中

 吐くかと思った。ゲロるかと思った。リバースするかと思った!

 やっぱ、免許取り立てにスポーツカーとか運転させるもんじゃないね。

 踏み込み過ぎたアクセルと、華麗なブレーキ捌きで4回転くらいした気がする。

 普段の車ならば安全運転ができますなんて言われても、俺は酷い目にあったから関係ないよね。

 正直、2回は死んだと思ったよ。

 

「こんなに酸っぱい唾液、いつ以来だろう……」

「私、普通に連れてきてって言わなかったかしら?」

「認識の違いではないでしょうか」

 

 おい、無茶苦茶言ってんぞあのメイド。

 言っとくけど、あのオッサン迎撃してやったの俺だからね?

 感謝されこそすれ、拷問される覚えなんてないですけど!

 

「あ、あの。大丈夫ですかヤクモさん」

「正直、産まれそうになったらごめんとしか」

 

 この状況で、唯一の味方だったはずのすずかが僅かに身を引いた。

 正しい判断だね。色んな意味で、今は近くにいることをお勧めできない。

 

「えっと、ごめんなさいね。私は月村忍。アナタの後ろにいる恭也は、知ってるのよね?」

「ソーデスネ。体調不良の年上に、刃物突き付けるド外道な恭也君のことは知ってる」

「人聞きが悪いな。こんな対応、お前を含めても限られた人間にしかしないぞ」

 

 ああ、つまり敵を前にしたときの対応ってことね。把握。

 無駄に高そうなソファに座らされ、目の前にはすずかの姉らしい忍。その背後に控える2人のメイド。俺の背後に違う意味で控える恭也。

 今上げたやつら全員が、今のところ俺の敵だ。

 例外的に中立なのは、こっちを本気で気遣ってくれてるすずかだけだろう。

 もう女神じゃないかなこの子。ファッキンゴットとか言ってごめんなさい。

 

「よし、ちょっと治まってきた。で? 天気予報が曇りときどきオッサンとかじゃなければ、あの愉快な状況の理由を聞こうか。アイツ、電柱の上に立ってたみたいだけど……アグレッシブなストーカー?」

「……ストーカーのレベルが高すぎて言葉が出ないわね」

 

 ホントにね。

 俺も、恭也君と鉢合わせしちゃったから周辺探査して気付いただけだし。なんにもなかったら、居るのすらわからなかったかもしれない。

 達人? というか、あれ人間でいいのか?

 ちょっと、電柱の上なんて小さな足場に平然と立ってる人間に心当たりは……真後ろにいたよ。

 万国人間ビックリショーの会場、翠屋になら他にもいたりしてな。

 

「まあ、ある意味ではストーカーよ。私たちの家系を狙ってる意味でだけど」

「家族ぐるみのストーカーか。なかなか楽しそうだな」

「本当に楽しそうだとでも思ってるのか? それのせいで、昔すずかちゃんが攫われたこともあるんだぞ」

 

 勤めて声は抑えているが、どこか怒気を含んだ恭也の声が後頭部にぶつかる。

 俺の心臓はドッキドキだ。

 これだから煽り耐性のないやつらは。

 会話を、もうちょっと華やかにしようぜマジで。

 じゃないと、首筋に添えられっぱなしの刃物で発狂しちゃうよ俺。

 

「なんだ、すずかちゃんハイエース仲間かよ。俺の場合、自分で車両提供したけど」

「えっとその、ハイエースってなんですか?」

 

 ちょっと小学生には教えられないかな。

 意味はわかってないみたいだけど、どうせ碌なことじゃないって目で恭也君も見てるし。

 というか、いい加減に状況の説明とか欲しいな。

 

「そろそろ、俺はどうすればいいのか教えてもらっても?」

「そうね。そのために来てもらったんだから、話し合いをしましょう」

 

 そこで忍さんは、一瞬の間を置く。

 こちらを試すような視線を送ってくるので、なんとなく余裕ぶって返してやった。

 特別な状況でもなければ、こういうとき弱そうに見せる意味はない。

 こちとら、伊達に虚勢とハッタリだけでやりくりしてないぜ。

 

「……はぁ。そう、そうよね。すずかが魔法使いなんて言ってたから、普通の側の人間じゃないとは思っていたけど。こっちのことなんてお見通しというわけね」

「前置きが長ぇよ。あんまり焦らされると、俺って醒めちゃうタイプなんだよね」

 

 やばい、なんのことを言ってるのかさっぱりわからん。

 背後の恭也君が、父さんが只者じゃないと言ってたのは本当だったか……なんて言葉を漏らしている。

 言っとくけど只者です。お前の親父は、絶対になにかを勘違いしてます!

 

「私たちは少し特殊な家系なの。さっきのストーカーはそれを狙ってきていた……と言うより、私と恭也を監視してすずかを攫うタイミングを計っていたんでしょうね」

 

 血を引いていれば、誰でもいいのよ。なんて忌々しげに付け足されても、俺にはなんのことかさっぱりだ。

 特殊な家系? まあ、そりゃ月村邸もアリサの家に負けず劣らず金持ちの建物だった。

 つまり、人質を取って身代金を要求したかったのだろうか。

 もしくは、血筋に権力があるって可能性もある。

 確か、だいぶん前に指導者の家族が拉致られたから救出して欲しいなんて依頼があったな。

 あれは酷かった。6人でチームを組んだら、1人死んで2人逃げてたし。

 残った内、俺以外の2人がランボーとコマンドーみたいなやつらだったから完遂はできたけど。

 いや、懐かしい記憶は置いとこう。今は月村家の因縁に巻き込まれたっぽい、ということの方が重要だ。

 けどこれ、別に俺は関係ないよね?

 もうよくわかんないから、てきとうに返事をしておく。

 さっさと帰りたい。

 

「わ、わかった、わかったわ。もう試したりしないから、私の話を聞いてちょうだい……あの雪を弾いていた見えない壁とか、こちらとしてもあなたは未知の存在なの。はっきり言って、警戒しないわけにはいかないわ。わかってちょうだい」

 

 やたらと早口で、忍さんがなんか言っている。

 あれ? なんか俺、今いろいろ間違えた気がしたよ?

 それも、けっこうヤバい感じで。

 

「いや、落ち着け。俺には関係ない。それ以上はやめといた方が、お互いにいい気がする」

「確かに、少し前までなら私たちは見て見ぬふりもできたでしょうね。けど、ストーカーを迎撃したのはあなたの力よ。向こうも、そう認識したと思うわ。だから秘密を知ってしまったという意味でも、あなたには協力してもらわないといけないの」

「お、おい待てやめろ。俺は秘密なんて知らん。勝手に巻き込むじゃない」

「いいえ、もう巻き込まれてるわ。私たち『夜の一族』のことを知ってしまった以上、もう後戻りはできないのよ」

 

 確か今、夜の一族って言ったな。

 ああ、俺がなんのことかさっぱりわかってないとも知らないで。

 まさか、あのやり取りでここまで勘違いしているなんて夢にも思うまい。

 えぇー!

 聞いちゃったよ俺!?

 

「今日から毎日家を焼こうぜ」

「えっ、それはいったいどういう暗号かしら」

 

 すげぇや。今ならなにを言っても、それっぽく取ってもらえる気がしてきた。

 他になにを言って混乱させてやろうかなあ、カッコ現実逃避。

 

「すいません、夜の一族ってなんですか」

「えっ? 夜の一族っていうのは、私たちの特殊な家系で……いろいろ割愛すると吸血衝動があるというか……え? えっ?」

 

 おー、困惑してるなあ。

 大丈夫だよ、俺もかなり混乱してるから。

 吸血衝動? つまり、吸血鬼? つまり、鏡に映らないの?

 

「ちょ、ちょっと待って。えっと、七海八雲さん、あなたは私たちのことを知ってるのよね? けど、自分も特殊な家系だから関わらないようにしてたんじゃないの?」

「え、特殊な家系って他にもあんの?」

「私が知っている限りでは、いないけれど……え、違うの?」

 

 ぜんぜん違いますね。

 魔法使い……正確には魔導師だけど、とりあえず家系とかじゃないです。

 少なくとも、俺より強い魔導師って他にもいるし。白いのとかね。

 

「イエス、ウィーキャン!」

「えっ、あ!! ノ、ノエル! ファリン! 捕まえて!!」

 

 どこぞの偉い人は、やればできると言いました。

 だから、俺も逃げようと思ったらできると思いました。

 けど、とんでもない速度でメイドさんが追いかけてきました。

 まるで、ジャパニメーションのメイドさんみたいでした。

 地球のメイドさんは本当に怖いと思いました。

 あと、とても重いということを知りました。

 人間の重さじゃないですこれ、潰れる潰れる潰れる!!

 


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