夜に訪ねるのもどうかと思ったけど、もう出てきちゃったからどうしようもない。
別に泊めろって言いに行くわけじゃないし、限りなくアウトに近いセーフってことでひとつ。
「な、なんであんたがここにいんのよ!?」
「よお、ツンデレちゃん。こっそりやろうとも思ったけど、見付かって手錠のパターンが見えたから正攻法で来ちゃった」
来ちゃったじゃないわよ!! と叫ばれたので、ご近所迷惑だよ? と教えてあげたらローキックを食らった。
せっかく親切心で言ってやったのに……
あっ、でもよく考えたら近くに民家なんてなかったな。
これだから金持ちは!
「さっき、はやてから脱走したとかって連絡が来たところなのに」
「え、もう来てんの? はやての包囲網すげぇな。いや、行動パターンがバレてるだけか?」
なんにしても、ここへは車を取りに来ただけだ。
魔力炉は持ってきているが、別に積まないと動かないわけじゃない。とりあえず納めて、接続関係は後回しでも問題ない。
最後に魔力炉を降ろしたときのままなら、ガソリンも多少は入っているはず。
稼働テスト時の余りだが、ガソリンスタンドまでは十分足りるだろう。
これなら、逃げ切るのも簡単かな。
いや、別に逃げなきゃダメってことはないんだけどね?
でもまあ、捕まったらしばらくは部屋の柱とかに括りつけられそうじゃん?
「一応、来たら連絡してって頼まれてるわよ? 私」
「別にすればいいよ。俺が出ていった後にしてくれると嬉しいけど」
「あんたの頼みを聞く義理がないわね」
そりゃそうだ。
でも、流石に今すぐ連絡されてはやてたちが転移して来たら困る。
一般人のアリサがいる以上、やらないとは思うけど。
やらないか? ホントにやらないか? アーッ!
いや、やりそうだな。
友達に下手な隠しごとするくらいなら、いっそバレてもいいやとか考えそうだ。
どうしようどうしよう。
「……よし、交渉材料が思い付かない。脅迫してもいいですか!」
「まさか、こんな力いっぱい脅迫宣言される日が来るなんて思わなかったわ……」
大丈夫。俺もこんなわけわかんない脅迫したのは初めてだから、錯乱。
「仕方ない、この手は使いたくなかったが……あれ? よく考えてみたら、俺なんではやてから逃げてんの?」
「えっ、いや私に聞かれても?」
ん? 俺、今回は特に悪いことしてないよね?
そりゃ、怒られるのは怖いけどそれだけなんじゃ……
なんで逃げたんだ俺!
「なるほど、条件反射の神秘を見た気がする」
「真面目な顔して言ってるけど、それただのおっちょこちょいよね」
「ドジっ子には愛嬌があるらしいぞ? ほら、俺からもこんなに愛嬌が溢れだしている!」
「…………」
「なんか言ってよ!!」
いい加減、ホントに寂しくて泣くからね?
それにしても、よく考えてみたらスカリエッティに資料を送って貰えばいい話じゃないか。
ついでに仕事も一緒に送ってもらえば、途中で投げ出してる試作品の仮組みもできるだろう。製造と実験は向こうでやってもらうことになるけど、大した問題じゃない気がする。
実際、俺が立ち会ってもウーノが立ち会っても同じだしね。
細かい調整ならまだしも、大雑把なすり合わせは指示書を添付するだけでなんとかできるし。
「ああ、うん。別にいいや、はやてに電話しても。とりあえず、車のところまで庭に入らせてもらえる? 魔力炉を積みこみたいんだけど」
「別にいいけど。って、えっ!? 浮いてる!!」
「今かよ」
ここまで持ってきた魔力炉を見て、アリサが目を剥く。今更だけど。
まあ、魔法で浮かせてるから普通の反応だろう。今更だけど。
さっきまでは、まるで持ってるように見せてたってのもある。今さらだけど。
「今さらだけど!」
「うっさいわね!!」
そして右わき腹に突き刺さる回し蹴り。ありがとうございます!!
また1つ腕を上げたなアリサよ。
しかもソバットのつま先蹴り方式とか、どう考えても殺しに来てるよね。
「あんたってホントに……あれ、今なんか感触がおかしくなかった?」
「あぁー……いや、うん。ちょっと腕を一本ほど落っことしてきたから、今ガードが薄く……げふっ」
「ハァッ!? 落っことしたって……」
言葉が見付からないのか、アリサは困惑気味だ。
怒るか心配するかで迷ってるんだろう。みんな優しいなあ。
半分でいいから、幼少期にこの優しさが欲しかった。
今からでも、半分が優しさで来てる薬とかキメれば楽しくなるだろうか。
……あれ、なんかニュアンスおかしくね?
「はやてのやつ、変なところで隠しちゃうんだもんなあ。どうせ勝手に言っちゃうのは、とか思ったんだろうけど」
「あんたもはやても、人の心配はするくせに自分のことは全然言わないわよね」
「ツンデレのアリサがこんなに優しいわけがない。ダウト! ダウトォ!!」
鈍いサウンドがアンダーから響いて、弁慶のクライがベリー痛い。
おう、もうちょい加減って言葉を覚えろよ。
「とりあえず、はやてに連絡するわ。あんたは、迎えが来るまでここから動かないこと。いいわね?」
「いやー、ちょっと約束はできないなあ。少なくとも、車のところまで勝手に移動するし」
はぁと大きく息を吐いたアリサが、なにも言わず家の中へと引っ込んでいく。
特別、監視や妨害の人員も残していかない。つまり、そういうことだ。
言うべきことは言ったし、それ以上の責任はないということだろう。
いつの間にやら、デレ期が来てたなんて。これは驚愕を禁じ得ない。
これ、本人に言ったらドロップキック食らいそうだなあ。
「あ、そうか。帰れない理由が1つだけあったわ。空からオッサン降ってきたやつ……」
「はい、その件でお迎えにあがりました。ご同行願えますか?」
何気ない独り言のつもりが、不意に背後からレスポンスが。
え、なにこれ怖い。
恐る恐る振り返ると、そこにはメイド服の女性が1人。見たことない人だけど、誰だろう。
というか、この人。悪ふざけで「俺の後ろに立つな!!」とかやったら、一撃で俺を沈めてくる気がする。
おかしいな。
恭也君とかは別格だから仕方ないけど、一般人相手に気圧されてるだと?
「デバイス起動から振り返って射撃、射撃前にボディブローを食らう。魔法の自力発動で迎撃、足払いからの顔面強襲を食らう。純粋に格闘術で応戦、普通に殴り負ける。あ、あかん。これあかんやつ……」
「なにを言っておられるのかわかりませんが、ご同行願います」
ざっとシュミレーションしてみて、勝てる見込みがない。
そもそも、背後を取られた時点で詰んでるだと。
ええい、地球のメイドはバケモノか。
「つかぬことをお伺いしますが、車の運転とかできますかね?」
「問題ありません。最近、免許を取りました」
表情の動きが乏しいのに、なぜかドヤ顔に見えるメイドさんは免許証を掲げて見せる。
ホントに取り立てだよ。
どうしよう、アウディR8なんて特殊な車両を運転させて大丈夫かな?
よもや、一回も乗らずに廃車とか勘弁してほしいんですががが。
「お話によると、お庭の方に車を置いているそうですね。そちらも持ってくるように言付かっております」
「まさか、こんなところで自分の右腕を惜しむことになるとは思わなんだ」
危機を感じとって生えてこないかな、右腕。
この際、肌がちょっと緑になるくらい大目に見ますよ?
「神に祈る時間をください」
「構いませんが、お早くお済ませください」
アーメンハレルヤピーナッツバター!
どうかこの窮地を御救いくださいファッキンゴット!!
祈りも空しく、タイヤの悲鳴が鳴り響くのは数分後の話である。
そういえば、前後にわける時とか予告なしでやってる事実に気付いた。
↓
どこで告知しよう。
↓
つうぃったー とか?
↓
アカウントの名前が、ここと違うがな。
↓
そして考えるのをやめた(今ここ